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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1304828
審判番号 不服2014-16897  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-26 
確定日 2015-08-27 
事件の表示 特願2010-111337「ナビゲーション信号送信装置,ナビゲーション信号送信方法,位置情報提供装置,位置情報提供方法,およびプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月24日出願公開,特開2011-237386〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成22年5月13日の特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成25年 5月 9日:手続補正書
平成26年 2月19日:拒絶理由通知(同年同月25日発送)
平成26年 4月28日:意見書
平成26年 4月28日:手続補正書
平成26年 5月16日:拒絶査定(同年同月27日送達)
平成26年 8月26日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成26年 8月26日:審判請求
平成26年11月 6日:前置報告

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。
「 衛星からのスペクトラム拡散された衛星測位信号を受信して測位を行うことが可能な受信機にナビゲーション信号を送信する,地上に設置されるナビゲーション信号送信装置であって,
第1の送信アンテナおよび第2の送信アンテナと,
前記ナビゲーション信号に含まれる位置情報のメッセージ信号を生成するメッセージ生成手段と,
前記ナビゲーション信号送信装置に予め割り当てられた,前記衛星測位信号と同一系列の拡散コードに基づいて,前記メッセージ信号をスペクトラム拡散処理を含む変調処理により変調して,第1のナビゲーション信号および第2のナビゲーション信号を生成する変調手段とを備え,
前記変調手段は,前記受信機の各受信時刻において,前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号のうちいずれか一方を復調対象とするように前記変調処理を実行し,
前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号を,それぞれ前記第1および第2の送信アンテナから送信する送信手段をさらに備え,
前記変調手段は,
前記同一系列の拡散コードのうちの特定のコードを生成するための拡散コード生成手段と,
前記メッセージ信号に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第1のナビゲーション信号を生成するための第1の拡散処理手段と,
前記メッセージ信号を所定時間だけ遅延させる遅延手段と,
前記遅延手段からの出力に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第2のナビゲーション信号を生成するための第2の拡散処理手段とを含む,ナビゲーション信号送信装置。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。なお,下線は当審判体が付したものである(以下,同じ。)。
「 衛星からのスペクトラム拡散された衛星測位信号を受信して測位を行うことが可能な受信機にナビゲーション信号を送信する,地上に設置されるナビゲーション信号送信装置であって,
第1の送信アンテナおよび第2の送信アンテナと,
前記ナビゲーション信号に含まれる位置情報のメッセージ信号を生成するメッセージ生成手段と,
前記ナビゲーション信号送信装置に予め割り当てられた,前記衛星測位信号と同一系列の拡散コードに基づいて,前記メッセージ信号をスペクトラム拡散処理を含む変調処理により変調して,第1のナビゲーション信号および第2のナビゲーション信号を生成する変調手段とを備え,前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号は,同一の周波数を有し,同じ位置情報を含み,前記受信機によって識別可能であり,
前記変調手段は,前記受信機の各受信時刻において,前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号のうちいずれか一方を復調対象とするように前記変調処理を実行し,
前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号を,それぞれ前記第1および第2の送信アンテナから送信する送信手段をさらに備え,
前記変調手段は,
前記同一系列の拡散コードのうちの特定のコードを生成するための拡散コード生成手段と,
前記メッセージ信号に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第1のナビゲーション信号を生成するための第1の拡散処理手段と,
前記メッセージ信号を所定時間だけ遅延させる遅延手段と,
前記遅延手段からの出力に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第2のナビゲーション信号を生成するための第2の拡散処理手段とを含む,ナビゲーション信号送信装置。」

2 補正の目的
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の「前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号」が,「同一の周波数を有し,同じ位置情報を含み,前記受信機によって識別可能であり,」の要件を満たすことを特定して,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とする補正であり,特許法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とする補正といえる。
そこで,本件補正後発明が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。

3 独立特許要件違反
(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された引用文献である,特開2009-133731号公報(【公開日】平成21年6月18日,【発明の名称】位置情報提供システムおよび屋内送信機,【出願番号】特願2007-310350号,【出願日】平成19年11月30日,【出願人】測位衛星技術株式会社(外2名))には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
複数の衛星からのスペクトラム拡散信号である第1の測位信号を用いて,位置情報を提供することが可能な位置情報提供システムであって,
屋内送信機を備え,
前記屋内送信機は,
前記屋内送信機が設置される場所を特定するための位置データを格納する記憶手段と,
前記位置データを含む第2の測位信号をスペクトラム拡散信号として生成する生成手段と,
前記スペクトラム拡散信号を送信する送信手段とを含み,
前記位置情報提供システムは,位置情報提供装置をさらに備え,
前記位置情報提供装置は,
スペクトラム拡散信号を受信する受信手段と,
前記第1および第2の測位信号についての符号パターンに基づいて,前記受信手段により受信されたスペクトラム拡散信号に対応する符号パターンを特定する特定手段と,
前記特定手段によって特定された符号パターンを用いて復調することにより得られた信号に基づいて,前記第1および第2のいずれの測位信号が受信されたかを判断する判断手段と,
前記判断の結果に応じて処理を切り換えることにより,前記位置情報提供装置の位置情報を導出する位置情報導出手段と,
前記位置情報導出手段によって導出された位置情報を出力する出力手段とを備え,
前記第2の測位信号は,前記第1の測位信号よりも短い周期で同一内容のメッセージを繰り返す,位置情報提供システム。」

イ 「【請求項7】
複数の衛星からのスペクトラム拡散信号である第1の測位信号とコンパチブルな第2の測位信号を用いて,位置情報を提供することが可能な屋内送信機であって,
前記屋内送信機が設置される場所を特定するための位置データを格納する記憶手段と,
前記位置データを含む第2の測位信号をスペクトラム拡散信号として生成する生成手段と,
前記スペクトラム拡散信号を送信する送信手段とを備え,
前記生成手段は,前記第2の測位信号を,前記第1の測位信号よりも短い周期で同一内容のメッセージを繰り返すように生成する,屋内送信機。」

ウ 「【技術分野】
【0001】
本発明は位置情報を提供する技術に関する。本発明は,より特定的には,測位信号を発信する衛星から発信された信号が届かない環境下においても位置情報を提供する技術に関する。」

