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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1305317
審判番号 不服2013-20665  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-24 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2010-152309「3-アミジノフェニルアラニン誘導体を合成するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日出願公開、特開2010-265288〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

この出願は,2003年2月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2002年2月28日 スイス(CH))を国際出願日として出願した特願2003-571265号の一部を平成22年7月2日に新たな特許出願としたものであって,以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成24年11月28日付け 拒絶理由通知
平成25年 6月 3日 意見書提出・手続補正
平成25年 6月17日付け 拒絶査定
平成25年10月24日 審判請求
平成25年12月 5日 手続補正(方式)

第2 本願発明の認定

この出願の請求項1に係る発明は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成25年6月3日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ,請求項1にかかる発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものであると認める。

「一般式(IIa)
【化5】

の3-ヒドロキシアミジノ-フェニルアラニン誘導体。
{ここで,一般式(IIa)の誘導体は,L-又はD-エナンチオマーとして,(E)-又は(Z)-異性体又は(E/Z)-混合物として,遊離塩基として,又は酸を用いて形成されるそれらの塩として存在し,式中,R^(1)は,
(a)式
【化6】


〔式中,p=1及びr=2であり,R^(2)は,ベンジルオキシカルボニル,ベンジルアミノカルボニル又は2-チエニルヒドラジノカルボニルであるか,又はp=2及びr=1であり,R^(2)は,エトキシカルボニル,2-プロピルオキシカルボニル,2-プロピルアミノカルボニル,メチルアミノカルボニル又はメチルであるかのいずれかである〕
の基;又は
(b)式
【化7】


〔式中,R^(3)は,メトキシカルボニル,エトキシカルボニル,ベンジルオキシカルボニル,ジメチルアミノカルボニル,アセチル又はプロピオニルである〕
の基である。}」

第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由の概要は,本願発明は,その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

刊行物1:Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters, 1999, Vol.9, No.2, p.3147-3152(原査定の引用文献1)
刊行物2:国際公開第01/55175号(原査定の引用文献2)
刊行物3:Synthetic Communications, 1996, Vol.26, No.23, p.4351-4367(原査定の引用文献3)
刊行物4:国際公開第98/54132号(原査定の引用文献4)

第4 当審の判断

1 刊行物

刊行物1:上記第3に記載の刊行物1と同じ。
刊行物2:上記第3に記載の刊行物2と同じ。
刊行物3:上記第3に記載の刊行物3と同じ。

2 刊行物に記載された事項

この出願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物1ないし3には,以下の事項がそれぞれ記載されている。

(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には,日本語にして,以下の事項が記載されている。
(1a)「最も効力のあるuPAインヒビターは,嵩高い,N末端がトリイソプロピル-フェニルスルホニル(TIPPS)残基を含む式2の化合物の中から確認された。・・・

」(第3148頁第2行?3行,及びその下の図)

(1b)「化学
インヒビターの合成については,スキームにまとめられるようになされた。最初に,3-シアノフェニルアラニンI(ラセミ体かL-体の何れか)がTIPPS誘導体IIに変換された。2つの異なる合成戦略がこの後のステップでは使用された。ルートAでは,IIは最初に適当な2級アミンとカップリングして,中間体IIIを与え,それは,以前詳述された方法^(12,13)で,チオアミドIVに変換された。そして,S-メチル化によって,チオイミデートのヨウ化水素塩Vにされ,それは,最終的に,アミジノ化合物IXに変換された。C末端がフリーのカルボン酸を含むインヒビターは,対応するメチルエステルの加水分解によって得られた。ルートBでは,IIは対応するアミドオキシムVIに変換され,無水酢酸で処理されて,O-アセチルアミドオキシムVIIにされた^(14)。VIIは適当なアミンとカップリングしてVIIIを与えた,そして,最後の水素化によってIXにされた。すべての最終的な生成物は,SephadexLH-20又は分取逆相HPLCによって精製された。

」(第3148頁第5行?第3149頁第7行)

(1c)「式2のいくつかの2級アミドが合成されて,式1の対応するβNAPSで保護された誘導体と比較された(表1)。・・・
表1.βNAPSで保護された又はTIPPSで保護された3-アミジノフェニルアラニンの2級アミドによるuPA,プラスミン,トリプシンの阻害,化合物はラセミ体である。

