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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1306243
審判番号 不服2014-17575  
総通号数 191 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-03 
確定日 2015-10-08 
事件の表示 特願2013- 46960「パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成25年11月 7日出願公開、特開2013-229579〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成25年3月8日(優先権主張 平成24年3月30日)の出願であって、平成25年10月28日付けで手続補正がなされ、平成26年1月8日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年3月14日付けで意見書が提出されたが、同年6月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月3日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年10月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、無酸素銅又は6N-Cuで構成され、この回路層の一方の面が、電子部品が搭載される搭載面とされており、
前記金属層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されて構成されており、
前記回路層の厚さt_(1)が、0.1mm≦t_(1)≦0.6mmの範囲内とされ、
前記金属層の厚さt_(2)が、0.5mm≦t_(2)≦6mmの範囲内とされ、
前記回路層の厚さt_(1)と前記金属層の厚さt_(2)との関係が、t_(2)/t_(1)≧4.0とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」

3.引用例
3-1.引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された特開2012-64801号公報(公開日:平成24年3月29日。以下、「引用例1」という。)には、「ヒートシンク付パワーモジュール用基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【請求項1】
セラミックス基板と、該セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板と、前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二の金属板と、該第二の金属板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記第一の金属板は、銅又は銅合金で構成され、この第一の金属板の一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされており、
前記第二の金属板は、耐力が30N/mm^(2)以下のアルミニウムで構成されており、
前記ヒートシンクは、耐力が100N/mm^(2)以上の金属材料で構成され、その厚さが2mm以上とされていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。」

(2)「【0007】
ところで、特許文献1に記載されたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、アルミニウム製のヒートシンクとセラミックス基板との間に銅板が配設されていることから、ヒートシンクとセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みを、この銅板において十分に緩和することができず、熱サイクル負荷時にセラミックス基板に割れ等が生じやすいといった問題があった。
なお、特許文献1には、ヒートシンクと第二の金属板との間に介在する有機系耐熱性接着剤によって熱歪みを緩和することが記載されているが、この有機系耐熱性接着剤が介在することで熱抵抗が高くなるため、第一の金属板の上に搭載された電気部品等の発熱体からの熱をヒートシンク側に効率的に放散することができないといった問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、第一の金属板としてアルミニウム板が用いられている。
ここで、銅とアルミニウムとを比較するとアルミニウムの方が熱伝導率が低いため、第一の金属板としてアルミニウム板を用いた場合には、第一の金属板の上に搭載された電気部品等の発熱体からの熱を拡げて放散することが銅よりも劣ることになる。このため、電子部品の小型化や高出力化により、パワー密度が上昇した場合には、熱を十分に放散することができなくなるおそれがあった。」

(3)「【0029】
本発明によれば、第一の金属板の上に搭載された電子部品等の発熱体からの熱の放散を促進することができ、かつ、熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板の割れの発生を抑制し、信頼性の高いヒートシンク付パワーモジュール用基板、パワーモジュール、及び、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を提供することができる。」

(4)「【0031】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に本発明の第1の実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10及びこのヒートシンク付パワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール1を示す。
このパワーモジュール1は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板10と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板10の搭載面22A上にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3(電子部品)と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、搭載面22Aとはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0032】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板21と、このセラミックス基板21の一方の面(図1において上面)に接合された第一の金属板22と、セラミックス基板21の他方の面(図1において下面)に接合された第二の金属板23と、からなるパワーモジュール用基板20と、ヒートシンク11と、を備えている。
【0033】
セラミックス基板21は、第一の金属板22と第二の金属板23との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAl_(2)O_(3)(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板21の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0034】
第一の金属板22は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板とされている。また、その板厚は0.1?1.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
この第一の金属板22には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図1において上面)が、半導体チップ3が搭載される搭載面22Aとされている。
【0035】
第二の金属板23は、耐力が30N/mm^(2)以下のアルミニウムで構成されており、本実施形態では純度99.99%以上の純アルミニウム(いわゆる4Nアルミ)で構成されている。また、その板厚は0.6?6mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。」

