• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E04F
管理番号 1306145
審判番号 不服2014-25126  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-08 
確定日 2015-09-30 
事件の表示 特願2010-240451「壁施工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月21日出願公開、特開2011-140862〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年10月27日(優先権主張平成21年12月10日)の出願であって、平成25年12月 3日付けの拒絶理由通知に対し、平成26年 2月14日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年 9月 2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年12月 8日に本件審判が請求されたものである。


2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年 2月14日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであって、次のとおりのものである。

「壁下地ボードの表面に、石膏系の塗材である下塗材を塗布して下塗層を形成する下塗り工程と、
前記下塗材が未硬化の間に、表面を樹脂コーティングしたガラス繊維で製された複数の網状シートを、隣接する端縁同士を50mm以上の幅で重ね合わせて前記下塗り層の表面の全面に沿わせ、
前記網状シートの上から左官鏝でしごいて前記網状シートを前記下塗層の表層部に伏せ込んで埋設する網状シート埋設工程と、
前記下塗層が硬化した後で仕上材を塗布して仕上材層を形成する仕上げ工程とからなることを特徴とする壁施工方法。」


3 引用例
(1)刊行物1に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、特開平9-235852号公報(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(1-a)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、漆喰壁の施工方法に関する。」

(1-b)「【0006】各構成について、より具体的に説明する。
〔壁下地面〕壁下地面は、通常の建築施工に用いられる壁下地面の材料および構造が適用できる。本発明は、石膏ボード等の無機質ボード張りの壁下地面に適用したときに優れた作用効果が発揮できる。無機質ボードとして、木毛セメント板や木片セメント板も用いられる。壁下地面として、コンクリート、レンガ、モルタル、土壁、ケイ酸カルシウム板、スレート板、竹組み格子面なども用いられる。
【0007】壁下地面として、矩形などの定寸に裁断された無機質ボードを貼設すると、無機質ボード間には継目すなわち目地が生じる。無機質ボードの目地間隔が数mm程度になる場合もある。この目地間隔には、壁下地面の変形や膨張収縮を吸収する機能がある。
壁下地面には、シーラー処理を施しておくことができる。具体的な処理材料および方法は、通常の建築施工の場合と同様でよい。シーラー処理により、防水性を高めたり、表面に施工される緩衝下地層あるいは漆喰仕上げ層との接合性を高めたりすることができる。
〔緩衝下地層〕緩衝下地層には、壁下地面と漆喰仕上げ層との何れにも接合性の良い材料が用いられる。具体的には、壁下地面に塗工される無機質下塗り層を用いることができる。無機質下塗り層には、漆喰壁のような外観性や調湿機能、結露防止機能はそれほど要求されない。無機質下塗り層として、石膏プラスター、セメントモルタル、砂しっくい等の材料が用いられる。同じ材料もしくは異なる材料からなる複数の下塗り層を塗り重ねることもできる。下塗り層として、繊維質材料を含む有機質下塗り層を用いることもできる。
【0008】緩衝下地層を施工してから漆喰仕上げ層を施工することで、漆喰仕上げ層の膨張収縮による壁下地面との剥がれやヒビ割れ等の発生を防止できる。これは、漆喰仕上げ層は吸放湿性が高く、環境変化に伴う吸放湿によって膨張収縮を繰り返し、このような膨張収縮の少ない壁下地面との間で発生する応力で漆喰仕上げ層に剥がれやヒビ割れが生じ易くなる。緩衝下地層が介在していれば、漆喰仕上げ層と壁下地面との膨張収縮の違いを緩衝吸収することができるのである。
【0009】下塗り層に補強材を埋め込んでおくことができる。補強材としては、メタルラス、ワイヤラス、ラスシートなどの金属系補強材、あるいは、寒冷紗、ガラス繊維、ビニロンネットなどの繊維系補強材を用いることができる。補強材は、下塗り層を塗り重ねる際に中間に埋め込んでおいてもよいし、繊維状の補強材を下塗り層の材料に予め混合しておいてもよい。補強材を用いることで、下塗り層の構造強度を高めることができ、漆喰仕上げ層と壁下地面との膨張収縮の違いを良好に吸収して強固な接合を実現できる。」

