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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1307035
審判番号 不服2015-1849  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-30 
確定日 2015-11-10 
事件の表示 特願2012-167701「電子機器及びそのバックアッププログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 6日出願公開、特開2014- 26544、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年7月27日の出願であって、平成26年6月30日付けで拒絶理由が通知され、平成26年9月5日付けで手続補正がなされたが、平成26年10月27日付けで拒絶査定がなされたものであり、これを不服とし、平成27年1月30日に本件審判請求がなされると同時に同日付で手続補正がなされた。

第2.平成27年1月30日付け手続補正について
1.補正の内容
この補正により補正された請求項1-8の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ユーザーの機器設定による複数の項目毎の設定値の変更を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う電子機器であって、
前記項目毎の設定値が対応する初期値と異なる場合に前記設定値をミラーリング対象として選択すると共に同初期値と同じ場合に前記設定値をミラーリング対象とはしない対象選択部と、
前記ミラーリング対象の設定値に対して指定されているミラーリングの優先度を少なくとも判断する優先度判断部と、
前記判断された優先度が相対的に高い設定値を優先して残すように前記ミラーリングを行うミラーリング実行部とを備え、
前記ミラーリング実行部は、前記判断の結果から前記ミラーリング対象の設定値の優先度よりも低い前記既存の設定値がある場合に、その既存の設定値に前記ミラーリング対象の設定値を残すように前記ミラーリングを行い、前記判断の結果から、前記ミラーリング対象の設定値の優先度と前記既存の設定値の優先度が同一の場合、既存の状態を優先するときには既存の設定値を、最新の情報を優先するときにはミラーリング対象の設定値を残す設定に基づいて前記ミラーリングを行う、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項2】
請求項1記載の電子機器であって、
前記優先度判断部は、ミラーリング対象の設定値よりも大きいデータサイズを有する既存の設定値、又は合計のデータサイズがミラーリング対象の設定値よりも大きくなる複数の既存の設定値を優先度の比較対象としてミラーリング領域内に記憶されている既存の設定値の優先度及びミラーリング対象の設定値の優先度を比較判断する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項3】
請求項1記載の電子機器であって、
前記ミラーリング対象の設定値を記憶するための前記ミラーリング領域の空き容量を確認する容量確認部を備え、
前記優先度判断部は、前記空き容量が前記ミラーリング対象の設定値に対して不足する場合に、前記ミラーリング領域内に記憶されている既存の設定値の優先度及び前記ミラーリング対象の設定値の優先度を比較判断し、
前記ミラーリング実行部は、前記比較判断の結果から前記ミラーリングを行い、
前記容量確認部は、前記複数の記憶部の記憶容量が相違する場合、前記記憶容量の小さい方の記憶部に対して前記ミラーリング領域の空き容量を確認する、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項4】
請求項1?3の何れか一項に記載の電子機器であって、
前記項目毎に前記優先度をユーザーに指定させる優先度指定部を備えた、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項5】
請求項1?4の何れか一項に記載の電子機器であって、
前記機器設定は、前記複数の項目の設定値によって複数の異なる機能に対して行われ、
前記複数の項目は、各機能に関連付けて複数群に分類され、同一群を構成する項目に対して同一の優先度が指定される、
ことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
ユーザーの機器設定に対する複数の項目毎の設定値を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う電子機器のバックアッププログラムであって、
前記項目毎の設定値が対応する初期値と異なる場合に前記設定値をミラーリングの対象として選択すると共に同初期値と同じ場合に前記設定値をミラーリング対象とはしない対象選択手順と、
少なくとも前記ミラーリング対象の設定値に対して指定されているミラーリングの優先度を判断する優先度判断手順と、
前記判断された優先度が相対的に高い設定値を優先して残すように前記ミラーリングを行うミラーリング実行手順とをコンピューターに実行させ、
前記ミラーリング実行手順は、前記判断の結果から前記ミラーリング対象の設定値の優先度よりも低い前記既存の設定値がある場合に、その既存の設定値に前記ミラーリング対象の設定値を残すように前記ミラーリングを行い、前記判断の結果から、前記ミラーリング対象の設定値の優先度と前記既存の設定値の優先度が同一の場合、既存の状態を優先するときには既存の設定値を、最新の情報を優先するときにはミラーリング対象の設定値を残す設定に基づいて前記ミラーリングを行う、
ことを特徴とするバックアッププログラム。
【請求項7】
請求項6記載のバックアッププログラムであって、
前記優先度判断手順は、ミラーリング対象の設定値よりも大きいデータサイズを有する既存の設定値、又は合計のデータサイズがミラーリング対象の設定値よりも大きくなる複数の既存の設定値を優先度の比較対象としてミラーリング領域内に記憶されている既存の設定値の優先度及びミラーリング対象の設定値の優先度を比較判断する、
ことを特徴とするバックアッププログラム。
【請求項8】
請求項6記載のバックアッププログラムであって、
前記ミラーリング対象の設定値を記憶するための前記ミラーリング領域の空き容量を確認する容量確認手順を備え、
前記優先度判断手順は、前記空き容量が前記ミラーリング対象の設定値に対して不足する場合に、前記ミラーリング領域内に記憶されている既存の設定値の優先度及び前記ミラーリング対象の設定値の優先度を判断し、
前記ミラーリング実行手順は、前記ミラーリング対象の設定値が前記既存の設定値よりも高い優先度の場合に前記ミラーリングを行い、
前記容量確認手順は、前記複数の記憶部の記憶容量が相違する場合、前記記憶容量の小さい方の記憶部に対して前記ミラーリング領域の空き容量を確認する、
ことを特徴とするバックアッププログラム。」

