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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1303851
審判番号 不服2013-24366  
総通号数 189 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-09-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-11 
確定日 2015-08-04 
事件の表示 特願2011-108544「裏面オーミックコンタクトを備えた縦型の半導体デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日出願公開、特開2011-151428〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、1999年9月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年9月16日、アメリカ合衆国)に国際出願した特願2000-570823号の一部を平成23年5月13日に新たな特許出願としたものであって、平成25年3月27日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月28日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月11日に拒絶査定不服審判が請求がされるとともに手続補正書が提出された。
その後当審において、平成26年10月15日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月13日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 当審の拒絶理由
当審において平成26年10月15日付けで通知した拒絶の理由の概要は、本願の請求項1?6に係る発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である、「国際公開WO98/37584」(以下「引用例1」という。)、「特開平8-8210号公報」(以下「引用例2」という。)及び「特開平8-139053号公報」(以下「引用例3」という。)に記載された発明に基づいて、本願の優先権主張の日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというもの、さらに、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというもの、本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというもの、並びに、本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

3 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成27年2月13日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項5に記載されている事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項5】
半導体デバイス(10)であって、
第1表面及び第2表面を有し、1×10^(15)cm^(-3)?1×10^(19)cm^(-3)のドーパントの初期キャリヤー濃度を有し、該ドーパントの初期キャリヤー濃度が初期導電型を付与する炭化珪素基板(12)と、
該炭化珪素基板の第1表面上にある少なくとも1つのエピタキシャル層(14)と、
炭化珪素基板の第2表面から第1表面に向かって伸びており炭化珪素基板の領域の一部を占める漸増キャリヤー濃度帯であって、第2表面から第1表面に向かってドーパント濃度が漸次低下しており、漸増キャリヤー濃度帯におけるキャリヤー濃度が1×10^(18)cm^(-3)?1×10^(20)cm^(-3)であり、初期キャリヤー濃度に比べて高い漸増キャリヤー濃度帯(16)と、
炭化珪素基板の第2表面上のニッケルからなるオーミックコンタクト(18)と
を備えることを特徴とする半導体デバイス。」

4 引用例の記載と引用発明
(1)引用例1の記載
引用例1には、「SOLID STATE POWER-CONTROL DEVICE USING GROUP III NITRIDES」(Title)に関して、FIG.1?18とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審で付加した。以下同じ。)。

ア 「Field of the Invention
The field of the invention relates to semiconductors and, more particularly, to power-control transistors.」
(「発明の技術分野
発明の技術分野は半導体に関し、さらには、電力制御トランジスタに関する。」)(審決注:合議体にて翻訳。以下同じ。)

イ 「FIG. 2 shows a diode 20 under another embodiment of the invention. Under the embodiment, a substrate 34 of silicon- carbide is provided to further enhance the performance of the diode 30. The SiC substrate 34 may be created using known techniques. The GaN drift region 32 may then be epitaxially deposited on the substrate 34 either directly or through the use of interfacial layers as described above. Other interfacial layers such as SiTe may also be worked to obtain an improved lattice match.」
(「図2は、本発明の別の実施形態のダイオード20を示す。本実施形態では、ダイオード30のパフォーマンスをより強化するために、炭化ケイ素基板34が提供されている。SiC基板34は、公知技術を用いて形成されてよい。GaNドリフト領域32は、上述のように、直接または界面層の使用を通して、基板34上に次にエピタキシャル堆積されてよい。SiTeのような他の界面層も、改良された格子整合を得るために機能させうる。」)

ウ 「FIG. 13 depicts a metal insulated semiconductor field effect transistor (MISFET) 50 constructed in accordance with another embodiment of the invention. Under the embodiment, the n+ type substrate 54 of GaN and n-type drift region 52 are fabricated using an epitaxial process described above for the diode 10 with doping levels of 2el6 and lel6 cm ^(-3) , respectively.
…(略)…
Following the trench refill, the device must again be masked and exposed to reveal a somewhat larger area around the gate 62. A dielectric 64 (e.g., AlN) may be laid down over the area again using an epitaxial process. The process may be completed by laying down a metal layer 66, 68 to create the source and drain connections.

