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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1306850
審判番号 不服2014-9354  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-20 
確定日 2015-10-14 
事件の表示 特願2009-293836「無線通信システムにおけるマルチメディア同報通信(BROADCAST)およびマルチキャスト・サービス(MBMS)」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月17日出願公開,特開2010-136397〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2003年5月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年5月6日 米国)を国際出願日とする出願である特願2004-504076号の一部を,平成21年12月25日に新たな特許出願としたものであって,平成25年6月7日付けで通知された最後の拒絶理由に対して,同年9月11日付けで手続補正がなされたが,平成26年1月10日付けで当該補正について補正の却下の決定がされるとともに拒絶査定され,これに対し,同年5月20日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 補正却下の決定
[結論]
平成26年5月20日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 平成26年5月20日付けの手続補正の概要
平成26年5月20日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,平成25年3月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を削除し,同請求項2に記載された
「【請求項2】
無線通信システムにおいて同報サービスデータを複数の端末に同報通信するための方法であって,
時分割多重(TDM)共通物理チャネルにおいて,前記同報サービスデータを前記複数の端末に同報通信するために使用されるべき複数のフレームを決定することと;
前記複数の端末に伝送するための前記同報サービスデータを処理することと;
前記TDM共通物理チャネルにおける前記複数のフレーム上で前記処理された同報サービスデータを前記複数の端末に同報通信するとともに,制御情報を別の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信することと,なお,前記制御情報は,前記複数の端末が前記TDM共通物理チャネル上で受信された前記処理された同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,前記第1の共通物理チャネルのためのパラメータを提供する;
を備えた方法。」

「【請求項1】
無線通信システムにおいて同報サービスデータを複数の端末に同報通信するための方法であって,
時分割多重(TDM)共通物理チャネルにおいて,前記同報サービスデータを前記複数の端末に同報通信するために使用されるべき複数のフレームを決定することと;
前記複数の端末に伝送するための前記同報サービスデータを処理することと;
前記TDM共通物理チャネルにおける前記複数のフレーム上で前記処理された同報サービスデータを前記複数の端末に同報通信するとともに,パリティデータを別の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信することと,なお,前記パリティデータは,前記複数の端末がエラー訂正を実行して前記TDM共通物理チャネル上で受信された前記処理された同報サービスデータを再構成することを可能とする;
を備えた方法。」
とすることを含むものである。

