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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1305999
審判番号 不服2014-8237  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2015-09-28 
事件の表示 特願2012-93542「貼付剤」拒絶査定不服審判事件〔平成24年8月2日出願公開、特開2012-144562〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年2月20日に出願された特許出願(特願2006-42496号)の一部を平成24年4月17日に新たな特許出願としたものであって、平成25年8月1日付けで拒絶理由が通知され、同年9月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年12月5日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年1月30日付けで拒絶査定され、同年5月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年7月9日付けで前置審査の結果が報告され、当審において同年12月22日付けで審尋され、平成27年2月9日に回答書が提出されたものである。

2.本願の発明
本願の請求項1?2に係る発明は、平成26年5月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?2にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項2に係る発明「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「支持体と該支持体の一面の略全面に展着された粘着性を有する含水性の膏体と、前記膏体に貼着される膏体面より大きな剥離フィルムを備え、前記膏体面の全辺において突出する膏体面への非貼着部を有し、前記膏体が平均重合度20,000?70,000のポリアクリル酸を配合したものであることを特徴とする外用貼付剤。」

3.当審の判断
(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:実願昭56-62921号(実開昭57-176242号)のマイクロフィルム(原査定の引用例1)
刊行物2:特開平8-112305号公報(原査定の引用例8)

ア.本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物1には、以下の記載がある。
(ア)「1.基布とゼラチン系パップ膏体層と剥離紙とよりなり、パツプ膏体層と基布とは同一の大きさであるが剥離紙より小さく、剥離紙の四辺に耳部を持つことを特徴とするパツプ剤。
2.耳部の幅が2mm?8mmである実用新案登録請求の範囲第1項記載のパツプ剤。」(実用新案登録請求の範囲の第1項及び第2項)

(イ)「本考案は剥離紙の四辺に耳部を有する新規なパツプ剤に関する。
消炎、鎮痛の目的で使用されるいわゆるパツプ剤はゼラチン、PVA、CMC等のゲル化剤とサオリン、ベントナイト、TiO_(2)、ZnO、CaCO_(3)等の粉末基剤とグリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール等の湿潤剤及び水からなるゲル状物に、メントール、カンフアー、サリチル酸メチル等の薬物を練合したパツプ剤組成物を布片上に均一に展延塗布したものであり、通常剥離性の保護フイルムを貼り合わせたものからなつている。従つて保護フイルムを剥すだけで繁雑な作業なしに使用できる便利なものであるが、当然のことながら保護フイルムを剥す際に耳部があるかないかで剥離のしやすさが全く異なる。
従つてこれ迄のパツプ剤の製造法では耳部をつけるために基布とパツプ膏体の積層したものをより大きな剥離紙にはり替えた後に切断したりして工程上繁雑な操作を必要としていた。このような方法では剥離紙の1辺若しくは2辺にのみ耳部のあるものしか製造することができなかつた。」(1頁下から3行?2頁末行)

(ウ)「かかる現状において本考案者らは鋭意研究した結果、特定の成分を含有する膏体成分、伸縮性基布及び剥離紙からなるパツプ剤を製造した後、適当な時間放置すれば、膏体成分及び基布のみが適当なすべり性のある剥離フイルム上で幾分収縮し、剥離紙の四辺に耳部を持つたパツプ剤が得られることを見出し本考案を完成した。
即ち本考案は基布とゼラチン系パツプ膏体層と剥離紙とよりなり、パツプ膏体層と基布とは同一の大きさであるが剥離紙より小さく、剥離紙の四辺に耳部を持つことを特徴とするパツプ剤に係わるものである。」(3頁10行?4頁1行)

(エ)「本考案のゼラチン系パツプ膏体層に使用される膏体成分は、好ましくはポリアクリル酸塩とゴムラテツクスを含有するものである。ここで使用されるポリアクリル酸塩としては、平均分子量が10万?1000万、好ましくは100万?1000万のポリアクリル酸のナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩が用いられるが、アルカリ金属塩、特にナトリウム塩が好ましい。その膏体組成物中の配合量は0.1?20重量%、特に2?10重量%が適当である。ポリアクリル酸塩には直鎖型、架橋型のいずれも使用できるが、直鎖型のものの方が本発明においては好適である。」(4頁2?15行)

