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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60C
管理番号 1303216
審判番号 不服2013-19155  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-02 
確定日 2015-07-16 
事件の表示 特願2010-255117「重荷重用タイヤ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月 7日出願公開、特開2012-106531〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成22年11月15日の出願であって、平成25年6月28日付け(同年7月2日:発送日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、その請求と同時に手続補正がなされたものである。その後、当審において平成26年9月24日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由1」という。)を通知したところ、同年11月26日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、当審において平成27年1月28日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由2」という。)を通知したところ、同年3月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。
なお、平成25年1月28日付けの手続補正は、原審において、同年6月28日付けで、決定をもって却下されている。
そして、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成27年3月18日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るプライ本体部の両端に、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部を一連に連ねたカーカスプライからなるカーカス、
前記プライ本体部とプライ折返し部との間を通って前記ビードコアからタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム、
前記プライ本体部のタイヤ軸方向内側面に沿って半径方向にのびる内片部と、前記プライ折返し部のタイヤ軸方向外側面に沿って半径方向にのびる外片部とを前記ビードコアの半径方向内方を通る底片部により一連に連ねたU字状の第1のビード補強コードプライ、 前記第1のビード補強コードプライの前記内片部と前記プライ本体部との間に挟まれる内端から、前記内片部を半径方向外側に越えた位置まで前記プライ本体部に沿ってのびる第2のビード補強コードプライ、
及び前記カーカスプライとビードコアとの間かつ前記カーカスプライに沿って配されるU字状のフレッティング防止ゴム層を具え、
前記第1のビード補強コードプライと前記第2のビード補強コードプライとは、スチール製の補強コードで形成され、
かつ前記フレッティング防止ゴム層は、厚さtが0.5?1.0mmかつ複素弾性率が6.0?10.0MPaの硬質のゴムシートからなるとともに、
前記第2のビード補強コードプライの半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP2oは、前記プライ折返し部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さPcよりも大、かつその差(P2o-Pc)を5?25mmとし、
しかも、前記内片部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP1と、前記第2のビード補強コードプライの半径方向内端のビードベースラインからの半径方向高さP2iとの差(P1-P2i)を10?40mmとし、
前記ビードエーペックスゴムは、高弾性のゴムからなりかつ半径方向内側に配される高弾性エーペックス部を含み、
前記高弾性エーペックス部の外端までのビードベースラインBLからの半径方向高さP3を、第2のビード補強コードプライの前記高さP2oより大としたことを特徴とする重荷重用タイヤ。」

2.刊行物の記載事項
(1)当審拒絶理由2に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2000-127719号公報(以下、「刊行物1」という。)には「空気入りラジアルタイヤ」に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は、当審で付与。以下同様。)
ア.「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに係り、より具体的には、トラック、バス等の重荷重用としてタイヤビード部の耐久性を向上した空気入りラジアルタイヤに関するものである。」

イ.「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図を参照して本発明の実施の形態について説明する。 図1は空気入りラジアルタイヤ1におけるタイヤビード部2およびサイドウォール3の近辺を示しており、リム4に嵌合されているタイヤビード部2には断面六角形状の環形ビードコア5が埋設されており、該ビードコア5にはビードフィラーゴム6が備えられているとともに、タイヤビード部2にはタイヤ半径方向外方に延伸されたアブレージョンゴム7が備えられている。
【0011】ビードコア5の周りには、金属(スチール)コード等からなる1プライのラジアル配列とされたカーカス8における端部がタイヤ内側からタイヤ外側に向かって巻上げられている折り返し部9とされており、該折り返し部9を含むカーカス8の端部外周に、断面U字形の補強層10が配置されている。図1に示した空気入りラジアルタイヤ1を普通形(通常タイプ)として定義すると、図2は前述した補強層10とは別の内側補強層11を、補強層10の補強部位10Aとカーカス8のタイヤビード部2おけるタイヤ内側の部位8Aとの間に介在した強化形(強化タイプ)であり、その他の構成は、図1と共通するので共通部分は共通符号で示している。」