(5)「【0052】
以上のような構成とされた本実施形態であるヒートシンク付パワーモジュール用基板10によれば、半導体チップ3が搭載される搭載面22Aを有する第一の金属板22が、タフピッチ銅で構成されているので、半導体チップ3から発生する熱を十分に拡げることができ、この熱の放散を促進することができる。よって、パワー密度の高い半導体チップ3等の電子部品を搭載することができ、半導体パッケージの小型化、高出力化を図ることが可能となる。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0054】
さらに、ヒートシンク11の天板部12とセラミックス基板21との間に、耐力が30N/mm^(2)以下のアルミニウム(本実施形態では、純度99.99%以上の純アルミニウム)からなる第二の金属板23が配設されているので、ヒートシンク11の天板部12の剛性が高くても、ヒートシンク11の天板部12とセラミックス基板21との熱膨張係数の差に起因する熱歪みをこの第二の金属板23で十分に緩和することができ、セラミックス基板21の割れの発生を抑制することができる。特に、本実施形態では、第二の金属層の厚さを0.6?6mmの範囲内としていることから、確実に熱歪みを吸収することができるとともに、この第二の金属板23による熱抵抗の増大を抑制することができる。」

(6)「【0064】
次に、本発明の第2の実施形態について、図9から図15を参照して説明する。
図9に示すパワーモジュール101は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板110と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板110の搭載面122A上にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3(電子部品)と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、搭載面122Aとはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0065】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板121と、このセラミックス基板121の一方の面(図9において上面)に接合された第一の金属板122と、セラミックス基板121の他方の面(図9において下面)に接合された第二の金属板123と、からなるパワーモジュール用基板120と、ヒートシンク111と、を備えている。
【0066】
セラミックス基板121は、第一の金属板122と第二の金属板123との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板121の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0067】
第一の金属板122は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板とされている。また、その板厚は0.1 ?1.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6 mmに設定されている。
この第一の金属板122には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図9において上面)が、半導体チップ3が搭載される搭載面122Aとされている。
【0068】
ここで、セラミックス基板121と第一の金属板122との界面には、図10に示すように、Al_(2)O_(3)層125が形成されている。本実施形態では、このAl_(2)O_(3)層125の厚さは、1μm以上とされている。
【0069】
第二の金属板123は、耐力が30N/mm^(2)以下のアルミニウムで構成されており、本実施形態では純度99.99%以上の純アルミニウム(いわゆる4Nアルミ)で構成されている。また、その板厚は0.6?6mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。」
(7)「【0090】
次に、本発明の第3の実施形態について、図16から図18を参照して説明する。
図16に示すパワーモジュール201は、ヒートシンク付パワーモジュール用基板210と、このヒートシンク付パワーモジュール用基板210の搭載面222A上にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3(電子部品)と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn-Ag系、Sn-In系、若しくはSn-Ag-Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、搭載面222Aとはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0091】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板210は、セラミックス基板221と、このセラミックス基板221の一方の面(図16において上面)に接合された第一の金属板222と、セラミックス基板221の他方の面(図16において下面)に接合された第二の金属板223とを備えたパワーモジュール用基板220と、ヒートシンク211と、を備えている。
【0092】
セラミックス基板221は、第一の金属板222と第二の金属板223との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いSi_(3)N_(4)(窒化ケイ素)で構成されている。また、セラミックス基板221の厚さは、0.2?1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0093】
第一の金属板222は、銅又は銅合金で構成されており、本実施形態では、タフピッチ銅の圧延板とされている。また、その板厚は0.1?1.0mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.6mmに設定されている。
この第一の金属板222には、回路パターンが形成されており、その一方の面(図16において上面)が、半導体チップ3が搭載される搭載面222Aとされている。
【0094】
第二の金属板223は、耐力が30N/mm^(2)以下のアルミニウムで構成されており、本実施形態では純度99.99%以上の純アルミニウム(いわゆる4Nアルミ)で構成されている。また、その板厚は0.6?6mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、2.0mmに設定されている。」