In another embodiment, a n+ type SiC substrate 74(「78」は誤記と認定した。) is used as shown in FIG. 14 to control injection efficiency and improve heat transfer. The substrate 74(「78」は誤記と認定した。) and drift region may be created as described for the diode 30 of FIG. 2. The channel region 76 and n+ region 88, insulator 80 and gate 82 may be laid down as described for the MISFET of FIG. 13.

The n+ type SiC substrate 74(「78」は誤記と認定した。) would be expected to have a doping level of lel9 cm ^(-3 ). The n-type GaN drift region 72 would have a doping level of lel6 cm ^(-3 ). The p-type GaN channel region 76 would have a doping level of lel7 cm ^(-3 ). The n+ type GaN region 88 would have a doping level of lel9 cm ^(-3 ).」
(「図13は、本発明の別の実施形態に従って構成される金属絶縁半導体電界効果トランジスタ(MISFET)50を示す。本実施形態では、GaNのn+型基板54及びn型ドリフト領域52が、それぞれドーピングレベル2e16及び1e16cm^(-3)で、ダイオード10に関し上述されたエピタキシャルプロセスを用いて形成されている。
…(略)…
トレンチの充填に続き、デバイスは再びマスクされゲート62付近のより大きな領域を曝露するように露出される。誘電体64(例えば、AlN)が、エピタキシャルプロセスを用いて再び該領域の上方に形成されてもよい。プロセスは、ソース及びドレイン接続を形成するための金属層66、68を形成することで完成する。

別の実施形態では、注入効率の制御と熱移動の改善のために、図14に示されるようにn+型SiC基板74が用いられる。基板74及びドリフト領域は、図2のダイオード30に関して述べられたように形成されてよい。チャネル領域76及びn+領域88、絶縁体80並びにゲート82は、図13のMISFETに関して述べられたように形成されてよい。

n+型SiC基板74は、ドーピングレベル1e19cm^(-3)を有すると予想されるであろう。n型GaNドリフト領域72はドーピングレベル1e16cm^(-3)を有するであろう。p型GaNチャネル領域76は、ドーピングレベル1e17cm^(-3)を有するであろう。n+型GaN領域88は、ドーピングレベル1e19cm^(-3)を有するであろう。」)

ウ 引用例1のFIG.13についての記載を勘案するとともに、FIG.14を参照すると、金属絶縁半導体電界効果トランジスタ(MISFET)70は、n+型SiC基板78と、n+型SiC基板74の上面にあるn型GaN層72と、n+型SiC基板78の裏面にあるドレイン接続を形成するための金属層78を備えることが見てとれる。

(2)引用発明
ア 引用例1のFIG.2及びFIG.13についての記載を勘案すると、FIG.14のn型GaN層72はエピタキシャルプロセスを用いて形成された層であることは明らかである。

イ そうすると、FIG.13を参酌してまとめると、引用例1には、「FIG.14」に示される「別の実施形態」として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「金属絶縁半導体電界効果トランジスタ70であって、
上面及び裏面を有するn+型SiC基板74と、
該n+型SiC基板74の上面上にあるエピタキシャルプロセスを用いて形成されたn型GaN層72と、
SiC基板74の裏面上のドレイン接続を形成するための金属層78とを備える金属絶縁半導体電界効果トランジスタ70。」

(3)引用例2:特開平8-8210号公報
引用例2には、「炭化けい素半導体素子の製造方法」(発明の名称)に関して、図1?6とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、炭化けい素 (以下SiCと記す) からなる半導体基体にオーム性接触する電極を備えたSiC半導体素子の製造方法に関する。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】大きい電流が流れる電力用半導体素子では、金属・半導体界面のオーム性接触が重要となる。良好なオーム性接触は、素子の特性を劣化させることがない。SiCは、キャリア濃度が高いほど金属の半導体界面の接触抵抗が低いという報告がある。すなわち、Appl. Phys. Lett. Vol 62、No4 (Jan.1933) p25 に記載されているように、エピタキシャル成長時にAlをドーピングして得られたp形6H-SiCでは、キャリア濃度が5.5×10^(15)cm^(3 )と低いときにAl-Tiからなる電極との間のRcは2.9×10^(-2)Ω・cm^(3 )と高く、キャリア濃度が2.9×10^(19)/cm^(3 )のときにRcが1.5×10^(-5)Ω・cm^(2 )となる。キャリア濃度が10^(15)?10^(17)/cm^(3 )程度と低い良質のSiCは市販されているが、こにより素子を作製した場合には低いRcは得られない。逆に高キャリア濃度のSiC結晶では、低いRcをもつ電極は形成できるが、マイクロパイプと呼ばれる結晶欠陥が多数存在するなど、質のより高いキャリア濃度のSiC結晶を得るのが難しい。
【0004】
本発明の目的は、上述の問題を解決し、良質の低キャリア濃度のSiC結晶に低いRcをもつ電極を形成するSiC半導体素子の製造方法を提供することにある。」

