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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1306936 |
審判番号 | 不服2014-13492 |
総通号数 | 192 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-07-11 |
確定日 | 2015-10-19 |
事件の表示 | 特願2010-511947「有機EL発光装置およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月19日国際公開、WO2009/139292〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年(平成21年)4月28日(優先権主張2008年5月12日、日本)を国際出願日とする出願であって、平成25年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年4月4日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月21日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月24日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月9日付けで拒絶査定がなされ、これを不服として、同年7月11日に審判請求がされると同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成26年7月11日に提出された手続補正書による補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年7月11日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は、平成26年1月24日に提出された手続補正書によって補正された本件補正前(以下「本件補正前」という。)の明細書及び特許請求の範囲についてするものであって、そのうち請求項1についての補正は、以下のとおりである。 (1)本件補正前の請求項1 「 素子形成基板上に有機発光層を含む有機EL素子が形成されると共に、前記素子形成基板との間で、前記有機EL素子を収容するようにして封止する平板状の封止基板とを備えた有機EL発光装置であって、 前記素子形成基板と前記封止基板の周縁部において接着封止部が形成されると共に、前記封止部により囲まれた有機EL素子を形成した前記素子形成基板と、前記封止基板との間にグリース層もしくはゲル層が密着した状態で収容され、 前記グリース層もしくはゲル層は、オルガノシロキサン〔-(R_(1)R_(1)SiO)_(l)-(R_(1)R_(2)SiO)_(m)-(R_(1)R_(3)SiO)_(n)-、R_(1)はメチル基、R_(2)はビニル基またはフェニル基、R_(3)は-CH_(2)CH_(2)CF_(3)のフルオロアルキル基を示し、_(l)、_(m)、_(n)は整数を示すが3つのうち2個以下の数字は0でも良い。〕を骨格に含むオリゴマーまたはポリマー、または、フッ素化ポリエーテル(-CF_(2)CFYO-、YはFまたはCF_(3)を示す。)を骨格に含み末端にSiを含む官能基を持つオリゴマーまたはポリマーを含み、かつ、吸湿剤または伝熱剤、もしくは吸湿剤と伝熱剤を添加剤として含み、厚さが10μm超100μm以下であることを特徴とする有機EL発光装置。」 (2)本件補正により補正された請求項1(下線は補正箇所を示す。) 「 素子形成基板上に有機発光層を含む有機EL素子が形成されると共に、前記素子形成基板との間で、前記有機EL素子を収容するようにして封止する平板状の封止基板とを備えた有機EL発光装置であって、 前記有機EL素子が、前記素子形成基板に沿って単一の面状に、または複数の面状に分割して配列され、 前記素子形成基板と前記封止基板の周縁部において接着封止部が形成されると共に、前記封止部により囲まれた有機EL素子を形成した前記素子形成基板と、前記封止基板との間にゲル層が密着した状態で収容され、 前記ゲル層は、オルガノシロキサン〔-(R_(1)R_(1)SiO)_(l)-(R_(1)R_(2)SiO)_(m)-(R_(1)R_(3)SiO)_(n)-、R_(1)はメチル基、R_(2)はビニル基またはフェニル基、R_(3)は-CH_(2)CH_(2)CF_(3)のフルオロアルキル基を示し、_(l)、_(m)、_(n)は整数を示すが3つのうち2個以下の数字は0でも良い。〕を骨格に含むオリゴマーまたはポリマー、または、フッ素化ポリエーテル(-CF_(2)CFYO-、YはFまたはCF_(3)を示す。)を骨格に含み末端にSiを含む官能基を持つオリゴマーまたはポリマーを含み、かつ、吸湿剤と伝熱剤を添加剤として重量比で10?80%含み、厚さが10μm超100μm以下であることを特徴とする有機EL発光装置。」 