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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1307226
審判番号 不服2014-12836  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-07-03 
確定日 2015-10-27 
事件の表示 特願2011-519042「永久磁石励磁形同期機」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日国際公開、WO2010/009742、平成23年11月24日国内公表、特表2011-528890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2008年7月22日を国際出願日とする出願であって、平成26年3月5日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成26年3月10日)、これに対し、平成26年7月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明
平成26年7月3日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
複数の電磁極を備えるステータと複数の永久磁石極(12)を備えるロータ(10)とを含む永久磁石励磁形同期機において、
前記ロータ(10)の少なくとも1つの永久磁石極(12)は、複数の別個の永久磁石セグメント(14)から形成されており、
前記永久磁石セグメント(14)は、製造時に特に高い磁界強度が付与されており、
前記永久磁石セグメント(14)は、前記少なくとも1つの永久磁石極(12)にて周方向に互いに隣接して、ロータの回転時に前記ステータの電磁極に正弦波形の励起が発生するように配置されており、
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の、互いに隣接して配置された複数の永久磁石セグメント(14)が、正弦波形の励起を発生するために種々異なる大きさを有するように形成されており、
前記ステータおよび前記ロータ(10)は、互いに公約数を有しないような数の電磁極ないし永久磁石極(12)をそれぞれ有している、
ことを特徴とする永久磁石励磁形同期機。
【請求項2】
互いに隣接して配置された複数の永久磁石セグメント(14)から構成された、前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の断面の形状が、正弦波の波形の一部である外部輪郭を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項3】
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)は、4?6つの個々の永久磁石セグメント(14)を備えるよう構成されている、
ことを特徴とする請求項1または2記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項4】
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の永久磁石セグメント(14)は、前記ロータ(10)の周囲において、当該永久磁石極(12)に対する極ピッチによって形成される円周距離の70?95%の範囲のみを覆っている、
ことを特徴とする請求項1記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項5】
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の永久磁石セグメント(14)は、取り付けプレート(20)に位置固定的に取り付けられており、
該取り付けプレート(20)自体は、前記ロータ(10)に位置固定的に結合されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項6】
前記取り付けプレート(20)は、前記ロータ(10)に接着されている、
ことを特徴とする請求項5記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項7】
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の永久磁石セグメント(14)は、外側で被覆されている、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載の永久磁石励磁形同期機。
【請求項8】
前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の永久磁石セグメント(14)は、前記ロータ(10)に、とりわけ前記取り付けプレート(20)に接着されている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の永久磁石励磁形同期機。」
と補正された。

本件補正は、本件補正前の請求項9を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項1を削除するものであって、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。


3.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2008-67561号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に以下の事項が記載されている。

a「【請求項1】
移動磁界を生じるための巻線を有する電機子と、
前記電機子と磁気的空隙を介して対向配置すると共に、磁性体板を積層したコアに隣り合うもの同士が移動方向に沿って交互に異極性になるように所定の極ピッチで配置してなる複数の永久磁石を有する界磁と、
を備えた永久磁石形電動機において、
該永久磁石は1極当たり複数個に分割されると共に、磁石の磁化方向が同一方向に揃って配置された分割磁石で構成されたことを特徴とする永久磁石形電動機。
【請求項2】
前記1極当たり複数個に分割される永久磁石は、異なる残留磁束密度を有する磁石を移動方向に沿って隣り合うように配置したことを特徴とする請求項1記載の永久磁石形電動機。」

b「本発明は、FA機器や半導体製造装置に用いられる電動機のうち、回転形やリニアタイプのDCブラシレスモータ、同期モータなど、界磁に永久磁石を用いる永久磁石形電動機に関するものである。」(【0001】)

c「本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、コストの増加なしにギャップ磁束密度分布の高調波を低減し、誘起電圧に含まれる高調波を小さくすることができると共に、トルクリプルの小さい永久磁石形電動機を提供することを目的とする。」(【0006】)

