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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1305304
審判番号 不服2013-381  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-10 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2007-538106「経皮デリバリーシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月 4日国際公開、WO2006/047362、平成20年 5月29日国内公表、特表2008-517934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年10月21日(パリ条約による優先権主張 2004年10月21日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年8月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年1月10日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2.平成25年1月10日提出の手続補正書による手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年1月10日提出の手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
(1)本件補正の内容
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲に、
「 【請求項1】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを生きている被験者の皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは少なくとも約48時間の単回適用投与期間にわたりスフェンタニルの実質的に一定のデリバリー速度を与え、前記した一定のデリバリー速度は投与期間にわたり約1.8以下の最大/最小比を有する血漿スフェンタニル濃度を確立し、維持するのに十分である前記経皮デリバリーシステム。
【請求項2】
スフェンタニルのデリバリー速度は実質的に0次である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項3】
定常状態でのデリバリー速度は少なくとも約1μg/時である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項4】
投与期間は少なくとも約3日間である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項5】
投与期間は少なくとも約7日間である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項6】
システムから皮膚を介する正味流束は少なくとも約1μg/cm^(2)/時である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項7】
システムは浸透エンハンサーを含んでいない請求項6に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項8】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御及び該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm2/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーを含んでいない前記経皮デリバリーシステム。
【請求項9】
剤形速度制御(J_(N)/J_(D))は少なくとも約50%である請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項10】
剤形速度制御は製薬上許容される接着性マトリックス担体組成物により与えられる制御を含む請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項11】
システムは被験者に適用したとき約1?20μg/時でスフェンタニルを投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項12】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項13】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは浸透エンハンサーを含まず、更に前記システムは剪断時間測定試験を用いて測定して約1?40分の剪断時間を有する前記経皮デリバリーシステム。
【請求項14】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対して少なくとも約50%の剤形速度制御(J_(N)/J_(D))及び前記システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーを含んでいない前記経皮デリバリーシステム。
【請求項15】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの正味流束を約50%以下の変動係数(ΔJ_(N)/J_(N))で与え、更に前記システムは浸透エンハンサーを含んでいない前記システム。
【請求項16】
システムは更に該システムからのスフェンタニルの流束に対して剤形速度制御を与える請求項15に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項17】
剤形速度制御は製薬上許容される接着性マトリックス担体組成物により与えられる制御を含む請求項15に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項18】
システムは被験者に適用したとき約1?20μg/時でスフェンタニルを投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項15に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項19】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項15に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項20】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記感圧性接着性マトリックスは被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有しているリザーバを含み、前記リザーバは約1.25?5ミルの乾燥非水和状態での厚さを有し、前記システムは被験者への3日間以上の適用の終了時にリザーバからスフェンタニルの少なくとも約70%のデリバリー効率を与える前記システム。
【請求項21】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するためのモノリシック経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束を少なくとも約24時間与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記システム。
【請求項22】
システムは少なくとも約1.5μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を与える請求項21に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項23】
システムはスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を少なくとも約36時間与える請求項21に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項24】
システムは被験者に適用したときスフェンタニルを約1?20μg/時で投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項21に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項25】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項21に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項26】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するためのモノリシック経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの正味流束を与え、更に前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対して剤形速度制御を与えるが、浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記システム。
【請求項27】
剤形速度制御(J_(N)/J_(D))は少なくとも約50%である請求項26に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項28】
システムは該システムから皮膚を介してスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束を少なくとも約24時間与える請求項26に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項29】
システムは少なくとも約1.5μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を与える請求項26に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項30】
システムは被験者に適用したときスフェンタニルを約1?20μg/時で投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項26に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項31】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタ
ニルを含有している請求項26に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項32】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含む前記システム。
【請求項33】
前記感圧性接着性マトリックスが可塑剤を更に含む、請求項32に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項34】
前記可塑剤が、ポリブテン、鉱油、アマニ油、パルミチン酸オクチル、スクアレン、スクアラン、シリコーン油、ステアリン酸イソブチル、オリーブ油、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリルアルコール、オレイルアルコールから選択される、請求項33に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項35】
前記可塑剤がポリブテンである、請求項34に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項36】
前記感圧性接着性マトリックスが二酸化ケイ素を更に含む、請求項32に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項37】
前記感圧性接着性マトリックスがポリブテン及び二酸化ケイ素を含む、請求項32に記載の経皮デリバリーシステム。」

