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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 B41M |
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管理番号 | 1304588 |
審判番号 | 不服2014-9756 |
総通号数 | 190 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-10-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-26 |
確定日 | 2015-08-20 |
事件の表示 | 特願2010-157063「光沢紙及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月26日出願公開、特開2012- 16928〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成22年7月9日を出願日とする出願であって、平成25年11月14日付けの拒絶理由の通知に対し、平成26年1月22日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年5月26日に審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2 平成26年5月26日提出の手続補正書によりなされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年5月26日提出の手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1)本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項5に付した番号を4に変更するとともに、本件補正前の請求項5の 「透気性を有する基材の少なくとも片面上に顔料とバインダーとを含有する1層以上のインク受理層を塗設し、該インク受理層の最表層上に光沢層がリウェット法によるキャストコート法で塗設した光沢紙において、 前記インク受理層の顔料は、気相法シリカ、気相法アルミナの中から選ばれる1種以上であり、かつ、BET比表面積が100?400m^(2)/gであり、 前記インク受理層のバインダーは、シラノール変性ポリビニルアルコールを含有し、 前記光沢層が、前記弱酸を含有し、かつ、前記光沢層の表面pHが、2.0?7.0であることを特徴とする光沢紙。」 との記載を、 「透気性を有する基材の少なくとも片面上に顔料とバインダーとを含有する1層以上のインク受理層を塗設し、該インク受理層の最表層上に光沢層がリウェット法によるキャストコート法で塗設した光沢紙において、 前記インク受理層の顔料は、気相法シリカ、気相法アルミナの中から選ばれる1種以上であり、かつ、BET比表面積が100?400m^(2)/gであり、 前記インク受理層のバインダーは、シラノール変性ポリビニルアルコールを含有し、 前記光沢層が、弱酸を含有し、かつ、前記光沢層の表面pHが、2.0?7.0であり、 前記弱酸は、カルボン酸類、ホウ酸類の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする光沢紙。」 へと補正する事項(以下「本件補正事項」という。)を含むものである(下線は請求人が補正箇所を示すものとして付したものである)。 (2)本件補正事項は、次の2つからなる。そして、いずれも、本願の願書に最初に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであると認められる。 ア 「前記光沢層が、前記弱酸を含有し」との記載を「前記光沢層が、弱酸を含有し」とする補正事項。 イ 「弱酸」が「カルボン酸類、ホウ酸類の中から選ばれる1種以上である」との限定を付加する補正事項。 (3)上記(2)アの補正事項は、特許法第17条の2第5項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当する。 また、上記(2)イの補正事項は、本件補正前の請求項5に記載された発明と本件補正後の請求項4に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 2 補正の適否 そこで、本件補正後の請求項4に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (1)本願補正発明 本願補正発明は、上記1(1)において本件補正後の請求項4として記載したとおりのものである。 (2)引用例 ア 原査定の拒絶の理由で引用された特開2007-130791号公報(以下「引用例」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。 (ア)「【特許請求の範囲】」、 「透気性の支持体上に少なくとも下層と上層を設け、キャスト処理をして製造されるインクジェット記録媒体の製造方法において、下層が吸水性無機顔料、ラテックスからなるバインダー、ホウ酸またはその塩を含有し、かつ上層がサブミクロン顔料、ポリビニルアルコールを含有しており、上層の表面のpHが8以上になる状態を得た後に、酸を含む液を用いて上層の表面のpHが5.5以下になるように処理する事を特徴とするインクジェット記録媒体の製造方法。」(【請求項1】) (イ)「【発明を実施するための最良の形態】」、 「本発明において、透気性の支持体としては主に紙が用いられるが、不織布等も使用することが出来る。」(段落【0009】)、 「本発明においてキャスト処理とは湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面に圧着することにより鏡面形状を塗工層の表面に転写すると共に、水分を乾燥除去して記録媒体に光沢度を付与する処理を言う。キャスト処理に使用する装置(キャスト装置)は通常、表面がクロムメッキされたシリンダーの表面に弾性ロールを用いて連続的に塗工紙を圧着する装置であるが、本発明には同様の作用を有する他の構造の装置を用いても良い。本発明のインクジェット記録媒体を製造するにあたり用いるキャスト処理の方式としては、上下両層の塗液を塗工後、乾燥させてから再度水分を付与し、その後キャスト装置の鏡面に圧着するいわゆるリウェット法があり、又、上下両層の塗液を塗工後乾燥させずそのままキャスト装置の鏡面に圧着するいわゆる直接法を例示する事が出来るが、これらに限定されるものではない。」(段落【0011】)、 「本発明の上層で用いるサブミクロン顔料とは、その分散液をガラス等の適切な基板上に散布し、走査型電子顕微鏡で観察したときに、観察野において粒子が占める面積の80%以上を長辺1μm以下の粒子が占める無機顔料を示す。その種類は特に制限されないが、ゲル法シリカ、沈降法シリカ、コロイダルシリカ、気相法シリカ、気相法アルミナ、擬ベーマイト等を例示することができる。特に、該観察野において粒子が占める面積の80%以上を長辺400nm以下の粒子が占める無機顔料を用いることで、特に高い表面光沢が得られることから好ましい。又、該観察野において粒子が占める面積の80%以上を長辺100nm以上の粒子が占める無機顔料を用いると、上層塗液を塗工後高速に乾燥しても塗工層のひび割れ等の欠陥が生じにくいことから好ましい。」(段落【0021】)、 「また、本発明の上層に用いるサブミクロン顔料としては、比表面積がある程度以上あるものを用いると高い印刷濃度が得られることから好ましい。一方比表面積が大きすぎると、インクの吸収性が低下することがあるから好ましくない。具体的には、該サブミクロン顔料のBET法による比表面積は60?600m^(2)/gであることが好ましく、150?400m^(2)/gであることがより好ましい。なお、このような比表面積を有する顔料は通常、直径数十nm以下の1次粒子が結合し、その内部に空隙を有する高次構造を形成してなる顔料である。又、これらの吸水性無機顔料は単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて使用することも出来る。」(段落【0022】)、 「本発明に於いてサブミクロン顔料とカチオン性ポリマーを併用する事もできる。カチオン性ポリマーを添加すると耐水性、耐光性、インク吸収性が向上するので好ましい。・・・」(段落【0023】)、 「本発明の上層に使用されるポリビニルアルコールとしては、70mol%から100mol%までの種々のけん化度のポリビニルアルコールが使用できる。またシリル基、カルボキシル基、アミノ基、アセトアセチル基等種々の官能基を導入したり、エチレン等他の繰り返し単位をランダム的、グラフト的、またはブロック的に導入した変性ポリビニルアルコールも使用することができる。本発明におけるポリビニルアルコールの添加量は、少なすぎると乾燥時に亀裂が生じたり、形成されるインクジェット記録媒体の表面強度が不足することがある。一方、ポリビニルアルコールの添加量が多すぎるとインク吸収性が低下することがある。具体的には、ポリビニルアルコールの添加量はサブミクロン顔料の2?60質量%であることが好ましく、5?25質量%であることがより好ましい。」(段落【0024】)、 「本発明は上層の表面pHが8以上になる状態を得た後に、酸を含む液を用いて上層の表面pHが5.5以下になるように処理するインクジェット記録媒体の製造方法であるため、塗工層を酸含有の液で処理する。