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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1304934
審判番号 不服2014-15495  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-06 
確定日 2015-09-03 
事件の表示 特願2010- 76379「走査型プローブ顕微鏡及びその走査方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日出願公開、特開2011-209076〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年3月29日に出願した特願2010-76379号であって、平成25年12月2日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成26年2月6日に意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、同年4月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年8月6日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年8月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年8月6日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について

(1) 本件補正は、補正前の特許請求の範囲、すなわち平成26年2月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲、の記載を、以下のとおり、補正後の特許請求の範囲のものに補正する事項を含むものである(下線は補正箇所を示す)。

(補正前)
「【請求項1】
先端に探針を有するカンチレバーと、
前記カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダと、
サンプルを固定するためのサンプルホルダと、
前記サンプル表面の任意の2次元面内で前記探針を相対的に移動させる水平方向微動機構と、
前記2次元面に垂直な方向に前記探針と前記サンプルを相対的に移動させる垂直方向微動機構と、
前記カンチレバーの撓み量を検出するための変位検出機構を有する走査型プローブ顕微鏡において、
前記カンチレバーが前記変位検出機構として自己変位検出型の機構を備え、前記カンチレバーの長軸に直交し探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルホルダ上に載置される任意形状のサンプル表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を規定する任意の軸まわりの角度調整機構を含む位置決め機構を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記角度調整機構のうちの少なくとも1つが、前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整可能にしたカンチレバー取付角度調整機構であることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記角度調整機構が、前記水平方向微動機構の移動面上に前記サンプルの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なサンプル角度調整機構を設け、該サンプル角度調整機構上に前記サンプルホルダを設けた請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記角度調整機構が、前記カンチレバーの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なカンチレバー角度調整機構を設け、該カンチレバー角度調整機構に前記水平方向微動機構を取り付け、前記水平方向微動機構に前記カンチレバーホルダを取り付けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記水平方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して任意の2次元平面内で移動する水平方向粗動機構と、
前記垂直方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して水平方向粗動機構の移動面に直交する方向に移動する垂直方向粗動機構と、を備え、前記カンチレバーと前記サンプルを相対的に移動可能にした請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、前記水平方向微動機構と前記垂直方向微動機構を動作させて複数個所の表面形状データまたは表面物性データを取得し、前記位置検出機構の情報から、前記表面形状測定データまたは表面物性データを合成して、前記水平方向微動機構または垂直方向微動機構の移動範囲よりも広範囲の前記サンプルの3次元形状データを取得する請求項1乃至5のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
自己変位検出機構が備わるカンチレバーの先端に有した探針を、該探針の先端に対向配置したサンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させることで前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法において、
前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルの任意の形状表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の走査方法。」

(補正後)
「【請求項1】
先端に探針を有するカンチレバーと、
前記カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダと、
サンプルを固定するためのサンプルホルダと、
前記サンプル表面の任意の2次元面内で前記探針を相対的に移動させる水平方向微動機構と、
前記2次元面に垂直な方向に前記探針と前記サンプルを相対的に移動させる垂直方向微動機構と、
前記カンチレバーの撓み量を検出するための変位検出機構を有する走査型プローブ顕微鏡において、
前記カンチレバーが前記変位検出機構として自己変位検出型の機構を備え、前記カンチレバーの長軸に直交し探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルホルダ上に載置される任意形状のサンプル表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を規定する任意の軸まわりの角度調整機構を含む位置決め機構を設け、
前記角度調整機構のうちの少なくとも1つが、前記カンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整可能にしたカンチレバー取付角度調整機構であることを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記角度調整機構が、前記水平方向微動機構の移動面上に前記サンプルの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なサンプル角度調整機構を設け、該サンプル角度調整機構上に前記サンプルホルダを設けた請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記角度調整機構が、前記カンチレバーの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なカンチレバー角度調整機構を設け、該カンチレバー角度調整機構に前記水平方向微動機構を取り付け、前記水平方向微動機構に前記カンチレバーホルダを取り付けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記水平方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して任意の2次元平面内で移動する水平方向粗動機構と、
前記垂直方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して水平方向粗動機構の移動面に直交する方向に移動する垂直方向粗動機構と、を備え、前記カンチレバーと前記サンプルを相対的に移動可能にした請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、前記水平方向微動機構と前記垂直方向微動機構を動作させて複数個所の表面形状データまたは表面物性データを取得し、前記位置検出機構の情報から、前記表面形状測定データまたは表面物性データを合成して、前記水平方向微動機構または垂直方向微動機構の移動範囲よりも広範囲の前記サンプルの3次元形状データを取得する請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
位置検出機構が備わるカンチレバーの先端に有した探針を、該探針の先端に対向配置したサンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させることで前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法において、
前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルの任意の形状表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整する場合において、少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の走査方法。」

(2) 具体的には、本件補正は、補正前の特許請求の範囲を以下のアないしエのとおり補正して、補正後の特許請求の範囲とするものを含む。

ア 補正前の特許請求の範囲の請求項2に係る発明の「前記カンチレバー」を「前記カンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバー」とする補正(以下「補正事項1」という)。

イ 補正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明の「自己変位検出機構」を「位置検出機構」とする補正(以下「補正事項2」という)。

ウ 補正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明の「角度調整すること」を、「角度調整する場合において、少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整すること」とする補正(以下「補正事項3」という)。

エ 補正前の特許請求の範囲における、請求項1、及び請求項3ないし6のうち当該請求項1を直接引用するもの、を削除して、削除後の請求項2ないし7に係る発明を、補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に繰り上げる補正(以下「補正事項4」という。)