2.補正の適否
(1)新規事項及びシフト補正
本件の補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてしたものである。また、補正前後の発明は、単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものである。
(2)補正の目的
補正後の請求項1(及び請求項1を引用する請求項2、4、5)は、補正前の請求項1(及び請求項1を引用する請求項2、4、5)の発明特定事項である「ミラーリング実行部」を限定したものであり、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正後の請求項3(及び請求項3を引用する請求項4、5)は、補正前の請求項3(及び請求項3を引用する請求項4、5)の発明特定事項である「ミラーリング実行部」及び「容量確認部」を限定したものであり、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正後の請求項6(及び請求項6を引用する請求項7)は、補正前の請求項6(及び請求項6を引用する請求項7)の発明特定事項である「ミラーリング実行手順」を限定したものであり、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
補正後の請求項8は、補正前の請求項8の発明特定事項である「ミラーリング実行手順」及び「容量確認手順」を限定したものであり、この補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、補正前の各請求項に記載された発明と補正後の各請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
(3)独立特許要件
補正後の請求項1-8に係る補正は、特許法第17条の2第5項第2号でいう特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、これらの請求項に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下に検討する。

ア.本件補正発明
上記補正後の請求項1-8に係る発明は、特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という)は、請求項1に記載された次のとおりのものである。

[本件補正発明]
ユーザーの機器設定による複数の項目毎の設定値の変更を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う電子機器であって、
前記項目毎の設定値が対応する初期値と異なる場合に前記設定値をミラーリング対象として選択すると共に同初期値と同じ場合に前記設定値をミラーリング対象とはしない対象選択部と、
前記ミラーリング対象の設定値に対して指定されているミラーリングの優先度を少なくとも判断する優先度判断部と、
前記判断された優先度が相対的に高い設定値を優先して残すように前記ミラーリングを行うミラーリング実行部とを備え、
前記ミラーリング実行部は、前記判断の結果から前記ミラーリング対象の設定値の優先度よりも低い前記既存の設定値がある場合に、その既存の設定値に前記ミラーリング対象の設定値を残すように前記ミラーリングを行い、前記判断の結果から、前記ミラーリング対象の設定値の優先度と前記既存の設定値の優先度が同一の場合、既存の状態を優先するときには既存の設定値を、最新の情報を優先するときにはミラーリング対象の設定値を残す設定に基づいて前記ミラーリングを行う、
ことを特徴とする電子機器。

