• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1306791
審判番号 不服2014-5372  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-24 
確定日 2015-10-13 
事件の表示 特願2010- 99181「生物学的標本を処理するための自動システムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開、特開2010-204110〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年1月17日を出願日とする出願(特願2007-8099号)の一部を、平成22年4月22日(優先権主張:平成18年1月20日 米国)に新たな特許出願(特願2010-99181号)として出願されたものであって、平成24年7月5日付けで拒絶理由が通知され、同年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年3月21日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年6月26日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月24日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年3月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の請求項1に記載された発明
本件補正により、補正前の特許請求の範囲(平成25年6月26日付けの手続補正により補正されたもの。)の請求項1が、次のとおりに補正された。(下線は補正箇所を示す。)
「 【請求項1】
生物学的標本を処理するシステムであって、
カバーガラスを顕微鏡スライドに適用するカバーガラス配置システムと、
該顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する染色システムと、
該カバーガラス配置システムと該染色システムとの間で、該顕微鏡スライドをロボット制御で輸送する輸送経路と
を含み、ここで、該カバーガラス配置システムは、該カバーガラスが該顕微鏡スライドに適用され、次いで、カバーされた該スライドが該染色システムにロボット制御で輸送されるように、該染色システムの前に位置させる、システム。」

(2)本件補正の目的について
特許請求の範囲の請求項1についての上記の補正は、補正前の「次いで、カバーされた該スライドが該染色システムに輸送されるように、該染色システムの前に位置させる」という、前記顕微鏡スライドの輸送についての記載を、さらに「次いで、カバーされた該スライドが該染色システムにロボット制御で輸送されるように、該染色システムの前に位置させる」と限定するものであるから、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められる。
そこで、補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。

2 独立特許要件についての検討
(1)引用刊行物1及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開2003-194684号公報(以下「刊行物1」という。)には、被検試料支持体の着色・被覆システムについて、次の事項が図面とともに記載されている。なお、次の(2)アの刊行物1発明に関連する箇所に当審において下線を付した。
ア 「【請求項1】並置される自動着色装置及び自動被覆装置を有する被検試料支持体の着色・被覆システムにおいて、
自動着色装置(1)と自動被覆装置(3)との間に、ラックのための搬送装置(35)が配設されると共に、該搬送装置(35)は該自動被覆装置(3)内へ供給可能に構成される移送装置(2)を有することを特徴とする着色・被覆システム。」

イ 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】組織染色装置(自動着色装置)及びカバーガラス装着装置は、2つに分離した別個の装置である。従来、カバーガラスを装着するプロセスを開始するためには、着色過程(処理)の後、被検試料支持体を手作業で自動着色装置から取り出し、カバーガラス装着装置へ装填しなければならなかった(Leica Prospekt CV 5000参照)。装置の各々は自動化されているにもかかわらず、自動被覆装置へ手作業で装填しなければならない。実験室の研究者は、滞りなく作業を進めるため、数分間という極めて短い時間間隔で、ラックを自動着色装置から取り出し、自動被覆装置へ装填している。
【0004】それゆえ、本発明の課題は、被検試料支持体の操作の可及的広範囲に亘る自動化を保証し、被検試料支持体の着色及びそれに引き続く被覆(カバーガラス等のカバーの装着)の際に、利用者からの影響を最小に制限すべきシステムを提供することである。」

ウ 「【0008】図1に、搬送装置4が配された自動着色装置1を示した。搬送装置4は、スライドガラス等の被検試料支持体を種々異なる処理ステーション9へ搬送する。更に、処理されるべき被検試料(が載置される被検試料支持体)ないし処理されるべき被検試料(が載置される被検試料支持体)を担持するラック(Rack)5を(自動着色装置1へ)装填するために、装填ステーション6が設けられる。ラック5を自動着色装置1から取出すために、取出ステーション7が設けられ、利用者は、取出ステーション7からラック5を手で取り出して次の処理が行われる装置等へ運ぶことができる。
【0009】取出ステーション7としても使用されうる装填ステーション6は、搬送装置4によって装填が行われる。例えば、搬送装置4によって、装填ステーション6に収容されている被検試料支持体を取り出し、本来の各処理ステーション9へ搬送することができる。最後の(処理ステップが行われる)処理ステーションでの処理後、ラック5は取出ステーション7へ搬送され、そこで-一緒に-取出可能な状態にされる。尤も、取出操作を搬送装置によって自動的に行なうことや、或いは、被検試料支持体を処理ステーション9から、本システムの次の処理が行われる装置等の引渡(積替)位置30(図3参照)へ直接搬送することも可能である。搬送装置4は、この実施例では、ロボットアーム8として構成されている。自動着色装置1の側壁32には、開口33が形成され、この開口33を介して、被検試料支持体5aを有するラック5は、次の処理が行われるステーションないし引渡(積替)位置30へ搬送される。」