・上記引用例1に記載の「ヒートシンク付パワーモジュール用基板」は、上記(1)、(4)の段落【0032】、(6)の段落【0065】、(7)の段落【0091】の記載事項、及び図1、図9、図16によれば、セラミックス基板と、該セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板と、前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二の金属板と、からなるパワーモジュール用基板と、前記第二の金属板の他方の面側に接合されたヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記第一の金属板は、銅又は銅合金で構成され、この第一の金属板の一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされており、前記第二の金属板は、アルミニウムで構成されているヒートシンク付パワーモジュール用基板に関するものである。
・上記(4)、(6)、(7)の記載事項によれば、
(a)セラミック基板は、絶縁性の高いAl_(2)O_(3)、AlN、Si_(3)N_(4)のいずれかで構成され、
(b)銅又は銅合金で構成される第一の金属板は、具体例としてはタフピッチ銅であり、その板厚は0.1?1.0mmの範囲内に設定され、具体例では0.6mmであり、
(c)アルミニウムで構成される第二の金属板は、その板厚は0.6?6mmの範囲内に設定され、具体例では2.0mmである。
・上記(2)の段落【0008】、(3)、(5)の段落【0052】の記載事項によれば、電子部品(半導体チップ)が搭載される第一の金属板として銅を用いたことにより、電子部品から発生する熱を十分に拡げることができ、熱の放散を促進することができ、
また、上記(2)の段落【0007】、(3)、(5)の段落【0054】の記載事項によれば、ヒートシンクが接合される第二の金属板としてアルミニウムを用いたことにより、ヒートシンクとセラミック基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みを十分に緩和することができ、セラミック基板の割れの発生を抑制することができるものである。

したがって、ヒートシンク付パワーモジュール用基板からヒートシンクを除いた「パワーモジュール用基板」に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「絶縁性の高いAl_(2)O_(3)、AlN、Si_(3)N_(4)のいずれかで構成されたセラミックス基板と、該セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板と、前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二の金属板と、を備えたパワーモジュール用基板であって、
前記第一の金属板は、その一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされ、当該電子部品から発生する熱を十分に拡げることができ、熱の放散を促進することができるように銅又は銅合金(具体例としてはタフピッチ銅)で構成されており、
前記第二の金属板は、その他方の面側にヒートシンクが接合されるものであって、ヒートシンクとセラミック基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みを十分に緩和することができ、セラミック基板の割れの発生を抑制することができるようにアルミニウムで構成されており、
前記第一の金属板の板厚は、0.1?1.0mmの範囲内(具体例では0.6mm)に設定され、
前記第二の金属板の板厚は、0.6?6mmの範囲内(具体例では2.0mm)に設定される、パワーモジュール用基板。」

3-2.引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-221547号公報(以下、「引用例2」という。)には、「パワーモジュール用基板」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
(1)「【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するために、以下のような手段を採用している。
即ち、請求項1に係る発明は、純度が99.999%以上のCu回路層とセラミック層とを少なくとも有する熱伝導複層基板ことを特徴とする。
この発明に係る熱伝導複層基板によれば、Cu回路層が99.999%以上の純胴により構成されていることから、温度サイクルが繰り返し作用されたとしても、Cu回路層に再結晶が生じることになり、Cu回路内に生じた内部応力が消滅することになり、セラミックス層とCu回路層とにクラック等が生じ難いことになる。」

