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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F26B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F26B
管理番号 1306883
審判番号 不服2014-11079  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-11 
確定日 2015-10-15 
事件の表示 特願2009-144100「乾燥システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開,特開2011- 2129〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成21年6月17日の出願であって,平成25年7月5日付けで通知された拒絶の理由に対して,平成25年9月9日に意見書および手続補正書が提出されたが,平成26年3月3日付けで拒絶査定され,これに対して,平成26年6月11日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2 平成26年6月11日の手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1) 本件補正後の本願の発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「建物の屋根面に、太陽電池モジュールが前記屋根面との間に空気流通層を介在させた状態で設けられており、
前記空気流通層に空気流通路が接続されており、
この空気流通路は、建物内の洗濯機置場の上方にある物干しスペースに面する天井に設けられた吹出口に接続されており、
前記空気流通路は玄関ホールを上下に貫通して、床下まで延出されており、
前記玄関ホールを上下に貫通する空気流通路に、吹出口が玄関ホールに向けて設けられており、
前記洗濯機置場および前記物干しスペースは洗面室内に配置されており、
前記洗濯機置場および前記物干しスペースは、平断面コ字型の壁によって囲まれており、この平断面コ字型の壁の開口が前記洗面室の内側に向いており、
前記洗面室と前記玄関ホールとが、互いに連通した状態で横方向に隣接配置されていることを特徴とする乾燥システム。」
と補正された。

(2) 本件補正の目的
本件補正は,何ら新規事項を追加するものではなく,本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「洗濯機置場」,「物干しスペース」及び「玄関ホール」に関して,「前記洗濯機置場および前記物干しスペースは洗面室内に配置されており、前記洗濯機置場および前記物干しスペースは、平断面コ字型の壁によって囲まれており、この平断面コ字型の壁の開口が前記洗面室の内側に向いており、前記洗面室と前記玄関ホールとが、互いに連通した状態で横方向に隣接配置されている」ことを限定するものであって,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のものである。
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3) 引用例
(a) 本願の出願の前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された実願昭60-109062号(実開昭62-17733号)のマイクロフィルム(以下,「引用例1」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(ア) 「(1) 太陽熱により温風を発生させる空気式太陽熱集熱器からのびかつフアンを有する送気流路を該送気流路の下流端で分岐する分岐流路を介して主室と副室とに並列的に接続するとともに、副室に通じる分岐流路に、通気孔が予設されかつ回動可能な翼体を有するダンパを介在させてなる太陽熱を利用する空調装置。」(明細書1ページ4?10行)

