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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60L
管理番号 1304936
審判番号 不服2014-16324  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-19 
確定日 2015-09-03 
事件の表示 特願2011- 39179「鉄道車両用駆動システムおよび鉄道車両、これを備えた列車編成」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日出願公開、特開2012-178898〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理 由
1.手続の経緯
本願は、平成23年2月25日の出願であって、平成25年10月18日付けで拒絶理由が通知され、これに対して同年12月24日に手続補正がなされると共に意見書が提出され、平成26年2月24日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年4月22日に手続補正がなされると共に意見書が提出されたが、同年5月19日付けで前記平成26年4月22日にした手続補正が却下されると共に拒絶査定がされ、これに対し、同年8月19日に拒絶査定不服審判がされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。

2.平成26年8月19日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年8月19日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正後の本願補正発明
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を
「【請求項1】
交流架線から供給される交流電力を直流電力に変換する架線用電力変換装置と、 エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置と、
前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置と、
を備えた駆動システムにおいて、
前記エンジンの起動を行う際に、前記発電機用電力変換装置は、前記平滑コンデンサに蓄えられた直流電力を用いて前記発電機を駆動して、前記エンジンにトルクを与えること
を特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項2】
請求項1記載の鉄道車両用駆動システムにおいて、
前記エンジンの起動を行う前に、前記平滑コンデンサに前記エンジンの起動に必要な電荷を蓄えておくこと
を特徴とする鉄道車両用駆動システム。」
から、
「【請求項1】
交流架線から供給される交流電力を直流電力に変換する架線用電力変換装置と、
エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置と、
前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の直流側に接続されて、前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置により変換された直流電力をいずれも平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置と、
を備えた駆動システムにおいて、
前記平滑コンデンサ及び前記架線用電力変換装置及び前記発電機用電力変換装置は、同一車両に搭載され、
前記エンジンの起動を行う前に、前記架線用電力変換装置(審決注:「前記前記架線用電力変換装置」は「前記架線用電力変換装置」の誤記と認められるので、「前記架線用電力変換装置」とした。)は、前記平滑コンデンサに前記エンジンの起動に必要な電荷を蓄え、
前記エンジンの起動を行う際に、前記発電機用電力変換装置は、前記架線用電力変換装置から供給されて前記平滑コンデンサに蓄えられた直流電力を用いて前記発電機を駆動して、前記エンジンにトルクを与えること
を特徴とする鉄道車両用駆動システム。」(下線は当審にて付与した。)
とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項2に係る発明が請求項1を引用する形式で記載されていたものを、独立項形式で記載した上で、本件補正前の請求項2に係る発明を特定するために必要な事項である「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサ」を「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の直流側に接続されて、前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置により変換された直流電力をいずれも平滑する平滑コンデンサ」としたものであって、「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の直流側に接続されて」との限定を付加し、架線用電力変換装置と発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑するとしていたのを「いずれも平滑する」と限定したものである。
さらに、上記補正は、本件補正前の請求項2にかかる発明を特定するために必要な事項である平滑コンデンサ及び架線用電力変換装置、発電用電力変換装置に関して「前記平滑コンデンサ及び前記架線用電力変換装置及び前記発電機用電力変換装置は、同一車両に搭載され、」と限定したものである。
また、本件補正前の請求項2にかかる発明を特定するために必要な事項である平滑コンデンサに蓄えられた直流電力が「架線用電力変換装置から供給され」た電力である点を限定したものである。
そして、この限定された事項は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されたものであって、本件補正後の請求項1に記載された発明は、本件補正前の請求項2に記載された発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用文献
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第2010/146643号(以下、「引用文献1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当審にて付与した。)。
「[0001] 本発明は、鉄道システムの駆動システムに係り、特に、外部給電手段と発電手段と電力蓄積手段を設備し、これらの手段より得られる電力を利用して鉄道車両を駆動する技術に関する。」

「[0003] そこで、このような気動車で省エネルギを推進する方法のひとつとして、エンジンと蓄電装置を組み合わせたハイブリッド車両が考案された。ハイブリッド車両は蓄電装置を設けることにより、制動時に発生する回生エネルギを蓄電装置でいったん吸収することが可能となり、この吸収した回生エネルギを力行時に必要なエネルギの一部として再利用することにより省エネルギを実現する。
このように、減速器を介してエンジン出力を輪軸に直接伝達して車両の引張力を得る従来の気動車に対し、ハイブリッド車両は、エンジン出力で発電機を駆動して直流電力に変換し、この直流電力をインバータ装置で交流電力に変換し、電動機を駆動して引張力を発生する。一方、ブレーキ時は電動機で発電された交流電力をインバータ装置で直流電力に変換して、直流電力部に接続された蓄電装置に充電する。見方を変えるとハイブリッド車両は、電車の駆動システムに電力を発生するエンジン発電機と、回生電力を吸収する蓄電装置を付加したシステムであるといえる。
[0004] ハイブリッド車両の構成、制御方式については、特許文献1の鉄道車両駆動システムにおいて述べられている。
図7に特許文献1の図1に示されている鉄道車両駆動システムの機器構成図を示す。発電手段110と電力変換装置120と駆動電動機と電力蓄積手段150を搭載した第一の鉄道車両101と、電力変換装置120と駆動電動機と電力蓄積手段150を搭載した第二の鉄道車両102と、各手段を電力伝達手段140によって接続した鉄道車両駆動システムにおいて、発電手段110の発電電力および電力蓄積手段150の蓄電量を制御する電力管理手段200を備え、電力蓄積手段150が、発電手段110が発電する電力および回生電力を蓄積し、発電手段110と電力蓄積手段150を電源として電力変換装置120によって駆動電動機を駆動し、列車を駆動する。
このように、特許文献1の図1に示されている鉄道車両駆動システムでは、発電手段110を備えた第一の鉄道車両から、電車と同様の駆動システムである電力変換装置120と駆動電動機と電力蓄積手段150を備えた第二の鉄道車両102に電力を供給して、車両の走行を実現している。」

