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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E01H
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E01H
管理番号 1305341
審判番号 不服2014-14622  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-25 
確定日 2015-09-09 
事件の表示 特願2011-546811「雪および氷を融かして浄化するためのプラントおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月29日国際公開、WO2010/084195、平成24年 7月12日国内公表、特表2012-515865〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年1月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年1月26日、ノルウェー)を国際出願日とする出願であって、平成26年2月27日付けで手続補正がなされたが、平成26年3月19日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成26年7月25日付けで拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに,同時に手続補正がなされたものである。


第2 平成26年7月25日付け手続補正についての補正却下の決定

〔補正却下の決定の結論〕

平成26年7月25日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕

1 本件補正の内容
(1)平成26年7月25日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1(平成26年2月27日付け手続補正書)の、
「【請求項1】
雪および氷を融かして浄化するためのプラントであって、
雪および氷の導入口、並びに海やフィヨルド、大きな湖、大きな川、あるいは他の大きな天然の地表水源のうちから選ばれた水源から導入される水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う撹拌室、が設けられた融解手段と、
融かされた前記雪および氷を含む水相から溶解した汚染物質および非溶解汚染物質を取り除く浄化手段と、
を備えていることを特徴とする、プラント。」
とあったものを、

「【請求項1】
雪および氷を融かして浄化するためのプラントであって、
雪および氷の導入口、並びに約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う撹拌室、が設けられた融解手段と、
出口室に設けられ、融かされた前記雪および氷を含む水相から溶解した汚染物質および非溶解汚染物質を取り除く除浄化手段と、
を備えていることを特徴とする、プラント。」と補正するものである(下線部は補正個所を示すために付したものである。)。
なお、請求項1の「除浄化手段」は「浄化手段」の誤記と認める。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に記載の「海やフィヨルド、大きな湖、大きな川、あるいは他の大きな天然の地表水源のうちから選ばれた水源から導入される水の導入口」を「約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口」の事項に補正したもの(「補正事項(1)」という。)であり、本件補正前の請求項1に記載の「融かされた前記雪および氷を含む水相から溶解した汚染物質および非溶解汚染物質を取り除く浄化手段」に対し「出口室に設けられ、」の事項を付加したもの(「補正事項(2)」という。)である。

2 本件補正が願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面において記載したものであるかについて
(1)補正事項(1)について
補正事項(1)のうち、「天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口」について、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載を参照すると、「水の導入口」の文言及び定義に関する記載がなく、また、「水の導入口」が「水」が「導入」される部分であると解しても、「水」が「導入」される部分と「天然の低温水を汲み上げるポンプ」との関係の記載はない。
さらに、本件補正後の請求項1において「天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し・・・を行う撹拌室」と記載(なお、審判請求書第5頁4.でも「引用発明には・・・水の導入口を撹拌室に設ける構造を備え得ない。」と主張しているので「導入口を有し」は撹拌室を特定する意図で用いられているものと認められる。)され、「撹拌室」が「ポンプを備える水の導入口を有し」ている構成を含んでいる。しかし、願書に最初に添付した特許請求の範囲、明細書及び図面を参照しても、「撹拌室」の「水」が「導入」される部分及びその関連事項について何ら記載されておらず、「撹拌室」と「ポンプ」との技術的関係の記載もない。
一方、願書に最初に添付した明細書には、「海面に位置するポンプから水を4m揚げる」(【0014】)との記載があるが、この記載からすれば、「ポンプ」は、海面に位置し、海面から4mの位置にまで水を揚げるので、少なくとも「ポンプ」は「攪拌室」と離間して海面に位置すると解される。
そうすると、本件補正後の請求項1における「天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し・・・を行う撹拌室」という記載は、願書に最初に添付した明細書において「ポンプを備える水の導入口」が「攪拌室」と離間して位置する記載と相反している。
したがって、補正事項(1)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