ウ.「【0014】このような知見の下で、カーカスの巻上げ高さH1(mm)、ベースからタイヤ最大幅までの垂直高さH(mm)、折り返し部の巻上げ端近傍におけるアブレージョンゴムのゴム厚さT(mm)、折り返し部の巻上げ端からサイドウォール外表面までの最短距離L(mm)、補強層の高さH2(mm)、別の補強層の高さをH3(mm)として、これらを種々変化させて耐久テスト(加熱状態でのドラム試験)を行い、その結果を表1に示す。」

エ.上記各記載事項及び【図2】の図示内容から、以下の事項が認定できる。
・タイヤの内部構造はトレッド部を挟んで対称に形成されるものであるから、【図2】に示された実施例は、トレッド部からサイドウォール3をへてタイヤビード部2のビードコア5に至る一対のタイヤ内側の部位8Aを有しているといえる。

・ビードフィラーゴム6は、カーカス8の部位8Aと折返し部9との間を通ってビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびている。

・断面U字状の補強層10は、カーカス8の部位8Aのタイヤ軸方向内側面に沿って半径方向にのびる内片部と、折返し部9のタイヤ軸方向外側面に沿って半径方向にのびる外片部とをビードコア5の半径方向内方を通る底片部により一連に連ねている。

・内側補強層11は、補強層10の内片部とカーカス8の部位8Aとの間に挟まれる内端から、内片部を半径方向外側に越えた位置までカーカス8の部位8Aに沿ってのびている。

・内側補強層11の半径方向外端のベースからの半径方向高さH3は、折返し部9の半径方向外端のベースからの半径方向高さH1よりも大きくなっている。

・内片部の半径方向外端のベースからの半径方向高さH2が、内側補強層11の半径方向内端のベースからの半径方向高さより大きくなっている。(以下、便宜上「内側補強層11の半径方向内端のベースからの半径方向高さ」を「H4」と符号を付ける。)

・ビードフィラーゴム6は、半径方向内側に配される部位と半径方向外側に配される部位とに分かれており、該半径方向内側に配される部位の外端までのベースからの半径方向高さと、内側補強層11の前記高さH3が略等しくなっている。(以下、便宜上「ビードフィラーゴム6の半径方向内側に配される部位の外端までのベースからの半径方向高さ」を「H5」と符号を付ける。)

これら記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに倣って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「トレッド部からサイドウォール3をへてタイヤビード部2のビードコア5に至る一対のタイヤ内側の部位8Aの各端部に、前記ビードコア5の周りをタイヤ内側からタイヤ外側に向かって巻上げられる折返し部9を有するカーカス8、
前記タイヤ内側の部位8A及びタイヤ外側の部位と折返し部9との間を通って前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードフィラーゴム6、
前記タイヤ内側の部位8A及びタイヤ外側の部位のタイヤ軸方向内側面に沿って半径方向にのびる内片部と、前記折返し部9のタイヤ軸方向外側面に沿って半径方向にのびる外片部とを前記ビードコア5の半径方向内方を通る底片部により一連に連ねた断面U字状の補強層10、
前記補強層10の前記内片部と前記タイヤ内側の部位8A及びタイヤ外側の部位との間に挟まれる内端から、前記内片部を半径方向外側に越えた位置まで前記タイヤ内側の部位8A及びタイヤ外側の部位に沿ってのびる内側補強層11を具え、
前記内側補強層11の半径方向外端のベースからの半径方向高さH3は、前記折返し部9の半径方向外端のベースからの半径方向高さH1よりも大とし、
しかも、前記内片部の半径方向外端のベースからの半径方向高さH2が、前記内側補強層11の半径方向内端のベースからの半径方向高さH4より大とし、
前記ビードフィラーゴム6は、半径方向内側に配される部位を含み、
該部位の外端までのベースからの半径方向高さH5を、内側補強層11の前記高さH3と略等しくした空気入りラジアルタイヤ。」