エ 「【0011】自動着色装置1(ステイナ:Stainer)と自動被覆装置3(カバーガラス装着装置:Coverslipper)との間の連絡(つなぎ)を行なう本発明のシステムの一構成要素、即ち移送装置2を、図3に詳細に示した。移送装置2は、自動着色装置1と自動被覆装置3との間に設けられ、従って自動着色装置1と自動被覆装置3とを結合する。自動着色装置1の搬送装置4は、着色された被検試料支持体5aを有するラック5を移送装置2の引渡(積替)位置30に載置する。そのため、移送装置2は、第一側壁22の開口部(Freisparung)21と第二側壁24の開口部23とによって画成される貫通孔部(Durchgriff)20を有する。移送装置2は、正面蓋25を有し、この正面蓋25を介して、移送装置2の内部にアクセスすることができる。移送装置2には、自動被覆装置3が連結される。移送装置2の第二側壁24に相対する自動被覆装置3の側壁13には開口14が形成され、そのため、移送装置2が、被検試料支持体5aを有するラック5を自動被覆装置3へ移送し、或いは被検試料支持体5aを有さないラック5を自動被覆装置3から引き戻すことができる。自動被覆装置3と自動着色装置1との間の連絡(引き渡し)は、以下のようにして行われる:まず、自動着色装置1は、自動着色装置1がラック5を自動被覆装置3に降下(載置)してよいか否かを照会する。これに対する自動被覆装置3の回答は、「イエス」か「ノー」でありうる。「ノー」の場合は、この照会は、一定の時間間隔で繰り返し行われる。「イエス」の場合は、ラックは降下(載置)され、「ラック引渡」という通報が生成される。そして自動被覆装置3は、「ラック受領」を通報する。このプロセスは、引渡(積替)位置でのラックの長い待ち時間を阻止する。迅速な(ラックの)引渡は有利である。というのは、被検試料支持体は、通常、溶剤(大抵はキシロール)を含む槽内に収容されており、予め短時間溶剤中に浸沈されていた湿潤した被検試料支持体は、カバーガラスの接着剤のための極めて良好な粘弾性ないし流動性(Fliessverhalten)を示すからである。」

