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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1305013
審判番号 不服2014-8226  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-10-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2015-08-24 
事件の表示 特願2010-269154「画像の符号化および復号化」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 5月 6日出願公開、特開2011- 91838〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、平成17年6月24日(パリ条約による優先権主張 2004年6月27日 米国、2005年1月9日 米国、2005年4月28日 米国)に出願した特願2005-185817号の一部を平成22年12月2日に新たな特許出願としたものであって、平成25年2月5日付けの拒絶理由通知に対して、同年5月7日に手続補正がなされたが同年12月20日に拒絶査定がなされ、これに対し平成26年5月2日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成25年5月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。(なお、AないしHの記号は、当審が整理のために付記したものである。)

「(A) 第1画像、第2画像、及び第3画像を有するストリームを符号化する方法であって、
(B) 前記第2画像内の第2ピクセル・セットに最も一致する前記第1画像内の第1ピクセル・セットを含むピクセル位置・セットを識別するために、前記第1画像を検索するステップを有し、
(C) 前記識別されるピクセル位置・セットは、整数ピクセル位置・セット及び非整数ピクセル位置・セットを含み、
(D) 前記セット内の各非整数ピクセル位置に関連する値は、当該非整数ピクセル位置に最も近い2つの整数ピクセル位置に関連する値を用いた補間処理を実行することによって算出され、
(E) 前記方法は、
(F) 前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値をキャッシュに格納するステップと、
(G) 前記ピクセル位置・セットを識別するための前記第1画像の前記検索中に算出された、前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値に基づいて、前記第3画像内の第3ピクセル・セットを符号化するステップと、
(H) を有することを特徴とする方法。」

2.引用発明
原審の拒絶の理由に引用された特開2003-348596号公報(以下、「引用例」という。)には、「画像処理装置および方法、記録媒体、並びにプログラム」として図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項27】 飛び越し走査、または順次操作の画像情報を入力し、直交変換および小数画素精度のブロックマッチングによる動き予測補償を行う画像処理装置の画像処理方法において、
FIRフィルタを用いた処理または線型内挿を用いた処理により、予め設定されている小数画素精度の画像データを生成する生成ステップと、
前記生成ステップの処理で生成された前記画像データの記憶を制御する記憶制御ステップと、
前記記憶制御ステップの処理で記憶が制御された前記画像データを用いて予測補償の処理を実行する予測補償ステップとを含むことを特徴とする画像処理方法。」(3頁4欄)

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は画像処理装置および方法、記録媒体、並びにプログラムに関し、特に、離散コサイン変換若しくはカルーネン・レーベ変換等の直交変換と動き補償によって圧縮された画像情報(ビットストリーム)を、衛星放送、ケーブルテレビジョン放送、インターネットなどのネットワークメディアを介して送受信する際に、若しくは光ディスク、磁気ディスク、フラッシュメモリのような記憶メディア上で処理する際に用いられる画像情報の符号化や復号、また、更新周波数の変換を行う装置に用いて好適な画像処理装置および方法、記録媒体、並びにプログラムに関する。」(3頁4欄-4頁5欄)

ウ.「【0008】ここで、離散コサイン変換若しくはカルーネン・レーベ変換等の直交変換と動き補償とによる画像圧縮について説明する。図1は、従来の画像情報符号化装置の一例の構成を示す図である。
【0009】図1に示した画像情報符号化装置10において、入力端子11より入力されたアナログ信号からなる画像情報は、A/D変換部12により、デジタル信号に変換される。そして、画面並べ替えバッファ13は、A/D変換部12より供給された画像情報のGOP(Group of Pictures)構造に応じて、フレームの並べ替えを行う。

(【0010】?【0013】は省略)