(1-c)「【0021】
【発明の実施の形態】図1に示す漆喰壁は、定寸の石膏ボード10、10を互いの間に隙間をあけて貼設してなる壁下地面を有する。石膏ボード10、10の間には目地隙間12があいている。石膏ボード10、10の表面には、目地隙間12を塞いで、寒冷紗からなる帯状の目地処理シート22が接合されている。目地処理シート22を除く石膏ボード10、10の表面にはシーラー処理層23が施されている。そして、目地処理シート22およびシーラー処理層23を覆って、漆喰仕上げ層30が施工されている。
【0022】上記のような漆喰壁の施工のうち、石膏ボード10、10、目地処理シート22およびシーラー処理層23の施工は、通常の建築施工の場合と同様である。
漆喰仕上げ層30の施工は、漆喰、合成ゼオライト、水および必要に応じてその他の材料を、同時もしくは適宜順番で混合して漆喰スラリーを製造する。混合は手作業あるいは混合機を用いる。得られた漆喰スラリーを施工面にコテ等の工具を用いて適宜厚みで塗工する。その後、塗工された漆喰スラリーが乾燥するまで放置しておけば、漆喰仕上げ層30が形成される。漆喰仕上げ層30の表面には、必要に応じて磨きをかけるなどの仕上げ加工を施す。
〔別の実施形態1〕図2に示す漆喰壁の構造は、前記実施形態と一部の構成が異なる。石膏ボード10、10の目地隙間12を塞いで、石膏ボード10、10の表面にグラフファイバーテープからなる目地処理シート22が配置されている。目地処理シート22を覆ってフィラー処理層24が配置されている。フィラー処理層24を覆って、石膏ボード10、10の全体に石膏プラスターからなる下塗り層40が塗工されている。下塗り層40の表面には前記同様の漆喰仕上げ層30が塗工されている。
【0023】この実施形態では、目地処理シート22の上にフィラー処理層24が施工されているので、目地を塞ぐ処理がより確実に行われる。
〔別の実施形態2〕図3に示す漆喰壁は、石膏ボード10、10からなる壁下地面に、ラスボード増貼り層26が施工されている。ラスボード増貼り層26の上には石膏プラスターからなる下塗り層40が塗工され、下塗り層40の上には漆喰仕上げ層30が塗工されている。
【0024】この実施形態では、ラスボード増貼り層26が目地隙間12を含む石膏ボード10、10の全面に配置されているので、目地隙間12がより確実に塞がれる。ラスボード増貼り層26は、石膏ボード10に比べて薄く多数の孔を有するので、変形性があって上層の下塗り層40や漆喰仕上げ層30の膨張収縮変形を吸収することができる。また、ラスボード増貼り層26の孔に下塗り層40が入り込んで強力に接合される。」

上記の事項を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「刊行物1発明」という。)。
「石膏ボード10、10の全体に石膏プラスターからなる下塗り層40が塗工され、下塗り層40の表面には漆喰仕上げ層30が塗工される壁施工方法において、下塗り層の構造強度を高めるため、下塗り層40を塗り重ねる際に、中間に、ビニロンネットの繊維系補強材を埋め込んでおく壁施工方法。」


4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比する。

(1)刊行物1発明の「石膏ボード10」は、本願発明の「壁下地ボード」に相当し、
以下同様に、
「石膏プラスター」は、「石膏系の塗材である下塗材」に、
「下塗り層40」は、「下塗層」(下塗り層)に、
「漆喰仕上げ層30」は、「仕上材層」に、
「壁施工方法」は、「壁施工方法」に相当する。

(2)刊行物1発明のおける「塗工(される)」、及び、「埋め込」むは、それぞれ、本願発明における「塗布(して)」、及び、「埋設する」と同義である。

(3)刊行物1発明の「下塗り層40が塗工され」(る「壁施工方法」)は、本願発明の「下塗層を形成する下塗り工程」に相当する。

(4)刊行物1発明の「下塗り層40を塗り重ねる際に、中間に、ビニロンネットの繊維系補強材を埋め込んでおく壁施工方法」と、本願発明の「前記下塗材が未硬化の間に、表面を樹脂コーティングしたガラス繊維で製された複数の網状シートを、隣接する端縁同士を50mm以上の幅で重ね合わせて前記下塗り層の表面の全面に沿わせ、前記網状シートの上から左官鏝でしごいて前記網状シートを前記下塗層の表層部に伏せ込んで埋設する網状シート埋設工程」とは、「網状シートを下塗層に埋設する網状シート埋設工程」で共通する。