(イ) 「[技術分野]
本考案は、空気式太陽熱集熱器の温風を居室等の主室と、洗面室、浴室などの副室に分配するとともに、副室に通じる流路に少量の温風吹出し可能なダンパを設けることによって、副室を緩空調でき、太陽熱の利用効率と居住性とを向上しうる太陽熱を利用する空調装置に関する。
[背景技術]
太陽熱を利用して温風を発生する空気式太陽熱集熱器を用いた空調装置が利用されつつある。
このような装置では、空気式太陽熱集熱器からの温風を居室、子供部屋などの家人が主として入室する主室に吹き出すごとく形成していた。
他方、洗面所、浴室など家人の存在時間が短い副室は通常非空調のまま放置される場合が多く、その結果、主室と副室とに温度差が生じるなど温度的な生活環境を著しく損なう。
又前記洗面室、浴室等の副室は衣類の乾燥室として利用することもある。このような場合には、従来、乾燥用の温風発生器を主室用の空調装置とは別に設けていたため、装置の利用効率が低く、又費用が嵩む。
[考案の目的]
本考案は、副室に通じる分岐流路に通気孔が予設されかつ回動可能な翼体を有するダンパを介在することを基本として、主室を空調する際には、常に副室を緩やかに空調するとともに、副室での衣類の乾燥を可能とする太陽熱を利用する空調装置の提供を目的としている。
[考案の開示]
以下本考案の一実施例を図面に基づき説明する。
第1?8図において本考案の太陽熱を利用する空調装置1は、空気式太陽熱集熱器2からのびかつフアン3を有する送気流路4を、その下流端で分岐する分岐流路5、6を介して主室7と副室9とに並列的に接続しており、又副室9に通じる分岐流路6に、通気孔10を予設する回動可能な翼体11を有するダンパ12を介在している。
なお本例では、居室をなす主室7を階下に設けるとともに、主室7上方の階上には、衣類を乾燥する部屋として利用可能な洗面室をなす副室7が配設される。
空気式太陽熱集熱器2は、傾斜屋根に配されかつ上部を透光板により覆った箱体21内に、太陽熱を集熱し内部の空気を加温しうる集熱板22を収納している。
又前記空気式太陽熱集熱器2には、その上方位置、下方位置において箱部21底部を切欠き空気出口23、空気入口24を設け、また空気出口23には、フアン3が介在する送気ダクト26の一端を接続するとともに、該送気流路7(当審注:「該送気ダクト26」の誤記。)の他端は、主室7に開口する通風口27を具えた第1の分岐ダクト29と、副室9で開口する通風口30を具えた第2の分岐ダクト31とを分岐する。
従って主室7と副室9とは太陽熱集熱器2に並列的に接続されかつ送気ダクト26が送気流路4を第1の分岐ダクト29、第2の分岐ダクト31が夫々主室7、副室9に通じる分岐流路5、6を形成する。
又本例では、主室5下方の布基礎Bに囲まれる床下空間Cに、密閉箱体内部に砕石等の蓄熱材を充填してなる蓄熱槽16が設けられ、蓄熱槽16は、その一側端に接続される第3の分岐ダクト32の他端を前記第1の分岐ダクト29に通気口27の上流側で接続することにより、太陽熱集熱器2に連通する。
又空気入口24には、主室7、副室9、蓄熱槽19で夫々開口する通気管34…を具える還流ダクト35が接続される。」(明細書1ページ12行?4ページ20行)

(ウ) 「又副室9を例えば乾燥室として利用する場合には、第6図に示すごとく、ダンパ12を開くことによって多量の温風が副室9に吐出され、洗濯物等の被乾燥物を乾燥することができる。なお開閉弁44を閉じることにより、副室9に空気式太陽熱集熱器2に発生する温風の全量が吐出され、急速な乾燥ができる。」(明細書8ページ6?12行)

(エ) 「[考案の効果]
叙上のごとく本考案の太陽熱を利用する空調装置は、空気式太陽熱集熱器からのびる送気流路を、分岐流路を介して主室と副室に並列的に接続し、副室に通じる分岐流路に通気口を設けた翼体を有するダンパを介在させたため、主室を空調する際には、副室を緩やかに空調でき、主室と副室との温度差を著減することによって屋内の居住環境を向上するとともに、空気式太陽熱集熱器からの温風を用いて衣類の乾燥が可能となり、装置の利用効率を高める等優れた効果を奏しうる。
なお廊下、収納室など住人が通常長時間いない部屋を副室に含ませることができる。」(明細書10ページ13行?11ページ5行)

(オ) 第1図には空調装置の断面図,第5?8図には空調装置の作用を示す線図が示されており,特に,第1図には,副室内において棒にハンガを用いて衣類が吊り下げられて乾燥される様子と,送気流路は副室から床下空間まで延出されている様子がみてとれる。

(カ) これらの事項を総合して整理すると,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「上部を透光板により覆った箱体内に、太陽熱を集熱し内部の空気を加温しうる集熱板を収納した空気式太陽熱集熱器が傾斜屋根に配されており、
送気流路は空気式太陽熱集熱器からのび、
この送気流路は、副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋として利用可能な副室で開口する通風口に、分岐流路を介して接続されており、
前記送気流路は副室から、床下空間まで延出されており、
前記送気流路に、通風口が副室で分岐流路を介して開口しており、
前記副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋は洗面室をなしている衣類を乾燥できる空調装置。」

