• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
判定2015600009 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て成立) H04R
管理番号 1305029
判定請求番号 判定2015-600008  
総通号数 190 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-10-30 
種別 判定 
判定請求日 2015-02-24 
確定日 2015-09-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第5513057号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 (イ)号図面及びその説明書に示す「音響保護カバーアセンブリ」は、特許第5513057号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 1.請求の趣旨

本件判定の趣旨は、イ号説明書に示す保護カバーアセンブリは、特許第5513057号の技術的範囲に属しない、との判定を求めるものである。

2.本件特許発明

本件特許第5513057号発明は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲(請求項の数17)に記載されたとおりの「音声伝送性の保護カバーアセンブリ」及び「微多孔質メンブランを使用する方法」であって、その請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、次のとおりのものである。
(なお、便宜上、構成要件に分説し、符号A?Fを付加した。)
「A.微多孔質メンブランと少なくとも1つの接着支持システムとからなる音声伝送性の保護カバーアセンブリであって、
B.前記微多孔質メンブランは、その少なくとも一部が音響エネルギーに応答して自由に運動するように、その周縁部で前記少なくとも1つの接着支持システムによって支持されており、
C.前記微多孔質メンブランは、厚さが3?150μmの範囲内にあり、質量が40g/m^(2)以下であり、かつ、ガーレー数が1秒以上であり、さらに
D.前記保護カバーアセンブリは、300?3000Hzの周波数域における音響伝送損失が3dB以下であり、
E.かつ、9.8kPa(1水柱メートル)の耐水圧を30分間以上保持する
F.ことを特徴とする、音声伝送性の保護カバーアセンブリ。」

3.イ号物件

イ号物件は、平成27年7月15日付け手続補正により補正された「イ号説明書」からみて、次のとおりの構成を具備するものである。
「i.イ号アセンブリは、携帯電話やスマートフォンなどの音響・内外圧調整フィルタとして用いられる音声伝送性の保護カバーアセンブリである。
ii.図1及び図2に示すように、平面視円形の通音防水フィルム1と、その一方面に設けられたアクリル系粘着剤2とを備えている。通音防水フィルム1の直径は21.0mmである。
iii.アクリル系粘着剤2は、外径が21.0mmであって外周縁が通音防水フィルム1と一致した円形状をなすとともに、中央部に内径16.0mmの円形の開口を持つ。そのため、アクリル系粘着剤2は、通音防水フィルム1の周縁部に設けられており、中央部には設けられていない。
iv.通音防水フィルム1は、ポリウレタン樹脂からなるフィルムであり、図3に示すように、多数の空孔を有する多孔質構造をなしている。
v.通音防水フィルム1は、厚さが29μmであり、質量が10.6g/m^(2)である(甲第3号証参照)。
vi.通音防水フィルム1は、株式会社東洋精機製作所のガーレー式デンソメーターで測定したガーレー数が102秒である(甲第3号証参照)。
vii.通音防水フィルム1を用いたアセンブリは、特許第5513057号の明細書【0042】?【0045】に記載の方法に準拠して、ブリュエル・ケアー・ジャパン社製の透過損失管キットType4206-Tと、7758型PULSE管内法音響材料試験(解析ソフトウェア)を用いて測定した、300?3000Hzの周波数域における音響伝送損失が31.8dBである(甲第3号証参照)。
viii.通音防水フィルム1を用いたアセンブリは、株式会社大栄科学精器製作所製の耐水度試験機WP-1000Kを用いた試験において水圧1mに相当する耐水圧を30分間以上保持する(甲第3号証参照)。
ix.通音防水フィルム1は、有孔率(フィルム断面全体に占める孔部分の比率)が67%である(甲第3号証参照)。
x.通音防水フィルム1は、孔径5μm超の孔の占有率(フィルム断面に存在する孔のうち、直径5μmの真円よりも明らかに大きな断面積を持つ孔が占める割合)が88%である(甲第3号証参照)。」

上記31.8dBは、特許第5513057号の明細書【0045】に記載されたTL_(overall)の式から算出した音響伝送損失であるが、平成27年7月15日付け回答書において請求人が指摘するように、同式には明らかな誤りがあり、正しくは、10log_(10)(・・・)における括弧内の数値をサンプリング数で割るべきものである。サンプリング数で割った場合には、音響伝送損失は14.44dBとなる。

4.イ号物件と本件特許発明との対比・判断

イ号物件が本件特許発明に係る前記分説した各構成要件A?Fを充足するか否かについて両者を対比する。

(1)構成要件A
イ号物件の「アクリル系粘着剤2」は、通音防水フィルム1の一方面に設けられるから、本件特許発明の「接着支持システム」といえる。イ号物件と本件特許発明は、ともに「音声伝送性の保護カバーアセンブリ」である。
本件特許発明の「微多孔質メンブラン」は、特許第5513057号の明細書【0021】にその用語の意味が記載されており、特許発明の技術的範囲について、特許請求の範囲に記載された用語の意義は、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して解釈すべきものであるから、「本明細書中の用語「微多孔質メンブラン」とは、孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有している、最小50%の有孔率を有する(つまり孔容積が50%以上の)連続的なシート材料を意味する。」と解釈する。一方、イ号物件の「通音防水フィルム1」は、有孔率(フィルム断面全体に占める孔部分の比率)が67%であるものの、孔径5μm超の孔の占有率(フィルム断面に存在する孔のうち、直径5μmの真円よりも明らかに大きな断面積を持つ孔が占める割合)が88%であるから、孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえず、本件特許発明の「微多孔質メンブラン」とはいえない。
したがって、イ号物件は、「通音防水フィルム1」が孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえない点において、構成要件Aを充足しない。