(2)補正事項(2)について
補正事項(2)は、明細書【0008】に記載されているので、この補正は願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)以上により、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 補正の目的について
(1)補正事項(1)について
補正事項の「約25mの深さの海などの低温貯水源」について、「フィヨルド、大きな湖、大きな川、あるいは他の大きな天然の地表水源」以外の池や井戸のような「大き」くない「天然の地表水源」の構成や地下水源も含むことから、本件補正前の請求項1に記載の事項を実質的に拡張するものと認められ、この補正は限定的減縮を目的としているものとは認められない。また、この補正が誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明としているものでないことは明らかである。
よって、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許法第17条の2第5項各号に規定する,請求項の削除、特許請求の範囲の限定的減縮,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

(2)補正事項(2)について
本件補正の補正事項(2)は、「浄化手段」の構成を限定するものなので、この補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものである。

(3)以上により、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4 独立特許要件
上記2及び3で検討したのように、本件補正は特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に違反するものであるので却下すべきものであるが、仮に、本件補正が願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、限定的減縮を目的とするものであるとして、上記本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に適合するか)について以下検討する。

(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-302639号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は降雪地域において排雪される雪を1箇所に集めて、これを能率的に融雪できる大型の融雪装置に関するものであり、融雪のためのエネルギー、および融雪装置の設備コスト、その運転コストを可及的に抑制することができるものである。」

イ 「【0004】
【課題を解決するための手段】上記課題解決のために講じた手段は次ぎの要素(イ)?(ニ)によって構成されるものである。
(イ)大型の融雪タンクの内面に多数の散水ノズルを設け、この融雪タンクにダンプトラック等から排雪を直接投入できるようにしたこと、(ロ)上記融雪タンク下部に集水路を設け、この集水路を排水管路を介して沈殿槽に連通させ、当該排水管路の途中に止め弁を設け、さらに当該止め弁をバイパスするサンホン管を配置したこと、(ハ)上記沈殿槽にコンベアによる排泥装置を設けたこと、(ニ)上記散水ノズルを自然温水源に接続したこと、上記自然温水源は地下水源、温泉水源、海水源を意味する。」

ウ 「【0005】
【作 用】上記止め弁を閉じた状態で上記融雪タンク内壁の散水ノズルから融雪タンク上方に自然温水源から供給される温水を散水すると、融雪タンク下部の集水路および融雪タンク内にその温水が貯溜される。そして、その推移レベルが上記サイホンの高さに達すると、融雪タンク内の水は上記排水管路および上記サイホンを経て沈殿槽に流入する。したがって、上記止め弁が閉じられている限り融雪タンク内の水位はサイホンの高さに自動的に保持される。この状態の融雪タンク上方にダンプトラックから排雪を投入すると、投入された雪は融雪タンク内の水と散水される温水とによって速やかに融雪される。融雪によって生じた水は散水された水と共に上記排水管路および上記サイホンを通り、沈殿槽に流入する。沈殿槽に流入する水には雪と共に運び込まれた泥が混入しているが、この泥は沈殿槽によって沈殿され、上澄水だけが水路を経て放出される。そして、沈殿槽に沈殿した排泥はコンベアによる排泥装置によって能率的に排除されるので、融雪施設を連続的に運転することができる。また、融雪タンク内に投入された雪の下面と上面に散水ノズルによって自然温水が掛けられるので、融雪タンク内の雪は能率的に融雪される。そして、沈殿槽を経て排出される水は綺麗であるから、そのまま下水排水管路、あるいは通常の水路に放水しても、これらを排水によって汚損することはない。また、極めて集約的な施設であるから、この施設の存在によって周囲の環境を損なうこともない。排水を地下水源に還流させる場合は、さらに濾過装置、滅菌装置を通せばよい。また、この融雪施設の融雪能力は自然温水源から供給される温水の温度と水量によって左右される。したがって、水温12℃程度の地下水を温水源とすることが望ましく、これはどのような地域でも確保できる自然温水源であるから、この施設の設置場所の選定は容易である。また、能率的に融雪するための熱源は自然温水源の水であるから、その運転コストは極めて低廉であり、また施設はコンクリート製の大型融雪タンクと集水路、排水管路、止め弁、サイホン管、散水ノズル等からなる散水施設、沈殿槽、排泥装置からなるものであるから、その建設コストは比較的低廉である。地域にもよるが、冬季の海水温度は摂氏数度はあるので、海水を温水源として用いてもよく、海水は塩分を含んでいるので水温が低い割りには融雪能力が高く、したがって、相当の融雪能力を発揮することができる。温泉を自然温水源とする場合は、十分な散水量を確保することが必要であるから、その水量節減のために温泉の熱水と河川の水、または井戸水、あるいは浅い地下水等と併用することが望ましい。」