さらに,ピペリジド2bの類似体(表2)及びピペラジド2fの類似体(表3)が抗uPA活性を高めるために合成された。」(第3149頁第9行?15行,表1)

(1d)「表2.構造式2の置換ピペリジドによるuPA,プラスミン,トリプシンの阻害,化合物2g-2mはラセミ体,2n及び2oはL-3-アミノフェニルアラニンD-ピペコリン酸誘導体である。

」(第3150頁 表2)

(1e)「表3.構造式2のピペラジドによるuPA,プラスミン,トリプシンの阻害,化合物はラセミ体である。

」(第3151頁 表3)

(2)刊行物2の記載事項
刊行物2には,日本語に訳して以下の事項が記載されていると認められる。なお,日本語訳は刊行物2のファミリーである特表2003-523364号公報によった。
(2a)「【請求項1】式Iの化合物の製造方法であって,式IIの化合物を接触水素化およびシアノ基のアミジノ基への変換によって式IIIの化合物またはその酸HXとの塩に変換し,続いて式IVの化合物またはその酸HXとの塩と反応させることによって式Iの化合物を得ることより成る方法:
【化1】

(式中,アニオンXは,生理学的に受容できるアニオンである)。」(請求項1)

(2b)「本発明に従う方法を実施するとき式IIの化合物は,最初に式IIの化合物を立体選択的に水素化して式VIの化合物を得て,続いてシアノ基をアミジンに変換するか,または最初にシアノ基をアミジンに変換し,続いて立体選択的に水素化することよって式IIIの化合物に変換することができる。

」(明細書第10頁第20行?末行,第11頁の図)

(2c)「式VIの化合物中のシアノ基は,当業者にはそれ自体公知の種々の方法によって,例えばWO-A-97/22712に記載された方法によってアミジンに変換することができるが,しかしながらこのWO-A-97/22712に記載された方法は工業規模で実施するとき多くの不利点,例えば硫化水素の使用を有する。この変換は,好ましくは最初にヒドロキシルアミンを式VIの化合物中のシアノ基に加えて,式VIIのN-ヒドロキシアミジン中間体を形成させることによって実施する。次に式VIIの化合物は,水素化分解によって,すなわち水素化触媒の存在における水素との反応によって,簡単に式IIIのアミジンに変換される。この反応順序の原則は,例えば H.Jendralla外,Tetrahedron 51(1995)12047に記載されている。
必要とされるヒドロキシルアミンは,有利にはヒドロキシルアンモニウム塩,例えば塩化ヒドロキシルアンモニウムまたは硫酸ヒドロキシルアンモニウム,および塩基,例えば塩基性ナトリウムまたはカリウム化合物または第三級アミンから現場で製造される。式VIの化合物とヒドロキシルアンモニウム塩との反応のために使用する塩基は,好ましくは炭酸水素ナトリウムである。ヒドロキシルアミンまたはヒドロキシルアンモニウム塩は,好ましくは過剰に,例えば式VIの化合物1モル当たり約1ないし約2モルの量で使用される。ヒドロキシルアミンまたはヒドロキシルアンモニウム塩との反応のための適当な溶媒は,例えば低級アルコールである。特に好ましい溶媒は,メタノールである。式VIIの化合物は,好ましくは温度約20ないし約65℃,特に好ましくは温度約40ないし約60℃で製造される。もしヒドロキシルアンモニウム塩を使用するならば,加えた塩基はまた,式VIの化合物中のカルボン酸官能基(function)または式VIIの化合物中のカルボン酸官能基をも相当する塩に変換する。もし式VIIのN-ヒドロキシアミジンの中間単離が望まれるならば,この化合物はカルボン酸官能基での塩の形で,すなわちもし使用する塩基がナトリウム化合物であるならばカルボン酸のナトリウム塩の形(このものは,反応混合物を濃縮し,そして/または比較的無極性の溶媒と混合することによって沈殿させ,そして濾過または遠心分離によって除去することができる)で,有利に単離することができる。」(明細書第13頁第1行?末行)