エ 「【背景技術】
【0002】
従来の測位システムとしてGPS(Global Positioning System)が知られている。GPSに用いられる信号(以下,「GPS信号」)を発信するための衛星(以下,GPS衛星)は,地上から約2万kmの高度で飛行している。利用者は,GPS衛星から発信された信号を受信し,復調することにより,GPS衛星と利用者との間の距離を計測することができる。したがって,地上とGPS衛星との間に障害がない場合には,GPS衛星から発信された信号を用いた測位が可能である。しかし,たとえば,都市部においてGPSを利用する場合,林立する建物が障害となって,利用者の位置情報提供装置が,GPS衛星から発信された信号を受信できないことが多い。また,建物による信号の回折あるいは反射により,信号を用いた距離の測定に誤差が生じ,結果として,測位の精度が悪化することが多かった。
【0003】
また,壁や屋根を貫通した微弱なGPS信号を室内において受信する技術もあるが,受信状況は不安定であり,測位の精度も低下する。」

オ 「【0008】
そこで,たとえば,GPS信号に類似する信号を発信できる複数の送信機を室内に配置し,GPSと同様の3辺測量による原理に基づき位置を求めるという技術も考えられる。しかしながら,この場合,各送信機の時刻が同期していることが必要になり,送信機が高価になるという問題がある。
【0009】
また,室内での反射等により電波の伝搬が複雑になることから,上記のような高価な送信機を設置したとしても,数10m程度の誤差が容易に発生するという問題もある。」

カ 「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方で,位置情報を屋外および屋内を問わず,的確に取得することの要請は,さらに強まっている。
【0012】
すなわち,位置情報の取得あるいは通知に関し,たとえば,固定電話であれば設置場所が予め知られているため,固定電話から発信された電話によって,その発信場所を特定することができる。しかしながら,携帯電話の普及に伴い,移動体通信が一般的になっているため,固定電話のようにして発信者の位置情報を通知することができない場合が増えている。一方,緊急時の通報に関し,携帯電話からの通報に位置情報を含めることについての法整備も進められている。
【0013】
しかし,屋内送信機を用いて,位置情報提供装置,たとえば,測位機能を有する携帯電話機に,位置情報を提供する場合に,どのような信号形式の信号を送信することが,信号の誤同期や誤捕捉を抑制可能であるかについては,必ずしも明確でない。
【0014】
また,屋内では,衛星からの信号に比べて,十分な強度の信号を放送できるため,衛星からの信号に対して捕捉および同期を取ることについては,より短時間で実行できることが期待されるものの,そのために,いかなる信号形式が適切であるかについても必ずしも明らかとはいえないという問題がある。
【0015】
本発明は,上述の問題点を解決するためになされたものであって,その目的は,測位のための信号を発信する衛星からの電波が受信できない場所においても精度を低下させることなく位置情報を供給する位置情報提供システムを提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は,測位のための信号を発信する送信機のコストが抑制される位置情報提供システムを提供することである。
【0017】
本発明の他の目的は,位置情報取得までに要する時間を短縮することが可能な位置情報提供システムを提供することである。
【0018】
本発明の他の目的は,測位のための信号を発信する衛星からの電波が受信できない場所においても精度を低下させることなく位置情報を提供する信号を送信できる屋内送信機を提供することである。
【0019】
本発明の他の目的は,測位のための信号を発信する送信機のコストが抑制される屋内送信機を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は,位置情報取得までに要する時間を短縮することが可能な屋内送信機を提供することである。」

キ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下,図面を参照しつつ,本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では,同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって,それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0033】
<第1の実施の形態>
図1を参照して,本発明の第1の実施の形態に係る位置情報提供システム10について説明する。図1は,位置情報提供システム10の構成を表わす図である。
【図1】

