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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1303718 |
審判番号 | 不服2013-21426 |
総通号数 | 189 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-09-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-11-01 |
確定日 | 2015-07-29 |
事件の表示 | 特願2010-160685「有機発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月27日出願公開,特開2011-216840〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2010年7月15日(パリ条約による優先権主張2010年3月31日,韓国)の出願であって,平成24年5月17日付けで拒絶理由が通知され,同年8月17日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成25年8月29日付けで拒絶査定がなされたところ,同年11月1日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審において,平成26年8月29日付けで拒絶の理由が通知され,同年12月2日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2 本願発明 本願の請求項1ないし16に係る発明は,平成26年12月2日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16によって特定されるものであるところ,請求項1に係る発明は次のとおりのものと認められる。 「基板本体と, 前記基板本体上に形成された非晶質シリコン薄膜トランジスタと, 前記非晶質シリコン薄膜トランジスタと接続して電子を注入する透明電極と前記透明電極上に形成された有機発光層と前記有機発光層上に形成されて正孔を注入する反射電極とを有する有機発光素子と,を含み, 前記有機発光層は,電子注入用金属層と電子注入層と電子注入用双極子層(dipole layer)とを含み前記透明電極上に形成された電子注入部と,前記電子注入部上に形成された発光部と,を含み, 前記有機発光層は,正孔注入層及び正孔注入用双極子層を含み,前記発光部と前記反射電極との間に配置された正孔注入部を含み, 前記正孔注入部と前記発光部との間に配置された正孔輸送層をさらに含み, 前記正孔注入用双極子層は,前記正孔輸送層と前記正孔注入層との間に配置されたことを特徴とする有機発光表示装置。」(以下,「本願発明」という。) 3 当審において通知した拒絶の理由の概要 当審において平成26年8月29日付けで通知した拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は, 「本願の請求項1ないし17に係る発明は,引用文献1に記載された発明,引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて,引用文献1に記載された発明,引用文献2及び引用文献4に記載された事項に基づいて,または,引用文献1ないし引用文献5の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。 当審拒絶理由で引用した引用文献1ないし5は,次のとおりである。 引用文献1:特開2006-269228号公報 引用文献2:特開2009-16332号公報 引用文献3:特開2006-114903号公報 引用文献4:特開2009-206512号公報 引用文献5:特開2008-34367号公報 4 引用例 (1)特開2006-269228号公報 ア 特開2006-269228号公報の記載 当審拒絶理由で引用した特開2006-269228号公報(当審拒絶理由における引用文献1。以下,「引用刊行物1」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物1には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は多色表示用の色変換フィルタおよびその製造方法,ならびに該色変換フィルタを用いた多色表示可能な有機EL(エレクトロルミネセント)ディスプレイパネルに関する。特に,本発明は,各表示色のクロストークの低減に関する。 【背景技術】 【0002】 有機ELディスプレイパネルの作製方式としては,電界をかけることにより赤・青・緑にそれぞれ発光する有機EL素子を配列する「3色発光方式」,および,有機EL素子の発する白色の発光を,カラーフィルタでカットし,赤・青・緑を表現する「カラーフィルタ方式」,さらに,有機EL素子の発する近紫外光,青色光,青緑色光または白色光を吸収し,波長分布変換を行って可視光域の光を発光する色変換色素を含む色変換層を用いる「色変換方式」が提案されている。 【0003】 これらの方式の内,成膜時にメタルマスクを用いる必要がなく,フォトプロセスを用いて所望の形状および配列を有するカラーフィルタ層および/または色変換層を形成することができるという点において,「カラーフィルタ方式」および「色変換方式」が,ディスプレイの大画面化および高精細化に有利であると考えられている。 【0004】 「カラーフィルタ方式」および「色変換方式」のディスプレイにおいては,一般的に,透明基板上に複数種のカラーフィルタ層および/または色変換層を設け,その上に上面を平坦化するための有機層すなわち平坦化層,酸素および/または水分の透過を防止するパッシベーション層,および有機EL発光体が積層された構造を有する(特許文献1および特許文献2参照)。これらの文献に開示されている構造において,カラーフィルタ層,色変換層,および有機層(平坦化層)は,アクリル系材料を用いて形成されることが多い。 【0005】 【特許文献1】特開平11-260562号公報 【特許文献2】特開平11-26156号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上記の構造において,平坦な上面を提供するための有機層ないし平坦化層は,有機EL発光体からカラーフィルタ層および/または色変換層への光の透過経路に位置するために高い光透過率を有することが必須の要件となっている。また,前述のようにカラーフィルタ層,色変換層,および平坦化層(有機層)は同種の材料で形成され,したがって同等の屈折率を有することが多い。このような状況においては,有機EL発光体から発せられる光,および/または色変換層で波長分布変換された光(いずれも,光の放射方向は無指向性である)が横方向に伝播し,別個の色のカラーフィルタ層および/または色変換層を通して外部に放射されることによって,発光色のクロストークが発生し,色再現性が低下するという問題点を有している。 【0007】 したがって,本発明の目的は,色変換方式の有機ELディスプレイに用いられる色変換フィルタにおいて,平坦化層における光の横方向の伝播を防止し,発光色のクロストークの発生を抑制し,色再現性を高めることができる色変換フィルタおよびその製造方法を提供することである。また,該色変換フィルタを用いた有機ELディスプレイを提供することもまた,本発明の目的である。