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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1306846
審判番号 不服2014-6751  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-11 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2009-273096号「補助駆動回路及び、ハイブリッド車両」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日出願公開、特開2010-136614号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2009年12月1日(パリ条約による優先権主張2008年12月2日、米国)の出願であって、平成25年12月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年4月11日に本件審判が請求されるとともに、審判請求と同時に手続補正がなされ、当審において平成27年1月19日付けで拒絶理由を通知したところ、平成27年4月15日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明について
1.本願発明
本件出願の請求項1?10に係る発明は、平成27年4月15日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
第1のDC母線(105)に結合されていて、前記第1のDC母線(105)に電力を出力するように構成されている第1のエネルギ蓄積装置(104)と、
前記第1のDC母線(105)及び第2のDC母線(110)に結合されていて、前記第1のDC母線(105)からの前記電力を第1の電圧に変換して、該第1の電圧を前記第2のDC母線(110)に出力し、前記第2のDC母線(110)に牽引駆動装置が取り付けられるように構成されている第1のDC-DC電圧コンバータ(106)と、
前記第2のDC母線(110)及び補助母線(103)に結合されていて、前記第1の電圧を第2の電圧に変換して、該第2の電圧を前記補助母線(103)に供給するように構成されている第2のDC-DC電圧コンバータ(108,120)であって、前記補助母線(103)からの補助電圧が補助負荷(102)に供給されるように構成されており、また前記第2の電圧が前記第1の電圧とは異なっている、当該第2のDC-DC電圧コンバータ(108,120)と、
前記牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子に基づいて変動する測定値を用いて、前記補助負荷(102)に供給される電圧を独立して制御するための制御装置(109)と、
を備える、
補助駆動回路。」

2.引用刊行物とその記載事項
(1)当審における平成27年1月19日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2006-278297号公報(以下「刊行物1」という。)には、電圧変換装置、燃料電池発電システムおよび発電方法に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、例えば燃料電池自動車に好適に用いられる電圧変換装置、燃料電池発電システムおよび発電方法に関する。」
(イ)「【0023】
図1は、本発明の一実施の形態に係る燃料電池発電システムの全体構成を表すものである。この燃料電池発電システムは、燃料電池1で生成された電力をDC-DCコンバータ5およびインバータ7に供給することで、DC-DCコンバータ5の負荷およびモータ8に対する駆動を行うものである。なお、本発明の一実施の形態に係る発電方法は、本実施の形態に係る燃料電池発電システムによって具現化されるので、以下、併せて説明する。
【0024】
この燃料電池発電システムは、燃料電池1と、水タンク2と、二次電池3と、DC-DCコンバータ4(第1のDC-DCコンバータ)と、DC-DCコンバータ5(第2のDC-DCコンバータ)と、このDC-DCコンバータ5の負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63と、インバータ7と、モータ8とを備えている。」
(ウ)「【0026】
二次電池3は、この燃料電池発電システムの始動時に用いられ、燃料電池1が始動するまでの間の補助電源として機能するものである。二次電池3は、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、または電気二重層コンデンサなどにより構成される。また、この二次電池3から供給された電圧は、DC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、DC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給される。このようにして燃料電池発電システムの始動時には、燃料電池1の代わりに二次電池3からDC-DCコンバータ4を介してDC-DCコンバータ5およびインバータ7へ電力が供給されるようになっている。」
(エ)「【0028】
DC-DCコンバータ5は、燃料電池1から(または始動時には、DC-DCコンバータ4から)入力端子T1,T2を介して供給された入力直流電圧Vinを、この入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧(出力電圧)Voutへと変換し、負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動するのものである。これらの負荷は、DC-DCコンバータ5の出力端子T3,T4からそれぞれ、出力ラインLOおよび接地ラインLGを介して接続されている。
【0029】
ヒータ61は、低温下での(例えば、寒冷地や冬場などでの)始動時に、水タンク2内や水経路WL内の水を加熱して水温を上昇させるためのものであり、発生した熱Q1を伝導させることができるような位置に配置されている(隣在している)。このヒータ61は、例えばシーズヒータなどにより構成される。補機用バッテリ62は、DC-DCコンバータ5から供給される電力を貯蔵すると共に、その電力に基づいて補機63を駆動するためのバッテリである。この補機63としては、例えば、エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、またはラジオなどが挙げられる。」
(オ)【図1】には、
第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線に結合されている二次電池3と、
前記第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線及び第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線に結合されている第1のDC-DCコンバータ4と、
インバータ7と、
インバータ7に接続されるモータ8と、
前記第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線及びヒータ61、補機用バッテリ62、補機63にいたる電線に結合されている第2のDC-DCコンバータ5と、
ヒータ61、補機用バッテリ62、補機63と、
を備える、燃料電池自動車に好適に用いられる燃料電池発電システム
が記載されている。