とあったものを、

「 【請求項1】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御及び該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記経皮デリバリーシステム。
【請求項2】
剤形速度制御(J_(N)/J_(D))は少なくとも約50%である請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項3】
剤形速度制御は製薬上許容される接着性マトリックス担体組成物により与えられる制御を含む請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項4】
システムは被験者に適用したとき約1?20μg/時でスフェンタニルを投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項5】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項1に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項6】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含まず、更に前記システムは剪断時間測定試験を用いて測定して約1?40分の剪断時間を有する前記経皮デリバリーシステム。
【請求項7】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対して少なくとも約50%の剤形速度制御(J_(N)/J_(D))及び前記システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記経皮デリバリーシステム。
【請求項8】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの正味流束を約50%以下の変動係数(ΔJ_(N)/J_(N))で与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記システム。
【請求項9】
システムは更に該システムからのスフェンタニルの流束に対して剤形速度制御を与える請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項10】
剤形速度制御は製薬上許容される接着性マトリックス担体組成物により与えられる制御を含む請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項11】
システムは被験者に適用したとき約1?20μg/時でスフェンタニルを投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項12】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項8に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項13】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記感圧性接着性マトリックスは被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有しているリザーバを含み、前記リザーバは約1.25?5ミルの乾燥非水和状態での厚さを有し、前記システムは被験者への3日間以上の適用の終了時にリザーバからスフェンタニルの少なくとも約70%のデリバリー効率を与え、前記システムは速度制御膜を含んでいない前記システム。
【請求項14】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するためのモノリシック経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束を少なくとも約24時間与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記システム。
【請求項15】
システムは少なくとも約1.5μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を与える請求項14に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項16】
システムはスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を少なくとも約36時間与える請求項14に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項17】
システムは被験者に適用したときスフェンタニルを約1?20μg/時で投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項14に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項18】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項14に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項19】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するためのモノリシック経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは被験者に適用したとき該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの正味流束を与え、更に前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対して剤形速度制御を与えるが、浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記システム。
【請求項20】
剤形速度制御(J_(N)/J_(D))は少なくとも約50%である請求項19に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項21】
システムは該システムから皮膚を介してスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束を少なくとも約24時間与える請求項19に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項22】
システムは少なくとも約1.5μg/cm^(2)/時のスフェンタニルの実質的に一定の定常状態正味流束(J_(N))を与える請求項19に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項23】
システムは被験者に適用したときスフェンタニルを約1?20μg/時で投与するのに十分な定常状態正味流束を与える請求項19に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項24】
被験者に適用したとき無痛覚を3日間以上誘導し、維持するのに十分な量のスフェンタニルを含有している請求項19に記載の経皮デリバリーシステム。
【請求項25】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;
(i)450,000?2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;並びに
ポリブテン;
を含む前記システム。
【請求項26】
前記感圧性接着性マトリックスが二酸化ケイ素を更に含む、請求項25に記載の経皮デリバリーシステム。」

と補正するものである。

(2)本件補正の目的
本件補正は、以下の補正事項を含むものである。

補正事項1
本件補正前の請求項1?7、32?34、及び36を削除する補正事項
補正事項2
補正事項1にともなって、本件補正前の請求項8?31、35の項番および引用する請求項の番号をそれぞれ、繰り上げる補正事項
補正事項3
本件補正前の請求項8、13?15、20(本件補正後の請求項1、6?8、13)の「経皮デリバリーシステム」について、「速度制御膜」を含んでいないとの限定を付加する補正事項
補正事項4
補正事項1にともなって、本件補正前の請求項35(本件補正後の請求項25)について、引用形式から独立形式に記載を変更する補正事項
補正事項5
補正事項1にともなって、本件補正前の請求項37(本件補正後の請求項26)について、引用する請求項を本件補正後の請求項25に変更するとともに、該変更にともなって必要になった補正を行う補正事項