2 補正の目的の適否及び新規事項の有無 (1)上記請求項1に対する補正のうち、「前記有機EL素子が、前記素子形成基板に沿って単一の面状に、または複数の面状に分割して配列され、」を加える補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を合わせて「当初明細書等」という。)の請求項16の記載を根拠にして、本件補正前の有機EL素子の配列について限定するものである。 (2)上記請求項1に対する補正のうち、「ゲル層」とする補正は、本件補正前の「グリース層もしくはゲル層」の選択肢の1つであるグリース層を削除したものである。 (3)上記請求項1に対する補正のうち、「吸湿剤と伝熱剤」とする補正は、本件補正前の「吸湿剤または伝熱剤、もしくは吸湿剤と伝熱剤」のうち、「吸湿剤または伝熱剤、もしくは」を削除し、添加剤が「吸湿剤と伝熱剤」であるものに限定するものである。 (4)上記請求項1に対する補正のうち、「重量比で10?80%」を加える補正は、当初明細書等の請求項13の記載を根拠として、添加剤の含有量を限定するものである。 (5)上記(1)?(4)から、上記補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、本件補正の前後で請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記補正は、本願の当初明細書等に記載された事項の範囲内においてした補正であって、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか)について、以下検討する。 3 独立特許要件の検討 (1)引用例の記載事項 ア 原査定の拒絶の理由で「引用文献4」として引用され、本願の優先権主張の日より前(以下「優先日前」という。)に頒布された刊行物である、特開2001-68266号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。) (ア)「【請求項1】 有機EL積層膜が形成された透明基板と、吸着剤を内包しており前記有機EL積層膜を被覆するゲル部材と、前記透明基板に接合されて前記有機EL積層膜を封止する封止部材と、を備えることを特徴とする有機EL素子。 【請求項2】・・(略)・・ 【請求項3】 前記ゲル部材を構成するゲル成分はシリコーンゲルである請求項1又は2記載の有機EL素子。」 (イ)「【0007】この透明基板上に、陽極、有機EL膜及び陰極を積層して「有機EL積層膜」が構成される。有機EL膜は、発光層のみからなってもよく、発光層に加えて正孔輸送層及び/又は電子輸送層を有してもよく、更に正孔注入層及び/又は電子注入層を有してもよい。陽極、陰極及び有機EL膜を構成する材料としては、それぞれ種々の公知材料を用いることができる。これらの各層を形成する方法は、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、スパッタリング法、LB法等の方法から適宜選択すればよい。 【0008】前記「封止部材」としては、ステンレス、アルミニウム又はその合金等の金属類、ソーダ石灰ガラス、珪酸塩ガラス等のガラス類、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂等の樹脂類等の一種又は二種以上からなるものを使用することができる。金属類からなる封止部材は放熱性に優れるため好ましい。特に、不活性気体等に比べて熱伝導性の高いシリコーンゲル等からなるゲル部材が有機EL積層膜及び封止部材に接触している場合には、発光時に有機EL積層膜から発生する熱を、ゲル部材を介して封止部材から効率よく放散させることができる。封止部材の形状は特に限定されず、透明基板との間に有機EL積層膜及びゲル部材を収容できる形状であればよい。後述のように、この封止部材の開口部を上にしてその内側に未硬化ゲル組成物を入れ、その上から透明基板を被せて接合した後に接合物を上下反転させる製造方法を適用する場合には、未硬化ゲル組成物を保持可能なキャップ状の封止部材を用いることが好ましい。 【0009】この封止部材と透明基板との接合は、エポキシ樹脂系接着剤、アクリレート系接着剤、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等の接着剤を用いて行うことができる。このうち、水分等の透過性の低い硬化物を形成するものが好ましい。また、素子への熱ストレス低減と速硬化性に優れることから、光硬化性樹脂が好ましく用いられる。 【0010】前記有機EL積層膜を被覆する「ゲル部材」は、ゲル成分と吸着剤とからなる。このゲル部材の厚さは、有機EL素子中において、通常5?2000μmであり、20?200μmとすることが好ましい。このゲル部材は、第2発明のように、予め成形されたシート状体であることが好ましい。