(オ)「本考案で使用されるゴムラテツクスには合成ゴムラテツクス及び天然ゴムラテツクスがあり、合成ゴムラテツクスにはアクリル酸エステル系ラテツクス及び酢ビ-エチレン系ラテツクスがあり、アクリル酸エステル系ラテツクスには、(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシルエステル等のエステル類を乳化重合又は重合後に乳化して得られるものが好ましく使用され、通常は固形分30?60重量%であり、スチレン、アクリロニトリル等をわずかに含む共重合体であつても良い。……。酢ビ-エチレン系ラテツクスにはこれらの他にその本質を変えない範囲で他のモノマーを共重合させたものでも良い。更に他の合成ゴムラテツクスとしてはイソプレン樹脂ラテツクス等がある。ゴムラテツクスのパツプ膏体中配合量は1?50重量%、好ましくは3?30重量%が適当である。パップ膏体中には通常、この他にゼラチン約2?25重量%、カオリン、ペントナイト、酸化チタン(TiO_(2))、炭酸カルシウム(CaCO_(3))、酸化亜鉛(ZnO)等の無機物粉末5?50重量%、グリセリン、ソルビトール、プロピレングリコール等の湿潤剤を10?50重量%、メントール、チモール、ハツカ油、カンフル、サリチル酸、サリチル酸メチル等の薬剤を0.1?10重量部配合する。」(4頁下から5行?6頁7行)

(カ)「実施例
ゼラチン10部(重量基準、以下同じ)に水30部を加え、70℃に温めてゼラチンを溶解させる。これに酸化チタン(TiO_(2))7部、グリセリン15部、ソルビトール15部を加えて攪拌する。強攪拌下にポリアクリル酸ソーダ(平均分子量420万、直鎖型)5部、カルボキシメチルセルロースNa5部を加える。別にアクリル酸エステル系ゴムラテツクス(ニカゾールTS-444、日本カーバイド社製)10部に薬物(l-メントール、サリチル酸メチル、d-カンフルの4:4:2の混合物)3部を加えて乳化したものを前記の組成物に添加、攪拌し、パツプ膏体組成物を得る。」(9頁下から6行?10頁8行)

