• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F04D
管理番号 1306902
審判番号 不服2014-22099  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2015-10-15 
事件の表示 特願2013- 33114「ディフューザの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 8日出願公開,特開2014-163248〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年 2月22日の特許出願であって,平成26年 7月31日付けで拒絶査定(発送日:平成26年 8月 5日)がなされ,これに対して,平成26年10月31日に本件審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年10月31日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年10月31日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
遠心圧縮機の羽根車の径方向外方に設けられるディフューザの製造方法であって,
前記遠心圧縮機の軸方向に対向する前壁部材と後壁部材とを用意する壁作成工程と,
前記前壁部材の後面と前記後壁部材の前面とに,径方向の内周から外周に延びる複数の溝を周方向に並べて形成する溝形成工程と,
前記前壁部材と前記後壁部材とを,それぞれの前記溝を対向させて溝間のベーンで結合することにより,前記溝によって前記ベーン間に,横断面矩形の四隅にアール部を持つ形状のディフューザ通路を形成する結合工程とを備え,
前記溝形成工程において,前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応した曲率半径の底刃を有するボールエンドミルを用いて前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成することにより,スパン方向から見て鋭角をなす前記ベーンの前縁を,スパン方向の中央部が下流へ向かって凹入するように湾曲させるとともに,前記溝における前記アール部を除いた直線部をエンドミルで加工するディフューザの製造方法。」
と補正された(当審にて,補正された箇所に下線を付した。)。
本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「前記溝の隅部にボールエンドミルによって円弧状のアール部を形成すること」を「前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応した曲率半径の底刃を有するボールエンドミルを用いて前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成すること」と,「鋭角をなす前記ベーンの前縁を」を「スパン方向から見て鋭角をなす前記ベーンの前縁を」と限定するものであって,本件補正後の請求項1に記載された発明は,本件補正前の請求項1に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が異なるものではないから,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平8-93694号公報(以下,「引用例1」という。)には,「遠心圧縮機用ディフューザ及び製造方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載または示されている。

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は遠心圧縮機用ディフューザおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは,通路ディフューザの構成およびその製造方法の改良に関する。」