「[0005] 特許文献1:特許第4184879号公報
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] ハイブリッド車両には、駆動システムの基本構成は電車と同じであるため、電車と同等の走行性能を実現できることがメリットのひとつである。
従来の気動車では、走行性能がエンジン出力特性で制限されるため、電車とは走行特性が異なっていた。このため、気動車が電化区間に乗り入れたときは、気動車専用の運行ダイヤを組む必要があった。しかし、ハイブリッド車両では、電化区間に乗り入れたときでも、電車と同じ走行特性を実現できるので、電車と同じ運行ダイヤで運用できる。
ところで、通常の電車は、車両直上の空中に設備された架線から駆動システムに電力が供給される。しかし、従来のハイブリッド車両においては、電化区間に乗り入れたときであっても、駆動システムへの電力供給はエンジン発電手段により行われるため、エンジンを駆動する燃料(軽油等)が必要となる。このため、ハイブリッド車両が乗り入れる電化区間でも、車両の燃料タンクが空になることを想定して給油施設を設ける必要があると考えられる。
すなわち、ハイブリッド車両が非電化区間と電化区間を直通するためには、電化区間においても新たに給油施設等の設備投資が必要となることが課題といえる。
本発明の目的は、ハイブリッド車両の電力供給を、電化区間、非電化区間で最適に切換制御することにより、電化区間に給油設備等の新たな設備を設けることなく、また、非電化区間と電化区間を意識することなく、両区間を相互に直通運転できる、機動性の高い鉄道車両システムを実現することにある。」

「[0012] 図1は、本発明の鉄道車両の駆動システムにおける一実施形態の機器構成を示す図である。
車両1a、1b、1cは、列車編成を構成する車両の一部である。第3両目の車両1aは車間連結器11a、11b、第2両目の車両1bは車間連結器11c、11d、先頭車両の車両1cは車間連結器11e、11fをそれぞれ備えており、車両1aと車両1bは車間連結器11bと車間連結器11cで、車両1bと車両1cは車間連結器11dと車間連結器11eで、連結されている。
車両1aは、台車2aを介して輪軸3a、3bにより、また、台車2bを介して輪軸3c、3dにより、図示していないレール面上に支持されている。車両1bは、台車2cを介して輪軸3e、3fにより、また、台車2dを介して輪軸3g、3hにより、図示していないレール面上に支持されている。車両1cは、台車2eを介して輪軸3i、3jにより、また、台車2fを介して輪軸3k、3lにより、図示していないレール面上に支持されている。
[0013] 車両1aの機器構成について説明する。
車両1aには、線路上に配置された地上子、すなわち位置情報発信手段から位置情報を受信する地点検知器14、第一の給電手段である集電装置18、第一の電力供給手段である外部給電コンバータ装置19、主変圧器20、システム統括制御装置8a、情報通信装置9a、静電アンテナ35の各機器が配置される。
主変圧器20は、集電装置18により供給される交流電力を基に、外部給電コンバータ装置19の仕様に適合する電圧に変換する。外部給電コンバータ装置19は、主変圧器20により変換された電圧を有する交流電力を直流電力に変換し、電力伝達手段7aを供給して編成内の他車両1a、1bに送られる。地点検出器14は、車外に設備する地上子などの位置情報発信手段37(図示していない)から発信される地点情報を検出し、システム統括制御装置8aに送る。位置情報発信手段37としては、静電アンテナ35は、架線の有無情報を架線に通流する交流電流の変動により検出し、システム統括制御装置8aに送る。ここで、位置情報発信手段37としては、全地球測位システム(GPS)を活用することもできる。」

「[0015] 次に、車両1bの機器構成について説明する。
車両1bには、電動機駆動手段であるインバータ装置4a、DC/DCコンバータ装置5、第三の給電手段である蓄電装置6、システム統括制御装置8b、情報通信装置9bの各機器が配置される。
インバータ装置4は、電力伝達手段7bにより供給される直流電力を基に、これを3相交流電力に変換して、図示していない電動機27を駆動する。電動機27の出力は、図示していない動力伝達手段を介することにより、輪軸3e、3f、3g、3hの全て、またはいずれかを駆動して、車両1bに加減速力を与える。
チョッパ装置5は、入力側、出力側で各々端子電圧が異なる状態において、入力側、出力側それぞれの端子電圧に応じて電流を通流させる機能を持つ。ここでは、高電圧側の端子は電力伝達手段7bに、低電圧側の端子は蓄電装置6に接続される。すなわち、チョッパ装置5は、電力伝達手段7bの電力を蓄電装置6に充電し、また蓄電装置6を放電して電力伝達手段7bに戻すことができる。」