【0014】また、画面並べ替えバッファ13は、インター(画像間)符号化が行われる画像に関しては、画像情報を動き予測・補償部24に供給する。動き予測・補償部24は、同時に参照される画像情報をフレームメモリ23より取り出し、動き予測・補償処理を施して参照画像情報を生成する。動き予測・補償部24は、生成した参照画像情報を加算器14に供給し、加算器14は、参照画像情報を対応する画像情報との差分信号に変換する。また、動き予測・補償部24は、同時に動きベクトル情報を可逆符号化部17に供給する。
【0015】可逆符号化部17は、量子化部16から供給され量子化された変換係数および量子化スケール、並びに動き予測・補償部24から供給された動きベクトル情報等から符号化モードを決定し、その決定した符号化モードに対して可変長符号化または算術符号化等の可逆符号化を施し、画像符号化単位のヘッダ部に挿入される情報を生成する。そして、可逆符号化部17は、符号化された符号化モードを蓄積バッファ18に供給して蓄積させる。この符号化された符号化モードは、画像圧縮情報として出力される。
【0016】また、可逆符号化部17は、その動きベクトル情報に対して可変長符号化若しくは算術符号化等の可逆符号化処理を施し、画像符号化単位のヘッダ部に挿入される情報を生成する。
【0017】また、イントラ符号化と異なり、インター符号化の場合、直交変換部15に入力される画像情報は、加算器14より得られた差分信号である。なお、その他の処理については、イントラ符号化を施される画像圧縮情報と同様であるため、その説明を省略する。」(4頁6欄-5頁7欄)

エ.「【0027】H.26Lにおいては、1/4、1/8画素といった高精度の動き予測補償処理が規定されている。この小数精度予測画像を生成するために、数タップフィルタと線形内挿を組み合わせることが規定されている。
【0028】以下に、H.26Lで規定されている1/4、1/8画素精度の動き予測補償処理について説明する。図7は、H.26Lにおいて定められた1/4画素精度の動き予測補償処理を説明するための図である。まず、フレームメモリ内に格納された画素を元に、水平方向および垂直方向、それぞれ6タップのFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いて、1/2画素精度の画素値が生成される。FIRフィルタ係数の一例として、以下のものが定められている。
(1 ?5 20 20 ?5 1)//32
このFIRフィルタ係数において、//は、丸め(四捨五入)付きの除算であることを示す。本明細書においては、//は、丸め付きの除算であることを示すとする。
【0029】1/4画素精度の画素値は、上記で得られた1/2画素精度の隣接した2つの画素値から線形内挿によって得られる。」(5頁8欄-6頁9欄)

オ.「【0032】
【発明が解決しようとする課題】フレーム動き予測補償またはフィールド動き予測補償をマクロブロック単位で選択できる符号化装置や、その符号化装置からの画像圧縮情報を復号する復号装置において、動き予測補償による予測画像を獲得する際、小数精度の予測画像を獲得するための計算量が問題となる。すなわち、小数精度の補間画素の計算は、上述したように、数タップフィルタと線形内挿によって行われていた。しかしながら、毎画素これらの計算を行うことは、重い処理となり、他の処理に影響がおよぶ可能性があるといった問題があった。
【0033】特に、動き予測処理においては、所定の領域の近傍に位置する多くの画素が、何度も繰り返し参照されることとなるため、画像信号を符号化あるいは復号する際に、予測画像を高速に獲得することは重要であるが、困難であるといった問題があった。
【0034】本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、補間画素の計算にかかる処理を軽減し、その補間画素を高速に取得できるようにすることを目的とする。」(6頁9欄)