補正事項1?5は、いずれも、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内における補正である。
また、補正事項1、2、4、5は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)17条の2第4項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当し、補正事項3は、本件補正発明の「経皮デリバリーシステム」について、「速度制御膜」を含んでいないとの限定を付加するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものであるので、特許法17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件
上記のとおり、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものであるので、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3-1)本件補正発明
本件補正発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000? 2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御及び該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない前記経皮デリバリーシステム。」

(3-2)引用例の記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開昭61-37725号公報(以下、引用例という。原査定の拒絶の理由に引用された、刊行物(A)1。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審による。

(1)
「1.(a) 使用4時間以内に無傷の人体皮膚に対して鎮痛効果があり、かつ12時間以上鎮痛を持続するための充分な速度でフェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質を投与するための充分な量の塩基形の該物質を含有し、かつ所定面積の皮膚表面部を有する貯槽、および
(b) 該皮膚表面部を無傷人体皮膚に対する薬移送関係に保持するための装置;
の組合せから成ることを特徴とする、フェンタニル、およびその効鎮痛性誘導体から成る群から選ばれた物質の投与のための皮膚投与システム。
・・・
3.該貯槽が該物質用皮膚浸透促進剤を含有する特許請求の範囲第1項記載の皮膚治療システム。
・・・
5.
該面積が約10?50cm^(2)であり、かつ該投与速度が1?5μg/cm^(2)/Hrの速度である、特許請求の範囲第1項記載の皮膚投与システム。
・・・
7.該貯槽が約5?100cm^(2)の皮膚放出表面部を有し、かつ該貯槽が、無傷の人体皮膚に該物質を少なくとも約12時間、0.5?10μg/cm^(2)/Hrの速度で投与させるための充分な量および濃度の該塩基性物質0.1?50重量%を含有する、特許請求の範囲第1項記載の皮膚投与システム。
8.該貯槽を皮膚に対して物質移送関係に保持するための該装置が、貯槽から皮膚への物質の流路に配置された耐アミン性接着層である、特許請求の範囲第7項記載の皮膚投与システム。
9.更に皮膚への該物質の流路に配置され、該システムからの物質の流量を応用される皮膚を通じての物質の流量より少ないレベルまでに制限する放出速度コントロール装置から成る、特許請求の範囲第7項記載の皮膚投与システム。
10.更に、該システムが該物質へ使用される、皮膚浸透性を向上させるための浸透促進剤装置から成る、特許請求の範囲第9項記載の皮膚投与システム。
11.該浸透促進剤装置が、該貯槽中に更に設置されている、特許請求の範囲第10項記載の皮膚投与システム。
12.該放出速度コントロール装置が、該システムからの該物質の流量を該システムからの該浸透促進剤流量より実質上多いように制限する、特許請求の範囲第11項記載の皮膚投与システム。」(特許請求の範囲、請求項1、3、5、7-12)
(2)
「サフエンタニル、カルフエンタニル、ロフエンタニルおよびアルフエンタニルのようなフエンタニルおよびその効鎮痛誘導剤(この後”誘導剤”と記す)は従来、非常に強力かつ効能のある麻酔薬および鎮痛剤として知られている。」(3頁左上欄18行-右上欄2行)
(3)
「更に本発明の他の態様を第3図に示す。この皮膚治療システム(21)は、簡単なモノリスである。システム(21)は、フエンタニルに対不浸透性のバッキング部(22)、同様に不浸透性であり、かつ薬貯槽/接触接着層(23)から容易に除去できるようにした放出ライナー(25)から成る。(23)はその中に溶解した、所望ならば分散した薬を含有する接触接着層から成る。このシステムは、簡単につくることができる利点を有しているが、速度コントロール膜がない場合、個人の使用個所における皮膚の浸透性により主として決定される速度で投薬される。従ってこのシステムでは、ここに記載した範囲内での投薬速度を提供するために使用することはできるが、実際の投与速度を第1図および第2図で一般的に述べたシステムでのように正確にコントロールすることはできない。接触接着層/貯槽層をつくるために適応した材料は、約0?18%の酢酸ビニル量を有するEVAポリマーと、15?25%の高分子量ポリイソブチレン(平均分子量1,200,000)、20?30%の低分子量ポリイソブチレン(平均分子量35,000)および残部の38℃の粘度が約10cpである軽鉱物油を含有するポリイソブチレン/鉱物油から成る。薬貯槽-接触接着層は、薬の他に更に、添加剤、浸透促進剤および一般に文献に公知の他の物質を含有することも可能である。
フエンタニルを所望の速度で長時間投与することができる本発明による数多くの皮膚治療システムの実施例を以下に説明する。」(7頁右上欄12行?左下欄19行)
(4)