ウ 「【0006】
【作用】イオン注入により半導体基体に入射したイオン種は、ジグザグの径路を通って停止する。入射点より停止点までを直線で結び、これを入射点よりの垂線に投影した値、つまり基体表面よりの深さを射影飛程と呼ぶ。射影飛程は統計的な変動幅をもって分布する結果、打ち込まれたイオン種は半導体基体中でピーク濃度を中心とするガウス形の分布をすると考えられる。従って、SiC基体と同一導電形のドーパントをイオン注入し、表面からそのピーク濃度の位置までSiC基体を熱酸化し、その酸化層を除去すれば、打ち込まれたドーパントの最も濃度の高い、低抵抗の部分が露出するので、基体自体は低キャリア濃度でも低い接触抵抗をもつオーム性接触電極をSiC基体上に形成することができる。」

エ 「【0007】
【実施例】以下、図を引用して本発明の実施例について述べる。図1に示すようにn形6H-SiCよりなる基板1に、イオン種2としてn形のドーパントである窒素を用いてイオン注入した。イオン注入の条件は、加速エネルギー100KeV、ドーズ量は5×10^(15)/cm^(2 )である。これにより、図2に示すように射影飛程分布のピーク値Ro=0.25μmを中心として高濃度ドープ層3が形成される。図6は、n形6HSiC基板に上述と同様の条件で窒素のイオン注入を行い、窒素雰囲気中、1200℃で10時間のアニールを行ったのちの拡がり抵抗の測定結果である。図のように抵抗値は窒素のRo0.25μm付近を中心とするガウス分布を示し、深さ0.27?0.29μmの位置で急激に抵抗が低下している。このことは、注入された窒素がほとんど拡散せずに、その場で低抵抗の高濃度層を形成していることを示している。そこで、1200℃での3時間35分のスチーム酸化により表面から射影飛程分布のピーク値Roの深さまで酸化した。これにより図3に示すように基板1の表面は膜厚0.49μmの酸化膜4で覆われた。スチーム酸化のようなウエット酸化は、酸化速度の遅いSiCには適している。酸化されるSiCは、酸化膜の体積1に対して0.54である。このあと、体積比で弗酸を20倍の水で稀釈したエッチング液を用い、酸化膜を除去した。この結果、図4に示すように低抵抗の高濃度ドープ層3が露出した。この高濃度ドープ層3の表面は平滑であった。次いで、図5に示すように電極材料としてNiを用いて金属電極5を高濃度ドープ層3に接触させた。この電極は、n形6H-SiCの上にそのまま被着した電極よりも約4割以上低いRcを示した。しかし、酸化膜4をドライエッチングにより除去すると、高濃度ドープ層3の表面が凹凸となり、低いRcは得られなかった。」

オ 「【0009】
【発明の効果】
本発明によれば、SiC基体の表面から基体と同一導電形のドーパントをイオン種としてイオン注入したのち、そのピーク濃度の深さまでを熱酸化とエッチングの組み合わせで除去して高キャリア濃度の層を表面に露出させる。従って、この表面に金属電極を形成すれば、基体自体は低キャリア濃度でもオーム性接触となり、良質のSiC結晶を用いた半導体素子の製造が可能になった。」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「金属絶縁半導体電界効果トランジスタ70」、「上面」、「裏面」、「SiC基板74」、「エピタキシャルプロセスを用いて形成されたn型GaN層72」、及び「ドレイン接続を形成するための金属層78」は、それぞれ本願発明の「半導体デバイス」、「第1表面」、「第2表面」、「炭化珪素基板」、「エピタキシャル層」、及び「『炭化珪素基板の第2表面上』の『コンタクト』」に相当する。

