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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1303495
審判番号 不服2013-21187  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-30 
確定日 2015-07-23 
事件の表示 特願2001-551605号「マイクロカプセルおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年7月19日国際公開、WO01/51195、平成15年6月24日国内公表、特表2003-519564号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 イ.手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成13年1月10日(優先日:平成12年1月13日、出願番号:特願2000-4370号)を国際出願日とする出願であって、平成22年12月27日付けの拒絶理由に対して、平成23年2月24日付けで意見書および手続補正書が提出され、同年12月20日付けの拒絶理由に対して平成24年2月22日付けで意見書および手続補正書が提出され、さらに、同年11月29日付け拒絶理由<最後>に対して同年12月11日付けで意見書が提出されたが、平成25年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月30日付けで拒絶査定不服審判が請求され、さらに、同年11月1日付けで上申書が提出されたものである。

ロ.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年2月22日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のものである。
「【請求項1】 疎水性芯物質の周囲を、(i)アミノ樹脂プレポリマーを、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンおよびテトラエチレンペンタミンからなる群より選択されたカチオン性変性剤により変性して得られた水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびアルキルナフタレンスルホン酸塩類からなる群より選択されたアニオニック界面活性剤とのコアセルベートの固化物層および(ii)アミノ樹脂プレポリマーの重縮合物層、で逐次積層被覆してなり、該逐次積層被覆は、外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を有さないことで特徴付けられる整然とした積層構造を有するマイクロカプセル。」

ハ.原査定の拒絶理由
拒絶査定の拒絶理由は、「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である特開昭58-124705号公報(引用文献1)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。」旨を理由の一つにするものである。

ニ.引用例の記載事項
原査定の拒絶理由において引用文献1として引用された特開昭58-124705号公報(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある。
(a)公報第1頁左下欄5行?同第2頁左上欄2行
「(1) 水に対する溶解度が20℃に於いて水100mlに対し1g以下であり、且つ60℃に於ける蒸気圧が760mmHg以下である農薬を芯物質とし、尿素、メラミン及びチオ尿素から選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂を膜材とするマイクロカプセル化農薬。
(2) 樹脂プレポリマーが尿素ホルムアルデヒド樹脂プレポリマーであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載のマイクロカプセル化農薬。
(3) 樹脂プレポリマーがメラミンホルムアルデヒド樹脂プレポリマーであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載のマイクロカプセル化農薬。
(4) 樹脂プレポリマーが尿素メラミンホルムアルデヒド樹脂プレポリマーであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載のマイクロカプセル化農薬。
(5) 樹脂プレポリマーがチオ尿素メラミンホルムアルデヒド樹脂プレポリマーであることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項に記載のマイクロカプセル化農薬。
(6) 芯物質の農薬が殺虫剤であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載のマイクロカプセル化農薬。
(7) 芯物質の農薬が殺菌剤であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載のマイクロカプセル化農薬。
(8) 芯物質の農薬が液体農薬であることを特徴とする特許請求の範囲第(1)項乃至第(7)項のいずれかに記載のマイクロカプセル化農薬。」

(b)公報第4頁左上欄下から2行?同右上欄下から4行
「本発明のマイクロカプセル化農薬はその粒径を1?100μの範囲で任意に選択することができ、又、その膜厚も0.02μ?10μの範囲で自由に変えることができる。膜厚を自由に変え得ることは界面重合法により製造されるマイクロカプセルでは殆んど期待できないことである。又、本発明のカプセルでは膜厚を一定にして芯物質の放出速度を調整することも可能である。このためには例えば、膜材に占めるホルムアルデヒドの割合を変えることにより達成できる。従つて、本発明カプセルは、膜厚が充分に薄い場合にも芯物質である農薬の放出が急速になされることを避け得るだけでなく、その放出速度を任意にすることができる。又、例えばその使用の場で要求される機械的強度を保持するために膜厚を大にすることが要求される場合にも、芯物質の放出が必要以上に遅延化することはない。」(当審注1:下線は当審において付与した。以下同じ。)

