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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1306210
審判番号 不服2014-5223  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-19 
確定日 2015-10-05 
事件の表示 特願2010-504183「テトラフルオロプロペンとアルコールの共沸混合物様組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年10月30日国際公開、WO2008/130919、平成22年 7月22日国内公表、特表2010-525114〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2008年4月15日の国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張:2007年4月16日、米国)に出願されたものとみなされる国際特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成21年10月16日 国内書面(願書)提出
平成21年12月 8日 翻訳文提出書(明細書等)
平成23年 4月 8日 出願審査請求
同日 手続補正書
平成25年 1月28日付け 拒絶理由通知
平成25年 7月30日 意見書・手続補正書
平成25年11月19日付け 拒絶査定
平成26年 3月19日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成26年 4月10日付け 審査前置移管
平成26年 4月24日付け 前置報告書
平成26年 4月25日付け 審査前置解除

第2 原査定の拒絶理由の概要
原審においては、概略、下記のとおりの拒絶理由が通知され、当該拒絶理由により拒絶査定がなされた。
<拒絶理由通知>
「理 由

1 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
・・(中略)・・
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-10
・引用文献等 1,2,4,5
・請求項 1-3,6
・引用文献等 3
・備考 引用例1-5の各々には、「メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、イソブタノール、2-エチルヘキサノール」を選択しうるアルコールと、trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとを含む組成物を用いた組成物が記載されている。また、引用例1,2,4,5には発泡剤やエアゾール噴射剤、引用例3にはエアゾール噴射剤としての用途が記載されている。引用例5には共沸能についての明示はないが、本願発明や引用例1-4の各々に記載された発明と同様の構成を採用することに鑑みると、共沸能を有するものと解される。

引 用 文 献 等 一 覧
1.国際公開第2007/002703号
2.国際公開第2007/002625号
3.国際公開第2006/101882号
4.国際公開第2006/094303号
5.国際公開第2006/069362号
・・(後略)」
<拒絶査定>
「この出願については、平成25年1月28日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
・・(中略)・・
引用例1に記載された発明を実施するにおいて、特に好ましいフルオロアルケンは「trans HFO-1234ze」(11頁6-11行)であり、用いられるアルコールをエタノールとすることは請求項43に係る発明である。そもそも本願発明の背景技術として「azeotrope-like mixtures 」が望まれており(1頁21-23行)、本願発明は「azeotropic」、「azeotrope-like」の態様を採用しうるのであるから、「azeotropic」や「azeotrope-like」の態様を採用するのは普通のことである。そして、引用例1に記載された発明は、本願発明と同等のtrans-HFO-1234zeの存在比とするものである(13頁10-15行)。「azeotropic」や「azeotrope-like」の態様を採用すれば、本願発明と同等のtrans-HFO-1234zeとエタノールとの存在比となるものと解するのが相当である。してみると、本願発明と引用例1に記載された発明とは、依然として区別がつかない。」

第3 当審の判断
当審は、
上記原査定の理由と同一の理由により、依然として本願は拒絶すべきものである、
と判断する。以下詳述する。

I.本願発明
本願の請求項1ないし22に係る発明は、平成25年7月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項で特定されるとおりのものであり、特に請求項1に係る発明は次の記載事項により特定されるとおりのものである(以下、「本願発明」という)。

「99.83?83.37重量パーセントのtrans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよび0.17?16.63重量パーセントのエタノールからなる共沸混合物または共沸混合物様の組成物。」

II.引用例の記載事項
原査定で引用された本願優先日前(2007年1月4日発行)の刊行物である、国際公開第2007/002703号(以下、「引用例」という)には、以下の事項が記載されている。
(なお、記載事項の摘示については、上記国際出願のパテントファミリーである特表2008-518515号公報を翻訳文とし、同公報における記載箇所により記載事項を摘示する。)