「[0017] 次に、先頭車両である車両1cの機器構成について説明する。
車両1cには、エンジン15、発電機16、エンジン発電コンバータ装置17、システム統括制御装置8c、情報通信装置9cの各機器が配置される。
エンジン15及び発電機16が、車両内部で電力を発生させる第二の給電手段を構成し、エンジン15により、発電機16を駆動して3相交流電力を発生させる。この3相交流電力は、エンジン発電コンバータ装置17により直流電力に変換され、電力伝達手段7cを供給して編成車両内の他車両1a、1bに送られる。
[0018] システム統括制御装置8cは、エンジン15、エンジン発電コンバータ装置17と接続し、それぞれ制御要求Deng_c、Dcnv_cを与えると共に、各装置の状態情報Seng_c、Scnv_cを集約する。また、システム統括制御装置8cは、エンジン15、エンジン発電コンバータ装置17との間で収受した情報Dinf_cを情報通信装置9cに送る。情報通信装置9cは、情報伝送手段10cを経て、編成内の他車両の情報通信装置9a、9bとの間で情報を共有できる。すなわち、情報通信装置9cでは、列車全体の情報を収集でき、システム統括制御装置8cは、この中からエンジン15、エンジン発電コンバータ装置17の制御に必要な情報Scnv_cを選択して受信する。
また、車両1cは、編成車両内の他車両と電力伝達手段7cを接続するための電力系連結器12eを、また、編成車両内の他車両と情報伝送手段10cを接続するための情報系連結器13eをそれぞれ設備している。
なお、前記外部給電コンバータ19、エンジン発電コンバータ17及びチョッパ装置5が、第一の給電手段である集電装置18、第二の給電手段であるエンジン15及び発電機1及び第三の給電手段である蓄電装置6からの電力を、一定の電圧値レベルを有する直流電力に変換する電力変換手段を構成する。
[0019] この構成によると、受信した走行位置情報をもとに架線などの外部電力源の有無を照合して車両外部からの電力供給の可・不可、すなわち、現在走行する路線が、電化区間であるか、非電化区間であるかを判断し、車両外部から電力供給が不可であるとき外部給電手段は外部電力源から切断し、車両外部から電力供給が可であるとき外部給電手段は外部電力源と接続することが可能である。
さらに、集電装置、エンジン発電機、蓄電装置、外部給電コンバータ装置、エンジン発電コンバータ装置、インバータ装置をそれぞれ制御するシステム統括制御装置と、システム統括制御装置の制御情報を相互に収受する情報通信装置を備えることで各機器を統合的に制御し、車両外部からの電力供給が可のときはインバータ装置への主たる電力供給は集電装置からの給電電力として外部給電コンバータ装置により直流電力部を所定電圧値に制御し、集電装置からの電力供給が不可のときはインバータ装置への主たる電力供給はエンジン発電機からの給電電力としてエンジン発電コンバータにより直流電圧部を所定電圧値に制御できる。
すなわち、電化区間に給油設備等の新たな設備を設けることなく、また、非電化区間と電化区間を意識することなく両区間を相互に直通運転できる、機動性の高い鉄道車両システムを実現することができる。
[0020] 図2は、本発明の一実施形態における機器構成の詳細を示す図である。
車両1aには、集電装置18、主変圧器20、外部給電コンバータ装置19、システム統括制御装置8a、情報通信装置9a、位置検出器14、静電アンテナ35の各機器が配置される。
主変圧器20は、集電装置18により供給される交流電力を基に、外部給電コンバータ装置19の仕様に適合する電圧に変換する。外部給電コンバータ装置19は、主変圧器20により変換された電圧を有する交流電力を交流電力に変換し、電力伝達手段7aを供給して編成内の他車両1a、1bに送られる。
外部給電コンバータ回路25は、主変圧器20から供給される交流電力を、外部給電コンバータ制御部31が出力するスイッチング信号GP_pに基づいて、図示していないスイッチング素子を制御することにより、直流電力に変換する。また、電力伝達手段7aからの供給電圧を測定するための電圧検出器22a、供給電流を測定するための電流検出器23a、主変圧器から供給される交流電力の電流を測定する電流検出器23bをそれぞれ配置する。フィルタコンデンサ21aは、外部給電コンバータ回路25の入力端に並列に接続され、外部給電コンバータ回路25に流入あるいは流出する電流の変動成分を除去する。」

「[0022] 車両1bには、インバータ装置4、電動機27a、27b、チョッパ装置5、蓄電装置6、システム統括制御装置8b、情報通信装置9bの各機器が配置される。
インバータ装置4は電力伝達手段7bにより供給される直流電力を基に、これを3相交流電力に変換して電動機27a、27bを駆動する。ここで、インバータ装置4により駆動される電動機は、電動機27a、27bとしているが、これは、インバータ装置4が駆動する電動機の台数を限定するものではない。インバータ回路26は、前述の直流部分の電力を、インバータ制御部32が出力するスイッチング信号GP_tに基づいて、図示していないスイッチング素子を制御することにより、電圧可変、周波数可変の3相交流電力に変換し、電動機27a、27bを駆動する。また、電力供給手段7bからの供給電圧を測定するための電圧検出器22b、供給電流を測定するための電流検出器23cをそれぞれ配置する。フィルタコンデンサ21bは、インバータ回路26の入力端に並列に接続され、インバータ回路26に流入あるいは流出する電流の変動成分を除去する。
[0023] チョッパ装置5は、入力側、出力側で各々端子電圧が異なる接続でも、その入力側、出力側の端子電圧に応じて電流を通流させる機能を持つ。ここでは、高電圧側の端子は、電力伝達手段7bに、低電圧側の端子は蓄電装置6に接続される。蓄電装置6とチョッパ回路28の間には、平滑リアクトル24が接続され、後述の昇降圧チョッパ動作においてチョッパ電流を平滑する役割と、昇圧チョッパ動作において電気エネルギを一次蓄積する役割を果たす。チョッパ回路28は、チョッパ制御部33が出力するスイッチング信号GP_dに基づいて、図示していないスイッチング素子を制御することにより、電力伝達手段7bに接続された高電圧側の端子と、蓄電装置6に接続された低電圧側の端子の間を、それぞれの端子間電圧を維持または制御しながら、電流を通流させる。また、蓄電装置6からの供給電流を測定するための電流検出器24を蓄電装置6とチョッパ回路28の間に、さらに、蓄電装置6の出力電圧を測定するため電圧測定器22cを蓄電装置6の出力端子間に配置する。すなわち、チョッパ装置5は、電力伝達手段7bの電力をもとに蓄電装置6に充電し、また蓄電装置6を放電して電力伝達手段7bに戻すことができる。」