(カ)記載事項(ウ)の二次電池3は、「二次電池3から供給された電圧は、DC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、DC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給される」ものであるので、
第1のDC-DCコンバータ4に電力を供給するように構成されている二次電池3といえる。
(キ)記載事項(ウ)の第1のDC-DCコンバータ4は、「二次電池3から供給された電圧は、DC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、DC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給される」ものであるので、
二次電池3から供給された電圧は、第1のDC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、第2のDC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給されるように構成されている第1のDC-DCコンバータ4といえる。
(ク)記載事項(ウ)の第2のDC-DCコンバータ5は、記載事項(エ)の「DC-DCコンバータ5は、燃料電池1から入力端子T1,T2を介して供給された入力直流電圧Vinを、この入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧(出力電圧)Voutへと変換し、負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動するのもの」であるので、
入力直流電圧Vinを、この入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧Voutへと変換して、負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動するように構成されている第2のDC-DCコンバータ5といえる。
(ケ)記載事項(オ)の「補機63」は、記載事項(エ)の「補機63としては、例えば、エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、またはラジオなどが挙げられる」ものであるので、エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、ラジオなどの補機63といえる。

すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されているということができる。
「第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線に結合されていて、第1のDC-DCコンバータ4に電力を供給するように構成されている二次電池3と、
前記第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線及び第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線に結合されていて、二次電池3から供給された電圧は、第1のDC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、第2のDC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給されるように構成されている第1のDC-DCコンバータ4と、
インバータ7と、
インバータ7に接続されるモータ8と、
前記第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線及びヒータ61、補機用バッテリ62、補機63にいたる電線に結合されていて、入力直流電圧Vinを、この入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧Voutへと変換して、負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動するように構成されている第2のDC-DCコンバータ5と、
ヒータ61、補機用バッテリ62、エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、ラジオなどの補機63と、
を備える、
燃料電池自動車に好適に用いられる燃料電池発電システム。」

(2)当審における平成27年1月19日付けで通知した拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特開平5-184180号公報(以下「刊行物2」という。)には、モータ制御装置に関し、図面とともに、次の技術的事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】 外気温度や内気温度及び水温などの入力温度条件によりモータに印加する電圧を設定する手段と、電源電圧を測定する測定手段と、上記入力温度条件により設定された印加電圧と電源電圧より制御電圧の目標値を発生させる手段と、上記目標値に応じてモータを制御する手段とを具備してなるモータ制御装置。」
(イ)「【0002】
【従来の技術】従来自動車などに搭載されたエアコンのモータは、外気温度や内気温度、水温などによりモータに印加される電圧が制御されるようになっており、このため外気温度や内気温度、水温などを検出するためのセンサが設けられている。」
(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】この発明は上記目的を達成するために、外気温度や内気温度及び水温などの入力温度条件によりモータに印加する電圧を設定する手段と、電源電圧を測定する測定手段と、上記入力温度条件により設定された印加電圧と電源電圧より制御電圧の目標値を発生させる手段と、上記目標値に応じてモータを制御する手段とを具備したものである。」
(エ)「【0007】
【実施例】この発明の一実施例を図面を参照して詳述する。図において1は図示しないエアコンの送風用モータ、2はモータ駆動回路、3は演算処理装置(CPU)を示す。上記演算処理装置にはセンサ4より外気温度と内気温度及び水温などの温度条件と、バッテリから電源電圧VBが電圧検出回路5を介して入力されている。
【0008】センサ4及び電圧検出回路5により検出された入力温度条件及び電源電圧VBは、演算処理装置3内のA/D変換器6、7によりデジタル信号に変換された後演算回路8へ入力され、演算回路8は入力温度条件よりモータ1へ印加する電圧VMを設定し、同時に電源電圧VBの変動に応じて次式により制御電圧VCの目標値が算出されるようになっている。
VC=VB-VM
【0009】上記のようにして算出された制御電圧VCの目標値は、パルス幅変調(PWM)されてモータ制御回路2へ出力され、モータ制御回路2に設けられたコンデンサCよりなる積分回路で積分された後、制御電圧VCが抵抗分割された電圧と等しくなるようにデューティ制御されるようになっている。以上のようにエアコンのモータ1を制御することにより、電源電圧VBが変動しても快適にエアコンを動作させることができるようになる。」