」(第10頁FIG.3)

(5)
「(実施例4)
低分子ポリイソブチレンPIB(平均分子量 35,000)と高分子PIB(平均分子量1,200,000)とを 1.25:1の割合で攪拌しながら容器へ添加することにより第2図に示すタイプのマルチラミネート皮膚治療システムをつくった。ついでその容器へ軽鉱物油(MO)をPIBに対し約 1.125:1(部)の割合で添加した。更にヘプタンを加えて混合物を攪拌しポリマーを溶解させた。つぎにPIB/MO中に20%フエンタニルの混合物となるように充分な量のフエンタニル塩基をその溶液へ添加した。ポリマー-薬混合物を実施例1に記載のような咬合バッキング部に溶剤キャステイングし、薬貯槽の厚さが約0.05mmになるように蒸発させた。ついで貯槽層へ鉱油で飽和させた多孔性ポリプロピレンフィルムを加圧ラミネートした。不溶解固体として2%充填量のフエンタニルを提供するために充分な量のフエンタニルを含有した前述のようなPIB/MO混合物をシリコーンポリエステル放出ライナーフィルム上に厚さ約 0.05mmの層にキャスティングした。このようにしてつくった複合ラミネートを一緒にラミネートして、第3図に示すような装置をつくった。このラミネートフィルムから大きさが 2.5、5、10、および20cmの各システムを切りとり包装した。32℃における死んだ皮膚を通じて広い患部への本発明によりつくったシステムによる生体内フエンタニル流量を第6図に示す。更に固体の薬充填量が 3.2%であることだけが前述のものと異なるサンプルをつくった。第6図からわかるように、2%固体薬は、最初の不必要に大きい薬放出速度もなく適当な放出開始速度を充分に示した。また両システム共に、最初の一時的な時間後においては70時間までほぼ1.8μg/cm^(2)/Hrの一定放出速度であった。
(実施例5)
実施例4記載のPIB/MOフエンタニル塩基混合物を用い、咬合バッキング部に溶剤キャスティングした後溶剤を蒸発させシリコーン放出ライナーにラミネートすることにより第3図によるモノリスシステムをつくった。PIBマトリックスは10、20、および30%のフエンタニル充填量につくり、32℃における死んだ皮膚を通して広い患部へのこのシステムからの薬投与速度を測定した。その結果を第7図に示す。このシステムは、典型的な時間に依存したモノリスシステムからの薬放出速度を示したが、本発明により要望される80時間以内では、皮膚から投与速度は比較的に連続して一定であった。」(8頁右下欄8行?9頁右上欄16行)

(3-3)引用発明
引用例(摘示(1)の請求項1、7、8)には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「(a) 使用4時間以内に無傷の人体皮膚に対して鎮痛効果があり、かつ12時間以上鎮痛を持続するための充分な速度でフェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質を投与するための充分な量の塩基形の該物質を含有し、かつ所定面積の皮膚表面部を有する貯槽、および
(b) 該皮膚表面部を無傷人体皮膚に対する薬移送関係に保持するための装置;
の組合せから成ることを特徴とする、フェンタニル、およびその効鎮痛性誘導体から成る群から選ばれた物質の投与のための皮膚投与システムであって、
該貯槽が約10?50cm^(2)の皮膚放出表面部を有し、かつ該貯槽が、無傷の人体皮膚に該物質を少なくとも約12時間、0.5?10μg/cm^(2)/Hrの速度で投与させるための充分な量および濃度の該塩基性物質0.1?50重量%を含有し、
該貯槽を皮膚に対して物質移送関係に保持するための該装置が、貯槽から皮膚への物質の流路に配置された耐アミン性接着層である、
皮膚投与システム。」