(c)公報第4頁右下欄9行?同第5頁左上欄8行
「以上のような疎水性農薬を芯物質とするマイクロカプセルは次のようにして製造することができる。芯物質となる疎水性農薬が液状である場合には、例えば、特願昭55-114333号に記載された感圧記録紙用微小カプセルの製造方法が適用しうる。即ち前記樹脂プレポリマーと水溶性カチオニツク尿素樹脂及びアニオニツク界面活性剤の水系混合液中に前記疎水性農薬又はその溶液を乳化分散させ、次いでこの分散液に酸触媒を加え、前記樹脂プレポリマー及び水溶性カチオニツク尿素樹脂を重縮合させることによりカプセル膜を形成させる。この際アニオニツク界面活性剤とカチオニツク尿素樹脂とは、農薬剤と水の界面に静電気的力により集まり乳化を安定化させると同時に水系中においてはコンプレツクスコアセルベートを生じ、これが徐々に農薬上に集積し緻密なカプセル壁膜の形成を可能にする。」

(d)公報第5頁左下欄14行?同右下欄末行
「本発明のマイクロカプセル化農薬の製造において特に重要なことは水溶性カチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤を、即ち、電荷が異付号である2種の物質を樹脂プレポリマーと併用することにある。樹脂プレポリマーの縮重合に際し、少量のカチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤を共存させることにより安定な分散液を得ることができると同時に、均質なカプセルを得ることができる。
次に本発明の微小カプセルの製造法を具体的に説明する。
先ず、少なくとも水溶性カチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤の存在する水系混合液と疎水性農薬とを適当な手段、例えば、ホモジナイザー、撹拌機、超音波等を用いて疎水性農薬が適当な大きさの液滴となるように乳化分散させる。樹脂プレポリマーはこの乳化前の混合液中に予め存在させておいてもよいが、乳化の途中又は乳化後に一度に又は数回に分けて添加してもよい。この樹脂プレポリマーを含む分散液をゆるやかに撹拌しながら酸触媒を加えて、pH2.5?6.0、反応温度15?60℃で2?50時間反応させることにより微小カプセル化は終了する。

(e)公報第6頁右下欄下から2行?同第7頁左上欄13行
「本発明で使用する水溶性カチオニツク尿素樹脂は、尿素ホルムアルデヒド樹脂にカチオニツクな変性剤を導入したものであり、例えば尿素ホルムアルデヒドプレポリマーに変性剤としてテトラエチレンペンタミン、ジアミノエタノール、ジシアンジアミド、ジエチルアミノエタノール、グアニール尿素又はこれらに類するものを加え公知の方法で縮重合して容易に得られる。樹脂プレポリマーに対する水溶性カチオニツク尿素樹脂の割合は重量比で1対0.01乃至2.0の範囲であることが好ましい。
また、アニオニツク界面活性剤としては脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類、アルキルアリルスルホン酸塩類等を例示し得るが、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダが好ましい。」