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の色変換フィルタは,透明基板と,該透明基板上に形成された複数種の色変換フィルタ層と,該複数種の色変換フィルタ層を覆うように形成された平坦化層と,該平坦化層の上に形成されたパッシベーション層とを含み,前記平坦化層は,前記複数種の色変換フィルタ層に対応する位置の高透過率部分と,それ以外の位置の低透過率部分とを有することを特徴とする。ここで,前記高透過率部分は,90%以上の可視光透過率を有し,および前記低透過率部分は90%以下の可視光透過率を有することが望ましい。 【0009】 本発明の有機ELディスプレイパネルは,前述の色変換フィルタと,前記パッシベーション層の上に形成された,透明電極,有機EL層および反射電極を含む有機EL発光体とを含むことを特徴とする。」 (イ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0013】 図1に,本発明の有機ELディスプレイパネルの第1の実施態様の構成例を示す。本発明の有機ELディスプレイは,色変換フィルタ10と,その上に設けられた有機EL発光体20とから構成される。色変換フィルタ10は,透明基板1と,複数種の色変換フィルタ層と,平坦化層6と,パッシベーション層7とを含む。平坦化層6は,低透過率部分6aと,高透過率部分6bとからなり,高透過率部分6bは複数種の色変換フィルタ層に対応する位置に配置されている。図1においては,3種の色変換フィルタ層,すなわち赤色変換フィルタ層3,緑色変換フィルタ層4,青色変換フィルタ層5を有する層を示した。また,本発明の色変換フィルタ10においては,隣接する色変換フィルタ層の間隙にブラックマトリクス2を設けてもよい。有機EL発光体20は,透明電極21,有機EL層22および反射電極23が順次積層された構造を有する。 【0014】 以下に,本発明の有機ELディスプレイパネルの各構成層を説明する。透明基板1は可視光(波長400?700nm)に対して透明であり,積層される層の形成に用いられる条件(溶媒,温度等)に耐えるものであるべきであり,および寸法安定性に優れていることが好ましい。好ましい透明基板は,ガラス基板,およびポリオレフィン,アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む),ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む),ポリカーボネート樹脂,またはポリイミド樹脂などの樹脂で形成された剛直性の樹脂基板を含む。あるいはまた,ポリオレフィン,アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレートを含む),ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレートを含む),ポリカーボネート樹脂,またはポリイミド樹脂などから形成される可撓性フィルムを,基板として用いてもよい。ガラス,ならびにポリエチレンテレフタレート,ポリメチルメタクリレート等の樹脂を含む。ホウケイ酸ガラスまたは青板ガラス等が特に好ましいものである。 ・・・(中略)・・・ 【0016】 色変換フィルタ層3?5は,色変換層,カラーフィルタ層または色変換層とカラーフィルタ層との積層体からなる群から選択される。本発明の色変換フィルタ層3?5は,一般的に5?15μmの膜厚を有することが望ましい。カラーフィルタ層は,入射光の一部を透過させて所望の色の出力光を得るための層である。カラーフィルタは,たとえば,液晶表示装置などに用いられる市販のフラットパネルディスプレイ用カラーフィルタ材料(富士フイルムエレクトロニクスマテリアルズ株式会社製カラーモザイクなど)を用いて形成することができる。色変換層は,マトリクス樹脂と,入射光を吸収して波長分布変換を行い,異なる波長の可視光を放射する色変換色素とを含む層である。色変換層は1種または複数種の色変換色素を含んでもよい。 【0017】 本発明の有機ELディスプレイパネルにおいて,赤色変換フィルタ層3および緑色変換フィルタ層4は,色変換層を含むことが望ましく,より好ましくは,出力光の色純度を向上させるために,色変換層と,該色変換層の出力側に設けられるカラーフィルタ層との積層体から形成されることが望ましい。緑色変換フィルタ層4については,光源として用いる有機EL発光体が充分な強度の緑色成分を含む場合には,カラーフィルタ層のみで構成されてもよい。青色変換フィルタ層5については,カラーフィルタ層のみで構成されることが一般的である。 ・・・(中略)・・・ 【0025】 平坦化層6は,色変換フィルタ10上に設けられる有機EL発光体20の透明電極21と反射電極23間の短絡の原因となる色変換フィルタ層3?5の凹凸を平滑化するために設けられる層である。本発明の平坦化層6は,低透過率部分6aと高透過率部分6bとからなり,高透過率部分6bは色変換フィルタ層3?5に対応する位置(すなわち,副画素の位置)に配置され,低透過率部分6aはそれ以外の位置である色変換フィルタ層3?5の間隙および周囲(すなわち副画素の間隙および周囲)に配置される。高透過率部分6bは90%以上の可視光透過率を有する。一方,低透過率部分6aは,90%以下,好ましくは50%以下の可視光透過率を有する。低透過率部分6aが副画素の間隙に配置されるので,1つの副画素の有機EL層22および/または色変換フィルタ層からの光(特に色変換層にて波長分布変換された光)が,平坦化層6を横方向に伝播して隣接する別個の色の副画素に到達してクロストークを発生することを防止することができる。 【0026】 平坦化層6を形成するための材料として,マトリクス樹脂と1種または複数種の感光剤とを含む感光性樹脂組成物を用いることができる。本発明の有機ELディスプレイパネルの製造工程の要件を考慮すると,ポジ型感光性樹脂組成物(光照射された領域が可溶化する)を用いることがより好ましい。用いられる感光剤は,光照射時にマトリクス樹脂の溶解性を変化(好ましくは増大)させる機能を有し,および光未照射時に可視光吸収性を有し,光照射後に可視光吸収性を失う化合物である。マトリクス樹脂は,アクリル樹脂,ポリオレフィン樹脂,シリコーン樹脂,またはフェノール樹脂(ノボラック樹脂など)などをベースとするポリマー材料である。感光剤がマトリクス樹脂の溶解性を増大させる機構としては,(1)光照射時に感光剤がマトリクス中の官能基と反応する化学種を発生させ,該化学種の反応によってマトリクス樹脂上に水可溶性,アルカリ可溶性または酸可溶性官能基が生成されること,(2)光未照射時に感光剤が溶解阻害剤として機能し,光照射時にその溶解阻害能を失うこと,などの種々の機構を挙げることができる。高透過率部分6bは,光照射により含有する感光剤が分解すること(フォトブリーチング)により形成されて可視光吸収性を失う領域であり,一方,低透過率部分6aは,感光剤が残存して,可視光吸収性が維持される領域である。 【0027】 あるいはまた,ポリマー鎖に結合した1種または複数種の感光性官能基を有する感光性樹脂を,平坦化層6を形成するための材料として用いることができる。前述の感光性官能基の少なくとも1種は,光照射時に分解してポリマー鎖に結合した水可溶性,アルカリ可溶性または酸可溶性官能基を生成する基である。他の感光性官能基は,光未照射時に可視光吸収性を有し,光照射後に可視光吸収性を失う基であることができる。本発明の目的においては,感光性官能基が可視光吸収性を有し,かつ光照射時の分解物およびポリマー鎖に残存する官能基のいずれもが可視光吸収性を有さないことが望ましい。 【0028】 上記の平坦化層形成材料は,熱硬化性を有することがさらに好ましい。