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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F
管理番号 1304594
審判番号 不服2014-13918  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-17 
確定日 2015-08-20 
事件の表示 特願2010- 34837「フォールト・トレラントサーバ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-170680〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下,「本願」という。)は,平成22年2月19日の出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 1月11日 :出願審査請求書の提出
平成25年12月19日付け :拒絶理由の通知
平成26年 3月 3日 :意見書の提出
平成26年 4月21日付け :拒絶査定
平成26年 7月17日 :審判請求書の提出
平成27年 3月18日付け :拒絶理由の通知(当審)
平成27年 5月22日 :意見書,手続補正書の提出


第2 本願発明

本願の請求項1乃至7に係る発明は,上記平成27年5月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲請求項1乃至7に記載されたとおりのものであると認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「第1CPU,第1メモリ,及び第1補助記憶装置を有する第1モジュールと,第2CPU,第2メモリ,第2補助記憶装置及びバックアップ機能を有する第2モジュールとを備え,第1モジュール及び第2モジュールによって業務アプリケーションを二重化して実行するフォールト・トレラントサーバであって,
バックアップ時において,
前記第1モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を継続し,
前記第2モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を中断すると共に,前記バックアップ機能が中断時の前記第2メモリ及び前記第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する,フォールト・トレラントサーバ。」


第3 引用例

1 引用例1に記載されている技術的事項および引用発明

(1)本願の出願前に頒布され,当審からの上記平成27年3月18日付け拒絶理由通知において引用された,特開2009-245015号公報(平成21年10月22日出願公開,以下,「引用例1」という。)には,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

A 「【0028】
[実施の形態2]
次に,本発明の実施の形態2における二重化システムについて説明する。図5は,本発明の実施の形態における二重化システムの構成例を示す構成図である。このシステムでは,プロセッサ部ラム制御により動作する主モジュール550と副モジュール550’とを有する二重化コンピュータ500と,バックアップコンピュータ520と,ネットワーク設定記憶部510とを備える。
【0029】
二重化コンピュータ500は,二重化解除機能部501,二重化再同期機能部502,ネットワーク追加機能部503,ネットワーク削除機能部504とを備える。また,主モジュール550は,CPU551,メモリ552,固定ディスク装置(HDD)553,およびLANアダプタなどの接続部554を備える。同様に,副モジュール550’は,CPU551’,メモリ552’,HDD553’,および接続部554’を備える。また,二重化コンピュータ500は,二重化動作時において,両系の接続部554および接続部554’をひとつの仮想LAN接続機能部555にまとめ,いずれかがネットワーク通信を行う構成となっている。
【0030】
また,バックアップコンピュータ520は,二重化解除命令機能部505と二重化命令機能部506とシステム停止機能部507とシステム開始機能部508とを備えている。加えて,テープ装置521を備える。」

B 「【0031】
バックアップコンピュータ520では,あらかじめ二重化解除様態での副モジュール550’のネットワーク設定をネットワーク設定記憶部510に登録する。また,ネットワーク経由で,テープ装置521にディスクイメージ(HDD553’の全体)のバックアップを実施する時に,まず,バックアップコンピュータ520から二重化コンピュータ200へ二重化解除命令手段205により二重化解除のコマンドとネットワーク設定情報ファイル250の設定内容を発行し,二重化の解除を通知する。
【0032】
次に,バックアップ側(例えば副モジュール550’)の接続部554’の設定を無効にし,二重化コンピュータの二重化動作を解除する。次に,ネットワーク追加機能部503により,副モジュール550’における接続部554’のネットワーク設定を初期化し,バックアップコンピュータ520より通知されたネットワーク設定情報により,接続部554’の設定を行い,後接続部554’を有効にする。このようにして新しいネットワーク設定が有効にされると,副モジュール550’は,バックアップコンピュータ520へ解除完了の通知を行う。
【0033】
解除完了の通知を受け付けたバックアップコンピュータ520は,システム停止機能部507により副モジュール550’のシステム終了処理を実行する。次に,バックアップコンピュータ520は,テープ装置521により,副モジュール550’のHDD553’全体のバックアップを行う。
【0034】
バックアップが完了すると,バックアップコンピュータ520は,システム開始機能部508によりLAN経由で副モジュール550’のシステム起動を行う。副モジュール550’のシステムが起動したら,再度二重化する前にネットワーク削除機能部504は,副モジュール550’の接続部554’を無効化する。この後,二重化再同期機能部502により主モジュール550および副モジュール550’の二重化を行う。」