(3-4)対比・判断
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「物質の投与のための皮膚投与システム」は、本件補正発明の「皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステム」に相当する。
本件補正発明の「剤形速度制御」は、「J_(N)/J_(D)」で定義される(段落【0042】)ものであるが、引用発明が、J_(N)(正味流束)およびJ_(D)(剤形からの流束)を有する(例えば測定できる)「皮膚投与システム」であることは明らかであるから、引用発明は、「J_(N)/J_(D)」を与える皮膚投与システムであると認められる。
また、本件補正発明は、「剤形速度制御」の値には何も限定がないから、その値によって本願補正発明と引用発明を区別することはできない。
したがって、引用発明は、本件補正発明の「前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御を与え」を満足すると認められる。

そうすると、本件補正発明と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

・一致点
「皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御を与える前記経皮デリバリーシステム。」

・相違点1
「皮膚を介して投与する」薬について、本件補正発明は、「スフェンタニル」であるのに対し、引用発明は、「フェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質」である点。
・相違点2
本件補正発明は、「前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み 該マトリックスは溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方を含み、前記システムは該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え」るのに対し、引用発明は、「該貯槽が、無傷の人体皮膚に該物質を少なくとも約12時間、0.5?10μg/cm^(2)/Hrの速度で投与させるための充分な量および濃度の該塩基性物質0.1?50重量%を含有」する点。
・相違点3
「経皮デリバリーシステム」の構成について、本件補正発明は、「バッキング層; 感圧性接着性マトリックス;及び 剥離ライナー;を含む接着性マトリックスデバイス」であるのに対し、引用発明は、「所定面積の皮膚表面部を有する貯槽、および(b) 該皮膚表面部を無傷人体皮膚に対する薬移送関係に保持するための装置;の組合せから成る 該貯槽を皮膚に対して物質移送関係に保持するための該装置が、貯槽から皮膚への物質の流路に配置された耐アミン性接着層である」と規定されている点。
・相違点4
本件補正発明は、「感圧性接着性マトリックス」について「該マトリックスは:溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに(i)450,000? 2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;を含」むのに対し、引用発明は、このような限定を有さない点。
・相違点5
「経皮デリバリーシステム」について、本件補正発明は、「浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない」のに対し、引用発明は、このような限定を有さない点。

そこで、これらの相違点について検討する。

相違点1、2について
引用発明の「フェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質」の具体例として引用例には「サフエンタニル」が記載されており(摘示(2))、該「サフエンタニル」は、対応米国特許明細書によると「Sufentanyl」の誤訳であるから、本件補正発明の「スフェンタニル」のことであると認められる。
したがって、本件補正発明の属する技術分野(以下、「当業界」という。)における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、引用発明において「フェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質」を「スフェンタニル」に限定する程度のことは、容易になしえることであると認められる。

また、引用発明の「該貯槽が、無傷の人体皮膚に該物質を少なくとも約12時間、0.5?10μg/cm^(2)/Hrの速度で投与させるための充分な量および濃度の該塩基性物質0.1?50重量%を含有」について引用例には、以下の記載がある(摘示(5))。
「(実施例5)実施例4記載のPIB/MOフエンタニル塩基混合物を用い、・・第3図によるモノリスシステムをつくった。PIBマトリックスは10、20、および30%のフエンタニル充填量につくり」
「(実施例4)・・つぎにPIB/MO中に20%フエンタニルの混合物となるように充分な量のフエンタニル塩基をその溶液へ添加した。・・不溶解固体として2%充填量のフエンタニルを提供するために充分な量のフエンタニルを含有した前述のようなPIB/MO混合物」
したがって、引用発明の「0.1?50重量%」という範囲には、「溶解度を超える量」である場合が含まれていると認められるとともに「溶解度を超える量」に該当する実施例も記載されている。