位置情報提供システム10は,地上の上空約2万メートル(当審判体注:「2万メートル」は「2万キロメートル」の誤記である。)の高度を飛行し,測位のための信号(以下,「測位信号」と表わす。)を発信するGPS(Global Positioning Satellite)衛星110,111,112,113と,位置情報を提供する装置として機能する位置情報提供装置100-1?100-5とを備える。位置情報提供装置100-1?100-5を総称するときは,位置情報提供装置100と表わす。位置情報提供装置100は,たとえば,携帯電話,携帯可能なカーナビゲーションシステムその他の移動体測位装置のように,従来の測位装置を有する端末である。
【0034】
ここで,測位信号は,スペクトラム拡散された信号であり,たとえば,いわゆるGPS信号である。しかしながら,その信号はGPS信号に限られない。なお,以下では説明を簡単にするために,測位のシステムをGPSを一例として説明するが,本発明は,他の衛星測位システム(Galileo,準天頂衛星(QZSS:Quasi-Zenith Satellites)等)にも適用可能である。
【0035】
測位信号の中心周波数は,たとえば,1575.42MHzである。測位信号の拡散周波数は,たとえば1.023MHzである。この場合,測位信号の周波数は,既存のGPSのL1帯におけるC/A(Coarse and Acquisition)信号の周波数と同一となる。したがって,既存の測位信号受信回路(たとえばGPS信号受信回路)のフロントエンドが流用できるため,位置情報提供装置100は,新たなハードウェアの回路を追加することなく,フロントエンドからの信号処理を行うソフトウェアを変更するのみで,測位信号を受信することができる。
【0036】
測位信号は,1.023MHzの矩形波によって変調されていてもよい。この場合,たとえば,L1帯において新たな送信が計画される測位信号のデータチャネルと同一であれば,利用者は,新しいGPSの信号を受信,処理可能な受信機を用いて当該測位信号を受信できる。なお,矩形波の周波数は,1.023MHzが好ましい。変調のための周波数は,既存のC/A信号,および/または,他の信号との干渉を回避するためのスペクトラム分離とのトレードオフによって定められ得る。
【0037】
GPS衛星110には,測位信号を発信する送信機120が搭載されている。GPS衛星111,112,113にも,同様の送信機121,122,123がそれぞれ搭載されている。
【0038】
位置情報提供装置100-1と同様の機能を有する位置情報提供装置100-2,100-3,100-4は,以下に説明するように,ビル130や地下街その他の電波が届きにくい場所でも使用可能である。
【0039】
すなわち,ビル130は,ビル130の1階の天井には,屋内送信機200-1が取り付けられている。位置情報提供装置100-4は,屋内送信機200-1から発信される測位信号を受信する。同様に,ビル130の2階および3階の各フロアの天井にも,それぞれ屋内送信機200-2,200-3が取り付けられている。後に説明するように,屋内送信機200-1?200?3からは,それぞれ,屋内送信機の設置場所を特定する情報が直接送信される。
【0040】
また,地下街においては,天井に,屋内送信機200-4?200?6が取り付けられている。地下街で動作する位置情報提供装置100-5は,屋内送信機200-4?200-6から発信される測位信号を受信する。ここでも,後に説明するように,屋内送信機200-4?200?6からは,それぞれ,屋内送信機の設置場所を特定する情報が直接送信される。
【0041】
なお,たとえば,後に説明するように,地下街には,ローカルサーバ204が設置され,屋内送信機200-4?200?6からは,屋内送信機の位置そのものではなく,屋内送信機の設置位置に関連する情報を特定するための識別情報が送信される構成としてもよい。位置情報提供装置100-5は,基地局202とネットワーク(たとえば,携帯電話網)を介して,当該識別情報に相当する位置関連情報をローカルサーバ204に照会するとの構成とすることもできる。ビル130においても,同様にローカルサーバに位置関連情報を照会する構成とすることができる。
【0042】
なお,地下街のように同一のフロア内で複数の屋内送信機が設置される場合は,各送信機の出力強度を調整して,1つの屋内送信機のカバーする領域の大きさを制限できるので,屋内送信機からの送信信号強度を大きくする必要がなく,日本の電波法のような電波使用を規制する法令等の規制以下の送信電力とするのが容易で,設置のために特別の免許が不要となる。
【0043】
ここで,各屋内送信機200-1,200-2,200-3または200-4,200-5,200-6の時刻(以下,「地上時刻」という。)と,GPS衛星110,111,112,113の時刻(「衛星時刻」という。)とは,互いに独立したものでよく,同期している必要はない。ただし,各衛星時刻は,それぞれ同期している必要がある。したがって,各衛星時刻は,各衛星に搭載された原子時計により制御されている。また,必要に応じて,各屋内送信機200-1,200-2,200-3または200-4,200-5,200-6の時刻である地上時刻も,相互に同期していることが好ましい。
【0044】
GPS衛星の各送信機から測位信号として発信されるスペクトラム拡散信号は,擬似雑音符号(PRN(Pseudo Random Noise)コード)によって航法メッセージを変調することにより生成される。航法メッセージは,時刻データ,軌道情報,アルマナック,電離層補正データ等を含む。各送信機120?123は,さらに,それぞれ,当該送信機120?123自身,あるいは送信機120?123が搭載されるGPS衛星を識別するためのデータ(PRN-ID(Identification))を保持している。
【0045】
位置情報提供装置100は,各擬似雑音符号を発生するためのデータおよびコード発生器を有している。位置情報提供装置100は,測位信号を受信すると,各衛星の送信機または各屋内送信機ごとに割り当てられた擬似雑音符号の符号パターンを用いて,後述する復調処理を実行し,受信された信号がどの衛星またはどの屋内送信機から発信されたものであるかを特定することができる。また,測位信号の1つであるL1C信号では,データの中にPRN-IDが含まれており,受信レベルが低い場合に生じやすい誤った符号パターンでの信号の捕捉・追尾を防ぐことができる。一方で,現行GPSのL1 C/A信号には,このようなPRN-IDは含まれていない。」

ク 「【0052】
(屋内送信機200-1のハードウェア構成)
図2を参照して,屋内送信機200-1について説明する。図2は,屋内送信機200-1のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図2】