・「【0016】実施例1
本発明の実施例1にかかわるディフューザの軸方向断面図を図1および図2に示し,同実施例は,本発明のディフューザDを2段式遠心圧縮機の後段側に適用したものであって,図示しない前段側の羽根車で加速されて速度エネルギーが高められ,図示しない前段側ディフューザにより減速され,ついでリターンチャンネルC(部分的に図示)を通り,再び後段側羽根車Iに吸い込まれて加速された空気を静圧に変換するものである。このディフューザDは,シュラウドSの外周に配設されるリング状の第1壁面部材1と,この第1壁面部材1との接合面21を有する第2壁面部材2とを主要部としてなる。また,実施例1では接合面11および接合面21は,左右対称位置(中央部)とされている。
【0017】この第1壁面部材1の第2壁面部材2との接合面11側には,図3に示すように,多数の内周1aから外周1bに向けた所望形状の溝部(第1溝部)12が,ディフューザDの半径方向に対して所定角度をなして設けられている。また,第2壁面部材2の第1壁面部材1との接合面21側には前記第1溝部12に対応した第2溝部22が形成されている。この第1溝部12と第2溝部22とは,第1壁面部材1と第2壁面部材2とが接合された際に,協働してディフューザDの流路または通路3を構成する。なお,図3においては図面の理解を容易にするために,第2壁面部材2の対応する要素が()付き符号で示され,ベーン5には横線が付され,アールRは輪郭線によりその領域が明示されている。また,図3中の矢符Aは羽根車Iの回転方向を示す。
【0018】この流路または通路3の横方向断面は,スロート部4までは基本的には矩形とされ,しかもその隅部(角部)に所定半径のアールRが形成され,かつ隣接する2つの流路または通路3の間に削り残されてできたベーン5の先端(前縁)5aが,壁面側で羽根車Iに近く,そして壁面と壁面との中央部(接合面11,21)でこれより後退させて形成され(図4参照),それによりディフューザ入口部での流れが改善されるようになっている。なお,前記アールRの半径およびベーン先端5aの両側面のなす角,いわゆるウェッジ角(図3に2δで示す)を適宜選定することにより,前記前縁5aを所望形状,すなわち羽根車Iから噴出される空気の流れの角度分布に対して最適な形状とすることができる。それにより,ディフューザD入口部での流れを改善して,ディフューザDの効率の向上を図ることができる。
【0019】また,スロート部4以降は横方向断面が,壁面および側面ともに末広がり,すなわち3次元的に拡大した矩形とされるとともに,その隅部(角部)に所定半径のアールRが形成されたものとされている(図5参照)。それにより,流路または通路3の断面を最適とし,流路または通路3に沿って効率よく減速させるとともに隅部の流れをよくして,動圧を効率よく静圧に変換させることができる。
【0020】そして,この流路または通路3を形成するための第1溝部12の形成は,例えば次のようにしてなされる。
【0021】数値制御工作機械に第1溝部12の形状データ,配列角度,配列ピッチ等を入力する。
【0022】数値制御工作機械に,第1壁面部材1の接合面11を被加工面としてセットする。
【0023】数値制御工作機械により被加工面を入力データに基づいて切削あるいは研削して第1溝部12を第1壁面部材1の接合面11側に所定間隔で所望形状に多数形成する。ここで,形成される溝の位置精度を確保するために,接合面11に基準用リーマ孔(実施例1においては明瞭には図示されていないが,3個のリーマ孔が同一円周上に形成されている)61を穿ち,このリーマ穴61を基準として溝加工を行う。また,ボルト挿通用の透孔81,91および第2壁面部材2側から挿通されるボルト73に螺合するめねじが形成された透孔71を所定位置に所定数形成する。
【0024】ついで,第2壁面部材2の第1壁面部材1との接合面21側にも同様にして,リーマ孔62を形成し,これを基準にして第2溝部22を所定間隔で所望形状に多数形成する。また,前記透孔81から挿通されるボルト83に螺合するめねじが形成された透孔82,前記透孔91に対応した透孔92および前記めねじが形成された透孔71に対応するボルト挿通用の透孔72を形成する。
【0025】しかして,この第2壁面部材2の接合面21のリーマ孔62,62,62にノックピン(図示省略)を圧入したのち,第1壁面部材1の接合面11を対向させてノックピンの第2壁面部材2の接合面21から突出している部分を第1壁面部材1のリーマ孔61,61,61にはめあわせて,第1壁面部材1と第2壁面部材2との位置決めを行い,ついで,ボルト73を第2壁面部材2に設けられた透孔72より挿通して,この透孔72に対応させて第1壁面部材1に形成されているめねじが形成された透孔71にボルト73を螺合させ,またボルト83を第1壁面部材1に設けられた透孔81より挿通して,この透孔81に対応させて第2壁面部材2に形成されているめねじが形成されている透孔82にボルト83を螺合させて,第1壁面部材1および第2壁面部材2を結合してディフューザDを完成させる。しかるのち,このディフューザDを遠心圧縮機のハウジングHの所定位置に,透孔92,91を通して挿通されているボルト93によりボルト接合することによりセットする。
【0026】このように,実施例1によれば,切削あるいは研削により第1壁面部材1および第2壁面部材2にディフューザDの流路または通路3となる第1溝部12および第2溝部22を各々形成し,ついで両者をボルト接合するという簡単な操作により所望形状の流路または通路3を有するディフューザDを作製することができる。
【0027】次に,このようにして作製された実施例1のディフューザDを使用した場合の静圧回復率(羽根車出口での動圧分のディフューザで静圧に変換される割合)CPおよび圧縮機断熱効率ηt-sを測定し,その測定結果を図6(a)および図6(b)にそれぞれ実線で示す。また比較のために,従来の通路ディフューザ(図7ないし図9参照)の静圧回復率CPおよび圧縮機断熱効率ηt-sを測定し,その測定結果を併せて図6(a)および図6(b)にそれぞれ点線で示す。図6より,実施例1のディフューザDは従来の通路ディフューザに比較して,圧縮機の設計流量点においてディフューザ静圧回復率CPが格段に優れているのがわかる。なお,図7は静圧回復率および圧縮機効率の測定に用いた従来の通路ディフューザの要部断面図であり,図8は図7のVIIIーVIII線断面図であって,図4に対応したものであり前縁形状を示し,図9は図7のIXーIX線断面図であって,図5中のスロート断面に対応したものでありスロート断面を示す。
【0028】このように,実施例1ではディフューザを,その入口形状を設計流量において羽根車から噴出される噴流の流れ分布に合わせたものとし,かつその後の通路形状も設計流量に対して最適なものとしているので,設計流量点においてディフューザ静圧回復率を向上させて圧縮機断熱効率を向上させることができる。」