また、引用例には、「投与速度が1?5μg/cm^(2)/Hrの速度である」皮膚投与システムも記載されている(摘示(1))。

そうすると、引用発明において「フェンタニルおよびそれの効鎮痛性誘導体からなる群から選ばれた物質」を「スフェンタニル」に限定する際に、スフェンタニルの含有量や投与速度の最適化を併せて実施することを着想し、「前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み 該マトリックスは溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方を含み、前記システムは該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え」るものに限定する程度のことは、当業者であれば容易になしえることであると認められる。

相違点3、4について
当業界では「バッキング層」を備える経皮デリバリーシステムが周知である。また、引用例にも、「フエンタニルに対不浸透性のバッキング部(22)」(摘示(3)、(4))や「咬合バッキング部」(摘示(5)の実施例5)を備える「皮膚投与システム」が具体的に記載されている。
同様に、当業界では「剥離ライナー」を備える経皮デリバリーシステムが周知である。また、引用例にも、「容易に除去できるようにした放出ライナー(25)」(摘示(3)、(4))や「シリコーン放出ライナー」(摘示(5)の実施例5)を備える「皮膚投与システム」が具体的に記載されている。
そうすると、必要に応じ「バッキング層」および「剥離ライナー」を備えるものに限定する程度のことは、当業者であれば容易になしえることであると認められる。

さらに、引用例には引用発明の具体例として実施例5および実施例5に対応する図であるFIG.3が記載されている(摘示(3)-(5))とともに、引用発明の「貯槽」、および、「耐アミン性接着層」について、以下の記載がある(摘示(4))。
「更に本発明の他の態様を第3図に示す。この皮膚治療システム(21)は、簡単なモノリスである。システム(21)は、フエンタニルに対不浸透性のバッキング部(22)、同様に不浸透性であり、かつ薬貯槽/接触接着層(23)から容易に除去できるようにした放出ライナー(25)から成る。(23)はその中に溶解した、所望ならば分散した薬を含有する接触接着層から成る。」
そうすると、FIG.3に記載の(23)の部材は、薬貯槽と接触接着層を兼ねる単一の層であって、その中に溶解した所望ならば分散した薬を含有する接触接着層であると認められる。

また、FIG.3の(23)の部材の材料について、以下の記載もある(摘示(5))。
「(実施例4)低分子ポリイソブチレンPIB(平均分子量 35,000)と高分子PIB(平均分子量1,200,000)とを 1.25:1の割合で攪拌しながら容器へ添加することにより第2図に示すタイプのマルチラミネート皮膚治療システムをつくった。ついでその容器へ軽鉱物油(MO)をPIBに対し約 1.125:1(部)の割合で添加した。更にヘプタンを加えて混合物を攪拌しポリマーを溶解させた。つぎにPIB/MO中に20%フエンタニルの混合物となるように充分な量のフエンタニル塩基をその溶液へ添加した。・・不溶解固体として2%充填量のフエンタニルを提供するために充分な量のフエンタニルを含有した前述のようなPIB/MO混合物をシリコーンポリエステル放出ライナーフィルム上に厚さ約 0.05mmの層にキャスティングした。」、「(実施例5) 実施例4記載のPIB/MOフエンタニル塩基混合物を用い、咬合バッキング部に溶剤キャスティングした後溶剤を蒸発させシリコーン放出ライナーにラミネートすることにより第3図によるモノリスシステムをつくった。」