C 「【0045】
上述した本実施の形態2では,非二重化動作においても,各々のモジュールがネットワークと接続可能な状態とされているので,一方のモジュールで業務を停止させることがない状態で,他方のモジュールのシステムのバックアップが可能となるので,システムの可用性が高まる。また,一方のモジュールが通常稼動をしているので,業務がバックアップジョブの実行負荷の影響を受けずに,システムファイルのバックアップが可能となり,システムの運用性が高まる。」

(2)ここで,引用例1に記載されている事項を検討する。

ア 上記Aの「次に,本発明の実施の形態2における二重化システムについて説明する。図5は,本発明の実施の形態における二重化システムの構成例を示す構成図である。このシステムでは,プロセッサ部ラム制御により動作する主モジュール550と副モジュール550’とを有する二重化コンピュータ500と,バックアップコンピュータ520と,ネットワーク設定記憶部510とを備える。」,「また,二重化コンピュータ500は,二重化動作時において,両系の接続部554および接続部554’をひとつの仮想LAN接続機能部555にまとめ,いずれかがネットワーク通信を行う構成となっている。」との記載からすると,「二重化システム」は「二重化コンピュータ」と「バックアップコンピュータ」とを含み,該「二重化コンピュータ」は「主モジュール」と「副モジュール」とから構成されると共に,それらは二重化動作して業務を実行することが読み取れる。
また,上記Aの「また,バックアップコンピュータ520は,二重化解除命令機能部505と二重化命令機能部506とシステム停止機能部507とシステム開始機能部508とを備えている。加えて,テープ装置521を備える。」との記載からすると,「バックアップコンピュータ」は「テープ装置」を備えることが読み取れるから,引用例1には,
“主モジュールと副モジュールとを有する二重化コンピュータと,バックアップコンピュータと,テープ装置とを備え,前記主モジュールと前記副モジュールが二重化動作して業務を実行する二重化システム”が記載されていると解される。

イ 上記Aの「また,主モジュール550は,CPU551,メモリ552,固定ディスク装置(HDD)553,およびLANアダプタなどの接続部554を備える。同様に,副モジュール550’は,CPU551’,メモリ552’,HDD553’,および接続部554’を備える。」との記載からすると,「二重化コンピュータ」を構成する「主モジュール」および「副モジュール」はそれぞれ,「CPU」,「メモリ」,「固定ディスク装置」を備えることが読み取れるから,引用例1には,
“主モジュールは,CPU551,メモリ552,固定ディスク装置(HDD)553を備え,
副モジュールは,CPU551’,メモリ552’,固定ディスク装置(HDD)553’を備え”
た「二重化システム」が記載されていると解される。

ウ 上記Bの「また,ネットワーク経由で,テープ装置521にディスクイメージ(HDD553’の全体)のバックアップを実施する時に,まず,バックアップコンピュータ520から二重化コンピュータ200へ二重化解除命令手段205により二重化解除のコマンドとネットワーク設定情報ファイル250の設定内容を発行し,二重化の解除を通知する。…(中略)…次に,バックアップ側(例えば副モジュール550’)の接続部554’の設定を無効にし,二重化コンピュータの二重化動作を解除する。」との記載からすると,「二重化システム」においてバックアップを実施する時には,「バックアップコンピュータ」が「二重化コンピュータ」の二重化動作を解除することが読み取れる。
また,上記Bの「解除完了の通知を受け付けたバックアップコンピュータ520は,システム停止機能部507により副モジュール550’のシステム終了処理を実行する。」との記載,上記Cの「上述した本実施の形態2では,非二重化動作においても,各々のモジュールがネットワークと接続可能な状態とされているので,一方のモジュールで業務を停止させることがない状態で,他方のモジュールのシステムのバックアップが可能となるので,システムの可用性が高まる。また,一方のモジュールが通常稼動をしているので,業務がバックアップジョブの実行負荷の影響を受けずに,システムファイルのバックアップが可能となり,システムの運用性が高まる。」との記載からすると,「二重化コンピュータ」の二重化動作を解除されると,「副モジュール」はシステム終了処理を実行する一方で,「主モジュール」は業務を停止させない状態,すなわち,通常稼働で業務を継続することが読み取れるから,引用例1には,
“バックアップを実施する時に,前記バックアップコンピュータが,前記二重化コンピュータの二重化動作を解除すると,前記主モジュールは業務を継続し,前記副モジュールはシステムを終了処理”
する「二重化システム」が記載されていると解される。

