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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09F
管理番号 1303233
審判番号 不服2014-7335  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-21 
確定日 2015-07-16 
事件の表示 特願2011-538389「ディスプレイ用ガラス基板」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 5日国際公開、WO2011/052485〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年10月21日(優先権主張2009年10月26日、日本国、2010年3月1日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月31日付けで拒絶理由が通知され、同年7月12日付けで意見書が提出されたが、その後、平成26年1月17日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、これを不服として、平成26年4月21日に請求された拒絶査定不服審判であって、請求と同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成26年5月23日付けで前置報告がなされた。


第2 本願発明について
1.本願発明
平成26年4月21日付けの手続補正は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項3ないし6を削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものである。
そうすると、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年4月21日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「2つの主面と4つの端面からなるフラットパネルディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス基板であって、
一の主面を水平に載置した場合において、少なくとも一方の主面の基板端から内側に向かう1?30mmの基板端部領域で、高低差が15μm以下であることを特徴とするディスプレイ用ガラス基板。」

2.引用刊行物
(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2009-155136号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(下線は当審が付した。)

(a)「【0001】
本発明は、フラットディスプレイパネルに用いられるガラス基板に係り、特に縦方向寸法が300mm以上であり且つ横方向寸法が300mm以上であってその板厚の平均値が0.3?4.0mmの範囲内にあるガラス基板の板厚の特性もしくは表面の平坦度に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラズマディスプレイパネル{PDP}、フィールドエミッションディスプレイパネル{FED[サーフェイスエミッションディスプレイ(SED)を含む:以下同様]}、更には、液晶ディスプレイ{LCD}やエレクトロルミネッセンスディスプレイ{ELD}等のフラットディスプレイパネルは、表面に微細な電極や隔壁等の素子或いは構造体を形成した二枚のガラス基板を対向させて製作される。
【0003】
この種のガラス基板は、フロート法、フュージョン法(オーバーフローダウンドロー法)、またはスロットダウンドロー法に代表される公知の方法により成形された大型の元ガラス基板を、四辺が所定寸法の矩形をなすように切断して得られる。これらの成形方法のうち、例えばフロート法は、大型のガラス基板を安定して低廉に量産できるという利点を有していることから、PDP用やLCD用等のガラス基板の製造方法として多用されるに至っている。
【0004】