(ア)
「【請求項1】
(a)式I:
XCF_(Z)R_(3-Z) (I)
[ここで、Xは、C_(1)、C_(2)、C_(3)、C_(4)又はC_(5)の不飽和の、置換された若しくは置換されていない基であり、それぞれのRは独立してCl、F、Br、I又はHであり、zは1から3であり、ただし、Brが化合物中に含まれる場合には、該化合物は水素を含まない]
で表わされる少なくとも1種のフルオロアルケン、及び
(b)共発泡剤、界面活性剤、高分子改質剤、強化剤、着色剤、染料、溶解促進剤、流動改善剤、可塑剤、難燃化剤、抗菌剤、粘度低下剤、充填剤、蒸気圧変化剤、核剤及び触媒並びにこれらのいずれかの2種又は3種以上の組合せから成る群より選ばれる少なくとも1種のアジュバント、
を含む発泡剤。」(原文36頁「CLAIM」の「1.」の欄)
(イ)
「【請求項3】
前記少なくとも1種のフルオロアルケンが、シスHFO-1234ze又はトランスHFO-1234ze又はこれらの組み合わせを含む、請求項1記載の発泡剤。」(原文36頁「CLAIM」の「3.」の欄)
(ウ)
「【0002】
発明の背景
フルオロカーボンベースの液体は、エアゾール噴射剤として及び発泡剤としての用途を含む、多くの商業及び産業の用途において広範に使用されることが見出されてきた。これまでこれらの用途に用いられてきたある種の組成物の使用に関連して、地球温暖化係数が比較的高いことを含む一定の考えられる環境問題により、ハイドロフルオロカーボン(HFC)のような、オゾン層破壊係数が低いか又はゼロの液体を使うことが、益々望ましくなった。従って、クロロフルオロカーボン(CFC)又はハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を実質的に含まない液体を使用することが望ましい。更に、いくつかのHFC液体は、それに関連した比較的高い地球温暖化係数を有し、そして、使用特性において望ましい性能を維持しつつ、可能な限り地球温暖化係数が低いハイドロフルオロカーボン又は他のフッ素化液体を用いることが望ましい。加えて、沸騰及び蒸発の際、実質的に分留しない、単一成分の液体又は共沸様混合物が、ある状況において望ましい。」(原文1頁9?23行)
(エ)
「【0022】
本発明は、発泡体の発泡のための方法及びシステムを包含した、本発明の組成物を用いる方法及びシステムをも提供する。
好ましい態様の詳細な記載
組成物
本発明の組成物は、一般的に、発泡剤組成物又は発泡可能組成物の形態であってよい。それぞれの場合において、本発明には、ここで記載されるような少なくとも一種のフルオロアルケン化合物及び、そのいくつかは以下に詳細に記載される他の成分が必要に応じて要求される。
A.フルオロアルケン
本発明の好ましい態様は、炭素原子を2個から6個、好ましくは3個から5個、より好ましくは3個から4個、そして、特定の態様において最も好ましくは、3個の炭素原子を含み、そして少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む、少なくとも一種のフルオロアルケンを含む組成物に向けられている。本発明のフルオロアルケン化合物は、少なくとも1つの水素を含む場合、便宜上、ここでは時に、ハイドロフルオロオレフィンまたは「HFO」と呼ばれる。本発明のHFOは、2つの炭素-炭素2重結合を含んでいてもよいことが考えられるが、現時点で、このような化合物は好ましいものと考えられていない。ここでは時に、少なくとも1つの塩素原子をも含むHFOに対して、HFCOという名称を用いる。
【0023】
上記のように、本発明の組成物は、1つ又は2つ以上の式Iに従う化合物を含む。・・(中略)・・
【0027】
本願出願人は、一般的に、上記で特定した式I及び式IIの化合物は、通常効果的であり、そして、本明細書に包含される教示に従う発泡剤組成物において効用を示すと考えている。しかし、本願出願人は、驚くべきことに、また、予期せぬことに、上記の式に記載の構造を有する化合物のいくつかが、他のこのような化合物と比べて、非常に望ましい低レベルの毒性を示すことを見出した。容易に理解されることであるが、この発見は、発泡剤組成物の配合に関して、潜在的に非常に優位なものであり、有益なものである。より詳細には、本願出願人は、不飽和の末端の炭素上の少なくとも1つのRがHであり、そして少なくとも1つの残りのRがF又はClである式I又は式IIの化合物(好ましくは、式中、YはCF_(3)であり、nは0又は1である)が、比較的低レベルの毒性を伴うと考えている。本願出願人は、このような化合物のすべての構造異性体、幾何異性体及び立体異性体は有効であり、有利に低毒性であるとも考えている。
・・(中略)・・
【0030】