有機EL素子の製造時において、このシート状体を組み付けて有機EL積層膜を被覆することにより、組付作業性がよく、またゲル部材を成形する際の熱が有機EL積層膜には加えられないという利点が得られる。 【0011】ゲル部材を構成する「ゲル成分」としては、絶縁性、柔軟性、耐熱耐寒性、熱伝導性、密着性等に優れることから、第3発明のように、シリコーンゲルが特に好ましく使用される。このシリコーンゲルの柔軟性は、JIS K2220(1/4コーン)に規定される針入度が、常温において20?100(より好ましくは45?80)、120℃において40?400(より好ましくは90?320)であることが好ましい。上記範囲よりも針入度が小さい場合には、有機EL積層膜表面とゲル部材との密着性が不足して水分等が隙間から有機EL積層膜に到達したり、このゲル部材による応力吸収性が十分に発揮されない場合がある。 【0012】ゲル部材に内包される「吸着剤」は、水分等を除去可能なものであって、(1)アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩等の無機化合物、(2)アクリル系又はメタクリル系の吸水性高分子等の有機物、(3)アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される金属又はそれらの合金、(4)活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト等の一般的な吸着剤、などから選択される一種又は二種以上を使用することができる。水分の除去用には、水分を物理吸着する一般的な吸着剤よりも、水分を化学吸着するアルカリ金属酸化物及び/又はアルカリ土類金属酸化物を吸着剤とすることが好ましい。 【0013】前記「吸着剤」の量は、一般に多いほどゲル部材の吸着性能が高くなる。しかし、吸着剤の内包量が多すぎると、ゲル部材の成形時において流動性が不足したり、ゲル部材の柔軟性が不足して有機EL積層膜への密着性が低下したり、このゲル部材による応力吸収性が十分に発揮されなくなったりする場合がある。このため吸着剤の内包量は、ゲル成分に対して5?64体積%の範囲とすることが好ましく、10?50体積%とすることがより好ましい。この吸着剤は、ゲル部材の全体に均一に内包されていてもよく、有機EL積層膜に近い側の吸着剤密度を高くしてもよい。有機EL積層膜側の吸着剤密度を高くした場合には、吸着効率とゲル部材の柔軟性とを両立させやすいので好ましい。吸着剤の形状は特に限定されないが、表面積が大きく且つ未硬化のゲル成分への分散性がよいことから、できるだけ細かい粉末状であることが好ましい。」 (ウ)「【0022】(実施例2)実施例2の有機EL素子を図3に示す。封止部材4は、厚さ1.1mmのソーダ石灰ガラスからなるガラス板である。透明基板1と封止部材4との間に形成される封止空間は、ゲル部材3によって完全に満たされている。その他の部分の構成は実施例1と同様である。この有機EL素子は、有機EL積層膜が形成された透明基板1と封止部材4とを接合した後、接着部5の一部に設けられた切欠孔51から未硬化ゲル組成物を注入し、接着剤等から形成される二次封止部材52によりこの切欠孔51を二次封止した後に、未硬化ゲル組成物を加熱硬化させてゲル部材3を形成させることにより製造することができる。実施例2の構成及び製造方法によると、透明基板1と封止部材4との間に形成される封止空間の全体をゲル部材3で満たし、この封止空間から気体を除くことができる。」 (エ)「 」 図3から、実施例2の有機EL素子の封止部材4は、平板状であることが見て取れる。 イ 上記ア(ア)?(エ)から、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。 「 有機EL積層膜が形成された透明基板と、吸着剤を内包しており前記有機EL積層膜を被覆するゲル部材と、前記透明基板に接合されて前記有機EL積層膜を封止する封止部材と、を備える有機EL素子であって、 前記有機EL積層膜は、陽極、有機EL膜及び陰極を積層して構成されており、 前記ゲル部材は、ゲル成分と吸着剤とからなり、 前記ゲル部材を構成するゲル成分はシリコーンゲルであり、 不活性気体等に比べて熱伝導性の高いシリコーンゲル等からなるゲル部材が有機EL積層膜及び封止部材に接触している場合には、発光時に有機EL積層膜から発生する熱を、ゲル部材を介して封止部材から効率よく放散させることができ、 具体的には、透明基板と封止部材との間に形成される封止空間は、ゲル部材によって完全に満たされており、 前記ゲル部材の厚さは、有機EL素子中において、20?200μmとすることが好ましく、 前記吸着剤は、水分等を除去可能なものであって、(1)アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、硫酸塩、金属ハロゲン化物、過塩素酸塩等の無機化合物、(2)アクリル系又はメタクリル系の吸水性高分子等の有機物、(3)アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される金属又はそれらの合金、(4)活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト等の一般的な吸着剤、などから選択される一種又は二種以上を使用することができ、 