【0053】
屋内送信機200-1は,無線インタフェース(以下,「無線I/F」と称す)210と,デジタル処理ブロック240と,デジタル処理ブロック210に電気的に接続されて,各回路部分の動作のための基準クロックを供給するための基準クロック入出力ブロック(以下,「基準クロックI/Oブロック」と称す)230と,デジタル処理ブロック210に電気的に接続されているアナログ処理ブロック250と,アナログ処理ブロック250に電気的に接続されて,測位のための信号を送出するアンテナ(図示せず)と,屋内送信機200-1の各部への電源電位の供給を行うための電源(図示せず)とを備える。
【0054】
なお,電源は,屋内送信機200-1に内蔵されてもよいし,外部からの電力の供給を受け付ける態様であってもよい。
【0055】
(無線通信インタフェース)
無線I/F210は,無線通信のインタフェースであり,近距離無線通信,たとえば,ブルートゥース(Bluetooth)などや,PHS(Personal Handyphone System)や携帯電話網のような無線通信により,外部からのコマンドを受信したり,外部との間で設定パラメータやプログラム(ファームウェア等)のデータを受信したり,あるいは,必要に応じて外部にデータを送信するためのものである。
【0056】
このような無線I/F210を備えることにより,屋内送信装置200-1については,屋内の天井等に設置した後であっても,設定パラメータ,たとえば,屋内送信装置200-1が送信する位置データ(屋内送信機200-1が設置されている場所を表わすデータ)を変更したり,あるいは,ファームウェアの変更により,異なる通信方式への対応を可能としたりすることができる。
【0057】
なお,本実施例では,無線でのインタフェースを想定しているが,設置場所への配線の敷設や設置の手間等を考慮しても,有線インタフェースとすることができる場合には,有線とすることも可能である。
【0058】
(デジタル処理ブロック)
デジタル処理ブロック240は,無線I/F210からのコマンドに応じて,あるいは,プログラムに従って,屋内送信機200-1の動作を制御するプロセッサ241と,プロセッサ241に搭載され,プロセッサ241の実行するプログラムを記憶するRAM(Random Access Memory)242と,無線I/F210からのデータのうち,設定パラメータ等を記憶するためのEEPROM(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)243と,プロセッサ241の制御のもとに,屋内送信機200-1の送出するベースバンド信号を生成するフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:以下,「FPGA」と称す)245と,無線I/F210からのデータのうち,FPGA245のファームウェアを記憶するためのEEPROM244と,FPGA245から出力されるベースバンド信号をアナログ信号に変更してアナログブロック250に与えるデジタル/アナログコンバータ(以下,「D/Aコンバータ」と称す)247とを含む。
【0059】
すなわち,デジタル処理ブロック240は,測位のための信号として屋内送信機200-1によって送信される信号の源泉となるデータを生成する。デジタル処理ブロック240は,アナログ処理ブロック250に対して,生成したデータをビットストリームとして送出する。
【0060】
特に限定されないが,たとえば,EEPROM244に格納されているファームウェアプログラムは,FPGA245に電源が投入されると,FPGA245にロードされる。このファームウェアプログラム情報(ビットストリームデータ)は,FPGA245内のSRAM(Static Random Access Memory)246で構成されているコンフィグレーションメモリにロードされる。ロードされたビットストリームデータの個々のビットデータがFPGA245上で実現する回路の情報元となり,FPGA245に装備されているリソースをカスタマイズしてファームウェアプログラムで特定される回路を実現する。FPGA245では,このようにハードウェアに依存せず,コンフィグレーションデータを外部に持つことで,高い汎用性とフレキシビリティを実現できることになる。
【0061】
また,プロセッサ241は,無線I/F210から受け取る外部コマンドに応じて,EEPROM243に格納されるデータに基づいて,FPGA245のSRAM246(レジスタ)に,当該屋内送信機200-1に設定されるパラメータとして,以下のものを格納させる。
【0062】
1)擬似拡散符号(PRNコード)
2)送信機ID
3)位置特定データ
4)放送通知データ(3?4は,FPGA245内で,後に説明するように,受信機のハードウェアから見て,衛星からの航法メッセージとコンパチブルなフォーマットに整形される)
「位置特定データ」「放送通知データ」については後述する。
【0063】
FPGA245は,EEPROM243に格納されたPRNコードに基づき,後述するフォーマットの信号に対してスペクトラム拡散処理が実行される。なお,PRNコードについては,EEPROM243にその値そのものが格納されて読み出される場合の他,シフトレジスタで構成されるPRN生成器により,実時間で生成されてもよい。
【0064】
なお,プロセッサ241の動作のためのプログラムも,EEPROM243に予め格納されており,当該プログラムは,屋内送信機200-1が起動する時に,EEPROM243から読み出され,RAM242に転送される。
【0065】
また,プログラムあるいはデータを格納するための記憶装置は,EEPROM243または244に限られない。少なくとも,データを不揮発的に保存できる記憶装置であればよい。また,後述するように,外部からのデータが入力される場合には,データを書き込むことができる記憶装置であればよい。EEPROM243に格納されるデータのデータ構造については後述する。
【0066】
(アナログ処理ブロック)
アナログ処理ブロック250は,デジタル処理ブロック240から出力されたビットストリームを用いて,1.57542GHzの搬送波を変調して送信信号を生成し,アンテナに送出する。その信号は,アンテナより発信される。」

ケ 「【0080】
(EEPROM243に格納されるデータのデータ構造)
図3を参照して,屋内送信機200-1のEEPROM243に格納されるデータのデータ構造について説明する。
【図3】

【0081】
図3は,屋内送信機200-1が備えるEEPROM243におけるデータの格納の一態様を概念的に表わす図である。EEPROM240は,データを格納するための領域310?350を含む。
【0082】
領域300には,送信機を識別するための番号として,送信機IDが格納されている。送信機IDは,たとえば当該送信機の製造時にメモリに不揮発的に書き込まれる数字および/または英文字その他の組み合わせである。
【0083】
上述のとおり,必要に応じて,当該送信機に割り当てられた擬似拡散符号のPRN-IDは,領域310に格納され,送信機の名称は,テキストデータとして,領域320に格納されている。
【0084】
当該送信機に割り当てられた擬似拡散符号の符号パターンは,領域330に格納されている。擬似拡散符号の符号パターンは,衛星用の擬似拡散符号と同一の系列に属する符号パターンのうちから,本発明の実施の形態に係る位置情報提供システム用に予め割り当てられた有限個の複数の符号パターンのうちから選択されたものであり,衛星ごとに割り当てられる擬似拡散符号の符号パターンとは異なる符号パターンである。」

コ 「【0245】
ここで,このような割合で常時サーチするのは,第2の測位信号を捕捉できた場合は,そのメッセージから得た位置情報から直ちに位置情報を出力することができるので,屋内に入って速やかに位置情報を得るためには,2割程度のコリレータで屋内送信機のコードサーチを常時行うことが望ましい,との事情による。もしも,屋内送信機コードを常時サーチしていない場合,屋内に移動してGPSが受信できなくなった場合,順次衛星捕捉のためのサーチを実施した結果,GPSが受信できないと判断してから,屋内送信機用コードのサーチを開始することになるが,屋内送信機からの位置情報の取得に移行する前に,衛星からの測位信号を屋内で受信,測位してしまうため,完全に衛星からの測位信号が受信できなくなるまで,マルチパスや反射波の影響によって大きな誤差を持つ位置情報が出力されることになってしまう。」

サ 「【0291】
以上説明したように本発明の実施の形態に従うと,その実施の態様に応じて,以下のような効果i)?v)のうちの少なくとも1つの効果が奏される。
【0292】
i)GPS C/A信号との共通化
屋内信号と屋外の衛星からの信号を受信するチャンネルのハードウェア構成を同一にできるため,屋外,屋内用に専用のチャンネルを設ける必要がなく,受信環境に応じて,屋内外信号をサーチ,捕捉追尾するチャンネルを動的に切り替えることがより容易になる。受信機リソースを効率的に使用することができるため,消費電力の制約が大きい携帯機器,たとえば携帯電話にとって有利である。
【0293】
ii)TTRM(Time To Read Message)短縮
ユーザが位置情報取得ボタンを押してから,位置情報が取得されるまでの時間を短縮することができる。
【0294】
iii)利用目的に応じた自在性
通常の衛星からの測位信号(たとえば,GPS C/A信号)の航法メッセージの固定フォーマットを変更し,フレームの先頭ワードは所定ビットの識別情報(メッセージタイプID)を有し,利用目的,用途に応じて,送信機設置者が送信するメッセージの内容と送信順,頻度を設定できる。
【0295】
iv)屋内位置情報の高信頼性確保(誤同期の防止)
誤ったフレーム同期による誤った位置情報出力の可能性を本発明の方式によってフレーム同期を行うことによって排除することができる。緊急通報時の位置情報通知には,確実な位置情報取得が要求されるが,本方式採用により,屋内測位方式の信僻性を改善することができる。
【0296】
v)屋内位置情報の高信頼性確保(誤捕捉の防止)
通常の衛星からの測位信号(たとえば,GPS C/A信号)を受信した際に受信機内で行われる本発明の処理により,フレーム同期処理の最初のビット抽出とプリアンブルサーチで,誤捕捉を認識することができる。
【0297】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され,特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」