(b) 本願の出願の前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-140686号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 予め準備された基礎の上に壁部を有する建物本体を据え付け、これら建物本体の上に屋根ユニット又は屋根パネルを据え付けて相互に連結してなる建物の屋根面に複数の太陽電池モジュールを敷き詰めることで構成された太陽電池モジュール並設体と、該太陽電池モジュール並設体と前記屋根面との間に設置され、屋外の空気を取り入れて前記太陽電池モジュール並設体を冷却するための太陽電池モジュール並設体冷却用通気層とを備えるソーラシステム建物において、
前記太陽電池モジュール並設体冷却用通気層と任意の単数又は複数の室や床下空間との間を前記建物本体の壁部に形成された壁内空間を通して連通状態にすると共に、前記太陽電池モジュール並設体冷却用通気層内の空気を前記室や床下空間に導くための送風用ファン装置を備えてなることを特徴とするソーラシステム建物。」

(イ) 「【0004】この発明は、上述の事情に鑑みてなされたもので、屋根面に設置された太陽電池モジュールが得た太陽エネルギを利用して室内の冷暖房負荷の軽減を図り、また、太陽熱により加温された空気を、新たに特別なダクト等の空気流通路を設けることなく、室内や床下空間へ搬送することができ、かつ、効率良く熱交換を行うことができ、太陽電池モジュールを屋根面に取り付ける際にも手間がかからないソーラシステム建物を提供することを目的としている。」

(ウ) 「【0022】・・・・・そして、各壁パネル112(122)の内部の壁枠組と内側及び外側の壁面材112d(122d),112d(122d)とで仕切られ空間は、所定の領域を壁内通気空間Cとして用いられ、これ以外の領域を、必要に応じてグラスウール等の断熱材が装填されている。また、下階の建物ユニット11の壁内通気空間Cは、下部において壁パネル112の内側の壁面材の貼付けが省略されることにより、床下空間15と連通している。また、建物ユニット11,12,…の壁内通気空間Cが設けられた側の壁パネルには、壁内通気空間Cを通じて送られてきた空気を室内に供給するための給気口Hb,Hb,…が設けられている。なお、各給気口Hbには、開閉自在の電動の開閉ダンパが備えられている。」

(エ) 図1には,ソーラシステム建物の概略構成を示す斜視図であって,通気のための通路を示す斜視図が示されている。

(オ) これらの事項を総合すると,引用例2には次の事項が記載されていると認めることができる。

「建物の屋根面に、太陽電池モジュール並設体が前記屋根面との間に太陽電池モジュール並設体冷却用通気層を設置して設けられており、
前記太陽電池モジュール並設体冷却用通気層に壁内通気空間が連通されており、
この壁内通気空間は、各室の給気口に通じており、
前記壁内通気空間は床下空間まで連通しており、太陽熱により加温された空気を、室内や床下空間へ搬送すことができるソーラシステム建物。」

(c) 本願の出願の前に日本国内において頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-127339号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。

(ア) 「【0055】
また洗濯物保持手段107として、洗濯物108を吊り下げる物干し竿ならびにハンガーと、物干し竿を吹出口19の近傍に固定されるため端部を壁面もしくは天井面に固定し物干し竿を引っ掛ける保持具を用いている。なお、洗濯物108を吹出口19近傍に固定するという効果を有していればよく、端部に洗濯物を干すためのハンガーが備えられているスタンドを用いることもできる。」

(イ) 「【0066】
(実施の形態2)
図6に実施の形態2における除湿システムの概略図、図7に実施の形態2における除湿装置44の概略断面図、図8に実施の形態2における概略平面図を示す。
【0067】
この実施の形態2は実施の形態1における除湿システムと概ね同じ構成を用いており、実施の形態1との相違点として図6に示すように除湿装置44をランドリールーム106内ではなくランドリールーム106の天井裏に設け、図7に示すように除湿装置44の吹出口45をランドリールーム106の天井46に設けたことにある。このことによって、実施の形態1と比較して洗濯機9と天井46の空間が拡大し、その結果洗濯物108を干すことが容易に行なうことができ、また大型の洗濯物108を乾燥させることができる。」