このフロート法は、具体的には、溶融炉で溶融された溶融ガラスを、溶融錫が貯留されたフロートバスに供給し、その溶融ガラスをフロートバスの溶融錫上に浮かせて自然に広がらせると共に、フロートバスの直下流側に配設されたレヤー(搬送路)に引き出すことにより、帯状のガラスリボンを経て大型の元ガラス基板が得られるように構成したものである。
【0005】
そして、このような大型の元ガラス基板の四辺を切断して得られた上述のフラットディスプレイパネル用のガラス基板に対しては、その表面に各種の膜を均一に塗布した後に、フォトプロセスの手法を用いて露光・現像することにより、素子や構造体を当該ガラス基板上に形成していくのが通例とされている。したがって、この種のガラス基板における素子等の形成面である表面には、高度な平坦度が要求され、その要求を満たすためには、当該ガラス基板の板厚の特性が重要な要因となる。
【0006】
このようなフラットディスプレイパネル用のガラス基板の板厚特性に着目したものとして、特許文献1によれば、短辺寸法が300?3000mmであって長辺寸法が300?3000mmであり且つ平均板厚が1.5?3.0mmのガラス基板について、最大板厚と最小板厚との板厚差を20μm以下とすること、及び長さ100mm単位間に亘る板厚測定範囲における最大板厚と最小板厚との板厚差を10μm以下(更には5μm以下)とすることが開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004-87382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記例示の特許文献1に開示されたガラス基板は、同文献の段落[0024]及び図1に記載されているように、レーザー式厚み計で一辺に沿う方向の全幅に亘って走査することで、ガラス基板の全幅や100mm単位間における最大及び最小の板厚差を求めるものである。すなわち、同文献に開示のガラス基板は、単一の方向性を持つ断面においてのみ板厚の最大及び最小の板厚差を求めるものであり、しかもその板厚測定範囲の最小単位は100mmとされている。
【0009】
このように、単一の方向性を持つ断面のみで板厚差を求める手法では、ガラス基板の面内における二次元(X座標とこれに直交するY座標との双方)での板厚差を把握することができず、例えば面内の任意の点からX方向における板厚差は判明するものの、Y方向における板厚差は判明しなくなる等の事態を招く。そのため、面内の任意の点を基準としてX方向の測定単位での板厚差の最大値が許容範囲内にあるために良質部であると判断されても、Y方向の測定単位での板厚差が許容範囲を逸脱していたならば、その良質部であるとの判断は誤ったものとなる。なお、仮に二つの方向性を持つ断面により板厚差を求めるようにしたとしても、別々の断面でそれぞれ個別に板厚差を求めていたのでは、任意の点を基準としてその周囲との間での板厚差の最大値を把握することはできず、そのため局部的に生じている本来の不当な板厚変化を認識することはできない。しかも、同公報に開示のように、板厚測定範囲の最小単位が100mmであれば、その最小単位が大き過ぎることにより局部的に生じている不当な板厚変化を緻密に認識することができず、またそのような不当な板厚変化が存在している箇所を見落とすことも生じ得る。
【0010】
以上のように、ガラス基板の面内における任意の点を基準としてその周囲に対する板厚差を正確に把握できなければ、上述の素子や構造体をガラス基板上に形成するためのフォトプロセスにおける露光等を的確に行うことが困難となる。すなわち、このフォトプロセスで露光・現像する場合には、形成する素子等が微細であるために焦点深度の浅い露光を必要とする露光機を使用せねばならならないとの要請が多々有る。特に、そのような場合に、上述のように一つの方向性を持つ断面での板厚差の計測、並びに板厚測定範囲の最小単位を100mmとする板厚差の計測を行っただけでは、ガラス基板の表面に対する露光機の焦点距離の適正化つまり露光ズレ抑止の観点から、そのガラス基板の表面の平坦度がそれに見合うに十分な高度性を有することが困難或いは不可能となる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑み、ガラス基板の任意の点から板厚差を計測する方向性を的確なものとし、且つ板厚測定範囲の最小単位の適正化をも図ることにより、従来は困難或いは不可能とされていた用途に対しても、十分に対処可能な平坦度を有するガラス基板を提供することを技術的課題とする。」