(2) 引用発明
引用例1には,位置送信システムの屋内送信機として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,引用発明の認定のために利用した引用例1の記載箇所を明示するため,引用例1の段落番号を併記する。
「 【0033】位置情報提供システムは,地上の上空約2万キロメートルの高度を飛行し,測位信号を発信するGPS衛星と,位置情報を提供する装置として機能する位置情報提供装置とを備え,位置情報提供装置は,たとえば,携帯電話,携帯可能なカーナビゲーションシステムその他の移動体測位装置のように,従来の測位装置を有する端末であり,【0034】測位信号は,スペクトラム拡散された信号であり,
【0039】ビルの各階の天井には,屋内送信機が取り付けられ,位置情報提供装置は,屋内送信機から発信される測位信号を受信し,
【0045】位置情報提供装置は,測位信号を受信すると,各衛星の送信機または各屋内送信機に割り当てられた擬似雑音符号の符号パターンを用いて,復調処理を実行し,受信された信号がどの衛星またはどの屋内送信機から発信されたものであるかを特定することができ,
【0053】屋内送信機は,無線I/Fと,デジタル処理ブロックと,基準クロックI/Oブロックと,アナログ処理ブロックと,測位のための信号を送出するアンテナと,電源を備え,
【0058】デジタル処理ブロックは,屋内送信機の動作を制御するプロセッサと,RAMと,EEPROMと,屋内送信機の送出するベースバンド信号を生成するFPGAと,FPGAから出力されるベースバンド信号をアナログ信号に変更してアナログブロックに与えるD/Aコンバータとを含み,
【0061】【0062】プロセッサは,無線I/Fから受け取る外部コマンドに応じて,EEPROMに格納されるデータに基づいて,FPGAのレジスタに,当該屋内送信機に設定されるパラメータとして,擬似拡散符号,送信機ID,位置特定データ,放送通知データを格納させ,位置特定データ及び放送通知データは,FPGA内で,位置情報提供装置のハードウェアから見て,GPS衛星からの航法メッセージとコンパチブルなフォーマットに整形され,【0063】FPGAは,EEPROMに格納された擬似拡散符号に基づき,スペクトラム拡散処理を実行し,擬似拡散符号は,EEPROMにその値そのものが格納されて読み出される場合の他,シフトレジスタで構成されるPRN生成器により,実時間で生成されてもよく,
【0066】アナログ処理ブロックは,デジタル処理ブロックから出力されたビットストリームを用いて,1.57542GHzの搬送波を変調して送信信号を生成し,アンテナに送出し,送信信号は,アンテナより発信され,
【0084】屋内送信機に割り当てられた擬似拡散符号の符号パターンは,GPS衛星用の擬似拡散符号と同一の系列に属する符号パターンのうちから,位置情報提供システム用に予め割り当てられた有限個の複数の符号パターンのうちから選択されたものであり,
【0292】屋内送信器からの信号と屋外のGPS衛星からの信号を受信するチャンネルのハードウェア構成を同一にできるため,屋外,屋内用に専用のチャンネルを設ける必要がなく,受信環境に応じて,屋内外信号をサーチ,捕捉追尾するチャンネルを動的に切り替えることがより容易になる,
位置情報提供システムの屋内送信器。」

(3) 引用例2に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された引用文献である,「Im, Sung-Hyuck, Jee, Gyu-In, "Indoor Navigation and Multipath Mitigation using Code-Offset Based Pseudolite Transmitter Array," Proceedings of the 2010 International Technical Meeting of The Institute of Navigation, San Diego, CA, January 2010, pp. 259-263.」には,以下の事項が記載されている。なお,括弧内に当審判体の翻訳を付ける。

ア 259頁右欄23?28行
「The indoor positioning with GPS is a new technical challenge to the GPS positioning. The signal attenuation about 5 to 30dB inside building makes it very difficult for the GPS receiver to acquire and track the GPS satellite signal. There are several methods to meet this indoor positioning requirement.」
(GPSによる屋内測位技術は,GPS測位法に対する新しい技術的課題である。信号が建物内部で5dBから30db減衰するために,GPS受信機がGPS衛星信号を受けて追尾することが困難となっている。屋内測位の要求を満たす方法は幾つかある。)

イ 260頁左欄23?35行
「The basic idea of proposed algorithm is use of orthogonal property of DSSS(direct sequence spread spectrum) signal with delayed one over one chip. For example, if two different retransmission antennas with difference delay over 2 chip lengths is placed in different spatial position and continuously retransmit the common signal but delayed, two different signals from two different retransmission antennas aren’t interfered by each other because of orthogonal property of DSSS signal. Each signal with different delay can be tracked without changing of receiver tracking bandwidth and each pseudorange can be measured in two different GNSS receiver channels.」
(提案アルゴリズムの基本的なアイデアは,遅延チップを持つ直接拡散信号(DSSS)の直交性の使用である。例えば,2チップ長以上の異なる遅延を持つ,2個の異なる再送信アンテナが空間的に異なる位置に置かれていて,共通の信号を遅れて再送信している場合,この2個の異なる再送信アンテナからの異なる信号は,その直接拡散信号の直交性の故に互いに干渉し合わない。異なる遅延チップを持った各信号は,受信機の追尾バンド幅を変更しなくても追尾でき,各疑似距離は2個の異なるGNSS受信機のチャネルで計測できる。)