エ 上記Bの「次に,バックアップコンピュータ520は,テープ装置521により,副モジュール550’のHDD553’全体のバックアップを行う。」との記載からすると,終了処理された「副モジュール」について,「テープ装置」に「HDD553’」全体のバックアップを行うことが読み取れるから,引用例1には,
“副モジュールのシステムが停止すると,前記バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う”
「二重化システム」が記載されていると解される。

(3)以上,ア乃至エの検討によれば,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「主モジュールと副モジュールとを有する二重化コンピュータと,バックアップコンピュータと,テープ装置とを備え,前記主モジュールと前記副モジュールが二重化動作して業務を実行する二重化システムであって,
前記主モジュールは,CPU551,メモリ552,固定ディスク装置(HDD)553を備え,
前記副モジュールは,CPU551’,メモリ552’,固定ディスク装置(HDD)553’を備え,
バックアップを実施する時に,前記バックアップコンピュータが,前記二重化コンピュータの二重化動作を解除すると,前記主モジュールは業務を継続し,前記副モジュールはシステムを終了処理し,
前記副モジュールのシステムが停止すると,前記バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う,二重化システム。」

2 引用例2に記載されている技術的事項

(1)本願の出願前に頒布され,当審からの上記平成27年3月18日付け拒絶理由通知において引用された,特開2009-86701号公報(平成21年4月23日出願公開,以下,「引用例2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

D 「【0007】
本発明の1つの観点によれば,仮想マシンがそれぞれ動作可能な,第1及び第2の物理計算機を含む複数の物理計算機を備えた仮想計算機システムが提供される。この仮想計算機システムは,前記複数の物理計算機によって共有されるディスク装置であって,前記複数の物理計算機のうちの任意の物理計算機で動作する仮想マシンが仮想ディスクとして使用可能なデータ領域を提供するディスク装置と,前記仮想マシンと当該仮想マシン上で動作するアプリケーションとに対応付けられたログテーブルに,前記アプリケーションで処理される入力データ,当該入力データに応じて前記アプリケーションで実行される処理の結果としての出力データ及び当該入力データの入力時刻を示す情報の組を,前記アプリケーションを当該仮想マシンが実行することによって提供されるサービスを利用するクライアントマシンとの間の通信の履歴として時系列順に記録する通信記録装置とを具備する。また,前記第1の物理計算機は,当該第1の物理計算機で前記仮想マシンが動作する場合,当該仮想マシンの動作状態及び当該仮想マシンの使用する前記仮想ディスクの状態を定期的にスナップショットとして取得して当該仮想マシンに対応付けて前記ディスク装置に保存するスナップショット管理手段を含み,前記第2の物理計算機は,前記第1の物理計算機で前記仮想マシンが動作している状態で,当該第1の物理計算機に第1の時刻で障害が発生した場合,当該第1の時刻に最も近い第2の時刻で取得されて前記仮想マシンに対応付けて前記ディスク装置に保存された前記スナップショットに基づき,前記第2の時刻の状態の前記仮想マシンを前記第2の物理計算機上に復元する第1の復元手段と,前記第2の時刻の状態に復元された仮想マシン上で動作するアプリケーションが,先行する処理に関係せず,どのような状態からでも同じ入力に対して同じ出力と同じ状態遷移が行われる特定タイプのアプリケーションである場合,前記第2の時刻の状態に仮想マシンと前記アプリケーションとに対応付けられた前記ログテーブルに記録されている前記第2の時刻から前記第1の時刻までの入力データを,前記アプリケーションで処理されるべきデータとして,予め定められた並列度で前記第2の時刻の状態に復元された仮想マシンに投入することにより,当該仮想マシンを前記第1の時刻の直前の状態に復元する特定復元タイプの復元処理を行う第2の復元手段とを含む。」

