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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1303798
審判番号 不服2014-16896  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-26 
確定日 2015-07-30 
事件の表示 特願2013- 8832「燃料電池およびその運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-101962〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成20年2月29日に出願した特願2008-51051号の一部を平成25年1月21日に新たな特許出願としたものであって,平成26年1月22日付けで通知された拒絶の理由に対して,平成26年3月31日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが,平成26年5月21日付け(平成26年5月27日送達)で拒絶査定がされ,これに対して,平成26年8月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2.平成26年8月26日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年8月26日付け手続補正書による補正を却下する。
[理由]
1.平成26年8月26日付けの手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項6の記載は,次のように補正された。
(1)本件補正前
「燃料および酸化剤によって発電が行われる燃料電池本体を備え、
該燃料電池本体の発電を停止させる際に前記燃料および前記酸化剤を外部へと排出せずに停止する停止動作を備えた燃料電池の運転方法であって、
前記停止動作の開始時に、前記燃料電池本体に連通しかつ前記燃料が存在し得る燃料空間および前記燃料電池本体に連通しかつ前記酸化剤が存在し得る酸化剤空間を閉空間とし、
前記停止動作時に、前記燃料空間内の燃料残存量と、前記酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように、前記燃料および/または前記酸化剤を前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に供給し、前記燃料および前記酸化剤がほぼ完全に消費されることを特徴とする燃料電池の運転方法。」(平成26年3月31日付けの手続補正書を参照。)
(2)本件補正後
「燃料および酸化剤によって発電が行われる燃料電池本体を備え、
該燃料電池本体の発電を停止させる際に前記燃料および前記酸化剤を外部へと排出せずに停止する停止動作を備えた燃料電池の運転方法であって、
前記停止動作の開始時に、前記燃料電池本体に連通しかつ前記燃料が存在し得る燃料空間および前記燃料電池本体に連通しかつ前記酸化剤が存在し得る酸化剤空間を閉空間とし、
前記停止動作時に、前記燃料空間内の燃料残存量と、前記酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように、前記燃料および/または前記酸化剤を前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に供給し、前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され、前記反応時に発生した水分が前記閉空間とされた前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に貯留されることを特徴とする燃料電池の運転方法。」(なお,アンダーラインは,補正個所を示すものとして審判合議体が付したものである。)

2.本件補正の目的要件
特許請求の範囲の請求項6についての補正は,「前記燃料および前記酸化剤がほぼ完全に消費される」を「前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され、前記反応時に発生した水分が前記閉空間とされた前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に貯留される」と限定するものであるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項6に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について,次に検討する。

3.本願補正発明の独立特許要件
(1)刊行物