非常に好ましい態様、特に、上記に記載の、低毒性の化合物を含む態様において、nは0である。特定の非常に好ましい態様において、本発明の組成物は、HFO-1234yf、(シス)HFO-1234ze及び(トランス)HFO-1234zeを包含する1種又は2種以上のテトラフルオロプロペンを含み、そして、HFO-1234zeが一般に好ましく、ある態様において、トランスHFO-1234zeが非常に好ましい。(シス)HFO-1234ze及び(トランス)HFO-1234zeの特性は、少なくともいくつかの点で異なるが、これらの化合物のそれぞれは、本明細書に記載の用途、方法及びシステムのそれぞれに関連して、単独で、又はその立体異性体を含む他の化合物と一緒に用いるのに適している。例えば、(トランス)HFO-1234zeは、低沸点(-19℃)であるので、特定のシステムにおいて好ましく用いることができ、一方、沸点が+9℃の(シス)HFO-1234zeは他の用途で好ましく用いることができる。もちろん、シス-及びトランス-異性体の組み合わせは、多くの態様において許容され、そして/又は好まれる可能性がある。従って、「HFO-1234ze」及び1,3,3,3-テトラフルオロプロペンという用語により、両方の立体異性体が言及されることが理解されるべきであり、そして、指摘されない限り、シス-型及びトランス-型のそれぞれが、記載された目的に適用され、そして/又は役に立つことを示すために、この用語は用いられる。
【0031】
HFO-1234化合物は公知の物質であり、ケミカルアブストラクツデータベースに掲載されている。・・(中略)・・
【0033】
本発明の組成物、特にHFO-1234(HFO-1234ze及びHFO-1234yfを含む)を含む本発明の組成物は、数多くの重要な理由により、有利な特性を有すると考えられている。例えば、本願出願人らは、少なくとも部分的には数学的モデルに基づき、本発明のフルオロオレフィンは、実質的に負の影響を大気化学に及ぼさず、ハロゲン化された他のいくつかの種のものと比べて、オゾン層減少への寄与は無視できるものであると考えている。従って、本発明の好ましい組成物は、実質的にオゾン層減少の一因とならないという利点を有する。また、好ましい組成物は、現在使用されているハイドロフルオロアルカンの多くと比べて、地球温暖化の実質的な一因ともならない。
・・(中略)・・
【0036】
特にHFO-1234であり、より好ましくはHFO-1234zeである式Iの化合物が、本発明の組成物に含まれる量は、特に、用途に依存し大きく異なり、痕跡量以上かつ100%未満の該化合物を含む組成物は、本発明の広い範囲内にある。更に、本発明の組成物は、共沸混合物、共沸様混合物又は非共沸混合物であってよい。好ましい態様において、本発明の組成物、特に発泡剤組成物は、約1重量%から約99重量%で、より好ましくは、約5重量%から約95重量%で、そして更に好ましくは、約40重量%から約90重量%で、式I及び/又は式IIの化合物を含み、好ましくは、HFO-1234を含み、そして、より好ましくはHFO-1234ze及び/又はHFO-1234yfを含む。」(原文8頁下から2行?13頁15行参照)
(オ)
「【0037】
B.他の組成物-発泡剤組成物(審決注:「他の成分-発泡剤組成物」の誤訳と認められる。)
本発明のある態様において、発泡剤組成物は、本明細書の式Iに従った1又は2以上の化合物より成るか、本質的に本明細書の式Iに従った1種又は2種以上の化合物より成る。従って、本発明は、いかなる量の追加的な組成物の実質的な存在なしに、1種又は2種以上の本発明の化合物を発泡剤として用いることを含む方法及びシステムを含む。しかし、式I又は式IIの範囲内にない1種又は2種以上の化合物又は成分は、所望によるが、好ましくは、本発明の発泡剤組成物に含まれる。このような所望による付加的な化合物は、発泡剤(以下、限定ではなく、便宜上、共発泡剤(co-blowing agents)と呼ぶ)としての役割も果たす他の化合物、界面活性剤、高分子改質剤、強化剤、着色剤、染料、溶解促進剤、流動改善剤(rheology modifier)、可塑剤、難燃化剤、抗菌剤、粘度低下剤、充填材、蒸気圧変化剤(vapor pressure modifier)、核剤、触媒、その他を含むが、これに限定されない。・・(中略)・・
【0039】
従って、本発明の組成物の好ましい態様には、式Iの化合物(特にHFO-1234ze及び/又はHFO-1234yfを含む)に加えて、1種類又は2種類以上の共発泡剤が含まれる。本発明に記載の共発泡剤には、物理的発泡剤、化学的発泡剤(特定の態様において、これには、好ましくは水を含む)又は、物理的発泡剤及び化学的発泡剤の特性の組み合わせを有する発泡剤が包含されていてよい。式Iの化合物並びに共発泡剤を含む、本発明の組成物に含まれる発泡剤により、発泡剤として特徴付けられるために必要な特性に加えた特性が示され得ることも理解されるであろう。例えば、本発明の発泡剤組成物は、発泡剤組成物又はそれが加えられた発泡可能組成物に、ある有益な特性をも与える、上記に記載の式Iの化合物を含む成分を含んでいてよいことが意図されている。例えば、式Iの化合物又は共発泡剤が、高分子改質剤又は粘度低下剤としての役割をも果たすということは、本発明の範囲内である。