オ 「【0012】図4は、自動着色装置1の側壁32と結合した移送装置2の側面図である。図示の明瞭化のため、自動着色装置1の側壁32のみを示した。移送装置2の第一側壁22には、同様に、自動着色装置1の側壁32の対応する固定要素(不図示)と協働する固定要素26が設けられる。同様に、移送装置2の第二側壁24には、自動被覆装置3の側壁13の固定要素13aと協働する固定要素26が設けられる。移送装置2は、ハウジング27を有し、ハウジング27は、底面28、正面蓋25、正面蓋25に相対する後壁29、及び上述の互いに相対する第一及び第二側壁22及び24を有する。更に、移送装置2には、実質的に第一及び第二側壁22及び24の第一及び第二開口部21及び23によって画成される貫通孔部20が形成される。ラック5のための引渡(積替)位置30は、第一側壁22の第一開口部21の領域に設けられる。第一側壁22の第一開口部21は、自動着色装置1の側壁32の開口33に相対するよう形成される。自動着色装置1の側壁32の開口33を介して、被検試料支持体5aを有するラック5は、自動着色装置1から移送装置2へ移送される。この移送は、同時に、移送装置2の第一側壁22の開口部21を介しても行われる。移送装置2は、更に、被覆カバー34を有し、これによって装置内部の汚染を防止する。
【0013】図5には、明瞭化の観点から、本発明のシステムの各構成要素を互いに分離して示した。作動時には、自動着色装置1(図5では側壁32のみを示した)、移送装置2、及び自動被覆装置3は互いに結合される。自動着色装置1は、側壁に開口33を有し、自動着色装置1の搬送装置4は、この開口33を通って(往復的に)出入運動することができる。即ち、搬送装置4は、一方では、被検試料支持体を有するラックを異なる処理ステーション間で移動させたり、他方では、被検試料支持体を有するラックを(自動着色装置1から)移送装置2へ移送させる。移送装置2は、第一側壁22の開口部21と第二側壁24の第二開口部23とによって画成される貫通孔部20を有する。移送装置2には、第二側壁24の開口部23を通って外部へ延伸し、自動被覆装置3内へ到達する搬送装置35が設けられる。搬送装置35は、その際、自動被覆装置3の側壁13の開口14も貫通通過する。
【0014】図6は、個々の構成要素が組み立てられた状態の本発明のシステムの模式図である。自動着色装置1、移送装置2、及び自動被覆装置3は、この図では、互いに結合し、外界に対し実質的に閉じた系を形成する。」

カ 「【0015】
【発明の効果】本発明の独立請求項1により、所定の課題として掲げた効果が上述の通り達成される。即ち、本発明の被検試料支持体の着色・被覆システムにより、被検試料支持体の操作の可及的広範囲に亘る自動化を保証し、被検試料支持体の着色及びそれに引き続く被覆(カバーガラス等の被覆部材の装着)の際に、利用者からの影響を最小に制限することができる。各従属請求項により、更に付加的な効果が上述の通りそれぞれ達成される。」

(2)補正発明と刊行物1発明との対比・判断
ア 刊行物1発明
(ア)刊行物1の「自動着色装置」は、上記(1)イ、ウに記載されているように、「組織染色装置」であり、スライドガラスに載置された被検試料を着色、すなわちスライドガラス上の被検試料である組織を染色する装置であると認められる。
(イ)刊行物1の「自動被覆装置」は、上記(1)イ、エに記載されているように、「カバーガラス装着装置」であって、カバーガラスは被検試料支持体であるスライドガラスに装着されるものと認められる。
(ウ)また、そのような自動着色装置と自動被覆装置の間には、上記(1)ア、ウ、エ、オに記載されているように、前記スライドガラスを担持するラックのための「搬送装置35」が配設され、該搬送装置35は自動被覆装置内へ供給可能に構成される「移送装置」を有し、前記スライドガラスを担持するラックは自動着色装置の「ロボットアーム8として構成される」「搬送装置4」と搬送装置35の「移送装置」によって、自動着色装置から自動被覆装置へと輸送されるものであるから、自動着色装置と自動被覆装置との間で、前記スライドガラスを自動着色装置のロボットアームとして構成される「搬送装置4」と搬送装置35の「移送装置」によって輸送する輸送経路が存在するものと認められる。
(エ)そして、自動被覆装置は、上記(1)ウ、エ、オに記載されているように、該カバーガラスが染色された該スライドガラスに装着され、染色された該スライドガラスが該自動被覆装置に輸送されるように、該自動着色装置の後に位置されているものである。

(オ)これらの記載を勘案して、補正発明の記載に倣って整理すると、刊行物1には、次の発明が記載されていると認められる。
「被検試料である組織を載置したスライドガラスの着色・被覆システムであって、
カバーガラスを該スライドガラスに装着する自動被覆装置と、
該スライドガラス上の被検試料である組織を染色する自動着色装置と、
該自動被覆装置と該自動着色装置との間で、該スライドガラスを該自動着色装置のロボットアームとして構成される搬送装置(4)と搬送装置(35)の移送装置によって輸送する輸送経路と
を含み、ここで、該自動被覆装置は、該カバーガラスが染色された該スライドガラスに装着され、染色された該スライドガラスが該自動被覆装置に前記搬送装置及び移送装置によって輸送されるように、該自動着色装置の後に位置させる、システム。」(以下「刊行物1発明」という。)