(2d)「式IIIの化合物を得るための式VIIの化合物またはその塩の水素化分解は,接触水素化のためには通例である条件下で,例えば炭素上のパラジウムのような通例の貴金属触媒の存在において実施することができる。反応条件は使用する装置に依る。水素圧は例えば約1ないし約30バール,特に約5ないし約25バールの範囲であることができ,反応温度は約20ないし約70℃,特に約40ないし約60℃であることができる。水素化分解は,好ましくは酸性媒質中で実施する。水素化分解のための好ましい溶媒は,特にもしN-ヒドロキシアミジンを塩の形で使用するならば極性溶媒,例えば低級アルコールまたは酢酸である。特に好ましい溶媒は酢酸である。得られる式IIIのアミジン化合物は,そのものとしてまたは酸付加塩の形で単離することができる[そのものとしての式IIIのアミジン化合物は,式IIIによって表される遊離アミジノ基およびカルボン酸基を有する形では存在せず,カルボン酸基がカルボキシレートアニオンに解離しそしてアミジン単位がプロトン付加してアミジニウムカチオンとなっている式IIIaの互変異性形で,すなわちベタインまたは双性イオンとして存在する]。」(明細書第14頁第1?18行)

(2e)「実施例9:(S)-2-[(S)-2-アセチルアミノ-3-(4-アミジノフェニル)プロピオニルアミノ]-2-シクロヘキシル酢酸ベタイン
攪拌しながら,メタノール(20L)を(S)-2-[(S)-2-アセチルアミノ-3-(4-シアノフェニル)プロピオニルアミノ]-2-シクロヘキシル酢酸(3.77kg,10.1モル)およびヒドロキシルアミン塩酸塩(1.06kg,15.2モル)に加えた。混合物を10分間攪拌した後,炭酸水素ナトリウム(2.52kg,30モル)を加えた。1時間かけて反応混合物をゆっくり加熱して(二酸化炭素の発生)内部温度55℃とした後,55℃で6時間攪拌し,そして室温で一晩攪拌した。沈殿した塩化ナトリウムをザイツフィルターを使用して吸引濾過して,メタノール(4L)で洗浄した。メタノール溶液を,浴温約40℃で回転蒸発器を使用して約10Lまで濃縮して,激しく攪拌しながらイソプロパノール(60L)に滴加した。この結果,N-ヒドロキシアミジンのナトリウム塩が沈殿した。沈殿を完了させるために混合物を減圧下,約40℃で激しく攪拌しながら体積約50Lまで濃縮した。その後攪拌を15℃で1時間続けて,生成物を加圧吸引ロートを通して濾過した。沈殿をイソプロパノール(10L)で洗浄し,窒素流中で一晩吸引ロートフィルター上で乾燥させた。
得られたN-ヒドロキシアミジンのナトリウム塩を,その後それに続く水素化のために直接使用した。このためには,氷酢酸(26L)を最初にオートクレーブ中に装入して,N-ヒドロキシアミジンのナトリウム塩(約6.2kg,上記反応からの湿った粗生成物)を数部に分けて攪拌しながら加えた。この溶液を氷酢酸(1L)中の炭素上のパラジウム(10%,50%水,0.40kg)の懸濁液と混合した。オートクレーブを最初に窒素でフラッシした後,水素でフラッシしてから混合物を50℃,水素圧18バールで72時間水素化した。この反応混合物を室温まで冷却し,活性炭で覆った清澄層ザイツフィルターを通して窒素下で濾過し,そしてフィルター残留物を氷酢酸(2L)で洗浄した。濾液をそれ以上氷酢酸が蒸留して除去されずそして結晶化が始まるまで浴温50℃で回転蒸発器上で濃縮した。次に混合物を約25℃まで冷却し,そして混合物がまだ回転している間,酢酸エチル(20L)を回転蒸発器のフラスコ中にしみ込ませる(soaked)とアミジンが酢酸塩として沈殿した。0.5時間余分に攪拌した後,沈殿をペーパーフィルターによって吸引濾過して,吸引によって完全に乾燥させた。
上記のようにして得た粗製の酢酸アミジニウムを,激しく攪拌しながら,40℃に加熱した脱イオン水(20L)中に導入して,透明な溶液が形成されるまで混合物を80℃に加熱した。その後激しく攪拌しながら混合物を15℃まで冷却すると,30分以内に,これによって標題化合物(ベタインとして)が沈殿した。攪拌を15℃で1時間続けて,沈殿した生成物を加圧吸引ロートを通して濾過した。フィルターケークを氷-水(6L)で洗浄し,窒素流中で完全に乾燥させて,容器中に移して,室温,窒素下で40Lのアセトンとともに1時間攪拌した。沈殿した生成物を加圧吸引ロートを通して濾過し,アセトン(約10L)で洗浄し,減圧下,40℃で乾燥させた。収量:2.58kg(6.64モル,理論の65.7%)の標題化合物。
MS(ESI^(+)):m/z=389.3[M^(+)H^(+)];^(1)H-NMR(メタノール-d^(4)): δ=0.98-1.38(m,5H), 1.58-1.78(m,6H), 1.96(s,3H), 3.10(2×dd,2H), 4.02(d,1H), 4.61(dd,1H), 7.42(d,2H), 7.68(d,2H).」(明細書第36頁第20行?第38頁第7行)