後述するように,低透過率部分6aと高透過率部分6bとの選択的配置の後に熱硬化を行うことによって,それら部分の配置の固定および平坦化層全体としての形状の固定を行うことが可能となるからである。 【0029】 平坦化層6は,色変換フィルタ層3?5に起因する凹凸を平坦化することができ,かつ視野角依存性の観点から可能な限り薄い膜厚を有することが望ましい。通常の場合,色変換フィルタ層上面において0.5?2μmの膜厚を有することが望ましい。 【0030】 パッシベーション層7は,酸素,水分およびアルカリに対するバリア性を付加することによって光源として用いる有機EL発光体20の信頼性を向上させるための層である。パッシベーション層7は,たとえばSiO_(x),AlO_(x),TiO_(x),TaO_(x)またはZnO_(x)のような無機酸化物,SiN_(x)のような無機窒化物,あるいはSiN_(x)O_(y)のような無機酸窒化物を用いて形成することができる。パッシベーション層7の形成においては,密着性,膜厚の均質性および生産性の観点から,スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いることが好ましい。 【0031】 透明電極21は,有機EL層22に対して効率よく電子または正孔を注入することとともに,有機EL層22の発光波長域において透明であることが求められる。透明電極21は,波長400?800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。透明電極21は,透明導電性材料である,ITO(インジウム・スズ酸化物),IZO(インジウム・亜鉛酸化物),SnO_(2),ZnO_(2)などの導電性無機化合物を用いて形成することができる。透明電極21は,密着性,膜厚の均質性および生産性の観点から,スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いて形成するることが好ましい。 【0032】 透明電極21を陰極として用いる場合,有機EL層22と接触する部位にバッファ層を設けて電子注入効率を向上させることが好ましい。バッファ層としては,リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属,カリウム,カルシウム,マグネシウム,ストロンチウムなどのアルカリ土類金属,またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属,その他の金属との合金や化合物の極薄膜(10nm)を用いることができる。これらの仕事関数の小さい材料を用いることにより効率のよい電子注入を可能とし,さらに極薄膜とすることによりこれら材料による透明性低下を最低限とすることが可能となる。 【0033】 有機EL層22は,青色から青緑色領域の光を発する。本発明においては,有機EL層22は,少なくとも発光層を含み,必要に応じて,正孔注入層,正孔輸送層,電子輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有する。あるいはまた,正孔の注入および輸送の両方の機能を有する正孔注入輸送層,電子の注入および輸送の両方の機能を有する電子注入輸送層を用いてもよい。具体的には,下記のような層構成からなるものが採用される。 【0034】 (1)発光層 (2)正孔注入層/発光層 (3)発光層/電子注入層 (4)正孔注入層/発光層/電子注入層 (5)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子注入層 (6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層 (上記において,陽極は発光層または正孔注入層に接続され,陰極は発光層または電子注入層に接続される) 【0035】 上記各層の材料としては,公知のものが使用される。青色から青緑色の発光を得るためには,発光層中に,例えばベンゾチアゾール系,ベンゾイミダゾール系,べンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤,金属キレート化オキソニウム化合物,スチリルベンゼン系化合物,芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。有機EL層22の各構成層(バッファ層を含む)は,蒸着法を用いて形成することができる。 【0036】 反射電極23は,好ましくは可視光に対して80%以上の光反射率を有し,高反射率の金属(Al,Ag,Mo,W,Ni,Crなど),アモルファス合金(NiP,NiB,CrP,CrBなど)または微結晶性合金(NiAlなど)を用いて形成することができる。 【0037】 反射電極23を陽極として用いる場合,有機EL層22と接触する側に,仕事関数が大きなITO,IZOなどの導電性金属酸化物の層を有する積層構造として,正孔注入効率を向上させてもよい。 【0038】 一方,反射電極23を陰極として用いる場合,前述の高反射率金属,アモルファス合金または微結晶性合金に対して,仕事関数が小さい材料であるリチウム,ナトリウム,カリウム等のアルカリ金属,カリウム,カルシウム,マグネシウム,ストロンチウムなどのアルカリ土類金属を添加して合金化し,電子注入効率を向上させることができる。あるいはまた,前述のようなバッファ層を有機EL層22との界面に形成してもよい。反射電極23は,蒸着法,スパッタ法(反応性スパッタ法を含む),またはCVD法を用いて形成することができる。なお,透明導電性酸化物を用いる場合には,密着性,膜厚の均質性および生産性の観点から,スパッタ法(反応性スパッタ法を含む)を用いて積層することが好ましい。 【0039】 本発明において,透明電極21および反射電極23をそれぞれストライプ形状を有する複数の部分電極で構成し,透明電極21のストライプが延びる方向と反射電極23のストライプが延びる方向とを交差する方向(好ましくは,直交する方向)とすることによって,パッシブマトリクス駆動型有機EL発光体を形成してもよい。あるいはまた,透明電極21または反射電極23の一方を,TFT等のスイッチング素子と1対1に接続される複数の部分電極で構成し,他方を一体として形成される共通電極で構成することによってアクティブマトリクス型有機EL発光体を形成してもよい。」 イ 引用刊行物1に記載された発明 引用刊行物1の【0039】(前記ア(イ))には,駆動方式としてアクティブマトリクス駆動方式を採用した有機EL発光体20が記載されており,当該記載を含む前記ア(ア)及び(イ)から,引用刊行物1には,当該アクティブマトリクス駆動方式を採用した有機EL発光体20と色変換フィルタとから構成される有機ELディスプレイパネルの発明が記載されていると認められるところ,その構成は次のとおりである。 