「[0025] 車両1cには、発電機30、エンジン発電コンバータ装置17、システム統括制御装置8c、情報通信装置9cの各機器が配置される。
発電機30は、図示していないエンジン等の動力で駆動されて三相交流電力を発生する。エンジン発電コンバータ装置17は、発電機30により発生された三相交流電力を基に、これを直流電力に変換して、電力伝達手段7cに供給する。
エンジン発電コンバータ回路29は、発電機30により発生された三相交流電力を、エンジン発電コンバータ制御部34が出力するスイッチング信号GP_eに基づいて、図示していないスイッチング素子を制御することにより、直流電力に変換する。また、電力伝送装置7cからの供給電圧を測定するための電圧検出器22d、供給電流を測定するための電流検出器23h、発電機30により発生された三相交流電力の各相の電流を測定する電流検出器23i、23j、23kをそれぞれ配置する。フィルタコンデンサ21cは、エンジン発電コンバータ回路29の入力端に並列に接続され、エンジン発電コンバータ回路29に流入あるいは流出する電流の変動成分を除去する。」

「[0027] 以上説明したように、この構成によると、受信した走行位置情報をもとに架線などの外部電力源の有無を照合して車両外部からの電力供給の可・不可、すなわち電化区間か非電化区間であるかを判断し、車両外部から電力供給が不可であるとき外部給電手段は外部電力源から切断し、車両外部から電力供給が可であるとき外部給電手段は外部電力源と接続することが可能である。
さらに、集電装置、エンジン発電機、蓄電装置、外部給電コンバータ装置、エンジン発電コンバータ装置、インバータ装置をそれぞれ制御するシステム統括制御装置と、システム統括制御装置の制御情報を相互に収受する情報通信装置を備えることで各機器を統合的に制御し、車両外部からの電力供給が可のときはインバータ装置への主たる電力供給は集電装置からの給電電力として外部給電コンバータ装置により直流電力部を所定電圧値に制御し、集電装置からの電力供給が不可のときはインバータ装置への主たる電力供給はエンジン発電機からの給電電力としてエンジン発電コンバータにより直流電圧部を所定電圧値に制御できる。
すなわち、電化区間に給油設備等の新たな設備を設けることなく、また、非電化区間と電化区間を意識することなく両区間を相互に直通運転できる、機動性の高い鉄道車両システムを提供できる。」

「[請求項1]
車両外部から電力を得る第一の給電手段と、
車両内部で電力を発生させる第二の給電手段と、
車両に設備され蓄電機能をもつ第三の給電手段と
前記第一ないし第三の給電手段からの電力を、第一の電圧値レベルを有する直流電力に変換する電力変換手段と、
前記第一の電圧値レベルを有する直流電力を交流電力に変換し、該交流電力により電動機を駆動する電動機駆動手段を備えるとともに、
車外に設備された位置情報発信手段から受信する位置情報に基づいて、前記車両が走行する区間が、車両外部からの電力供給が可能となる電化区間であるか、電力供給が不可能となる非電化区間であるかを判定する電化区間判定手段を設け、
前記電化区間判定手段の判断に基づいて、電化区間から非電化区間への移行時に前記第一の給電手段からの外部電力源を切断するとともに、非電化区間から電化区間への移行時に、前記第一の給電手段からの外部電力源を接続することを特徴とする、鉄道車両の駆動システム。」

また、引用文献1には、次の[図1]、[図2]も記載されている。

[図1]

[図2]