(2)当審拒絶理由2に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-230715号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
カ.「【請求項1】 ビード部に設けられた単一のスチールワイヤーにビードインシュレーションゴムを付着させ、タイヤ周方向に半径方向内側より順次外側に積み重ねて略六角形をなす左右一対のビードコアーと、一方のビード部から他方のビード部にトロイド状に延在し、該ビードコアーに巻回されてビード部に係留された、少なくとも1層のラジアルコード層よりなるカーカスプライと、該ビードコアーの半径方向内側に配置されたビードコアー下ゴムとを具えた空気入りラジアルタイヤにおいて、
(1)該ビードコアー下ゴムは、タイヤ幅方向断面において、該ビードコアーの少なくとも最下列の辺の直下より半径方向内側に向かって略半円状をなすように配置され、(2)該ビードコアーの最下列の辺に直角方向に測ったビードコアー高さをDとしたとき、該ビードコアーの最下列の辺に直角に測ったビードコアー下ゴムの最大厚みCは、0.1×D<C<0.3×Dの範囲にあることを特徴とした空気入りラジアルタイヤ。」

キ.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、空気入りラジアルタイヤに関するもので、特にはビード部の耐久性を向上した小型トラックおよびトラック及びバス用ラジアルタイヤとその製造方法に関するものである。」

ク.「【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような従来技術が有する不具合を解消するために、検討した結果なされたものであり、カーカスプライとビードコアーの接触することを防止することにより、ビード部の耐久性を改良したタイヤを提供すると共にその製造方法を提供することを目的としている。」

ケ.「【0008】
【発明の実施の形態】以下、本発明に従う実施例のタイヤと従来例のタイヤについて図面を参照して説明する。いずれもタイヤサイズは、11R22.5である。図1は本発明の空気入りラジアルタイヤ実施例の幅方向ビード部一部断面図である。図1において、スチールコードを配列したカーカスプライ3は、ビードコアー2の回りにタイヤ軸方向内側から外側に巻き上げられており、その上方位置で終端している。ビードコアー2は、インシュレーションゴムを付着したφ1.55mmのスチールコードを65ターンした15度テーパーリム用六角ビードであり、ビード幅Wは21mmであり、ビード高さDは11.5mmである。そして、ビードコアー2の下にはJISスプリング式A型硬度が90度のビード下ゴム4が、ビード幅とほぼ等しい幅で、ビードコアー2の最下列の辺に直角に測ったビードコアー下ゴムの最大厚み0.2×Dで配置されている。」