表面pHを5.5以下に処理するために、酸としては酢酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸、リン酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、乳酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸、ホウ酸、グリコール酸、マロン酸、アジピン酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸、安息香酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸や無機酸及びこれらの酸の酸性塩である蟻酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硫酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、L-酒石酸水素カリウム等を用いることが出来るが、これらに限定されるわけではない。また本発明に於けるキャストの方法を用いる場合にはリウェットに用いる水に添加する事も出来る。」(段落【0031】)、 (ウ)「【実施例1】」、 「[下層塗液の作製] 水350部に四ホウ酸ナトリウム十水和物10部(H_(3)BO_(3)換算で1.62部)を溶解し、ここに湿式合成シリカ(トクヤマ社製ファインシールX-37B)100部を添加した後ノコギリ型ブレードを有する分散機を用いて十分に分散した。その後固形分が48質量%のスチレン-ブタジエン(SBR)ラテックス(JSR社製0623N)83.3部(不揮発分として40部)を添加・混合し、下記上層塗液1を用いて上層を塗工した後の上層の表面pHが8.2になるように水酸化ナトリウムでpH調整して下層塗液1を得た。尚、ここで用いた湿式合成シリカについて、アマニ油の代わりに水を用い、JIS K5101に定められた吸油量の試験に準じた試験を行ったところ、終点までにその100gあたり300mlの水が使用された。」(段落【0035】)、 「[アルミナ水和物ゾルの調整] 水299部に酢酸1部を混合し、擬ベーマイト構造を有するアルミナ水和物(サソール社製Disperal HP14)100部を添加し、そのまま2時間攪拌して解膠し、ガラス基盤上に散布して走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察野において粒子が占める面積の80%以上を、長辺100?400nmの粒子が占めていた。」(段落【0036】)、 「[上層塗液1の作製] 上で得られたアルミナ水和物ゾルの100部(固形分25部)に、けん化度88mol%、4質量%水溶液の25℃に於ける粘度95mPa・秒のポリビニルアルコール(クラレ社製PVA235)の10%水溶液20部(固形分2部)を添加し、上層塗液1を作製した。」(段落【0037】)、 「[インクジェット記録媒体の作製] 坪量157g/m^(2)の原紙(三菱製紙社製ダイヤフォーム)上に、下層塗液1をエアナイフコーターで乾燥後の塗工量が10g/m^(2)になるように塗工し、熱風乾燥機を用いて 乾燥させた。次いで得られた塗工紙をソフトカレンダーを用いて処理した後、上層塗液1を乾燥後の塗工量が10g/m^(2)になるようにエアナイフコーターで塗工し、熱風型乾燥機を用いて乾燥させた。さらに得られた塗工紙をソフトカレンダーを用いて処理した。この塗工紙の上層の表面pHをJ.TAPPI紙パルプ試験方法No.49-1に従い堀場製作所社製のES-12型pHメーターに同社製フラット電極を装着し、下敷きにゴム板を敷き、上層の表面上にスポイトを用いて蒸留水を1滴滴下し、平面電極を湿潤面に1分間接触させて測定して、上層の表面pHが8.2である事を確認した。この塗工紙の表面を、pH調整剤として最終の上層の表面pHが5.3になるように濃度を調整した酢酸を含む水に接触させて湿潤した後、温度95℃に加熱したキャスト装置の鏡面クロムメッキシリンダーに、線圧20kN/m、速度5m/minで圧着し、乾燥後にシリンダーより剥離して、実施例1のインクジェット記録媒体を得た。」(段落【0038】) (エ)「【実施例2】」、 「最後に上層の表面pHが4.3になるようにキャスト前の湿潤に用いる水中の酢酸濃度を調整した以外は実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録媒体を作製した。」(段落【0039】) (オ)「【実施例3】」、 「最後に上層の表面pHが3.5になるようにキャスト前の湿潤に用いる水中の酢酸濃度を調整した以外は実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録媒体を作製した。」(段落【0040】)、 (カ)「[比較例2] 最後に上層の表面pHが6.3になるようにキャスト前の湿潤に用いる水中の酢酸の濃度を調整した以外は実施例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録媒体を作製した。」