(2)構成要件B
イ号物件において、アクリル系粘着剤2は、通音防水フィルム1の周縁部に設けられており、中央部には設けられていないから、通音防水フィルム1は、その少なくとも一部が音響エネルギーに応答して自由に運動するように、その周縁部でアクリル系粘着剤2によって支持されているといえる。
しかしながら、前述したように、イ号物件の「通音防水フィルム1」は、孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえず、本件特許発明の「微多孔質メンブラン」とはいえない。
したがって、イ号物件は、「通音防水フィルム1」が孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえない点において、構成要件Bを充足しない。

(3)構成要件C
イ号物件の通音防水フィルム1は、厚さが29μmであり、質量が10.6g/m^(2)であり、株式会社東洋精機製作所のガーレー式デンソメーターで測定したガーレー数が102秒であるから、厚さが3?150μmの範囲内にあり、質量が40g/m^(2)以下であり、かつ、ガーレー数が1秒以上であるといえる。
しかしながら、前述したように、イ号物件の「通音防水フィルム1」は、孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえず、本件特許発明の「微多孔質メンブラン」とはいえない。
したがって、イ号物件は、「通音防水フィルム1」が孔の50%以上が約5μm以下の公称直径を有しているとはいえない点において、構成要件Cを充足しない。

(4)構成要件D
イ号物件の通音防水フィルム1を用いたアセンブリは、明細書【0042】?【0045】に記載の方法に準拠して、ブリュエル・ケアー・ジャパン社製の透過損失管キットType4206-Tと、7758型PULSE管内法音響材料試験(解析ソフトウェア)を用いて測定した、300?3000Hzの周波数域における音響伝送損失が(10log_(10)(・・・)における括弧内の数値をサンプリング数で割った場合)14.44dBであるから、300?3000Hzの周波数域における音響伝送損失が3dB以下であるとはいえない。
したがって、イ号物件は、構成要件Dを充足しない。

(5)構成要件E
イ号物件の通音防水フィルム1を用いたアセンブリは、株式会社大栄科学精器製作所製の耐水度試験機WP-1000Kを用いた試験において水圧1mに相当する耐水圧を30分間以上保持するから、9.8kPa(1水柱メートル)の耐水圧を30分間以上保持するといえる。
したがって、イ号物件は、構成要件Eを充足する。

(6)構成要件F
イ号物件と本件特許発明は、ともに「音声伝送性の保護カバーアセンブリ」である。
したがって、イ号物件は、構成要件Fを充足する。

(7)構成要件Dの均等
構成要件Dは、構成要件Eとともに、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた手続補正により請求項1に追加されたものである。
該追加に関連して、本件特許権者は、平成25年4月17日付け手続補正により補正された審判請求書の「【請求の理由】【本願発明が特許されるべき理由】4.本願発明が特許されるべき理由(2)理由A(サポート要件)について」において、
「また、上記補正後の特許請求の範囲には「前記保護カバーアセンブリは、300?3000Hzの周波数域における音響伝送損失が3dB以下であり、かつ、9.8kPa(1水柱メートル)の耐水圧を30分間以上保持する」との効果的記載があることから、仮に上記3つのパラメータの数値限定の範囲内にあったとしても、上記効果を奏しないものは権利範囲から外れます。
このように、上記補正後の特許請求の範囲は、実施例のデータに支持された範囲を確実に規定するものであって、殊更に権利範囲を拡張するものではありません。よって、発明の詳細な説明に記載したものであることはいうまでもありません。」
と述べている。
つまり、本件特許権者は、構成要件D及びEは、いわゆるサポート要件を満たさないとの疑義を払しょくするために追加された構成要件であり、構成要件D及びEを具備しないものは権利範囲から外れると述べている。
したがって、構成要件Dを充足しないイ号物件は、本件特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに該当し、本件特許発明と均等とはいえないものである。

5.むすび

以上のとおり、イ号物件は、少なくとも本件特許発明の前記分説した構成要件A乃至Dを充足するものではなく、また均等ともいえないから、本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。
特許請求の範囲の請求項2乃至15は、請求項1を直接若しくは間接に引用するものであるから、イ号物件は、請求項2乃至15の特許発明の技術的範囲に属しないものである。
特許請求の範囲の請求項16は、請求項1の発明を方法の発明として表現したものであるから、イ号物件は、請求項16の特許発明の技術的範囲に属しないものである。
特許請求の範囲の請求項17は、請求項16を引用するものであるから、イ号物件は、請求項17の特許発明の技術的範囲に属しないものである。

よって、結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2015-08-28 
出願番号 特願2009-230178(P2009-230178)
審決分類 P 1 2・ 1- ZA (H04R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 大野 弘  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 井上 信一
関谷 隆一
登録日 2014-04-04 
登録番号 特許第5513057号(P5513057)
発明の名称 音響保護カバーアセンブリ  
代理人 青木 篤  
代理人 夫 世進  
代理人 富田 克幸  
代理人 有近 康臣  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 前澤 龍  
代理人 蔦田 正人  
代理人 中村 哲士  
代理人 出野 知  
代理人 山口 健司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