前記吸着剤の量は、一般に多いほどゲル部材の吸着性能が高くなるが、吸着剤の内包量が多すぎると、ゲル部材の成形時において流動性が不足したり、ゲル部材の柔軟性が不足して有機EL積層膜への密着性が低下したり、このゲル部材による応力吸収性が十分に発揮されなくなったりする場合があるため、ゲル成分に対して5?64体積%の範囲とすることが好ましく、 前記封止部材の形状は特に限定されず、具体的には平板状の封止部材を用いることができ、 前記封止部材と透明基板との接合は、好ましくは水分等の透過性の低い硬化物を形成する接着剤を用いて行うことができるものである、 有機EL素子。」 (以下「引用発明」という。) (2)周知技術を示す文献および周知技術 ア 本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2008-21653号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 表示領域と、前記表示領域の外側を囲む非表示領域と、を含む絶縁基板、 前記絶縁基板の前記表示領域に形成されている複数の薄膜トランジスタ、 前記薄膜トランジスタのそれぞれに接続されている画素電極、 前記画素電極の上に形成されている有機発光部材、 前記有機発光部材の上に形成されている共通電極、及び、 10W/mK以上の熱伝導率を示す熱伝導性粒子が分散されている密封樹脂、を含み、前記共通電極の上に形成されている封止部材、 を有する有機発光表示装置。」 (イ)「【0036】 封止部材400は好ましくは密封樹脂411を含む。密封樹脂411は好ましくは、ポリアセチレン(poly-acetylene)、ポリイミド(poly-imide)、またはエポキシ樹脂の少なくともいずれかから成る。密封樹脂411の厚さは好ましくは5μm?100μmである。密封樹脂411は好ましくは、紫外線硬化剤、または熱硬化剤の少なくともいずれかを含む。密封樹脂411はその他に、吸湿剤を含んでいても良い。 【0037】 図3に示されているように、本発明の第1実施形態においては、密封樹脂411の中に熱伝導性粒子、好ましくはアルミナ粒子420が分散されている。・・(略)・・ 【0038】 以下、封止部材400の放熱作用について、図5Bを参照しながら説明する。図5Bは、図5Aに示されている封止部材400の一部Bの拡大断面図である。有機発光表示装置の動作期間では、特に有機発光部材370の発光層の発光に伴い、画素電極191、共通電極270、及び有機発光部材370から熱が発生する。発生した熱はまず、共通電極270から封止部材400に伝わる。ここで、密封樹脂411の平均熱伝導率は0.3W/mK?9W/mKである。一方、アルミナ粒子420の熱伝導率は10W/mK?35W/mKである。密封樹脂411の中にはアルミナ粒子420が不規則に分散されているので、共通電極270から伝達される熱の大部分は、図5Bに矢印Hで示されているように、密封樹脂411よりも熱伝導率に優れたアルミナ粒子420を伝わる。それにより、密封樹脂411だけから成る従来の封止部材とは異なり、共通電極270からの熱が外部に速やかに排出される。その結果、発光に伴う、画素電極191、有機発光部材370、及び共通電極270の過熱が防止される。」 イ 本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開2008-10211号公報(以下「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 透光性基材、透明導電層、有機発光層、陰極層を順次積層し、接着層で接着される金属箔で有機発光層を覆うようにした有機エレクトロルミネッセンス発光装置において、金属箔の接着層側の表面粗さRaが1.5μm?20μmの範囲であることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス発光装置。 ・・(略)・・ 【請求項8】 接着層には、絶縁性フィラーが15質量%以上含有されていることを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス発光装置。 【請求項9】 接着層には、吸湿剤が含有されていることを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス発光装置。」 (イ)「【0039】 絶縁性フィラーとしては、接着層5を形成する樹脂成分の抵抗値よりも大きな抵抗値を持ち、金属箔6と透明導電層2や陰極層4との間の絶縁性が向上できるものであれば、その材質は特に限定されるものではないが、例えば、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、SiC、AlN、BN、MgO又はSi_(3)N_(4)などの無機フィラーを、一種単独であるいは複数種を併用して使用することができる。