E 「【0017】
物理計算機10-1及び10-2上では,それぞれスナップショットマネージャ15-1及び15-2も動作する。スナップショットマネージャ15-1及び15-2は,それぞれ,物理計算機10-1及び10-2上で仮想マシンが動作する場合に,定期的に当該仮想マシンの動作状態及び当該仮想マシンが利用する仮想ディスクの内容をスナップショットとして取得してディスク装置100に保存する。仮想マシンの動作状態は,当該仮想マシンに割り当てられているCPUの状態(プログラムカウンタ及びレジスタの状態)及びメモリの状態を含む。
【0018】
物理計算機10-1及び10-2は通信路20を介してクライアントマシン30と接続されている。クライアントマシン30は,物理計算機10-1または10-2上で仮想マシンが動作する場合に,当該仮想マシンの提供するサービスを利用するために,通信路20を介して当該仮想マシンと通信を行う。図1の例では,クライアントマシン20は,物理計算機10-1上で動作する仮想マシン11-1と通信を行う。
…(中略)…
【0021】
ディスク装置100には,スナップショット領域111が確保されている。このスナップショット領域111は,例えば仮想マシン11-1の動作状態及び仮想ディスク110の内容をスナップショット112として定期的に格納するのに用いられる。スナップショット領域111には,当該領域111に格納されたスナップショット112の列を管理するスナップショット管理情報113も格納される。」

3 引用例3に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布され,当審からの上記平成27年3月18日付け拒絶理由通知において引用された,特開平10-97353号公報(平成10年4月14日出願公開,以下,「引用例3」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

F 「【0002】
【従来の技術】従来,特にバッテリにより駆動する携帯型のパーソナルコンピュータには,電源をオフするとき,例えば電源スイッチ(電源SW)をオフ操作したときに,オフ前にディスプレイの状態やシステムの動作状態に関係する情報や,アプリケーションプログラムの動作状態を,バックアップされたメモリに保存して,電源のオン時にその保存した情報を復元してオフ前の状態からシステムを再開するレジューム(resume)機能が設けられている。このレジューム機能(またはサスペンド・レジューム機能)により,メインメモリに格納されている情報や,CPUの内部レジスタにセットされているステータス情報等を保存し,電源のオン時にそれらを復元することができる。
【0003】ところで,レジューム機能に必要なメモリのバックアップ電源としては,充電式バッテリや補助電池が使用されている。しかしながら,補助電池の交換忘れやバッテリの残容量(現時点で使用可能な電力容量)が不十分な場合に,レジューム機能が実行されると,メモリに保存すべき情報(メモリ内容)が消去してしまう事態が発生する。そこで,レジューム機能の実行時に,メモリ内容をシステムが搭載しているハードディスク装置(HDD)に保存することにより,完全にシステムの電源供給が停止された場合でも,メモリ内容を保護できるハイバネーション方式と称するレジューム機能が開発されている。
【0004】近年,いわゆるノート型と称する携帯型のパーソナルコンピュータにおいても,小型でかつ大容量のHDDが搭載されているため,このHDDにシステムの動作状態に関する情報や,アプリケーションプログラムの動作状態を保存するハイバネーション方式のレジューム機能は有効である。HDDは,バックアップ電源を必要とせずにデータの保存を維持できる一種の不揮発性記憶手段であり,半永久的に確実にレジューム機能を実現できる。」


第4 参考文献

1 参考文献1に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布された,特開2008-59443号公報(平成20年3月13日出願公開,以下,「参考文献1」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

G 「【0009】
従って,本発明の目的は,バックアップサーバー不要でバックアップ及びリストアができ,バックアップを行った記憶サブシステムにリストア必要情報がなくても,一部バックアップされたデータのリストアが可能であるようにする。」