(ウ) 図6には,除湿システムの概略図が示されている。

(エ) これらの事項を総合すると,引用例3には次の事項が記載されていると認めることができる。

「ランドリールーム106内の洗濯機9の上方にある洗濯物保持手段107に吊り下げられた洗濯物108に面する天井に除湿装置44の吹出口45を設けることで,建物内の洗濯機置場の上方にある洗濯物を干す空間すなわち物干しスペースに面する天井に洗濯物を乾燥させる吹出口を設けること。」

(4) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
その機能・構成からして,引用発明の「送気流路」は本願補正発明の「空気流通路」に相当し,以下同様に,「通風口」は「吹出口」に,「床下空間」は「床下」に,「衣類を乾燥できる空調装置」は「乾燥システム」に,それぞれ相当している。
また,引用発明の「上部を透光板により覆った箱体内に、太陽熱を集熱し内部の空気を加温しうる集熱板を収納した空気式太陽熱集熱器が傾斜屋根に配されており、送気流路は空気式太陽熱集熱器からのび」ているものと,本願補正発明の「建物の屋根面に、太陽電池モジュールが前記屋根面との間に空気流通層を介在させた状態で設けられており、前記空気流通層に空気流通路が接続されて」いるものとは,どちらのものも建物の屋根に設けられていて太陽で加熱された空気を空気流通路に導く機能を有するものであるから,結局「建物の屋根に設けられ太陽で加熱された空気を空気流通路に導く」ものの概念で共通する。
引用発明の「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋として利用可能な副室で開口する通風口」と本願補正発明の「建物内の洗濯機置場の上方にある物干しスペースに面する天井に設けられた吹出口」とは,引用発明の「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋として利用可能な副室」の「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する」空間が本願補正発明の「建物内の物干しスペース」に相当するから,結局「建物内の物干しスペースの部屋に設けられた吹出口」の概念で共通する。
引用発明の「送気流路は」「通風口に、分岐流路を介して接続されて」いる態様と,本願補正発明の「空気流通路は」「吹出口に接続されて」いる態様とは,「空気流通路は吹出口に接続されて」いる態様の概念で共通する。
引用発明の「送気流路は副室から、床下空間まで延出され」る態様と本願補正発明の「空気流通路は玄関ホールを上下に貫通して、床下まで延出され」る態様とは,引用発明の「副室」と本願補正発明の「玄関ホール」とが「建物内空間」の概念で共通しているから,結局「空気流通路は建物内空間から床下まで延出され」る態様の概念で共通する。
引用発明の「送気流路に、通風口が副室で分岐流路を介して開口して」いる態様と,本願補正発明の「玄関ホールを上下に貫通する空気流通路に、吹出口が玄関ホールに向けて設けられて」いる態様とは,「空気流通路に、吹出口が建物内空間に向けて設けられて」いる態様の概念で共通する。
そして,引用発明の「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋は洗面室をなしている」態様と,本願補正発明の「洗濯機置場および前記物干しスペースは洗面室内に配置されており、前記洗濯機置場および前記物干しスペースは、平断面コ字型の壁によって囲まれており、この平断面コ字型の壁の開口が前記洗面室の内側に向いており、前記洗面室と前記玄関ホールとが、互いに連通した状態で横方向に隣接配置されている」態様とは,「物干しスペースは洗面室内に配置されている」態様の概念で共通する。

したがって,両者は,
「建物の屋根に設けられ太陽で加熱された空気を空気流通路に導き、
この空気流通路は、建物内の物干しスペースの部屋に設けられた吹出口に接続されており、
前記空気流通路は建物内空間から床下まで延出されており、
前記空気流通路に、吹出口が建物内空間に向けて設けられており、
前記物干しスペースは洗面室内に配置されている乾燥システム。」
の点で一致し,以下の点で相違している。

<相違点1>
建物の屋根に設けられ太陽で加熱された空気を空気流通路に導くものに関し,本願補正発明では「建物の屋根面に、太陽電池モジュールが前記屋根面との間に空気流通層を介在させた状態で設けられており、前記空気流通層に空気流通路が接続されて」いるのに対して,引用発明では「上部を透光板により覆った箱体内に、太陽熱を集熱し内部の空気を加温しうる集熱板を収納した空気式太陽熱集熱器が傾斜屋根に配されており、送気流路は空気式太陽熱集熱器からのび」ている点。