イ.刊行物
(ア)刊行物1
a.刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された特開2001-249852号公報(以下、「刊行物1」という)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線部は当審により付与した)。

「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、動作条件の設定状態をバックアップする方法を改良した電子楽器などの電子機器に関する。」

「【0023】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ、この発明の好適な実施例について詳述する。なお、以下の実施例では、電子機器として電子楽器が用いられ、そのパネル設定について説明されるが、これは単なる一例であって、この発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0024】〔ハードウエア構成〕図1には、この発明の一実施例による電子楽器システムのハードウエア構成のブロック図が示されている。この例では、電子楽器システムは、中央処理装置(CPU)1、読出専用メモリ(ROM)2、ランダムアクセスメモリ(RAM)3、バックアップメモリ4、外部記憶装置5、設定操作子装置6、演奏操作子装置7、表示装置8、音源9、ディジタル信号処理装置(DSP)10、サウンドシステム11、インターフェイス12等を備え、これらの装置1?12は、バス13を介して互いに接続されている。
【0025】システム全体を制御するCPU1は、所定のプログラムに従って、電子楽器としての演奏情報処理を行うとともに、この発明による初期化処理やパネル設定処理を遂行する。ROM2には、このシステムを制御するための所定の制御プログラムが記憶されており、これらの制御プログラムには、基本的な演奏情報処理プログラムの外、この発明による初期化プログラムやパネル設定プログラム等が含まれる。RAM3は、一般的に使用されているDRAM等で構成された記憶部であり、システムの電源がオンの時に有効となり、電子楽器の設定や動作の処理のために、制御プログラムや電子楽器の設定状態や演奏等に関する各種データを保持するのに使用される記憶領域である。
【0026】バックアップメモリ4は、電子機器について初期の設定状態から変更された機能設定状態(機器設定情報)を記憶するためのメモリであり、電子楽器本体の電源を落しても、記憶した情報を保持し残しておく機能を有し、例えば、フラッシュメモリで構成される。このフラッシュメモリは、周知のように、電気的に消去(書換え)が可能なROMであって、記憶されたデータは電源を切っても消えないのでバックアップ電源が不要であり、DRAMに比べて安価である。フラッシュメモリは、また、ランダムに読出しを行うことができるが、ブロック(バンク)単位で消去/書込みが可能でシーケンシャルにデータを書き込まれなければならないという特性がある。
【0027】この実施例では、バックアップメモリ4には、機器設定情報をバックアップするために、少なくとも2つの記憶ブロック(バンク)が用いられる(各記憶ブロックは、それぞれ、バックアップメモリ部A及びバックアップメモリ部Bと呼ぶものとする。)。各バックアップメモリ部A,Bは、機器の動作条件(動作パラメータ)の設定操作に応じて、設定内容の変更情報を順次記憶することができ、これらの順次変更情報から成る履歴データを含む機器設定情報を二重記憶するための記憶ブロックである。各バックアップメモリ部A,Bに記憶された機器設定情報は、特定のタイミングで、或いは、所定の操作に応じて、最新の設定状態を表わす機器設定情報に書き換えることができる。
【0028】外部記憶装置5は、ハードディスクドライブ(HDD)、フロッピィディスクドライブ(FDD)、CD-ROMドライブ等から成り、演奏情報(楽曲データ)や、設定操作子装置6により設定された電子楽器の機能設定情報(以下、「機器設定情報」という。)の読出しまたは読書き可能な記憶装置である。
【0029】パネル操作子装置6は、電子楽器の操作パネル上或いは他の箇所に設けられたスイッチやつまみ類の操作子を備えパネル操作情報入力部である。これらのパネル操作子には、再生、早送りやセーブ等の動作指示を行う動作指示操作子等の外に、この電子楽器システムに対して音色や効果等の各種機能の設定(パネル設定と呼ばれる)を行うための「設定操作子」が含まれる。従って、この設定操作子を操作することにより、各種機能の設定状態を表わす機器設定情報を任意に変更してシステムに入力することができる。また、動作指示操作子には、設定操作子により入力されてきた現状の機器設定情報を確定し、最新の設定状態のセーブを指示するための「セットスイッチ」と呼ばれる設定確定用操作子が含まれる。