(2)「【0019】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
図1には、本発明によるパワーモジュール用基板の一実施の形態が示されていて、このパワーモジュール用基板1は、絶縁基板2と、絶縁基板2の一方の面に積層される回路層3と、絶縁基板2の他方の面に積層される金属層4と、回路層3に搭載される半導体チップ5と、金属層4に接合される放熱体6とを備えている。
【0020】
絶縁基板2は、例えばAlN、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)、SiC等により所望の大きさに形成されるものであって、その上面及び下面に回路層3及び金属層4がそれぞれ積層接着されるようになっている。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0022】
回路層3及び金属層4は、純度99.999%以上のCu(5N-Cu)から構成される。5N-Cuは、再結晶温度がRT(室温)?150℃の特性を有する。従って、-40?125℃の温度サイクルで繰り返し使用しても、内部応力が蓄積するようなことはなく、温度サイクルの高温側での加工硬化を抑制することができる。
【0023】
回路層3及び金属層4は、純度99.9999%以上のCu(6N-Cu)で構成しても良い。6N-Cuは、再結晶温度がRT(室温)?100℃の特性を有する。従って、5N-Cuと同様に、-40?125℃の温度サイクルで繰り返し使用しても、内部応力が蓄積するようなことはなく、温度サイクルの高温側での加工硬化を抑制することができ、回路層及び金属層をAlで構成したものと同様に、3000サイクル以上の温度サイクル寿命が得られる。
【0024】
回路層3には、半導体チップ5を搭載するための回路パターンが形成され、この回路層3の上部にはんだ7を介して半導体チップ5が搭載されている。金属層3の下面には、はんだ8、ろう付け、拡散接合等によって放熱体6が一体に接合されている。」

(3)「【0032】
表2において、温度サイクル(-40℃?125℃×15min、3000サイクル)後の硬度変化と絶縁回路基板の不良率との関係(不良:セラミックス基板の割れ又は、Cu回路とセラミックス基板との剥がれ)を示したものである。硬度変化の違いは、Cu(2N、3N,4N,5N、6N)の純度を変えてサンプルを作成した。
この表2から、硬度変化が30%以上である場合には、絶縁基板の割れ又は、回路層と絶縁基板との剥がれ等の不具合が生じることが分かる。
【0033】
【表2】


特に上記(1)、(2)の記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「AlN、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)、等の絶縁性のセラミック基板の一方の面には、半導体チップが搭載されるCu回路層が積層接着されたパワーモジュール用基板において、
前記Cu回路層として6N-Cuを用い、これにより-40?125℃の温度サイクルで繰り返し使用しても、内部応力が蓄積するようなことはなく、温度サイクルの高温側での加工硬化を抑制することができ、3000サイクル以上の温度サイクル寿命が得られるようにすること。」

また、上記(3)の記載事項、表2によれば、引用例2には、次の技術事項も記載されている。
「Cu回路層におけるCu純度が高いほど、温度サイクル後の硬度変化が少なく、セラミックス基板(絶縁基板)の割れやCu回路層とセラミックス基板(絶縁基板)との剥がれといった不具合も低下すること。」

4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、
(1)引用発明における、絶縁性の高いAl_(2)O_(3)、AlN、Si_(3)N_(4)のいずれかで構成され「セラミックス基板」、「第二の金属板」、「パワーモジュール用基板」は、それぞれ本願発明における「絶縁基板」、「金属層」、「パワーモジュール用基板」に相当し、
引用発明における「絶縁性の高いAl_(2)O_(3)、AlN、Si_(3)N_(4)のいずれかで構成されたセラミックス基板と、該セラミックス基板の一方の面に接合された第一の金属板と、前記セラミックス基板の他方の面に接合された第二の金属板と、を備えたパワーモジュール用基板であって、前記第一の金属板は、その一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされ、・・」によれば、
引用発明の「第一の金属板」は、その一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされるものであることから、本願発明でいう「回路層」に相当するものであるといえ、
本願発明と引用発明とは、「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板であって」の点で一致する。