・「【0032】
【発明の効果】以上詳述したように,本発明においては協働して流路または通路を構成する第1溝部を有する第1壁面部材および第2溝部を有する第2壁面部材を接合することによりディフューザを形成するという構成としているので,流路または通路作製の際に工作上の制約を受けることがなく,所望形状の流路または通路をディフューザに形成できるという優れた効果が得られる。そのため,最適な流路または通路形状を有するディフューザとすることができるので,羽根車により生成された動圧を高効率で静圧に変換でき,圧縮機断熱効率を向上できるという優れた効果が得られる。また,平板に溝が形成されたものを接合することにより流路または通路が形成されるので,流路または通路設計の際に工作上の制約を考慮する必要がなくなり,設計の自由度が大幅に増加するという効果も得られる。」

・図1からは,遠心圧縮機の後段側羽根車Iの径方向外方に設けられるディフューザDが見て取れる。

・段落【0016】の記載事項と図1及び図2とを併せてみると,遠心圧縮機の軸方向に対向する第1壁面部材1と第2壁面部材2を用意する壁作成工程があることが理解できる。

・段落【0017】の記載事項と図3とを併せてみると,前記第1壁面部材1の接合面11と前記第2壁面部材2の接合面21とに,内周1aから外周1bに向けた多数の第1溝部12,第2溝部22をディフューザDの半径方向に対して所定角度をなして設けられる溝形成工程があることが,また,段落【0017】?【0019】の記載事項と図3及び図5を併せてみると,前記第1壁面部材1と前記第2壁面部材2とをそれぞれの前記第1溝部12,第2溝部22を対向させて,溝部間のベーン5で結合することにより,前記第1溝部12,第2溝部22によって前記ベーン5の間に,横方向断面が矩形でその四隅にアールRを持つ形状のディフューザDの通路3を形成する結合工程とを備えることが,それぞれ理解できる。

・結合工程の前である溝形成工程において,アールRが形成されることが明らかである。また,段落【0026】には,切削あるいは研削により第1溝部12及び第2溝部22を各々形成する旨の記載がある。

・段落【0018】には,アールRの半径およびベーンの先端5aの両側面のなす角を適宜選定することにより前縁を所望形状,すなわち羽根車Iから噴出される空気の流れの角度分布に対して最適な形状として,ディフューザD入口部で流れを改善して,ディフューザDの効率の向上を図る旨の記載がある。

・段落【0018】の「この流路または通路3の横方向断面は,スロート部4までは基本的には矩形とされ,しかもその隅部(角部)に所定半径のアールRが形成され,かつ隣接する2つの流路または通路3の間に削り残されてできたベーン5の先端(前縁)5aが,壁面側で羽根車Iに近く,そして壁面と壁面との中央部(接合面11,21)でこれより後退させて形成され(図4参照)」なる記載と,図2?図4の記載を併せてみると,遠心圧縮機の軸方向からみて,鋭角をなすベーン5の前縁5aを遠心圧縮機の軸方向の中央部(壁面と壁面との中央部)が下流に向かって凹入するように湾曲させることが理解できる。