(3) 上記補正事項2について検討する。

「自己変位」とは自己の「位置」の変化を示す用語であるから、「位置検出機構」とは、その下位概念にあると言える「自己変位検出機構」を限定したものでなく、当該補正事項2は発明の限定的減縮を目的としていない。また、誤記の訂正、不明瞭な記載の釈明、及び請求項の削除を目的としないことが明らかである。
そこで当該補正事項1の目的について検討するに、本願の審判請求書では、本件補正の内容について以下のとおり説明されている。
「今般の請求項1に対する補正は、補正前の請求項1の内容に補正前の請求項2の内容を追加するとともに、「前記カンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバー」と、カンチレバーホルダとカンチレバーとの関係をより明確化したものです。請求項6も補正前の請求項7に請求項1と同様な補正を追加したものです。請求項2?5は補正前の請求項3?6に対応します。」(「3」の(2)の第1段落)
この説明のうち第1文は補正事項1及び4に対応し、第2文は補正事項3及び4に対応する。したがって、当該説明によると、補正後の特許請求の範囲の請求項6に係る発明(以下「本願補正発明」という。)に関する上記補正事項2は審判請求人の意図するところでない。
よって、補正事項2は、審判請求人の意図に反しており、行われるはずのなかったものであるから、本願補正発明における「位置検出機構」は、補正前の特許請求の範囲の請求項7に記載されていた「自己変位検出機構」の誤記である。
したがって、以下では、本願補正発明における「位置検出機構」を「自己変位検出機構」と読み替える。

(4) 上記補正事項3について検討する。

当該補正事項3は、補正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明の発明特定事項である「角度調整すること」を、「角度調整する場合」に変更するため、外形的には、本願補正発明の「走査型プローブ顕微鏡の走査方法」が、「角度調整」しない「場合」も含みうる記載となっている(例えば、「自己変位検出機構が備わるカンチレバーの先端に有した探針を、該探針の先端に対向配置したサンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させることで前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法において、
前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルの任意の形状表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整する場合において、
少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整し、
前記サンプルの任意の形状表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整しない場合においても、前記カンチレバーの取り付け角度を調整する、走査型プローブ顕微鏡の走査方法。」は、文言上、本願補正発明を限定したものであるから、本願補正発明の範囲に含まれる)。
しかしながら、上記(3)における、本件補正の内容に関する上記説明を踏まえれば、当該補正事項3によって、「角度調整」しない「場合」にまで、本願補正発明の範囲が拡張されることを、審判請求人が意図していたとは言えない。
よって、補正事項3は、外形的には審判請求人の意図に反するものであるから、本願補正発明における「角度調整する場合において」について、以下では便宜上、「角度調整するように」の意味であると認める。
すると、当該補正事項3は、補正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明の発明特定事項である「角度調整すること」について、「少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整すること」によって限定したものであるから、発明の限定的減縮を目的としている。

(5) 本件補正についてのまとめ

よって、本件補正による特許請求の範囲の補正は、補正事項3によって、少なくとも補正前の特許請求の範囲の請求項7に係る発明を限定的に減縮することを目的としているから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項を目的とするものであるといえる。
そこで、次に、本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第7項の規定に違反しないか)について検討する。

2 本願補正発明

本願補正発明は、平成26年8月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項6に記載されたとおりのもの(上記「1」の(1)の(補正後)の記載を参照。)である。

3 引用例

(1) 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-220597号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審において付加したものである)。

ア 「【0001】
本発明は、試料表面の表面粗さや段差などの形状情報や、誘電率や粘弾性などの物理情報を計測する表面情報計測装置に関するものである。具体的な表面情報計測装置としては、走査型プローブ顕微鏡、表面粗さ計、硬度計や電気化学顕微鏡等である。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体においてより微細化がすすみ、微細形状の評価としての形状測定として、原子分解能を有する、プローブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡が期待されている。プロ-ブ顕微鏡の一種である原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)は走査トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)の発明者であるG.Binnigらによって
考案されて以来、新規な絶縁性物質の表面形状観察手段として期待され、研究が進められている。(例えば、非特許文献1を参照)
プローブ顕微鏡の原理は、先端を充分に鋭くした検出チップと試料間に働く物理力を、前記検出チップが取り付けられているばね要素の変位として測定し、前記ばね要素の変位量を一定に保ちながら前記試料表面を走査し、前記ばね要素の変位量を一定に保つための制御信号を形状情報として、前記試料表面の形状を測定するものである。
【0003】
ばね要素の変位検出手段としては光学的方式及び、バネ要素の変形ひずみを電気信号として検出する自己検出方式がある。
【0004】
光学的方式にはいわゆる干渉法そのものを使った例(例えば、非特許文献2を参照。)や、レーザー光をばね要素に照射しその反射光の位置ずれを光検出素子で検出して変位信号とする、光てこ方式と呼ばれる例(例えば、非特許文献3を参照。)が報告されているが、光てこ方式が主に用いられている。
【0005】
また、自己検出方式としては、先端に探針を設けたレバー部とそのレバー部を支持する支持部とが2つの屈曲部によって連結されて構成されるカンチレバーにおいて、その屈曲部上にピエゾ抵抗体を前記レバー部から前記支持部に向かう方向に直線状に設けることにより、屈曲部をピエゾ抵抗体形成領域として有効に利用でき、さらにはその領域を細く形成することが可能となるので、2つのピエゾ抵抗体間において、カンチレバーの捩れにより生じる両屈曲部の変位差を示す抵抗値差を計測することでカンチレバーを制御するものが知られている。(例えば、特許文献1を参照。)
また、プロ-ブ顕微鏡は、試料に対向する位置に配置された探針(プロ-ブ)が試料から原子間力を受けるものならば原子間力顕微鏡と称され、磁気力ならば磁気力顕微鏡と称される様に試料から生じる様々な力を検出して試料の状態を観察できるものである。」