イ.本願の出願前に頒布されたことが明らかな刊行物2には、以下の記載がある。
(ア)「【産業上の利用分野】本発明は、貼付剤に関する。更に詳しくは、高齢者でも簡単に手を汚すことなく、また貼付剤にシワがよったりすることなくきれいに患部に貼着することができる利便性に優れた貼付剤に関するものである。
【従来の技術】近年、高齢化社会が進むと共に、事務の合理化で各種コンピュータが利用されその結果、腰や肩、膝、肘等に痛みを訴える人が増加する傾向にあり、その対症療法として湿布剤や硬膏剤等の貼付剤が広く利用されている。以下に従来の貼付剤について、図面を参照しながら説明する。図11は従来の貼付剤を示す斜視図である。図11において、11は従来の貼付剤、12は白色や肌色の不織布等からなる支持体、13は支持体12の一面の略全面に展着された薬物等が含有された膏体、14は膏体13の全面に貼着された極めて薄い柔軟性を有する透明な合成樹脂フィルム等からなる剥離シートである。以上のように構成された従来の貼付剤について、以下その使用方法を説明する。まず、支持体12の隅部を何度も爪で探って膏体13と剥離シート14とが剥がれやすいようにした後、剥離シート14を爪で剥ぎ、次いで、支持体12がよじれてシップ膏体同士が絡みつかないように注意しながら剥離シート14を剥離した後、支持体12を持って患部に貼付して用いられていた。
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の構成では、以下のような問題点を有していた。すなわち、
(1)貼付剤が、支持体の一面の略全面に膏体を展着した後、この膏体の上面に剥離シートを貼着して得られた原反シートを角形状等に裁断して形成されるため、支持体や膏体,剥離シートの外周断面が、同一面化されているので、剥離シートを外側縁から剥がす際、剥がし始める手掛かりがなく、爪先を剥離シートの先端にかけてもうまく掛からず、剥離作業が困難で使用し難いという問題点を有していた。また、膏体には、皮膚等への増粘作用を付与するために増粘剤が含有されているため、膏体の粘着性が極めて強く、剥離し難いという問題点を有していた。更に、湿布剤や硬膏剤等の貼付剤の殆どが、例えば、白色の支持体並びにこの支持体上に貼着された白色又は白色透明の膏体の表面に、極めて薄くて柔軟な剥離シートで覆っているため、剥離シートと膏体の区別がつき難く剥離位置が不明確なため、剥離シートが摘み難いという問題点を有していた。このため、患者がいざ患部に貼ろうとしても、剥離シートが剥ぎ取り難く剥離シートを剥ぎ取ることにいたずらに時間を浪費し、イライラすることも多く、剥離作業が困難で、使用上大変不便であるという問題点を有していた。特に、高齢者にとっては、指先が器用ではなく、しかも視力等も低下していることから、薄肉透明の剥離シートが膏体と同色化しかつ密着しているため、剥離が困難で膏体から剥離シートを剥ぎ取ることは大きな負担を強いるという問題点を有していた。また、剥離シートも支持体も共に柔軟なため支持体がよじれて膏体同士が絡み付き使用できないという問題点も有していた。
(2)これらの問題点を解決するために、例えば<1>(注:原文は○の中に数字が記載されたものである。以下同様である。)剥離シートに切断部や切れ目部を設け、この切断部や切れ目部より剥離を行うようにしたもの(実公平5-42811号公報)や、<2>膏体より大面積の剥離シートを用いたもの、<3>2枚の剥離シートを膏体の略中央部分で重ね合わせ、この膏体に接触しない重ね合わせ部分より剥離を行うようにしたもの等が提案されている。しかしながら、上記<1>の剥離シートに切断部が設けられたものは、使用時以外に、剥離シートがこの切断部からめくれてしまい、このめくれた部分から膏体に含有された薬効成分が揮発してしまい、薬効効果が得られないという問題点を有していた。また、剥離シートに切れ目部が設けられたものでは、剥離シートの材質や切れ目部の間隔によっては剥離シートをきれいに分断することが困難という問題点を有していた。上記<2>の剥離シートが膏体よりも大きな面積で形成されている場合は、大面積の剥離シートを必要とするため、コストが高くなり、また、この貼付剤を製造する場合、原反シートを裁断した後、更に貼付剤の外縁部の支持体や膏体を切除する作業が必要で、作業性に欠けるとともにその分生産性に劣るという問題点を有していた。上記<3>の2枚の剥離シートを膏体の略中央部分で重ね合わせた場合は、多大の生産工数を要すと共に作業性に欠け製品得率を下げ生産性に欠けるという問題点を有していた。
(3)更に、貼付剤に使用される剥離シートは、通常凹凸等がなく形成されているものが多く、剥離シートを摘んだときすべり易く、剥離がし難いという問題点を有していた。また、貼付剤の製造時に、膏体上に剥離シートを貼着しようとしてもすべってうまく貼着できず、また裁断しようとしても裁断機に巻き込まれ、膏体上からずれ易く、製品得率が低いという問題点を有していた。更に、膏体やこの膏体と剥離シートの間に気泡を生じ易く、歩溜まりが低下するという問題点を有していた。
本発明は上記従来の問題点を解決するもので、貼付剤を左右に引張ったりこすったりするだけで剥離シートを簡単に分断でき、剥離シートのめくれた部分を患部に貼着するだけで、高齢者でも簡単に手を汚すことなく、かつシワがよったりすることなくきれいに貼着することができる低原価で量産性に適した貼付剤を提供することを目的とする。」(段落0001?0004)