<相違点2>
建物内の物干しスペースの部屋に設けられた吹出口に関し,本願補正発明では「建物内の洗濯機置場の上方にある物干しスペースに面する天井に設けられた吹出口」であるのに対して,引用発明では「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋として利用可能な副室で開口する通風口」である点。

<相違点3>
本願補正発明では「空気流通路は」「吹出口に接続されて」いるのに対して,引用発明では「送気流路は」「通風口に、分岐流路を介して接続されて」いる点。

<相違点4>
空気流通路は建物内空間から床下まで延出され,その空気流通路に,吹出口が建物内空間に向けて設けられることに関し,本願補正発明では「空気流通路は玄関ホールを上下に貫通して、床下まで延出され」,その「玄関ホールを上下に貫通する空気流通路に、吹出口が玄関ホールに向けて設けられ」るのに対して,引用発明では「送気流路は副室から床下空間まで延出され」,その「送気流路に、通風口が副室で分岐流路を介して開口して」いる点。

<相違点5>
物干しスペースは洗面室内に配置されていることに関し,本願補正発明では「洗濯機置場および前記物干しスペースは洗面室内に配置されており、前記洗濯機置場および前記物干しスペースは、平断面コ字型の壁によって囲まれており、この平断面コ字型の壁の開口が前記洗面室の内側に向いており、前記洗面室と前記玄関ホールとが、互いに連通した状態で横方向に隣接配置されている」のに対して,引用発明では「副室内において衣類をハンガを用いて棒に吊り下げて乾燥する部屋は洗面室をなしている」点。

(5)判断
上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
上記引用例2に記載された事項からすると,引用例2には,引用発明と同様に太陽熱により加温された空気を,室内や床下空間へ搬送できるものが記載され,その「太陽電池モジュール並設体」,「太陽電池モジュール並設体冷却用通気層」及び「壁内通気空間」は,それぞれ本願補正発明の「太陽電池モジュール」,「空気流通層」及び「空気流通路」に相当しているから,結局「建物の屋根面に、太陽電池モジュールが前記屋根面との間に空気流通層を介在させた状態で設けられており、前記空気流通層に空気流通路が接続されて」いる「建物の屋根に設けられ太陽熱により加温された空気を空気流通路に導くもの」が記載されている。
そして,上記引用例2に記載されたものは,上記太陽熱の利用に加え,太陽の光エネルギを太陽電池によって電力に変換して利用し,太陽エネルギの利用効率を高めるものであるが,ソーラシステムにおいて,太陽エネルギの利用効率を高めることは一般的な技術課題であるので,引用発明において,引用例2に記載されたものを採用することで,引用発明をして本願補正発明の上記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点2>について
物干しスペースと洗濯機の位置関係は設計者が適宜設定し得るし,物干しスペースに設けられた吹出口をどこに設けるかも設計者が適宜設定し得るから,上記引用例3に記載された事項からすると,洗濯作業の効率性等や洗濯物の乾燥しやすさ等を考慮することで,引用発明をして本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
空気流通路の吹出口を設ける際に分岐部を介するか否かは,空気流通路と吹出口との接続配置等によって当業者が適宜選択し得ることである。
また,本願の明細書の段落【0029】及び段落【0036】並びに図3には,空気流通路と吹出口との接続に関し,「空気流通路13」は「ダクト13c」を使用し,「ダクト(縦ダクト)13c」は「分岐ダクト(横ダクト)13h」を介して「吹出口16c」に接続される旨記載されている。さらに,同段落【0036】には「ダクト13cを直接天井16aの下面に開口して」吹出口としてもよい旨も記載されている。
したがって,引用発明をして本願補正発明の上記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点4>について
引用例1には,「廊下、収納室など住人が通常長時間いない部屋を副室に含ませることができる。」(前記「2(3)(a)(エ)」,参照。)と記載されているから,「副室」の「廊下」として「玄関ホール」を採用することが示唆されているといえる。
また,建物内空間を上下に貫通して空気流通路を設けることは本願出願前に周知のことである(必要であれば,原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-185323号公報(特に,段落【0028】及び図1等の「連通空気パイプ50,58」等参照。)等参照。)。
そして,上記<相違点3>についてで検討したとおり,空気流通路の吹出口を設ける際に分岐部を介するか否かは適宜選択し得ることである。
そうすると,引用発明をして本願補正発明の上記相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点5>について
上記相違点2について検討したように,洗濯機置場の上方に物干しスペースを配することに当業者にとって格別な困難性は認められない。また,洗濯機置場を平断面コ字型の壁によって囲み,この平断面コ字型の壁の開口が洗面室の内側に向くようにすることは,本願出願前に周知のことである(必要であれば,原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-85892号公報(特に,段落【0010】,【0012】及び図1等の「洗濯機3の設置台4」及び「固定遮蔽板5」等参照。)等参照。)。さらに,洗面室と玄関ホールとが互いに連通した状態で横方向に隣接配置されることも,本願出願前に周知のことである(必要であれば,特開2000-274090号公報(特に,段落【0021】,【0022】及び図1等の「玄関ホール2b」及び「ユーティリティ3」等参照。),特開2000-248732号公報(特に,【0032】,【0033】及び図1等の「玄関ホール3a」及び「ユーティリティ7」等参照。),特開平11-256844号公報(特に,段落【0028】,【0029】及び図1等の「洗濯場と洗面所の部屋5」及び「玄関ホール7」等参照。),特開平8-68217号公報(特に,段落【0023】,【0025】及び図2等の「洗面室5」及び「玄関ホール14a」等参照。)等参照。)。そうすると,引用発明をして本願補正発明の上記相違点5に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願補正発明の全体構成により奏される作用効果も,引用発明,引用例1,引用例2,引用例3に記載された事項及び周知の事項から当業者が予測し得る範囲内のものである。