イ 「【0011】
ユニット部1は、除振台2上に弾性材3を介してベース4上に備えられている。ベース4上には、粗い試料移動ステージ6とアーム10が備えられている。粗い試料移動ステージ6は、試料5を面内方向に位置合わせするXYステージであり、試料台9を介して試料5が固定される。また、アーム10にはベース4平面に対して鉛直方向の微小位置決め機構である粗動機構11であるZ軸ステージと、粗動機構11を介して、微小位置決め機構である微動機構12が備えられている。ここでは、微動機構12として、電圧印加により微小ひずみを生じるピエゾ圧電素子が用いられ、微動機構12の先端に固定されたカンチレバー13を3次元的に移動することができる。」

ウ 「【0013】
粗動機構11によりカンチレバー13の先端の探針を試料5の表面に粗く接近させ、微動機構12でさらに試料5に接近させて、試料と探針間に働く物理力により、カンチレバー13のたわみ変形が一定になるように微動機構12を調整することにより試料5の表面形状や物性特性を計測する。ここで、たわみ変形は、半導体レーザー光をカンチレバー13に照射し、その反射光を4分割された光検出器で検出し、カンチレバー13の変位により光検出器に入射するする位置が変化することで検出する光てこ検出と呼ばれる方式が使用されている。また、微動機構12を試料面内に対して走査しながら計測することで試料面内の形状や物性を視覚的に画像化することもできる。
【0014】
プローブ顕微鏡に用いられるカンチレバーの構成を図12に示す。
【0015】
片持ち梁状のカンチレバー13の先端に高さは1?2μmの微細な探針(プローブ)14が形成されており、主に四角垂状をしている。材質はシリコンであり、異方性エッチング技術などを用いて加工される。」

エ 「【0018】
このような凸面や凹面の形状の試料に場合における、試料表面に対する探針などの接触状態や干渉状態を示す図14のように、試料面内の測定位置によってカンチレバーベース部15やカンチレバー13を保持している微動機構12などが試料5との接触などの干渉により、試料表面および形状測定ができないことがある。」

オ 「【0026】
ユニット部1は除振台2上に弾性材3を介してベース4上に構成されている。除振台としてはパッシブ型やアクティブ型があるが、低周波に振動成分が存在する場合はアクティブ型が望ましい。また、ベース4上には、粗い試料移動ステージ6とアーム10が備えられている。粗い試料移動ステージ6は、試料5を面内方向に位置合わせするXYステージであり、試料移動ステージ6上にはベース4の平面に対してXY軸の2方向に傾斜が可能な試料傾斜ステージ7とベース4面内に対して回転する試料回転ステージ8が備え、試料台9を介して試料5が固定されている。」

カ 「【0033】
なお、第二実施形態において、第一実施形態と同一の構成については同一の符号を付しその説明を省略する。
本発明の第二実施形態の構成を、図3から図6を用いて説明する。
【0034】
第一実施形態と異なる点は、カンチレバー13を走査する微動機構12側に相対的に試料表面と探針のなす角度の調整を行なう角度調整機構として微動機構回転ステージ18を設けたことである。」

キ 「【0037】
試料移動ステージ6を用いて、試料を測定する所定の位置に移動させ、微動機構回転ステージ18により微動機構12を試料表面に対して傾けることで、凸面形状試料5aまたは凹面形状試料5bの大きな凸面および凹面形状の試料表面の面内位置に関わらず、探針表面状態の違いやカンチレバーたわみに係わる、探針が受ける原子間力の方向が変わらないように調整ができ、試料表面形状を測定することが可能になる。
【0038】
例えば、曲面形状での干渉状態の概要を示す図3のように、微動機構12の先端に構成された、カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15やカンチレバー13など試料5表面に接触して干渉(B-Bの断面矢視)しないように、XY試料5を試料移動ステージ6であるXYステージで傾斜中心に移動(図3A-A)させ、傾斜ステージ7で試料を傾け、または微動機構回転ステージ18で微動機構12を傾けることにより試料全面において測定したい試料位置で測定が可能となる。」