「色変換フィルタ10と,その上に設けられた有機EL発光体20とから構成され, 前記色変換フィルタ10は,透明基板1と,複数種の色変換フィルタ層である赤色変換フィルタ層3,緑色変換フィルタ層4及び青色変換フィルタ層5と,平坦化層6と,パッシベーション層7とを含み, 前記透明基板1は可視光(波長400?700nm)に対して透明であり, 前記赤色変換フィルタ層3及び前記緑色変換フィルタ層4は,色変換層と,該色変換層の出力側に設けられるカラーフィルタ層との積層体から形成され,前記青色変換フィルタ層5はカラーフィルタ層のみで構成され, 前記平坦化層6は,低透過率部分6aと高透過率部分6bとからなり,高透過率部分6bは色変換フィルタ層3?5に対応する位置に配置され,低透過率部分6aはそれ以外の位置である色変換フィルタ層3?5の間隙および周囲に配置され, 前記パッシベーション層7は,例えばSiO_(x),AlO_(x),TiO_(x),TaO_(x)またはZnO_(x)のような無機酸化物,SiN_(x)のような無機窒化物,あるいはSiN_(x)O_(y)のような無機酸窒化物を用いて形成された,酸素,水分及びアルカリに対するバリア性を付加するための層であり, 前記有機EL発光体20は,透明電極21,有機EL層22及び反射電極23が順次積層された構造を有し, 前記透明電極21は,透明導電性材料であるITO,IZO,SnO_(2),ZnO_(2)などの導電性無機化合物を用いて形成され, 当該透明電極21を陰極として用いるとともに,電子注入効率を向上させるために,有機EL層22と接触する部位に,リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属や,カリウム,カルシウム,マグネシウム,ストロンチウムなどのアルカリ土類金属からなる電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層を設け, 前記反射電極23は,高反射率の金属を用いて形成され,当該反射電極23を陽極として用い, 前記有機EL層22は,青色から青緑色領域の光を発するものであって, 正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層 なる層構成からなり,陽極である前記反射電極23が正孔注入層に接続され,陰極である透明電極21が電子注入層に接続され, 前記透明電極21または前記反射電極23の一方を,TFT等のスイッチング素子と1対1に接続される複数の部分電極で構成し,他方を一体として形成される共通電極で構成することによって,前記有機EL発光体20をアクティブマトリクス型有機EL発光体とした, 有機ELディスプレイパネル。」(以下,「引用発明」という。) (2)特開2009-16332号公報 ア 特開2009-16332号公報の記載 当審拒絶理由で引用した特開2009-16332号公報(当審拒絶理由における引用文献2。以下,「引用刊行物2」という。)は,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物2には次の記載がある。(下線は,後述する引用刊行物2記載の技術の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は,前述したような問題点を解決するために,画像を形成する光がカソードの方向に発光される場合に,共振構造の必要がない高い発光効率を有するトップエミッション型有機発光素子を提供する。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明の一側面によると,正孔を注入するアノード物質を含むアノードと,前記アノード上に形成された発光層を備える有機層と,前記有機層上に形成された前記有機層の発光層から発光された光が透過するカソードと,を備え,前記カソードは,金属酸化物からなる金属酸化物層,前記アノード物質より仕事関数の絶対値の小さな金属からなる金属層及びバッファ層を備える有機発光素子を提供する。 ・・・(中略)・・・ 【0012】 前記バッファ層は,有機双極子物質を含む。 【0013】 前記バッファ層は,フラーレン,金属含有フラーレン系錯体,カーボンナノチューブ,カーボンファイバー,カーボンブラック,グラファイト,カルビン,MgC60,SrC60,CaC60,C60,C70,MgO及びYbOからなる群から選択された一つ以上の物質を含む。 ・・・(中略)・・・ 【0018】 前記有機発光素子のバッファ層と金属層との間に電子注入層をさらに備える。このとき,前記電子注入層は,BaF_(2),LiF,NaF,MgF_(2),AlF_(3),CaF_(2),NaCl,CsF,Li_(2)O,BaO及びLiqからなる群から選択された一つ以上を含む。前記電子注入層の厚さは,10Å以下である。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0024】 本発明の発光装置によれば,トップエミッション型発光構造において,マイクロキャビティ構造を採用せずとも光取出効率を増大させ,駆動電圧を低めることができる。」 (イ)「【0037】 ところが,前記金属層41及び前記金属酸化物層42から形成されたカソード4は,背景技術で述べたように光取出効率が悪くなって,従来はマイクロキャビティ構造を用いた光共鳴が利用されてきた。 【0038】 しかし,電子注入効率は,バッファ物質を含むバッファ層43を有機層3と金属層41との間に介在させて増大させることができる。前記バッファ層43は双極子物質から形成することができる。さらに具体的には,有機双極子物質から形成された前記バッファ層43は,電子を引き寄せる。すなわち,前記カソード4,特に金属層41に電界をかけると,バッファ層43の分子が,一端は正の極性,他端は負の極性を帯びるので,電子をスムーズに注入することができる。これにより,正孔と電子との結合を促進することができる。この結果,マイクロキャビティ構造を使用しなくても発光効率を高めることができる。したがって,画像を形成するとともに,光効率を改善することができる。 【0039】 本発明によれば,トップエミッション型発光構造を製作する工程は,バッファ層43を形成することにより,単純化することができる。 【0040】 前記バッファ層43は,カーボン系化合物を含むことができる。さらに具体的には,前記バッファ層43は,フラーレン,金属含有フラーレン系錯体,カーボンナノチューブ,カーボンファイバー,カーボンファイバー,カーボンブラック,グラファイト,カルビン,MgC60,SrC60,CaC60,C60,C70,MgO及びYbOからなる群から選択された一つ以上を含むことができるが,これに限定されるものではない。 【0041】 前記バッファ層43の厚さは20Å以下,望ましくは,5Åないし20Åの範囲とすることができる。前記バッファ層43がこの範囲の厚さを有する場合,カソード4の光透過率及び抵抗特性が効果的に向上できる。」 (ウ)「【0062】 図4は,本発明のさらに他の実施形態による概略的断面図を示したものである。 【0063】 前述した一実施形態と同様に,基板1上にアノード2が形成され,このアノード2上に正孔注入層311及び正孔輸送層312を備える正孔注入輸送層31が形成されている。そして,正孔注入輸送層31上に発光層32が形成され,発光層32上に電子輸送層331が形成されている。 【0064】 この電子輸送層331上にバッファ層43が形成され,バッファ層43上に電子注入層332が形成される。そして,電子注入層332上に金属層41と金属酸化物層42とが順に形成される。」 イ 引用刊行物2に記載された技術的事項 前記ア(ア)ないし(ウ)から,引用刊行物2には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「有機発光素子において,有機双極子物質から形成されたバッファ層43を,電子輸送層331と電子注入層332の間に形成することによって,電子注入効率を増大させて発光効率を高め,駆動電圧を低くすること。」(以下,「引用刊行物2記載の技術」という。) (3)特開2006-114903号公報 ア 特開2006-114903号公報の記載 当審拒絶理由で引用した特開2006-114903号公報(当審拒絶理由における引用文献3。以下,「引用刊行物3」という。)は,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物3には次の記載がある。