これらの記載事項及び図面の記載からみて、引用文献1には次の事項が記載されている。
ア.引用文献1には、鉄道車両の駆動システムが記載されている。そして、引用文献1には、「主変圧器20は、集電装置18により供給される交流電力を基に、外部給電コンバータ装置19の仕様に適合する電圧に変換する。外部給電コンバータ装置19は、主変圧器20により変換された電圧を有する交流電力を交流電力に変換し、電力伝達手段7aを供給して編成内の他車両1a、1bに送られる。外部給電コンバータ回路25は、主変圧器20から供給される交流電力を、・・・直流電力に変換する」([0020])と記載され、外部給電コンバータ回路25は外部給電コンバータ装置19の回路であるから、外部給電コンバータ回路25が変換した直流電力が電力伝達手段7aに供給され、さらに引用文献1には「架線などの外部電力源の有無を照合して車両外部からの電力供給の可・不可、すなわち、現在走行する路線が、電化区間であるか、非電化区間であるかを判断し、車両外部から電力供給が不可であるとき外部給電手段は外部電力源から切断し、車両外部から電力供給が可であるとき外部給電手段は外部電力源と接続することが可能である」([0019])と記載されていること等から、上記集電装置18により供給される交流電力は、架線などの外部電力源から供給されることは明らかである。したがって、引用文献1には、架線などの外部電力源から供給される交流電力を直流電力に変換する外部給電コンバータ回路25が記載されている。また、この直流電力は電力伝達手段7aに供給されることもわかる。
イ.「発電機30は、図示していないエンジン等の動力で駆動されて三相交流電力を発生する。エンジン発電コンバータ装置17は、発電機30により発生された三相交流電力を基に、これを直流電力に変換して、電力伝達手段7cに供給する。エンジン発電コンバータ回路29は、発電機30により発生された三相交流電力を、・・・直流電力に変換する」([0025])と引用文献1には記載されている。エンジン発電コンバータ回路29は、エンジン発電コンバータ装置17の回路であるから、エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力が電力伝達手段7cに供給されるといえるから、引用文献1には、エンジン等の動力で駆動された発電機30から発生された三相交流電力を直流電力に変換するエンジン発電コンバータ回路29が記載され、またこの直流電力は電力伝達手段7cに供給されることもわかる。
ウ.「フィルタコンデンサ21aは、外部給電コンバータ回路25の入力端に並列に接続され、外部給電コンバータ回路25に流入あるいは流出する電流の変動成分を除去する。」([0020])ことから、外部給電コンバータ回路25の入力端に接続されたフィルタコンデンサ21aは外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するといえる。[図2]の記載からみて、フィルタコンデンサ21aの接続される外部給電コンバータ回路25の入力端は明らかに外部給電コンバータ回路25の直流側であり、このフィルタコンデンサ21aで電流の変動成分が除去された直流電力が電力伝達手段7aに供給されるといえる。したがって、フィルタコンデンサ21aは、外部給電コンバータ回路25の直流側に接続されて、外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するといえる。
エ.「フィルタコンデンサ21cは、エンジン発電コンバータ回路29の入力端に並列に接続され、エンジン発電コンバータ回路29に流入あるいは流出する電流の変動成分を除去する。」([0025])ことから、エンジン発電コンバータ回路29の入力端に接続されたフィルタコンデンサ21cは、エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するといえる。[図2]の記載からみて、フィルタコンデンサ21cの接続されるエンジン発電コンバータ回路29の入力端は明らかにエンジン発電コンバータ回路29の直流側であり、このフィルタコンデンサ21cで電流の変動成分が除去された直流電力が電力伝達手段7cに供給されるといえる。したがって、フィルタコンデンサ21cは、エンジン発電コンバータ回路29の直流側に接続されて、エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するといえる。
オ.引用文献1には「インバータ装置4は電力伝達手段7bにより供給される直流電力を基に、これを3相交流電力に変換して電動機27a、27bを駆動する」([0022])と記載されている。電力伝達手段7bより供給される直流電力は、[図1]の記載より、電力伝達手段7bに上記ウ.に記載の電力伝達手段7aと上記エ.に記載の電力伝達手段7cが接続されていることから、上記ウ.で示した電力伝達手段7aに供給された直流電力と上記エ.で示した電力伝達手段7cに供給された直流電力であり、これらは、フィルタコンデンサ21a及びフィルタコンデンサ21cで電流の変動成分が除去された直流電力である。ここで、[図2]に記載された3つの「7b」のうち、電力系連結器12aと12bをつなぐ電力伝達手段の「7b」は「7a」の誤記であり、電力系連結器12eと12fをつなぐ電力伝達手段の「7b」は「7c」の誤記である。そして、この直流電力を基に電動機27a、27bをインバータ装置4は駆動する。
カ.車両1aには、外部給電コンバータ装置19が配置され([0020])、上記[図2]の記載より、外部給電コンバータ装置19は、外部給電コンバータ回路25とフィルタコンデンサ21aを含むものであるから、フィルタコンデンサ21a及び外部給電コンバータ回路25は、同一の車両1aに搭載されるといえる。
キ.車両1cには、エンジン発電コンバータ装置17が配置され([0025])、上記[図2]の記載より、エンジン発電コンバータ装置17は、エンジン発電コンバータ回路29とフィルタコンデンサ21cを含むものであるから、フィルタコンデンサ21c及びエンジン発電コンバータ回路29は、同一の車両1cに搭載されるといえる。

以上のことから、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「架線などの外部電力源から供給される交流電力を直流電力に変換する外部給電コンバータ回路25と、
エンジン等の動力で駆動された発電機30から発生された三相交流電力を直流電力に変換するエンジン発電コンバータ回路29と、
前記外部給電コンバータ回路25の直流側に接続されて、前記外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21aと、前記エンジン発電コンバータ回路29の直流側に接続されて、前記エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21cと、
前記フィルタコンデンサ21a及び前記フィルタコンデンサ21cで電流の変動成分が除去された直流電力を基に電動機27a、27bを駆動するインバータ装置4と、
を備えた駆動システムにおいて、
前記フィルタコンデンサ21a及び前記外部給電コンバータ回路25は、同一の車両1aに搭載され、前記フィルタコンデンサ21c及び前記エンジン発電コンバータ回路29は、同一の車両1cに搭載される、
鉄道車両の駆動システム。」

(2-2)引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である特開2007-255294号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている(下線は、当審にて付与した。)。
「【0001】
この発明は、車両の電源装置に関し、特に内燃機関を始動する電動機に電力供給を行なう電源装置に関する。」

「【0005】
ところで、駆動力源としてモータを備える電気自動車およびハイブリッド車両が近年注目されている。これらの車両では、モータに電力を供給するために比較的電圧の高い高圧バッテリが搭載されており、バッテリとモータとの間には電源の接続および遮断を行なうためにリレーが配置されている。
【0006】
高圧バッテリは、電圧、電流、温度等が監視されており、高圧バッテリ周辺に異常が検出されると、リレーを開放して高圧バッテリを切離す。しかし、路上でこのような状況が生じると、車両を動かすことができなくなり、交通に支障をきたす恐れがある。このような場合であってもエンジンを確実に始動させて車両を安全な場所に退避させることが望ましい。
【0007】
この発明の目的は、内燃機関の始動の確実性が高められた車両の電源装置を提供することである。」

「【0020】
バッテリユニット40は、高圧バッテリB1と、高圧バッテリB1の負極に接続されるシステムメインリレーSMRGと、高圧バッテリB1の正極に接続されるシステムメインリレーSMRBとを含む。システムメインリレーSMRG,SMRBは、制御装置30から与えられる制御信号SEに応じて導通/非導通状態が制御される。」

「【0023】
車両100は、さらに、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される平滑コンデンサC1と、平滑コンデンサC1の両端間の電圧VLを検知して制御装置30に対して出力する電圧センサ21と、平滑コンデンサC1の端子間電圧を昇圧する昇圧コンバータ12と、昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する平滑コンデンサC2と、平滑コンデンサC2の端子間電圧VHを検知して制御装置30に出力する電圧センサ13と、昇圧コンバータ12から与えられる直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMG1に出力するインバータ14とを含む。」

「【0026】
インバータ14は、昇圧コンバータ12から昇圧された電圧を受けてたとえばエンジン4を始動させるためにモータジェネレータMG1を駆動する。また、インバータ14は、エンジン4から伝達される機械的動力によってモータジェネレータMG1で発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。」