(2)引用発明における「電子部品」は、本願発明における「電子部品」に相当し、
引用発明における「前記第一の金属板は、その一方の面が電子部品が搭載される搭載面とされ、当該電子部品から発生する熱を十分に拡げることができ、熱の放散を促進することができるように銅又は銅合金(具体例としてはタフピッチ銅)で構成されており」によれば、
本願発明と引用発明とは、「前記回路層は、銅で構成され、この回路層の一方の面が、電子部品が搭載される搭載面とされており」の点で共通するといえる。
ただし、回路層を構成する銅について、本願発明では「無酸素銅又は6N-Cu」であるのに対し、引用発明では銅又は銅合金であり、具体的にはタフピッチ銅が用いられている点で相違する。

(3)引用発明における「前記第二の金属板は、その他方の面側にヒートシンクが接合されるものであって、ヒートシンクとセラミック基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みを十分に緩和することができ、セラミック基板の割れの発生を抑制することができるようにアルミニウムで構成されており」によれば、
引用発明の「第二の金属板」は、アルミニウムの板からなり、セラミック基板の他方の面に接合されてなるものであるといえるから、
本願発明と引用発明とは、「前記金属層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されて構成されており」の点で一致する。

(4)引用発明における「前記第一の金属板の板厚は、0.1?1.0mmの範囲内(具体例では0.6mm)に設定され、前記第二の金属板の板厚は、0.6?6mmの範囲内(具体例では2.0mm)に設定される」によれば、
(a)引用発明の「第一の金属板」の厚さは、0.1?1.0mmの範囲内であって具体例では0.6mmであり、かかる具体例の0.6mmは、本願発明で定める「0.1mm≦t_(1)≦0.6mm」の条件を満たすものであるから、
本願発明と引用発明とは、「前記回路層の厚さt_(1)が、0.1mm≦t_(1)≦0.6mmの範囲内とされ」の点で一致するといえる。
(b)また、引用発明の「第二の金属板」の厚さは、0.6?6mmの範囲内であって具体例で2.0mmであり、かかる0.6?6mmの範囲についても、具体例の2.0mmについても、本願発明で定める「0.5mm≦t_(2)≦6mm」の条件を満たすものであるから、
本願発明と引用発明とは、「前記金属層の厚さt_(2)が、0.5mm≦t_(2)≦6mmの範囲内とされ」の点で一致する。
ただし、引用発明では、第一の金属板の厚さ(t_(1))と第二の金属板(t_(2))との関係t_(2)/t_(1)について、具体例の数値で計算してみると、t_(2)/t_(1)=2.0/0.6≒3.3であり、本願発明で特定するt_(2)/t_(1)≧4.0の関係を満たしていない点で相違している。

よって、本願発明と引用発明とは、
「絶縁基板と、該絶縁基板の一方の面に形成された回路層と、前記絶縁基板の他方の面に形成された金属層と、を備えたパワーモジュール用基板であって、
前記回路層は、銅で構成され、この回路層の一方の面が、電子部品が搭載される搭載面とされており、
前記金属層は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム板が接合されて構成されており、
前記回路層の厚さt_(1)が、0.1mm≦t_(1)≦0.6mmの範囲内とされ、
前記金属層の厚さt_(2)が、0.5mm≦t_(2)≦6mmの範囲内とされていることを特徴とするパワーモジュール用基板。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
回路層を構成する銅について、本願発明では、「無酸素銅又は6N-Cu」であると特定するのに対し、引用発明では、「タフピッチ銅」である点。

[相違点2]
回路層の厚さt_(1)と金属層の厚さt_(2)との関係について、本願発明では、「t_(2)/t_(1)≧4.0」である旨特定するのに対し、引用発明では、そのような関係についての特定を有していない点。

