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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B81C
管理番号 1306203
審判番号 不服2013-23872  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-04 
確定日 2015-10-06 
事件の表示 特願2007- 53118「マイクロ構造および/またはナノ構造の構造基板をコーティングするための装置および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月11日出願公開、特開2007-260895〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2007(平成19)年3月2日(パリ条約による優先権主張:2006(平成18)年3月28日;欧州特許庁 及び 2006(平成18)年3月28日;アメリカ合衆国)の特許出願であって、平成25年7月30日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成25年12月4日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲について補正がなされた。その後、平成27年1月29日付けで当審から拒絶の理由が通知され、平成27年4月27日に意見書とともに手続補正書が提出され、特許請求の範囲についてさらに補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、上記平成27年4月27日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。(以下請求項1に係る発明を「本願発明」という。)
「くぼみを有するマイクロ構造またはナノ構造の構造基板(8)をコーティングするための方法であって、
・構造基板(8)を真空チャンバ(3)に装填する段階であって、前記構造基板(8)は、前記真空チャンバ(3)内の運搬ユニット(9)に載置され、前記運搬ユニット(9)には真空グルーブ(10)が提供され、ここで、前記運搬ユニット(9)上の前記真空グルーブ(10)に真空を適用することにより、前記構造基板(8)は、前記運搬ユニット(9)の方に吸引される、段階と、
・前記真空チャンバ(3)を真空引きする段階と、
・前記真空チャンバ(3)が真空引きされる前、またはその間、またはその後に、前記構造基板(8)を回転させながら、前記真空チャンバ(3)にコーティング物質をアトマイズ形態でなく導入する段階と、
・前記コーティング物質が導入される間、またはその後に、前記真空チャンバ(3)内の圧力を高め、それによって前記コーティング物質が前記くぼみに搬入される段階と、
を有することを特徴とする、方法。」

第3 引用刊行物記載の発明
(1)刊行物に記載された事項
これに対して、当審での平成27年1月29日付けの拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平6-232038号公報(以下「刊行物1」という。)には「回転塗布装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。


「【請求項1】 半導体基板を窪みに入れ載置するテーブルと、このテーブルを回転させるスピンモータと、前記半導体記憶装置に塗布液を滴下するノズルと、前記半導体基板と前記テーブル及び前記ノズルの先端分を包む閉鎖空間をつ真空室と、この真空室を減圧する真空ポンプと、この真空ポンプと協働して前記真空室に導入されるガス圧を制御する排気調整弁とを備え、前記真空室のガス圧を小さくした状態で前記ノズルより塗布液を滴下し、前記テーブルを回転し滴下さた前記塗布液を前記半導体基板に引き伸ばし、しかる後前記真空室を大気に戻すことを特徴とする回転塗布装置。」(【特許請求の範囲】)

イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明の回転塗布装置に関し、特に半導体製造工程で微細パターン上に塗布膜を形成する回転塗布装置に関する。」

ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、半導体基板の塗布面は必ずしも一様でなく、予め形成れたパターンにより凹凸がある。このような凹凸がある場合には、その凹部の底まで塗布液が行届かず、しばしば気泡として残る。そして、この後の半導体基板加熱工程により残された気泡が膨らみ、塗布膜の剥れを起し、半導体基板上に形成されていたパターンがくずれてしまうという問題点があった。」

エ 「【0009】図1は本発明の一実施例の回転塗布装置の概略を示す図である。この回転塗布装置は、図1に示すように、半導体基板5を載置するテーブル6と、ノズル8の矢端部及びテーブル6を包む空間を形成する真空室2と、この真空室2を真空排気する真空ポンプ1と、真空室2に不活性ガスを導入する配管3と、真空室2の圧力を調節する排気調整弁4を備えている。」



「【0010】次に、この回転塗布装置の動作を説明する。まず、テーブル6に半導体基板5を乗せる。このときテーブル6は窪みがあるので、この窪みに半導体基板5が入り込むように載置する。次に、真空室2の入口を閉じ、真空ポンプ1で真空室2を真空排気する。次に、真空室2が所定の真空度に達っしたら、配管3から不活性ガスを導入する。そして、排気調整弁4の開度を調整して真空室2の不活性ガス圧を一定の減圧状態に保つ。次に、スピンモータ7によりテーブル6を回転させ、ノズル8より塗布液を半導体基板5に滴下する。
【0011】次に、塗布液が半導体基板5の面に一様に拡がった時点で、真空ポンプ1を停止し、排気調整弁4を閉じる。このことにより不活性ガスが送給し続け、真空室2を大気圧に戻す。テーブル6の回転を止め、真空室2の真空室2の入口から半導体基板5を取出す。」

カ 「【0016】
【発明の効果】以上説明したように本発明は、塗布すべき半導体基板を包み閉鎖空間をもつ真空室と、この真空室を減圧状態にする真空排気手段と、大気圧に戻すガス供給手段とを設け、前記閉鎖空間の雰囲気を減圧状態で塗布液を滴下して塗布し、しかる後に雰囲気を大気圧に戻すことにより、半導体基板の微細パターンの凹部まで塗布液が充分埋まり、塗布膜中に気泡が出来ず、塗布の後工程で半導体基板を加熱しても塗布膜が剥れないという効果がある。」