「【0034】
インバータ22は車輪2を駆動するモータジェネレータMG2に対して昇圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力する。またインバータ22は、回生制動に伴い、モータジェネレータMG2において発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される。インバータ22の内部の構成は、図示しないがインバータ14と同様であり、詳細な説明は繰返さない。」

「【0046】
また好ましくは、制御装置30は、モータジェネレータMG1でエンジン4を始動させる前に、補機バッテリB2の電力をDC/DCコンバータ50を介して平滑コンデンサC1およびC2に送り、平滑コンデンサC1およびC2の電圧を必要な電圧まで昇圧させても良い。平滑コンデンサC1およびC2の耐圧限界付近まで昇圧させることにより、平滑コンデンサC1およびC2の蓄積エネルギを大きくすることができるので、いっそうエンジン4の始動できる確率が高まる。
【0047】
この際に、車両の電源装置は、平滑コンデンサC1から平滑コンデンサC2に電圧を昇圧する昇圧コンバータ12と、平滑コンデンサC2および昇圧コンバータ12から電力を受けてモータジェネレータMG1を駆動するインバータ14とをさらに備えている。そして、制御装置30は、モータジェネレータMG1で内燃機関を始動させる前に、補機バッテリB2の電力をDC/DCコンバータ50を介して平滑コンデンサC1に送り、平滑コンデンサC1の電圧を必要な電圧まで昇圧させるとともに昇圧コンバータ12によって平滑コンデンサC2の電圧を必要な電圧まで昇圧させる。
【0048】
この場合、平滑コンデンサC1は高圧バッテリB1の電圧より大きい電圧(たとえば300V)にチャージされ、平滑コンデンサC2は、昇圧コンバータ12の最大昇圧電圧(たとえば650V)までチャージすることができる。」

これらの記載事項及び図面の記載からみて、引用文献2には次の事項が記載されている。
ア.引用文献2の【図1】の記載から、高圧バッテリB1は、電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続され、直流電力を供給しているといえる。この電源ラインPL1と接地ラインSL間に接続される平滑コンデンサC1の端子間電圧を昇圧コンバータ12は昇圧する(【0023】)。したがって、昇圧コンバータ12は高圧バッテリB1から供給される直流電力を高圧の直流電力に昇圧するといえる。
イ.引用文献2に記載された車両駆動システムは、直流電圧を三相交流に変換してモータジェネレータMG1に出力するインバータ14を含み(【0023】)、このインバータ14は、エンジン4から伝達される機械的動力によってモータジェネレータMG1で発電された電力を昇圧コンバータ12に戻す。このとき昇圧コンバータ12は、降圧回路として動作するように制御装置30によって制御される(【0026】)。インバータ14とモータジェネレータMG1との間は三相交流が入出力されるから、モータジェネレータMG1で発電された電力は三相交流電力である。また、降圧回路として動作する昇圧コンバータ12は、図2の記載より明らかに直流電力が入力されて降圧される回路であるから、インバータ14から昇圧コンバータ12に戻される電力は直流電力である。したがって、エンジン4から伝達される機械的動力によってモータジェネレータMG1で発電された三相交流電力を直流電力にインバータ14は変換するといえる。
ウ.平滑コンデンサC2は、昇圧コンバータ12によって昇圧された電圧を平滑化する(【0023】)ことから、昇圧コンバータ12の高圧側に接続されている。また、上記イ.に示すようにインバータ14はモータジェネレータMG1で発電された電力を昇圧コンバータ12に戻すために図1の記載より明らかに、平滑コンデンサC2が接続される昇圧コンバータ12の高圧側にインバータ14の直流側は接続されるものであるから、インバータ14の直流側も平滑コンデンサC2に接続されており、平滑コンデンサC2は、インバータ14の直流側の電圧、すなわちインバータ14により変換された直流電力も平滑するといえる。
エ.インバータ22は車輪2を駆動するモータジェネレータMG2に対して昇圧コンバータ12の出力する直流電圧を三相交流に変換して出力(【0034】)し、この昇圧コンバータ12の出力する直流電圧は、上記ウ.でいう平滑コンデンサにより平滑された直流電力であることから、平滑された直流電力を電源としてモータジェネレータMG2をインバータ22は駆動しているといえる。
オ.引用文献2には、「駆動力源としてモータを備える電気自動車およびハイブリッド車両が近年注目されている。これらの車両では、モータに電力を供給するために比較的電圧の高い高圧バッテリが搭載されており、バッテリとモータとの間には電源の接続および遮断を行なうためにリレーが配置されている。」(【0005】)と記載されていることから、引用文献2に記載されている平滑コンデンサC2及び昇圧コンバータ12及びインバータ14を含む車両用の駆動システムは、電気自動車およびハイブリッド車両に搭載されるものといえる。
以上のことからみて、引用文献2には次の事項(以下、「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。
「高圧バッテリB1から供給される直流電力を高圧の直流電力に昇圧する昇圧コンバータ12と、
エンジン4から伝達される機械的動力によってモータジェネレータMG1で発電された三相交流電力を直流電力に変換するインバータ14と、
前記昇圧コンバータ12の高圧側である前記インバータ14の直流側に接続されて、昇圧コンバータ12によって昇圧された直流電力と前記インバータ14により変換された直流電力のいずれも平滑する平滑コンデンサC2と、
前記平滑された直流電力を電源としてモータジェネレータMG2を駆動するインバータ22と
を備えた駆動システムにおいて、
平滑コンデンサC2及び昇圧コンバータ12及びインバータ14は、電気自動車およびハイブリッド車両に搭載された車両用駆動システム。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「架線などの外部電力源から供給される交流電力」は本願補正発明の「交流架線から供給される交流電力」に相当し、以下同様に「外部給電コンバータ回路25」は「架線用電力変換装置」に、「エンジン等の動力で駆動された発電機30から発生された三相交流電力を直流電力に変換するエンジン発電コンバータ回路29」は「エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「直流電力の電流の変動成分を除去する」態様は本願補正発明の「直流電力を」「平滑する」態様に相当するから、引用発明の「前記外部給電コンバータ回路25の直流側に接続されて、前記外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21aと、前記エンジン発電コンバータ回路29の直流側に接続されて、前記エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21c」と本願補正発明の「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の直流側に接続されて、前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置により変換された直流電力をいずれも平滑する平滑コンデンサ」とは、「架線用電力変換装置により変換された直流電力と発電機用電力変換装置により変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサ」である点で共通する。
引用発明の「前記フィルタコンデンサ21a及び前記フィルタコンデンサ21cで電流の変動成分が除去された直流電力を基に電動機27a、27bを駆動する」態様は本願補正発明の「平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する」態様に相当し、また引用発明の「インバータ装置4」は本願補正発明の「電動機用電力変換装置」に相当する。
さらに、引用発明の「前記フィルタコンデンサ21a及び前記外部給電コンバータ回路25は、同一の車両1aに搭載され、前記フィルタコンデンサ21c及び前記エンジン発電コンバータ回路29は、同一の車両1cに搭載される」態様と、本願補正発明の「前記平滑コンデンサ及び前記架線用電力変換装置及び前記発電機用電力変換装置は、同一車両に搭載され」る態様とは、「平滑コンデンサ及び架線用電力変換装置は、同一車両に搭載される」点で共通する。
また、引用発明の「鉄道車両の駆動システム」は本願補正発明の「鉄道車両用駆動システム」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明は、
「交流架線から供給される交流電力を直流電力に変換する架線用電力変換装置と、
エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置と、
前記架線用電力変換装置により変換された直流電力と前記発電機用電力変換装置により変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置と、
を備えた駆動システムにおいて、
前記平滑コンデンサ及び前記架線用電力変換装置は、同一車両に搭載される
鉄道車両用駆動システム」