2 補正の適否
(1)新規事項の有無について
本件補正後の請求項1の「前記TDM共通物理チャネルにおける前記複数のフレーム上で前記処理された同報サービスデータを前記複数の端末に同報通信するとともに,パリティデータを別の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信することと,」の記載によれば,「同報サービスデータ」と「パリティデータ」とはそれぞれ別々の「共通物理チャネル」で複数の端末に同報通信されることになる。ここで,本件明細書の【0034】に例示される物理チャネルに照らせば,例えば,「同報サービスデータ」及び「パリティデータ」のうち,一方をP-CCPCHで,他方をS-CCPCHで送信することを含むものである。
一方,本件明細書の【0055】?【0068】にはチャネル構造に関して「MBMS情報タイプ」及び「チャネル構造」と項分けして開示されており,このうち【0059】には「・MBMSデータおよび制御-これは同報通信またはマルチキャストおよび他の制御情報であるMBMS内容を含む。この制御情報は,例えば,以下で論じられるように,符号化ブロックの構造および/または外部符号のためのパリティ情報を含む。」と記載されており,本件出願は特許法第36条の2第1項の規定による特許出願であるところ,外国語明細書の対応する箇所の「・ MBMS data and control - this includes the MBMS content being broadcast or multicast and other control information. This control information may include, for example, the structure of the coding block and/or parity information for the outer code, as described below.」との記載も考慮すれば,MBMSの内容(「MBMS content being broadcast or multicast」,すなわち,「同報サービスデータ」。)及びパリティ情報(「parity information」,すなわち,「パリティデータ」。)は,ともに「MBMSデータおよび制御」なる情報タイプに該当するものである。
そして,同【0065】の「・MBMSデータおよび制御-S-CCPCHおよびHS-PDSCHまたは新しく定義されたトランスポートおよび物理チャネル上にマップされる。」との記載によれば,同じ「MBMSデータおよび制御」なるMBMS情報タイプである「同報サービスデータ」及び「パリティデータ」は,S-CCPCH,HS-PDSCH,新しく定義された物理チャネルで,複数の端末に同報通信されると認められる。
しかしながら,S-CCPCHは「共通物理チャネル」であるが,HS-PDSCHは「共有物理チャネル」(physical shared channel)であって「共通物理チャネル」(common physical channel)ではない。また,本件明細書の【0007】,【0059】,【0010】?【0013】及び【0100】?【0136】(図4A?4Fの説明)等の記載をみても,同じMBMS情報タイプである「同報サービスデータ」と「パリティデータ」とが,それぞれ別々の「共通物理チャネル」で複数の端末に同報通信されることは記載も示唆もされていない。図4A?4F及びその説明を見ても,可変レート外符号化を容易にするための,M×Nマトリクス(符号化ブロック)への情報ビットの書き込み,ゼロパッディング,パリティ・ビットの生成が読み取れるのみであって,情報ビット及びパリティ・ビットがそれぞれどのように物理チャネルに対応付けられるのかについて記載も示唆もされていない。なお,【0100】?【0136】に記載中の「フレーム」は,「情報ビットの各フレーム」(【0107】),「フレームのサイズ(即ち,トランスポート・ブロック・セットサイズ,Mk)」(【0114】)等の記載からも明らかなように,時分割多重(TDM)に係るフレーム(【0084】,【0086】)ではないことは明らかである。
そして,「同報サービスデータ」及び「パリティデータ」を含む,「MBMSデータおよび制御」なる情報タイプである,「MBMSデータおよび制御」は,使用する物理チャネルとして,W-CDMAの既存の「共通物理チャネル」としてはS-CCPCHのみが規定されているのであるから,「・・・パリティデータを別の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信すること」,すなわち,例えば「同報サービスデータ」及び「パリティデータ」のうち,一方をP-CCPCHで,他方をS-CCPCHで送信することは,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
このため,上記補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

(2)補正の目的要件等について
上記(1)のとおり,本件補正は特許法第17条の2第3項の規定に違反するが,更に進めて補正の目的要件等についても以下に検討する。
本件補正の基礎となる平成25年3月5日付け手続補正により補正された請求項2(上記1参照。)には,同報サービスデータを送信するTDM共通物理チャネルとは別の共通物理チャネル上で同報通信される「制御情報」として,「前記複数の端末が前記TDM共通物理チャネル上で受信された前記処理された同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,前記第1の共通物理チャネルのためのパラメータ」と規定している。そして,本件明細書の【0057】の「・共通MBMS制御情報-(中略) 共通MBMS制御情報は,どのサービスが使用可能か,サービスが伝送される物理チャネル,およびこれらのサービスのために使用された各物理チャネル用のパラメータを,UEに通知する。これらのパラメータは,例えば,そのチャネルのために使用された,レート,符号化,変調,情報タイプ等を含む。」との記載によれば,当該「制御情報」は「共通MBMS制御情報」であると認められる。
当該認定は,平成25年3月5日付け意見書の「3.特許法第36条第6項第2号による拒絶について」の「(a)」の項における請求人の主張とも整合するものである。
一方,本件補正後の請求項1では,同報サービスデータを送信するTDM共通物理チャネルとは別の共通物理チャネル上で同報通信される「データ」として,「前記複数の端末がエラー訂正を実行して前記TDM共通物理チャネル上で受信された前記処理された同報サービスデータを再構成することを可能とする」「パリティデータ」と規定している。そして,本件明細書の【0059】の「・MBMSデータおよび制御-これは同報通信またはマルチキャストおよび他の制御情報であるMBMS内容を含む。この制御情報は,例えば,以下で論じられるように,符号化ブロックの構造および/または外部符号のためのパリティ情報を含む。」との記載によれば,当該「データ」は「MBMSデータおよび制御」であると認められる。
してみると,「共通MBMS制御情報」と「MBMSデータおよび制御」とは,情報タイプが異なり,それが伝送されるチャネル構造も異なるから,本件補正に係る「パリティデータ」は,本件補正前の請求項2における「制御情報」を限定的に減縮するものではない。そして,上記補正は,発明の技術的内容を実質的に変更するものである。
また,上記補正は,「請求項の削除」,「誤記の訂正」,「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当しないことは明らかである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反する。