ク 「【図3】



コ 「【図12】



サ 「【図14】



(2) 引用例1に記載された発明の認定

ア 上記(1)の摘記事項キの「カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15やカンチレバー13などが試料5表面に接触して干渉(B-Bの断面矢視)しないように、」「試料5を」「傾斜中心に移動(図3A-A)させ」なる記載、及び上記(1)の摘記事項クの図3を踏まえると、上記図3の「B-B断面矢視」で拡大された側の「カンチレバー13」は、(「試料5」(「5b」)を「傾斜中心に移動(図3A-A)させ」たときのものではなく、)上記「試料5表面に接触して干渉」したときのものである。
また、上記図3の平面図で「A-A断面」を示す一点鎖線と「B-B断面」を示す一点鎖線とが、中央付近で直交していることから、「A-A断面矢視」で拡大して示された、「傾斜中心」にある「カンチレバーベース部15」は、「B-B断面矢視」において拡大されていない側の(すなわち「傾斜中心」側の)ものとして示されている。
すると、上記図3の「B-B断面矢視」では、「試料5を」「傾斜中心に移動」させる前後での「カンチレバーベース部15」が、略同一の(「A-A断面矢視」での形状とは明らかに異なる)形状として示されていることになり、「傾斜中心」にある「カンチレバーベース部15」において、「カンチレバー13」は、拡大された側の「カンチレバーベース部15」に「保持」されている「カンチレバー13」と同じ向きを向いていると言える。
そして、上記(1)の摘記事項ウの「片持ち梁状のカンチレバー13」(段落【0015】)なる記載、並びに上記図3における、「傾斜中心」での「試料5表面」の向き、「カンチレバー13」の向き、及び平面図と「A-A断面」との関係を踏まえると、「試料5を」「傾斜中心に移動」させたときの「カンチレバー13」の「片持ち梁」が延びる方向に沿う上記「A-A断面」は、「傾斜中心」での「試料5表面」に直交し、「カンチレバー13」の「片持ち梁」の軸方向を含む「試料5」の「断面」であると認める。

イ 上記ア、上記(1)の摘記事項ウの「片持ち梁状のカンチレバー13の先端に」「探針」「14が形成されており」(段落【0015】)なる記載、上記(1)の摘記事項エの「試料表面に対する探針」「の接触状態」「を示す図14」なる記載、及び上記(1)の摘記事項サの図14での「5」、「13」、「14」及び「15」の各符号の位置関係を踏まえると、上記「カンチレバー13」の「片持ち梁」の軸方向を含む「試料5」の「断面」において、「探針14」の先端が「試料表面に対する」「接触状態」にあると認める。

ウ 上記ア及びイを踏まえ、上記(1)の摘記事項アないしサを含む引用例1全体の記載を総合すると、引用例1には、

「ベース4上に、試料5を面内方向に位置合わせするXYステージである粗い試料移動ステージ6とアーム10が備えられ、
粗い試料移動ステージ6には、試料台9を介して試料5が固定され、
アーム10にはベース4平面に対して鉛直方向の微小位置決め機構である粗動機構11であるZ軸ステージと、粗動機構11を介して、先端に固定されたカンチレバー13を3次元的に移動する微動機構12が備えられ、
片持ち梁状のカンチレバー13の先端に探針14が形成されており、
粗動機構11によりカンチレバー13の先端の探針14を試料5表面に粗く接近させ、微動機構12でさらに試料5に接近させて、試料5と探針14間に働く物理力により、カンチレバー13のたわみ変形が一定になるように、微動機構12を試料5面内に対して走査しながら微動機構12を調整することにより、試料5表面の形状や物性特性を計測し、
たわみ変形を検出するために光てこ検出方式が使用される、
走査型プローブ顕微鏡において、
粗い試料移動ステージ6上にXY軸の2方向に傾斜が可能な試料傾斜ステージ7と、カンチレバー13を走査する微動機構12側に相対的に試料5表面と探針14のなす角度の調整を行なう角度調整機構として微動機構回転ステージ18とを設け、
カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15やカンチレバー13が試料5表面に接触して干渉しないように、試料5を傾斜中心に移動させ、傾斜ステージ7で試料を傾け、または微動機構回転ステージ18で微動機構12を傾けることにより試料全面において測定したい試料位置で測定が可能となり、
試料5を傾斜中心に移動させたとき、傾斜中心での試料5表面に直交し、カンチレバー13の片持ち梁の軸方向を含む試料5の断面において、探針14の先端が試料5表面に対する接触状態にある、
走査型プローブ顕微鏡。」
の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(3) 本願の出願前に頒布された特開平8-226926号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審において付加したものである)。

ア 「【0003】図5に走査型プローブ顕微鏡の1つであるAFMの構成例を示す。このAFMは光学顕微鏡と複合化されたAFMである。基台11の上にXYステージ12が配置され、XYステージ12上の試料テーブル13の上に測定対象である試料14が載置される。XYステージ12は、直交するX軸方向およびY軸方向で定義されるXY平面内で試料テーブル13を任意に移動させる機能を有する。XY平面は、図5において水平であってかつ紙面に垂直な平面である。試料テーブル13に載置された試料14は、試料テーブル13の移動に伴ってXY平面内で任意の方向に移動される。また基台11上には取付け枠体15が設けられ、この取付け枠体15に光学顕微鏡16とZ粗動ステージ17が取り付けられる。光学顕微鏡16は、その対物レンズ18が下方を向き、試料14に対向している。またZ粗動ステージ17は、上記XY平面に垂直なZ軸方向の粗動を可能にする移動機構である。Z粗動ステージ17の下側には取付けブロック19を介してxyzスキャナ20が取り付けられる。xyzスキャナ20の下面にほぼ平行な姿勢でカンチレバー21が取り付けられる。xyzスキャナ20は、カンチレバー21をX,Y,Zの各軸方向に微動させる機能を有する。カンチレバー21の先部には試料14の表面に対向する探針22が設けられる。また取付けブロック19には変位検出器23が取り付けられる。変位検出器23はカンチレバー21の先部の探針22の変位を検出するための装置であり、変位検出器23には例えばレーザ光源と光検出器からなる検出光学系が使用される。」