ア.原査定の拒絶の理由に引用例1として示された特開2005-222707号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0026】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、燃料電池の停止時に、酸化剤ガスと燃料ガスをスタックおよび周辺経路に封入させ、燃料ガスまたは酸化剤ガスをパージにより追い出すことがないので、不活性ガスの使用量も削減でき、燃料電池に封入した燃料ガスを電解質を介して拡散させ、酸化剤ガス側の電極に存在させることにより、電極の酸化または溶解を防ぎ、反応により封入ガスの体積が減少すると不活性ガスを外部から供給することにより、封入部の圧力が低下することがなく電解質等に応力がかからず長期間寿命を維持できる燃料電池システムおよび燃料電池システムの運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
前記従来の課題を解決するために、本発明の燃料電池システムは、停止時に、燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し、遮断弁により燃料ガスおよび酸化剤ガスの流入および排出を停止し、停止中燃料電池に対し不活性なガスを燃料ガス経路と酸化剤ガス経路の一方または両方に注入する燃料電池システムとするものである。
【0028】
これによって、電解質を介して燃料ガスが酸化剤ガス側に素早く浸透するので、電極の電位が下がり、白金等の溶解による劣化を抑制することができる。さらに、燃料ガスまたは酸化剤ガスをパージにより追い出すことがないので、不活性ガスの使用量を削減することができる。さらに、反応などにより封入ガスの体積が減少すると不活性ガスを外部から供給することができるので、封入部の圧力が低下することがなく電解質等に応力がかからず長期間寿命を維持でき、起動停止による劣化を抑制でき高耐久な燃料電池システムを実現することができる。」
・「【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
第1の発明は、電解質と、電解質を挟む一対の電極と、電極の一方に少なくとも水素を含む燃料ガスを供給・排出し、他方に酸素を含有する酸化剤ガスを供給・排出するガス流路を有する一対のセパレータとを具備した燃料電池と、燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給経路および排出経路に備えた遮断弁と、原料ガスから燃料電池に供給する燃料ガスを生成する燃料生成器と、燃料電池に悪影響を与える成分を原料ガスから除去するガス清浄部と、燃料電池から電力を取り出す電力回路部と、燃料電池の電圧を測定する電圧測定部と、ガスや電力回路部などを制御する制御部とを有する燃料電池システムにおいて、燃料電池の停止時に、燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し、前記遮断弁を閉じ燃料ガスおよび酸化剤ガスの流入および排出を停止し、停止中燃料電池に対し不活性なガスを燃料ガス経路と酸化剤ガス経路の一方または両方に注入する燃料電池システムとすることにより、酸化剤ガスと燃料ガスは封入されるために、燃料ガスが素早く酸化剤ガス側に拡散することにより、酸化剤ガス側の電極の電位を素早く下げることができるので、白金等の触媒作用を有する電極を溶解等で劣化させることがなく、さらに反応等で減少した体積に相当するだけ不活性ガスを注入するので、不活性ガスの使用量が少なく負圧にならないので、電解質等に余分な応力が掛かることを防ぐことができ、長期間高性能を維持できるのである。
【0031】
第2の発明は、特に第一の発明の電極電位を下げることを、遮断弁によって封入される酸化剤ガス経路の空間の体積は、遮断弁によって封止される燃料ガス経路の空間の体積の2倍を超えない体積とすることにより、確実に行うものである。原料ガスから燃料ガスを燃料生成器で生成させる場合、(化9)のような反応となり水素4に対し二酸化炭素が生成する。
【0032】
【化9】
CH_(4)+2H_(2)O → 4H_(2)+CO_(2) (-203.0 KJ/mol)
よって、水素の含有量は約80%である。一方、最も多く用いられる酸素含有ガスは空気であるが、この酸素含有率は約20%である。水素と酸素は2対1の割合で反応するため、酸化剤ガス経路の空間の体積が燃料ガス経路の空間の体積の2倍を超えない体積とすると、反応後には酸素はなく、水素が残るので電極の電位を長期間確実に下げることができ、長期間高性能が維持できる燃料電池システムが実現できるのである。」
・「【0034】……燃料電池システムにおいて、燃料電池の停止時に、燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し、酸化剤ガス流路の遮断弁を閉じ、酸化剤ガスの流入および排出を停止した後、燃料ガス流路の遮断弁を閉じる燃料電池の運転方法とすることにより、酸化剤ガスの流入と流出が無い状態で、かつ燃料ガスの流入がある状態が存在することとなる。このときは、燃料ガス中の水素が電解質を介して拡散しても、燃料ガスは流入があるため水素は補充されるが、酸化剤ガスは封入されているため酸素等の量は減少するのである。よって、本発明の燃料電池の運転方法とすることにより、酸化剤ガス側の電極の電位を確実に下げることができるので劣化を抑制することができ、長期間高性能が維持できるのである。」