(f)公報第7頁右上欄下から2行?同第9頁左上欄12行
「実施例1
(樹脂プレポリマーの作成)
メラミン63gと2%NaOH水溶液でpH9.0に調整したホルマリン(37%ホルムアルデヒド水溶液以下同じ)162gを混合し70℃で反応させメラミンが溶解したら直ちに水225gを加えてそのまま3分間撹拌してメラミンホルムアルデヒドプレポリマー水溶液(M4Fプレポリマーと云う。M4Fはメラミン1モルに対しホルムアルデヒド4モルであることを示す。以下同じ)を作成した。
別に、トリエタノールアミンでpH8.5に調整したホルマリン146gと尿素60gを混合し、70℃で1時間反応させて尿素ホルムアルデヒドプレポリマー水溶液(U1.8Fプレポリマーと云う)を得た。
(カチオニツク尿素樹脂の作成)
37%ホルムアルデヒド水溶液162gと尿素60gを混合撹拌し、この混合物にトリエタノールアミンを加えてpHを8.8に調整した後、温度70℃で30分間反応させた。この反応混合物40gを取り、これに水24gとテトラエチレンペンタミン6gを加え、温度70℃で撹拌しながら15%塩酸でpHを3に調整し、1時間反応させた。この反応に伴いpHが低下するので反応生成物に10%カセイソーダ水溶液を加えそのpHを3に調整しなおし、温度を55℃に下げて反応を続け粘度が200cpsとなつた時点で10%カセイソーダ水溶液で中和し、水400gを加え水溶性カチオニツク尿素樹脂の水溶液を得た。
(マイクロカプセル化)
M4Fプレポリマー13.6g、U1.8Fプレポリマー6.8g、上述のカチオニツク尿素樹脂水溶液158g、水62g及びトリエタノールアミン1gの混合液を10%クエン酸水溶液でpH5.2に調整した後、10%ネオペレツクス水溶液(アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ水溶液、花王アトラス社製)3gを加えた。
この液にダイアジノン150gを加え、ホモジナイザーで液滴の径が2?8μになるように乳化させその後ゆつくり撹拌しながら温度を30℃に保持し、10%クエン酸水溶液を加えてpH3.6にした。1時間後200gの水を加えた。さらに1時間後pHを2.8にして2時間撹拌した。次に系の温度を40℃に上昇させ3時間撹拌してマイクロカプセル化を完了した。
このマイクロカプセル化農薬のダイアジノン量は95%であつた。
実施例2
実施例1において、M4Fプレポリマー及びU1.8Fプレポリマーの使用量を夫々41g及び20.5gに変える以外は全て実施例1と同様にして、マイクロカプセル化を行つた。このマイクロカプセル化農薬中のダイアジノン成分は85%であつた。
実施例3
水溶性カチオニツク尿素樹脂ユーラミンP1500(三井東圧製)20gと実施例1で作成したM4Fプレポリマー82.4g、水150g及びトリエタノールアミン1gの混合液を10%クエン酸水溶液でpH5.0に調整した後、10%ネオペレツクス水溶液3gを加えた。この混合液に、MEP150gを加え、ホモジナイザーで液滴の粒径が5?10μになるように乳化させ、その後ゆつくり撹拌しながら温度を40℃に保持し、10%クエン酸水溶液を加えてpH3.8にした。1時間経過後、再び10%クエン酸水溶液を加えることでpH3.0に調整し100gの水を加えた。そのまま15時間撹拌をつづけてマイクロカプセル化を完了した。このマイクロカプセル化農薬中のMEP量は87.4%であつた。
実施例4
ユーラミンP1500 25gと実施例1で作成した。U1.8Fプレポリマー54.2g、水180g及びトリエタノールアミン1.0gの混合液を10%クエン酸水溶液でpH5.5に調整した後、10%ネオペレツクス水溶液3.7gを加えた。この混合液にMEP200gを加え、ホモジナイザーで液滴の粒径が5?10μになるように乳化させ、その後、ゆつくり撹拌しながら、温度を35℃に保持し、10%クエン酸を加えてpH3.8に調整した。1時間反応後150gの水を加えそのまま2時間撹拌を続けた。次に10%クエン酸でpH3.0にし、1時間反応後、再び水150gを加え、そのまま15時間撹拌をつづけて、マイクロカプセル化を完了した。このマイクロカプセル化農薬中のMEP量は86.9%であつた。
実施例5
ユーラミンP1500-25gと水200gを加えpH5.0に調整した中へネオペレツクス水溶液2.5ml加えた後、プロペナゾール150gをよく分散させる。次いで分散液を40℃でゆつくり撹拌しながら実施例1で作成したM4Fプレポリマー80g、U1.8Fプレポリマー40gを加え10%クエン酸でpHを3.6に調整した。2時間経過後、再び10%クエン酸でpHを3.0に調整し反応を続けて1時間後、10%レゾルシノール10mlを加え、さらに水180gを加えた後、温度を30℃に下げそのまま15時間熟成させプロペナゾールマイクロカプセルスラリーを得た。このマイクロカプセル中のプロペナゾール量は71%であつた。
実施例6
実施例5において水180gを加えた後、再びU1.8Fプレポリマー40gを加えて撹拌を続けた。1時間後に10%クエン酸でpH3.0に調整した後、10%レゾルシノール5mlを加えて30分反応させた。つづいてU1.8Fプレポリマー40gを加えてさらに1時間撹拌後、10%クエン酸でpH3.0に調整し、10%レゾルシノール5mlを加えて30分反応させた。その後、系の温度を30℃に下げて15時間熟成させプロペナゾールマイクロカプセルスラリーを得た。このマイクロカプセル中のプロペナゾール量は41.5%であつた。
実施例5及び6で得られたマイクロカプセルスラリーをろ過、洗浄、乾燥し、自由流動性の粉末カプセルを得た。」(当審注2:実施例1(マイクロカプセル化)の下線部の「13.6」および「6.8」は、公報第13頁右下欄の「8.補正の内容」の「(1)」および「(2)」に基いて修正したものである。当審注3:実施例6の下線部の「ろ過」の「ろ」は、「さんずい」と「戸」からなる漢字を仮名として表記したものである。)

ホ.引用例に記載された発明
(A)上記(e)より、引用例には、「尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂」が記載されているということができる。