3 結語
以上のとおり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項及び同第4項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成26年5月20日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成25年3月5日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
無線通信システムにおいて同報サービスデータを複数の端末に同報通信するための方法であって,
前記複数の端末に伝送するための同報サービスデータを処理することと;
前記処理された同報サービスデータを第1の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信することと;
制御情報を第2の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信することと,なお,前記制御情報は,前記複数の端末が前記第1の共通物理チャネル上で受信された前記同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,前記第1の共通物理チャネルのためのパラメータを提供する;
を備えた方法。」

2 引用発明及び周知技術
(1)引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第01/65868号(以下,「引用例」という。)には,「TRANSMISSION WITHIN A WIRELESS COMMUNICATION SYSTEM」([当審仮訳]:ワイヤレス通信システム内の送信)([当審注]:以下,[当審仮訳]は,引用例のパテントファミリーである特表2003-525552号公報の記載に基づく。)として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「Field of the Invention
The present invention relates generally to communication systems and, in particular, to data transmission within a wireless communication system.
(中略)
Turning now to the drawings, wherein like numerals designate like components, FIG. 1 is a block diagram of communication system 100 in accordance with the preferred embodiment of the present invention. In the preferred embodiment of the present invention, communication system 100 utilizes a next generation CDMA architecture as described in the cdma2000 International Telecommunication Union-Radio communication (ITU-R) Radio Transmission Technology (RTT) Candidate Submission document, but in alternate embodiments communication system 100 may utilize other analog or digital cellular communication system protocols such as, but not limited to, the next generation Global System for Mobile Communications (GSM) protocol, or the CDMA system protocol as described in "Personal Station-Base Station Compatibility Requirements for 1.8 to 2.0 GHz Code Division Multiple Access (CDMA) Personal Communication Systems" (American National Standards Institute (ANSI) J-STD-008). 」(1ページ6?7行,3ページ24行?4ページ7行)
([当審仮訳]:
(産業上の利用分野)
本発明は,一般に,通信システムに関し,さらに詳しくは,ワイヤレス通信システム内のデータ送信に関する。
(中略)
ここで,同様な参照番号は同様な構成要素を表す図面を参照して,図1は本発明の好適な実施例による通信システム100のブロック図である。本発明の好適な実施例では,通信システム100は,cdma2000 International Telecommunication Union-Radio communication (ITU-R) Radio Transmission Technology (RTT) Candidate Submission文書に記述されるような次世代CDMAアーキテクチャを利用するが,別の実施例では,通信システム100は,次世代GSM(Global System for Mobile Communications)プロトコルまたは"Personal Station-Base Station Compatibility Requirements for 1.8 to 2.0 GHz Code Division Multiple Access (CDMA) Personal Communication Systems"(米国規格協会(ANSI)J-STD-008)に記述されるようなCDMAシステム・プロトコルを含むがそれらに制限されない,他のアナログまたはデジタル・セルラ通信システム・プロトコルを利用してもよい。)