(b)「【0023】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るガラス基板1は、縦方向寸法aが300mm以上(具体的には、400mm)であり且つ横方向寸法bが300mm以上(具体的には、500mm)であって、その板厚の平均値が0.3?4.0mm(好ましくは1.3?4.0mm)の範囲内にある。
【0024】
このガラス基板1の特徴は、面内における任意の位置を基準点Oとして、直交する二つの辺2、3にそれぞれ沿う方向をX方向およびY方向とした場合に、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れたA点およびB点と、基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたC点およびD点と、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れ且つ基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたE点、F点、G点およびH点との計八点のそれぞれの板厚と、基準点Oの板厚との差の絶対値が、3μm以下とされているところにある。
【0025】
詳述すると、上記の基準点Oの板厚とA点の板厚との差、基準点Oの板厚とB点の板厚との差、基準点Oの板厚とC点の板厚との差、基準点Oの板厚とD点の板厚との差、基準点Oの板厚とD点の板厚との差、基準点Oの板厚とE点の板厚との差、基準点Oの板厚とF点の板厚との差、基準点Oの板厚とG点の板厚との差、基準点Oの板厚とH点の板厚との差、すなわちこれら八つの差の絶対値が、全て3μm以下とされている。
【0026】
また、上記の基準点Oから、A点、B点、C点、D点までの離隔長さは、全て20mmとされると共に、基準点Oから、E点、F点、G点、H点までの離隔長さは、全て√2×20mmとされている。更に、基準点Oを中心として、上記の八つの点は、45°の等角度で配設されている。
【0027】
したがって、このガラス基板1における20×20mm(20mm角)を一要素として、四つの要素からなる一群の集合部分が、一の板厚良質エリアとされている。そして、基準点Oを、ガラス基板1の如何なる位置に設定しても、この基準点OとA点?H点とは、上記の関係を満たしている。
【0028】
また、このガラス基板1の表面は、膜が形成され且つフォトプロセスにより露光・現像されて素子または構造体が形成される面である。そして、このガラス基板1の表面は、形成する素子等が微細で焦点深度の浅い露光が必要とされるような場合であっても、露光ズレ等の生じない平坦な面とされている。
【0029】
このような板厚特性を備えたガラス基板1によれば、面内の任意の位置を基準点Oとして、その周囲の45°間隔おきの八方向における単位長さ離隔したそれぞれの点の板厚と、基準点Oの板厚との差の絶対値が、3μm以下とされているので、ガラス基板1の局部に不当な板厚変化が存在していないことが、板厚差計測の方向性の多数化によって、見落とされることなく確実に検査されていることになる。しかも、基準点Oからその周囲の八点までの離隔長さは、A点、B点、C点およびD点については、20mmであり、E点、F点、G点およびH点については、√2×20mmであって、何れも適切に短くされているので、ガラス基板1に局部的に生じ得る不当な板厚変化が緻密に検査されていることになる。したがって、ガラス基板1の表面は、高度な平坦度を有することになり、このガラス基板1の表面に対するフォトプロセスにおける露光ズレの発生等が抑止される。
【実施例】
【0030】
本発明の実施例1?5として、縦方向寸法が400mmであり且つ横方向寸法が500mmであって板厚(板厚の平均値)が1.8mmのPDP用のガラス基板を、フロート法を用いて製作した。なお、ガラス材質は、日本電気硝子株式会社製のPP-8Cである。これら実施例1?5に係るガラス基板のフロート法による成形に際しては、{第1に、フロートバス内におけるガラス流れ方向の温度分布、第2に、フロートバス内におけるガラス流れ方向と直交する方向の温度分布、第3に、フロートバス内に流入する溶融ガラス生地の温度、第4に、フロートバスの直下流側のレヤー(搬送路)における幅方向の温度分布、第5に、上記レヤーの搬送ロールの真円度、第6に、上記レヤーの搬送ロールの回転速度ムラ}の六つの成形条件について、本発明者等が、各条件を個別に調整するのみならず、各条件を相互の関連性を考慮して緻密に調整した。そして、これにより得られた実施例1?5に係るガラス基板について、既に図1に基づいて説明した基準点Oの板厚と、A点?H点の板厚との差を、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリア毎に、各ガラス基板の全域に亘って超音波方式の板厚測定機により測定し、その最大値の絶対値を、下記の表1に示した。また、比較例1、2として、上記の六つの成形条件を従来通りのまま(各条件を相互の関連性を考慮して緻密に調整しないまま)で上記と同様の縦横寸法及び板厚のガラス基板を製造し、上記と同様の方法で各ガラス基板について得られた最大値の絶対値を、下記の表1に示した。
【0031】
更に、図2(a)は、実施例1について、20mm角を一単位としてガラス基板の全域に亘る板厚の変化を模式的に表わした概略斜視図であり、図2(b)は、同じく実施例1について、20mm角を一単位としてガラス基板の全域に亘る板厚の差の変化を模式的に表わした概略斜視図である。また、図3(a)は、比較例1について、20mm角を一単位としてガラス基板の全域に亘る板厚の変化を模式的に表わした概略斜視図であり、図3(b)は、同じく比較例1について、20mm角を一単位としてガラス基板の全域に亘る板厚の差の変化を模式的に表わした概略斜視図である。
【0032】
以上の測定に加えて、実施例1?5及び比較例1、2に係るガラス基板を、露光機の定盤に吸着保持させた状態で、図1に示す基準点Oと、A点?H点との高低差を、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリア毎に、各ガラス基板の全域に亘って触針式の表面粗さ測定機により測定し、その最大値の絶対値を、下記の表1に示した。このような測定を行ったのは、下記の理由による。すなわち、ガラス基板の素子形成面の平坦度は、フォトプロセスにおける露光の際に、ガラス基板が露光機の定盤上にほぼ理想吸着しているとみなされ、ガラス基板の反りの要因を除去することができるため、実質的に、ガラス基板の板厚の差(偏肉)で決まることになる。したがって、既述の露光機の焦点深度からくる要求に対しては、部分的なエリアに限定して求められた偏肉が小さいガラス基板である必要性が生じる。
【0033】
【表1】