カ.「【0068】
【発明の実施の形態】以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図10は、本発明の画像処理装置を適用した画像情報符号化装置の一実施の形態の構成を示す図である。図10に示した画像情報符号化装置100において、図1に示した画像情報符号化装置10と同様の機能を有するブロックには、同様の符号を付し、適宜、その説明は省略する。
【0069】図10に示した画像情報符号化装置100は、フレームメモリ23から出力されたデータが、補間画像バッファ101を介して動き予測・補償部24に供給される構成とされている。
【0070】その他の部分の構成は、図1に示した画像情報符号化装置10と同様であるので、その説明は省略する。
【0071】図10に示した画像情報符号化装置100に対応し、本発明を適用した画像処理装置の画像情報復号装置の一実施の形態の構成を図11に示す。図11に示した画像情報復号装置120において、図2に示した画像情報復号装置40と同様の機能を有するブロックには、同様の符号を付し、適宜、その説明は省略する。
【0072】図11に示した画像情報復号装置120は、フレームメモリ50から出力されたデータが、補間画像バッファ121を介して動き予測・補償部51に供給される構成とされている。
【0073】その他の部分の構成は、図2に示した画像情報復号装置40と同様であるので、その説明は省略する。
【0074】本実施の形態において、図10に示した画像情報符号化装置100のフレームメモリ23に蓄積された画像データが、補間画像バッファ101を介して動き予測・補償部24に供給されるまでの動作と、図11に示した画像情報復号装置120のフレームメモリ50に蓄積された画像データが、補間画像バッファ121を介して動き予測・補償部51に供給されるまでの動作は、基本的に同様に行われる。
【0075】ここでは、このようなことを考慮し、図10に示した画像情報符号化装置100のフレームメモリ23に蓄積された画像データが、補間画像バッファ101を介して動き予測・補償部24に供給されるまでの動作を例に挙げて説明し、図11に示した画像情報復号装置120のフレームメモリ50蓄積された画像データが、補間画像バッファ121を介して動き予測・補償部51に供給されるまでの動作についての説明は省略する。
【0076】画像情報符号化装置100の補間画像バッファ101は、フレームメモリ23と等しい枚数のフレームを保持する。また、画像情報復号装置120の補間画像バッファ121は、フレームメモリ50と等しい枚数のフレームを保持する。
【0077】ただし、フレームあたりの画枠の大きさは、補間画素精度に依存する。すなわち、補間画像バッファ101(121)が、1/2画素精度の補間画像を保持する場合、フレームメモリ23(50)に格納される画枠の大きさに比べて縦と横それぞれ2倍の画素数をもつ画枠となる。
【0078】また、補間画像バッファ101(121)が、1/4画素精度の補間画像を保持する場合、フレームメモリ23(50)に格納される画枠の大きさに比べて縦と横それぞれ4倍の画素数をもつ画枠となる。
【0079】また、補間画像バッファ101(121)が、1/8画素精度の補間画像を保持する場合、フレームメモリ23(50)に格納される画枠の大きさに比べて縦と横それぞれ8倍の画素数をもつ画枠となる。
【0080】補間画像バッファ101(121)は、図12に示すように、M×Nの一定の大きさの矩形で分割される。分割領域の大きさは、ブロックあるいはマクロブロックと等しい大きさでも良いし、それよりも大きくても良い。または、分割領域の大きさは、ブロックあるいはマクロブロックより小さくても良い。すなわち、分割領域の大きさは、システムに合った大きさと設定されれば良い。
【0081】始めに、各分割領域は未定義として初期化しておく。
【0082】図13を参照して説明するに、動き予測・補償部24が、参照フレーム内の所定の部分の予測画像Pを処理に必要であり、補間画像バッファ101から読み出す必要がある場合、補間画像バッファ101に記憶されている画像データから、予測画像Pに対応した領域P’のデータを読み出す。領域P’に対応するデータだけを読み出すようにしても良いが、領域P’を含む分割領域S(P)のデータを読み出すようにしても良い。
【0083】分割領域S(P)を読み出すようにした場合、予めフレームを何個の領域に分割するかなどを設定しておく必要がある。設定してある場合、領域P’を含む分割領域S(P)を読み出せばよい。
【0084】分割領域S(P)が未定義の場合、フレームメモリ23の対応する領域から、定義された補間計算により補間画像を生成し、図14に示すように補間画像バッファ101の分割領域S(P)に格納するようにしても良い。動き予測・補償部24が要求した予測画像Pは、図14に示すように補間画像バッファ101から獲得される。
【0085】予測画像Pに対応した領域を含む分割領域S(P)が、すでに補間画像バッファ101に書き込まれていた場合、分割領域S(P)に格納されたデータが用いられて予測画像Pが獲得される。
【0086】図15に示すように、予測画像Pに対応した領域P’が、複数の分割領域S(P)に含まれる場合、各分割領域S(P)に対して上述したような処理を行えばよい。
【0087】ここで、補間精度が1/4画素精度モードと設定され、補間画像バッファ101に1/4画像精度までの画像データがされると設定されているとき、予測画像として1/4画素精度が要求された際、補間画像バッファ101に記憶されている画像データ内から直接読み出され、用いられる。
【0088】または、補間画像バッファ101に1/2画像精度までの画像データが格納されると設定された場合、予測画像として1/2画素精度の画像データが必要とされたとき、補間画像バッファ101から読み出された画像データがそのまま用いられ、予測画像として1/4画素精度の画像データが必要とされたとき、補間画像バッファ101から読み出された画像データが中間値とされて、さらに線形内挿などの計算によって1/4画素精度が求められる。
【0089】補間精度が1/8画素精度モードと設定され、補間画像バッファ101に1/8画像精度までの画像データが格納されると設定されているとき、予測画像として1/8画素精度が要求した際、補間画像バッファ101に記憶されている画像データ内から直接読み出され、用いられる。
【0090】または、補間画像バッファ101に1/4画像精度までの画像データが格納されると設定された場合、予測画像として1/4画素精度の画像データが必要とされたとき、補間画像バッファ101から読み出された画像データがそのまま用いられ、予測画像が1/8画素精度の画像データが必要とされたとき、補間画像バッファ101から読み出された画像データが中間値とされて、さらに線形内挿などの計算によって1/8画素精度の画像が求められる。」(8頁13欄-9頁16欄)