(下線は,後述する引用刊行物3記載の技術の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア)「【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 従って,本発明が解決しようとする第一の技術的課題は,前述の問題点を解決しつつ,発光材料の種類に関係なく,駆動電圧降下を介して消費電力が節減され,かつ寿命が向上した有機EL素子を提供することである。 ・・・(中略)・・・ 【課題を解決するための手段】 【0006】 上記諸目的は下記(1)?(32)により達成される。 【0007】 (1)第1電極と,前記第1電極の上部に形成された炭素系化合物を含むバッファ層と,前記バッファ層の上部に形成された発光層と,前記発光層の上部に形成された第2電極とを備えた有機電界発光素子。 ・・・(中略)・・・ 【0014】 (8)前記第1電極と前記発光層との間に正孔注入層が形成され,前記正孔注入層と発光層との間に正孔輸送層が備えられ,前記バッファ層は,前記第1電極と正孔注入層との間,正孔注入層と正孔輸送層との間,および正孔輸送層と発光層との間からなる群より選択されるの一箇所以上に備えられる(1)に記載の有機電界発光素子。 ・・・(中略)・・・ 【0020】 (14)前記炭素系化合物が,フラーレン,金属を含むフラーレン系錯化合物,炭素ナノチューブ,炭素ファイバ,カーボンブラック,黒鉛,カルベン,MgC60,CaC60,およびSrC60からなる群から選択された一種以上であることを特徴とする(1)に記載の有機電界発光素子。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0039】 本発明の有機EL素子は,フラーレンのような炭素系化合物を含むバッファ層を,第1電極と発光層との間に形成させて駆動電圧及び寿命特性を改善する。また例えばバッファ層の形成時などに,バッファ層の厚さを蒸着速度を制御するなどして調節し,有機EL素子の効率及び寿命の向上をさらに極大化させる。 【0040】 特に,本発明の有機EL素子は,i)フラーレンのような炭素系化合物を含むバッファ層を第1電極と正孔注入層との間,正孔注入層と正孔輸送層との間,及び/または第1電極と正孔輸送層との間に形成し,ii)これと同時に,前記炭素系化合物を正孔注入層及び/または正孔輸送層にドーピングし,iii)電子輸送層の形成時に,炭素系化合物をドーピングし,iv)電子輸送層の形成時に,炭素系化合物をドーピングした場合には,青色,緑色及び赤色のいずれの場合にも,色座標特性にほとんど影響を与えずに,駆動電圧を降下することができ,寿命特性は向上される。」 (イ)「【発明を実施するための最良の形態】 【0041】 以下,本発明をさらに詳細に説明する。 【0042】 本発明による第1の有機EL素子は,第1電極と第2電極との間に発光層を備え,前記第1電極と発光層との間に,炭素系化合物を含むバッファ層を備える構造である。 ・・・(中略)・・・ 【0045】 また,前記有機EL素子は,第1電極と発光層との間に,正孔注入層と正孔輸送層とを順次にさらに備えることができ,かかる場合,前記バッファ層は,第1電極と正孔注入層との間,正孔注入層と正孔輸送層との間,または正孔輸送層と発光層との間の少なくとも一方に備えられうる。 【0046】 前記のように,第1電極と発光層との間に,炭素系化合物を含むバッファ層を備えることにより,薄膜状態でモフォロジの変化がほとんどなく,有機EL素子の色座標特性には影響を与えずに,同時に,第1電極(アノード)に使われるITO(Indium Tin Oxide)電極と正孔注入層との間の界面エネルギーバンドギャップを変形し,ITO電極から正孔注入層への正孔注入をさらに容易にし,駆動電圧を下げることが可能になる。また,第1電極として使われるITO電極と正孔注入層との界面に安定したバッファ層として作用し,有機EL素子の長寿命化が可能になる。 【0047】 前記のバッファ層の厚さは,0.1nmから100nmであり,望ましくは,1nmから10nm,最も望ましくは,5nmから8nmである。もし,バッファ層の厚さが0.1nm未満ならば,有機EL素子の特性向上効果が微小であり,100nmを超過すれば寿命,コントラストのような有機EL素子の特性は向上されるが,駆動電圧の降下幅は,飽和されるか,または電圧利得の幅が減少して望ましくない。 【0048】 本発明の有機EL素子は,前述のように,これを構成する膜の界面特性を調節するために,フラーレンのような炭素系化合物を含むバッファ層を第1電極と正孔注入層との間,正孔注入層と正孔輸送層との間,及び/または第1電極と正孔輸送層との間に形成することが好ましい。また,正孔注入層及び/または正孔輸送層に,前記炭素系化合物をドーピングしたものを用いてもよい。また,電子輸送層に,炭素系化合物をドーピングしたものを用いてもよい。また,電子輸送層に炭素系化合物をドーピングしたものを用いてもよい。 【0049】 前記炭素系化合物は,特別に制限されるものではないが,炭素同素体であり,炭素原子数は60から500の炭素材料であることが好ましく,金属を含む炭素系化合物,すなわち炭素系の錯化合物も含む。本発明で使用する炭素系化合物の例として,フラーレン,金属を含むフラーレン系の錯化合物,炭素ナノチューブ,炭素ファイバ,カーボンブラック,黒鉛,カルベン,MgC60,CaC60,SrC60からなる群から選択された一つ以上を使用し,その中でも,図6のような構造を有するフラーレンを使用することが望ましい。 【0050】 前記フラーレンは,バックミンスターフラーレンまたはバッキーボール(Bucky ball)とも呼ばれ,真空装置の中で強力なレーザを黒鉛に当てるときに,炭素が黒鉛表面から離れて出てきて,新しい結合をなして作られる。代表的には,炭素原子60個(C60)からなるC60分子があり,それ以外にC70,C76,C84などがある。」 (ウ)「【0052】 図1から図5は,本発明の望ましい一実施例による有機EL素子の積層構造を概略的に表した図面である。ただし,本発明はこれらの図に限定されない。 ・・・(中略)・・・ 【0054】 図2の有機EL素子は,第1電極10の上部に正孔注入層11と正孔輸送層16とが順次に積層され,前記正孔輸送層16の上部に発光層12と第2電極13とが順次に積層され,前記正孔注入層11と正孔輸送層16との間には,炭素系化合物を含むバッファ層14が形成される。図示されていないが,第1電極10は基板上に形成されることが好ましい。」 イ 引用刊行物3に記載された技術的事項 前記ア(ア)ないし(ウ)から,引用刊行物3には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「有機電界発光素子において,C60を含むバッファ層を,正孔注入層と正孔輸送層との間に形成することによって,正孔注入を容易にし,駆動電圧及び寿命特性を改善すること。」(以下,「引用刊行物3記載の技術」という。) (4)特開2008-34367号公報 ア 特開2008-34367号公報の記載 当審拒絶理由で引用した特開2008-34367号公報(当審拒絶理由における引用文献5。以下,「引用刊行物4」という。)は,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物4には次の記載がある。(下線は,後述する引用刊行物4記載の技術的事項の認定に特に関係する箇所を示す。) (ア)「【技術分野】 【0001】 本発明は,表示装置における画素部の構成に関する。 【背景技術】 【0002】 近年,従来のブラウン管に比べ,薄型,軽量化を図った表示装置,いわゆるフラットパネルディスプレイについて開発が進められている。