である点で一致し、以下の[相違点1]ないし[相違点3]で相違している。

[相違点1]
本願補正発明は、「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の直流側に接続されて、前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置により変換された直流電力をいずれも平滑する平滑コンデンサ」を備えているのに対し、引用発明は、「前記外部給電コンバータ回路25の直流側に接続されて、前記外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21aと、前記エンジン発電コンバータ回路29の直流側に接続されて、前記エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21c」とを備えており、外部給電コンバータ回路25に接続されたフィルタコンデンサ21aとエンジン発電コンバータ回路に接続されたフィルタコンデンサ21cとが別個に設けられている点。

[相違点2]
本願補正発明は、「前記平滑コンデンサ及び前記架線用電力変換装置及び前記発電機用電力変換装置は、同一車両に搭載され」ているのに対し、引用発明は、「前記フィルタコンデンサ21a及び前記外部給電コンバータ回路25は、同一の車両1aに搭載され、前記フィルタコンデンサ21c及び前記エンジン発電コンバータ回路29は、同一の車両1cに搭載され」ているものの、フィルタコンデンサと外部給電コンバータ回路25、エンジン発電コンバータ回路29が全て同一の車両に搭載しているものではない点。

[相違点3]
本願補正発明では、「前記エンジンの起動を行う前に、前記前記架線用電力変換装置は、前記平滑コンデンサに前記エンジンの起動に必要な電荷を蓄え、
前記エンジンの起動を行う際に、前記発電機用電力変換装置は、前記架線用電力変換装置から供給されて前記平滑コンデンサに蓄えられた直流電力を用いて前記発電機を駆動して、前記エンジンにトルクを与える」のに対し、引用発明は、エンジンの起動に関して明記がない点。

(4)判断
次に、上記[相違点1]ないし[相違点3]について検討する。
[相違点1]について
まず、引用文献2記載事項の平滑コンデンサC2は、電力変換装置である昇圧コンバータ12の高圧側とインバータ14の直流側の接続位置に接続され、昇圧コンバータ12とインバータ14により変換された直流電力をいずれも平滑するものである。
次に、引用発明と引用文献2記載事項とは、電力源から供給された電力を直流電力に変換する電力変換装置と、エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機電力変換装置と、電力変換装置の出力電圧と発電機電力変換装置の電力を平滑し、平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機電力変換装置を備えた車両用駆動システムである点で共通し、さらに引用発明のフィルタコンデンサ21a、フィルタコンデンサ21cと引用文献2記載事項の平滑コンデンサC2とは、いずれも電力変換器の直流側の電力を平滑するものであり、技術分野及び作用機能が共通するから、引用発明に引用文献2記載事項を適用して、引用発明において、直流電力に変換した車両の外部から取り入れられた電力を平滑する平滑コンデンサであるフィルタコンデンサと、直流電力に変換した発電された電力を平滑する平滑コンデンサであるフィルタコンデンサとを共有するようにし、一つの平滑コンデンサとして、上記相違点1に係る本願補正発明の構成を得ることは当業者にとって容易になし得た事項である。
また、本願出願前において、車両の外部から取り入れられた電力と、車両の内部において発電された電力を変換する電力変換装置の直流側に接続されて、電力変換装置により変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサを共用することは、周知技術(周知例として、特開昭64-16205号公報(第2図参照)、特開昭60-216704号公報(第2図参照)、特開平4-150703号公報(第2図参照)がある。)であり、引用発明において、直流電力に変換した車両の外部から取り入れられた電力を平滑する平滑コンデンサであるフィルタコンデンサと、直流電力に変換した発電された電力を平滑する平滑コンデンサであるフィルタコンデンサとを共有するようにし、一つの平滑コンデンサとして、相違点1にかかる本願補正発明の構成を得ることも当業者が容易になし得た事項である。