H 「【0041】
ホスト計算機100,記憶サブシステム101及び管理端末103は,ファイバチャネルを用いて接続されており,情報や処理要求等の受け渡しが行われる。ホスト計算機100,記憶サブシステム101及び管理端末103は,LAN(Local Area Network)等の通信ネットワークで接続されていても良いし,専用線などで接続されても良い。
【0042】
ホスト計算機100は,記憶サブシステム101に情報を書き込んだり読み込んだりするアプリケーション111と,ボリュームのペア制御指示を発行するボリュームのペア制御指示プログラム112と,バックアップ/リストア制御指示を発行するバックアップ/リストア制御指示プログラム113と,アプリケーション111,ボリュームのペア制御指示プログラム112及びバックアップ/リストア制御指示プログラム113を記憶するメモリ121と,アプリケーション111,ボリュームのペア制御指示プログラム112及びバックアップ/リストア制御指示プログラム113を実行するためのCPU(Central Processing Unit)122とを備える。ボリュームのペア制御指示プログラム112を実行するCPU122は,ペア形成指示,ペア再同期指示,ペア分割指示及びペア削除指示等の種々のコマンドを発行する。以下,プログラムが主語になる場合は,実際にはそのプログラムを実行するCPUによって処理が行われるものとする。バックアップ/リストア制御指示プログラム113は,フルバックアップ開始指示,差分バックアップ開始指示,増分バックアップ開始指示及びリストア開始指示等の種々のコマンドを発行する。」

2 参考文献2に記載されている技術的事項

本願の出願前に頒布された,特開2008-204036号公報(平成20年9月4日出願公開,以下,「参考文献2」という。)には,関連する図面とともに,以下の技術的事項が記載されている。
(当審注:下線は,参考のために当審で付与したものである。)

J 「【0052】
図3は,本発明のデータバックアップシステムにおいてデータ転送機能を示すブロック図である。
【0053】
バックアップ対象サーバから,管理PCへバックアップを開始するとき(a2),バックアップ対象サーバ内では,インストールされているバックアップソフトウェアから予め設定されているスケジュールプログラムが開始されるc1。
【0054】
このバックアップソフトウェアバックアップ対象ドライブ毎バックアップc2をイメージファイルに変換し管理PC側へ行う。
【0055】
バックアップ対象サーバから送られてきたイメージファイル化されたバックアップファイルのデータは管理PC内のディスクにある共有領域c3に格納され,バックアップファイルとして保存される(a3)。」


第5 対比

1 本願発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明の「主モジュール」と「副モジュール」は二重化動作し,バックアップ時には「副モジュール」が業務を停止し,「二重化コンピュータ」は「主モジュール」と「副モジュール」とを有することから,引用発明の「主モジュール」,「副モジュール」,「二重化コンピュータ」はそれぞれ,「第1モジュール」,「第2モジュール」,「フォールト・トレラントサーバ」と言えるものである。

(2)引用発明の「主モジュール」は,「CPU551」,「メモリ552」,「固定ディスク装置(HDD)553」を備え,「副モジュール」は,「CPU551’」,「メモリ552’」,「固定ディスク装置(HDD)553’」を備えるところ,上記(1)の検討から,引用発明の「主モジュール」,「副モジュール」はそれぞれ,本願発明の「第1モジュール」,「第2モジュール」に対応すると言えることから,引用発明の「CPU551」,「メモリ552」,「固定ディスク装置(HDD)553」は本願発明の「第1CPU」,「第1メモリ」,「第1補助記憶装置」に相当し,引用発明の「CPU551’」,「メモリ552’」,「固定ディスク装置(HDD)553’」は本願発明の「第2CPU」,「第2メモリ」,「第2補助記憶装置」に相当すると言える。
したがって,引用発明と本願発明とは,“第1CPU,第1メモリ,及び第1補助記憶装置を有する第1モジュールと,第2CPU,第2メモリ,第2補助記憶装置を有する第2モジュールとを備え,第1モジュール及び第2モジュールによって業務アプリケーションを二重化して実行するフォールト・トレラントサーバ”である点で共通すると言える。

(3)引用発明は,「バックアップを実施する時に,前記バックアップコンピュータが,前記二重化コンピュータの二重化動作を解除すると,前記主モジュールは業務を継続し,前記副モジュールはシステムを終了処理」するところ,「主モジュール」,「副モジュール」が実行する「業務」は「業務」に係る「プログラム」であることは明らかであり,「副モジュールはシステムを終了処理」するとは,業務プログラムの実行を中断することに他ならない。
また,引用発明は,「副モジュールのシステムが停止すると,前記バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う」ところ,引用発明の「副モジュール」は本願発明の「第2モジュール」に対応し,引用発明の「固定ディスク装置(HDD)553’」は本願発明の「第2補助記憶装置」に相当することから,引用発明と本願発明とは,“中断時の前記第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する”点で共通すると言える。
そうすると,引用発明の「バックアップを実施する時に,前記バックアップコンピュータが,前記二重化コンピュータの二重化動作を解除すると,前記主モジュールは業務を継続し,前記副モジュールはシステムを終了処理し,前記副モジュールのシステムが停止すると,前記バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う」と,本願発明の「バックアップ時において,前記第1モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を継続し,前記第2モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を中断すると共に,前記バックアップ機能が中断時の前記第2メモリ及び前記第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する」とは,後記する点で相違するものの,“バックアップ時において,第1モジュールは,業務アプリケーションの実行を継続し,第2モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を中断すると共に,中断時の第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する”点で共通すると言える。