イ 「In the preferred embodiment of the present invention base stations 101-102 are capable of providing a multicasting session over network 112. More particularly, base stations 101-102 utilize the Internet Group Management Protocol (IGMP) as described in Request for Comments (RFC) document 1112 and RFC 2236 of the Internet Engineering Task Force (IETF) to provide multicasting. Remote units 113-118 that wish to receive a multicast session, monitor a multicast advertisement message on a system broadcast channel to determine a session to receive. Broadcast channels are part of the common forward physical/paging channel as described in Mobile Station-Base Station Compatibility Standards for Dual-Mode Wideband Spread Spectrum Cellular Systems, Telecommunications Industry Association Interim Standard 95 A, Washington, DC July 1993 (IS-95A), which is incorporated by reference herein.
In the preferred embodiment of the present invention, advertisement messages include information about multicast events available to remote units 113-118. The information includes the session's Internet Protocol (IP) address, port number, time and duration of the transmission, and a brief description of the event. (中略)
Base stations 101-102 will join a multicast session and forward it over the air interface via a high-speed data channel (supplemental channel) if there is at least one remote unit 113-118 that requested participation in the session. Once a remote unit requests participation in the multicast event, a common supplemental channel is assigned to the remote unit, and the multicast session is broadcast to all remote units currently participating in the multicast event.
FIG. 2 is a block diagram of base stations 101-102 of FIG. 1 in accordance with the preferred embodiment of the present invention. Base stations 101-102 comprises logic unit 201, transmit/receive circuitry comprising one or more common control channel circuits 204, one or more fundamental channel circuits 203, one or more supplemental channel circuits 205, summer 211, and modulator 215. In the preferred embodiment of the present invention, communication to remote units 113-118 may take place utilizing the supplemental channel circuitry 205 and/or fundamental channel circuitry 203. In particular, base stations 101-102 utilize two classes of channels defined for both forward and reverse transmission. In the preferred embodiment, fundamental channels 203 are similar to existing CDMA traffic channels used for voice and signaling. Similarly, common control channel 204 is used for passing system information and control signaling, along with multicast advertisement information.
When transmitting a multicast session (or group call), fundamental channels 203 or common control channels 204 (i.e., low data-rate channels) are utilized to transmit Internet Group Management Protocol (IGMP) messages for subscribing and de-subscribing to a multicast session. Fundamental channels 203 are also utilized to receive and transmit voice data to remote units 113-118 involved in the group call.(中略)
Supplemental channel circuitry 205 is utilized for communicating high data rate services (e.g., multicast packet data, video, . . ., etc.) to remote units 113-118. The data rate of the supplemental channels is specified prior to transmission. Multiple data sources are time multiplexed on this channel. In addition, the Quality-of-Service (e.g., Frame Error Rate (FER), Bit Error Rate (BER) and/or Transmission Delay) of this channel may be set and operated independently of the fundamental channel. 」(4ページ20行?6ページ19行)
([当審仮訳]:
本発明の好適な実施例では,基地局101?102は,ネットワーク112上でマルチキャスティング・セッションを行うことができる。さらに具体的には,基地局101?102は,マルチキャスティングを行うために,IETF(Internet Engineering Task Force)のRFC(Request for Comments)文書1112およびRFC文書2236に記述されるようなIGMP(Internet Group Management Protocol)を利用する。マルチキャスト・セッションを受信することを希望するリモート・ユニット113?118は,システム・ブロードキャスト・チャネル上でマルチキャスト広告メッセージ(multicast advertisement message)を監視して,受信すべきセッションを判定する。ブロードキャスト・チャネルは,本明細書に参考として含まれる,Mobile Station-Base Station Compatibility Standards for Dual-Mode Wideband Spread Spectrum Cellular Systems, Telecommunications Industry Association Interim Standard 95A, Washington, DC July 1993 (IS-95A)に記述されるような共通の順方向物理/ページング・チャネルの一部である。
本発明の好適な実施例では,広告メッセージはリモート・ユニット113?118に利用可能なマルチキャスト・イベントに関する情報を含む。この情報は,セッションのインターネット・プロトコル(IP)アドレス,ポート番号,送信の時間および期間,ならびにイベントの簡単な説明を含む。(中略)
基地局101?102はマルチキャスト・セッションに参加して,セッションに参加することを要求した少なくとも一つのリモート・ユニット113?118が存在する場合に,高速データ・チャネル(補助チャネル(supplemental channel))を介してエア・インタフェース上でこれを転送する。リモート・ユニットがマルチキャスト・イベントへの参加を要求すると,共通の補助チャネルはこのリモート・ユニットに割当てられ,マルチキャスト・セッションはこのマルチキャスト・イベントに現在参加中の全リモート・ユニットにブロードキャストされる。
図2は,本発明の好適な実施例による図1の基地局101?102のブロック図である。基地局101?102は,論理ユニット201と,一つまたはそれ以上の共通制御チャネル回線204,一つまたはそれ以上の基本チャネル回線203および一つまたはそれ以上の補助チャネル回線205からなる送信/受信回線と,加算器(summer)211と,変調器215とによって構成される。本発明の好適な実施例では,リモート・ユニット113?118への通信は,補助チャネル回線205および/または基本チャネル回線(fundamental channel circuit)203を利用して行うことができる。特に,基地局101?102は,順方向送信および逆方向送信の両方について定められた二種類のチャネルを利用する。好適な実施例では,基本チャネル203は,音声およびシグナリング用に利用される既存のCDMAトラヒック・チャネルと同様である。同様に,共通制御チャネル204は,マルチキャスト広告情報とともに,システム情報および制御シグナリングを渡すために用いられる。
マルチキャスト・セッション(または群呼)を送信する場合,マルチキャスト・セッションへの加入(subscribe)または離脱(de-subscribe)するためのIGMP(Internet Group Management Protocol)メッセージを送信するために,基本チャネル203または共通制御チャネル204(すなわち,低データ・レート・チャネル)が利用される。また,基本チャネル203は,群呼に関与するリモート・ユニット113?118への音声データの送受信を行うために利用される。(中略)
補助チャネル回線205は,高データ・レート・サービス(例えば,マルチキャスト・パケット・データ,ビデオなど)をリモート・ユニット113?118に通信するために利用される。補助チャネルのデータ・レートは,送信前に指定される。複数のデータ・ソースは,このチャネル上で時分割(time multiplexed)される。さらに,このチャネルのサービス品質(Quality-of-Service)(例えば,フレーム・エラー・レート(FER:Frame Error Rate),ビット・エラー・レート(BER:Bit Error Rate)および/または送信遅延(Transmission Delay))は,基本チャネルから独立して設定・運用できる。)