イ 対比
そこで、補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「被検試料である組織を載置したスライドガラスの着色」は、生物学的標本を得るための組織の染色処理を意味することは、生物学的標本処理の技術常識から明らかであるし、スライドガラスのカバーガラスによる被覆処理も、生物学的標本の処理の一環であるから、刊行物1発明の「被検試料である組織を載置したスライドガラスの着色・被覆システム」は、補正発明の「生物学的標本を処理するシステム」に相当する。
(イ)刊行物1発明において染色される被検試料の組織が載置される「スライドガラス」は、顕微鏡検査で普通に使用されているスライドガラスであると技術常識から理解されるところ、補正発明における「顕微鏡スライド」については、本願明細書の発明の詳細な説明には【背景技術】についての【0002】に「種々の設定において、生物学的標本の検査は、診断の目的で必要とされる。一般的に言えば、病理学者および他の診断医は、患者からのサンプルを収集して研究し、そして顕微鏡検査および他のデバイスを利用して、これらのサンプルを細胞レベルで評価する。多数の工程が、代表的に、病理学および他の診断プロセスに包含される。これらの工程としては、生物学的サンプル(例えば、血液および組織)の収集、サンプルの処理、顕微鏡スライドの準備、染色、検査、再試験または再染色、さらなるサンプルの収集、サンプルの再検査、および最終的には、診断知見の提供が挙げられる。」と、【0005】には「自動化器具の補助にもかかわらず、病理学者、他の診断医および実験室の人員は、代表的に、生物学的サンプルの処理および検査の間の多数の工程に関わらなければならない。例えば、一旦、サンプルが染色されると、顕微鏡スライド上の切片化された染色済みサンプルは、代表的に、顕微鏡下で物理的に検査される。これは代表的に、顕微鏡スライドを、その実験室の外部にいる診断医に輸送することを包含するか、または他の場合においては、診断医がその実験室に行って、その顕微鏡スライドを検査することを包含し得る。」、発明の要旨についての【0032】には「1つの実施例において、標本が収集され、次いで、染色された顕微鏡スライドを作製するために、必要に応じて処理される。この実施例は、自動化された組織処理(パラフィン浸潤が挙げられる)を包含し、データが、病院または実験室の情報システムに記録される。この処理された標本は、必要に応じて、同じ自動化機械または別の自動化機械においての包埋のために、次に回される。ここでまた、データが、必要に応じて生成され、そして記録される。次いで、包埋された標本は、切片化のために次に回され得、データがまた、必要に応じて生成され、そして記録される。これらの切片は、必要に応じて、顕微鏡スライド上に配置され、カバーガラスを配置され、そして必要に応じて、任意の所望の順序で、パラフィンを除去され、洗浄され、そして染色される。」等と記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「スライドガラス」は、補正発明の「顕微鏡スライド」に相当する。

(ウ)そして、補正発明の「カバーガラスを顕微鏡スライドに適用するカバーガラス配置システム」について、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、当該「システム」の具体的な構造等については特に記載がされておらず、カバーガラスを顕微鏡スライドに配置する機能を備えるシステムを特定する以上の技術的意義はないから、刊行物1発明の「カバーガラスを該スライドガラスに装着する自動被覆装置」は、補正発明の「カバーガラスを顕微鏡スライドに適用するカバーガラス配置システム」に相当するものといえる。

(エ)また、補正発明の「該顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する染色システム」についても、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、当該「システム」の具体的な構造等については特に記載がされておらず、顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する機能を備えるシステムを特定する以上の技術的意義はないから、刊行物1発明の「該スライドガラス上の組織を染色する自動着色装置」は、補正発明の「該顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する染色システム」に相当するものといえる。