イ 「【0008】図6に市販されるカンチレバー21と探針22の形状を示す。カンチレバー21の基端は保持部32に固定され、先端には探針22が固定される。探針22は長形の円錐形状を有し、その長さaが10μm、コーン角bが10度である。また探針22の先端から1μm程度の距離cの位置での直径dは0.18μmである。なおカンチレバー21の長さfは約100μmである。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記の寸法形状を有するカンチレバー21と探針22を備えた図5に示す光学顕微鏡付きAFMは、次のような問題がある。いま、上記AFMを用いて図7に示す形状を測定しようとする。図7に示された形状は、ピッチgが0.5μm、高さhが1μmのレジスタパターン33であり、このレジストパターンは16MDRAMの電極製作時のものである。このような形状を有するレジストパターン33は、現在のところ、測長SEM(走査電子顕微鏡)で測定を行っているが、底面部33aの寸法を必要としてこれを測定する場合には平面形状しか測定できず、従って高さhを測定することができないという問題を有する。そこで、上記AFMを用いてレジストパターン33の高さhを測定することになるわけであるが、上記寸法の探針22を使用してレジストパターン33の底面部33aを測定しようとすると、図7に示すような測定状態が生じる。その結果、図8に示すように、レジストパターン33の底面部33aは、左右の縁とも0.09μmの誤差iを含んだ状態で測定されることになる。以上のように、図7に示した16DRAM用のレジストパターン33の3次元形状を上記AFMを用いて測定しようとしても、3次元形状を正確に測定できないという問題が生じる。」

ウ 「【0014】
【作用】本発明では、AFM等の走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーの探針で試料表面の微細な凹凸形状を測定する場合に、取付け角設定器でカンチレバーを傾斜させて探針を所望の角度だけ傾斜させると共に、回転ステージでカンチレバーを回転させて探針の変位させその姿勢を逆転させる。探針の位置および姿勢をこのように変更できるようにすることにより、試料表面の凸部(または凹部)の左側縁部と右側縁部を正確に測定することを可能にし、試料表面の3次元形状を正確に測定できる。試料表面の凹凸部の形状測定は、左側測定対象部の測定値と右側測定対象部の測定値を合成回路により合成することによって行われる。」

エ 「【0017】上記の装置構成において、次のような新しい構成が付加される。前記xyzスキャナ20と変位検出器23は、Z粗動ステージ17に取り付けられたZ軸回り回転ステージ41に固定され、さらにカンチレバー21は取付け角設定部42を介してxyzスキャナ20に固定される。回転ステージ41によって、取付け構造上これに関連する構成部分、すなわちxyzスキャナ20、カンチレバー21、探針22、変位検出器23等はZ軸方向の回りに任意の角度で自由に回転させることができる。またカンチレバー21は、取付け角設定部42によって水平方向に対して角度θの傾斜姿勢で配置され、この角度θは取付け角度設定部42によって任意の角度に自由に設定することができる。角度θの設定は、例えば操作者の操作によって行われる。この操作は、手動、モータ等による自動によって行われる。なお上記の取り付け構造で、カンチレバー21と取付け角設定部42はxyzスキャナ20の下面中央部に配置したが、下面中央部の縁部に設けることもできる。」

オ 「【図2】


カ 「【図6】


【図7】


【図8】



キ 上記摘記事項イの段落【0008】における「カンチレバー21の長さf」なる記載と、上記摘記事項カの図6における「f」と符号「21」との関係とを踏まえると、上記摘記事項エで「カンチレバー21は」「水平方向に対して角度θの傾斜姿勢」と記載された、上記摘記事項オの図2の「θ」は、「水平方向に対」する「カンチレバー21の長さ」方向の「角度」であると認める。

(4) 引用例2に記載された発明の認定

上記(3)のアないしキを含む引用例2全体の記載を総合すると、引用例2には、

「走査型プローブ顕微鏡のカンチレバー21の探針で試料表面の微細な凹凸形状を測定する場合に、取付け角設定部42でカンチレバー21を傾斜させて探針を所望の角度だけ傾斜させることにより、試料表面の凸部または凹部の左側縁部と右側縁部を正確に測定することを可能にし、試料表面の3次元形状を正確に測定するために、
カンチレバー21は取付け角設定部42を介して、カンチレバー21をX,Y,Zの各軸方向に微動させる機能を有するxyzスキャナ20に固定され、
カンチレバー21は、取付け角設定部42によって、XY平面の水平方向に対して角度θの傾斜姿勢で配置され、この水平方向に対するカンチレバー21の長さ方向の角度θは、取付け角設定部42によって任意の角度に自由に設定することができる、
走査型プローブ顕微鏡。」
の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

4 本願補正発明と引用発明1との対比

(1) 対比

ア 引用発明1の「カンチレバー13」、「探針14」、「試料5」、「試料5面内」、「面内方向」、「鉛直方向」、「片持ち梁の軸」、「試料5の断面」、及び「走査型プローブ顕微鏡」は、それぞれ本願補正発明の「カンチレバー」、「探針」、「サンプル」、「サンプルの任意の2次元面内」、「水平」、「垂直」、「長軸」、「任意の平面」、及び「走査型プローブ顕微鏡」に相当する。


(ア) 引用発明1の「光てこ検出方式」と、本願補正発明の「自己変位検出機構」とは、「カンチレバー」の「たわみ変形」を検出する機構である点で共通する。

(イ) 本願補正発明では、「カンチレバーの先端に有した探針を」の箇所を受ける動詞が存在しないため、当該箇所は「カンチレバーの先端に有した探針を」用いることの意味であると解釈される。してみると、引用発明1において「カンチレバー13の先端に」「形成され」る「探針14」を用いることは、本願補正発明において「カンチレバーの先端に有した探針を」用いることに相当する。