フラットパネルディスプレイの代表例としては,液晶表示装置が知られている。また,新たなフラットパネルディスプレイとして,エレクトロルミネセンス素子(EL素子)を利用した表示装置の開発が進められている。 ・・・(中略)・・・ 【0004】 また,EL素子は一対の電極間にエレクトロルミネセンス材料を挟んだ構造を備えている。EL素子は一対の電極間に電圧を印加することで発光する。このEL素子で画素を形成することで表示装置を構成することができる。」 (イ)「【0031】 (実施の形態2) 本実施の形態では,実施の形態1で示した複合材料を,発光装置が有する発光素子の電極として用いた場合について説明する。 【0032】 本発明を適用した発光装置の一態様について図1?図2を用いて説明する。図2は発光装置を示す上面図であり,図1は図2をA-A’で切断した断面図である。 【0033】 図1において,点線で囲まれているのは,発光素子115を駆動するために設けられているトランジスタ114である。発光素子115は,第1の電極111と第2の電極113との間にEL層112を有する。トランジスタ114のソース電極またはドレイン電極の一方と第1の電極111とは,第1層間絶縁膜106(106a,106b)を貫通している配線108,109によって電気的に接続されている。また,発光素子115は,隔壁層110によって,隣接して設けられている別の発光素子と分離されている。このような構成を有する本発明の発光装置は,本形態においては,基板101上に下地膜102が形成され,その上に設けられている。なお,下地膜は,基板からの不純物の拡散が起こらない場合には,必ずしも設けなくてもよい。 【0034】 なお,図1に示されたトランジスタ114は,半導体層を中心として基板と逆側にゲート電極が設けられたトップゲート型のものである。但し,トランジスタ114の構造については,特に限定はなく,例えばボトムゲート型のものでもよい。またボトムゲートの場合には,チャネルを形成する半導体層の上に保護膜が形成されたもの(チャネル保護型)でもよいし,或いはチャネルを形成する半導体層の一部が凹状になったもの(チャネルエッチ型)でもよい。なお,トランジスタ114は,ゲート電極105,ゲート絶縁膜104,半導体層103を有している。 【0035】 また,トランジスタ114を構成する半導体層は,結晶性,非結晶性のいずれのものでもよい。また,セミアモルファス等でもよい。 【0036】 なお,セミアモルファスな半導体とは,次のようなものである。・・・(中略)・・・ 【0037】 また,半導体層が結晶性のものの具体例としては,単結晶または多結晶性の珪素,或いはシリコンゲルマニウム等から成るものが挙げられる。これらはレーザー結晶化によって形成されたものでもよいし,例えばニッケル等を用いた固相成長法による結晶化によって形成されたものでもよい。 【0038】 なお,半導体層が非晶質の物質,例えばアモルファスシリコンで形成される場合には,トランジスタ114およびその他のトランジスタ(発光素子を駆動するための回路を構成するトランジスタ)は全てNチャネル型トランジスタで構成された回路を有する発光装置であることが好ましい。それ以外については,Nチャネル型またはPチャネル型のいずれか一のトランジスタで構成された回路を有する発光装置でもよいし,両方のトランジスタで構成された回路を有する発光装置でもよい。」 イ 引用刊行物4に記載された技術的事項 前記ア(ア)及び(イ)から,引用刊行物4には次の技術的事項が記載されていると認められる。 「一対の電極間にエレクトロルミネセンス材料を挟んだ構造を備えるエレクトロルミネセンス素子を利用した表示装置において,前記一対の電極の一方と接続されて,前記エレクトロルミネセンス素子を駆動するトランジスタには,その半導体層が結晶性,非結晶性,セミアモルファスのいずれのものを用いてもよく,例えば,アモルファスシリコンで形成されたものを用いることができること。」(以下,「引用刊行物4記載の技術的事項」という。) 5 対比 (1)引用発明の「透明基板1」,「透明電極21」,「反射電極23」,「有機EL発光体20」,「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層」,「電子注入層」,「発光層」,「正孔注入層」,「正孔輸送層」及び「有機ELディスプレイパネル」は,本願発明の「基板本体」,「透明電極」,「反射電極」,「有機発光素子」,「電子注入用金属層」,「電子注入層」,「発光部」,「正孔注入層」,「正孔輸送層」及び「有機発光表示装置」にそれぞれ相当する。 (2)引用発明は「透明基板1」(基板本体)を有している。 また,引用発明の「透明電極21」の有機EL層22と接触する部位には,リチウム,ナトリウム等のアルカリ金属や,カリウム,カルシウム,マグネシウム,ストロンチウムなどのアルカリ土類金属からなる「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層」(電子注入用金属層)が設けられているところ,引用発明における「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層と有機EL層22とから構成される層構成」が,本願発明の「有機発光層」に相当する。 また,引用発明の透明電極21は陰極として用いられ,反射電極23は陽極として用いられるところ,引用発明の「陰極として用い」た「透明電極21」は,本願発明の「電子を注入する透明電極」に相当し,引用発明の「陽極として用い」た「反射電極23」は,本願発明の「正孔を注入する反射電極」に相当する。 また,引用発明の「TFT」は,本願発明の「非晶質シリコン薄膜トランジスタ」と薄膜トランジスタである点で一致する。そして,引用発明において,当該「TFT」は「透明電極21」(透明電極)と「反射電極23」(反射電極)のいずれか一方と接続されるところ,TFTと接続した「透明電極」は,本願発明の「非晶質シリコン薄膜トランジスタと接続して電子を注入する透明電極」と,「薄膜トランジスタと接続して電子を注入する透明電極」である点で一致する。 さらに,引用発明の「有機EL発光体20」(有機発光素子)は,「陰極として用い」た「透明電極21」(電子を注入する透明電極),「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層と有機EL層22とから構成される層構成」(有機発光層)及び「陽極として用い」た「反射電極23」(正孔を注入する反射電極)が順次積層されたものであるから,引用発明は,本願発明の「電子を注入する透明電極と前記透明電極上に形成された有機発光層と前記有機発光層上に形成されて正孔を注入する反射電極とを有する有機発光素子」を含むという発明特定事項に相当する構成を具備している。 したがって,引用発明と本願発明は,「基板本体と,薄膜トランジスタと,前記薄膜トランジスタと接続して電子を注入する透明電極と前記透明電極上に形成された有機発光層と前記有機発光層上に形成されて正孔を注入する反射電極とを有する有機発光素子と,を含」む点で一致する。 (3)引用発明の有機EL層22の層構成は,正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層であるから,引用発明の「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層と有機EL層22とから構成される層構成」(有機発光層)は,「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層」(電子注入用金属層),「電子注入層」(電子注入層),「発光部」(発光部),「正孔注入層」(正孔注入層)及び「正孔輸送層」(正孔輸送層)を含んでいる。 