特に、Al_(2)O_(3)やSiO_(2)からなる無機フィラーは接着剤樹脂と混合させ易いので、これらを用いた場合は、高い配合比率で接着剤樹脂に絶縁性フィラーを混合することができ、高い絶縁性を得ることができるものである。また、Al_(2)O_(3)、SiC又はAlNからなる無機フィラーを使用すると、熱伝導率が他の無機フィラーと比較して高いので、高熱伝導性の接着層5を形成することができ、放熱性を向上することができるものである。」 ウ 本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-290976号公報(以下「引用例4」という。)には、次の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 少なくとも一方が透明である陽極と陰極との間に有機化合物を含む電界発光物質層を設けた有機薄膜電界発光素子において、紫外線硬化型接着剤を介して前記有機薄膜電界発光素子と薄板を積層してなることを特徴する有機薄膜電界発光素子。 【請求項2】 紫外線硬化型接着剤が微粉末状乾燥剤を含有してなる請求項1記載の有機薄膜電界発光素子。」 (イ)「【0020】更に、有機薄膜電界発光素子の放熱効果を上げるには、接着剤に熱伝導性に優れたアルミナ、窒化アルミニウム及びシリカ等の微粉末を乾燥剤と併用して配合することもできる。」 エ 上記引用例2?引用例4の記載事項から、本願の優先日前に、 「有機EL発光素子の封止に用いる樹脂中に、アルミナ等の伝熱剤(熱伝導性に優れた粒子(フィラー、微粉末))を配合することにより、有機EL発光素子の放熱性を向上させること」及び「前記伝熱剤は、吸湿剤(乾燥剤)と併用できること」が、周知(以下「周知技術」という。)である。 (3)対比 ア 本願補正発明と、引用発明とを対比する (ア)引用発明の「透明基板」、「『陽極、有機EL膜及び陰極を積層して構成され』た『有機EL積層膜』」、「『前記透明基板に接合されて前記有機EL積層膜を封止する封止部材』及び『平板状の封止部材』」及び「有機EL素子」は、それぞれ本願補正発明の「素子形成基板」、「有機発光層を含む有機EL素子」、「前記素子形成基板との間で、前記有機EL素子を収容するようにして封止する平板状の封止基板」及び「有機EL発光素子」に相当する。 (イ)引用発明の「接着剤」の「硬化物」は、本願補正発明の「接着封止部」に相当する。 (ウ)引用発明の「ゲル部材」は、本願補正発明の「ゲル層」に相当し、引用発明の「透明基板と封止部材との間に形成される封止空間は、ゲル部材によって完全に満たされる」ことは、本願補正発明の「前記封止部により囲まれた有機EL素子を形成した前記素子形成基板と、前記封止基板との間にゲル層が密着した状態で収容され」ていることに相当する。 (エ)シリコーンとはオルガノポリシロキサンを示す語であるから、引用発明の「ゲル部材を構成するゲル成分はシリコーンゲルであり」は、本願補正発明の「ゲル層はオルガノシロキサンを骨格に含むオリゴマーまたはポリマーを含み」に相当する。 (オ)引用発明の「吸着剤」は、本願補正発明の「添加剤」に相当し、かつ、水分等を除去可能なものであるから、本願補正発明の「吸湿剤」に相当する。 (カ)引用発明では、「ゲル層(ゲル部材)」の厚さが好ましくは「20?200μm」であるから、引用発明の「ゲル層」と本願補正発明のゲル層とは、厚さが「20μm以上100μm以下」である点で一致する。 イ したがって、本願補正発明と引用発明1とは、 「 素子形成基板上に有機発光層を含む有機EL素子が形成されると共に、前記素子形成基板との間で、前記有機EL素子を収容するようにして封止する平板状の封止基板とを備えた有機EL発光装置であって、 前記素子形成基板と前記封止基板の周縁部において接着封止部が形成されると共に、前記封止部により囲まれた有機EL素子を形成した前記素子形成基板と、前記封止基板との間にゲル層が密着した状態で収容され、 前記ゲル層は、オルガノシロキサンを骨格に含むオリゴマーまたはポリマーを含み、かつ、吸湿剤を添加剤として含み、厚さが10μm超100μm以下であることを特徴とする有機EL発光装置。」 である点で一致し、次の点で相違している。 相違点1: 本願補正発明では、「前記有機EL素子が、前記素子形成基板に沿って単一の面状に、または複数の面状に分割して配列され」ているのに対し、 引用発明では、有機EL素子(有機EL積層膜)の配列について、明らかでない点 相違点2:オルガノシロキサンを骨格に含むオリゴマーまたはポリマーが、 本願補正発明では、「〔-(R_(1)R_(1)SiO)_(l)-(R_(1)R_(2)SiO)_(m)-(R_(1)R_(3)SiO)_(n)-、R_(1)はメチル基、R_(2)はビニル基またはフェニル基、R_(3)は-CH_(2)CH_(2)CF_(3)のフルオロアルキル基を示し、_(l)、_(m)、_(n)は整数を示すが3つのうち2個以下の数字は0でも良い。