(5)刊行物1発明の「下塗り層40の表面」に「漆喰仕上げ層30が塗工される(壁施工方法)」は、本願発明の「仕上材を塗布して仕上材層を形成する仕上げ工程」に相当する。

(6)したがって、本願発明と刊行物1発明とは、
「壁下地ボードの表面に、石膏系の塗材である下塗材を塗布して下塗層を形成する下塗り工程と、
網状シートを下塗層に埋設する網状シート埋設工程と、
仕上材を塗布して仕上材層を形成する仕上げ工程とからなる壁施工方法。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:
網状シートの材料に関して、
本願発明は、「表面を樹脂コーティングしたガラス繊維で製されて」いるのに対し、刊行物1発明は「ビニロンネットの繊維系補強材」である点。

相違点2:
網状シートの埋設に関して、
本願発明は、「下塗材が未硬化の間に」、「複数の網状シート」を、「隣接する端縁同士を50mm以上の幅で重ね合わせて前記下塗り層の表面の全面に沿わせ、前記網状シートの上から左官鏝でしごいて前記網状シートを前記下塗層の表層部に伏せ込んで埋設する」のに対し、刊行物1発明ではそのような特定はない点。

相違点3:
仕上材を塗布するタイミングに関して、
本願発明は、「下塗層が硬化した後」であるのに対し、刊行物1発明ではそのような特定はない点。


5 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
ア 補強材として、樹脂コーティングしたガラス繊維を用いることは、周知の技術である(以下「周知技術1」という。)。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、特開2003-253842号公報には、「本発明の補強繊維シートは、織物、編織物、不織布、網状物、ハニカム状物から選ばれたシートが使用可能であるが、特にメッシュ状の織物、チョップドストランドマット、コンティニアスストランドマット等の不織布からなると、安価であり、セメントとの馴染みが良く、クラック防止効果も優れるため好ましい。」(【0013】)、「また、目止め加工のための樹脂としては、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ビニルエステル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂等が好適である。」(【0015】)、「住宅の外壁面に、まずモルタルセメントからなる下塗り部を形成し、その上に、重ねしろが50mmとなるように、両端の黒色に着色したガラスストランドからなるたて糸3のマークを重ねてガラス繊維織物10を配置し、さらに、モルタルセメントからなる上塗り部を形成し、30日間自然乾燥させ、住宅の外壁面を形成し、クラックの発生の有無を確認した。」(【0026】)と記載されている。
特開2007-205057号公報には、「また、よりモルタル壁の脱落とひび割れを防止する上で、全壁面を対象にSBR系ポリマーセメントモルタルを厚さ2mm程度に塗り付けながら、順次ガラスネットを当接し、その上から鏝で押圧し、塗着面下にネットを埋入させ硬化させる。このガラスネットを埋入したガラスネット層9を最外部に施工することでひび割れ防止、防水性、最終仕上に必要な下地が出来上がるという優れた効果を発揮する。」(【0011】)、「しかし、本願発明で使用するガラス繊維製ネットは、高分子樹脂の結束剤でコーティングされ、且つネットを貼り付けるSBR系ポリマーセメントモルタルでは一切劣化が生じないことが検証されている。従って、長期に亘ってラスモルタルの表層がGRC板を取り付けたように剛性が付加される。」(【0012】)と記載されている。

イ そして、上記3(1)(1-b)の「補強材としては・・・ガラス繊維、ビニロンネットなどの繊維系補強材を用いることができる。」という記載事項から、刊行物1発明に上記アの周知技術1を採用して、繊維系補強材の材料を樹脂コーティングしたガラス繊維とし、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が容易になし得たことである。