引用例に記載されている実施例5に係る「第3図によるモノリスシステム」は、「フエンタニルに対不浸透性のバッキング部(22)、同様に不浸透性であり、かつ薬貯槽/接触接着層(23)から容易に除去できるようにした放出ライナー(25)から成る。(23)はその中に溶解した、所望ならば分散した薬を含有する接触接着層から成る」(摘示(3))ものであり、「バッキング部(22)」が本件補正発明の「バッキング層」に相当し、「放出ライナー(25)」が本件補正発明の「剥離ライナー」に相当する。
また、「薬貯槽/接触接着層(23)」は、引用発明の「貯槽」、および、「耐アミン性接着層」を単一の層で構成した層に対応するものであって、かつ、本件補正発明の「感圧性接着性マトリックス」に相当すると認められるところ、「不溶解固体として2%充填量のフエンタニルを提供するために充分な量のフエンタニルを含有」するものであり、「低分子ポリイソブチレンPIB(平均分子量 35,000)と高分子PIB(平均分子量1,200,000)」を「 1.25:1の割合」で含有し、「軽鉱物油(MO)をPIBに対し約 1.125:1(部)の割合」で含有するものである。
そうすると、「経皮デリバリーシステム」の構成について、引用発明の「所定面積の皮膚表面部を有する貯槽、および(b) 該皮膚表面部を無傷人体皮膚に対する薬移送関係に保持するための装置;の組合せから成る 該貯槽を皮膚に対して物質移送関係に保持するための該装置が、貯槽から皮膚への物質の流路に配置された耐アミン性接着層である」を、引用例の示唆に基づいて、「貯槽、および、耐アミン性接着層が単一の層で構成されたものであり、該層は、不溶解固体として2%充填量のフエンタニルを提供するために充分な量のフエンタニルを含有するものであり、低分子ポリイソブチレンPIB(平均分子量 35,000)と高分子PIB(平均分子量1,200,000)を 1.25:1の割合で含有し、軽鉱物油(MO)をPIBに対し約 1.125:1(部)の割合で含有するもの」に限定することにより、「バッキング層; 感圧性接着性マトリックス;及び 剥離ライナー;を含む接着性マトリックスデバイス」であり「該マトリックスは:溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに(i)450,000? 2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;を含」むものに限定する程度のことは、当業者であれば容易になしえることであると認められる。

相違点5について
引用例(摘示(1))の特許請求の範囲に、「9.更に皮膚への該物質の流路に配置され、該システムからの物質の流量を応用される皮膚を通じての物質の流量より少ないレベルまでに制限する放出速度コントロール装置から成る、特許請求の範囲第7項記載の皮膚投与システム。 」や「11.該浸透促進剤装置が、該貯槽中に更に設置されている、特許請求の範囲第10項記載の皮膚投与システム。」との記載があることから、引用発明は、「浸透エンハンサー」や「速度制御膜」について、それぞれ、含む場合と含まない場合のいずれであってもよいものと認められる。また、「浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない」具体例(摘示(5)の実施例5)も記載されている。
したがって、「浸透エンハンサーも速度制御膜も含んでいない」ものに単に限定する程度のことは、当業者であれば容易になしえることであると認められる。

しかも、相違点1乃至5に係るこれらの限定をしたことにより当業者に予測できない格別顕著な効果が奏されているわけでもない。
以上のことから、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)むすび
よって、本件補正は、特許法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.原査定について
(1)本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年8月3日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項8に係る発明(以下、本願発明という。)は次のとおりのものである。

「【請求項8】
バッキング層;
感圧性接着性マトリックス;及び
剥離ライナー;
を含む接着性マトリックスデバイスである、スフェンタニルを皮膚を介して投与するための経皮デリバリーシステムであって、
前記感圧性接着性マトリックスは、該マトリックスにおけるスフェンタニルの溶解度を超える量のスフェンタニルを含み、
該マトリックスは:
溶解及び非溶解のスフェンタニルの両方;並びに
(i)450,000? 2,100,000の粘度平均分子量を有する高分子量ポリイソブチレン、及び(ii)1,000?450,000の粘度平均分子量を有する低分子量ポリイソブチレン、のブレンド;
を含み、
前記システムは該システムからのスフェンタニルの流束に対する剤形速度制御及び該システムから皮膚を介して少なくとも約1μg/cm^(2)/時の正味流束を与え、更に前記システムは浸透エンハンサーを含んでいない前記経皮デリバリーシステム。」

(2)引用例に記載された事項、及び、引用例に記載された発明
引用例に記載された事項、及び、引用例に記載された発明は、上記2.の(3-2)、(3-3)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本件補正発明は、本願発明をさらに限定したものであるところ、上記2.(3-4)に記載したとおり、本件補正発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、さらに検討するまでもなく、本願発明も引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項8に係る発明は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-31 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-23 
出願番号 特願2007-538106(P2007-538106)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 渕野 留香
増山 淳子
発明の名称 経皮デリバリーシステム  
代理人 藤田 節  
代理人 田中 夏夫  
代理人 新井 栄一  
代理人 平木 祐輔  

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