すると、刊行物2には、次の発明(以下「刊行物2記載の発明」という。)が開示されているということができる。
「センサ4により検出された入力温度条件によりモータに印加する電圧を設定する手段と、電源電圧を測定する測定手段と、上記入力温度条件により設定された印加電圧と電源電圧より制御電圧の目標値を発生させる手段と、上記目標値に応じてモータを制御する手段とを具備してなる自動車などに搭載されたエアコンのモータ制御装置。」


3.本願発明と引用発明との対比
(1)両発明の対応関係
(a)引用発明の「第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線」は、本願発明の「第1のDC母線(105)」に相当し、以下同様に、
「第1のDC-DCコンバータ4に電力を供給するように構成されている二次電池3」は、電力供給が「第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線」を介して行われることが自明であるので、「第1のDC母線(105)に電力を出力するように構成されている第1のエネルギ蓄積装置(104)」
に相当する。
(b)引用発明の「第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線」は、本願発明の「第2のDC母線(110)」に相当し、以下同様に、
「二次電池3から供給された電圧は、第1のDC-DCコンバータ4によって電圧変換されると共に安定化され、第2のDC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給される」ことは、二次電池3から供給が「第1のDC-DCコンバータ4にいたる電線」を介して行わること、第2のDC-DCコンバータ5およびインバータ7へ供給が「第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線」を介して行われることが自明であるので、「第1のDC母線(105)からの前記電力を第1の電圧に変換して、該第1の電圧を前記第2のDC母線(110)に出力」することに、
「インバータ7」及び「インバータ7に接続されるモータ8」(「燃料電池自動車」のもの)は、(「ハイブリッド車両及び電気車両に関する様々な実施形態を含む」本願発明の)「牽引駆動装置」に、
「第1のDC-DCコンバータ4」は、「第1のDC-DC電圧コンバータ(106)」
に相当する。
また、引用発明の「インバータ7」が「第2のDC-DCコンバータ5とインバータ7にいたる電線」に接続されていることは自明であるので、引用発明の「インバータ7に接続されるモータ8」の接続関係は、本願発明の「第2のDC母線(110)に牽引駆動装置が取り付けられる」接続関係に相当する。
(c)引用発明の「ヒータ61、補機用バッテリ62、補機63にいたる電線」は、本願発明の「補助母線(103)」に相当し、以下同様に、
「入力直流電圧Vinを、この入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧Voutへと変換」は、「第1の電圧を第2の電圧に変換」に、
「第2のDC-DCコンバータ5」が「負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動する」ことは、補機用バッテリ62および補機63の駆動が「ヒータ61、補機用バッテリ62、補機63にいたる電線」を介して行われることが自明であるので、「第2のDC-DC電圧コンバータ(108,120)」が「第2の電圧を前記補助母線(103)に供給するように構成されている」ことに、
「入力直流電圧Vinとは異なる電圧の出力直流電圧Vout」であることは、「前記第2の電圧が前記第1の電圧とは異なっている」ことに、
「第2のDC-DCコンバータ5」は、「第2のDC-DC電圧コンバータ(108,120)」
に相当する。
(d)引用発明の「燃料電池自動車に好適に用いられる燃料電池発電システム」は、「負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動する」ものであるので、本願発明の「補助駆動回路」に相当する。
(e)引用発明の「エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、ラジオなどの補機63」のうち、「エアコン」「ヘッドライト」「パワーウインド」等は例えば、エアコンが電源入切りや温度制御を行う制御装置とコンプレッサー用モーター・送風モーター等の負荷で構成され、ヘッドライトが点消灯やディマー切替えを行う制御装置とランプ等の負荷で構成され、パワーウインドが開閉切替えを行う制御装置と駆動モーター等の負荷で構成されるように、それぞれ制御装置と負荷で構成されることは技術常識である。
そして、上記(c)に記載したように引用発明の「第2のDC-DCコンバータ5」が「補機63を駆動する」ことは、駆動が「ヒータ61、補機用バッテリ62、補機63にいたる電線」(すなわち、「補助母線(103)」)を介して電圧が供給され、その電圧で上記モーターやランプ等の補機の負荷が駆動されることを意味する。
そうすると、引用発明の「第2のDC-DCコンバータ5」が「負荷であるヒータ61、補機用バッテリ62および補機63を駆動する」構成(具体的には、上記モーターやランプ等の補機の負荷に電圧を供給して駆動する構成)と、本願発明の「補助母線(103)からの補助電圧が補助負荷(102)に供給される」構成とは、「補助母線からの電圧が負荷に供給される」構成である点で共通する。
また、上記エアコン、ヘッドライト、パワーウインド等のそれぞれの制御装置は、それぞれ独立して、それぞれの負荷に供給する電圧や周波数等を制御することが自明であるので、それら制御装置と、本願発明の「補助負荷(102)に供給される電圧を独立して制御するための制御装置(109)」とは、「負荷に供給される電圧を独立して制御するための制御装置」で共通する。