エ 「【0010】
【作 用】大深度地下水脈から15℃程度の大量の自然温水を融雪タンクの散水ノズルに供給することができるので、低コストで大量の排雪を処理できる。また排水は大深度地下水脈に還流されるので地下水脈の水の消費量を殆ど零にし、地熱だけを有効に取り出して有効に利用できる。さらに、排水を濾過槽によってさらに綺麗にすることができるので、地熱還元井戸に還流された排水によって地下水が汚損されることを可及的に回避することができる。」

オ 「【0013】
【実 施 例】最も望ましい自然温水源は大深度の地下水であり、また大深度の地下水および大深度の地熱を最も有効に活用し、かつ大量の地下水の汲み上げによる地盤沈下の問題を回避するためには還流式の地熱還元井戸を用いるのが望ましく、これによって本格的な融雪施設が構築されるので、この実施形態の実施例を説明する。鉄筋コンクリート製の大型の融雪タンク1は平面形状が長方形のもので、その底面2は中央に傾斜して傾斜底面になっており、その中央に細目の鉄製格子3があり、その下方に集水路4が設けられている。また、融雪タンク1の側壁5の内側面、底面に多数の散水ノズル6を設け、その噴水方向を広角度にしている。融雪タンク1の下部まで給水パイプ7が延びていて、この給水パイプ7に弁8、枝管9を介してこの散水ノズル6が接続されている。融雪タンク1の側部にダンプデッキ10が設けられている。集水路4には排水管路11が接続されており、この排水管路は沈殿槽12に接続されている。この排水管路11には止め弁13が設けられており、さらにサイホン管14が接続されている。このサイホン管14の上端の高さは融雪タンク1の基準水位の高さに等しく、この上端を空気取入口15によって大気に開口させている。沈殿槽12にはその底部まで延びた排土コンベア16が設けられている。この排土コンベア16の上端は脱水装置17に達している。この脱水装置17は該コンベアによって運び上げられた泥土からローラ18によって脱水し、水分をタンク19に収集するものである。沈殿槽12は水路20を介して濾過槽21に連通しており、この水路20にスクリーン20aが設けられている。濾過槽21の底部に濾過フィルタ22がある。即ち、沈殿層12は水路20を介して前記構成からなる濾過装置に接続されている。この濾過装置を通過した排水は滅菌装置23に流入し、この滅菌装置で滅菌されて後、地熱還元井戸24を経て地下深くまで戻される。この地熱還元井戸24は二重井戸管からなる大深度の井戸25であり、水中ポンプ26によって深い地下水脈から温水(約15℃)を汲み上げ、内管と外管との間を通して排水が地下水脈まで還元される。この地熱還元井戸24の詳細については特開平2ー204511号公報を参照されたい。濾過槽21の底部にノズルを設けてあり、このノズルを逆洗弁27を介して給水パイプ7に接続している。これは給水パイプからの清水をフィルタ22の下面に吹き付けてフィルタを洗浄するためのものである。止め弁13を閉めておいて自然温水をノズル6から噴出させながら、ダンプデッキから融雪タンクの雪を投入する。集水路4に集められた排水は配水管路11、サイホン管14を経て沈殿槽に流入し、ここで雪に含まれていた泥が沈殿して分離され、上澄みが水路20を経て濾過装置21に流入する。排水を通常の排水路に放流する場合は、濾過装置からフィルタ22を通すことなく、そのまま放流する。以上の実施例の融雪タンクの容量は約200m^(3)であり、地熱還元井戸24の揚水量は0.05?0.1m^(3)/秒である。このものの融雪能力は約1、000t/日(約10時間)である。実際の雪質、投入できる自然温水量、その温度によって処理能力は左右されるので、必要な処理能力を勘案して上記の3つの要素を関しつつ、施設のスケールを決めればよい。」