ウ 「During the multicast session, each remote unit 113-118 receives downlink supplemental transmission 109-110 that contains high-speed data (e.g., video). In the preferred embodiment of the present invention a single supplemental channel is utilized for each base station 101-102. On the uplink side, the supplemental channel is shared among all remote units, however only one remote unit 113-118 is allowed to transmit at a time utilizing the uplink supplemental channel. The remote unit, that is currently transmitting utilizing the uplink supplemental channel, has its transmission broadcast (via downlink supplemental channels 109-110) to all other remote units participating in the multicast. For example, as shown in FIG. 1, remote units 113-118 are participating in a multicast session, with remote unit 118 supplying high speed data via uplink supplemental channel 11 1. The high-speed data is transmitted to all remote units 113-118 involved in the session via downlink supplemental channels 109-110.
Even though only one remote unit 113-118 can simultaneously supply high-speed data to the multicast session, all remote units 113-118 can simultaneously participate (by voice and all control messages) in the session via fundamental traffic channels 103-108. Thus, in accordance with the preferred embodiment of the present invention, all remote units 113-118 can supply voice traffic via uplink fundamental channels 103-108. The voice traffic for all remote units 113-118 is combined (discussed below) and transmitted to all remote units 113-118 via a downlink fundamental traffic channel.
In the preferred embodiment of the present invention each remote unit 113-118 may transmit utilizing the uplink supplemental channel. A decision is made as to which remote unit is providing a highest-voice-energy fundamental channel uplink, and that remote unit is assigned the uplink supplemental channel. 」(7ページ12行?8ページ9行)
([当審仮訳]:
マルチキャスト・セッション中に,各リモート・ユニット113?118は,高速データ(例えば,ビデオ)を含むダウンリンク補助送信109から110を受信する。本発明の好適な実施例では,各基地局101?102に対して一つの補助チャネルが利用される。アップリンク側では,補助チャネルは全リモート・ユニット間で共用されるが,一度に一つのリモート・ユニット113?118のみがアップリンク補助チャネルを利用して送信することが許される。アップリンク補助チャネルを利用して現在送信中のリモート・ユニットは,マルチキャストに参加する全ての他のリモート・ユニットに対して,自局の送信を(ダウンリンク補助チャネル109?110を介して)ブロードキャストさせる。例えば,図1に示すように,リモート・ユニット113?118はマルチキャスト・セッションに参加し,リモート・ユニット118がアップリンク補助チャネル111を介して高速データを供給している。高速データは,セッションに関与する全リモート・ユニットにダウンリンク補助チャネル109?110を介して送信される。
一つのリモート・ユニット113?118のみが高速データをマルチキャスト・セッションに同時に供給できるが,全リモート・ユニット113?118は基本トラヒック・チャネル103?108を介して(音声および全制御メッセージにより)セッションに同時に参加できる。従って,本発明の好適な実施例に従って,全リモート・ユニット113?118はアップリンク基本チャネル103?108を介して音声トラヒックを供給できる。全リモート・ユニット113?118の音声トラヒックは合成され(以下で説明する),ダウンリンク基本トラヒック・チャネルを介して全リモート・ユニット113?118に送信される。
本発明の好適な実施例では,各リモート・ユニット113?118はアップリンク補助チャネルを利用して送信できる。どのリモート・ユニットが最高音声エネルギの基本チャネル・アップリンクを供給しているのか判定が行われ,このリモート・ユニットにアップリンク補助チャネルが割当てられる。)