(ウ) 引用発明1の「カンチレバー13」では、「試料5表面」に「対し探針14の先端が接触状態にあ」ることから、「探針14の先端」が「試料5」に対向して配置される。
よって、上記アを踏まえると、引用発明1の「カンチレバー13」の「探針14の先端が接触状態にあ」る「試料5」は、本願補正発明の「該探針の先端に対向配置したサンプル」に相当する。

(エ) 引用発明1の「カンチレバー13を3次元的に移動する微動機構12」における「3次元的に移動」は、「微動機構12を試料5面内に対して走査」する移動と、「探針14」を「微動機構12でさらに試料5に接近させ」る移動とを示している。
一方、「微動機構12」の「微動」に対する「粗動」は、「面内方向に位置合わせするXYステージである粗い試料移動ステージ6」及び「ベース4平面に対して鉛直方向の微小位置決め機構である粗動機構11であるZ軸ステージ」で実現されている。
「Z軸」が「XY軸の2方向」に直交することからすれば、上記「微動機構12を試料5面内に対して走査」することによる「探針14」の移動方向である「試料5面内」とは、「Z軸」方向が「鉛直方向」となる「ベース4平面」に平行な、「XYステージ」の「XY軸の2方向」に沿った「面内方向」となっている。
また、「探針14」を「微動機構12でさらに試料5に接近させ」る移動の方向は、「Z軸ステージ」である「粗動機構11によりカンチレバー13の先端の探針14を試料5の表面に粗く接近させ」る移動を踏まえたものであるから、「Z軸」方向である。そして、当該「Z軸」方向は、「XYステージ」の「XY軸の2方向」に直交する方向であるから、「XY軸の2方向」に沿った「面内方向」となっている「試料5面内」を定める「試料5表面」にも直交する「鉛直方向」である。
してみれば、引用発明1の「カンチレバー13を3次元的に移動する微動機構12」は、「試料5面内に対して走査」するために、「試料5面内」の「面内方向」で「探針14」を「微動」する部分と、当該「試料5面内」を定める「試料5表面」に直交する「鉛直方向」を含む面内において「探針14」を「微動」する部分とを有している。
よって、上記アを踏まえると、引用発明1の「微動機構12」は、本願補正発明の「水平微動機構」及び「垂直微動機構」に相当する。

(オ) 引用発明1における、「微動機構12を試料5面内に対して走査」することによって「探針14」を「微動」させること、及び「探針14」を「微動機構12でさらに試料5に接近させ」ることは、いずれも「探針14」を「試料5」に対して移動させることである。
また、本願補正発明では、「任意の2次元面内を」、及び「該2次元面に直行する面内を」の各箇所を受ける動詞が存在しない。また、「直行」が「直交」の誤記であることは自明であるから、これらの箇所は、それぞれ「任意の2次元面内について」、及び「該2次元面に直交する面内について」の意味であると解釈される。
したがって、上記ア及び上記(エ)を踏まえると、引用発明1における、「微動機構12を試料5面内に対して走査」することによって「探針14」を「微動」させること、及び「探針14」を「微動機構12でさらに試料5に接近させ」ることは、本願補正発明の「サンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させること」に相当する。

(カ) 引用発明1における、「微動機構12を試料5面内に対して走査」とは、「試料5表面」「と探針14間に働く物理力により、カンチレバー13のたわみ変形が一定になるように」行われるものであるから、「試料5表面」を「探針14」で「走査」するものとなっている。
また、本願補正発明では、「前記試料」の「前記」で参照されるはずの「試料」が記載されていない一方、「サンプル」との記載があるから、「前記試料」とは「前記サンプル」の意味であると解釈される。
よって、上記アを踏まえると、引用発明1の「試料5表面」を「探針14」で「走査」する「走査型プローブ顕微鏡」の「走査」方法は、本願補正発明の「前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法」に相当する。


(ア) 本願補正発明では、「前記2次元平面」の「前記」で参照されるはずの「2次元平面」が記載されていない一方、「2次元面」との記載があるから、「前記2次元平面」とは「前記2次元面」の意味であると解釈される。
よって、上記イ(オ)を踏まえると、引用発明1の「試料5表面に直交」する「試料5の断面」は、本願補正発明の「前記2次元平面に直交する任意の平面」に相当する。

(イ) 引用発明1では、「試料5表面に直交し、カンチレバー13の片持ち梁の軸方向を含む試料5の断面において、探針14の先端が試料5表面に対する接触状態にある」ことにより、「カンチレバー13」の「片持ち梁の軸」及び「探針14の先端」が「試料5の断面」内にある。
したがって、「カンチレバー13」の「片持ち梁の軸」に直交し「探針14の先端」を通る軸も、当該「試料5の断面」内にある。
よって、上記ア及び上記(ア)を踏まえると、引用発明1において「試料5表面に直交し、カンチレバー13の片持ち梁の軸方向を含む試料5の断面において、探針14の先端が試料5表面に対する接触状態にある」ように、「カンチレバー13」を配置することは、本願補正発明の「前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置」することに相当する。


(ア) 引用発明1は「微動機構12を試料5面内に対して走査」することで「試料5表面の形状や物性特性を計測」しているから、引用発明1の「形状や物性特性」が「計測」される「試料5表面」は、本願補正発明の「サンプルの」「表面の被測定面」に相当する。