・「【0036】……燃料電池システムにおいて、燃料電池の停止時に、燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し、酸化剤ガス流路および燃料ガス流路の遮断弁を閉じガスの流入および排出を停止した後、温度検出部からスタックの温度が一定温度以上変化すると酸化剤ガス流路と燃料ガス流路の一方または両方に、不活性ガス注入する燃料電池システムの運転方法とすることにより、電極の電位を素早く下げることにより触媒作用を有する電極の溶解を防ぎ、劣化を抑制できるだけでなく、温度低下によって生じる結露による封入ガスの体積減少を一定以下とすることができるので、電解質等に大きな応力が掛かることを防ぐことができ、長期間高性能が維持できるのである。」
・「【0042】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における燃料電池システムの中でも高分子電解質型燃料電池の基本構成を示している。燃料電池は、少なくとも水素を含む燃料ガスと空気などの酸素を含む酸化剤ガスをガス拡散電極によって電気化学的に反応させるもので、電気と熱とを同時に発生させるものである。」
・「【0046】
図3は燃料電池システムの構成図である。燃料電池システムは外筐体31に納められている。外部から原料ガス配管33から取り入れられた原料ガスは燃料電池に悪影響を与える物質を除去するガス清浄部32で清浄化された後、清浄ガス配管36を介して燃料生成器35に導かれる。清浄ガス配管36には弁61が設けられており、燃料生成器35にガスを流し込む際は開としている。原料ガス配管33の経路中には弁34が設けられており、原料ガスの流れを制御する。燃料生成器35は、原料ガスから少なくとも水素を含む燃料ガスを生成する。38はスタックであり、図1および図2で詳細が示される燃料電池およびスタックである。燃料生成器35からスタック38には燃料ガス配管37を介して燃料ガスが導かれる。
【0047】
酸化剤ガスとしての空気はブロワー39により、外部から吸気管40を通してスタック38に導かれる。スタック38で使用されなかった酸化剤ガスは排気管42から燃料電池システムの外に排出される。燃料電池は水分が必要なため、スタック38に流れ込む酸化剤ガスは、加湿器41で加湿される。スタック38で使用されなかった燃料ガスはオフガス管48により再び、燃料生成器35に流れ込む。オフガス管48からのガスは燃焼などに用いられ、原料ガスから燃料ガスを生成するための吸熱反応等に利用される。
【0048】
清浄ガス配管36からはバイパス管55が分岐されている。燃料ガス配管37には遮断弁49が設けられており、スタック38の燃料ガスの供給経路のガスの流れを遮断する。オフガス管48には遮断弁51が設けられており、スタック38の燃料ガスの排出経路ガスの流れを遮断する。遮断弁57は加湿器41からスタック38への酸化剤ガスの供給経路に設けられており、スタック38の酸化剤ガスの供給経路のガスの流れを遮断する。遮断弁58はスタック38から酸化剤ガスの排出経路に設けられており、スタック38の酸化剤ガスの排出経路のガスの流れを遮断する。
【0049】
遮断弁49とスタック38の燃料ガス供給経路中には圧力計59が設けられており、燃料ガス供給経路およびスタック38中の燃料ガス経路の圧力が計測される。遮断弁57とスタック38の酸化剤ガス供給経路中には圧力計60が設けられており、酸化剤ガス供給経路およびスタック38中の酸化剤ガス経路の圧力が計測される。
【0050】
燃料ガス配管37には分岐弁63が設けられている。バイパス管55は分岐しており、一方は逆止弁62を介して、分岐弁63に接続されている。バイパス管55の分岐の他方は、逆止弁65を介して、分岐弁64に接続されている。分岐弁64は遮断弁57とスタック38の酸化剤ガス供給経路中に設けられている。燃料電池スタック38の電圧は電圧測定部52で計測され、電力は電力回路部43により取り出され、ガスや電力回路部などは制御部44で制御される。
【0051】
ポンプ45より、冷却水入り口配管46から燃料電池スタック38の水経路に水が流され、燃料電池38を流れた水は冷却水出口配管47から外部に水が運ばれる。冷却水入り口配管46には温度検出部67が、冷却水出口配管47には温度検出部66が設けられ、燃料電池のスタック38を流れる水の流入と流出の温度を一定に保つことにより、発熱したスタック38を一定の温度に保ちながら、発生した熱を燃料電池システム外部で利用できるようになるのである。燃料電池システムは燃料電池からなるスタック38と、ガス清浄部32と、燃料生成器35と、電力回路部43と、制御部44とより構成されている。」
・「【0056】