イ 引用発明の「Si基板74」は、「n+型」であるから、「『ドーパント」の『キャリヤー濃度を有し』、『該ドーパント』の『キャリヤー濃度』が『導電型を付与する』」ものであることは、明らかである。

ウ 引用発明の「金属層78」は、「金属絶縁半導体電界効果トランジスタ70」の備える「ドレイン接続を形成するための金属層78」であるから、技術常識(後述の周知例1を参照のこと。)を勘案すると、「『オーミック』コンタクト」であるといえる。

エ したがって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
<一致点>
「半導体デバイスであって、
第1表面及び第2表面を有し、ドーパントのキャリヤー濃度を有し、該ドーパントのキャリヤー濃度が導電型を付与する炭化珪素基板と、
該炭化珪素基板の第1表面上にあるエピタキシャル層と、
炭化珪素基板の第2表面上のオーミックコンタクトと
を備える半導体デバイス。」

<相違点1>
「炭化珪素基板」について、本願発明では、「1×10^(15)cm^(-3)?1×10^(19)cm^(-3)のドーパントの初期キャリヤー濃度を有し、該ドーパントの初期キャリヤー濃度が初期導電型を付与する」ものであるのに対し、引用発明では、「n+型SiC基板74」の「初期導電型を付与する」「ドーパントの初期キャリヤー濃度」は特定されていない点。

<相違点2>
本願発明は、「炭化珪素基板の第2表面から第1表面に向かって伸びており炭化珪素基板の領域の一部を占める漸増キャリヤー濃度帯であって、第2表面から第1表面に向かってドーパント濃度が漸次低下しており、漸増キャリヤー濃度帯におけるキャリヤー濃度が1×10^(18)cm^(-3)?1×10^(20)cm^(-3)であり、初期キャリヤー濃度に比べて高い漸増キャリヤー濃度帯(16)」を備えるのに対し、引用発明では、「SiC基板74の裏面から上面に向かって伸びておりSiC基板の一部を占める漸増キャリヤー濃度帯」については特定されていない点。

<相違点3>
「オーミックコンタクト」が、本願発明では、「ニッケルからなる」のに対し、引用発明では、「金属層78」の金属材料については具体的に特定されていない点。

6 当審の判断
以下、上記相違点1?相違点3について検討する。
(1)相違点1及び2について
相違点1及び2は関連するので、まとめて検討する。

ア 引用例2には、n形6H-SiC基板1にn形のドーパントである窒素をイオン注入し、高濃度ドープ層3を形成し、その後、打ち込まれたドーパントの最も濃度の高い、低抵抗の部分を露出させ、金属電極5を形成することで、基体自体は低キャリア濃度のSiC基板1にオーム性接触する、低抵抗の金属電極5を形成する技術について記載されている。
したがって、引用例2に記載の上記技術において、6H-SiC基板1は、「『n形』SiC基板」であるから、「『初期キャリア(キャリヤー)濃度を有し、該ドーパントの初期キャリア(キャリヤー)濃度が初期導電型』であるn形を『付与する炭化珪素基板』」であるといえる。

また、引用例2には、打ち込まれたイオン種は半導体基体中でピーク濃度を中心とするガウス形の分布をしていることも記載されている。
したがって、引用例2に記載の上記技術において、SiC基板1の露出面からSiC基板内部に向かってキャリア濃度が減少していることは明らかである。

引用発明においても、ドレイン接続を形成するための金属層78(オーミックコンタクト)を、低抵抗とすべきことは当業者であれば当然認識している事項であるから、引用発明において、引用例2に記載された技術を用いることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 一方、引用例2の「実施例」として記載された技術は、「n+型SiC基板74」のキャリア濃度の明示はないものの、引用例2の段落【0003】?【0004】の記載を参照するならば、「実施例」として記載された技術においても、「SiC基板1」のキャリア濃度、すなわち「SiC基板1」の「ドーパントの初期キャリア(キャリヤー)濃度」を、「10^(15)?10^(17)/cm^(3)程度」としたり、「高濃度ドープ層3」のキャリア(キャリヤー)濃度を「2.9×10^(19)/cm^(3)」程度としたりすることは、当然想定の範囲内であるといえる。