(段落【0042】) (キ)「【表1】 」(段落【0053】) イ 上記アの各記載によれば、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「透気性の支持体上に少なくとも下層と上層を設け、キャスト処理をして製造されるインクジェット記録媒体において、下層が吸水性無機顔料、ラテックスからなるバインダー、ホウ酸またはその塩を含有し、かつ上層がサブミクロン顔料、ポリビニルアルコールを含有しており、上層の表面のpHが8以上になる状態を得た後に、酸を含む液を用いて上層の表面のpHが5.5以下になるように処理する事により製造されたインクジェット記録媒体であって、 上記透気性の支持体としては紙が用いられ、 上記キャスト処理は、湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面に圧着することにより鏡面形状を塗工層の表面に転写すると共に、水分を乾燥除去して記録媒体に光沢度を付与する処理であって、上下両層の塗液を塗工後、乾燥させてから再度水分を付与し、その後キャスト装置の鏡面に圧着するいわゆるリウェット法であり、 上記サブミクロン顔料には、気相法シリカ、気相法アルミナを例示することができ、 該サブミクロン顔料のBET法による比表面積は150?400m^(2)/gであり、 上層に使用されるポリビニルアルコールとしては、シリル基、カルボキシル基、アミノ基、アセトアセチル基等種々の官能基を導入したり、エチレン等他の繰り返し単位をランダム的、グラフト的、またはブロック的に導入した変性ポリビニルアルコールも使用することができ、 上記酸を含む液は、酢酸をリウェットに用いる水に添加したものである、 インクジェット記録媒体。」 (3)対比 ア 本願補正発明と引用発明とを以下に対比する。 (ア)引用発明の「透気性の支持体」は、本願発明の「透気性を有する基材」に相当する。 (イ)引用発明の「上層」は、「サブミクロン顔料」及び「ポリビニルアルコール」を含有しているところ、これらが、それぞれ、本願発明の「顔料」及び「バインダー」に相当することは明らかである。 そして、引用発明の「サブミクロン顔料」及び「ポリビニルアルコールを含有」する「上層」は、本願発明の「インク受理層」といえる。 (ウ)引用発明の「インクジェット記録媒体」は、「透気性の支持体上に少なくとも下層と上層を設け、キャスト処理をして製造される」ものであって、「上記キャスト処理は、湿潤状態にある塗工層」に対して行われるものであるから、引用発明は、本願補正発明の「透気性を有する基体の少なくとも片面上に顔料とバインダーとを含有する1層以上のインク受理層を塗設」するとの特定事項を備えている。 (エ)引用発明の「透気性の支持体としては紙が用いられ」ており、「光沢度を付与する処理」がなされている「インクジェット記録媒体」は、本願発明の「光沢紙」に相当する。 (オ)引用発明は、「湿潤状態にある塗工層を加熱した鏡面に圧着することにより鏡面形状を塗工層の表面に転写すると共に、水分を乾燥除去して記録媒体に光沢度を付与する」「キャスト処理」を行うものであるところ、この「塗工層」が「上層」を含むことが明らかである。そして、引用発明の上記「キャスト処理」は「リウェット法」であるとされている。 そうすると、引用発明は、本願発明の「該インク受理層の最表層上に光沢層がリウェット法によるキャストコート法で塗設した」との特定事項を備えていると解される。 (カ)引用発明は「上記サブミクロン顔料には、気相法シリカ、気相法アルミナを例示することができ」るものであるとともに、「該サブミクロン顔料のBET法による比表面積は150?400m^(2)/gであ」るから、引用発明は、本願発明の「前記インク受理層の顔料は、気相法シリカ、気相法アルミナの中から選ばれる1種以上であり、かつ、BET比表面積が100?400m^(2)/gであ」るとの特定事項を備えている。 (キ)引用発明の「酸を含む液」は「酢酸をリウェットに用いる水に添加したもの」であるから、引用発明は、「酸を含む液を用いて上層の表面のpHが5.5以下になるように処理」した後に、「加熱した鏡面に圧着することにより鏡面形状を」上層「の表面に転写すると共に、水分を乾燥除去して記録媒体に光沢度を付与する」ものである。 そして、「酸を含む液を用いた後の上層の表面のpH」は、「加熱した鏡面に圧着することにより鏡面形状を」上層「の表面に転写すると共に、水分を乾燥除去して記録媒体に光沢度を付与する」処理の前後において変化することはないと解されるし、このことは、引用例の【表1】において、「酸処理後の上層表面pH」と「記録媒体の上層表面pH」とが変化していないことからも裏付けられる。 したがって、引用発明の(「光沢度を付与する処理」後の)「インクジェット記録媒体」の「上層の表面」は「酢酸」を含有するものと認められる。 そして、「酢酸」は、本願補正発明の「弱酸」及び「カルボン酸類」に相当するものである。 よって、本願補正発明と引用発明とは、「前記光沢層が、弱酸を含有し、かつ、前記光沢層の表面pHが、」5.5以下である点で一致する。 