(3)刊行物3の記載事項
刊行物3には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(3a)「このことは,ピペラジンの窒素原子の四級化と競合するために,チオアミドルートを使用して達成されるベンゾニトリル(1)からベンザミジン(2)への変換は低い収率(7%)しか得られないことが示されている(図1)。」(第4352頁第1?3行)

(3b)「図1

」(第4352頁の図1)

(3c)「アミドオキシムの合成
さまざまな芳香族ニトリル(4)が,公知の方法(方法A-表1参照)か,あるいは,この方法でできなかったときは[例えば,(4i),単離された唯一の生成物が2,6-ジメチルベンザミドであった。],改変された方法(方法B-表1参照)によって,(Z)-アミドオキシムに変換された。」(第4354頁第2?6行)

(3d)「表1
アミドオキシムの調製

方法A=NH_(2)OH.HCl/Na_(2)CO_(3)/EtOH-H_(2)O/80°/16時間
方法B=NH_(2)OH.HCl/KOBu^(t)/MeOH-PhMe/70-80°/17時間」(第4355頁の表1)

(3e)「フィブリノーゲンアンタゴニストの合成への適用
我々は,この方法を,多数のフィブリノーゲンアンタゴニスト合成に適用できることを見出し,これはGR144053(3)13のラージスケール(1kg)での合成を含むもので,ニトリル(1)からトータルで75%の収率で得ることができ(図4),チオアミドルートを用いて得られた7%の収率を大幅に改善した。」(第4356頁下から3行?第4357頁第2行)

(3f)「

(参考文献13から許可を得て掲載,著作権1994年,米国化学学会)
(a)方法A(本文参照),(b)H_(2)/Pd-C/Ac_(2)O/AcOH,(c)5M HCl」(第4358頁の図)

(3g)「方法A
(Z)-2-メトキシベンザミドオキシム(5f)
2-メトキシベンゾニトリル(2.99g,22.46mmol),塩酸ヒドロキシルアミン(5.75g,82.73mmol),炭酸ナトリウム(4.11g,38.06mmol)が水(60ml)-エタノール(7ml)に溶解され,溶液は穏やかに5分間撹拌され,その後窒素雰囲気下で,3時間還流された。溶液は冷却され,溶媒が真空内で除去されて,残渣は水(100ml)で粉末化された。生成物はろ過及び真空中での乾燥により収集され,無色の固体(2.24g,60%)として標題の化合物が得られた。水による粉末化物は,ジクロロメタン(4×80ml)で抽出され,有機抽出物は乾燥(Na_(2)SO_(4))で乾燥され,真空中で減圧蒸留され,さらなる生成物バッチが得られた(1.22g,33%)」(第4358頁下から3行?第4359頁第8行)

3 刊行物1に記載された発明

刊行物1には,


」(以下,「式IIIの化合物」と略記する。)が記載されている(摘記1b参照)。
この「式IIIの化合物」が記載されている合成スキームをみると,この「式IIIの化合物」を,「H_(2)SとTEA」と「ピリジン中で」反応させて,「