ウ 260頁左欄47行?右欄11行
「Despite continuing improvements in GNSS positioning system and receiver technologies, multipath has remained as dominant error. Accurate indoor positioning in non line-of-sight(NLoS) environments is an open research topic due to interfering dense multipath propagation. The key challenge is to reliably detect the direct signal (DS) from the transmitter to the receiver so as to enable accurate positioning calculations. Array antenna-based techniques are remarkable in multipath mitigation. But, in man’s navigation, its utilization is limited by an inherent low portability results in array-antenna size. In 2008, an inverse beamforming technology was introduced by Sasha Draganov [3]. Inverse beamforming technique allows a receiver to beamform without array antenna. Therefore, a conventional GNSS receiver can process the array antenna signals without hardware modification.
In this paper, we propose the indoor navigation system using a code-offset based pseudolite transmitter array antenna system.」
(GNSS測位システムや受信機技術の改良が進んでいるにもかかわらず,マルチパスはいつも誤差の主因である。非視野環境での正確な屋内測位は,高密度マルチパス伝播干渉に関する活発な研究テーマである。重要な課題は,正確な位置計算ができるように,送信機から受信機への直接信号(DS)を高い信頼性で検出することである。アレイアンテナをベースとした技術では,マルチパスを顕著に低減できる。しかし,アレイアンテナの大きさに起因する固有の携帯性の悪さのために,人のナビゲーションでの活用は限られている。2008年に,Sasha Draganovによって逆ビーム形成技術が導入された[3]。この逆ビーム形成技術によって,受信機がアレイアンテナ無しにビーム形成ができる。従って,通常のGNSS受信機で,ハードの修正無しにアレイアンテナ信号処理ができる。
本論文では,著者らはコードオフセットに基づいた疑似衛星送信機アレイアンテナシステムを用いた屋内ナビゲーションシステムを提案する。)

エ 260頁右欄19行?261頁左欄10行
「CODE-OFFSET TECHNIQUE
Figure 1 shows the structure of code-offset signal generator. Single code generator makes a code chip and then the chip is shifted to left register. The last tap of shift register is ‘N’ chip delayed code signal.

The composite code-offset signal has the correlation out is showed of figure 2.

DESIGN OF TRANSMITTER ARRAY
For the implementation of transmitter array, assignment of many PRN codes, such as 20 or more, is needed. To overcome the inefficient assignment of PRN codes, code-offset technique is adopted in indoor transmitter. A single transmitter is composite code-offset signals which has different code-offset(delay).

Figure 4 shows the multiple transmitters which has 4 code-offset array. Finally, the designed multiple transmitters are deployed like figure 5.


(コードオフセット法
コードオフセット信号生成器の構造を図1に示す。単一コード生成器は,コードチップを生成し,そのチップは左のレジスタに移る。シフトレジスタの最後のタップから‘N’チップ遅延したコード信号が取り出される。
コードオフセット合成信号の相関出力を図2に示す。

送信機アレイの設計
送信機アレイの実装のために,多数の,例えば,20またはそれ以上のPRNコードの割当が必要である。PRNコードの不十分な割当を解消するため,コードオフセット法が屋内送信機用に採用された。単一送信機は合成コードオフセット信号であり,異なるコードオフセットである。
4個のコードオフセットアレイからなる多重送信機を,図4に示す。最後に,設計された多重送信機を,図5のように配置した。)

オ 262頁右欄1行?263頁左欄2行
「For feasibility test, two signals have different code-offset are generated and then combined by RF combiner. After being sampled by RF front-end, the signal is processed by software GNSS receiver.
Figure 12 shows the results of in-phase and quadrature-phase correlation output. The transmitted two signals have different code-offset make the constant phase difference. In figure 13 and 14, the performance of beamforming is showed. The two array transmitters give improvement of 6dB to the receiver.」
(実用検証試験のために,異なるコードオフセットの二つの信号を生成し,その後,高周波結合器で結合する。高周波フロント・エンドでサンプリングされた後,GNSS受信機で信号はソフト処理を受ける。
同位相及び直交位相の相関出力結果を図12に示す。異なるコードオフセットの二つの送信信号は,一定の位相差を生じる。ビーム形成性能の結果を,図13及び14に示す。二つのアレイ型送信機により,受信機に6dBの出力改善が見られた。)


「CONCLUSIONS
In this paper, the transmitter array system using code-offset was proposed. The purposes of this research are increase of availability and multipath mitigation in the indoor environments. The proposed system consisted of code-offset array, multiple transmitters, and post-correlation beamforming technique. The proposed system has several advantages. Firstly, a conventional GPS receiver can use the proposed system without a change of hardware and only with a change of software. In the aspect of development, complexity of the proposed system is decreased because of use of code-offset. Finally, the transmitter 2x1 array is tested in the aspect of feasibility. Works well but more dedicated analysis are needed.」
(結論
本論文で,コードオフセットを使った送信機アレイシステムを提案した。この研究の目的は,屋内測位での利便性の向上とマルチパスの削減にある。提案されたシステムは,コードオフセットアレイ,複数の送信機,及び相関後のビーム形成法からなり,幾つかの特長を持っている。先ず,ハードの変更をしなくても,ソフトの変更だけで通常のGPS送信器が使える。開発面では,提案システムの複雑さは,コードオフセットを使うことで緩和される。最後に,2×1の送信機アレイで,実用検証試験を行った。作業は好調ではあるが,更なる研究や専用の解析が今後も必要である。)

(4) 引用例2記載発明
引用例2(摘記事項イ及びエ)には,以下の技術が記載されている(以下「引用例2記載発明」という。)。
「2チップ長以上の異なる遅延を持つ,2個の異なる再送信アンテナが空間的に異なる位置に置かれていて,共通の信号を遅れて再送信している場合,この2個の異なる再送信アンテナからの異なる信号は,その直接拡散信号の直交性の故に互いに干渉し合わず,異なる遅延チップを持った各信号は,受信機の追尾バンド幅を変更しなくても追尾でき,各疑似距離は2個の異なるGNSS受信機のチャネルで計測でき,
単一コード生成器は,コードチップを生成し,そのチップは左のレジスタに移り,シフトレジスタの最後のタップから‘N’チップ遅延したコード信号が取り出され,
単一送信機は合成コードオフセット信号であり,異なるコードオフセットである。」