3.対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、
後者の「サイドウォール3」は前者の「サイドウォール部」に相当し、以下同様に、「タイヤビード部2」は「ビード部」に、「ビードコア5」は「ビードコア」に、「トレッド部からサイドウォール3をへてタイヤビード部2のビードコア5に至る」「一対のタイヤ内側の部位8A」は「トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至る」「プライ本体部」に、「ビードコア5の周りをタイヤ内側からタイヤ外側に向かって巻上げられる」「折返し部9」は「ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返される」「プライ折返し部」に、「トレッド部からサイドウォール3をへてタイヤビード部2のビードコア5に至るタイヤ内側の部位8A及びタイヤ外側の部位の各端部に、前記ビードコア5の周りをタイヤ内側からタイヤ外側に向かって巻上げられる折返し部9を有する」「カーカス8」は前者の「トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るプライ本体部の両端に、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部を一連に連ねたカーカスプライからなる」「カーカス」に、それぞれ相当する。
また、後者の「ビードフィラーゴム6」は前者の「ビードエーペックスゴム」に相当し、以下同様に、「断面U字状の補強層10」は「U字状の第1のビード補強コードプライ」に、「内側補強層11」は「第2のビード補強コードプライ」に、それぞれ相当する。
そして、後者の「H3」、「H2」、「H1」、「H4」及び「H5」は後者の「P2o」、「P1」、「Pc」、「P2i」及び「P3」に相当するところ、
後者の「前記内側補強層11の半径方向外端のベースからの半径方向高さH3は、前記折返し部9の半径方向外端のベースからの半径方向高さH1よりも大とし」と前者の「前記第2のビード補強コードプライの半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP2oは、前記プライ折返し部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さPcよりも大、かつその差(P2o-Pc)を5?25mmとし」は「前記第2のビード補強コードプライの半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP2oは、前記プライ折返し部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さPcよりも大とし」の限りにおいて共通し、
後者の「しかも、前記内片部の半径方向外端のベースからの半径方向高さH2が、前記内側補強層11の半径方向内端のベースからの半径方向高さH4より大とし」と前者の「しかも、前記内片部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP1と、前記第2のビード補強コードプライの半径方向内端のビードベースラインからの半径方向高さP2iとの差(P1-P2i)を10?40mmとし」とは、「しかも、前記内片部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP1が、前記第2のビード補強コードプライの半径方向内端のビードベースラインからの半径方向高さP2iより大とし」の限りにおいて共通し、
後者の「前記ビードフィラーゴム6は、半径方向内側に配される部位を含み」と前者の「前記ビードエーペックスゴムは、高弾性のゴムからなりかつ半径方向内側に配される高弾性エーペックス部を含み」とは、「前記ビードエーペックスゴムは、半径方向内側に配される部位を含み」という限りにおいて共通する。
そして、後者の「空気入りラジアルタイヤ」は、刊行物1の段落【0001】に記載されているように重荷重用であるから、前者の「重荷重用タイヤ」に相当する。

そうすると、両者は、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
[一致点]
「トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るプライ本体部の両端に、前記ビードコアの回りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部を一連に連ねたカーカスプライからなるカーカス、
前記プライ本体部とプライ折返し部との間を通って前記ビードコアからタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックスゴム、
前記プライ本体部のタイヤ軸方向内側面に沿って半径方向にのびる内片部と、前記プライ折返し部のタイヤ軸方向外側面に沿って半径方向にのびる外片部とを前記ビードコアの半径方向内方を通る底片部により一連に連ねたU字状の第1のビード補強コードプライ、
前記第1のビード補強コードプライの前記内片部と前記プライ本体部との間に挟まれる内端から、前記内片部を半径方向外側に越えた位置まで前記プライ本体部に沿ってのびる第2のビード補強コードプライを具え、
前記第2のビード補強コードプライの半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP2oは、前記プライ折返し部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さPcよりも大とし、
しかも、前記内片部の半径方向外端のビードベースラインからの半径方向高さP1が、前記第2のビード補強コードプライの半径方向内端のビードベースラインからの半径方向高さP2iより大とし、
前記ビードエーペックスゴムは、半径方向内側に配される部位を含む重荷重用タイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。
[相違点1]
本願発明は、「カーカスプライとビードコアとの間かつ前記カーカスプライに沿って配されるU字状のフレッティング防止ゴム層を具え」、「かつフレッティング防止ゴム層は、厚さtが0.5?1.0mmかつ複素弾性率が6.0?10.0MPaの硬質のゴムシートからなる」のに対し、
刊行物発明は、かかるフレッティング防止ゴム層を具えていない点。

[相違点2]
本願発明は、「第1のビード補強コードプライと第2のビード補強コードプライとは、スチール製の補強コードで形成され」、かつ「差(P2o-Pc)を5?25mm」、「差(P1-P2i)を10?40mm」とし、ビードエーペックスゴムの半径方向内側に配される部位を「高弾性エーペックス部」とし、該「高弾性エーペックス部」の外端までのビードベースラインBLからの半径方向高さP3を、第2のビード補強コードプライの高さP2oより「大とした」のに対し、
刊行物発明は、補強層10、内側補強層11の材質が不明であり、差(H3-H1)の値、差(H2-H4)の値が明らかでなく、ビードフィラーゴム6の半径方向内側に配される部位が高弾性か不明であり、該部位の外端までのビードベースラインからの半径方向高さH5と、内側補強層11の前記高さH3が略等しい点。