d「図4は本発明の第2実施例を示す回転形の永久磁石形電動機の界磁と電機子を直線状に展開した断面図で、回転形モータをリニアモータに適用した場合にも相当する。
図4において、1は電機子、2は可動子鉄心、6?10は永久磁石である。Gは磁気的空隙である。
このような構成において、第2実施例では、永久磁石の1極当たりに複数分割された分割磁石6?10のうち、その中心の磁石6を基準にして、該中心磁石6の両端側における対象な位置に配置した永久磁石9と10は同じ長さと同じ大きさの残留磁束密度を持つ磁石であり、また、永久磁石7と8も同じ長さと同じ大きさの残留磁束密度を持つ磁石である。永久磁石7と8、永久磁石9と10は、それぞれ永久磁石6に対して小さな残留磁束密度を有しており、残留磁束密度が異なっている。
永久磁石9、7、6、8、及び10は、連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置してS極を構成すると共に、このS極は1極当たり複数個に分割された磁石として可動子鉄心2に固定している。N極も同様な磁石構成であるが、磁化の向きが逆となっている。図4における電気角α2は永久磁石9、10が占める電気角を表し、電気角(α3-α2)は永久磁石7、8が占める電気角を表している。
図4では、電気角α2=30度、電気角α3=60度、永久磁石6の残留磁束密度=1T、永久磁石7、8の残留磁束密度=0.73T、永久磁石9、10の残留磁束密度=0.27Tとしている。
図5は第2実施例の磁界解析による界磁側磁石の電気角に対するギャップ磁束密度分布を示した図、図6は図5の磁束密度分布の高調波成分含有率を示すグラフである。
図5、図6によると、電機子と界磁磁石間におけるギャップ磁束密度の5次高調波成分と7次高調波成分と3の倍数高調波成分を除去することができている。これによりギャップ磁束密度の高調波成分が小さくなったので、トルクリプルを低減することができる。
5次高調波成分と7次高調波成分が3の倍数高調波成分を除去できたのは、電気角α1および永久磁石の残留磁束密度を適切に設定したためである。電気角α2、α3および永久磁石の残留磁束密度はフーリエ展開を用いて決定することができる。
なお電気角α2、α3および永久磁石の残留磁束密度の設定を変更することにより、除去する高調波成分の組み合わせを変更することができる。
例えば、電気角α2=17度、電気角α3=41度、永久磁石106の残留磁束密度=1T、永久磁石107、108の残留磁束密度=0.74T、永久磁石109、110の残留磁束密度=0.19Tとすることにより、5次高調波成分と7次高調波成分と9次高調波成分と15次高調波成分を除去することができる。
例えば、電気角α2=17度、電気角α3=41度、永久磁石106の残留磁束密度=1T、永久磁石107、108の残留磁束密度=0.74T、永久磁石109、110の残留磁束密度=0.19Tとすることにより、5次高調波成分と7次高調波成分と9次高調波成分と15次高調波成分を除去することができる。さらに11次高調波成分と13次高調波成分も矩形波に比べて50%に低減することができるので、トルクリプルを低減することができる。」(【0013】-【0014】)

上記記載及び図面を参照すると、電機子はステータであるから、移動磁界を生じるための巻線を有する電機子は複数の電磁極を備えるステータである。
上記記載及び図面を参照すると、界磁はロータであるから、複数の永久磁石を有する界磁は複数の永久磁石極を備えるロータである。
上記記載及び図面を参照すると、分割磁石の配置によりトルクリプルを低減することができるから、ロータの回転時にステータの電磁極に正弦波形の励起が発生している。
上記記載及び図面を参照すると、1極当たり5個に分割された分割磁石の各永久磁石は、電気角の占める角度が17°、24°、98°、24°、17°で、残留磁束密度が0.19T、0.74T、1T、0.74T、0.19Tとすることにより、トルクリプルを低減することができるから、分割磁石が正弦波形の励起を発生するために種々異なる大きさを有するように形成されているといえる。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「複数の電磁極を備えるステータと複数の永久磁石極を備えるロータとを含む回転形の永久磁石形電動機において、
前記ロータのN極又はS極は1極当たり複数個に分割される分割磁石で構成されており、
前記分割磁石は、前記N極又はS極にて連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置して、ロータの回転時に前記ステータの電磁極に正弦波形の励起が発生するように配置されており、
前記連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置された分割磁石が、正弦波形の励起を発生するために種々異なる大きさを有するように形成されており、
前記ステータおよび前記ロータは、複数の電磁極ないし永久磁石極をそれぞれ有している、
回転形の永久磁石形電動機。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。