ウ 「SiC基板1」の「ドーパントの初期キャリア濃度」の数値範囲、及び「高濃度ドープ層3」のキャリア濃度の数値範囲について、さらに検討する。
下記の周知例1及び2に記載のように、炭化珪素基板を備えるMOSFETにおいて、Niからなるドレイン電極やソース電極が形成される炭化珪素からなるドレイン領域またはソース領域の不純物濃度を、10^(19)cm^(-3)以上とすることは、周知技術である。

(ア)周知例1:特開平8-213606号公報
・「【0007】
【作用】…(略)…またソース領域とドレイン領域の表面層に形成する高濃度の第一導電形層はその表面に形成されるソース電極およびドレイン電極との接続がオーミック性を確保する働きがある。」

・「【0008】
【実施例】図1はこの発明の一実施例を示す横形高耐圧MOSFETの断面構造図である。炭化ケイ素半導体基板1上にエピタキシャル成長でn層2とp層3を積層し、積層基板とする。p層3の表面層にn^(+ )ソース領域4を選択的に形成し、つぎにn^(+ )ソース領域4を有するp層3を部分的に除去し、n層2を露出させ、露出したn層2の表面層にn^(+ )ドレイン領域6を形成し、n^(+ )ソース領域4とn層2とに挟まれたp層3の側面にゲート絶縁膜8を介してゲート電極9を形成する。n^(+ )ソース領域4上とn^(+ )ドレイン領域6上にソース電極10とドレイン電極11を同時に形成し、p層3上に金属電極12を形成する。…(略)…
【0009】図2はこの発明の製造工程の一実施例を示し、同図(a)ないし同図(d)は先行の工程を順番に示している。同図(a)は不純物濃度が10^(18)cm^(-3)程度のn形ないしp形の炭化ケイ素半導体基板1に10^(15)cm^(-3)ないし10^(16)cm^(-3)、厚さが10μmないし数十μmのn形エピタキシャル層(n層2)および10^(17)cm^(-3)程度、厚さが数μmのp形エピタキシャル層(p層3)を積層し、積層基板100を形成する工程図を示す。同図(b)は…(略)…。同図(c)はn+ ソース領域4を有するp層3にゲート溝5を形成し、n層2を露出させ、その露出したn層2の表面層に不純物濃度が10^(19)cm^(-3)以上、深さが0.2μmないし0.4μmのn^(+ )ドレイン領域6を形成した工程図を示す。このゲート溝5の形成は…(略)…。またn^(+ )ドレイン領域6は窒素(N)などのイオン注入で形成する。同図(d)は…(略)…。
【0010】図3は図2に引き続く後工程を順番に同図(a)ないし同図(b)に示す。同図(a)はゲート電極9下のゲート酸化膜8以外の酸化膜81を除去し、n^(+ )ソース領域4上およびn^(+ )ドレイン領域6上にソース電極10、ドレイン電極11をオーミックコンタクトするようにそれぞれ形成する工程図を示す。尚、n^(+ )ソース領域4上およびn^(+) ドレイン領域6上にオーミックコンタクトするソース電極10、ドレイン電極11の材質はNi、Moなどである。もしp形半導体でソース領域、ドレイン領域を形成する場合はオーミックコンタクトする電極の材質はAl、Tiなどである。」

(イ)周知例2:特開平11-121744号公報
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、炭化珪素(SiC)を用いた半導体装置の電極取り出し部におけるコンタクト抵抗を低減した半導体装置及びその製造方法に関し、特にMOSトランジスタ等に適用すると好適である。」