よって,本願補正発明は,引用発明,引用例1,引用例2,引用例3に記載された事項及び周知の事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6) むすび
以上のとおりであって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 本願について
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に記載された発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,以下のとおりのものと認められる。

「建物の屋根面に、太陽電池モジュールが前記屋根面との間に空気流通層を介在させた状態で設けられており、
前記空気流通層に空気流通路が接続されており、
この空気流通路は、建物内の洗濯機置場の上方にある物干しスペースに面する天井に設けられた吹出口に接続されており、
前記空気流通路は玄関ホールを上下に貫通して、床下まで延出されており、
前記玄関ホールを上下に貫通する空気流通路に、吹出口が玄関ホールに向けて設けられていることを特徴とする乾燥システム。」

(1) 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1,引用例2及び引用例3の記載事項及び引用発明は,前記「2(3)」のとおりである。

(2) 対比・判断
本願発明は,前記「2(2)」で検討した本願補正発明における「前記洗濯機置場および前記物干しスペースは洗面室内に配置されており、前記洗濯機置場および前記物干しスペースは、平断面コ字型の壁によって囲まれており、この平断面コ字型の壁の開口が前記洗面室の内側に向いており、前記洗面室と前記玄関ホールとが、互いに連通した状態で横方向に隣接配置されている」と特定していた限定を削除したものに実質的に相当する。
したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,前記「2 (4)」にて検討したことからすれば,上記<相違点1>?<相違点4>で相違しその余の点で一致している。

上記<相違点1>?<相違点4>については,前記「2(5)」にて検討したとおりであるから,本願発明は,引用発明,引用例1,引用例2,引用例3に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に想到し得たものである。

(3) むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,引用発明,引用例1,引用例2,引用例3に記載された事項及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-06 
結審通知日 2015-08-18 
審決日 2015-08-31 
出願番号 特願2009-144100(P2009-144100)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F26B)
P 1 8・ 575- Z (F26B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 豊島 ひろみ  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 佐々木 正章
田村 嘉章
発明の名称 乾燥システム  
代理人 荒船 博司  

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