【0030】演奏操作子装置7は、鍵盤等の演奏用操作子の操作により演奏操作情報を入力するための演奏操作情報入力部である。表示装置8は、機器の設定情報や演奏上の各種情報を表示するための表示器や各種インジケータを備えた表示部である。表示器には液晶ディスプレイ等が用いられ、ディスプレイやインジケータは、操作パネル上のパネル操作子に並置することができる。
【0031】音源9及びDSP10は、演奏情報処理により得られる演奏データを所望の音情報に変換及び加工し、サウンドシステム11を介してアナログ信号にし増幅してスピーカにて放音させる。また、入/出力インターフェイス12には別の外部機器14が接続可能であり、インターフェイス12を介して、この電子楽器システムと外部機器14との間で楽音データ(MIDI等)や機器設定情報等の送受信を行なうことができる。
【0032】〔バックアップメモリでのデータ整理〕この発明による一実施例では、設定操作子による機器動作条件の設定操作に応じて、機器の動作条件が設定変更されると共に、バックアップメモリの少なくとも2つの記憶ブロック(バンク)には、最新の機器設定情報に加えて、その後設定変更された内容を表わす変更分(差分、変化分)情報が順次追加的に記憶(追記)される。このように、何度も追記されることによって、バックアップメモリには、新たに記憶し得る容量が徐々に減ってくる。そこで、電源の立下げ又は立上げ時や、設定確定用操作子の操作時等に、各記憶ブロックは、クリアして新たな最新機器設定情報(ミラー)を再度書き込み直し、記憶内容がデータ量の少ない最新機器設定情報に書き換えられる。図2は、この発明の一実施例による電子機器のバックアップメモリにおける最新の機器設定情報の再現態様を説明するための図である。
【0033】この発明の一実施例による電子機器システムにおける動作を図2を用いて端的に説明すると、機器の動作条件を表わす機器設定情報を保存するのに、フラッシュメモリのような電源の非供給時にも記憶内容の維持が可能なバックアップメモリ4が使用され、バックアップメモリ4は、独立して消去・書込みが可能な記憶ブロック(前述のように、「バックアップメモリ部」と呼ぶ。)を少なくとも2つ備えている。いま、図2(左側)において、2つの記憶ブロック(バックアップメモリ部)A,Bには、工場出荷時に初期設定されていた状態から前回の機器使用までに変更された機器設定情報を既に整理した機器設定情報SD0が、実態データとして、既に記憶されているものとする。
【0034】ここで、パネル操作子4内の設定操作子等の操作により機器の動作条件の設定入力を行うと、バックアップメモリ部A,B内の実態データSD0の記憶領域に続く順次記憶領域に、この設定入力毎に、設定変更された設定情報SD1,SD2,SD3,…が、履歴データとして、順次、追記される(図2左)。バックアップメモリ部A,Bに記憶された機器設定情報(図2左)は、電源立上げなどの特定のタイミングで、或いは、セーブ指示等に応じて、整理され、新たな実態データSD0(図2右)に書き換えられる。以下に、その詳細を説明しよう。
【0035】バックアップメモリ4は、図示のように、複数の記憶ブロック(バンク)A,B,C,D,…を有し、システムの電源を立ち上げた後では、左側に示すように、バックアップメモリ部A,Bには、設定設定項目a?nについて既に整理された機器設定情報SD0が記憶されており、この機器設定情報SD0は、その後機器の動作条件を設定変更しない間は、この電子楽器システムの設定変更可能な動作条件について実態的な設定データ(実態データ)を提供する。
【0036】パネル操作子6内の設定操作子を操作して或る動作条件について設定値の変更(例えば、設定項目b→設定項目b1)を行うと、機器の動作条件が設定変更されるとともに、各バックアップメモリ部A,Bに、設定変更された内容を表わす変更分情報(例えば、設定項目b1)SD1が比較的高速で追加的に記憶(追記)される。このような追記は、図2の左側に変更分情報(例えば、設定項目d1,b2,…)SD2,SD3,…で示すように、設定操作子の設定操作毎にシーケンシャルに行われ、しかも、各バックアップメモリ部A,Bに対して順次(例えば、A→Bの順で)同じ情報が追記される。」