(B)上記(c)より、引用例には、「芯物質としての疎水性農薬と水の界面に集積する(形成される)、水溶性カチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤とのコンプレツクスコアセルベート」が記載されているということができる。

(C)上記(a)の「(1) 水に対する溶解度が20℃に於いて水100mlに対し1g以下であり、且つ60℃に於ける蒸気圧が760mmHg以下である農薬を芯物質とし、尿素、メラミン及びチオ尿素から選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂を膜材とするマイクロカプセル化農薬。」および上記(A)より、引用例には、「尿素およびメラミンから選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂」が記載されているということができる。

(D)上記(d)の「先ず、少なくとも水溶性カチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤の存在する水系混合液と疎水性農薬とを適当な手段、例えば、ホモジナイザー、撹拌機、超音波等を用いて疎水性農薬が適当な大きさの液滴となるように乳化分散させる。樹脂プレポリマーは・・・乳化の途中又は乳化後に一度に又は数回に分けて添加してもよい。」、上記(f)の実施例5、6および上記(A)ないし(C)より、引用例には、『「芯物質としての疎水性農薬と水の界面に形成される、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂とアニオニツク界面活性剤とのコンプレツクスコアセルベート」と「尿素およびメラミンから選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂」が逐次積層され、逐次積層被覆は積層構造を有する』ことが記載されているということができる。

上記(a)ないし(f)の記載事項および上記(A)ないし(D)の検討事項より、引用例には、
「芯物質としての疎水性農薬の周囲を、(i)芯物質としての疎水性農薬と水の界面に形成される、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーを、テトラエチレンペンタミン、ジアミノエタノール、ジシアンジアミド、ジエチルアミノエタノール、グアニール尿素又はこれらに類するカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類又はドデシルベンゼンスルホン酸ソーダであるアニオニツク界面活性剤とのコンプレツクスコアセルベートおよび(ii)尿素およびメラミンから選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂、が逐次積層され、逐次積層被覆は積層構造を有するマイクロカプセル。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されているということができる。

ヘ.対比・判断
本願発明と引用例記載の発明とを対比する。
○引用例記載の発明の「芯物質としての疎水性農薬」、「カチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂」、「コンプレツクスコアセルベート」および「が逐次積層され」は、本願発明の「疎水性芯物質」、「カチオン性変性剤により変性して得られた水溶性カチオニック変性アミノ樹脂」、「コアセルベートの固化物層」および「で逐次積層被覆してなり」にそれぞれ相当する。

○引用例記載の発明の「(ii)尿素およびメラミンから選ばれる少なくとも1種とホルムアルデヒドより成る樹脂プレポリマーと、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーをカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂とを、アニオニツク界面活性剤の存在のもとに重縮合させてなる樹脂」は、本願発明の「(ii)アミノ樹脂プレポリマーの重縮合物層」に相当する。

○引用例記載の発明の「(i)芯物質としての疎水性農薬と水の界面に形成される、尿素ホルムアルデヒドプレポリマーを、テトラエチレンペンタミン、ジアミノエタノール、ジシアンジアミド、ジエチルアミノエタノール、グアニール尿素又はこれらに類するカチオニツクな変性剤により変性して得られた水溶性カチオニツク尿素樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル類又はドデシルベンゼンスルホン酸ソーダであるアニオニツク界面活性剤とのコンプレツクスコアセルベート」と、本願発明の「(i)アミノ樹脂プレポリマーを、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンおよびテトラエチレンペンタミンからなる群より選択されたカチオン性変性剤により変性して得られた水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物およびアルキルナフタレンスルホン酸塩類からなる群より選択されたアニオニック界面活性剤とのコアセルベートの固化物層」は、「(i)アミノ樹脂プレポリマーを、テトラエチレンペンタミンであるカチオン性変性剤により変性して得られた水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダからなる群より選択されたアニオニック界面活性剤とのコアセルベートの固化物層」という点で重複する。

○引用例記載の発明の「逐次積層被覆は積層構造を有する」と、本願発明の「逐次積層被覆は、外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を有さないことで特徴付けられる整然とした積層構造を有する」とは、「逐次積層被覆は積層構造を有する」という点で重複する。