イ 上記アによれば、本願補正発明と引用発明とは、 「透気性を有する基材の少なくとも片面上に顔料とバインダーとを含有する1層以上のインク受理層を塗設し、該インク受理層の最表層上に光沢層がリウェット法によるキャストコート法で塗設した光沢紙において、 前記インク受理層の顔料は、気相法シリカ、気相法アルミナの中から選ばれる1種以上であり、かつ、BET比表面積が100?400m^(2)/gであり、 前記光沢層が、弱酸を含有し、かつ、前記光沢層の表面pHが、5.5以下であり、 前記弱酸は、カルボン酸類、ホウ酸類の中から選ばれる1種以上であることを特徴とする光沢紙。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] インク受理層のバインダーが含有する材料について、本願補正発明は「シラノール変性ポリビニルアルコール」であるのに対し、引用発明は、シリル基、カルボキシル基、アミノ基、アセトアセチル基等種々の官能基を導入したり、エチレン等他の繰り返し単位をランダム的、グラフト的、またはブロック的に導入した変性ポリビニルアルコールも使用することができるとされており、シラノール変性ポリビニルアルコールの明記がない点。 [相違点2] 光沢層の表面pHについて、本願補正発明は、2.0を下限とするのに対し、引用発明にはそのような明記がない点。 (4)相違点の判断 ア 上記各相違点について検討する。 (ア)[相違点1]について 光沢発現層のバインダーとして、シラノール変性ポリビニルアルコールを用いることは周知である(例えば、特開2009-226684号公報の段落【0040】・【0050】、特開2010-100001号公報の段落【0039】・【0040】、特開2007-125729号公報の【請求項1】・段落【0016】、特開2010-149445号の段落【0010】・【0013】を参照。)。なお、これらの周知例では、リウェット法による処理も想定されていると認められる。 そして、引用発明の「上層」は、光沢発現層に当たるものと解され、また、「上層」が「含有して」いる「ポリビニルアルコール」として「変性ポリビニルアルコールを使用することができ」るとされている。そうすると、引用発明の「上層」が「含有して」いる「ポリビニルアルコール」として、シラノール変性ポリビニルアルコールを採用して、上記[相違点1]の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。 (イ)[相違点2]について 引用例には、記録媒体の上層表面pHとして、5.3(実施例1)、4.3(実施例2)、3.5(実施例3)が記載されている(上記(2)ア(キ)の【表1】参照。)から、引用発明において上記[相違点2]の構成となすことは格別困難なことではない。 (ウ)本願補正発明のようにしたことによる効果は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に比して格別顕著なものとはいえない。 イ したがって、本願補正発明は、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反してなされたものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成26年1月22日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項5に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)で本件補正前の請求項5として記載したとおりのものである。 2 引用例 原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願発明は、上記第2の[理由]2で検討した本願補正発明から、「弱酸」が「カルボン酸類、ホウ酸類の中から選ばれる1種以上である」との限定を省くとともに、訂正した誤記を訂正前の記載に戻したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに実質的に相当する本願補正発明が、上記第2の[理由]2に記載したとおり、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例に記載された事項及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-22 |
結審通知日 | 2015-06-23 |
審決日 | 2015-07-06 |
出願番号 | 特願2010-157063(P2010-157063) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41M)
P 1 8・ 573- Z (B41M) P 1 8・ 572- Z (B41M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野村 伸雄 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
山村 浩 大瀧 真理 |
発明の名称 | 光沢紙及びその製造方法 |
代理人 | 今下 勝博 |
代理人 | 岡田 賢治 |