(2)相違点2について
ア 塗材が硬化する前に、メッシュを鏝によって伏せ込むことで材料中にメッシュを埋設することは、周知の技術である(以下「周知技術2」という。)。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献7として引用された、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)平成19年版」公共建築協会 平成19年 3月 6日発行 第208頁には、
「15章 左官工事」、
「この章は,建築物の内外部等に施工するモルタル塗り,床コンクリート直均し仕上げ,セルフレベリング材塗り,仕上げ塗材仕上げ,せっこうプラスター塗り及びロックウール伏付けを行う工事に適用する。」(15.1.1)、
「せっこうラスボード類の継目等,ひび割れのおそれのある箇所には,モルタル塗りの場合は,メタルラス張り等を行う。また,プラスター塗りの場合は,しゅろ毛,パーム,ガラス繊維ネット等を伏せ込む。」 (15.1.5)と記載されており、左官工事であることから鏝を使用すること、及び、伏せ込むためにはプラスターが未硬化である必要があることは明らかである。
原査定の拒絶の理由に引用文献8として引用された、デラクリート セメントボードシステム 設計・施工マニュアル」MRCデラクリート株式会社 2009.3 第55-56頁には、
「3.スタンダードメッシュの伏せ込み
・コテをスタンダードメッシュの中心部から端側へ伸ばし、メッシュがシワにならないで、平滑に伏せ込まれるようにします。
・スタンダードメッシュの四方は少なくとも50mm重ねてください。
4.ベースコート上塗り
・下塗りのベースコートが硬化する前に1?2mm厚程度に上塗りします。」と記載されている。

イ 網状シートの端縁どうしを50mm以上の幅で重ね合わせて塗材に沿うように埋設することは、周知の技術である(以下「周知技術3」という。)。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、特開2003-253842号公報には、「通常、ガラス繊維織物は、幅が約1mの長尺の巻物であり、施工現場で、その外壁面の高さに応じた長さに切断され、また、その外壁面の幅に応じて、複数枚埋設される。この場合、ガラス繊維織物間に隙間が出来ないように、隣接するガラス繊維織物は、それらの幅方向の耳部で、50mm以上の重ねしろを設けて埋設される。」(【0004】)と記載されている。
原査定の拒絶の理由に引用文献8として引用された、デラクリート セメントボードシステム 設計・施工マニュアル」MRCデラクリート株式会社 2009.3 第55-56頁には、
「3.スタンダードメッシュの伏せ込み
・コテをスタンダードメッシュの中心部から端側へ伸ばし、メッシュがシワにならないで、平滑に伏せ込まれるようにします。
・スタンダードメッシュの四方は少なくとも50mm重ねてください。」と記載されている。

ウ 網状ネットを塗材の表層部に埋設することは、周知の技術である(以下「周知技術4」という。)。
例えば、原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された、特開2003-253842号公報には、「従来、住宅の外壁面を構成するセメント部の厚みが5mm以上ある場合には、その厚みに応じて1層以上のセメントを含む下塗り部を施した後、ガラス繊維織物を配置し、その上にセメントを含む上塗り部を施して、ガラス繊維織物を上塗り部の表面から1?5mmの位置に埋設することによって、クラックの発生を防止している。」(【0003】)と記載されている。
原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、特開2006-63649号公報には、「この施工具10を使用して、ガラス繊維製埋設材を伏せ込む作業を行う際の施工具10と未硬化コンクリートMとガラス繊維製埋設材Gとの位置関係を図2に示す。この図から判るように、回転押圧部1であるローラーによって未硬化コンクリートM上に載置されたガラス繊維製埋設材Gは下方への押圧力を加えられ、その結果ガラス繊維製埋設材Gは、コンクリートM中に浸漬された状態になっている。」(【0087】)と記載され、図2を参照すると、ガラス繊維製埋設材は未硬化コンクリートの表層部に位置している。
原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された、特公平8-30381号公報には、「第3図に示す如くポリマーセメントモルタル4の表面近くにネット8を埋入させる。」(第4欄第3?4行)と記載されている。

エ そうすると、刊行物1発明と周知技術2ないし4は、下塗り材に補強材を埋め込む技術で共通しているので、刊行物1発明において、下塗り層40に繊維系補強材を埋め込む方法として、周知技術2ないし4を寄せ集め、塗り層40が硬化する前に、繊維系補強材の端縁どうしを50mm以上の幅で重ね合わせて、下塗り層40の前面に沿わせ、繊維系補強材を鏝によって伏せ込み、下塗り層40の表層部に埋設することは、当業者が容易になし得たことである。またその際に、繊維系補強材を下塗り層40の全面に配置することは、補強したい箇所に応じて当業者が適宜設計し得たことである。
よって、刊行物1発明に周知技術2ないし4を適用して、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

