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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1303793
審判番号 不服2014-13597  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-11 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2012-267298「パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法、並びに、銅部材接合用ペースト」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月 9日出願公開、特開2013-179263〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成24年12月6日(優先権主張 平成24年2月1日)の出願であって、平成25年9月2日付けで手続補正がなされ、同年11月8日付け拒絶理由通知に対して平成26年1月10日付けで手続補正がなされたが、同年4月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月11日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。


第2 平成26年7月11日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年7月11日付の手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明
平成26年7月11日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、

「【請求項1】
セラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に窒化物層が形成されているとともに、前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層が形成され、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さが14μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記セラミックス基板は、AlN又はSi_(3)N_(4)のいずれかで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記窒化物層は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の窒化物を含有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項6】
セラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、窒化物形成元素の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされた組成のAg及び窒化物形成元素層を形成するAg及び窒化物形成元素層形成工程と、
このAg及び窒化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内の真空雰囲気下で、加熱温度を790℃以上850℃以下の範囲内とし、前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に1?35kgf/cm^(2)で加圧し、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層を形成し、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さを14μm以下とすることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
前記窒化物形成元素は、Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素であることを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
前記Ag及び窒化物形成元素層形成工程では、Ag及び窒化物形成元素以外に、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素を配設させることを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項9】
前記Ag及び窒化物形成元素層形成工程では、Ag及び窒化物形成元素を含有する銅部材接合用ペーストを塗布することを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項10】
前記銅部材接合用ペーストは、前記窒化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項9に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項11】
請求項9または請求項10に記載のパワーモジュール用基板の製造方法で使用される銅部材接合用ペーストであって、
Ag及び窒化物形成元素を含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含むことを特徴とする銅部材接合用ペースト。」
とあったところを、

「【請求項1】
AlNからなるセラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面にTi、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の窒化物を含有する窒化物層が形成されているとともに、前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層が形成され、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さが14μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
請求項1に記載のパワーモジュール用基板と、このパワーモジュール用基板を冷却するヒートシンクと、を備えたことを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
請求項1に記載のパワーモジュール用基板と、該パワーモジュール用基板上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。
【請求項4】
AlNからなるセラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記セラミックス基板の接合面及び前記銅板の接合面のうち少なくとも一方に、窒化物形成元素であるTi、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物とされた組成の粉末成分を含む銅部材接合用ペーストを塗布して乾燥させることによりAg及び窒化物形成元素層を形成するAg及び窒化物形成元素層形成工程と、
このAg及び窒化物形成元素層を介して前記セラミックス基板と前記銅板と積層する積層工程と、
積層された前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記セラミックス基板と前記銅板との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程と、
この溶融金属領域を凝固させることによって、前記セラミックス基板と前記銅板とを接合する凝固工程と、を有し、
前記加熱工程において、10^(-6)Pa以上10^(-3)Pa以下の範囲内の真空雰囲気下で、加熱温度を790℃以上850℃以下の範囲内とし、前記セラミックス基板と前記銅板を積層方向に1?35kgf/cm^(2)で加圧し、Agを前記銅板側に拡散させることにより前記セラミックス基板と前記銅板との界面に前記溶融金属領域を形成するとともに、前記セラミックス基板の表面に窒化物層を形成し、
前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層を形成し、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さを14μm以下とすることを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項5】
前記Ag及び窒化物形成元素層形成工程では、前記銅部材接合用ペーストに代えて、窒化物形成元素の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素が0質量%以上50質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物(但し、Agの含有量は25質量%以上)とされた組成の粉末成分を含む銅部材接合用ペーストを用いることを特徴とする請求項4に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項6】
前記銅部材接合用ペーストは、前記窒化物形成元素の水素化物を含有していることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板の製造方法で使用される銅部材接合用ペーストであって、
Ag及び窒化物形成元素を含む粉末成分と、樹脂と、溶剤と、を含むことを特徴とする銅部材接合用ペースト。」
とするものである。