(イ)「膏体は、基材に薬物を含有または付着等させることにより、外用の貼付剤として有効に利用させるものである。膏体は、皮膚への薬効効果が十分得られるように水分を含有し、かつ粘着性を有し、常温又はそれ以上の温度においても軟化し膏体が皮膚に残らない適度な凝集性を有するように形成される。
増粘剤としては、水分を30%?80%安定に保持でき、かつ保水性を有することが望ましい。この具体例としては、グァーガム,ローカストビーンガム,カラギーナン,アルギン酸,アルギン酸ナトリウム,寒天,アラビアガム,トラガカントガム,カラヤガム,ペクチン,澱粉等の植物系,ザンサンガム,アカシアガム等の微生物系,ゼラチン,コラーゲン等の動物系等の天然高分子,メチルセルロース,エチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース系,可溶性デンプン,カルボキシメチルデンプン,ジアルデヒドデンプン等のデンプン系等の半合成高分子,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリビニルメタクリレート等のビニル系,ポリアクリル酸,ポリアクリル酸ナトリウム等のアクリル系,その他ポリエチレンオキサイド,メチルビニルエーテル/無水マイレン酸共重合体等の合成高分子等の水溶性高分子等が好適に用いられる。特に、ポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。ゲル強度が強く、かつ保水性に優れるからである。更に、平均重合度20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。平均重合度が20000より小さくなるにつれ増粘効果が乏しくなり十分なゲル強度が得られなくなる傾向が現れだし、平均重合度が70000より大きくなるにつれ増粘効果が強すぎ作業性が低下する傾向が現れだし、いずれも好ましくない。また、前記水溶性高分子を2種類以上併用することにより、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムの強イオン高分子と高分子コンプレックスを形成し、より一層ゲル強度の大きい弾性ゲルを得ることができる。
湿潤剤として、グリセリン,プロピレングリコール,ソルビトール等の多価アルコール等や、充填剤として、カオリン,酸化亜鉛,タルク,チタン,ベントナイト,珪酸アルミニウム,酸化チタン,酸化亜鉛,メタ珪酸アルミニウム,硫酸カルシウム,リン酸カルシウム等を添加してもい。また、溶解補助剤または吸収促進剤として、炭酸プロピレン,クロタミトン,l-メントール,ハッカ油,リモネン,ジイソプロピルアジペート等や、薬効補助剤として、サリチル酸メチル,サリチル酸グリコール,l-メントール,チモール,ハッカ油,ノニル酸ワニリルアミド,トウガラシエキス等を添加してもよい。更に、必要に応じて、安定化剤や抗酸化剤、乳化剤等を添加してもよい。」(段落0007?0009)

(ウ)「薬物としては、サリチル酸メチル,サリチル酸グリコール,l-メントール,トウガラシエキス,ノニル酸ワニリルアミド,ハッカ油,ジクロフェナック,イブプロフェン,インドメタシン,ケトプロフェン,ロキソプロフェン,スリンダク,トルメチン,ロベンザリット,ペニシラミン,フェンプフェン,フルルビプロフェン,ナプロキセン,プラノプロフェン,チアプロフェン,スプロフェン,フェルビナク,ケトロラク,オキサプロジン,エトドラク,ザルトプロフィン,テニダップ,ピロキシカム,ペンタゾシン,塩酸ブプレノルフィン,酒石酸ブトルファノール等およびそのエステル誘導体または塩より選ばれた少なくとも1種の非ステロイド系抗炎症薬や、プレドニゾロン,デキサメタゾン,ヒドロコルチゾン,ベタメタゾン,フルオシニド,フルオシノロンアセトニド,吉草酸酢酸プレドニゾロン,ジプロピオン酸デキサメタゾン,吉草酸ジフルコルトロン,ジフルプレドナート,吉草酸ベタメタゾン,酪酸ヒドロコルチゾン,酪酸クロベタゾン,酪酸ベタメタゾン,プロピオン酸クロベタゾン,コハク酸デキサメタゾン,プレドニゾロン21-(2E,6E)ファルネシート,吉草酸ヒドロコルチゾン,酢酸ジフロラゾン,プロピオン酸デキサメタゾン,ジプロピオン酸ベタメタゾン,アムシノド,吉草酸デキサメタゾン,ハルシノニド,ブテソニド,プロピオン酸アルクロメタゾン等のステロイド系抗炎症薬等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬物は、必要に応じて2種類以上併用することも可能である。また、これらの薬物は必要に応じてエステル体に誘導された化合物,アミド体に誘導された化合物,アセタール体に誘導された化合物,あるいは医学的に許容される無機塩,有機塩の形態でもって膏体に含有または付着されてもよい。薬物の量は、患者に適用した際にあらかじめ設定された有効量を患部に適用できるように、貼付剤の種類,用途等に応じて適宜選択される。」(段落0013)

(2)刊行物1に記載の発明
摘示ア(ア)?(カ)の記載及び第1図?第3図(摘示せず)から、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。、
「基布とポリアクリル酸塩を含有するゼラチン系パップ膏体層と剥離紙とよりなり、パップ膏体層と基布とは同一の大きさであるが剥離紙より小さく、剥離紙の四辺に耳部を持つことを特徴とするパップ剤」