(5) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア ナビゲーション信号送信装置
引用発明において,「位置情報提供システムは,地上の上空約2万メートルの高度を飛行し,測位信号を発信するGPS衛星と,位置情報を提供する装置として機能する位置情報提供装置とを備え,位置情報提供装置は,たとえば,携帯電話,携帯可能なカーナビゲーションシステムその他の移動体測位装置のように,従来の測位装置を有する端末であり,測位信号は,スペクトラム拡散された信号であり,ビルの各階の天井には,屋内送信機が取り付けられ,位置情報提供装置は,屋内送信機から発信される測位信号を受信し,」という構成を具備する。ここで,引用発明の「GPS衛星」,「(GPS衛星からの)測位信号」,「位置情報提供装置」及び「(屋内送信器からの)測位信号」は,それぞれ,本件補正後発明の「衛星」,「衛星測位信号」,「受信機」及び「ナビゲーション信号」に相当する。また,本件補正後発明の「地上」には,「ビルの各階の天井」も含まれる(【図1】からも見て取れる事項である)から,引用発明の「ビルの各階の天井」は,本件補正後発明の「地上」に相当する。
したがって,引用発明の「屋内送信機」は,本件補正後発明の「衛星からのスペクトラム拡散された衛星測位信号を受信して測位を行うことが可能な受信機にナビゲーション信号を送信する,地上に設置されるナビゲーション信号送信装置」に相当する。

イ 送信アンテナ
引用発明において,「屋内送信機は,無線I/Fと,デジタル処理ブロック240と,基準クロックI/Oブロックと,アナログ処理ブロックと,測位のための信号を送出するアンテナと,電源を備え,」という構成を具備する。
したがって,引用発明の「アンテナ」と本件補正後発明の「第1の送信アンテナおよび第2の送信アンテナ」は,「送信アンテナ」の点で共通する。

ウ メッセージ生成手段
引用発明において,「デジタル処理ブロックは,屋内送信機の動作を制御するプロセッサと,RAMと,EEPROMと,屋内送信機の送出するベースバンド信号を生成するFPGAと,FPGAから出力されるベースバンド信号をアナログ信号に変更してアナログブロックに与えるD/Aコンバータとを含み,プロセッサは,無線I/Fから受け取る外部コマンドに応じて,EEPROMに格納されるデータに基づいて,FPGAのレジスタに,当該屋内送信機に設定されるパラメータとして,擬似拡散符号,送信機ID,位置特定データ,放送通知データを格納させ,位置特定データ及び放送通知データは,FPGA内で,位置情報提供装置のハードウェアから見て,GPS衛星からの航法メッセージとコンパチブルなフォーマットに整形され,」という構成を具備する。ここで,引用発明の「位置特定データ」は,本件補正後発明の「位置情報」に相当する。また,引用発明において,「GPS衛星からの航法メッセージとコンパチブルなフォーマットに整形」された後のデータは,本件補正後発明の「メッセージ信号」に相当する。
したがって,引用発明の「デジタル処理ブロック」は,本件補正後発明の「前記ナビゲーション信号に含まれる位置情報のメッセージ信号を生成するメッセージ生成手段」に相当する手段を具備する。

エ 変調手段
引用発明の「デジタル処理ブロック」において,「FPGAは,EEPROMに格納された擬似拡散符号に基づき,スペクトラム拡散処理を実行し,擬似拡散符号は,EEPROMにその値そのものが格納されて読み出される場合の他,シフトレジスタで構成されるPRN生成器により,実時間で生成されてもよく,」及び「屋内送信機に割り当てられた擬似拡散符号の符号パターンは,GPS衛星用の擬似拡散符号と同一の系列に属する符号パターンのうちから,位置情報提供システム用に予め割り当てられた有限個の複数の符号パターンのうちから選択されたものであり,」という構成を具備する。ここで,引用発明の「疑似拡散符号」は,本件補正後発明の「拡散コード」に相当する。
したがって,引用発明の「デジタル処理ブロック」は,本件補正後発明の「前記ナビゲーション信号送信装置に予め割り当てられた,前記衛星測位信号と同一系列の拡散コードに基づいて,前記メッセージ信号をスペクトラム拡散処理を含む変調処理により変調して,第1のナビゲーション信号および第2のナビゲーション信号を生成する変調手段」のうち,「前記ナビゲーション信号送信装置に予め割り当てられた,前記衛星測位信号と同一系列の拡散コードに基づいて,前記メッセージ信号をスペクトラム拡散処理を含む変調処理により変調して,」「ナビゲーション信号を生成する変調手段」に相当する手段を具備する。

オ 送信手段
引用発明において,「アナログ処理ブロックは,デジタル処理ブロックから出力されたビットストリームを用いて,1.57542GHzの搬送波を変調して送信信号を生成し,アンテナに送出し,送信信号は,アンテナより発信され,」という構成を具備する。
したがって,引用発明の「アナログ処理ブロック」と本件補正後発明の「送信手段」は,「ナビゲーション信号を,」「送信アンテナから送信する送信手段」の点で共通する。

カ 拡散コード生成手段
引用発明において,「FPGAは,EEPROMに格納された擬似拡散符号に基づき,スペクトラム拡散処理を実行し,擬似拡散符号は,EEPROMにその値そのものが格納されて読み出される場合の他,シフトレジスタで構成されるPRN生成器により,実時間で生成されてもよく,」及び「屋内送信機に割り当てられた擬似拡散符号の符号パターンは,GPS衛星用の擬似拡散符号と同一の系列に属する符号パターンのうちから,位置情報提供システム用に予め割り当てられた有限個の複数の符号パターンのうちから選択されたものであり,」という構成を具備する。
したがって,引用発明の「PRN生成器」は,本件補正後発明の「前記同一系列の拡散コードのうちの特定のコードを生成するための拡散コード生成手段」に相当する。

(6) 一致点及び相違点
ア 本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「 衛星からのスペクトラム拡散された衛星測位信号を受信して測位を行うことが可能な受信機にナビゲーション信号を送信する,地上に設置されるナビゲーション信号送信装置であって,
送信アンテナと,
前記ナビゲーション信号に含まれる位置情報のメッセージ信号を生成するメッセージ生成手段と,
前記ナビゲーション信号送信装置に予め割り当てられた,前記衛星測位信号と同一系列の拡散コードに基づいて,前記メッセージ信号をスペクトラム拡散処理を含む変調処理により変調して,ナビゲーション信号を生成する変調手段とを備え,
ナビゲーション信号を,送信アンテナから送信する送信手段をさらに備え,
前記変調手段は,
前記同一系列の拡散コードのうちの特定のコードを生成するための拡散コード生成手段と,
を含む,ナビゲーション信号送信装置。」