・「【0028】これにより、n^(+ )型炭化珪素半導体基板1上に形成されたn^(- )型炭化珪素半導体層2とp^(- )型炭化珪素半導体層3とからなるダブルエピ上に、さらに3Cの炭化珪素からなるn^(- )型炭化珪素半導体層20を備えたウェハが形成される。
〔図3(b)に示す工程〕ウェハ上に積層形成したLTOからなるマスク材21を形成し、700℃の温度下で、窒素(N_(2 ))イオンをドーズ量8×10^(15)cm^(-2)で注入する。これにより、n^(- )型炭化珪素半導体層20及びp^(- )型炭化珪素半導体層3の表層部の所定領域にn^(+ )型ソース領域5が形成される。このため、n^(+ )型ソース領域5の上部は3Cの炭化珪素で、下部は六方晶の炭化珪素で形成される。この後、1300℃、10秒間のアニーリング処理を施す。
【0029】〔図3(c)に示す工程〕マスク材21を除去したのち、再びn^(+ )型ソース領域5の表面をマスク材22で覆い、700℃の温度下で、アルミニウムイオンをドーズ量2×10^(16)cm^(-2)で注入する。すなわち、上述したように、アルミニウムイオンを注入するときの表面層が3Cの炭化珪素からなるn^(+ )型炭化珪素半導体層20であるため、アルミニウムイオンのドーズ量を多くでき、この場合、不純物濃度を1×10^(21)cm^(-3)という非常に高いものにすることができる。このため、取り出し部におけるコンタクト抵抗を低減することができる。
【0030】このようにして、n^(+ )型ソース領域5の周囲におけるn^(- )型炭化珪素半導体層20及びp^(- )型炭化珪素半導体層3の表層部にp^(+ )型炭化珪素半導体領域4が形成される。…(略)…
【0034】〔図5(b)に示す工程〕ゲート電極層10上面に気相成長法(例えば化学蒸着法)等によりLTOからなる絶縁膜11を形成する。
〔図5(c)に示す工程〕フォト・エッチングによって絶縁膜11及び熱酸化膜9の所定領域に、n^(+ )型ソース領域5及びp^(+ )型炭化珪素半導体領域4に連通するコンタクトホールを選択的に形成する。この後、絶縁膜11上を含むn^(+ )型ソース領域5とp^(+ )型炭化珪素半導体層4の表面に、例えばNiからなるソース電極12を形成する。そしてさらに、n^(+) 型炭化珪素半導体基板1の裏側に、例えばNiからなるドレイン電極13を形成する。これにより、図1に示す構成を有する縦型パワーMOSFETが完成する。」

・「【0043】…(略)…なお、上記実施形態では、縦型パワーMOSFETのソース領域5について述べたが、上記ソース領域5に限らず炭化珪素半導体領域と金属電極とのコンタクトをとる部分に本発明を適用することができる。」

エ そして、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、上記「当然想定の範囲内」の数値範囲を勘案するとともに、上記周知例1、2に接した当業者であるならば、「SiC基板1」の「ドーパントの初期キャリア濃度」の数値範囲、及び「高濃度ドープ層3」のキャリア濃度の数値範囲を、それぞれ、「1×10^(15)cm^(-3)?1×10^(19)cm^(-3)」、「『SiC基板の裏面から上面に向かってドーパント濃度が漸次低下しており』、該高濃度ドープ層における『キャリア(キャリヤー)濃度が1×10^(18)cm^(-3)?1×10^(20)cm^(-3)であり、初期キャリア(キャリヤー)濃度に比べて高い』」ものとすることは、容易になし得たことである。

オ したがって、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、各構成要素のキャリア濃度を設定することにより、本願発明の上記相違点1及び2に係る構成を備えたものとすることは、当業者であれば適宜なし得る程度のことである。

よって、相違点1及び2は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(2)相違点3について
引用例2の段落【0007】には、高濃度ドープ層3に接触させる金属電極5の電極材料としてNiを用いることが記載されている。
したがって、上記(1)で検討したように、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、金属層78(オーミックコンタクト)を、「ニッケルからなる」コンタクトとすることは当業者であれば適宜なし得たことである。

よって、相違点3は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(3)判断についてのまとめ
以上検討したとおり、相違点1ないし相違点3は、いずれも当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。
したがって、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、周知技術を勘案することにより、引用発明及び引用例2に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、請求項1?4、6?8に係る発明について検討するまでもなく、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-10 
結審通知日 2015-03-11 
審決日 2015-03-25 
出願番号 特願2011-108544(P2011-108544)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安田 雅彦  
特許庁審判長 小野田 誠
特許庁審判官 松本 貢
恩田 春香
発明の名称 裏面オーミックコンタクトを備えた縦型の半導体デバイス  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 大牧 綾子  
代理人 竹内 茂雄  

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