(イ) 上記イ(エ)を踏まえると、引用発明1の「カンチレバー13を3次元的に移動する微動機構12」が、「XY軸の2方向」に沿った「試料5面内」である「面内方向」に「探針14」を「微動」する部分を有する。
よって、上記(ア)を踏まえると、引用発明1において、「試料5面内」が、「面内方向」に「探針14」を「微動」する部分の「XY軸の2方向」に沿っていることは、本願補正発明の「被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になる」ことに相当する。

(ウ) 引用発明1では、「カンチレバー13の先端に探針14が形成されて」いることから、「相対的に試料5表面と探針14のなす角度の調整を行なう」と、「相対的に試料5表面と」「カンチレバー13」「のなす角度の調整」も「行な」われることになる。
よって、引用発明1の「相対的に試料5表面と探針14のなす角度の調整を行なう」ことは、本願補正発明の「前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整する」に相当する。

(2) 本願補正発明と引用発明1との一致点

よって、本願補正発明と引用発明1とは、
「カンチレバーのたわみ変形を検出する機構及びカンチレバーの先端に有した探針を、該探針の先端に対向配置したサンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させることで前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法において、
前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルの表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整する、
走査型プローブ顕微鏡の走査方法。」
の発明である点で一致し、次の点で相違する。

(3) 本願補正発明と引用発明1との相違点

(相違点1)
カンチレバーのたわみ変形を検出する機構が、本願補正発明では、「カンチレバー」に「備わる」「自己検出機構」であるのに対し、引用発明1では、その点が記載されていない点。

(相違点2)
「被測定面」となる「表面」が、本願補正発明では、「任意の形状」であるのに対し、引用発明1では、その点が明記されていない点。

(相違点3)
本願補正発明では、「少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整する」のに対し、引用発明1では、その点が記載されていない点。

5 当審の判断

(1) 相違点1の検討

上記相違点1について検討する。

引用例1では、上記摘記事項アによって、「走査型プローブ顕微鏡」の「背景技術」として「カンチレバー」である「ばね要素」の「変位検出手段として」、「光てこ方式」の「光学的方式」だけでなく、「先端に探針を設けたレバー部とそのレバー部を支持する支持部とが2つの屈曲部によって連結されて構成されるカンチレバーにおいて、その屈曲部上にピエゾ抵抗体を前記レバー部から前記支持部に向かう方向に直線状に設ける」「自己検出方式がある」ことが示されている一方、上記「光てこ方式」の「光学的方式」に対する「自己検出方式」の短所、及び「自己検出方式」に対する「光学的方式」の長所は何ら示されていない。
してみれば、引用発明1において「たわみ変形を検出するために光てこ検出方式が使用され」ている理由は、「光てこ方式」または「自己検出方式」なる「背景技術」の選択肢のうち一方を適宜選択した結果に過ぎない。
よって、引用発明1において、「光てこ検出方式」に代えて、当該選択肢の他方、すなわち「カンチレバーに」「設ける」「自己検出方式」を選択することによって、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうるものである。

(2) 相違点2の検討

引用発明1において、「カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15やカンチレバー13が試料5表面に接触して干渉しないように、試料5を傾斜中心に移動させ、傾斜ステージ7で試料を傾け、または微動機構回転ステージ18で微動機構12を傾けることにより試料全面において測定したい試料位置で測定が可能」であることは、「測定したい試料位置」に対応する「傾斜中心」があれば足り、「試料5」の全体形状に依存しないから、上記「試料5表面」は「任意の形状」の表面であるものを含む。
よって、上記相違点2の本願補正発明に係る構成は、引用発明1に含まれうる構成であるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3) 相違点3の検討

ア 本願補正発明では、「カンチレバーの取り付け角度」の基準が、「カンチレバーホルダ」には限られていないから、本願補正発明は、文言上、「カンチレバーの取り付け角度」が任意の部材に対するものであるものを含む。
ところが、本願の審判請求書には、
「すなわち、上記構成においては、下図[図1]に示す本願図3の様に、カンチレバー11をその支持部分であるカンチレバーホルダ14に対し、第四の角度調整機構(カンチレバー取付角度調整機構)12で取付角度を調整するものです。」(「3」の(3)の(3-4)の第6段落)
と、「カンチレバーの取り付け角度」が「カンチレバーホルダ」に対するものに限る旨が主張されている。
この点を踏まえて、まず、「カンチレバーの取り付け角度」が(審判請求書のとおり)「カンチレバーホルダ」に対するものに限られる意味で本願補正発明を解釈して、相違点3について検討する。

イ 引用発明2と本願補正発明とを対比する。

(ア) 引用発明2の「カンチレバー21」、「長さ方向」、「自由に設定」、及び「走査型プローブ顕微鏡」は、それぞれ本願補正発明1の「カンチレバー」、「長軸」、「調整」、及び「走査型プローブ顕微鏡」に相当する。

(イ) 引用発明2の「カンチレバー21」は、「取付け角設定部42を介してxyzスキャナ20に固定され」ることから、上記(ア)を踏まえると、引用発明2の「カンチレバー21」を「固定」するための「xyzスキャナ20」は、本願補正発明1の「カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダ」に相当する。

(ウ) 引用発明2の「xyzスキャナ20」のうち、「カンチレバー21をX,Y」「の各軸方向に微動させる機能を有する」部分は、「カンチレバー21」を「XY平面」内で微動させるものであるから、引用発明2の「xyzスキャナ20」の「カンチレバー21をX,Y」「の各軸方向に微動させる機能を有する」部分の「XY平面」は、本願補正発明1の「水平方向微動機構の移動面」に相当する。