」(以下,「式IVの化合物」と略記する。)を得,これを,
「CH_(3)I」と「アセトン中で」反応させて,


」(以下,「式Vの化合物」と略記する。)を得,これを,
「NH_(4)Ac」と「メタノール中で」反応させて,
「式IX

」(以下,「式IXの化合物」と略記する。)を得る方法(以下,「刊行物1記載の方法」という。)も記載されている(摘記1b参照)。
ここで,「式IXの化合物」は,「式2」(摘記1a参照)と同じ構造式を有するものと解される(「式IX」の「R」はNを含まない形で表示され,「式2」の「R」はNを含む形で表示されているものと解される。)から,「式IXの化合物」は,その「NR」が,表2,表3の「R」として,
「2g


」(以下,「4-メチル-ピペリジド」と略記する。),
「2j


」(以下,「4-メチルアミノカルボニル-ピペリジド」と略記する。),
「2q


」(以下,「4-メトキシカルボニル-ピペラジド」と略記する。),
「2r


」(以下,「4-エトキシカルボニル-ピペラジド」と略記する。),
「2s


」(以下,「4-アセチルカルボニル-ピペラジド」と略記する。)の場合をそれぞれ含んでおり(摘記1c,1d,1e参照),出発物質である「式IIIの化合物」も同様の「NR」をそれぞれ含んでいる。

そうすると,刊行物1には,
「式III(式中のNRは,4-メチル-ピペリジド,4-メチルアミノカルボニル-ピペリジド,4-メトキシカルボニル-ピペラジド,4-エトキシカルボニル-ピペラジド,4-アセチルカルボニル-ピペラジドのいずれかである。)の化合物」
の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

4 本願発明と引用発明との対比

本願発明である「一般式(IIa)の3-ヒドロキシアミジノ-フェニルアラニン誘導体」について,本願発明の技術的意義を理解するため明細書の記載を参酌すると,本願明細書の記載「【0010】
【化1】

【0011】・・本発明の目的は,高い化学収率及び純度で,並びにラセミ化を起こさずに,できるだけ少ない装置を用いて,一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体を,一般式Iの3-アミジノ誘導体,又は酸を用いて形成されるそれらの塩に変換するための方法であり・・。
【0012】本発明の方法・・において,ニトリル基をアミジノ官能基へ変換する反応は,還流温度で,アルコール性水溶液中炭酸ナトリウムの存在下,塩酸ヒドロキシルアミンを用いて・・一般式(IIa)のアミドオキシム中間体を経て起こる。・・【0013】アミドオキシム官能基のその後に続く還元・・行われる。」より,本願発明は,「一般式(III)

〔式中,R^(1)は上述の意味を有する〕の3-シアノフェニルアラニン誘導体」(以下,「一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体」と略記する。)を,還流温度で,アルコール性水溶液中炭酸ナトリウムの存在下,塩酸ヒドロキシルアミンを用いて,シアノ基をアミドオキシム基に変換して得られるもので,さらにこれを還元して,「一般式(I)

〔式中,R^(1)は上述の意味を有する〕の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」(以下,「一般式(I)の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」と略記する。)を得るための中間体である。

引用発明である「式III(式中のNRは,4-メチル-ピペリジド,4-メチルアミノカルボニル-ピペリジド,4-メトキシカルボニル-ピペラジド,4-エトキシカルボニル-ピペラジド,4-アセチルカルボニル-ピペラジドのいずれかである。)の化合物」は,その構造式からみて,本願発明を得るための原料である「一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体」において,「R^(1)」が,
「(a)式


〔式中,p=2及びr=1であり,R^(2)は,メチル,メチルアミノカルボニルである〕」,
「(b)式


〔式中,R^(3)は,メトキシカルボニル,エトキシカルボニル,アセチルである〕」である場合に,それぞれ相当する。

そうすると,本願発明と引用発明とは,
「N-α-2,4,6-トリイソプロピルフェニルスルホニル-3-置換-(L)-フェニルアラニン誘導体」
である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

相違点:
本願発明は,「L-又はD-エナンチオマーとして,(E)-又は(Z)-異性体又は(E/Z)-混合物として,遊離塩基として,又は酸を用いて形成されるそれらの塩としての,一般式(IIa)