2.補正の目的要件について

補正された請求項1に係る発明は、補正前の請求項3に、セラミック基板が「AlNからなる」ことを限定するものである。ここで、補正前の請求項1及び2は削除された。
補正された請求項4に係る発明は、補正前の請求項7に、セラミック基板が「AlNからなる」こと、Ag及び窒化物形成元素層形成工程において「粉末成分を含む銅部材接合ペーストを塗布して乾燥させる」こと、加熱工程において「セラミック基板の表面に窒化物層を形成する」ことを限定するものである。ここで、補正前の請求項6は削除された。
補正された請求項5に係る発明は、補正前の請求項8に、Ag及び窒化物形成元素層形成工程において「窒化物形成元素の含有量が0.4質量%以上75質量%以下とされ、In、Sn、Al、Mn及びZnから選択される1種又は2種以上の添加元素が0質量%以上50質量%以下とされ、残部がAg及び不可避不純物(但し、Agの含有量は25質量%以上)とされた組成の粉末成分を含む銅部材接合用ペーストを用いる」ことを限定するものである。
また、補正前の請求項9は削除された。
よって、本件補正は、補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、それに合わせて請求項を一部削除するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号及び第2号に掲げる特許請求の範囲の削除及び減縮を目的とするものに該当する。


3.独立特許要件について

本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下検討する。

(1)補正後の発明
補正後の発明は、上記「1.補正後の本願発明」の項で認定したとおりであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】
AlNからなるセラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面にTi、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の窒化物を含有する窒化物層が形成されているとともに、前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層が形成され、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さが14μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」


(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2010-114469号公報(以下「引用例」という。)には、「セラミック回路基板および半導体モジュール」の発明に関し、図面とともに以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

ア.「【0002】
近年、パワーモジュール用基板やスイッチングモジュール用基板等の回路基板として、セラミック基板上に被着させたメタライズ金属層に銀-銅合金等のロウ材を介して銅等から成る金属回路板を接合させたセラミック回路基板や、セラミック基板上に銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウムあるいはその水素化物を添加した活性金属ロウ材を介して銅等から成る金属回路板を直接接合させたセラミック回路基板、あるいはセラミック基板上に銅板を載置して加熱し、セラミック基板と銅板とを直接接合させた、いわゆるDBC(Direct Bond Copper)法によって作製されたセラミック回路基板が用いられている。」

イ.「【0016】
図1は本発明のセラミック回路基板の実施の形態の一例を示す断面図であり、1はセラミック基板、2は活性金属ロウ材(第1のロウ材)、3は金属回路板、4はセラミック基板1の貫通孔、5は金属柱、6はロウ材(第2のロウ材)である。このセラミック回路基板は、セラミック基板1の上下両面に所定パターンの金属回路板3が活性金属ロウ材2を介して取着されており、同時にセラミック基板1に設けた厚み方向に貫通する貫通孔4内に金属柱5がその両端面をロウ材6を介して金属回路板3に接合されて配置されているものである。」

ウ.「【0018】
貫通孔4を有するセラミック基板1は、酸化アルミニウム質焼結体・ムライト質焼結体・窒化珪素質焼結体・窒化アルミニウム質焼結体・炭化珪素質焼結体等の電気絶縁材料で形成されている。例えば、窒化珪素質焼結体から成る場合であれば、窒化珪素・酸化アルミニウム・酸化マグネシウム・酸化イットリウム等の原料粉末に適当な有機バインダ・可塑剤・溶剤を添加混合して泥漿状となすとともに、この泥漿物に従来周知のドクターブレード法やカレンダーロール法を採用することによってセラミックグリーンシート(セラミック生シート)を形成し、次にこのセラミックグリーンシートに適当な打ち抜き加工を施して所定形状となすとともに、必要に応じて複数枚を積層して成形体となし、しかる後、これを窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気中にて1600?2000℃の温度で焼成することによって製作される。」