(3)対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「基布」は、摘示ア(ア)及び(ウ)から、皮膚を通して薬物を投与するものであって、本願発明の「支持体」に相当し、引用発明の「パップ膏体層」は、経皮薬物送達と同様の作用をするものであるから(摘示ア(イ)、(エ)及び(カ))、本願発明の「膏体」に相当し、引用発明の「剥離紙」は、摘示ア(ア)?(ウ)から、本願発明の「剥離フイルム」に相当するものであり(本願明細書段落0014参照)、引用発明の「パップ剤」は、本願発明の「外用貼付剤」に相当するものであることは自明である。さらに、引用発明においても、パップ膏体層は基布と同一の大きさであることから、膏体は基布の一面の略全面に展着されているものである。
したがって、両者は、
「支持体と該支持体の一面の略全面に展着された膏体と、前記膏体に貼着される膏体面より大きな剥離フィルムを備え、前記膏体がポリアクリル酸系化合物を配合したものであることを特徴とする外用貼付剤」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:
膏体について、本願発明が「粘着性を有する含水性の膏体」としているのに対し、引用発明では「ゼラチン系パップ膏体」としている点

相違点2:
膏体に貼着される膏体面より大きな剥離フィルムについて、本願発明が「前記膏体面の全辺において突出する膏体面への非貼着部を有し」としているのに対し、引用発明においては、剥離フィルムの「四辺に耳部を持つ」としている点

相違点3
ポリアクリル酸系化合物を配合した膏体について、本願発明が「膏体が平均重合度20,000?70,000のポリアクリル酸」としているのに対し、引用発明においては、ポリアクリル酸塩を含有するゼラチン系パップ膏体層ではあるが、ポリアクリル酸塩の平均重合度について格別明記していない点

これらの相違点について検討する。
ア.相違点1について
刊行物1には、パップ剤は、ゲル化剤、粉末基剤と湿潤剤及び水から成るゲル状物に薬物を練合したパップ剤組成物を布片上に均一に展延したものであることが記載され(摘示ア(イ))、実施例においても水を加えてパップ膏体組成物としたことが記載されており(摘示ア(カ))、引用発明の膏体も粘着性を有する含水性の膏体といえる。このことは、引用発明がパップ剤であることからも自明である。
なお、本願発明においても、膏体を構成する基剤に含有される増粘剤として、ゼラチンを配合できることが記載されている(本願明細書段落0027参照)。
したがって、相違点1の点で、両者は実質的に相違しない。

イ.相違点2について
刊行物1には、パップ剤の剥離紙(本願発明の剥離フイルム)を剥がす際に耳部があるかないかで剥離のしやすさが全く異なることが記載され(摘示ア(イ))、剥離紙(剥離フイルム)の四辺に耳部を有するものが記載されている(摘示ア(ア)及び(ウ))。そして、膏体成分及び基布のみが適当なすべり性のある剥離フイルム上で幾分収縮し、剥離紙の四辺に耳部を持ったパップ剤が得られる、と記載されており、剥離紙の四辺の耳部は、膏体成分及び基布のみが剥離フイルム上で幾分収縮することにより形成されるものであるから、剥離紙の四辺の耳部は膏体成分が存在しない部分、つまり、膏体面への非着部を有する部分が存在しているといえる(第2図及び第3図参照)。しかも、刊行物1には、従来技術として、耳部を付けるために基布とパップ膏体の積層したものをより大きな剥離紙にはり替えた後に切断して製造することも記載され(摘示ア(イ))、この場合は、剥離紙の耳部には膏体成分が存在しないから、膏体面への非着部を有する部分が存在する貼付剤についても記載されている。
すなわち、引用発明における「四辺に耳部をもつ」とは、本願発明の「膏体面の全辺において突出する膏体面への非貼着部を有し」と同義であり、したがって、相違点2の点で両者は相違しない。