[式中,R^(1)は上述の意味を有する]の化合物」であるのに対して,引用発明は,「式IIIの化合物」である点。

5 判断

(1)相違点について

本願発明である「一般式(IIa)の3-ヒドロキシアミジノ-フェニルアラニン誘導体」は,上記4で述べたように,「一般式(I)の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」を得るための中間体であり,「式(I)の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」は,引用発明の最終生成物である「式IXの化合物」である。
そこで,最終的な生成物である「一般式(I)の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」を得る方法に着目すると,本願明細書に記載の方法として,上記4に示した段落【0010】ないし【0013】の記載より,「一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体」を還流温度でアルコール性水溶液中炭酸ナトリウムの存在下,塩酸ヒドロキシルアミンを用いて本願発明に変換しそれを還元する方法と,上記3の「刊行物1記載の方法」とは,引用発明から,中間体として,本願発明である「一般式(IIa)の3-ヒドロキシアミジノ-フェニルアラニン誘導体」を合成するか,それとも,引用発明から「式IVの化合物」,「式Vの化合物」を合成するかの点で相違するものといえる。

刊行物2には,「最初に式IIの化合物を立体選択的に水素化して式VIの化合物を得て,続いてシアノ基をアミジンに変換する・・・

」と記載され(摘記2b参照),この「III」とは,


」(アミジン)である(摘記2a参照)。
そして,刊行物2には,「この変換は,好ましくは最初にヒドロキシルアミンを式VIの化合物中のシアノ基に加えて,式VIIのN-ヒドロキシアミジン中間体を形成させることによって実施する。」(摘記2c参照)と記載されている。ここで,刊行物2でこのような方法を採用するのは,「WO-A-97/22712に記載された方法によってアミジンに変換することができるが,しかしながらこのWO-A-97/22712に記載された方法は工業規模で実施するとき多くの不利点,例えば硫化水素の使用を有する。」ためであり(摘記2c参照),この「WO-A-97/22712」(国際公開97/22712号)におけるアミジンへ変換する方法(実施例3の工程F?H)は,「刊行物1記載の方法」に示されるように,シアノ基をピリジン中,トリエチルアミン(TEA)と硫化水素(H_(2)S)で反応させて,チオアミドの化合物(刊行物1記載の「式IVの化合物」に相当する。)を得,これを,よう化メチル(CH_(3)I)とアセトン中で反応させて,メチルチオアミデートの化合物(刊行物1記載の「式Vの化合物」に相当する。)を得,これを,酢酸アンモニウム(NH_(4)Ac)とメタノール-酢酸中で反応させて,アミジノの化合物(刊行物1記載の「式IXの化合物」に相当する。)を得る方法のことである。
そうすると,刊行物2の上記記載から,当業者であれば「刊行物1記載の方法」においては,工業規模で実施するときの不利点,特に硫化水素の使用という課題が存在すること,そして,その課題を解決するために,刊行物2に記載されるような「ヒドロキシルアミンを式VIの化合物中のシアノ基に加えて,式VIIのN-ヒドロキシアミジン中間体を形成させることによって実施」し,「次に式VIIの化合物は,水素化分解によって,すなわち水素化触媒の存在における水素との反応によって,簡単に式IIIのアミジンに変換される」との解決手段を採用すればよいことが理解できると認められる。
そして,出発物質である,刊行物2に記載される式VIの化合物と,引用発明とを対比すると,
α)シアノ基で置換されたフェニルアラニン構造(不斉炭素を有する)を骨格としている点,
β)フェニルアラニン構造のN原子が保護されている点,
γ)フェニルアラニン構造のカルボニルのC原子がアミド結合となっている点
で共通し,基本的な化学構造が同じで,きわめて類似した構造式を有するものであるから,ヒドロキシルアミンを式VIの化合物中のシアノ基に加えて,式VIIのヒドロキシアミジン中間体を形成させる刊行物2記載の合成方法を,「刊行物1記載の方法」における引用発明のシアノ基に適用しても同様に反応が進行すると,当業者であれば通常は考えるものといえる。
さらに,引用発明と,刊行物2の式VIの化合物の違いについて検討するに,上記β)に関するN原子の保護基が刊行物2の式VIの化合物では,アセチル基であるのに対して,引用発明では,トリイソプロピルフェニルスルホニル基である点で異なるが,刊行物1には,「ルートB」として,保護基として「トリイソプロピルフェニルスルホニル基」を有する式IIの化合物をヒドロキシルアミンと反応させて,シアノ基をアミノオキシム基(ヒドロキシアミジン)とした式VIを合成する方法も記載されている(摘記1b参照)から,保護基が「トリイソプロピルフェニルスルホニル基」に変わったとしても,引用発明にヒドロキシアミンを反応させて,ヒドロキシアミジン中間体を形成させることができると解される。
また,上記γ)に関する構造の違いについても検討するに,刊行物2の式VIの化合物では,カルボニルのC原子に置換するアミド構造において,アミド結合を有する化合物のシアノ基をヒドロキシルアミンと反応させても,アミド結合が保たれたまま,ニトリルからヒドロキシアミジン中間体が合成されていること,さらに,刊行物3においても,エステル結合を有する化合物のシアノ基をヒドロキシルアミンと反応させても,エステル結合が保たれたまま,ニトリルからヒドロキシアミジン中間体が合成されることが記載されている(摘記3e,3f参照)ことからすれば,引用発明において,アミド結合を含む,4-メチル-ピペリジド,4-メチルアミノカルボニル-ピペリジド,4-アセチルカルボニル-ピペラジドのみならず,さらに,エステル結合を含む4-メトキシカルボニル-ピペラジド,4-エトキシカルボニル-ピペラジドの置換基を有するものであっても,シアノ基とヒドロキシルアミンとを反応させて,ヒドロキシアミジン中間体を形成させることができると考えられる。
してみると,「刊行物1記載の方法」において,引用発明に,刊行物2に記載されるように,ヒドロキシアミンを加えて,本願発明である「一般式(IIa)の3-ヒドロキシアミジノ-フェニルアラニン誘導体」を合成して得ることは,当業者が容易になし得たことと認められる。