(2)両発明の一致点
「第1のDC母線に結合されていて、前記第1のDC母線に電力を出力するように構成されている第1のエネルギ蓄積装置と、
前記第1のDC母線及び第2のDC母線に結合されていて、前記第1のDC母線からの前記電力を第1の電圧に変換して、該第1の電圧を前記第2のDC母線に出力し、前記第2のDC母線に牽引駆動装置が取り付けられるように構成されている第1のDC-DC電圧コンバータと、
前記第2のDC母線及び補助母線に結合されていて、前記第1の電圧を第2の電圧に変換して、該第2の電圧を前記補助母線に供給するように構成されている第2のDC-DC電圧コンバータであって、補助母線からの電圧が負荷に供給されるように構成されており、また前記第2の電圧が前記第1の電圧とは異なっている、当該第2のDC-DC電圧コンバータと、
負荷に供給される電圧を独立して制御するための制御装置と、
を備える、
補助駆動回路。」

(3)両発明の相違点
相違点1:第2のDC-DC電圧コンバータが、本願発明は補助母線からの「補助電圧が補助負荷」に供給されるように構成されたものであるのに対して、引用発明は補機63にいたる電線に接続された「補機63」である「エアコン」「ヘッドライト」「パワーウインド」等のモータやランプを駆動するように構成されたものである点。
相違点2:制御装置が、本願発明は「牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子に基づいて変動する測定値を用いて、前記補助負荷に供給される電圧」を独立して制御するのに対して、引用発明はそのように特定されていない点。