エ.「【0020】
金属回路板3は、銅から成る場合はこれを無酸素銅で形成しておくと、無酸素銅は活性金属ロウ材2を介して取着する際に銅の表面が銅中に存在する酸素により酸化されることなく活性金属ロウ材2との濡れ性が良好となるので、金属回路板3のセラミック基板1への活性金属ロウ材2を介しての取着接合が強固となる。従って、金属回路板3は、銅から成る場合はこれを無酸素銅で形成しておくことが好ましい。」

オ.「【0034】
まず、活性金属ロウ材2は、例えば金属回路板3が銅から成る場合であれば、銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウム等の金属もしくはその水素化物を2?5重量%添加させたものに有機溶剤・溶媒を混合して活性金属ロウ材ペーストを作製し、次にセラミック基板1の上下両面にこの活性金属ロウ材ペーストを従来周知のスクリーン印刷法を採用することによって約10?40μmの厚みで所定パターンに印刷塗布する。
【0035】
次に、セラミック基板1の貫通孔4内にロウ材6付き金属柱5を挿入配置するとともに、セラミック基板1の上下両面に印刷塗布されている活性金属ロウ材ペースト上に金属回路板3を載置し、しかる後、これを真空中もしくは中性または還元雰囲気中にて、所定温度(銅の場合は約900℃)で加熱処理し、活性金属ロウ材ペーストおよびロウ材6付き金属柱5の両端面に被着されたロウ材6を溶融せしめ、溶融した活性金属ロウ材2でセラミック基板1と金属回路板3を、ロウ材6で金属回路板3と金属柱5とを接合させる。」


・上記アによれば、引用例は、パワーモジュール用基板に関するものである。

・上記ア、イ、及び図1によれば、セラミック基板の上面に、銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウムを添加した活性金属ロウ材を介し、銅からなる金属回路板を接合させたものである。

・上記ウによれば、セラミック基板は窒化アルミニウムからなるものである。

・上記エによれば、金属回路板は無酸素銅からなるものである。

・上記オによれば、セラミック基板と金属回路板との間に、活性金属ロウ材を10?40μmの厚みで塗布し、所定温度で加熱することにより溶融させ、活性金属ロウ材を介してセラミック基板と金属回路板とは接合されるのであるから、セラミック基板の上面に活性金属ロウ材が積層され、その上に金属回路基板が積層されているものである。


したがって、上記摘示事項及び図面を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「窒化アルミニウムからなるセラミック基板の上面に無酸素銅からなる金属回路基板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記金属回路基板と前記セラミックス基板との間に、厚さ10?40μmの銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウムを添加した活性金属ロウ材を塗布し、所定温度で加熱し接合させたパワーモジュール用基板。」


(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「窒化アルミニウムからなるセラミック基板」および「無酸素銅からなる金属回路基板」は、本願補正発明の「AlNからなるセラミックス基板」および「無酸素銅からなる銅板」に相当する。また、引用発明の「セラミック基板の上面」は、本願補正発明の「セラミックス基板の表面」に相当する。

b.引用発明の「前記金属回路基板と前記セラミックス基板との間に・・・活性金属ロウ材を塗布し、所定温度で加熱し接合」は、該ロウ材に銀-銅共晶合金を含んでおり、加熱した後も銀-銅共晶合金は存在するから、本願補正発明の「前記銅板と前記セラミックス基板との間において・・・Ag-Cu共晶組織層が形成」に相当するものである。

よって、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、また、一応の相違点が認められる。

(一致点)
「AlNからなるセラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、Ag-Cu共晶組織層が形成されていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」

(相違点1)
本願補正発明は「セラミックス基板の表面にTi、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の窒化物を含有する窒化物層が形成されている」のに対し、引用発明には窒化物層に関する特定がされていない点。

(相違点2)
本願補正発明は「Ag-Cu共晶組織層の厚さが14μm以下」であるのに対し、引用発明には銀-銅共晶組織合金を含んだ活性金属ロウ材を厚さ10?40μmで塗布する旨の特定しかなく、共晶組織層としての具体的な厚みが特定されていない点。