そうすると,上記相違点については,刊行物1ないし3の記載に基いて当業者が容易になし得たことと認められる。

(2)本願発明の効果について

本願発明は,「一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体」から,「一般式(I)の3-アミジノフェニルアラニン誘導体」を合成するための中間体であって,その新規の中間体を提供することが本願発明の効果であると認められる。
そうすると,本願発明を,「一般式(III)の3-シアノフェニルアラニン誘導体」から,「一般式(I)の3-アミジノフェニルアラニン誘導体」を合成するための中間体として合成することが,当業者にとって容易になし得る以上,その効果も当業者が容易に予測し得たことと認められる。

なお,請求人は,平成25年12月5日付け手続補正書(方式)の「3.本願発明が特許されるべき理由」において,「更に本願発明における一連の工程では,あらかじめカルボキシル基がアミド化されているニトリル体(本願の式(III)の化合物)をヒドロキシルアミンと反応させることによって式(IIa)の化合物を得,更にそのまま還元反応に付すことで式(I)の化合物を得ることができるが,引用文献1のルートBでは,アミド化されていないニトリル体(化合物II)を用い,ヒドロキシルアミノ化とその保護および脱保護の工程を経て最終的に化合物IX(本願の式(I)の化合物に相当)を得ているため,多数の工程を経ている。そうすると,本願請求項1の式(IIa)の化合物を経ることにより,工程数を減らすこともでき,更に引用文献1のルートBで用いている攻撃的な試薬である無水酢酸の使用も避けることができる。よって,本願請求項1の式(IIa)の化合物にかかる発明は,引用文献1からは予測できない有利な効果を有するといえ,引用文献1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。」と主張している。
しかしながら,上記主張の効果は,引用発明を原料とし,本願発明を中間体として,最終生成物である「一般式(I)の3-アミジノ-フェニルアラニン誘導体」を合成する方法の効果であって,その方法において生成される中間体という化合物自体の効果ではないので,上記主張を採用することはできない。

したがって,本願発明の効果は,本願明細書の記載を参酌しても,刊行物1ないし3から予測される範囲内のものであり,格別顕著なものではない。

6 まとめ

したがって,本願発明は,その優先日前に頒布された刊行物1ないし3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,この出願は,拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-06 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-20 
出願番号 特願2010-152309(P2010-152309)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 幸司  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 瀬良 聡機
齊藤 真由美
発明の名称 3-アミジノフェニルアラニン誘導体を合成するための方法  
代理人 生川 芳徳  
代理人 柴田 明夫  
代理人 津国 肇  
代理人 三宅 俊男  
代理人 田中 洋子  
代理人 小澤 圭子  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 小國 泰弘  

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