イ 本件補正後発明と引用発明の相違点は,以下のとおりである。
本件補正後発明において,(A)「送信アンテナ」は,「第1の送信アンテナおよび第2の送信アンテナ」であり,(B)「ナビゲーション信号」は,「第1のナビゲーション信号および第2のナビゲーション信号」であり,(C)「変調手段」は,「第1のナビゲーション信号および第2のナビゲーション信号を生成する変調手段」であり,(D)「送信手段」は,「前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号を,それぞれ前記第1および第2の送信アンテナから送信する送信手段」であり,(E)「前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号は,同一の周波数を有し,同じ位置情報を含み,前記受信機によって識別可能であり」,(F)「前記変調手段は,前記受信機の各受信時刻において,前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号のうちいずれか一方を復調対象とするように前記変調処理を実行し」,(G)「前記変調手段は,前記メッセージ信号に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第1のナビゲーション信号を生成するための第1の拡散処理手段と,前記メッセージ信号を所定時間だけ遅延させる遅延手段と,前記遅延手段からの出力に対して前記特定のコードでスペクトラム拡散処理を行い,前記第2のナビゲーション信号を生成するための第2の拡散処理手段とを含む」のに対して,引用発明は,これら構成を具備するものとは特定されていない点。

(7) 判断
相違点に対する判断は,以下のとおりである。
室内での反射等に起因して,いわゆるマルチパスの問題が生じることは,当業者において周知の技術課題であるところ(必要ならば,引用例1の段落【0008】,【0009】及び【0245】を参照。),引用例2には,アレイアンテナをベースとした技術によりマルチパスを顕著に軽減することを目的とした引用例2記載発明が開示されている。しかも,引用例2記載発明は,GPS技術に関するものである。
引用発明において,マルチパスの問題を解決することを目的として,引用例2記載発明を採用することは,当業者が容易にできることである。そして,引用発明において,引用例2記載発明を採用すると,(a)送信アンテナは少なくとも2つ用意することとなるから,前記(A)の要件を満たすこととなり,(b)ナビゲーション信号は,コードオフセット前と後の少なくとも2つとなるから,前記(B)の要件を満たすこととなり,(c)変調手段はコードオフセット前と後の少なくとも2つのナビゲーション信号を生成することとなるから,前記(C)の要件を満たすこととなり,(d)送信手段は,少なくとも2つのナビゲーション信号を,各々の送信アンテナから送信することとなるから,前記(D)の要件を満たすこととなり,(e)ナビゲーション信号は,2チップ以上のコードオフセットにより生成されるものであるから,前記(E)の要件を満たすこととなり,(f)各ナビゲーション信号は直交性を持つ(選択的に受信可能である)から,前記(F)の要件を満たすこととなり,(g)「2チップ長以上の異なる遅延を持つ,2個の異なる再送信アンテナが空間的に異なる位置に置かれていて,共通の信号を遅れて再送信している場合,この2個の異なる再送信アンテナからの異なる信号は,その直接拡散信号の直交性の故に互いに干渉し合わず,異なる遅延チップを持った各信号は,受信機の追尾バンド幅を変更しなくても追尾でき,各疑似距離は2個の異なるGNSS受信機のチャネルで計測でき」るという引用例2記載発明の基本的アイデアに鑑みると,引用例2記載発明の単一コード生成器を前記(G)の要件を満たすものとすることは回路設計上の均等物置換にすぎないから,本件補正後発明の構成に到ることとなる(なお,本件出願においても【図13】の構成が開示されている。)。
また,本件補正後発明の効果は,引用発明及び引用例2記載発明から予測可能な範囲のものであり,顕著なものとはいえない。

(8) 請求人の主張に対し
引用例2に関して,請求人は,「引用文献4は,「Pseudolite Transmitter Array」に関する技術を開示している。Pseudolite(疑似衛星)という用語からも明らかなように,引用文献4は,通常のGPS衛星から発信される信号と同様の信号を屋内で発信する構成を開示しているに過ぎない。よって,当業者は,引用文献4の開示に基づいて本願発明を容易になし得ないものと思料する。」と主張する(請求書「第3」(1)(c4))。
確かに,引用例2には,請求人が指摘する技術が記載されているところではあるが,引用例2からは,マルチパスの問題を解決するという目的に対応した引用例2記載発明も把握することができる(送信機における,いわゆる遅延ダイバーシチとして把握できる。)。そして,マルチパスの問題を解決するという引用例2記載発明の目的課題を考慮すると,引用発明において,引用例2記載発明を採用することは,当業者が容易にできた事項である。

(9) 小括
本件補正後発明は,引用発明及び引用例2記載発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのまとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:引用例1と同じ
引用文献4:引用例2と同じ

3 引用例1等に記載の事項及び引用発明等
引用例1に記載の事項及び引用発明は前記「第2」3(1)及び(2)に記載したとおりであり,また,引用例2に記載の事項及び引用例2記載発明は,前記「第2」3(3)及び(4)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明の「前記第1のナビゲーション信号および前記第2のナビゲーション信号は,同一の周波数を有し,同じ位置情報を含み,前記受信機によって識別可能であり」という発明特定事項を除いたものである。
そうすると,本願発明の構成を含み,さらに他の発明特定事項を付したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」3(5)?(9)で述べたとおり,引用発明及び引用例2記載発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様に,引用発明及び引用例2記載発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。
また,本願発明が奏する効果は,引用発明及び引用例2記載発明から予測できる範囲内のものであり,顕著なものであるとはいえない。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2記載発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-17 
結審通知日 2015-06-23 
審決日 2015-07-14 
出願番号 特願2010-111337(P2010-111337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 戸次 一夫中村 説志  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 樋口 信宏
堀 圭史
発明の名称 ナビゲーション信号送信装置、ナビゲーション信号送信方法、位置情報提供装置、位置情報提供方法、およびプログラム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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