(オ)さらに、刊行物1発明の「該自動被覆装置と該自動着色装置との間で、該スライドガラスを該自動着色装置のロボットアームとして構成される搬送装置(4)と搬送装置(35)の移送装置によって輸送する輸送経路」について、上記(1)エに「自動被覆装置3と自動着色装置1との間の連絡(引き渡し)は、以下のようにして行われる:まず、自動着色装置1は、自動着色装置1がラック5を自動被覆装置3に降下(載置)してよいか否かを照会する。これに対する自動被覆装置3の回答は、「イエス」か「ノー」でありうる。「ノー」の場合は、この照会は、一定の時間間隔で繰り返し行われる。「イエス」の場合は、ラックは降下(載置)され、「ラック引渡」という通報が生成される。そして自動被覆装置3は、「ラック受領」を通報する。」と記載され、該自動被覆装置と該自動着色装置との間の情報のやり取りに基づいて輸送が制御されるものであり、被覆装置及び着色装置とも「自動」で行われるものであることを考慮すると、自動的に輸送が制御される搬送装置及び移送装置がスライドガラスを輸送する輸送経路であるといえる。
一方、補正発明の「ロボット制御」について、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には「ロボット制御」という用語については何ら記載がなく、【0048】に「例えば、材料は、1つのステーションから次のステーションへとロボットにより輸送され得る。」という「ロボット」という用語が使用された記載が一箇所あるだけである。そうすると、補正発明の「ロボット制御」について、人に代わり何らかの作業を行う機械、装置を自動的に制御するという以上の特別な技術的意義はないから、刊行物1発明の「該自動被覆装置と該自動着色装置との間で、該スライドガラスを該自動着色装置のロボットアームとして構成される搬送装置(4)と搬送装置(35)の移送装置によって輸送する輸送経路」は、補正発明の「該カバーガラス配置システムと該染色システムとの間で、該顕微鏡スライドをロボット制御で輸送する輸送経路」に相当するものといえる。

(カ)したがって、補正発明と刊行物1発明とは、次の一致点で一致し、次の相違点において相違する:
(一致点)
「生物学的標本を処理するシステムであって、
カバーガラスを顕微鏡スライドに適用するカバーガラス配置システムと、
該顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する染色システムと、
該カバーガラス配置システムと該染色システムとの間で、該顕微鏡スライドをロボット制御で輸送する輸送経路と
を含み、ここで、該カバーガラス配置システムは、該カバーガラスが該顕微鏡スライドに適用される、システム。」である点。

(相違点)
該カバーガラス配置システムが、補正発明では、「次いで、カバーされた該スライドが該染色システムにロボット制御で輸送されるように、該染色システムの前に位置させる」ものであるのに対して、刊行物1発明では、該カバーガラスが染色された該顕微鏡スライド(スライドガラス)に適用(装着)され、染色された該スライドが該カバーガラス配置システム(自動被覆装置)に輸送されるように、該染色システム(自動着色装置)の後に位置させるものである点。

ウ 相違点についての検討
(ア)上記相違点を周知技術を考慮して検討するにあたり、スライドガラス(顕微鏡スライド)上の被検試料である組織(生物学的試料)の染色と、カバーガラスのスライドガラス(顕微鏡スライド)への装着(適用)とについて、例えば、次のような周知例がある。
特開2002-5798号公報(以下「周知例1」という。)の【0002】には「顕微鏡検査される生体組織試料は、組織の固定,包埋,薄切り,染色等、多数の工程を経て用意される。・・・具体的には、スライドガラス1とカバーガラス2との間に挟んだ組織切片S(図1)を染色する」と記載され、
特開平9-43118号公報(以下「周知例2」という。)の【0002】及び【0006】には「透明な試料プレートとしてのスライドガラス上に生物組織の薄片(以下、単に試料という)を付着させ、そのスライドガラス上の試料に対して脱水、染色、ハイブリダイゼーションなどの多くの処理が行われる」及び「スライドガラスの試料をカバーガラスで覆ってスライドガラスとカバーガラスとの間に試薬を滴下し、試薬の表面張力を利用してそのガラス間に試薬を取り込ませ、これによって試薬処理を実行する」と記載され、
そして、特開平9-281017号公報(以下「周知例3」という。)の【0002】及び【0006】にも周知例2と同様な記載がある。