スタック38内での燃料電池の動作を図1を用いて説明する。ガス流路6cに空気などの酸素含有ガスを流し、ガス流路6aに水素を含む燃料ガスを流す。燃料ガス中の水素は拡散層3aを拡散し、触媒反応層2aに達する。触媒反応層2aで水素は水素イオンと電子に分けられる。電子は外部回路を通じてカソード側に移動される。水素イオンは電解質1を透過しカソード側に移動し触媒反応層2cに達する。空気などの酸化剤ガス中の酸素は拡散層3cを拡散し、触媒反応層2cに達する。触媒反応層2cでは酸素が電子と反応し酸素イオンとなり、さらに酸素イオンは水素イオンと反応し水が生成される。つまりMEA5の周囲で酸素含有ガスと燃料ガスが反応し水が生成され、電子が流れる。さらに反応時に熱が生成し、MEA5の温度が上昇する。そのため冷却水経路8a、8cに水などを流すことにより反応で発生した熱を水で外部に運び出す。つまり、熱と電流(電気)が発生するのである。このとき、導入されるガスの湿度と反応で発生する水の量の管理が重要である。水分が少ないと電解質1が乾燥し、固定電荷の電離が少なくなるために水素の移動が減少するので、熱や電気の発生が小さくなる。一方水分が多すぎると、MEA5の周りまたは触媒反応層2a、2cの周囲に水が溜まってしまい、ガスの供給が阻害され反応が抑制されるため、熱と電気の発生が減少してしまう(以降、この状態をフラッティングと称する)。
【0057】
燃料電池のセルで反応した後の動作について図3を用いて説明する。酸化剤ガスの使用されなかった排ガスは加湿器41を介し、熱と水分をブロワー39から送られてきた酸化剤ガスに移動させた後、外部へ排出される。燃料ガスの使用されなかったオフガスはオフガス管48により再び、燃料生成器35に流れ込む。オフガス管48からのガスは燃料生成器35中では燃焼などに用いられる。原料ガスから燃料ガスを生成するための反応は(化9)で示されるように吸熱反応であるため、反応に必要な熱として利用されるのである。電力回路43は燃料電池が発電を開始した後スタック38から直流の電力を引き出す役割をする。制御部44は燃料電池システムの他の部分の制御を最適に保つよう制御するものである。」
・「【0065】
(運転工程)の次は(停止工程1)を行った。(停止工程1)では、まず弁34と57、遮断弁49と64を閉じ、ブロワー39を停止させ、スタック38への燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止させる。次に遮断弁51と58を閉じ、スタックの燃料ガス経路と酸化剤ガス経路を封入する。
【0066】
なお、本発明では、封入される酸化剤ガスの経路の体積はおよそ1.5リットルであり、燃料ガス経路の体積はおよそ1リットルであるので、酸化剤ガスの経路の体積は燃料ガス経路の体積のおよそ1.5倍であるので、封入される水素の量は酸素の量の2倍以上である。このとき、燃料ガス中の水素は電解質1を介して拡散し、酸化剤ガス側の電極に達する。酸化剤ガスは流入や流出が無いように封入されているため、拡散した水素は電極付近に漂い、酸化剤ガス側の電極電位は水素の電位を示すようになり、素早く電極電位が下がるのである。このとき、電極に付着している酸化物等が還元などされ、除去されるので電極の活性は復元させる。これにより、燃料電池を高性能に維持することができるのである。
【0067】
次に(停止行程2)に移る。水素はさらに酸化剤ガス側へ拡散するため、酸化剤ガス中に含まれる酸素と反応し水を生成する。スタック温度は100℃以下であるので、生成した水は液体となって存在する。よって、燃料ガス側では水素が拡散してガス量が減少し、酸化剤ガス側では酸素が反応し、液体の水を生成するので、ガス量が減少する。」
イ.停止工程1においては,燃料電池本体の,燃料ガス及び酸化剤ガスの入り口側及び出口側弁がいずれも閉じられている(段落【0065】参照。)ことから,燃料ガスおよび酸化剤ガスが反応した時に発生した水分がスタックおよび周辺経路に貯留されることになるのは,当業者にとって明らかな技術的事項である。
ウ.以上を踏まえれば,刊行物1には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,この発明を「引用発明」という。)。
「燃料ガスおよび酸化剤ガスによって発電が行われるスタックを備え,
該スタックの停止時に酸化剤ガスと燃料ガスをスタックおよび周辺経路に封入させ,燃料ガスまたは酸化剤ガスをパージにより追い出すことがない停止動作を備えた燃料電池の運転方法であって,
前記停止動作時に,停止行程1で燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し,酸化剤ガス流路および燃料ガス流路の遮断弁を閉じガスの流入および排出を停止し,
停止行程2で,水素が酸化剤ガス中に含まれる酸素と反応して,この反応時に発生した水分が前記閉空間とされたスタックおよび周辺経路に貯留される燃料電池システムの運転方法。」
エ.同じく原査定の拒絶の理由に引用例2として示された特開2005-268086号公報(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
本発明は燃料電池の性能低下を起こすことなく電池システムを停止することができる固体高分子形燃料電池を用いた燃料電池システムに関する。」
・「【0004】