2 以上から,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,以下の点で相違する。

<一致点>

「第1CPU,第1メモリ,及び第1補助記憶装置を有する第1モジュールと,第2CPU,第2メモリ,第2補助記憶装置を有する第2モジュールとを備え,第1モジュール及び第2モジュールによって業務アプリケーションを二重化して実行するフォールト・トレラントサーバであって,
バックアップ時において,
前記第1モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を継続し,
前記第2モジュールは,前記業務アプリケーションの実行を中断すると共に,中断時の前記第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する,フォールト・トレラントサーバ。」

<相違点1>
バックアップ情報の対象範囲に関し,本願発明は,「中断時の前記第2メモリ及び前記第2補助記憶装置のデータに基づいて,バックアップ情報を作成する」のに対して,引用発明は,「副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う」ものの,「メモリ552’」をバックアップすることについての言及がない点。

<相違点2>
バックアップ機能に関し,本願発明は,バックアップ情報を作成する機能を「第2モジュール」が備えているのに対して,引用発明は,「バックアップコンピュータ」がバックアップを行っており,「副モジュール」がバックアップ機能を備えることについては明記されていない点。


第6 当審の判断

上記相違点1及び2について検討する。

1 相違点1について

引用発明では,「副モジュールのシステムが停止すると,前記バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う」ところ,コンピュータシステムにおいて,メモリに格納されている動作状態データを不揮発性の記憶手段等にバックアップしておき,処理中断後に動作を再開するときには,保存されている動作状態データをメモリに復元して中断時の状態をできるだけ再現する旨の技術は,例えば,引用例2(上記D,Eを参照),引用例3(上記Fを参照)に記載されるように,本願出願前には当該技術分野の周知技術であった。
また,引用発明は,障害発生後のシステムの動作再開に備えて,システムに関するデータのテープ装置へのバックアップを行っていると解されることから,処理中断後に動作を再開するときに中断時の状態を再現することを課題とする点で上記周知技術と共通すると言える。
そうすると,引用発明において上記周知技術を適用し,副モジュールのHDD全体のバックアップに加えて,適宜,副モジュールのメモリのデータに基づいてバックアップを作成すること,すなわち,上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

2 相違点2について

引用発明では,「バックアップコンピュータは,前記テープ装置により前記副モジュールのHDD553’全体のバックアップを行う」ところ,バックアップ機能は「バックアップコンピュータ」が有していると解される。
一方,バックアップ対象コンピュータ自体がバックアップ用のプログラムを備え,該バックアップ用のプログラムにより実現されるバックアップ機能を有し,バックアップ時に記憶手段のデータに基づいてバックアップデータを作成することは,例えば,参考文献1(上記G,Hを参照),参考文献2(上記Jを参照)に記載されるように本願出願前には当該技術分野における周知技術であった。
そして,バックアップ処理を行う際に,バックアップ対象コンピュータ自体が有するバックアップ機能により当該処理を実行するか,別のバックアップ処理コンピュータが有するバックアップ機能により当該処理を実行するかは,当業者であれば適宜選択し得た事項である。
してみると,引用発明において上記周知技術を適用し,バックアップコンピュータがバックアップを行うことに代えて,副モジュールが備えるバックアップ機能によりバックアップ情報を作成すること,すなわち,上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

3 小括

上記で検討したごとく,相違点1及び2に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び引用例2,3などに記載の当該技術分野の周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。


第7 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-19 
結審通知日 2015-06-23 
審決日 2015-07-06 
出願番号 特願2010-34837(P2010-34837)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 俊範  
特許庁審判長 高木 進
特許庁審判官 須田 勝巳
辻本 泰隆
発明の名称 フォールト・トレラントサーバ  
代理人 家入 健  

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