キ 上記記載事項オに「テーブル6に半導体基板5を乗せる。このときテーブル6は窪みがあるので、この窪みに半導体基板5が入り込むように載置する。」とあるところ、「テーブル6」は「テーブル6を包む空間を形成する真空室2」(上記記載事項エ)内にあるのだから、これは、半導体基板5を真空室2に装填する段階、ということができる。

(2)刊行物1発明
刊行物1の上記記載事項アないしカ及び認定事項キを整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「刊行物1発明」という。)
「凹部を有する半導体基板5に塗布膜を形成するための方法であって、
・半導体基板5を真空室2に装填する段階であって、前記半導体基板5は、前記真空室2内のテーブル6に載置され、ここで、前記テーブル6の窪みに半導体基板5が入り込むように載置する、段階と、
・前記真空室2を真空排気する段階と、
・前記真空室2が所定の真空度に達した後に、前記半導体基板5を回転させながら、前記真空室2の半導体基板5に塗布液を滴下する段階と、
・前記塗布液を滴下した後に、前記真空室2を大気圧に戻し、それによって前記塗布液が前記凹部まで充分埋まる段階と、
を有する、方法。」

第4 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
刊行物1発明の「凹部」は本願発明の「くぼみ」に相当することは、その機能及び技術常識に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能を踏まえれば、「塗布膜を形成する」は「コーティングする」に、「真空室2」は「真空チャンバ」に、「テーブル6」は「運搬ユニット」に、「真空排気する」は「真空引きする」に、「真空室2が所定の真空度に達した後」は「真空チャンバが真空引きされ」た「その後」に、「塗布液」は「コーティング物質」に、「塗布液を滴下した後」は「コーティング物質が導入され」た「その後」に、「前記真空室2を大気圧に戻し」は「前記真空チャンバ内の圧力を高め」に、「凹部まで充分埋まる」は「くぼみに搬入される」にそれぞれ相当することも明らかである。
また、刊行物1発明の「真空室2の半導体基板5に塗布液を滴下する段階」については、「滴下」される刊行物1発明の「塗布液」は噴霧(すなわちアトマイズ)形態ではないことを踏まえ、本願発明の「真空チャンバにコーティング物質をアトマイズ形態でなく導入する段階」に相当するといえる。
次に、刊行物1発明の「半導体基板5」は本願発明の「マイクロ構造またはナノ構造の構造基板(8)」と、「基板」である限りにおいて共通する。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「くぼみを有する基板をコーティングするための方法であって、
・基板を真空チャンバに装填する段階であって、前記基板は、前記真空チャンバ内の運搬ユニットに載置される段階と、
・前記真空チャンバを真空引きする段階と、
・前記真空チャンバが真空引きされたその後に、前記基板を回転させながら、前記真空チャンバにコーティング物質をアトマイズ形態でなく導入する段階と、
・前記コーティング物質が導入されたその後に、前記真空チャンバ内の圧力を高め、それによって前記コーティング物質が前記くぼみに搬入される段階と、
を有する、方法。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
<相違点1>
コーティング対象の基板として、本願発明においては、マイクロ構造またはナノ構造の構造基板であるのに対し、刊行物1発明においては、半導体基板である点。
<相違点2>
本願発明は、運搬ユニットには真空グルーブが提供され、ここで、運搬ユニット上の真空グルーブに真空を適用することにより、構造基板は運搬ユニットの方に吸引されるのに対し、
刊行物1発明は、テーブル6の窪みに半導体基板5が入り込むように載置するものである点。

第5 相違点の検討
1 <相違点1>について
刊行物1発明の基板は半導体基板であるところ、半導体基板は少なくともマイクロメートル単位で変化する構造を有するのが通常であるから、相違点1は実質的な差異ではないといえる。
仮に、相違点1が実質的な差異であるとしても、コーティング対象の基板としてのマイクロ構造基板は、原審の平成24年3月29日付け拒絶理由通知においても示された特開2004-174663号公報(段落【0001】、図9等参照)に記載されているように従来周知の技術事項であり、かかる従来周知の技術事項を刊行物1発明に適用して、コーティング対象の基板としてマイクロ構造基板とすることは、何ら困難なことではない。

2 <相違点2>について
一般に、固定すべき基板を、真空を適用した真空グルーブ(すなわち溝)によって吸引固定することは、いわゆる真空チャックの典型的な態様として、例えば、特開2005-539369号公報(段落【0040】、図2等参照)、特開2003-273048号公報(段落【0003】等参照)に示されるように、従来周知の技術事項である。
そして、刊行物1発明にかかる従来周知の技術事項を適用し、運搬ユニット(テーブル6)に溝を設けて真空グルーブとし該真空グルーブに真空を適用して吸引するように構成することは、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

3 小括
したがって、本願発明は、刊行物1発明及び従来周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び従来周知の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-01 
結審通知日 2015-05-11 
審決日 2015-05-22 
出願番号 特願2007-53118(P2007-53118)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B81C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 健晴間中 耕治  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 長屋 陽二郎
栗田 雅弘
発明の名称 マイクロ構造および/またはナノ構造の構造基板をコーティングするための装置および方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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