固体高分子形燃料電池を搭載した発電システムを停止させる場合、システムの起動-停止、すなわち固体高分子形燃料電池の起動-停止の繰り返しによって、その条件によって、出力低下が起こる場合がある。特に、燃料電池の停止時には、高温状態で単位電池あたりの電池電圧が0.8V以上に維持されると、電極表面の触媒が凝集して活性面積が減少するシンタリングが増長し、電池電圧が低下する問題が生じやすい(特許文献1)。この問題を回避するためには、セル内に残留する水素と酸素を除去することが必要である。従来技術によると、不活性ガス(窒素ガス)をアノードとカソードにそれぞれ供給し、ダミー抵抗とセル間を接続することによる外部短絡により停止させる方法が公表されている(特許文献1)。」
・「【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アノードガスとカソードガスを分離する固体高分子形電解質膜を有する固体高分子形燃料電池と、……を有し、該燃料電池の停止にあたり、アノードガスの供給バルブを閉じ、該電解質膜により分離されたアノードガスとカソードガスに含まれる水素/酸素のモル比が2/1もしくはそれ以下になったときに、該燃料電池への空気の供給バルブを閉じることを特徴とする発電システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の停止方法によって、固体高分子形燃料電池の性能低下を軽減できる。また、不活性ガスパージ設備を省略し、簡易な外部抵抗を用い、セル内部の圧力差を増大しないように、規定時間内にカソードガスの供給バルブの開閉を制御した方法によって、燃料電池の停止時に水素を除去することができる。」
・「【0016】
……燃料電池にアノードガスとカソードガスの供給配管及び排出配管と、該供給配管及び排出配管の接続された供給バルブと排出バルブとを有し、該燃料電池の停止にあたり、アノードガスの供給バルブを閉じ、該電解質膜により分離されたアノードガスとカソードガスに含まれる水素/酸素のモル比が所定の値以下になったときに、該燃料電池への空気の供給バルブを閉じることを特徴とする発電システムが提供される。この実施態様においては、バルブを閉じるタイミングを水素/酸素モル比を所定の値になったときとしたものである。所定の値とは、1/2付近が好ましく、その±10%以内が好ましい。実際には1/2以下より小さいときが最も好ましい。
【0017】
以下、改質器からスタックのアノードへの燃料ガスの供給を遮断した後、カソードへの空気の供給した停止方法を一例として、スタックを停止したときのアノードとカソードの圧力差を計算して、本発明の概念、特徴を説明する。
【0018】
燃料ガスの供給を停止するときには、スタックの前後にある燃料ガス供給バルブと排出バルブを閉じる。」
・「【0029】
逆に、水素モル数Maが酸素モル数Mcの2倍量よりも大きいときには、水素モル数が2Mc以下になるまで、スタックにカソードガスを供給し、抵抗器により水素を酸化させることが必要である。アノードガスの配管バルブを閉止後、水素モル数Maが2Mcになるまでの抵抗器接続時間Tminは、式(2)、および式(11)より与えられる水素酸化電気量Qを用いると、式(10)を満たす値となる。すなわち、化学量論的に水素と酸素が消費されるモル比になるまで、水素を酸化させ(式(8A)、(8B))、その後カソードガスの配管バルブを閉じることができる。
【0030】
2F・(Ma-2Mc) = Q(Tmin) ・・・・・ (10)
Q(Tmin) = ∫V/Rd dt ・・・・・ (11)
ただし、Vはスタック電圧(通常は時間の関数)、Rdは抵抗器の抵抗値とし、式(11)の右辺は、抵抗器とスタックの外部端子を接続したときに流れる電流について、Tminまでの時間積分値である。なお、本発明において、抵抗器の抵抗値Rdは固定値であっても良いし、可変値であっても良い。また、発電途中で停止モードに瞬時に切り替える方法を採るときは、Ma、Mcの値は、その切り替え時における発電による消費ガス量を除いた水素、酸素濃度に補正する必要がある。」
・「【0053】
本発明では、アノードガスの供給バルブ1015、排出バルブ1016、カソードガスの供給バルブ1017、排出バルブ1018をマイコン1012によって開閉操作をする機構を有する。
【0054】
スタックの定格発電状態より、停止運転モードに移り、スタックを停止する操作を行った。まず、マイコン1012より指令を出して、開閉スイッチ1020を抵抗器1021側に接続させ、インバータ1022に流れる電流をゼロとする。次に、アノードガスの供給バルブ1015を停止させ、スタック1005への水素の供給を遮断する。次いで、アノード排出バルブ1016も閉じて、スタック内部のアノードガスを遮断させる。
【0055】
カソードガスの供給は、式(10)を用いて与えられる時間Tminまで供給を継続した後、直ちに、ブロア-1009を停止させ、供給バルブ1017を閉じ、次いでバルブ1018を閉じた。」
(2)対比・判断
ア.本願補正発明と引用発明とを対比する。
・引用発明の「燃料ガス」,「酸化剤ガス」は,それぞれ,本願補正発明の「燃料」,「酸化剤」に相当する。
・本願補正発明において「燃料電池本体」は,本願明細書の段落【0039】に「1 燃料電池スタック(燃料電池本体)」との説明があることを踏まえれば,引用発明の「スタック」は,本願補正発明の「燃料電池本体」に相当する。