キ.「【0103】
【発明の効果】以上の如く本発明の画像処理装置および方法、並びにプログラムによれば、FIRフィルタを用いた処理または線型内挿を用いた処理により、予め設定されている小数画素精度の画像データを生成し、その画像データを記憶し、必要に応じその記憶されている画像データを用いて予測補償の処理を実行するようにしたので、既に生成されている画像データを繰り返し生成するようなことを防ぐことができ、その生成に係る演算量を削減することができ、予測補償の処理の高速化をはかることができる。」(10頁17欄-18欄)

上記ア.?キ.の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、引用例には以下の技術事項が記載されている。

(i)引用例には、上記イ.のように、『画像情報を符号化する方法』について記載されている。
なお、引用例では、上記オ.に記載のように、動き予測補償における小数画素精度の予測画像を獲得するための補間画素の計算が重い処理であること、また、動き予測処理において所定の領域の近傍に位置する多くの画素が何度も繰り返し参照されることとなるため予測画像を高速に獲得することは重要であるが困難であることを課題とし、上記キ.に記載のように、計算された小数画素精度の画像データを記憶し、必要に応じその記憶されている画像データを用いて予測補償の処理を実行するようにしたので、既に生成されている画像データを繰り返し生成するようなことを防ぐことができ、その生成に係る演算量を削減することができ、予測補償の処理の高速化をはかることができるようになったとの記載がある。

(ii)上記ア.には、画像情報を入力して小数画素精度のブロックマッチングによる動き予測補償を行うことが記載されており、また、上記ウ.の段落【0014】には、「インター(画像間)符号化が行われる画像に関しては、画像情報を動き予測・補償部24に供給する。動き予測・補償部24は、同時に参照される画像情報をフレームメモリ23より取り出し、動き予測・補償処理を施して参照画像情報を生成する。」と記載されている。
そして、上記カ.の段落【0082】には、「動き予測・補償部24が、参照フレーム内の所定の部分の予測画像Pを処理に必要であり、補間画像バッファ101から読み出す必要がある場合、補間画像バッファ101に記憶されている画像データから、予測画像Pに対応した領域P’を含む分割領域S(P)のデータを読み出す。」と記載されている。
また、段落【0084】?【0090】には、補間画像バッファに、1/2、1/4または1/8画素精度の画素データが記憶されると記載されている。ここで、1/2、1/4または1/8画素精度は、上記エ.の段落【0027】に記載されているように小数画素精度である。
これらの記載から、引用例には、『入力される画像情報を符号化するにあたり、参照される画像情報の予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データを用いたブロックマッチングによる動き予測補償を行う手段』が記載されているといえる。