[相違点2]について
まず、引用発明は、外部給電コンバータ回路、エンジン発電コンバータ回路をそれぞれ異なる車両に搭載したものであるが、そのことは、引用発明の目的等に照らして格別の技術的意義があるものではなく、これらを同一の車両に搭載するか異なる車両に分散配置するかは当業者が適宜定める設計的事項であるといえる。
そして、引用文献2には、電気自動車およびハイブリッド車両に平滑コンデンサC2及び昇圧コンバータ12及びインバータ14を搭載することが記載されている。
引用文献2に記載される電気自動車及びハイブリッド車両は、本願出願前において一般的に単一の車両で構成されるものとして知られていることから、引用文献2記載事項の「電気自動車およびハイブリッド車両」は、単一の車両であるといえる。また、複数の電力変換装置を同一車両に搭載することは、本願の出願前において周知技術(周知例として上記引用文献2の他に、実願昭57-76953号(実開昭58-179801号)のマイクロフィルム(第1図、第2図参照)がある。)でもある。
そして、引用文献2記載事項の単一の車両である電気自動車およびハイブリッド車両に平滑コンデンサC2及び昇圧コンバータ12及びインバータ14を搭載すること、あるいは周知技術である複数の電力変換装置を同一車両に搭載することを引用発明に適用し、引用発明のフィルタコンデンサ及び外部給電コンバータ回路、エンジン発電コンバータ回路を同一の車両に搭載するようにし、上記相違点2に係る本願補正発明の構成を得ることは当業者が容易になし得た事項である。
[相違点3]について
引用文献2にはエンジン4の始動について、「モータジェネレータMG1でエンジン4を始動させる前に、補機バッテリB2の電力をDC/DCコンバータ50を介して平滑コンデンサC1およびC2に送り、平滑コンデンサC1およびC2の電圧を必要な電圧まで昇圧させても良い」(【0046】)と記載され、ここで「平滑コンデンサC1およびC2の電圧を必要な電圧まで昇圧させ」ることは、エンジン4の始動に必要な電圧まで平滑コンデンサの電圧を昇圧させることであり、平滑コンデンサの電圧を昇圧させるには平滑コンデンサに電荷を蓄えることが必要であるから、引用文献2には、エンジンを始動させる前に、DC/DCコンバータ50は、平滑コンデンサにエンジン4の始動に必要な電荷を蓄えることが示唆され、モータジェネレータMG1でエンジン4を始動させることから、当業者にとってモータジェネレータMG1によりトルクを与えてエンジンの始動を行うことは明らかといえる。他方引用発明において発電機30により発電を行うためには、まず、発電機30を駆動するエンジンにトルクを与えて起動する必要があることも明らかである。引用発明においてエンジンを起動するための手段として引用文献2に記載された上記事項を引用発明に適用し、上記相違点3にかかる本願補正発明の構成を得ることは当業者が容易になし得たことである。
また、主に平滑コンデンサに蓄積された電荷によりエンジンを起動することは周知技術(周知例として特開2005-185089号公報(特に【0028】、【0029】の記載を参照。)がある。)であり、これを引用発明に適用し、上記相違点3にかかる本願補正発明の構成を得ることも当業者が容易になし得た事項である。
そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献2記載の事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
よって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2記載の事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであり、同法159条1項で準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年12月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「交流架線から供給される交流電力を直流電力に変換する架線用電力変換装置と、
エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置と、
前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置と、
を備えた駆動システムにおいて、
前記エンジンの起動を行う際に、前記発電機用電力変換装置は、前記平滑コンデンサに蓄えられた直流電力を用いて前記発電機を駆動して、前記エンジンにトルクを与えること
を特徴とする鉄道車両用駆動システム。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1、引用文献2及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断

本願発明と引用発明とを対比すると、前記「2.(3)対比」において、本願補正発明と引用発明とを対比したものに加えて、引用発明の「前記外部給電コンバータ回路25により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21a」と「前記エンジン発電コンバータ回路29により変換された直流電力の電流の変動成分を除去するフィルタコンデンサ21c」は、本願発明の「前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサ」に相当する。
さらに、引用発明の「前記フィルタコンデンサ21a及び前記フィルタコンデンサ21cで電流の変動成分が除去された直流電力を基に電動機27a、27bを駆動するインバータ装置4」は本願発明の「前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、
「交流架線から供給される交流電力を直流電力に変換する架線用電力変換装置と、
エンジンにより駆動される発電機から供給される交流電力を直流電力に変換する発電機用電力変換装置と、
前記架線用電力変換装置と前記発電機用電力変換装置の少なくともいずれかにより変換された直流電力を平滑する平滑コンデンサと、
前記平滑された直流電力を電源として電動機を駆動する電動機用電力変換装置と、
を備えた鉄道車両用駆動システム」

である点で一致し、次の[相違点3’]で相違する。
[相違点3’]
本願発明は、「前記エンジンの起動を行う際に、前記発電機用電力変換装置は、前記平滑コンデンサに蓄えられた直流電力を用いて前記発電機を駆動して、前記エンジンにトルクを与える」のに対し、引用発明は、エンジンの起動に関して明記がない点。

上記[相違点3’]について検討する。
引用文献2には、エンジンを始動させる前に、DC/DCコンバータ50は、平滑コンデンサにエンジン4の始動に必要な電荷を蓄えることが示唆され、また当業者にとって、モータジェネレータMG1によりトルクを与えてエンジンの始動を行うことは明らかであるから、これを引用発明に適用することにより、相違点3にかかる本願発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことである。
そして、本願発明の作用効果も、引用発明及び引用文献2に記載された事項から当業者が予測できる範囲のものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができないる発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-25 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-22 
出願番号 特願2011-39179(P2011-39179)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60L)
P 1 8・ 575- Z (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相羽 昌孝高田 基史  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 中川 真一
長馬 望
発明の名称 鉄道車両用駆動システムおよび鉄道車両、これを備えた列車編成  
代理人 井上 学  

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