【0040】
広範囲の共発泡剤が本発明に従って用いられることが意図されているが、特定の態様においては、本発明の発泡剤組成物は、共発泡剤として1種又は2種以上のHFCを含み、より好ましくは、1種又は2種以上の炭素数1から炭素数4のHFCを含み、及び/又は1種又は2種以上の炭化水素を、より好ましくは炭素数4から炭素数6の炭化水素を含む。例えば、HFCに関しては、本発明の発泡剤組成物は、・・(中略)・・の1種又は2種以上を含んでいてよい。炭化水素に関しては、本発明の発泡剤組成物は、特定の好ましい態様において、例えば、イソ、ノルマル及び/又はシクロペンタンを熱硬化性発泡体のために包含し、また、ブタン又はイソブタンを熱可塑性発泡体のために包含する。勿論、水、CO_(2)、CFC・・(中略)・・、HCFC、炭素数1から炭素数5のアルコール(例えば、エタノール及び/又はプロパノール及び/又はブタノール等のような)、炭素数1から炭素数4のアルデヒド、炭素数1から炭素数4のケトン、炭素数1から炭素数4のエーテル(エーテル(例えば、ジメチルエーテル及びジエチルエーテル)、ジエーテル(例えば、ジメトキシメタン及びジエトキシメタン等)を含む)、及びギ酸メチル、並びにこれらのいずれかの組み合わせ、が包含されていてもよいが、このような成分は環境上負の影響を与えることから、多くの態様において好ましくないと考えられている。
・・(中略)・・
【0042】
上記で言及した、いずれの追加的な共発泡剤の相対量、並びに本発明の組成物に含まれていてよい、いずれの追加的な成分の相対量も、組成物の特有の用途に従う本発明の一般的な広い範囲内において大きく異なってよく、そして、このような相対量はいずれも、本明細書の範囲内にあるべきであると考えられている。しかし、本願出願人は、例えば、HFO-1234zeのような、本発明に記載の式Iの化合物の少なくともいくつかの特有の利点の一つは、このような化合物が比較的低い燃焼性を有することである、と言及する。従って、ある態様において、本発明の発泡剤組成物は、少なくとも一種の共発泡剤を含み、そして、式Iに記載の化合物を、全体として不燃性である発泡剤組成物を製造するのに十分な量だけ含むことが好ましい。従って、このような態様において、式Iの化合物と比較した共発泡剤の相対量は、少なくとも部分的に、共発泡剤の燃焼性に依存するであろう。
【0043】
本発明の発泡剤組成物は、広い範囲に亘る量の本発明の化合物を含んでよい。しかし、本発明に記載の発泡剤としての使用に好ましい組成物として、式Iに記載の化合物、そして、更に好ましくは、式IIに記載の化合物が、該組成物に対して、少なくとも約1重量%の量で存在することが好ましく、より好ましくは、少なくとも約5重量%の量で存在することが好ましく、そして、更に好ましくは、少なくとも約15重量%の量で存在することが好ましい。ある好ましい態様において、発泡剤は、本発明の発泡剤化合物を少なくとも約50重量%含み、そして、特定の態様においては、発泡剤は、実質的に本発明に記載の化合物から成る。この点において、1種又は2種以上の共発泡剤の使用は、本発明の新規で基本的な特徴と矛盾しないことが特筆される。例えば、水は、共発泡剤としてか、又は、他の共発泡剤(例えば、ペンタン、特にシクロペンタン等のような)と組み合わせてか、のいずれかにより、非常に多くの態様において用いられるであろうということが意図されている。
・・(中略)・・
【0045】
ある好ましい態様において、発泡剤組成物は、約30重量%から約95重量%の式Iの化合物、より好ましくは式IIの化合物、そして、更に好ましくは、1種又は2種以上のHFO-1234化合物、及び、約5重量%から約90重量%、より好ましくは、約5重量%から約65重量%の共発泡剤を含む。このような態様のいくつかにおいては、共発泡剤は、H_(2)O、HFC、炭化水素、アルコール(好ましくは、C2、C3及び/又はC4アルコール)、CO_(2)、及びこれらの組み合わせを含み、そして好ましくは、実質的にこれらより成る。
・・(中略)・・
【0048】
共発泡剤がアルコール(好ましくは、C2、C3及び/又はC4アルコール)を含む好ましい態様において、組成物は、全発泡剤組成物の約5重量%から約40重量%の量でアルコールを含み、より好ましくは、全発泡剤の約10重量%から約40重量%の量で含み、更に好ましくは15重量%から約25重量%の量で含む。」(原文13頁16行?18頁7行参照)