カ 上記イの「・・・自然温水源は地下水源、温泉水源、海水源を意味する。」の記載と、上記ウの「地域にもよるが、冬季の海水温度は摂氏数度はあるので、海水を温水源として用いてもよく、海水は塩分を含んでいるので水温が低い割りには融雪能力が高く、したがって、相当の融雪能力を発揮することができる。」の記載を併せ読めば、水中ポンプは海水源から摂氏数度はある水温が低い海水を汲み上げることと解される。

キ 「融雪タンク」について、上記イの「融雪タンクの内面に多数の散水ノズルを設け」、上記オの「また、融雪タンク1の側壁5の内側面、底面に多数の散水ノズル6を設け、その噴水方向を広角度にしている。融雪タンク1の下部まで給水パイプ7が延びていて、この給水パイプ7に弁8、枝管9を介してこの散水ノズル6が接続されている。」及び「・・・水中ポンプ26によって深い地下水脈から温水(約15℃)を汲み上げ・・・」の記載と、図7を併せ見れば、融雪タンクに設けられた散水ノズルと給水パイプと水中ポンプは接続されており、上記カのように、水中ポンプが海水を汲み上げることから、散水ノズルと給水パイプと水中ポンプは融雪タンクの散水のための海水の供給経路となることは明らかである。
そうすると、融雪タンクは、散水ノズルと給水パイプと水中ポンプを備える海水の供給経路を有すると解される。
さらに、上記ウの「この状態の融雪タンク上方にダンプトラックから排雪を投入すると、投入された雪は融雪タンク内の水と散水される温水とによって速やかに融雪される。」を併せ読めば、融雪タンクにおいて速やかに融雪するために、排雪された雪と散水される海水との間で熱交換を行うことが明らかである。

ク 上記アないしキから、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されるものと認められる。
「降雪地域において排雪される雪を能率的に融雪でき、濾過槽によってさらに綺麗にすることができる融雪施設であって、
ダンプトラックから排雪を投入し、海水源から摂氏数度はある水温が低い海水を汲み上げる水中ポンプを備える海水の供給経路を有し、融雪するために排雪された雪と散水される海水との間で熱交換を行う融雪タンクと、
融雪によって生じた水は沈殿槽に流入し、沈殿槽に流入する水には雪と共に運び込まれた泥が混入し、泥は沈殿槽によって沈殿、排除され、さらに濾過槽と濾過フィルタからなる濾過装置を通し、排出される、融雪施設。」

(2)対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「降雪地域において排雪される雪」は、積雪であって自重によって通気性のない状態に変化した氷も含むものであるので、引用発明の「降雪地域において排雪される雪」は、本件補正発明の「雪および氷」に相当する。

イ 引用発明の「濾過槽によってさらに綺麗にすること」は、浄化といえるので、引用発明の「降雪地域において排雪される雪を能率的に融雪でき、濾過槽によってさらに綺麗にすることができる融雪施設」は、本願発明の「雪および氷を融かして浄化するためのプラント」に相当する。

ウ 引用発明の「融雪タンク」は、「ダンプトラックから排雪を投入」される構造であるから、「排雪」が投入される部分を備えることは自明である。
そうすると、引用発明の「融雪タンク」の「排雪」が投入される部分は、本件補正発明の「雪および氷の導入口」に相当する。

エ 引用発明の「海水源」は、本件補正発明の「低温貯水源」に相当し、以下同様に、「摂氏数度はある水温が低い海水」は「天然の低温水」に、「水中ポンプ」は「ポンプ」に、「海水の経路」は「水の導入口」にそれぞれ相当する。
したがって、引用発明の「海水源から摂氏数度はある水温が低い海水を汲み上げる水中ポンプを備える海水の供給経路」と、本件補正発明の「約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口」とは、「約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口」で共通する。

オ 引用発明の「融雪するために排雪された雪と散水される海水との間で熱交換を行う」機能は、本件補正発明の「雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う」機能に相当する。

カ 上記ウ?オより、引用発明の「ダンプトラックから排雪を投入し、海水源から摂氏数度はある水温が低い海水を汲み上げる水中ポンプを備える海水の供給経路を有し、融雪するために排雪された雪と散水される海水との間で熱交換を行う融雪タンク」と、本件補正発明の「雪および氷の導入口、並びに約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う撹拌室」は、「雪および氷の導入口、並びに海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う室」で共通する。