5.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1]について
引用例2(上記「3-2.」を参照)には、Cu回路層におけるCu純度が高いほど、温度サイクル後の硬度変化が少なく、セラミックス基板(絶縁基板)の割れやCu回路層とセラミックス基板(絶縁基板)との剥がれといった不具合も低下するという技術事項が記載されており、そして具体的には、AlN、Al_(2)O_(3)、Si_(3)N_(4)、等の絶縁性のセラミック基板の一方の面には、半導体チップが搭載されるCu回路層が積層接着されたパワーモジュール用基板において、前記Cu回路層として6N-Cuを用い、これにより-40?125℃の温度サイクルで繰り返し使用しても、内部応力が蓄積するようなことはなく、温度サイクルの高温側での加工硬化を抑制することができ、3000サイクル以上の温度サイクル寿命が得られるようにしてなるものが記載されており、本願発明においても、セラミックス基板の割れ等の不具合をより少なくし、温度サイクル寿命を長くするために、第一の金属層を構成する銅又は銅合金として、タフピッチ銅に代えて6N-Cuを用いるようにすることは引用例2の上記記載事項から当業者であれば容易になし得ることである。

[相違点2]について
引用例には、第一の金属板の厚さ(t_(1))と第二の金属板の厚さ(t_(2))との「関係」についての具体的な記載はなされておらず、具体例ではt_(1)=0.6mm、t_(2)=2.0mmであって、t_(2)/t_(1)≒3.3であり、本願発明で特定するt_(2)/t_(1)≧4.0の関係を満たしていないものの、本願明細書において、回路層として無酸素銅が用いられている「第2の実施形態(補正後の実施形態)」で好ましい条件として出願当初の段落【0063】に記載されていた「t_(2)/t_(1)≧2.5」の関係については満たすものであるところ、
引用発明では、第一の金属板の厚さ(t_(1))のとり得る範囲は0.1mm≦t_(1)≦1.0mm、第二の金属板の厚さ(t_(2))のとり得る範囲は0.6mm≦t_(2)≦6mmであり、例えばこれらとり得る範囲の下限値同士を比べると、t_(2)/t_(1)=0.6/0.1=6となり、上限値同士を比べてもt_(2)/t_(1)=6/1.0=6となることや、引用例の段落【0054】には、第二の金属板の厚さ(t_(2))については、「0.6?6mmの範囲内としていることから、確実に熱歪みを吸収することができる」と記載(上記「3-1.(5)」を参照)され、ヒートシンクとセラミック基板との熱膨張係数の差に起因する熱歪みを確実に吸収するために第二の金属板については比較的厚い厚みが必要であることが示唆されているといえることからして、引用発明において、t_(1)とt_(2)の具体的な値として上記のそれぞれとり得る範囲内において、t_(1)に対してt_(2)がより相対的に厚くなるような関係、例えば本願発明で特定する「t_(2)/t_(1)≧4.0」の関係を満たすような値を選択することも当業者が容易になし得ることである。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明(特に、表1及び表2)を参照しても、回路層の材質が無酸素銅又は6N-Cuであり、その厚さt_(1)が0.1mm≦t_(1)≦0.6mmの範囲内とされる場合における、回路層の厚さt_(1)と金属層の厚さt_(2)との関係t_(2)/t_(1)の下限値(4.0)の設定に関して、当初設定されていた2.5(さらには引用例の3.3)を上回り、当該下限値(4.0)を下回るような比較データが示されているわけでもなく、また、そもそも出願当初の段落【0083】に「特に、回路層の厚さt_(1)と金属層の厚さt_(2)との比t_(2)/t_(1)が2.5以上とされた本発明例1-6においては、冷熱サイクル試験において4000サイクル以上でも絶縁基板に割れが認められなかった。」と記載されていたにすぎないことも考慮すると、かかる下限値を、当初設定されていた2.5を上回る「4.0」に定めたことに格別の臨界的な意義を見出すことはできない。

6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び引用例2に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-05 
結審通知日 2015-08-11 
審決日 2015-08-27 
出願番号 特願2013-46960(P2013-46960)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石野 忠志小山 和俊  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 パワーモジュール用基板、ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール  
代理人 細川 文広  
代理人 志賀 正武  
代理人 松沼 泰史  
代理人 大浪 一徳  
代理人 寺本 光生  

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