上記記載及び図面並びに当該技術分野における技術常識を考慮すると,
a 上記ア及び上記イの第1段落の記載によれば,引用例には,ワイヤレス通信システム内でマルチキャスト・セッションに係るデータを複数のリモート・ユニットに送信することについて記載されていると認められる。

b 上記イの第3段落の記載によれば,基地局は高速データ・チャネル(補助チャネル(supplemental channel))を介してエア・インタフェース上でこれを転送することにより,マルチキャスト・セッションはこのマルチキャスト・イベントに現在参加中の全リモート・ユニットにブロードキャストされ,上記ウの記載によれば,各リモート・ユニットは,マルチキャスト・セッション中に,高速データ(例えば,ビデオ)を含むダウンリンク補助送信を受信するものである。したがって,引用例には,マルチキャスト・セッションに係る高速データを補助チャネル上で前記複数のリモート・ユニットにブロードキャストすることが記載されていると認められる。

c 上記アの記載によれば,ワイヤレス通信システムとしては,例えばcdma2000等の次世代CDMAアーキテクチャや次世代GSMプロトコルなどが例示されており,これらにおいては,端末に伝送するためにデータを,符号化したり,変調したり,インターリーブしたりすることは技術常識である。したがって,複数のリモート・ユニットに伝送するためにデータを処理することは,記載されていると同然といえる。

d 上記イの第1段落には,マルチキャスト広告メッセージが,共通の順方向物理/ページング・チャネルの一部であるシステム・ブロードキャスト・チャネル上で伝送されることが記載されている。そして,同第2段落によれば,広告メッセージは,リモート・ユニットに利用可能なマルチキャスト・イベントに関する情報を含むものである。また,上記イの第4段落には,共通制御チャネル204は,マルチキャスト広告情報とともに,システム情報および制御シグナリングを渡すために用いられることが記載されている。したがって,引用例には,リモート・ユニットに利用可能なマルチキャスト・イベントに関する情報をシステム・ブロードキャスト・チャネル上で伝送し,システム情報および制御シグナリングを共通制御チャネル上で伝送することが記載されていると認められる。

以上を総合すると,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「ワイヤレス通信システム内でマルチキャスト・セッションに係るデータを複数のリモート・ユニットに送信する方法であって,
前記複数のリモート・ユニットに伝送するためにデータを処理すること,
マルチキャスト・セッションに係る高速データを補助チャネル上で前記複数のリモート・ユニットにブロードキャストすること,
リモート・ユニットに利用可能なマルチキャスト・イベントに関する情報をシステム・ブロードキャスト・チャネル上で伝送し,システム情報および制御シグナリングを共通制御チャネル上で伝送すること,
を備えた方法。」

(2)周知技術
原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-320324号公報(以下,「周知例」という。)には,「マルチキャストサービス提供方法ならびに情報配信装置及び無線端末」として,図面とともに以下の事項が記載されている。