(イ)上記周知技術を考慮するに、スライドガラス(顕微鏡スライド)上の被検試料である組織(生物学的試料)の染色と、カバーガラスのスライドガラス(顕微鏡スライド)への装着(適用)の順序は、刊行物1発明のように、スライドガラスとカバーガラスとの間に被検試料である組織を挟む前に当該組織を染色し、その後、カバーガラスを装着し当該組織を被覆するという順序だけでなく、スライドガラスとカバーガラスとの間に被検試料である組織を挟んだ後に、当該組織を染色するという順序で行うことも、上記周知例1ないし3に記載されているように、本願優先権主張日前から、生物学的標本処理の分野で広く知られた事項に過ぎないことである。
そうすると、染色がカバーガラスのスライドガラスへの装着に先立ち行われる刊行物1発明における染色を、カバーガラスのスライドスライドへの装着の後に行われるように、すなわち、補正発明の「該カバーガラスが顕微鏡スライドに適用され、次いで、カバーされた該スライドが染色システムに」「輸送されるように、該染色システムの前に位置させる」ように、刊行物1発明における配置を変更することは当業者が容易になし得る範囲内の設計変更であると認められ、その際の輸送は上記イの(オ)で説示したとおり、刊行物1発明においても補正発明の「ロボット制御」と同様に行うことになる。

(ウ)そして、補正発明の効果は、当業者が予期し得る範囲のものであって、格別顕著な効果とは認められない。
なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、カバーガラス配置システムを染色システムの前に位置させることによる効果について具体的に記載されていないが、請求人は、審判請求書において、補正発明の効果として、
「カバーガラス配置システムが染色システムの前に配置される本願発明の構成によって、様々な優れた効果が奏されます。
例えば、カバーガラスをスライド上のサンプルの上にすぐに(すなわち、染色の前に)配置することは、スライドが誤操作された場合または周囲環境内の汚染物に不意にさらされた場合に、サンプルに対して生じ得る汚れおよび/または損傷からサンプルを保護することに役立ちます。
さらに、カバーガラスがサンプル上に配置されたときに、カバーガラスとスライドとの間の狭い空間によって形成された毛管力によりサンプルの上の染料を引き込むことを助け得ます。例えば、カバーガラスの一辺に沿って配置された染料は、カバーガラスの下で、そしてサンプルの上で、カバーガラスの他の側に引き込まれ得ます。この態様で染料をサンプルにわたって引き込むことは、染料がサンプルに均一に配置されることを助けます。カバーガラスとスライドとの間に配置されたサンプルの上に染料を引き込むために毛管力が用いられるこのような染色技術は、技術常識であり、組織学分野では十分に理解されています。」と主張しているが、このような効果も、生物学的標本処理の分野で広く知られた上記事項から予測される範囲内のもので格別なものとは認められない。

(3)小活
以上のとおりであるから、補正発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年3月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び2に係る発明は、平成25年6月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであって、その請求項1は以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という)
「 【請求項1】
生物学的標本を処理するシステムであって、
カバーガラスを顕微鏡スライドに適用するカバーガラス配置システムと、
該顕微鏡スライド上の生物学的材料を染色する染色システムと、
該カバーガラス配置システムと該染色システムとの間で、該顕微鏡スライドをロボット制御で輸送する輸送経路と
を含み、ここで、該カバーガラス配置システムは、該カバーガラスが該顕微鏡スライドに適用され、次いで、カバーされた該スライドが該染色システムに輸送されるように、該染色システムの前に位置させる、システム。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1とその記載事項は、前記第2の2(1)に記載したとおりである。

3 本願発明と刊行物1発明との対比・判断
本願発明は、前記第2の2で検討した補正発明において、カバーされた該スライドの該染色システムへの輸送についての「ロボット制御で」という限定記載がないものであるので、本願発明は、前記第2の2で検討した補正発明を包含する。
そうすると、補正発明と同様に、本願発明も刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願優先権主張日前に頒布された上記刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-21 
結審通知日 2015-05-22 
審決日 2015-06-03 
出願番号 特願2010-99181(P2010-99181)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤坂 祐樹  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 生物学的標本を処理するための自動システムおよび方法  
代理人 森下 夏樹  
代理人 山本 秀策  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