4.本願発明の容易推考性の検討
(1)相違点1について
上記3.(1)(e)に記載したように、引用発明の「エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、ラジオなどの補機63」のうち、「エアコン」「ヘッドライト」「パワーウインド」等は例えば、エアコンが電源入切りや温度制御を行う制御装置とコンプレッサー用モーター・送風モーター等の負荷で構成され、ヘッドライトが点消灯やディマー切替えを行う制御装置とランプ等の負荷で構成され、パワーウインドが開閉切替えを行う制御装置と駆動モーター等の負荷で構成されるように、それぞれ制御装置と負荷で構成されることは技術常識であるところ、それらコンプレッサー用モーター、送風モーター、ランプ、駆動モーター等の補機63の負荷は、燃料電池自動車の主負荷といえるモータ8(本願発明の「牽引駆動装置」に相当するもの)に対して、補助負荷といえるものであり、また、同様に補機63の負荷に印加される電圧は補助電圧といえるものである。
そうすると、相違点1は、単なる呼称方法の違いであって、実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
(a)まず、上記(1)にともなって、制御装置が制御する電圧が「補助負荷に供給される電圧」となることは自明である。
(b)また、刊行物2には刊行物2記載の発明が記載されており、刊行物2記載の発明の「センサ4により検出された入力温度条件」は、本願発明の「牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子に基づいて変動する測定値」に相当し、以下同様に、
「エアコンのモータ」は、「補助負荷(102)」に、
「入力温度条件により設定された印加電圧と電源電圧より制御電圧の目標値を発生させ・・目標値に応じてモータを制御する手段」は、「補助負荷(102)に供給される電圧を独立して制御するための制御装置(109)」に相当する。
そうすると、刊行物2記載の発明のエアコンのモータ制御装置は、本願発明の表現に倣うと「牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子に基づいて変動する測定値を用いて、補助負荷に供給される電圧を独立して制御するための制御装置」といえる。
(c)そして、引用発明の「エアコン、ヘッドライト、パワーウインド、パワーステアリング、ラジオなどの補機63」の「エアコン」を、刊行物2記載の「入力温度条件により設定された印加電圧と電源電圧より制御電圧の目標値を発生させ・・目標値に応じてモータを制御する手段」を具備したエアコンとし、その制御装置を、牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子に基づいて変動する測定値を用いて、補助負荷に供給される電圧を独立して制御するための制御装置として、本願発明の相違点2の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
(d)なお、上記(b)においては、本願発明の「・・外部因子に基づいて変動する測定値」の「外部因子」が、「牽引駆動装置の牽引駆動出力又はトルク・レベルを含む外部因子」であって、「牽引駆動装置の牽引駆動出力」又は「牽引駆動装置のトルク・レベル」に基づいて変動する測定値と限定したものではないので上記(b)の相当関係としたが、念のため、「外部因子に基づいて変動する測定値」が、「牽引駆動装置の牽引駆動出力」又は「牽引駆動装置のトルク・レベル」に基づいて変動する測定値そのものであることを必須とするものとして扱った場合についても検討しておく。
例えば、車両の補機のうち、エアコンや充電装置等、運転に直接影響を与えない装置にあっては、原動機の高負荷時(本願発明の「牽引駆動出力又はトルク・レベル・・に基づいて変動する測定値」に対応するもの)に、機能を制限若しくは停止する制御態様は、例えば、特許第3304553号公報には自動車用電動圧縮機の制御駆動装置に関して【0030】に「走行用駆動モータの負荷を検出する負荷検出装置を設け、走行モータの負荷率を検出して空調用の電動圧縮機の周波数を設定値まで降下させているので、走行駆動モータが優先にバッテリーの電源容量を使用でき、車両の走行性能の向上と電源電圧低下による・・悪影響を及ぼさない。」と、特許第3163622号公報には電気自動車に関して【0026】に「ステップS21で電動モータ1の負荷量が大きいか否かが判別され・・大きいと判断されたとき・・・エアコン3への供給電流を3△i/サイクルで徐々に減少させ、これを電動モータ1への供給に徐々に切り換える・・」と、特開2004-3453号公報には動力出力装置およびこれを備える自動車に関して【0032】に「実施例ではモーター駆動用電力Pmがバッテリ最大電力Pmaxから始動用電力Psを減じた電力に至る直前のタイミング・・に行われる。・・バッテリ出力Pbが基準電力Prefより大きいと判定されるから、補機56の駆動が停止されてエンジン22が始動される。」と記載されているように、周知の制御態様である。
そして、引用発明の「補機63」である「エアコン」も、自動車のエアコンである以上、上記周知の制御態様を用いることに特段の困難性が存在するものではない。
そうすると、引用発明の「補機63」である「エアコン」を、刊行物2記載のモータを制御する手段を具備したエアコンとするとともに、上記周知の制御態様のものとして、本願発明の相違点2の構成とすることも当業者が容易に想到し得たことである。

(3)本願発明の「牽引駆動装置」に係る予備的検討
上記「3.(1)(b)」において、引用発明の「インバータ7」と「インバータ7に接続されるモータ8」とが両方で、本願発明の「牽引駆動装置」に相当するとしたが、本願発明の「牽引駆動装置」(「DC母線(110)に・・取り付けられる」もの)が、直流電動機の様な直流機器であるとして扱った場合についても検討しておく。
例えば、特開平4-325804号公報(図面参照)、実願昭57-129901号(実開昭59-34404号)のマイクロフィルム(「直流電動機・・の電機子4a」参照)等に記載されているように、直流電動機もハイブリッド車両、電気車両等の原動機として、周知のものにすぎない。
そして、引用発明の「インバータ7」と「インバータ7に接続されるモータ8」(交流電動機)とからなる駆動装置に換えて、上記周知の直流電動機を選択することは、当業者が適宜なし得ることである。

(4)総合判断
本願発明の作用効果は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び、周知技術から当業者であれば予測できた範囲のものである。
すると、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということができる。


5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると、このような特許を受けることができない発明を包含する本願は、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-15 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-01 
出願番号 特願2009-273096(P2009-273096)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 相羽 昌孝高田 基史  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
矢島 伸一
発明の名称 補助駆動回路及び、ハイブリッド車両  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  
代理人 小倉 博  
代理人 田中 拓人  

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