4.対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明の「回転形の永久磁石形電動機」、「N極又はS極」、「連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置」は、それぞれ本願発明の「永久磁石励磁形同期機」、「永久磁石極(12)」、「周方向に互いに隣接」に相当する。

本願発明の「少なくとも1つの永久磁石極(12)」は、複数あるロータの永久磁石極の1つについて言及するものであるから、引用発明の「前記ロータのN極又はS極は1極当たり複数個に分割される分割磁石で構成」は、本願発明の「前記ロータ(10)の少なくとも1つの永久磁石極(12)は、複数の別個の永久磁石セグメント(14)から形成」に相当し、引用発明の「前記分割磁石は、前記N極又はS極にて連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置」は、本願発明の「前記永久磁石セグメント(14)は、前記少なくとも1つの永久磁石極(12)にて周方向に互いに隣接」に相当し、引用発明の「前記連続的に移動方向に沿って隣り合うように配置された分割磁石」は、本願発明の「前記少なくとも1つの永久磁石極(12)の、互いに隣接して配置された複数の永久磁石セグメント(14)」に相当する。

引用発明の「前記ステータおよび前記ロータは、複数の電磁極ないし複数の永久磁石極をそれぞれ有している」と、本願発明の「前記ステータおよび前記ロータ(10)は、互いに公約数を有しないような数の電磁極ないし永久磁石極(12)をそれぞれ有している」は、「前記ステータおよび前記ロータは、所定数の電磁極ないし永久磁石極をそれぞれ有している」との概念で一致する。

したがって、両者は、
「複数の電磁極を備えるステータと複数の永久磁石極を備えるロータとを含む永久磁石励磁形同期機において、
前記ロータの少なくとも1つの永久磁石極は、複数の別個の永久磁石セグメントから形成されており、
前記永久磁石セグメントは、前記少なくとも1つの永久磁石極にて周方向に互いに隣接して、ロータの回転時に前記ステータの電磁極に正弦波形の励起が発生するように配置されており、
前記少なくとも1つの永久磁石極の、互いに隣接して配置された複数の永久磁石セグメントが、正弦波形の励起を発生するために種々異なる大きさを有するように形成されており、
前記ステータおよび前記ロータは、所定数の電磁極ないし永久磁石極をそれぞれ有している永久磁石励磁形同期機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
本願発明は、永久磁石セグメントは製造時に特に高い磁界強度が付与されているのに対し、引用発明は、この様な限定がない点。
〔相違点2〕
ステータおよびロータの所定数の電磁極ないし永久磁石極に関し、本願発明は、互いに公約数を有しないような数をそれぞれ有しているのに対し、引用発明は、単にそれぞれが複数を有している点。


5.判断
相違点1について
永久磁石は、通常、強磁性体に十分な磁界をかけて製造するものであるから、引用発明においても、複数個に分割される分割磁石の製造時に、当然に特に高い磁界強度を付与するものと考えられるから、相違点1は実質的なものではない。

相違点2について
引用発明は、ステータおよびロータは複数の電磁極ないし永久磁石極をそれぞれ有しているが、ステータの電磁極数は、通常電動機が三相であることから、3の倍数であり、又、ロータの永久磁石極数は、N極とS極の2極の倍数、即ち2の倍数である。また、永久磁石励磁形同期機において、ステータおよびロータが互いに公約数を有しないような数の電磁極ないし永久磁石極をそれぞれ有していることは、特開昭64-74052号公報にもみられるように慣用手段(第2頁左下欄参照。例えば、ステータが9極、ロータが8又は10極。)である。
そうであれば、引用発明において、ステータおよびロータの電磁極ないし永久磁石極のそれぞれの数を、互いに公約数を有しないような数とすることは当業者が容易に考えられることと認められる。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


6.むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-29 
結審通知日 2015-06-01 
審決日 2015-06-16 
出願番号 特願2011-519042(P2011-519042)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 泰典  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 矢島 伸一
堀川 一郎
発明の名称 永久磁石励磁形同期機  
代理人 高橋 佳大  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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