そして,前記「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層」(電子注入用金属層)と前記「電子注入層」からなる層構成を「電子注入部」ということができ,前記「正孔注入層」(正孔注入層)を「正孔注入部」ということができるところ,前記「電子注入部」は「透明電極21」(透明電極)上に形成され,「発光部」(発光部)は前記「電子注入部」上に形成され,前記「正孔注入部」は「発光部」(発光部)と「反射電極23」(反射電極)との間に配置され,「正孔輸送層」(正孔輸送層)は前記「正孔注入部」と「発光部」(発光部)との間に配置されているから,引用発明の「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層と有機EL層22とから構成される層構成」と本願発明の「有機発光層」は,「電子注入用金属層と電子注入層とを含み前記透明電極上に形成された電子注入部と,前記電子注入部上に形成された発光部と,を含み,前記有機発光層は,正孔注入層を含み,前記発光部と前記反射電極との間に配置された正孔注入部を含み,前記正孔注入部と前記発光部との間に配置された正孔輸送層をさらに含」む点で一致する。 (4)前記(1)ないし(3)のとおりであるから,本願発明と引用発明とは, 「基板本体と, 薄膜トランジスタと, 前記薄膜トランジスタと接続して電子を注入する透明電極と前記透明電極上に形成された有機発光層と前記有機発光層上に形成されて正孔を注入する反射電極とを有する有機発光素子と,を含み, 前記有機発光層は,電子注入用金属層と電子注入層とを含み前記透明電極上に形成された電子注入部と,前記電子注入部上に形成された発光部と,を含み, 前記有機発光層は,正孔注入層を含み,前記発光部と前記反射電極との間に配置された正孔注入部を含み, 前記正孔注入部と前記発光部との間に配置された正孔輸送層をさらに含む有機発光表示装置。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本願発明の電子注入部が,電子注入用双極子層(dipole layer)を有しているのに対して, 引用発明の電子注入部は,そのような層を有していない点。 相違点2 本願発明の正孔注入部が,正孔輸送層と正孔注入層との間に位置する正孔注入用双極子層を有しているのに対して, 引用発明の正孔注入部は,そのような層を有していない点。 相違点3: 透明電極と接続される薄膜トランジスタについて, 本願発明では,非晶質シリコン薄膜トランジスタを用い,その形成位置が基板本体上であるのに対して, 引用発明では,その具体的構成については特定されておらず,また,その位置も特定されていない点。 6 判断 (1)相違点1の容易想到性について ア 前記4(2)イで認定した引用刊行物2記載の技術を再掲すると,引用刊行物2には,「有機発光素子において,有機双極子物質から形成されたバッファ層43を,電子輸送層331と電子注入層332の間に形成することによって,電子注入効率を増大させて発光効率を高め,駆動電圧を低くすること。」が記載されているところ,引用発明においても,電子注入効率を増大させて発光効率を高め,駆動電圧を低くしたほうが望ましいことは,当業者に自明である。 しかるに,引用発明の「電子輸送層」は前記引用刊行物2記載の技術における「電子輸送層331」に該当し,引用発明の「電子注入層」は前記引用刊行物2記載の技術における「電子注入層332」に該当するから,引用発明において,電子注入効率を増大させて発光効率を高め,駆動電圧を低くするために,電子輸送層と電子注入層との間に,引用刊行物2記載の技術の「有機双極子物質から形成されたバッファ層43」を設けることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イ 前記アで述べた「有機双極子物質から形成されたバッファ層43」は,本願発明の「電子注入用双極子層(dipole layer)」に相当し,引用発明における「電子注入性の金属の極薄膜であるバッファ層」(電子注入用金属層)と「電子注入層」(電子注入層)と「有機双極子物質から形成されたバッファ層43」(電子注入用双極子層)とを併せて「電子注入部」ということができるから,引用発明において前記アで述べた構成の変更を行うことは,引用発明を相違点1に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることにほかならない。 したがって,引用発明を,相違点1に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2の容易想到性について ア 前記4(3)イで認定した引用刊行物3記載の技術を再掲すると,引用刊行物3には,「有機電界発光素子において,C60を含むバッファ層を,正孔注入層と正孔輸送層との間に形成することによって,正孔注入を容易にし,駆動電圧及び寿命特性を改善すること。」が記載されているところ,引用発明においても,正孔注入を容易にし,駆動電圧及び寿命特性を改善したほうが望ましいことは,当業者に自明である。 しかるに,引用発明の「正孔注入層」は前記引用刊行物3記載の技術における「正孔注入層」に該当し,引用発明の「正孔輸送層」は前記引用刊行物3記載の技術における「正孔輸送層」に該当するから,引用発明において,正孔注入を容易にし,駆動電圧及び寿命特性を改善するために,正孔輸送層と正孔注入層との間に,引用刊行物3記載の技術の「C60を含むバッファ層」を設けることは,当業者が容易に想到し得たことである。 イ 本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明の実施形態における「正孔注入用双極子層」に関して, 「【0069】 正孔注入用双極子層7251は,C60(Fullerene),F16CuPc(Fluorinated Copper-phthalocyanine),TCNQ(Tetracyanoquinodimethane),TCNNQ(11,11,12,12-tetracyano-1,4-naphthaquinodimethane),PTCDI(perylene tetracarboxylic diimide) ,NTCDI(1,4;5,8-naphthalene-tetracarboxylic diimide),及びNTCDA(1,4,5,8-Naphthalene-tetracarboxylic-dianhydride)のいずれか一つ以上を含むことができる。 【0070】 また,正孔注入用双極子層7251は,双極子特性を有する金属酸化膜を含むこともできる。双極子特性を有する金属酸化膜は,酸化モリブデン(molybdenum oxide),酸化タングステン(tungsten oxide),酸化バナジウム(vanadium oxide),酸化レニウム(rhenium oxide),及び酸化ルテニウム(ruthenium oxide)のいずれか一つ以上を含む。」 と記載されているところ,C60(Fullerene)を含む層であって,正孔注入という作用,機能を有する層は,本願発明の「正孔注入用双極子層」に包含されると解される。 