キ 引用発明の「融雪タンク」は、その機能からみて、本件補正発明の「融解手段」に相当する。

ク 引用発明の「沈殿槽」と「濾過装置」からなる構成は、本件補正発明の「出口室」に相当する。

ケ 引用発明の「流入する水に雪と共に運び込まれた泥」を「沈殿、排除す」る「沈殿槽」は、「泥」が水に対し非溶解性であることは自明なので、本件補正発明の「融かされた前記雪および氷を含む水相から溶解した汚染物質および非溶解汚染物質を取り除く浄化手段」と、「融かされた前記雪および氷を含む水相から」「非溶解汚染物質を取り除く浄化手段」で共通する。

コ 上記アないしケからみて、本件補正発明と引用発明とは、
「雪および氷を融かして浄化するためのプラントであって、
雪および氷の導入口、並びに約25mの深さの海などの低温貯水源から天然の低温水を汲み上げるポンプを備える水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う室、が設けられた融解手段と、
出口室に設けられ、融かされた前記雪および氷を含む水相から非溶解汚染物質を取り除く浄化手段と、
を備えている、プラント。」の点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う室に関して、本件補正発明は「撹拌室」であるのに対し、引用発明は、融雪タンクにおいて「撹拌」する構成は備えていない点。

(相違点2)融かされた水相の浄化手段に関し、本件補正発明は「溶解した汚染物質」を取り除くのに対し、引用発明は「濾過装置」がそのような汚染物質を取り除くのか否か不明である点。

(3)当審の判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
水を導入し雪を溶かす際に、融雪効率向上のために撹拌することは周知(特開2003-268740号公報(【0001】【0004】【図1】)、特開2000-54337号公報(【0001】【0009】【0010】【図1】)、登録実用新案第3033997号公報(【0003】【0004】【0006】【図2】)等参照。)である。
引用発明の「融雪タンク」において、融雪効率向上のために撹拌し、上記相違点2に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものである。

イ 相違点2について
下水処理等の浄化手段として、水相に溶解した重金属等の汚染物質を濾過装置を用いて取り除くことは、周知技術(例えば、特開2002-224669号公報【0001】、特開2002-355515号公報【0001】、特開2004-57894号公報【0011】等参照。)である。
引用発明の濾過装置において、所望とする排水の浄化度に応じて、上記周知技術を採用し、相違点3に係る本件補正発明の構成となすことは当業者が容易に想到し得るものである。

ウ 本件補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(4)まとめ
よって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

5 小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。また、仮に、本件補正が願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、限定的減縮を目的とするものであるとして、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成26年2月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項7に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年2月27日付けで補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

1 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例の記載事項、およびこれから認定される引用発明は、上記「第2〔理由〕4(1)」に記載したとおりである。

2 対比、判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「海水源から摂氏数度はある水温が低い海水を汲み上げる水中ポンプを備える海水の供給経路」と、本願発明の「雪および氷の導入口、並びに海やフィヨルド、大きな湖、大きな川、あるいは他の大きな天然の地表水源のうちから選ばれた水源から導入される水の導入口」とは、「海」の「水源から導入される水の導入口」で共通する。

イ 引用発明のその他の構成と、本願発明の対応関係は、上記第2〔理由〕4(2)ア?ウ、オ?ケのとおりである。

ウ そうすると、本願発明と引用発明とは、
「雪および氷を融かして浄化するためのプラントであって、
雪および氷の導入口、並びに海の水源から導入される水の導入口を有し、前記雪および氷を融解するために、導入された雪および氷と導入された水の間で熱交換を行う室、が設けられた融解手段と、
融かされた前記雪および氷を含む水相から非溶解汚染物質を取り除く除浄化手段と、
を備えている、プラント。」の点で一致し、
上記「第2〔理由〕4(2)コ」の相違点(1)乃至(2)で相違する。
そして、「第2〔理由〕4(3)」のとおり、上記相違点(1)乃至(2)に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-31 
結審通知日 2015-04-07 
審決日 2015-04-21 
出願番号 特願2011-546811(P2011-546811)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E01H)
P 1 8・ 121- Z (E01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 祐介  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 住田 秀弘
竹村 真一郎
発明の名称 雪および氷を融かして浄化するためのプラントおよび方法  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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