そうすると,これらの事項に基づいて,本願補正発明の表現に倣って整理すると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「遠心圧縮機の後段側羽根車Iの径方向外方に設けられるディフューザDの製造方法であって,
前記遠心圧縮機の軸方向に対向する第1壁面部材1と第2壁面部材2を用意する壁作成工程と,
前記第1壁面部材1の接合面11と前記第2壁面部材2の接合面21とに,内周1aから外周1bに向けた多数の第1溝部12,第2溝部22をディフューザDの半径方向に対して所定角度をなして設けられる溝形成工程と,
前記第1壁面部材1と前記第2壁面部材2とをそれぞれの前記第1溝部12,第2溝部22を対向させて,溝部間のベーン5で結合することにより,前記第1溝部12,第2溝部22によって前記ベーン5の間に,横方向断面は矩形でその四隅にアールRを持つ形状のディフューザDの通路3を形成する結合工程とを備え,
前記溝形成工程において,前記ディフューザDの入口部への空気の流れの角度分布に対応して前記第1溝部,第2溝部の隅部を切削あるいは研削することによって所定半径のアールRを形成することにより,遠心圧縮機の軸方向からみて,鋭角をなすベーン5の前縁5aを遠心圧縮機の軸方向の中央部が下流に向かって凹入するように湾曲させる,
ディフューザの製造方法。」

3.発明の対比
本願補正発明と引用発明とを対比すると,後者の「後段側羽根車I」は前者の「羽根車」に相当し,以下同様に,「ディフューザD」は「ディフューザ」に,「第1壁面部材1」は「前壁部材」に,「第2壁面部材2」は「後壁部材」に,「接合面11」は「後面」に,「接合面12」は「前面」に,「内周1aから外周1bに向けた」態様は「径方向の内周から外周に延びる」態様に,「多数」は「複数」に,「第1溝部12,第2溝部22」は「溝」に,「溝部間」は「溝間」に,「ベーン5」は「ベーン」に,「横方向断面は矩形でその四隅」は「横断面矩形の四隅」に,「アールR」は「アール部」に,「ディフューザDの通路3」は「ディフューザ通路」に,「ディフューザDの入口部への空気の流れの角度分布」は「ディフューザ通路への空気の流入角」に,「所定半径のアールR」は「円弧状のアール部」に,「遠心圧縮機の軸方向」は「スパン方向」に,「前縁5a」は「前縁」にそれぞれ相当する。
後者の「多数の第1溝部12,第2溝部22をディフューザDの半径方向に対して所定角度をなして設けられる」態様は,前者の「複数の溝を周方向に並べて形成する」態様に相当する。
後者の「溝形成工程において,前記ディフューザDの入口部への空気の流れの角度分布に対応して前記第1溝部,第2溝部の隅部を切削あるいは研削することによって所定半径のアールRを形成することにより,遠心圧縮機の軸方向からみて,鋭角をなすベーン5の前縁5aを遠心圧縮機の軸方向の中央部が下流に向かって凹入するように湾曲させる」態様と,前者の「溝形成工程において,前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応した曲率半径の底刃を有するボールエンドミルを用いて前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成することにより,スパン方向から見て鋭角をなす前記ベーンの前縁を,スパン方向の中央部が下流へ向かって凹入するように湾曲させるとともに,前記溝における前記アール部を除いた直線部をエンドミルで加工する」態様とは,「溝形成工程において,前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応して,前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成することにより,スパン方向から見て鋭角をなす前記ベーンの前縁をスパン方向の中央部が下流へ向かって凹入するように湾曲させる」概念で共通する。
そうすると,両者は,
「遠心圧縮機の羽根車の径方向外方に設けられるディフューザの製造方法であって,
前記遠心圧縮機の軸方向に対向する前壁部材と後壁部材を用意する壁作成工程と,
前記前壁部材の後面と前記後壁部材の前面とに,径方向の内周から外周に延びる複数の溝を周方向に並べて形成する溝形成工程と,
前記前壁部材と前記後壁部材とをそれぞれの前記溝を対向させて,溝間のベーンで結合することにより,前記溝によって前記ベーンに,横断面矩形の四隅にアール部を持つ形状のディフューザ通路を形成する結合工程とを備え,
前記溝形成工程において,前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応して前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成することにより,スパン方向から見て鋭角をなす前記ベーンの前縁をスパン方向の中央部が下流へ向かって凹入するように湾曲させる,ディフューザの製造方法。」
の点で一致し,以下の各点で相違する。
<相違点1>
溝形成工程において,本源補正発明では,「前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応した曲率半径の底刃を有するボールエンドミルを用いて前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成する」のに対して,引用発明では,前記ディフューザ通路への空気の流入角に対応して前記溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成するものの,それ以上の特定はなされていない点。
<相違点2>
本願補正発明では,「前記溝における前記アール部を除いた直線部をエンドミルで加工する」のに対して,引用発明では,第1溝部,第2溝部を切削あるいは研削により形成するものの,それ以上の特定はなされていない点。