上記より、本願発明と引用例記載の発明とは、
「疎水性芯物質の周囲を、(i)アミノ樹脂プレポリマーを、テトラエチレンペンタミンであるカチオン性変性剤により変性して得られた水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類およびドデシルベンゼンスルホン酸ソーダからなる群より選択されたアニオニック界面活性剤とのコアセルベートの固化物層および(ii)アミノ樹脂プレポリマーの重縮合物層、で逐次積層被覆してなり、逐次積層被覆は積層構造を有するマイクロカプセル。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明では、「逐次積層被覆は、外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を有さないことで特徴付けられる整然とした積層構造を有する」のに対して、引用例記載の発明では、逐次積層被覆は積層構造を有するものの、「逐次積層被覆は、外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を有さないことで特徴付けられる整然とした積層構造を有する」かどうか明らかでない点。

<相違点>について検討する。
引用例記載の発明の「積層構造を有する」「逐次積層被覆」は、特に上記(c)(d)の下線部からして、安定した乳化(分散)状態で形成された均質な逐次積層被覆であるとみるのが妥当であり、そうである以上、「外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を実質的に有さない」「整然とした積層構造を有する」「逐次積層被覆」であるというべきである。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明である。

追記
請求人は、審判請求書において、
『【結び】
上述したように、引用文献1は、本願発明法に比較的近いマイクロカプセル化法に相当する実施例5及び6を含むものではあるが、本願発明の、以下の特徴、すなわち
(製法上の特徴)
本願請求項11に記載するように、
「水性媒体中に分散された疎水性芯物質の存在下に…水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、...アニオニック界面活性剤とを、その一方を先に混合し、次いで他方を混合する形態で、混合し、...芯物質分散物を水溶性カチオニック変性アミノ樹脂とアニオニック界面活性剤とのコアセルベート固化物により被覆し、...次いでアミノ樹脂プレポリマーの重縮合物で被覆する…有するマイクロカプセルの製造方法」を開示するものでなく、またその結果として、
(製品マイクロカプセルの特徴)
請求項1に記載するように、
「 疎水性芯物質の周囲を、(i)...水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、...アニオニック界面活性剤とのコアセルベートの固化物層および(ii)アミノ樹脂プレポリマーの重縮合物層、で逐次積層被覆してなり、該逐次積層被覆は、外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を有さないことで特徴付けられる整然とした積層構造」
を有するマイクロカプセルの製造技術を開示ないし示唆するものではない。 そして、上記製法上の差異により得られる本願発明のマイクロカプセルは、引用文献1の方法によっては得られない、上記した形態上の特徴を有するとともに添付の実験報告書に示すように、芯物質の水中溶出量、水中への遊離芯物質量および耐溶剤性というマイクロカプセルの主要な特性に関しても、引用文献1のそれに比べて顕著に優れた特性を示す。
したがって、本願請求項1?18で代表される本願発明の進歩性は、引用文献1の存在にかかわらず、充分に認められるべきものと思料される。』(当審注4:下線は請求人が付与したものである。)との主張をしており、以下、これについて検討する。
本願発明は、上記「ロ.」で示したとおりのものであって、「水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、...アニオニック界面活性剤とを、その一方を先に混合し、次いで他方を混合する形態で、混合」することに限定されるものではなく、この限定を前提にした、本願発明と引用文献1記載の発明(引用例記載の発明)の特性(作用効果)との対比は、前提において誤りである、つまり、審判請求書に添付された実験報告書(平成25年11月1日付け上申書における実験報告書のコピー)における本願に関する実験V、VI、I、II、実施例1の実験結果(特性)は、「水溶性カチオニック変性アミノ樹脂と、...アニオニック界面活性剤とを、その一方を先に混合し、次いで他方を混合する形態で、混合」する場合の実験結果(特性)でしかなく、本願発明の特性(作用効果)は、上記の場合の作用効果に限定されるものではない。
また、本願発明(本願明細書の【0008】参照)と引用例記載の発明とは、上記「ヘ.」で示したように、「外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を実質的に有さない」「整然とした積層構造を有する」「逐次積層被覆」であるという点で一致しており、この「外周に被覆層厚と同等な表面突起あるいは付着物を実質的に有さない」「整然とした積層構造を有する」という特性(作用効果)について同等である。
さらに、本願に関する実験VのSEM写真(FIG.V)と、引用文献1(引用例)に関する実験VIIのSEM写真(FIG.VII)をみたとき、FIG.Vに比してFIG.VIIが格別劣っているとまでは言い難い。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

ト.むすび
以上、本願発明は、引用例に記載された発明であるので、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、請求項2ないし18に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-20 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-10 
出願番号 特願2001-551605(P2001-551605)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷水 浩一吉岡 沙織  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
発明の名称 マイクロカプセルおよびその製造方法  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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