「【0054】〔パネル設定処理〕図5には、図3のステップR2におけるパネル設定処理ルーチンの一例が示されている。このパネル設定ルーチンの第1ステップT1では、パネル操作子装置6のパネル操作子の操作等によりパネル操作等による入力(各種機能設定入力やその他の入力)に変化があったかをチェックし、変化があればステップT2の処理にいき、そうでなければリターンする。ステップT2では、さらに、ステップT1での入力の内容がシステムの各種機能(動作条件)の設定に関する入力であるか否かを判断し、機能設定の場合はステップT3,T4の処理へ行き、そうでない場合にはステップT5に進む。
【0055】ステップT3では、この電子楽器システムに対して機能設定を実行し、変更設定に対応するRAM(DRAM)3の記憶箇所のデータを書き換える。続くステップT4では、変更した内容、つまり、変更設定した変更分(差分)機器設定情報を、順次、バックアップメモリ4内の2つのバックアップメモリ部A,Bに逐次的に、追記することにより、機器の機能設定が変更された際のバックアップを行う。このバックアップ(変更分機器設定情報の追記)は.通常、逐次的に行われ、例えば、先ず、バックアップメモリ部Aに書き込み、そして、バックアップメモリ部Bに書き込むというような手順になる(なお、コンピュータのような常用の逐次情報処理ではなく、同時処理が可能な技術下であれば、同時に行なってもよい)。」

b.刊行物1発明
以上の記載から、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると認められる。

[刊行物1発明]
ユーザがパネル操作子6内の設定操作子を操作して或る動作条件について設定値の変更(例えば、設定項目b→設定項目b1)を行うと、機器の動作条件が設定変更されるとともに、各バックアップメモリ部A,Bに、設定変更された内容を表わす変更分情報(例えば、設定項目b1)SD1が比較的高速で追加的に記憶(追記)され、このような追記は、図2の左側に変更分情報(例えば、設定項目d1,b2,…)SD2,SD3,…で示すように、設定操作子の設定操作毎にシーケンシャルに行われ、しかも、各バックアップメモリ部A,Bに対して順次(例えば、A→Bの順で)同じ情報が追記される電子機器。

(イ)刊行物2
原査定の拒絶の理由で引用された特開2006-113962号公報(以下、「刊行物2」という)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0088】
以上のバックアップ処理により、バックアップ先の空き容量がバックアップ予定のコンテンツより大きい場合には、自動的にバックアップ処理が行われる。また、バックアップ先の空き容量が不足している場合において、バックアップ先に嗜好値が低いコンテンツが存在し、かつ、動作モードがAutoに設定されている場合においても、自動的にバックアップ先の嗜好値の低いコンテンツが削除された後、バックアップ処理が行われる。これらにより、ユーザは、情報処理装置1の記録媒体39に記録されているコンテンツのうち、ユーザにとって重要度の高いコンテンツを、ミラーサーバ3に自動的にバックアップさせることが可能となる。
【0089】
さらに、バックアップ先の空き容量が不足している場合において、バックアップ先に嗜好値が低いコンテンツが存在し、かつ、動作モードがNormalに設定されている場合には、バックアップ先のコンテンツの削除を促す画面をユーザに呈示することができる。これにより、ユーザは、ミラーサーバ3に既にバックアップされているコンテンツのうち、優先度が低い(不要)と判断したコンテンツを選択、削除することで、新たなコンテンツをミラーサーバ3にバックアップさせることが可能となる。」