(3)相違点3について
ア 下塗り層が硬化した後で仕上施工することは、周知の技術である(以下「周知技術5」という。)。
例えば、特開平10-102720号公報には、「構造部材に防水シートを貼り付けた後、メタルラスを取り付け、開口部の周りはメタルラスを張り補強した後、モルタルを塗着し、乾燥養生後、仕上げ施工がなされている。」(【0002】)と記載されている。
特開2001-65141号公報には、「下塗り材を塗り付けると共に、壁面の一部又は全体の表面或いは内部に網材を貼り、乾燥後セメント系、石こう系、しっくい系、繊維壁材等の仕上げ材を塗り付ける」(【請求項1】)と記載されている。
特開平1-312148号公報には、「この場合壁面仕上材の鏝塗りは、専用下塗材が完全乾燥した時点あるいは工程短縮のため半乾燥状態(塗布後3?4時間で表面水が引いた状態)になった時点で行う。」と記載されている

イ そうすると、刊行物1発明において、上記アの周知技術5を採用し、下塗り層40が硬化した後で仕上施工し、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得たことである。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は審判請求書において、「セメント・モルタルは硬化時の収縮性を有するゆえ各引用文献において網状シートを用いるのは、硬化時のセメント・モルタルの収縮による割れを防止するためである(引用文献2の段落0005(クラック防止)、引用文献3の2頁左欄17?18行「塗材の乾燥収縮に従って・・・クラック・・・が生じる。」、引用文献4の段落0002「セメント部が乾燥収縮することによって、その表面にクラックが発生しやすく、」、引用文献5の段落0004「水分が急激に乾燥することにより・・・モルタル層の亀裂を引きおこす」などの記載に根拠がある)。
これに対し、本願発明が施工対象とする壁下地ボードの石膏系の下塗層は硬化時にも収縮しないのであるから、引用文献が教示する割れ防止の目的で使用する必要は元来存しない。ゆえに、引用文献の示唆、教示は、本願発明において全く利用されていない。換言すれば、本発明における網状シートの利用は、本願発明が有する独自の課題の解決のため、独自の発想で用いるに至ったものである。」(第6頁第3?15行)と主張している。

イ しかしながら、上記3(1)(1-b)、(1-c)の記載事項によると、刊行物1には、石膏プラスターからなる下塗り層40の構造強度を高めるため、下塗り層40を塗り重ねる際に、繊維系補強材を埋め込むことが記載されている。

ウ そうすると、刊行物1発明は、石膏プラスターが硬化時に収縮しにくいものであったとしても、構造強度を高めるために繊維系補強材を埋め込む施工方法である点で本願発明と相違しない。
また、上記各周知技術が、石膏プラスターではない下塗り層が対象であったとしても、刊行物1発明とは、下塗り材に補強材を埋め込む技術で共通しているので、補強材を下塗り層40に埋め込む方法として、上記各周知技術を採用することに困難性はない。

エ したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(5)本願発明が奏する効果について
ア 上記相違点1ないし5によって本願発明が奏する効果は、当業者が刊行物1発明及び周知技術から予測し得る程度のものであって、格別のものではない。

イ 請求人は、審判請求書において、「この課題は、クラックの発生防止ではない。クラックの発生防止なら引用文献と同様の機能ということになるが、本発明ではボード継ぎ目付近のクラック発生は黙認したうえで、そのクラックが表層部へ伝達するのを防止している。この表層部への伝達さえ防止できれば、壁の表面をクラックのない状態に維持できるので、この点を発明の課題としているのである。」と主張している。

ウ しかしながら、上記3(1)(1-b)、(1-c)に記載されているように、刊行物1発明は、下塗り層40の強度や耐久性を向上させるという課題、効果を有するのであるから、本願発明と同様に、結局クラックが表層部へ伝達するのを防止する効果を有することになる。

エ したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(6)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

なお、請求人は、審理終結通知後の平成27年 7月10日に、電話にて、審判請求書の主張内容を説明するための面接の実施、審理の再開を要請している。
しかしながら、当合議体は審判請求書の主張内容を十分に理解しているため、面接による説明を受ける必要がないと判断した。
したがって、審理の再開は行わないものとする。


6 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が刊行物1発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-29 
結審通知日 2015-07-07 
審決日 2015-08-06 
出願番号 特願2010-240451(P2010-240451)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (E04F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南澤 弘明五十幡 直子門田 かづよ  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 門 良成
住田 秀弘
発明の名称 壁施工方法  
代理人 山内 康伸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