(iii)上記ア.には、FIRフィルタを用いた処理または線型内挿を用いた処理により、小数画素精度の画像データを生成することが記載され、また、上記エ.には、フレームメモリ内に格納された画素を元に、水平方向および垂直方向、それぞれ6タップのFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いて、1/2画素精度の画素値を得て、得られた1/2画素精度の隣接した2つの画素値から線形内挿によって1/4画素精度の画素値を得ることが記載されている。ここで、FIRフィルタを用いた処理や線型内挿を用いた処理が、補間処理であることは上記カ.の段落【0084】の記載により明らかである。
これらの記載から、引用例には、『予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データは、フレームメモリ内に格納された画素を基にFIRフィルタを用いた処理及び線型内挿を用いた処理による補間処理により生成』されることが記載されているといえる。

(iv)上記カ.の段落【0082】?【0085】の記載、特に段落【0084】には、予測画像Pに対応した補間画像バッファの領域P’に補間計算されて生成された補間画像を格納することが記載されている。ここで、補間画像バッファの領域P’に格納される補間画像は、予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データである。
したがって、引用例には、『小数画素精度の画像データを予測画像Pの位置に対応する補間画像バッファの領域P’に格納する手段』が記載されているといえる。

したがって、引用例には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「(a) 画像情報を符号化する方法であって、
(b) 入力される画像情報を符号化するにあたり、参照される画像情報の予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データを用いたブロックマッチングによる動き予測補償を行う手段を有し、
(c) 前記予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データは、フレームメモリ内に格納された画素を基にFIRフィルタを用いた処理及び線型内挿を用いた処理による補間処理により生成され、
(d) 前記小数画素精度の画像データを予測画像Pの位置に対応する補間画像バッファの領域P’に格納する手段
(e) を有する方法。」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(i)本願発明の構成要件Aと引用発明の構成要件aの対比
引用発明の構成要件aの「画像情報」は、引用例の段落【0001】(上記2.のイ.参照)に記載されるようにビットストリームであるから、本願発明の「ストリーム」に相当する。
ここで、引用発明では、構成要件bのように、「入力される画像情報」を符号化するにあたり、「参照される画像情報」を用いているが、この「参照される画像情報」は、引用例の段落【0014】(上記2.のウ.参照)に記載されるようにフレームメモリに格納された画像情報であるから、『参照される1フレーム分の画像情報』であり、また、前記「参照される画像情報」を参照して符号化される「入力される画像情報」も、『入力される1フレーム分の画像情報』であることは自明である。
このように、引用発明の「画像情報」は、『参照される1フレーム分の画像情報』と『入力される1フレーム分の画像情報』を有するといえる。また、『参照される1フレーム分の画像情報』と『入力される1フレーム分の画像情報』をそれぞれ「第1画像」と「第2画像」と称することは任意である。
したがって、引用発明の「画像情報を符号化する方法」は、本願発明のように「第3画像」を有して符号化するとはされていないものの、本願発明の「第1画像、第2画像を有するストリームを符号化する方法」と共通する。

(ii)本願発明の構成要件Bと引用発明の構成要件bの対比
引用発明の「予測画像P」は、引用例の【請求項27】、段落【0082】に記載のように、引用発明の動き予測補償におけるブロックマッチングに必要とされるものである。ここで、引用例に明記はないものの、引用発明がベースとする周知のH.26Lのブロックマッチングが、「入力される画像情報」の『符号化対象画像ブロック』と最も一致する「参照される画像情報」内の『参照画像ブロック』を探索してマッチングする処理であることは技術常識であり、ここで、『符号化対象画像ブロック』と『参照画像ブロック』は、本願発明の「第2ピクセル・セット」と「第1ピクセル・セット」に相当するものである。
それゆえ、ブロックマッチングに必要な「予測画像P」は、当然にして上記『参照画像ブロック』を含む画像であるから、本願発明の「第1画像内の第1ピクセル・セットを含むピクセル位置・セット」に相当する。
したがって、引用発明の「入力される画像情報を符号化するにあたり、参照される画像情報の予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データを用いたブロックマッチングによる動き予測補償を行う手段を有し、」は、本願発明の「前記第2画像内の第2ピクセル・セットに最も一致する前記第1画像内の第1ピクセル・セットを含むピクセル位置・セットを識別するために、前記第1画像を検索するステップを有し、」に相当する。