【0034】
上記の表1(図2(a)、(b)をも参照)によれば、実施例1?5の何れについても、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリアの板厚差(部分偏肉)が、ガラス基板の全域において3.0μm以下であって良好なものと判定することができ、且つ露光機の定盤で吸着したガラス基板の平坦度を示す高低差の最大値も3.0μm以下であり、焦点深度の浅い露光機であっても露光ズレが生じないことを確認した。
【0035】
一方、上記の表1(図3(a)、(b)をも参照)によれば、比較例1、2は何れも、ガラス基板の部分偏肉が3μm超(更には4μm以上)であって不適切なものと判定することができ、且つ露光機の定盤で吸着したガラス基板の平坦度を示す高低差の最大値も4.5μm以上であり、焦点深度の浅い露光機を使用した場合に露光ズレの発生確率が高くなることを確認した。」

(c)「【図1】



【図2】



【図3】





すると、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「縦方向寸法が400mmであり且つ横方向寸法が500mmであって板厚(板厚の平均値)が1.8mmのPDP用のガラス基板であって、ガラス基板を、露光機の定盤に吸着保持させた状態で、面内における任意の位置を基準点Oとして、直交する二つの辺2、3にそれぞれ沿う方向をX方向およびY方向とした場合に、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れたA点およびB点と、基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたC点およびD点と、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れ且つ基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたE点、F点、G点およびH点との計八点について、高低差を、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリア毎に、各ガラス基板の全域に亘って触針式の表面粗さ測定機により測定した結果、高低差の最大値が3.0μm以下である、PDP用のガラス基板」

3.対比
(1)本願発明と引用発明の対比
引用発明の「PDP用のガラス基板」は、本願発明の「ディスプレイ用ガラス基板」に相当し、引用発明の「縦方向寸法が400mmであり且つ横方向寸法が500mmであって板厚(板厚の平均値)が1.8mmのPDP用のガラス基板」の構成は、本願発明の「2つの主面と4つの端面からなるフラットパネルディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス基板」の構成に相当する。

(2)一致点
してみると、両者は、
「2つの主面と4つの端面からなるフラットパネルディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス基板」
で一致し、次の点で相違する。

(3)相違点
本願発明では、「一の主面を水平に載置した場合において、少なくとも一方の主面の基板端から内側に向かう1?30mmの基板端部領域で、高低差が15μm以下である」のに対して、引用発明では、「ガラス基板を、露光機の定盤に吸着保持させた状態で、面内における任意の位置を基準点Oとして、直交する二つの辺2、3にそれぞれ沿う方向をX方向およびY方向とした場合に、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れたA点およびB点と、基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたC点およびD点と、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れ且つ基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたE点、F点、G点およびH点との計八点について、高低差を、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリア毎に、各ガラス基板の全域に亘って触針式の表面粗さ測定機により測定した結果、高低差の最大値が3.0μm以下であ」り、特に「少なくとも一方の主面の基板端から内側に向かう1?30mmの基板端部領域」における高低差が不明である点。