III.検討

1.引用例に記載された発明
上記引用例には、「(a)トランスHFO-1234ze、及び(b)共発泡剤、界面活性剤、高分子改質剤、強化剤、着色剤、染料、溶解促進剤、流動改善剤、可塑剤、難燃化剤、抗菌剤、粘度低下剤、充填剤、蒸気圧変化剤、核剤及び触媒並びにこれらのいずれかの2種又は3種以上の組合せから成る群より選ばれる少なくとも1種のアジュバント、を含む発泡剤」が記載されており(摘示(ア)及び(イ)参照)、上記「(b)」成分として、好ましい態様では「共発泡剤」が含まれることが記載され、当該「共発泡剤」として「C2、C3及び/又はC4アルコール」が好ましいことも記載されている(摘示(オ)参照)。
そして、上記引用例には、発泡剤組成物を構成する場合に、トランスHFO-1234zeなどのフルオロアルケン(式Iの化合物)を30?95重量%及びアルコールなどの共発泡剤を5?65重量%を含有させることが好適であることも記載されている(摘示(オ)の【0045】参照)。
してみると、上記引用例には、上記(ア)ないし(オ)の記載からみて、
「(a)トランスHFO-1234ze30?95重量%及び(b)共発泡剤としてのC2、C3及び/又はC4アルコール5?65重量%を含む発泡剤組成物」
の発明(以下、「引用発明」という)が実質的に記載されているものと認められる。

2.対比・検討
本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「トランスHFO-1234ze」、「C2アルコール」及び「発泡剤組成物」は、本願発明における「trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン」、「エタノール」及び「組成物」にそれぞれ相当する。
そして、各成分の組成比につき、引用発明における「30?95重量%」及び「5?65重量%」と本願発明における「99.83?83.37重量パーセント」及び「0.17?16.63重量パーセント」との間で、それぞれ、「95?83.37重量%」及び「5?16.67重量%」なる範囲で重複しており、更に上記引用例には、発泡剤としてのフルオロアルケンと共発泡剤としてのアルコールの2成分のみからなる組成物も実質的に記載されているものと理解するのが自然である。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン95?83.37重量%およびエタノール5?16.67重量%からなる組成物」
である点で一致し、次の点でのみ一応相違している。

相違点:本願発明では、「共沸混合物または共沸混合物様の組成物」であるのに対して、引用発明では、当該発泡剤組成物が共沸混合物または共沸混合物様であることが特定されていない点