〕(以下「式(1)」という。)を骨格に含む」ものであるのに対し、 引用発明では、シリコーンゲルの構造について不明である点。 相違点3:添加剤が、 本願補正発明では、「吸湿剤と伝熱剤」であるのに対し、 引用発明では、「吸湿剤」である点。 相違点4:ゲル層が添加剤を 本願補正発明では、「重量比で10?80%含」むのに対し、 引用発明では、「5?64体積%の範囲」であって、重量比は不明である点。 (4)検討 上記相違点について検討する。 ア 相違点1について 複数の有機EL素子を分割して配列して用いることは、本願の優先日前に周知技術であり(例えば、前記引用例2の【0009】、【図1】の記載。)、引用発明において複数の有機EL素子を分割して配列して用いることは、当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。 イ 相違点2について (ア)前記式(1)において、l、m、nのうち2個以下は0でも良いことから、少なくともジメチルシロキサンを有する構造は、式(1)を満たしている。 (イ)シリコーンゲルとは、付加型液状シリコーンゴムを低架橋密度に制御した材料である。そして、付加型液状シリコーンゴムにおいて、ジメチルシロキサン構造は必ず含まれる基本骨格である。(伊藤邦夫、シリコーンハンドブック、日本、1990.08.31発行、384-386頁、413-414頁、参照。) (ウ)したがって、引用発明のシリコーンゲルは、明記がなくても、ジメチルシロキサン構造を骨格に含んでおり、よって、式(1)の構造を骨格に含んでいる。 (エ)よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。 ウ 相違点3について (ア)有機EL発光装置において、有機EL素子を封止する樹脂中に伝熱剤を配合することは、上記(2)エに示したように、周知技術である。 (イ)引用発明は、発光時に有機EL積層膜から発生する熱を、ゲル部材を介して封止部材から放散させており、したがって、さらに熱の放散を向上させるために、ゲル部材中に伝熱剤を配合することは、当業者が容易になし得たことである。 エ 相違点4について (ア)引用発明において、ゲル部材中の吸着剤の添加量は、吸着剤の吸着性能と、ゲル部材の成形時の流動性、柔軟性による有機EL積層膜への密着性、ゲル部材による応力吸収性等を考慮して、調製されるものである。 (イ)よって、引用発明において、その吸着剤の添加量を調製して、本願補正発明に係る相違点4の構成とすることは、当業者が適宜決定できる設計事項にすぎない。 オ そして、本願補正発明の奏する効果は、引用発明及び周知技術から、当業者が予測し得た範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 カ まとめ 上記ア?オから、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 補正の却下の決定についてのむすび よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 上記「第2 補正の却下の決定」のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成26年1月24日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?18によって特定されるものであるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の[理由]1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4及び周知技術は、上記第2の[理由]3(1)及び(2)に記載したとおりである。 3 対比・判断 本願補正発明は、上記第2[理由]2のとおり、「有機EL素子」及び「ゲル層」について、本願発明の発明特定事項を限定したものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2[理由]3のとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-08-25 |
結審通知日 | 2015-08-26 |
審決日 | 2015-09-08 |
出願番号 | 特願2010-511947(P2010-511947) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井亀 諭、後藤 慎平 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
大瀧 真理 山村 浩 |
発明の名称 | 有機EL発光装置およびその製造方法 |
代理人 | 木下 茂 |
代理人 | 木下 茂 |
代理人 | 木下 茂 |