ウ.相違点3について
刊行物1には、ゼラチン系パップ膏体層に使用される膏体成分として、好ましくはポリアクリル酸塩とゴムラテックスを含有するものであると記載され(摘示ア(エ))、ゴムラテックスのパップ膏体中配合量は1?50重量%であること(摘示ア(オ))、さらに、ゼラチン、無機物粉末、湿潤剤、薬剤を含有することも記載(摘示ア(オ))されている。
そして、ポリアクリル酸塩としては、平均分子量が10万?1000万であること、好ましい範囲として100万?1000万が記載されており、これは平均重合度に換算すると、およそ10640?106400に相当するものである(アクリル酸ナトリウムの分子量を94とする。)。
また、刊行物2には、貼付剤の増粘剤として、水分を30%?80%安定に保持でき、かつ保水性を有することが望ましいものとして、特にポリアクリル酸ナトリウムが好ましいこと、さらに、平均重合度20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムが好ましいこと、平均重合度が20000より小さくなるにつれ増粘効果が乏しくなり十分なゲル強度が得られなくなる傾向が現れだし、平均重合度が70000より大きくなるにつれ増粘効果が強すぎ作業性が低下する傾向が現れだし、いずれも好ましくないことが記載され(摘示イ(イ))、さらに、貼付剤に、湿潤剤、充填剤、溶解補助剤、吸収促進剤を添加してもよいことや(段落0009)、薬剤を配合することも記載(段落0013)されている。
一方、本願発明においても、膏体を構成する基剤に増粘剤、湿潤剤、充填剤、溶解補助剤または吸収促進剤や薬物を配合することができること(段落0027?0029、0037?0040)が記載されている。
そして、湿潤剤、充填剤、溶解補助剤、吸収促進剤、薬剤等が必要に応じて配合されている膏体において、膏体を構成する膏体成分としてポリアクリル酸ナトリウムを採用する場合には、平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムを採用すれば、各種の成分を含有していても貼付剤としてのポリアクリル酸ナトリウムの効果を十分に得ることができるであろうことは、刊行物2の記載の事項から容易に予測し得ることである。
そうすると、刊行物2記載の膏体に係るポリアクリル酸ナトリウムの平均重合度の選択範囲について記載されている事項を勘案すれば、刊行物1に記載の各種の成分を含有するポリアクリル酸ナトリウムが採用されている貼付剤の膏体として、平均分子量が10万?1000万であるポリアクリル酸ナトリウムにおいて、特に、重合度が重複する範囲である平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムを採用してみることは、格別のことということはできない。
したがって、刊行物1に記載の膏体において、ポリアクリル酸ナトリウムとして平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムを採用したことに格別の創意工夫を要したものということはできない。

エ.効果について
本願明細書の段落0044?0048の記載をみても、その効果は引用発明のものから想定できる範囲のものと認められ、本願発明が奏する効果が格別予想外のものということはできない。

(4)むすび
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1及び2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4.請求人の主張について
(1)主張の内容
請求人は、審判請求書において、次のように主張している。
ア.「確かに、引用文献1には、「パップ膏体層と基布とは同一の大きさであるが剥離紙より小さく、剥離紙の四辺に耳部を持つことが記載されてはいる。
しかしながら、この耳部は、「剥離紙の1辺若しくは2辺にしか耳部がないものでは、他の辺は膏体の切断面がむき出しでさらされていることになり、保存中に圧力がかかるとはみ出して互いにあるいは内袋にくっつき取り出しにくくなる」点を改良するために、「特定の成分を含有する膏体成分、伸縮性基布及び剥離紙からなるパップ剤を製造した後、適当な時間放置すれば、膏体成分及び基布のみが適当なすべり性のある剥離フィルム上で幾分収縮し、剥離紙の四辺に耳部を持ったパップ剤が得られる」とするものであって、その耳部の目的は、膏体のはみ出し、その結果生じるパップ剤同士のくっつき防止である。
したがって、意図的に膏体面より大きな剥離フィルムを貼付するものではなく、収縮の結果耳部が形成されるのであり、その耳部の幅は、2?8mm程度であればよく、本願発明の摘み部として機能する10mm?15mmとは異なるものである。」(3(3-2)(A-1))