・引用発明の「停止時」は,本願補正発明の「発電を停止させる際」に相当する。
そして,引用発明における「停止時」の「酸化剤ガスと燃料ガスをスタックおよび周辺経路に封入させ、燃料ガスまたは酸化剤ガスをパージにより追い出すことがない」動作は,本願補正発明における「発電を停止させる際」の「前記燃料および前記酸化剤を外部へと排出せずに停止する」動作に相当する。
・引用発明の「前記停止動作時に、停止行程1で燃料ガスと酸化剤ガスの供給を停止し、酸化剤ガス流路および燃料ガス流路の遮断弁を閉じガスの流入および排出を停止」するという動作は,引用発明を開示する刊行物1の図4,5,段落【0065】の記載事項を参酌すれば,運転行程の後にすぐに続いて行われる停止行程1における動作であるから,停止動作の開始時の動作といえる。
また,「酸化剤ガス流路および燃料ガス流路の遮断弁を閉じガスの流入および排出を停止」することにより閉じられた空間が形成され,その空間は,本願補正発明でいう「燃料電池本体に連通しかつ前記燃料が存在し得る燃料空間および前記燃料電池本体に連通しかつ前記酸化剤が存在し得る酸化剤空間」であって,また本願補正発明でいう「閉空間」である。
したがって,引用発明の上記動作は,本願補正発明の「停止動作の開始時に、前記燃料電池本体に連通しかつ前記燃料が存在し得る燃料空間および前記燃料電池本体に連通しかつ前記酸化剤が存在し得る酸化剤空間を閉空間と」する動作に相当する。
・引用発明の「停止行程2で,水素が酸化剤ガス中に含まれる酸素と反応して,この反応時に発生した水分が前記閉空間とされたスタックおよび周辺経路に貯留される」動作と本願補正発明の「前記停止動作時に,」「前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され、前記反応時に発生した水分が前記閉空間とされた前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に貯留され」る動作とは,「前記停止動作時に、燃料および酸化剤が反応し、前記反応時に発生した水分が前記閉空間とされた前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に貯留される」動作である点で共通する。
・引用発明の「燃料電池システムの運転方法」は,本願補正発明の「燃料電池の運転方法」に相当する。
イ.そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点,相違点は,次のとおりである。
《一致点》
「燃料および酸化剤によって発電が行われる燃料電池本体を備え、
該燃料電池本体の発電を停止させる際に前記燃料および前記酸化剤を外部へと排出せずに停止する停止動作を備えた燃料電池の運転方法であって、
前記停止動作の開始時に、前記燃料電池本体に連通しかつ前記燃料が存在し得る燃料空間および前記燃料電池本体に連通しかつ前記酸化剤が存在し得る酸化剤空間を閉空間とし、
前記停止動作時に、燃料および酸化剤が反応し、前記反応時に発生した水分が前記閉空間とされた前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に貯留される,燃料電池の運転方法。」
《相違点》
本願補正発明では,「停止動作時に、燃料空間内の燃料残存量と、酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように、前記燃料および/または前記酸化剤を前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に供給し,前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され」るのに対し,引用発明ではそのような構成を備えていない点。
ウ.以下,相違点について検討する。
(ア)刊行物2には,燃料電池の停止にあたり,アノードガスの供給バルブを閉じ,電解質膜により分離されたアノードガスとカソードガスに含まれる水素/酸素のモル比が2/1もしくはそれ以下になったときに,該燃料電池への空気の供給バルブを閉じる燃料電池の運転方法が記載されている(【課題を解決するための手段】【0009】等を参照)。
上記運転方法は,アノードガスに含まれる水素がカソードガスに含まれる酸素と反応してほぼ完全に消費されるまでカソードガスを供給するものであって,段落【0016】等の記載も参酌すれば,そのために残存する水素と残存する酸素がほぼ当量比となるようにするものと理解される。また,そうしたことによって,水素及び酸素が反応してほぼ完全に消費されることになるとも理解される。
そうすると,刊行物には,次の発明が記載されていると認めることができる(以下,「刊行物2記載の発明」という。)。
「燃料電池の停止にあたり,アノードガスの供給バルブを閉じ,電解質膜により分離されたアノードガスとカソードガスに含まれる水素/酸素がほぼ当量比となったときに,該燃料電池への空気の供給バルブを閉じることにより,水素及び酸素が反応してほぼ完全に消費されるようにした燃料電池の運転方法。」