4.判断
(1)相違点について
引用発明の「ガラス基板を、露光機の定盤に吸着保持させた状態」は、高低差の測定時にガラス基板が露光器の定盤の上に載置された場合であることは明らかであり、上記高低差の測定を行う前提の状態として、本願発明の「一の主面を水平に載置した場合」との間で実質的な差違を有するものでない。
引用文献1には、【0005】に「このような大型の元ガラス基板の四辺を切断して得られた上述のフラットディスプレイパネル用のガラス基板に対しては、その表面に各種の膜を均一に塗布した後に、フォトプロセスの手法を用いて露光・現像することにより、素子や構造体を当該ガラス基板上に形成していくのが通例とされている。したがって、この種のガラス基板における素子等の形成面である表面には、高度な平坦度が要求され、その要求を満たすためには、当該ガラス基板の板厚の特性が重要な要因となる。」と記載されているように、各種の膜を均一に塗布した後に、フォトプロセスの手法を用いて露光・現像するために高度な平坦度が要求される技術課題が開示されている。
また、【0027】に「したがって、このガラス基板1における20×20mm(20mm角)を一要素として、四つの要素からなる一群の集合部分が、一の板厚良質エリアとされている。そして、基準点Oを、ガラス基板1の如何なる位置に設定しても、この基準点OとA点?H点とは、上記の関係を満たしている。」(なお、当該【0027】の記載中の「上記の関係」は、【0024】に記載の「面内における任意の位置を基準点Oとして、直交する二つの辺2、3にそれぞれ沿う方向をX方向およびY方向とした場合に、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れたA点およびB点と、基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたC点およびD点と、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れ且つ基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたE点、F点、G点およびH点との計八点のそれぞれの板厚と、基準点Oの板厚との差の絶対値が、3μm以下とされている」関係を意味している。)と記載され、【0029】に「このような板厚特性を備えたガラス基板1によれば、面内の任意の位置を基準点Oとして、その周囲の45°間隔おきの八方向における単位長さ離隔したそれぞれの点の板厚と、基準点Oの板厚との差の絶対値が、3μm以下とされているので、ガラス基板1の局部に不当な板厚変化が存在していないことが、板厚差計測の方向性の多数化によって、見落とされることなく確実に検査されていることになる。しかも、基準点Oからその周囲の八点までの離隔長さは、A点、B点、C点およびD点については、20mmであり、E点、F点、G点およびH点については、√2×20mmであって、何れも適切に短くされているので、ガラス基板1に局部的に生じ得る不当な板厚変化が緻密に検査されていることになる。したがって、ガラス基板1の表面は、高度な平坦度を有することになり、このガラス基板1の表面に対するフォトプロセスにおける露光ズレの発生等が抑止される。」と記載されているように、基準点O及びその周囲の八点のみならず、ガラス基板全面において高度な平坦度を有することの説明もされている。
そのため、引用発明が「面内における任意の位置を基準点Oとして、直交する二つの辺2、3にそれぞれ沿う方向をX方向およびY方向とした場合に、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れたA点およびB点と、基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたC点およびD点と、基準点OからX方向の両側にそれぞれ20mm離れ且つ基準点OからY方向の両側にそれぞれ20mm離れたE点、F点、G点およびH点との計八点について、高低差を、20mm角を一要素として四つの要素からなるエリア毎に、各ガラス基板の全域に亘って触針式の表面粗さ測定機により測定した結果、高低差の最大値が3.0μm以下である」構成において、上記各種の膜を均一に塗布した後に、フォトプロセスの手法を用いて露光・現像するために高度な平坦度が要求される技術課題及びガラス基板全面において高度な平坦度を有するとの技術思想に基づいて、基板端部を含むガラス基板全面について緻密に検査を行い「高低差の最大値が3.0μm以下である」測定結果を得ることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、上記引用文献1の【0005】で説明される通例によれば、基板表面には各種の膜が均一に塗布されるから、塗布開始位置として容易に想定される基板端部における高低差を特に測定して高度な平坦度とすることは、必要に応じて適宜なされる事項にすぎず、「基板端から内側に向かう1?30mm」や「高低差が15μm以下」という具体的数値範囲についても、選択される塗布膜の材料や塗布装置、塗布ヘッド等に応じて適宜定められるものであり、当業者の技術常識に照らして当該数値範囲が格別のものとは認められないことから通常なし得るものである。
したがって、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基いて、上記相違点に係る事項を得ることは、当業者が容易になし得ることである。

(2)効果について
本願発明が奏し得る効果は、引用発明及び引用文献1に記載された事項から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

(3)結論
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第3 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2011-538389(P2011-538389)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 智也  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 土屋 知久
山口 剛
発明の名称 ディスプレイ用ガラス基板  
代理人 伊東 忠重  
代理人 伊東 忠彦  

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