(ウ)刊行物3
原査定の拒絶の理由で引用された特開平11-53883号公報(以下、「刊行物3」という)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0017】同じバックアップされるDRAMでもストアされているデータによって優先度がある場合、優先度の高いデータをできるだけ長くバックアップするために、レジスタにバックアップの優先度を設定する。バックアップ電圧を監視し、電圧の低下を検出すると、選択回路141?14nにより設定された優先度の低いDRAMのバックアップを停止する。その状態でバックアップを続け、再度電圧の低下を検出すると次に低い優先度のDRAMのバックアップを停止する。この動作を繰り返して優先度の高いデータを長く保持するように制御する。」

(エ)刊行物4
原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-21788号公報(以下、「刊行物4」という)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0018】
この分散記憶システムにおける重要度とは、例えば、人命に関わる防災等に関するデバイスと接続されているデバイスコントローラの動作設定情報は、重要度が高い。また、火災(熱検知)センサ、煙センサを接続しているデバイスコントローラの動作設定情報も同様に、分散記憶システムにおける重要度が高く設定される。更に、入出退カメラ、防犯センサといった防犯に関するデバイスと接続されているデバイスコントローラといったような財産を守るデバイスコントローラの動作設定情報は、重要度が高くなる。
【0019】
これに対し、人名、財産、防犯には直接的に関連しない空調機器や、照明機器のみを接続しているデバイスコントローラの動作設定情報は、重要度が低くなる。」

ウ.本件補正発明と刊行物1発明との対比
刊行物1発明の「ユーザがパネル操作子6内の設定操作子を操作して或る動作条件について設定値の変更(例えば、設定項目b→設定項目b1)を行う」変更は、「ユーザーの機器設定による複数の項目毎の設定値の変更」といえ、刊行物1発明の「機器の動作条件が設定変更されるとともに、各バックアップメモリ部A,Bに、設定変更された内容を表わす変更分情報(例えば、設定項目b1)SD1が比較的高速で追加的に記憶(追記)され、このような追記は、図2の左側に変更分情報(例えば、設定項目d1,b2,…)SD2,SD3,…で示すように、設定操作子の設定操作毎にシーケンシャルに行われ、しかも、各バックアップメモリ部A,Bに対して順次(例えば、A→Bの順で)同じ情報が追記される」ことは、本件補正発明の「設定値の変更を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う」ことに相当する。
したがって、本件補正発明と刊行物1発明とは、「ユーザーの機器設定による複数の項目毎の設定値の変更を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う電子機器」である点で一致する。
また、刊行物1発明は、「ミラーリングを行う」ものであるから、「前記ミラーリングを行うミラーリング実行部を備える」ものであることは明らかである。

よって、本件補正発明と刊行物1発明の一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
ユーザーの機器設定による複数の項目毎の設定値の変更を複数の記憶部のミラーリング領域に各別に記憶してミラーリングを行う電子機器であって、
前記ミラーリングを行うミラーリング実行部を備える
ことを特徴とする電子機器。

[相違点]
相違点1
本件補正発明は、「前記項目毎の設定値が対応する初期値と異なる場合に前記設定値をミラーリング対象として選択すると共に同初期値と同じ場合に前記設定値をミラーリング対象とはしない対象選択部」を備えるのに対し、刊行物1発明は、そのような構成を備えない点。