ア 「【要約】
【課題】本発明の課題は,サービスエリア内において種々の受信状態となる複数の無線端末のそれぞれが良好な受信品質にてマルチキャスト情報を受信できるようなマルチキャストサービス提供方法を提供することである。
【解決手段】本発明の課題は,サービスエリア内の無線端末に対して情報配信装置から無線区間を介してマルチキャスト情報を配信するようにしたマルチキャストサービス提供方法ににおいて,情報配信装置は,同一のマルチキャスト情報を異なる複数の送信条件に従って配信し,無線端末は,いずれかの送信条件にて配信されるマルチキャスト情報を受信できるようにしたマルチキャストサービス提供方法にて達成される。」

イ 「【0036】無線基地局20は,無線端末10からマルチキャストグループの要求信号を受信すると,そのマルチキャストグループに対応したマルチキャスト情報の送信条件を無線端末10に送信する。このマルチキャスト情報の送信条件は,マルチキャスト情報の無線端末10への送信に必要な条件であって,無線チャネル,伝送速度,変調多値数,送信タイムスロット,拡散の処理利得PG,拡散符号及びその数などを含むことができ,無線端末10が無線基地局20からマルチキャスト情報を受信するために必要な情報となる。これらの条件は,マルチキャスト情報を無線端末10にて受信する際にその受信品質に影響を与え得る。無線基地局20は,上記無線端末10からの上記要求信号を受信した後にその応答信号を無線端末10に送信する際に,マルチキャスト情報の送信条件を送信することができる。」

ウ 「【0074】上記の例では,各無線端末が伝搬環境を表す受信品質を測定して無線基地局BSに通知するようにしたが,このような通知を行わないようにすることもできる。例えば,無線基地局BSは同一のマルチキャリア情報を複数の異なる送信条件(伝送速度,タイムスロット位置など)にて送信すると共に,その複数の送信条件を,例えば,止まり木チャネルを用いて各無線端末に報知する。各無線端末は,これら報知された複数の送信条件のなかから測定された受信品質の状態で最もレベルの高いサービス品質が得られる送信条件を選択し,その選択された送信条件に適合するようにマルチキャスト情報を受信する。」

上記ア?ウの記載によれば,マルチキャストサービスにおいて,無線チャネル,伝送速度,変調多値数,送信タイムスロット,拡散の処理利得PG,拡散符号及びその数などを含む,マルチキャスト情報の送信条件を,例えば,止まり木チャネルを用いて各無線端末に報知することが記載されており,これらの送信条件は,受信されるマルチキャスト情報をアクセスすることを可能とする,マルチキャスト情報の送信に使用される物理チャネルに関する情報であることは明らかである。
また,「止まり木チャネル」は,移動体端末が電源投入された際に最初に捕捉するチャネルであることは技術常識であるから,マルチキャスト情報の送信に使用されるチャネルとは異なるチャネルであることは明らかである。

このように,「同報通信において,同報サービスデータに使用されるチャネルとは異なるチャネルを用いて,受信される同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,同報サービスデータに使用される物理チャネルに関するパラメータを通知する。」ことは,例えば周知例にもあるように周知技術であるといえる。

3 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると,
ア 本願発明の「無線通信システム」,「複数の端末」と,引用発明の「ワイヤレス通信システム」,「複数のリモート・ユニット」とは,表記が異なるのみであって,実質的な差異は無い。また,引用発明の「マルチキャスト・セッションに係るデータ」である「高速データ」を,「同報サービスデータ」と称することは任意である。そして,引用発明の「マルチキャスト・セッションに係るデータを複数のリモート・ユニットに送信する方法」を,「同報サービスデータを複数の端末に同報通信するための方法」と称することも任意である。

イ 本件出願の図3及び明細書の対応する説明の記載に照らせば,本願発明の「前記複数の端末に伝送するための同報サービスデータを処理すること」には,CRCビットを付加したり,チャネル符号化を行ったり,レートマッチングを行ったり,インターリービングすること等が含まれると解される。したがって,引用発明の「前記複数のリモート・ユニットに伝送するためにデータを処理すること」は,本願発明の「前記複数の端末に伝送するための同報サービスデータを処理すること」に相当する。