(エ) 引用発明2の「取付け角設定部42」は、「XY平面の」「水平方向に対するカンチレバー21の長さ方向の角度θ」を「任意の角度に自由に設定する」ものである。
よって、上記(ア)及び(ウ)を踏まえると、「カンチレバー21の長さ方向」に直交する、「XY平面」に平行な軸のまわりに「カンチレバー21」の「xyzスキャナ20」に対する「取付け角」の「角度θ」を「自由に設定する」ことは、本願補正発明1の「カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの」(カンチレバーホルダに対する)「取り付け角度を調整すること」に相当する。

(オ) 上記(イ)及び(エ)を踏まえると、引用発明2には、上記相違点3に係る本願補正発明1の発明特定事項の構成が特定されている。

ウ 引用例2(上記「3」の(3)を参照。)における、摘記事項イの「探針22を使用してレジストパターン33の底面部33aを測定しようとすると、図7に示すような測定状態が生じる。その結果、図8に示すように、レジストパターン33の底面部33aは、左右の縁とも」「誤差iを含んだ状態で測定される」なる「3次元形状を正確に測定できないという問題が生じる」なる記載と、摘記事項カの図7及び図8とを踏まえると、引用発明2において「カンチレバーの探針」によって「左側縁部と右側縁部を正確に測定することを可能にし、試料表面の3次元形状を正確に測定できる」ことの根拠は、「カンチレバーの探針」の先端を必ず「試料表面」に接触させることであると言える。
よって、引用発明2において上記イ(オ)のとおり特定されている構成は、「カンチレバー21の探針」の先端を必ず「試料表面」に接触させるという技術課題を解決するものである。
一方、引用発明1は「カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15やカンチレバー13が試料5表面に接触して干渉しないように」した結果、「探針14の先端が試料5表面に対する接触状態にある」こととなっているから、引用発明2の上記技術課題と同様の技術課題を解決することを目的としている。
してみれば、引用発明1において、必ず「探針14の先端が試料5表面に対する接触状態にある」ようにするために、引用発明2で特定されている上記構成を採用して、「カンチレバー13を保持するカンチレバーベース部15」に設けられた「カンチレバー13」の長軸に直交し「面内方向」に平行な軸まわりに、「カンチレバー13」の「カンチレバーベース部15」に対する取り付け角度を調整することにより、上記相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうるものである。

エ ところで、上記アに示したとおり、本願補正発明は、文言上、「カンチレバーの取り付け角度」が任意の部材に対するものであるものを含むから、本願補正発明をそのように解釈した場合についても、あわせて検討する。
引用発明1の「微動機構回転ステージ18」は「試料5表面と探針14のなす角度の調整を行なう角度調整機構」として、引用例1の摘記事項キ(上記「3」の(1)を参照。)のとおり「微動機構回転ステージ18により微動機構12を試料表面に対して傾けることで」「凸面および凹面形状の試料表面の面内位置に関わらず」「探針が受ける原子間力の方向が変わらないように調整」することを可能にするものである。
そして、「カンチレバー13の片持ち梁の軸方向を含む試料5の断面」内での「走査」に対しては、このような「調整」は、「カンチレバー13の片持ち梁の軸方向」に直交し、「面内方向」に平行な軸まわりに、「カンチレバー13」の「アーム10」に対する取り付け角度を調整することを意味している。
引用発明1において、「微動機構12を試料5面内に対して走査」するにあたり、「面内」のいずれの方向の「走査」を含ませるかは、当業者が必要に応じて適宜選択するものであるから、当該方向は「カンチレバー13の片持ち梁の軸方向を含む試料5の断面」内にあるものを明らかに含む。
よって、本願補正発明において、「カンチレバーの取り付け角度」が任意の部材に対するものを含むと解釈した場合、上記相違点3は、実質的な相違点ではない。

(4) 本願補正発明の奏する作用効果

また、本願補正発明の作用効果は、引用発明1及び引用発明2から、当業者が予測できる範囲のものである(なお、上記(3)のエの意味での本願補正発明の作用効果は、引用発明1から、当業者が予測できる範囲のものである)。

(5) まとめ

したがって、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである(なお、上記(3)のエの意味での本願補正発明は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである)から、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 むすび

したがって、本件補正後の請求項6に係る発明は、その特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。よって、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について

1 本願発明

平成26年8月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項7に係る発明(以下「本願発明」という)は、平成26年2月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項7に記載されたとおりのもの(上記「第2」の「1」の(1)の(補正前)の記載を参照。)である。

2 引用例

原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項は上記「第2」の「3」の(1)及び(2)に記載したとおりである。

3 当審の判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明において、「少なくとも当該カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダに設けられた前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整すること」の事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明1とは、上記「第2」の「4」の(2)に示した本願補正発明と引用発明1との一致点と同一の点で一致し、同「4」の(3)に示した相違点1及び相違点2と同一の点で相違する。
よって、上記「第2」の「5」の(1)及び(2)と同様の理由により、引用発明1において、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは、当業者が容易に想到しうるものであり、また、上記相違点2は実質的な相違点ではない。
そして、本願発明の作用効果は、引用発明1から、当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-07-01 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-07-21 
出願番号 特願2010-76379(P2010-76379)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 後藤 大思阿部 知東松 修太郎  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 ▲高▼場 正光
藤田 年彦
発明の名称 走査型プローブ顕微鏡及びその走査方法  
代理人 濱田 百合子  
代理人 吉田 将明  
代理人 橋本 公秀  

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