4.相違点の検討
<相違点1,2について>
アール部を切削加工によって形成する際にアール部に対応した所望の曲率半径の底刃を有するボールエンドミルを用いることは,本願の出願前において周知の事項である(必要があれば,特開2004-92482号公報(原査定の拒絶の理由で用いた引用文献2)の図6,特開2002-254231号公報の段落【0032】?【0034】,図5,図6,特開平10-263914号公報の段落【0002】,図5を参照のこと。)
そして,引用発明と上記周知の事項とは,切削加工により所望の曲率半径のアール部を形成する点で共通するから,引用発明の「溝形成工程において,ディフューザ通路への空気の流入角に対応して溝の隅部を切削することによって円弧状のアール部を形成する」工具として,上記周知の事項であるボールエンドミルを用いて,相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。
また,加工する部位(例えば,凹部や平面部)に応じて,切削工具(例えば,ボールエンドミルやスクエアエンドミル(本願補正発明における「エンドミル」に相当。)を使い分けることは,切削加工において周知の事項である(必要があれば,国際公開第2011-055654号の段落[0124]?[0127]を参照のこと。)。
したがって,引用発明の切削加工を用いる溝形成工程において,この周知の事項を考慮すれば,相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは,当業者が適宜なし得る程度の事項である。
そして,本願補正発明の効果について検討しても,引用発明及び上記周知の事項から予測し得るものであって,格別なものではない。

以上を総合すると,上記相違点にかかわらず,本願補正発明は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。
したがって,本願補正発明は,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

5.小括
以上のとおり,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年10月31日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成26年 4月 4日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
遠心圧縮機の羽根車の径方向外方に設けられるディフューザの製造方法であって,
前記遠心圧縮機の軸方向に対向する前壁部材と後壁部材とを用意する壁作成工程と,
前記前壁部材の後面と前記後壁部材の前面とに,径方向の内周から外周に延びる複数の溝を周方向に並べて形成する溝形成工程と,
前記前壁部材と前記後壁部材とを,それぞれの前記溝を対向させて溝間のベーンで結合することにより,前記溝によって前記ベーン間に,横断面矩形の四隅にアール部を持つ形状のディフューザ通路を形成する結合工程とを備え,
前記溝形成工程において,前記溝の隅部にボールエンドミルによって円弧状のアール部を形成することにより,鋭角をなす前記ベーンの前縁を,スパン方向の中央部が下流へ向かって凹入するように湾曲させるとともに,前記溝における前記アール部を除いた直線部をエンドミルで加工するディフューザの製造方法。」

2.引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は前記第2 2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は,前記第2 1.で検討した本願補正発明についての限定を省いたものであって,本願補正発明が前記第2 4.に記載されたとおり,引用発明,及び,上記周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,本願補正発明と同様の理由で当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明,及び,上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-08-05 
結審通知日 2015-08-18 
審決日 2015-09-03 
出願番号 特願2013-33114(P2013-33114)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F04D)
P 1 8・ 575- Z (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏原 郁昭北川 大地所村 陽一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 松永 謙一
藤井 昇
発明の名称 ディフューザの製造方法  
代理人 中田 健一  
代理人 堤 健郎  
代理人 野田 雅士  
代理人 杉本 修司  
代理人 金子 大輔  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