[相違点1についての判断]
刊行物2には、トラック及びバス用ラジアルタイヤにおいて、カーカスプライ3とビードコアー2の接触を防止するために、カーカスプライ3とビードコアー2との間に略半円状のビードコアー下ゴム4を具えるとともに、前記ビードコアー下ゴム4の厚さCがビードコアー2の高さをDとしたとき0.1×D<C<0.3×Dの範囲に設定することが記載されている。(以下、「刊行物2に記載されている事項」という。)ここで、「略半円状のビードコアー下ゴム4」は、本願発明の「U字状のフレッティング防止ゴム層」に相当する。
刊行物発明と刊行物2に記載されている事項とは、トラック、バス等の重荷重用のラジアルタイヤである点で共通し、かつ両者はタイヤビード部の耐久性を課題としているから、刊行物発明に刊行物2に記載されている事項を適用し、カーカス8とビードコア5との間に略半円状のビードコアー下ゴムを具えることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、(A)刊行物2の段落【0008】に、ビードコアー2の高さDを11.5mmとすることが記載され、上記0.1×D<C<0.3×Dに当てはめるとビードコアー下ゴム4の厚さCの下限は1.15mmとなり、本願発明の厚さtの上限である1.0mmと近い値となっている。
(B)ビードコアーの高さは、車の車重や使用される用途により設定が変わるものであり、ビードコアーの高さが変わればビードコアー下ゴムの厚さも変わる。
(C)本願明細書の【表1】に記載された参考例1(当初の実施例5)では、フレッティング防止ゴム層の厚さtが1.5mmでも耐フレッティング性能及び一般ビード耐久性能において、他の実施例と遜色のない性能を発揮しているから、厚さtの上限値を1.0mmとする数値限定に臨界的意義が認められない。また、厚さtが薄いとカーカスとビードコアーとの擦れが抑制できなくなるのは明らかであるから、そうならない範囲に下限値を設定することも当業者が適宜なしうる事項である。
(D)ビードコアー下ゴムの特性は、必要とされる耐久性に合わせて設定されるところ(例えば刊行物2の記載事項ク及び段落【0006】を参照。)、カーカスコードとビードコア等の接触を防止する目的でビード部に配置されるゴムの複素弾性率を5.0?10.0MPaとすることは従来周知(一例として特開2009-18717号公報の段落【0048】を参照。)である。
以上(A)ないし(D)を総合すると、刊行物発明に刊行物2に記載されているビードコアー下ゴム4を適用する際に、耐久性を考慮してビードコアー下ゴムの厚さを0.5?1.0mmの範囲に設定し、その材料を複素弾性率が6.0?10.0MPaである硬質のゴムシートとすることは当業者であれば適宜になし得たことである。
よって、刊行物発明において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2についての判断]
タイヤの内部構造に使われる補強層や補強コードの材質及びそれぞれの配置は、耐久性等を考慮して選択または設定されることであるところ、
(E)補強層や補強コードをスチール製にすることは従来周知の技術である。(一例として、特開平1-254409号公報の6ページ右上欄13行ないし19行を参照。)
(F)本願発明の「差(P2o-Pc)」(刊行物発明の差(H3-H1))に関し、例えば特開昭59-29504号公報の第4図には被覆層(15)とカーカス巻き上げ部(11b)を配置することが示され、同公報の4ページ右下欄7行?9行の「被覆層(15)は金属コード補強層(14)とケース(審決注:カーカスの誤記)主体部(11a)の間に介在させるように配置しても同様の効果は達成できる。」との記載によれば、「被覆層(15)」は本願発明の「第2のビード補強コードプライ」に相当するといえるところ、同公報の第1表に記載された実施例1及び2並びに比較例1及び2に記載された被覆層の上端高さ(h)とカーカス巻き上げ部高さ(b)の値から、「h-b」(本願発明の「差(P2o-Pc)」に相当。)の値が22mmであることが理解でき、
「差(P1-P2i)」(刊行物発明の差(H2-H4))に関し、例えば特開平3-220008号公報に記載されている実施例(第2図)では、同公報の5ページ右上欄15行ないし19行に「第2の補強層11は、カーカス6の本体部7に沿ってビードヒール端Jの高さから立上るとともに、前記第1の補強層10の内側部16と少なくとも10mmの重なり部を有する下方部19を具える。」と記載されているように、その差が10mm以上であることが理解でき、