(iii)本願発明の構成要件C、Dと引用発明の構成要件cの対比
引用発明では、上記構成要件bのように、「小数画素精度の画像データ」を用いたブロックマッチングを行っており、その「小数画素精度の画像データ」は、構成要件cのように、「フレームメモリ内に格納された画素を基にFIRフィルタを用いた処理及び線型内挿を用いた処理による補間処理により生成され」ている。
ここで、引用発明の「フレームメモリ内に格納された画素」は、補間処理の行われていない画素であるから、本願発明の「整数ピクセル位置・セット」に相当し、引用発明の補間処理の行われた「小数画素精度の画像データ」は本願発明の「非整数ピクセル位置・セット」に相当する。このことから、本願発明の「ピクセル位置・セット」に相当する引用発明の「予測画像P」は、フレームメモリ内の予測画像Pの領域に格納された画素と、補間処理を行って生成された「小数画素精度の画像データ」から構成されることになる。

また、引用発明の「小数画素精度の画像データ」は、「FIRフィルタを用いた処理及び線型内挿を用いた処理による補間処理により生成され」ており、引用例の段落【0028】(上記2.のエ.参照)には具体的に「それぞれ6タップのFIR(Finite Impulse Response)フィルタを用いて、1/2画素精度の画素値が生成される。FIRフィルタ係数の一例として、以下のものが定められている。(1 ?5 20 20 ?5 1)//32」と記載されている。ここで、上記FIRフィルタが、1/2画素精度の小数画素位置を中心に左右3つの整数画素値を入力するものであることは当業者に自明であるから、1/2画素精度の画素データは、本願発明の「非整数ピクセル位置に最も近い2つの整数ピクセル位置に関連する値を用いた補間処理を実行することによって算出され」たといえ、同様に、上記FIRフィルタの処理結果を線型補間して得られる1/4画素精度の画像データも、「非整数ピクセル位置に最も近い2つの整数ピクセル位置に関連する値を用いた補間処理を実行することによって算出され」たものであるといえる。

したがって、引用発明の「前記予測画像Pに対応する小数画素精度の画像データは、フレームメモリ内に格納された画素を基にFIRフィルタを用いた処理及び線型内挿を用いた処理による補間処理により生成され、」は、本願発明の「前記識別されるピクセル位置・セットは、整数ピクセル位置・セット及び非整数ピクセル位置・セットを含み、」と「前記セット内の各非整数ピクセル位置に関連する値は、当該非整数ピクセル位置に最も近い2つの整数ピクセル位置に関連する値を用いた補間処理を実行することによって算出され、」とに相当する。

(iv)本願発明の構成要件Fと引用発明の構成要件dの対比
上述の(iii)での検討のように、引用発明の「小数画素精度の画像データ」が、本願発明の「非整数ピクセル位置・セットに関連する値」であることは明らかである。また、引用発明の「補間画像バッファ」は明らかに本願発明の「キャッシュ」に相当する。
したがって、引用発明の「前記小数画素精度の画像データを予測画像Pの位置に対応する補間画像バッファの領域P’に格納する手段と、」は、本願発明の「前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値をキャッシュに格納するステップと、」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「第1画像、第2画像を有するストリームを符号化する方法であって、
前記第2画像内の第2ピクセル・セットに最も一致する前記第1画像内の第1ピクセル・セットを含むピクセル位置・セットを識別するために、前記第1画像を検索するステップを有し、
前記識別されるピクセル位置・セットは、整数ピクセル位置・セット及び非整数ピクセル位置・セットを含み、
前記セット内の各非整数ピクセル位置に関連する値は、当該非整数ピクセル位置に最も近い2つの整数ピクセル位置に関連する値を用いた補間処理を実行することによって算出され、
前記方法は、
前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値をキャッシュに格納するステップと、
を有する方法。」

(相違点)
(1)本願発明では、ストリームが「第3画像」を有して符号化するとしているのに対し、引用発明では「第3画像」について記載がない点。
(2)本願発明では、「前記ピクセル位置・セットを識別するための前記第1画像の前記検索中に算出された、前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値に基づいて、前記第3画像内の第3ピクセル・セットを符号化するステップ」を有するのに対し、引用発明では、そのようなステップについて記載がない点。