相違点2
本件補正発明は、「前記ミラーリング対象の設定値に対して指定されているミラーリングの優先度を少なくとも判断する優先度判断部」を備えるのに対し、刊行物1発明は、そのような構成を備えない点。

相違点3
本件補正発明は、「前記判断された優先度が相対的に高い設定値を優先して残すように前記ミラーリングを行うミラーリング実行部とを備え、
前記ミラーリング実行部は、前記判断の結果から前記ミラーリング対象の設定値の優先度よりも低い前記既存の設定値がある場合に、その既存の設定値に前記ミラーリング対象の設定値を残すように前記ミラーリングを行い、前記判断の結果から、前記ミラーリング対象の設定値の優先度と前記既存の設定値の優先度が同一の場合、既存の状態を優先するときには既存の設定値を、最新の情報を優先するときにはミラーリング対象の設定値を残す設定に基づいて前記ミラーリングを行う」ものであるのに対し、刊行物1発明は、そのような構成を備えない点。

エ.当審の判断
相違点1について検討する。
刊行物1発明は、各バックアップメモリ部A,Bに、設定変更された内容を表わす変更分情報SD1が記憶(追記)されるものではあるが、この構成は、本件補正発明でいう「前記設定値をミラーリング対象」としてミラーリングを行うというにとどまり、これが「前記項目毎の設定値が対応する初期値と異なる場合」であるとの特定はなされていなく、また、刊行物1には、そのようにする示唆もない。これについて、刊行物1の【0026】には、「バックアップメモリ4は、電子機器について初期の設定状態から変更された機能設定状態(機器設定情報)を記憶するためのメモリであり、電子楽器本体の電源を落しても、記憶した情報を保持し残しておく機能を有し、例えば、フラッシュメモリで構成される。」と記載されているが、ここでいう「初期の設定状態」とは、電子楽器本体の電源を入れた直後の設定状態をいうとも解釈され、必ずしも本件補正発明でいう「初期値」に相当するものであるとはいえない。
また、本件補正発明の「対象選択部」が、「同初期値と同じ場合に前記設定値をミラーリング対象とはしない」点については、刊行物1には、全く記載も示唆もない。刊行物1発明は、設定変更された内容を表わす変更分情報(例えば、設定項目b1)SD1は、全て、各バックアップメモリ部A,Bに、記憶(追記)されるものであって、設定変更された内容が記憶されないことはなく、本件補正発明の「設定値をミラーリング対象とはしない対象選択部」との構成に至る動機付けはない。
さらに、この相違点1に係る構成については、拒絶の理由で引用された他の刊行物2-4にも記載乃至示唆はされていないし、周知の技術であるともいえないから、刊行物1発明において、相違点1を克服することが容易に想到し得るものであるとする理由はない。

したがって、相違点2、相違点3について検討するまでもなく、本件補正発明(請求項1に係る発明)が刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

請求項2-5に係る発明は、上述した本件補正発明(請求項1に係る発明)の全ての発明特定事項を引用するものであるから、本件補正発明(請求項1に係る発明)と同様の理由により、刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
請求項6-8に係る発明は、請求項1-3に係る電子機器の発明のカテゴリーを単に変えてプログラムの発明としたものであるから、本件補正発明(請求項1に係る発明)と同様の理由により、刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、他に、補正後の請求項1-8に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
よって、補正後の請求項1-8に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。

3.まとめ
よって、平成27年1月30日付け手続補正は、特許法第17条の2第3項、第4項、第5項、及び、第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たす適法なものである。

第3.本願発明について
平成27年1月30日付け手続補正は上述のとおり適法なものであるから、本願の請求項1-8に係る発明は、同手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の理由を検討してもその理由によっては本願を拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2015-10-23 
出願番号 特願2012-167701(P2012-167701)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲はま▼中 信行稲葉 崇  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 桜井 茂行
千葉 輝久
発明の名称 電子機器及びそのバックアッププログラム  
代理人 須藤 雄一  

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