イ.「そのうえ、引用文献8に記載の発明においては、特にポリアクリル酸ナトリウムが好ましいとされ、更に平均重合度20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムが好ましいとされているが(明細書の段落番号[0008]における第4頁左欄第11?19行目)、これらの記載より推察されることは、引用文献8に記載の発明で規定する剥離シートと支持体を用いて引例発明の目的とする機能・効果を持たせるためには、膏体においても相応の特質が必要とされるものであって、ポリアクリル酸ナトリウムを用いる場合には、一定範囲の重合度のものを選択する必要があり、その重合度の範囲は引例発明においてのみ特異的であり、貼付剤に一般的に用いられる膏体として普遍的なものではない。」(3(3-2)(A-4))

ウ.「さらに、原審では、「平均重合度について記載する本願明細書0028をみても、本願発明に限って特別に考慮すべき特段の事情や、出願人が言うような「特質」は見いだせない。」と指摘しているが、本願明細書の段落番号[0028]においては、「そのなかでも、特にポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。このポリアクリル酸ナトリウムは、ゲル強度が強く、かつ保水性に優れるものである。なかでも、平均重合度20,000?70,000のポリアクリル酸ナトリウムが好ましい。平均重合度が20,000より小さくなるにつれ増粘効果が乏しくなり、十分なゲル強度を得ることができなくなり、また、平均重合度が70,000より大きいと増粘効果が強すぎ、作業性が低下する傾向が現れ、いずれも好ましくない。また、ポリアクリル酸ナトリウムには、前記した水溶性高分子を2種類以上併用すること、例えばポリアクリル酸ナトリウムの強イオン高分子と高分子コンプレックスを形成させ、より一層ゲル強度の大きい弾性ゲルを得ることができる。」と記載し、本願発明の貼付剤における膏体成分としての特定のポリアクリル酸ナトリウムの特性を記載している以上、原審の認定は、誤りであると思料する。」(3(3-2)(B-2))

(2)主張に対する見解
ア.主張アについて
本願発明は、請求項1に記載のとおり「膏体に貼着される膏体面より大きな剥離フイルムを備え、前記膏体面の任意の1辺又は2辺において突出する膏体面への非粘着部を有し」と特定されているのみであって、膏体面より大きな剥離フイルムをどの様にして膏体面の辺から突出させて非粘着物を有するものとするかについての方法までは特定がされていないし、耳部の幅の寸法についても特定されていない。
したがって、請求人の主張は請求項の特定事項とは直接関係がない。

イ.主張イについて
膏体を構成する貼付剤として、水分を30%?80%安定に保持でき、さらに、湿潤剤、充填剤、溶解補助剤、吸収促進剤、薬剤等が必要に応じて配合された膏体を構成する膏体成分としてポリアクリル酸ナトリウムを採用する場合には、ポリアクリル酸ナトリウムの平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムを採用することは、刊行物2に記載され、その範囲を外れた場合の問題点についても記載され、さらに、原審において引用された引用例9(特開昭60-60854号公報)においても、薬剤を含有する貼付剤において、ポリアクリル酸ナトリウムを採用する場合には、平均重合度が約10000ないし100000のものが使用でき、特に15000ないし約60000のものが好適であることが記載されている。
したがって、湿潤剤、充填剤、溶解補助剤、吸収促進剤、薬剤等が必要に応じて配合された膏体を構成する膏体成分として、平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムを採用することは、刊行物2に記載の発明において特異的なものということはできない。
なお、膏体成分として平均重合度が20000?70000のポリアクリル酸ナトリウムが採用できることは、上記した文献以外に、例えば、特開2001-335471号公報(段落0029)、特開2004-188218号公報(段落0008)にも記載されている。

ウ.主張ウについて
刊行物2には、平均重合度20,000?70,000のポリアクリル酸ナトリウムを採用するに当たり、「平均重合度が20,000より小さくなるにつれ増粘効果が乏しくなり十分なゲル強度が得られなくなる傾向が現れだし、平均重合度が70,000より大きくなるにつれ増粘効果が強すぎ作業性が低下する傾向が現れだし、いずれも好ましくない。」(摘示イ(イ))と記載され、貼付剤における膏体成分としてポリアクリル酸ナトリウムを採用した場合の特性について、本願明細書段落0028の記載と同様の記載がされている。

したがって、上記請求人の主張はいずれも採用しえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項2に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-03 
結審通知日 2015-08-05 
審決日 2015-08-18 
出願番号 特願2012-93542(P2012-93542)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 大熊 幸治
齊藤 光子
発明の名称 貼付剤  
代理人 草間 攻  

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