(イ)本願補正発明の「停止動作時に,燃料空間内の燃料残存量と,酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように,前記燃料および/または前記酸化剤が前記燃料空間および/または前記酸化剤空間に供給」されるという発明特定事項は,「および/または」という表現が用いられていることからして,「停止動作時に,燃料空間内の燃料残存量と,酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように,前記酸化剤が前記酸化剤空間に供給」される態様を含むものである。そして,この態様でも「前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され」ることになると解せる。
(ウ)引用発明も,刊行物2記載の発明も,燃料電池本体の発電を停止させる際に燃料も酸化剤も外部へ排出されることがないようにしたものである。
引用発明は,燃料電池の停止後は燃料ガスも酸化剤も供給しないで,そのままの状態で水素と酸素が反応するようにしているが,刊行物2記載の発明では,燃料電池の停止後は,残存する水素と残存する酸素が当量比となるようにカソードガスを供給して水素及び酸素が反応してほぼ完全に消費されるようにしている。
ところで,引用発明は,水素が残ることを想定している(刊行物1の段落【0032】【0066】参照)のであるが,燃料電池の技術分野においては,燃料電池を停止させた際に燃料電池の性能を維持するために内部の水素や酸素を除去することが求められることは,当業者に良く認識されている技術的事項である(例えば,刊行物2の段落【0004】参照。)。
このことを踏まえれば,引用発明において,より積極的に水素,酸素を除去しようとすることは,当業者が容易に着想し得たことである。
そして,刊行物2記載の発明は,そのようなことを実現できるものであるのだから,引用発明において刊行物2記載の発明を適用することは,当業者にとって容易に着想し得たこととというべきであり,そのようにすると,引用発明において「停止動作時に,燃料空間内の燃料残存量と,酸化剤空間内の酸化剤残存量との比が当量比となるように,前記酸化剤が前記酸化剤空間に供給」され,「前記燃料および前記酸化剤が反応してほぼ完全に消費され」る,という事項が得られる。
すなわち,引用発明において,刊行物2記載の発明を適用することにより,相違点に係る本願補正発明の発明特定事項が得られるのであって,そのようなことは,当業者が容易になし得た域を出るものではない。
(オ)以上を踏まえると,本願補正発明の発明特定事項は,引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が容易に導き出せたものである。
しかも,本願補正発明の発明特定事項によって,引用発明及び刊行物2記載の発明からみて格別顕著な効果が奏されるということもできない。
したがって,本願補正発明は,引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3)まとめ
本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項6に係る発明は,平成26年3月31日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載されたとおりのものである(「第2.1.(1)」参照。以下,この発明を「本願発明」という。)。

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に示された引用例1,2(刊行物1,2)及びその記載事項は,前記「第2.3.(1)」の「ア.」「イ.」「エ.」に記載したとおりである。
また,引用発明及び刊行物2記載の発明は,前記「第2.3.(1)ウ.」及び「第2.3.(2)ウ.(ア)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明を限定したものである本願補正発明が前記「前記「第2.3.(2)」に記載したとおり引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び刊行物2記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-29 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2013-8832(P2013-8832)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01M)
P 1 8・ 575- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前原 義明  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 長馬 望
新海 岳
発明の名称 燃料電池およびその運転方法  
代理人 上田 邦生  
代理人 藤田 考晴  

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