ウ 引用発明の,「ブロードキャストする」とは,マルチキャスト・セッションに参加するリモートユニットに対して同報通信すること,すなわち,マルチキャストすることの意味であることは明らかである。
そして,上記アのとおりであるから,本願発明の「前記処理された同報サービスデータを第1の共通物理チャネル上で前記複数の端末に同報通信すること」と,引用発明の「マルチキャスト・セッションに係る高速データを補助チャネル上で前記複数のリモート・ユニットにブロードキャストすること」とは,以下の相違点は別として,「前記処理された同報サービスデータを第1のチャネル上で前記複数の端末に同報通信すること」の点で共通している。

エ 引用発明の「システム情報および制御シグナリング」は「制御情報」といえ,共通制御チャネル上で伝送するのであるから,複数のリモート・ユニットに同報通信していると解することができる。したがって,本願発明と引用発明とは,以下の相違点は別として,「制御情報を第2のチャネル上で前記複数の端末に同報通信すること」の点で共通している。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「無線通信システムにおいて同報サービスデータを複数の端末に同報通信するための方法であって,
前記複数の端末に伝送するための同報サービスデータを処理することと;
前記処理された同報サービスデータを第1のチャネル上で前記複数の端末に同報通信することと;
制御情報を第2のチャネル上で前記複数の端末に同報通信することと;
を備えた方法。」

(相違点1)
一致点の「第1のチャネル」に関し,本願発明は「第1の共通物理チャネル」であるのに対して引用発明は「補助チャネル」であり,一致点の「第2のチャネル」に関し,本願発明は「第2の共通物理チャネル」であるのに対して引用発明は「共通制御チャネル」である点。

(相違点2)
一致点の「制御情報」に関し,本願発明は「前記制御情報は,前記複数の端末が前記第1の共通物理チャネル上で受信された前記同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,前記第1の共通物理チャネルのためのパラメータを提供する」であるのに対し,引用発明は「システム情報および制御シグナリング」であり,その具体的内容は明らかにされていない点。

上記各相違点について,まず,相違点2について検討し,次に,相違点1について検討する。
(相違点2について)
上記「2(2)周知技術」で述べたとおり,「同報通信において,同報サービスデータに使用されるチャネルとは異なるチャネルを用いて,受信される同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,同報サービスデータに使用される物理チャネルに関するパラメータを通知する。」ことは,例えば周知例にもあるように,格別困難なことではないから,引用発明において共通制御チャネル上で伝送する「システム情報および制御シグナリング」として,「前記複数の端末が前記第1の共通物理チャネル上で受信された前記同報サービスデータをアクセスすることを可能とする,前記第1の共通物理チャネルのためのパラメータを提供する」「制御情報」を含むようにすることは,当業者が容易になし得ることである。

(相違点1について)
引用例には,物理チャネルについては,マルチキャスト広告メッセージが伝送されるブロードキャスト・チャネルが,共通の順方向物理/ページング・チャネル(common forward physical/paging channel)の一部であることが記載されるのみである(上記2(1)イの第1段落参照。)が,同報通信である以上,共通物理チャネルを用いることは普通に考えられることである。
そして,周知例も具体的な物理チャネルについてまでは明らかにしていないが,上位レイヤの各チャネルと各物理チャネルとが対応付けられていることは技術常識であるから,同報サービスデータに使用されるチャネルと,同報サービスデータに使用される物理チャネルに関するパラメータを通知するチャネルとが,別々のチャネルである以上,これらを伝送する物理チャネルもそれぞれ別々のチャネルとすることは自然であるし,格別困難なことではない。
したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得ることである。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-15 
結審通知日 2015-05-19 
審決日 2015-06-03 
出願番号 特願2009-293836(P2009-293836)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
P 1 8・ 561- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史田中 寛人  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 ▲高▼橋 真之
菅原 道晴
発明の名称 無線通信システムにおけるマルチメディア同報通信(BROADCAST)およびマルチキャスト・サービス(MBMS)  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 井関 守三  
代理人 野河 信久  
代理人 佐藤 立志  
代理人 砂川 克  
代理人 井上 正  
代理人 堀内 美保子  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  

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