ウ 前記アで述べた「C60を含むバッファ層」は,C60(Fullerene)を含む層であって,正孔注入を容易にする作用,機能を有しているのだから,前記イからみて,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明における「C60を含むバッファ層」は,本願発明の「正孔注入用双極子層」に相当し,前記構成の変更を行った引用発明における当該「C60を含むバッファ層」が正孔輸送層と正孔注入層との間に設けられたことが,本願発明の「正孔注入用双極子層は,前記正孔輸送層と前記正孔注入層との間に配置された」ことに相当し,前記アで述べた構成の変更を行った引用発明における「正孔注入層」と前記「C60を含むバッファ層」とを併せて「正孔注入部」ということができる。 したがって,引用発明において前記アで述べた構成の変更を行うことは,引用発明を相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることにほかならない。 よって,引用発明を,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 (3)相違点3の容易想到性について ア 前記4(4)イで認定した引用刊行物4記載の技術的事項を再掲すると,引用刊行物4には,「一対の電極間にエレクトロルミネセンス材料を挟んだ構造を備えるエレクトロルミネセンス素子を利用した表示装置において,前記一対の電極の一方と接続されて,前記エレクトロルミネセンス素子を駆動するトランジスタには,その半導体層が結晶性,非結晶性,セミアモルファスのいずれのものを用いてもよく,例えば,アモルファスシリコンで形成されたものを用いることができること。」が記載されているところ,引用発明の有機ELディスプレイパネルは,透明電極21,有機EL層22及び反射電極23が順次積層された構造を有する有機EL発光体20を利用した表示装置であって,前記引用刊行物4記載の技術的事項における「一対の電極間にエレクトロルミネセンス材料を挟んだ構造を備えるエレクトロルミネセンス素子を利用した表示装置」に該当し,前記透明電極21または前記反射電極23の一方が接続された引用発明の「TFT」は,前記引用刊行物4記載の技術的事項における「エレクトロルミネセンス素子を駆動するトランジスタ」に該当する。 そうすると,引用刊行物4記載の技術的事項からみて,引用発明において,スイッチング素子として用いる「TFT」として,半導体層が結晶性,非結晶性,セミアモルファスのいずれのタイプのものを用いるのかは,それぞれのタイプのトランジスタを用いることによるメリット,デメリットを総合的に勘案した上で,当業者が適宜決定すれば足りる設計事項にすぎないと認められるから,引用発明の「TFT」として,前記引用刊行物4記載の技術的事項において例示された,半導体層がアモルファスシリコンで形成されたTFT(すなわち「非晶質シリコン薄膜トランジスタ」。なお,半導体層の材質としてシリコンは最も一般的なものである。)を用いることは,当業者が容易になし得たことである。 なお,前記(1)アで述べた構成の変更及び前記(2)アで述べた構成の変更を行った引用発明においては,発光効率が改善され,駆動電圧が低下し,寿命特性が改善されるのだから,TFTとして非晶質シリコン薄膜トランジスタを用いることによるデメリットである有機EL発光体20の効率及び耐久性の低下が,非晶質シリコン薄膜トランジスタを採用すること(すなわち,引用刊行物4の【0038】に記載されているように,他のトランジスタも含めて全トランジスタをNチャネル型トランジスタにすること)の阻害要因とならないことは明らかである。 イ 「TFT」が,引用発明における層構成中でどの位置に設けられるのかについて,引用刊行物1に明記はないものの,「透明基板1」上の層構成中のいずれかの位置に設けられることは明らかである。(なお,例えば,特開2008-59824号公報(特に,【0030】及び【0031】の「薄膜トランジスタ6?10」に関する記載及び図1を参照。),特開2006-202709号公報(特に,【0018】ないし【0022】の「薄膜有機トランジスタ4」に関する記載及び図1を参照。),特開2004-139798号公報(特に,【0238】ないし【0243】の「薄膜トランジスタ220」に関する記載及び図3を参照。)の記載からみて,色変換層やカラーフィルタ層を用いて3原色の光を出射する有機EL素子を利用した表示装置においては,色変換層やカラーフィルタ層上あるいは当該色変換層やカラーフィルタ層上に形成したパッシベーション層上にTFTを形成することが,一般的であったと認められるから,技術的観点からは,引用発明においてはTFTをパッシベーション層7上に形成するのが自然であると考えられる。) しかるに,本願の請求項1では,「非晶質シリコン薄膜トランジスタ」の形成位置については,「基板本体上に形成された」と規定されているのみであって,基板本体上に直接形成されていると規定されているわけではないこと,及び,本願明細書の発明の詳細な説明の【0044】には,本願発明の実施形態に関して,「また,図示していないが,基板本体111とゲート電極121との間にバッファ層を形成することができる。一例として,バッファ層は,窒化ケイ素(SiNx)の単一膜,または窒化ケイ素(SiNx)と酸化ケイ素(SiO_(2))が積層された二重膜構造に形成することができる。バッファ層は,不純元素または水分のように不必要な成分の浸透を防止し,表面を平坦化する役割を果たすことができる。」と記載されていて,基板本体と薄膜トランジスタの間に,別の層(バッファ層)が介在しても良いことが説明されていることから,本願発明の「基板本体上に形成された非晶質シリコン薄膜トランジスタ」なる発明特定事項が,基板本体上に直接形成された非晶質シリコン薄膜トランジスタばかりでなく,基板本体上に別の層を介して間接的に形成された非晶質シリコン薄膜トランジスタをも包含する概念であることは明らかである。 そうすると,引用発明の「透明基板1」(基板本体)上の層構成中のいずれかの位置に設けられた「TFT」は,本願発明の「非晶質シリコン薄膜トランジスタ」に係る「基板本体上に形成された」という発明特定事項に相当する構成を具備していると認められ,相違点3のうちの薄膜トランジスタの形成位置については実質的な相違点とはならない。 ウ 前記ア及びイのとおりであるから,引用発明を,相違点3に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。 (4)効果について 本願発明の奏する効果は,引用刊行物1ないし4の記載に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。 (5)まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用刊行物2記載の技術,引用刊行物3記載の技術及び引用刊行物4記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 本願発明は,引用発明,引用刊行物2記載の技術,引用刊行物3記載の技術及び引用刊行物4記載の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,当審拒絶理由によって拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-02-24 |
結審通知日 | 2015-03-03 |
審決日 | 2015-03-16 |
出願番号 | 特願2010-160685(P2010-160685) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 越河 勉 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
西村 仁志 清水 康司 |
発明の名称 | 有機発光表示装置 |
代理人 | 八田国際特許業務法人 |