「ビードエーペックスゴムの半径方向内側に配される部位を高弾性エーペックス部とし、該高弾性エーペックス部の外端までのビードベースラインBLからの半径方向高さP3を、第2のビード補強コードプライの高さP2oより大と」することに関し、例えば前掲の特開昭59-29504号公報に記載されている実施例(第4図)では、同公報の5ページ左上欄9行ないし17行に「該ゴムストックはビードコア(12)に隣接し、サイドウオール方向に漸減する厚さを有する高弾性ゴム(21)と、・・・該高弾性ゴム(21)は前記金属コード補強層(14)及び被覆層(15)とともにおもにビード部内側に作用する伸長応力を抑制するもので、その上端は前記被覆層(15)の上端(15a)を越え」と記載されているように、ゴムストック(本願発明のビードエーペックスゴムに相当。)の半径方向内側に配される部位が高弾性ゴム(21)(本願発明の高弾性エーペックス部に相当。)であり、該高弾性ゴムの外端までの半径方向高さL_(1)(本願発明のP3に相当。)を、被覆層(15)(本願発明の第2のビード補強コードプライに相当。)の上端(15a)の高さh(本願発明のP2oに相当。)より大に設定していることが理解できる。
このように、「差(P2o-Pc)を5?25mm」、「差(P1-P2i)を10?40mm」の範囲の値とすること、及び「ビードエーペックスゴムの半径方向内側に配される部位を高弾性エーペックス部とし、該高弾性エーペックス部の外端までのビードベースラインBLからの半径方向高さP3を、第2のビード補強コードプライの高さP2oより大と」することは、それぞれ、従来技術と比べて格別の技術的意義があるとはいえない。
(G)他方、本願発明の「差(P2o-Pc)を5?25mm」及び「差(P1-P2i)を10?40mm」に関し、本願明細書の【表1】において、「差(P2o-Pc)を5?25mm」を満たしていない「比較例5」がこれを満たしている「実施例15」より耐フレッティング性能及び一般ビード耐久性能が優れているし、「差(P1-P2i)を10?40mm」を満たしていない「比較例7」が「実施例15」より耐フレッティング性能及び一般ビード耐久性能が優れている。
このように、【表1】に示された「実施例」、「比較例」、「参考例」の全てを通してみても、「差(P2o-Pc)を5?25mm」及び「差(P1-P2i)を10?40mm」とする数値限定に臨界的意義を有するものとは認められない。
以上、(E)ないし(G)を総合すると、刊行物発明に各公知ないし周知技術を適用し、補強層10及び内側補強層11をスチール製の補強コードで形成するとともに、差(H3-H1)を5?25mm、差(H2-H4)を10?40mmと設定し、ビードフィラーゴム6の半径方向内側に配される部位を高弾性部とし、該高弾性部の外端までのベースからの半径方向高さH5を、内側補強層11の高さH3より大きくすることは、当業者であれば適宜になし得たことである。
よって、刊行物発明において、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

本願発明の奏する作用効果をみても、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び各公知ないし周知技術から予測し得る範囲内のものであって、格別でない。

よって、本願発明は、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び各公知ないし周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明(請求項1に係る発明)は、刊行物発明、刊行物2に記載されている事項及び各公知ないし周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2010-255117(P2010-255117)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉田 和博  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
島田 信一
発明の名称 重荷重用タイヤ  
代理人 住友 慎太郎  

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