4.当審の判断
まず、上記相違点(1)について検討する。
画像の符号化において、ある一の参照画像が、複数の画像の符号化の際に用いられるということ、すなわち、ある一の参照される画像が、一の入力された画像の符号化の際のみならず、その他の入力された画像の符号化の際にも用いられるということは、引用発明がベースとするH.26LやMPEGにおける周知の技術事項である。例えば、特開平10-174108号公報(原審の拒絶理由通知において引用文献2として引用されている。)の図1、図2を参照すれば、図1の左端のIピクチャ(参照される画像)は、右側のPピクチャ(入力された画像)の符号化の際のみならず、図2の中央のBピクチャ(その他の入力された画像)の符号化の際にも用いられている。
一方、引用例の段落【0009】(2.のウ.参照)に、「図1に示した画像情報符号化装置10において、・・・(中略)・・・画面並べ替えバッファ13は、A/D変換部12より供給された画像情報のGOP(Group of Pictures)構造に応じて、フレームの並べ替えを行う。」と記載されているように、引用例には画面並び替えを行って符号化していることが記載されているから、本願発明のストリームに相当する引用発明の画像情報が、Bピクチャに係る画像情報も有していることは明らかである。
以上のことから、当業者であれば、引用発明における「入力される画像」(本願発明の「第2画像」に相当)の符号化の際に参照する「参照される画像情報」(本願発明の「第1画像」に相当)を、引用発明の画像情報がさらに有するBピクチャのような「その他の入力される画像」(本願発明の「第3画像」に相当)の符号化の際に用いる構成を容易に想到し得るものである。
したがって、引用発明において、「第1画像、第2画像、及び第3画像を有するストリームを符号化する」ように為すことは当業者が容易に実施し得ることである。
このように、相違点(1)は格別なものでない。

次に、上記相違点(2)について検討する。
さらに、上記2.の(i)に記載したとおり、引用例では、動き予測補償における小数画素精度の予測画像を獲得するための補間画素の計算が重い処理であること、また、動き予測処理において所定の領域の近傍に位置する多くの画素が何度も繰り返し参照されることとなるため予測画像を高速に獲得することは重要であるが困難であることを課題とし、計算された小数画素精度の画像データを記憶し、必要に応じその記憶されている画像データを用いて予測補償の処理を実行するようにしたので、既に生成されている画像データを繰り返し生成するようなことを防ぐことができ、その生成に係る演算量を削減することができ、予測補償の処理の高速化をはかることができるようになったとしている。
してみれば、当業者であれば、「参照される画像情報」(本願発明の「第1画像」に相当)の補間画像バッファに格納された小数画素精度の画像データが「その他の入力される画像」(本願発明の「第3画像」に相当)の符号化の際に再度用いられる可能性があることに鑑み、演算量の削減、予測補償の処理の高速化をはかることを目的に、「入力された画像情報」(本願発明の「第2画像」に相当)の符号化終了後においても該小数画素精度の画像データを補完画像バッファ(キャッシュ)に蓄積しておき、その後の「その他の入力される画像」の符号化の際に用いることができるようにすることを容易に為し得るものである。
そのように為せば、引用発明においても、「前記ピクセル位置・セットを識別するための前記第1画像の前記検索中に算出された、前記非整数ピクセル位置・セットに関連する値に基づいて、前記第3画像内の第3ピクセル・セットを符号化するステップ」を有することになる。
このように、相違点(2)も格別なものでない。

したがって、相違点(1)、(2)は格別なものでなく、そして、本願発明の作用効果は、引用発明および周知技術から当業者が予測し得る範囲のものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-23 
結審通知日 2015-03-27 
審決日 2015-04-10 
出願番号 特願2010-269154(P2010-269154)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 藤井 浩
渡辺 努
発明の名称 画像の符号化および復号化  
代理人 坂田 恭弘  
代理人 大塚 康徳  
代理人 大塚 康弘  
代理人 高柳 司郎  
代理人 木村 秀二  
代理人 下山 治  

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