そこで、上記相違点1ないし2について検討する。

<相違点1について>
「銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウム等を添加したロウ材」を、窒化物系セラミックス基板と無酸素銅板の間に塗布し、高温で熱処理を行うと、窒化物系セラミック基板とロウ材とが接合界面で反応し、窒化物セラミック基板表面にチタン・ジルコニウム・ハフニウム等の窒化物層が形成されることは、明らかな事項である。例えば特開平5-148053号公報(段落【0011】-【0013】、【0022】-【0026】)、特開平6-24854号公報(段落【0011】-【0014】、【0020】-【0024】)を参照されたい。
よって、窒化物系セラミック基板と無酸素銅からなる金属回路基板との間に「銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウムを添加した活性金属ロウ材を塗布し、所定温度で加熱し接合」した引用発明も、当然にセラミックス基板の表面に窒化物層が形成されているものであるから、相違点1は実質的な相違ではない。

<相違点2について>
窒化物系セラミック基板と無酸素銅からなる金属回路基板との間に「銀-銅共晶合金にチタン・ジルコニウム・ハフニウムを添加した活性金属ロウ材を塗布し、所定温度で加熱し接合」した引用発明は、(該セラミックス基板の表面の窒化物層以外の)該セラミックス層と該金属回路基板との間に「銀-銅共晶合金層」が存在しているものである。ここで、引用発明の「活性金属ロウ材」は、有機溶剤・溶媒を混合したペーストであるから、10?40μmの厚みで塗布し熱処理を行うと、有機溶剤・溶媒の少なくとも一部は蒸発するので厚みは減少する。そして、該金属回路基板の無酸素銅に該活性金属ロウ材中の銀が多少拡散はされるものの、該活性金属ロウ材はそもそも所定重量%で銀と銅を混合し銀-銅共晶合金となっているのであるから、多少の銀が無酸素銅中に拡散されても直ちに銀-銅共晶合金が無酸素銅の中に形成されるものとは認められない。
よって、10?40μmの厚みで塗布された活性金属ロウ材は、10?40μmよりも小さな厚みでAg-Cu共晶組織層ができるものと認められ、本願発明の「14μm以下」を含み得るものであるから、相違点2は実質的な相違ではない。

なお、審判請求人は、平成26年7月11日付けの審判請求書、平成27年4月1日付けの上申書において、引用例(審判請求書および上申書においては引用文献8として記載。)のものは、本願発明と製造方法(特に、接合時における加圧について。)が異なる旨を主張している。しかしながら、本願発明(請求項1)には、パワーモジュール用基板における構成のみを記載したものであって、製造方法に係る記載は認められないから、この主張は失当である。更に、引用例には加圧に関する記載はないものの、接合時の加圧が技術常識であればわざわざ明細書にその旨の記載をする必要がないから、記載がないことをもって直ちに引用例の接合が加圧無しで行うものと主張することも失当である。


(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明

1.本願発明の認定
平成26年7月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至11に係る発明は、平成26年1月10日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至11に記載された事項により特定されたものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
セラミックス基板の表面に無酸素銅からなる銅板が積層されて接合されたパワーモジュール用基板であって、
前記銅板と前記セラミックス基板との間において、前記セラミックス基板の表面に窒化物層が形成されているとともに、前記窒化物層に積層するようにAg-Cu共晶組織層が形成され、前記Ag-Cu共晶組織層の厚さが14μm以下とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」

2.引用例
上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」における「(2)引用例」の記載を参照。

3.対比・判断
本願発明は、セラミックス基板として「AlNからなる」点、窒化物層として「Ti、Hf、Zr、Nbから選択される1種又は2種以上の元素の窒化物を含有する」点を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 補正却下の決定」の「3.独立特許要件について」に記載したとおり、引用例に記載された発明から新規性がないのであるから、本願補正発明から上記事項を省いた本願発明も、同様の理由により、引用例に記載から新規性がないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-28 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2012-267298(P2012-267298)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 関谷 隆一
酒井 朋広
発明の名称 パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール及びパワーモジュール用基板の製造方法、並びに、銅部材接合用ペースト  
代理人 寺本 光生  
代理人 松沼 泰史  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  
代理人 大浪 一徳  

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