そこで、上記相違点につき検討すると、上記引用例にも記載されているとおり、発泡剤等の用途に用いられるフッ素化液体においては、沸騰及び蒸発の際実質的に分留しない単一成分の液体又は共沸様混合物が望ましいとの技術的背景がある(摘示(ウ)参照)なかで、HFO-1234zeを含む上記の組成物(発泡剤)が「共沸混合物、共沸様混合物」であってよい(摘示(エ)【0036】参照)ことは、当業者の技術常識であるものと認められる。
また、本願明細書(【0024】)に記載されているとおり、「異なる圧力において所定の共沸混合物の組成は少なくともわずかに変動し、組成物の沸点も同様であることが周知であ」って、「AとBの共沸混合物は・・温度および/または圧力に応じて組成が変動する可能性があ」り、「共沸混合物様組成物では共沸混合物様である同一成分をさまざまな割合で含有するある範囲の組成物が存在する」のであるから、引用発明における「(a)トランスHFO-1234ze30?95重量%及び(b)共発泡剤としてのC2、C3及び/又はC4アルコール5?65重量%を含む発泡剤組成物」においても、共沸混合物様であるという共沸特性を有するものが存すると認識するのが自然であり、少なくとも、上記組成比が一致した範囲のものであれば、共沸特性を有するものと理解するのが自然である。
してみると、引用発明に係る発泡剤組成物について、「共沸混合物または共沸混合物様の組成物」と規定した点に格別な技術的意義が存するものとは認められず、実質的な技術的相違であるとはいえないから、上記相違点は、実質的な相違点であるものとはいえない。

なお、請求人は、本件審判請求書において参考資料1?5を示して、「特定の成分の特定の組成の共沸混合物または共沸混合物様の組成物を形成するかどうかは予測することができません。先行文献に公知の成分が一般的な説明として開示されているとしても、そのような開示から特許性を否定されるものではありません。即ち、現実に試験を行うことなく、共沸混合物様組成物が特定の組成範囲に存在するか否かは見出すことができません。よって、請求項1に記載の発明は新規であるだけでなく、進歩性も有します。」として、本願発明と引用発明との差異を主張している。
しかるに、本願発明において、trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとエタノールの組成範囲を特定した根拠は【表1】に示されるトランスHFO-1234zeとEtOHの14種類の組合せ組成とそれぞれの沸点の測定結果のみであり、トランスHFO-1234zeの含有量「99.83?83.37重量%」及びEtOHの含有量「0.17?16.63重量%」の範囲でこれら2成分のみからなる共沸混合物が形成されていることは理解できるものの、この範囲をわずかにでも外れるものについては共沸あるいは共沸様混合物でないことを確認することはできず(なお、本願明細書段落【0048】には、EtOHが約0より多く約20重量%までは共沸あるいは共沸様混合物であることを示唆する記載があり、上記の数値の範囲外でも共沸あるいは共沸様混合物を形成している可能性があるものと認められる。)、臨界的意義は全く不明である。加えて、請求人の示した参考資料にもあるように、特定の成分の特定の組成の共沸混合物または共沸混合物様の組成物を形成するかどうかは予測することができないという技術常識があるなかで、trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとエタノールの組成範囲が本願発明で特定されている範囲を外れていても共沸混合物が形成される可能性が否定できないのであるから、【表1】に示される結果のみを根拠として、本願発明が、trans-1,3,3,3-テトラフルオロプロペンとエタノールの特定の組成範囲を定めたことにおいて新規性および進歩性を有するとする請求人の上記主張は、技術的根拠を欠くものであって、採用することができない。

3.小括
以上のとおりであるから、本願発明は、上記引用発明と実質的に同一であり、上記引用例に記載された発明であるというほかはない。

III.当審の判断のまとめ
よって、本願の請求項1に記載された発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、本願は、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。

第4 むすび
結局、本願は、特許法第49条第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-14 
結審通知日 2015-05-15 
審決日 2015-05-26 
出願番号 特願2010-504183(P2010-504183)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09K)
P 1 8・ 536- Z (C09K)
P 1 8・ 537- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大熊 幸治  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 橋本 栄和
山田 靖
発明の名称 テトラフルオロプロペンとアルコールの共沸混合物様組成物  
代理人 松田 豊治  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 小野 新次郎  
代理人 竹内 茂雄  

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