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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1307259
審判番号 不服2014-8473  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-07 
確定日 2015-10-28 
事件の表示 特願2010-208412「有機発光表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月14日出願公開、特開2011-138748〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年9月16日(パリ条約による優先権主張2010年1月4日、韓国)の出願であって、平成24年4月27日及び平成25年3月25日付けで手続補正がなされ、平成25年12月20日付けで平成25年3月25日付けの手続補正が却下されるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成26年5月7日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年5月7日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成26年5月7日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
平成26年5月7日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものである。
(1)特許請求の範囲についての本件補正は、本件補正前に、
「 【請求項1】
有機発光素子が形成された基板と、
前記有機発光素子を覆い、前記基板と結合された封止部と、
を含み、
前記封止部は、無機層と有機層が積層され、前記無機層と前記有機層の各端部が前記基板に結合し、前記有機層の厚さは前記無機層の厚さより厚く、
前記封止部を構成する前記無機層および前記有機層は、前記有機発光素子が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域を連結する曲面を有する第3の領域と、を含むことを特徴とする、有機発光表示装置。
【請求項2】
前記封止部は、前記無機層と前記有機層をそれぞれ少なくとも一つ以上備え、前記無機層と前記有機層は交互に積層される、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項3】
前記有機発光素子から最も近くに配置される前記封止部の第1層と、前記有機発光素子から最も遠くに配置される前記封止部のn層とが、全て無機層である、請求項2に記載の有機発光表示装置。
【請求項4】
前記無機層と前記有機層が一対でサブ封止部を成し、前記サブ封止部がn個(但し、n=2)に積層される、請求項1または2に記載の有機発光表示装置。
【請求項5】
前記n個のサブ封止部のうち、n番目サブ封止部の無機層が有する面積が、n-1番目サブ封止部の無機層が有する面積より大きい、請求項4に記載の有機発光表示装置。
【請求項6】
前記n個のサブ封止部のうち、n番目サブ封止部の有機層が有する面積が、n-1番目サブ封止部の有機層が有する面積より大きい、請求項4に記載の有機発光表示装置。
【請求項7】
前記有機発光素子と前記封止部との間に配置された光機能性膜をさらに含む、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項8】
前記光機能性膜が紫外線遮断膜である、請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項9】
前記光機能性膜の厚さが20nm?200nmである、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項10】
前記光機能性膜の厚さが50nm?150nmである、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項11】
前記光機能性膜が、トリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、ベンゾフェノン、フォトアクリル、BaF2、CsF、Na5Al3F14、KCl、及びSiO2より選択されたいずれか一つの材質を含む、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項12】
前記光機能性膜が、互いに異なる屈折率を有する第1膜と第2膜が積層された反射膜である、請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項13】
前記有機層が紫外線硬化物質からなり、前記第1膜と前記第2膜の光学的厚さが前記有機層を硬化することに用いられる紫外線波長のλ/4である、請求項12に記載の有機発光表示装置。
【請求項14】
前記第1膜がトリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、ベンゾフェノン、フォトアクリル、BaF2、CsF、Na5Al3F14、KCl、及びSiO2より選択されたいずれか一つの材質を含み、
前記第2膜がシリコン窒化物(SiN)、Cu20、Fe203、TiO2、及びZnSeより選択されたいずれか一つの材質を含む、請求項12に記載の有機発光表示装置。
【請求項15】
前記有機層の厚さが前記無機層の厚さより少なくとも5倍である、請求項1に記載の有機発光表示装置。」とあったものを、

「 【請求項1】
有機発光素子が形成された基板と、
前記有機発光素子を覆い、前記基板と結合された封止部と、
を含み、
前記封止部は、無機層と有機層が積層され、前記無機層と前記有機層の各端部が前記基板に結合し、前記有機層の厚さは前記無機層の厚さより厚く、
前記封止部を構成する前記無機層および前記有機層は、前記有機発光素子が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、前記第1の領域と前記第2の領域を連結する曲面を有する第3の領域と、を含み、
前記有機発光素子から最も遠くに配置される前記封止部のn層は、無機層であり、
前記封止部のn層の表面は、前記基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接することを特徴とする、有機発光表示装置。
【請求項2】
前記封止部は、前記無機層と前記有機層をそれぞれ少なくとも一つ以上備え、前記無機層と前記有機層は交互に積層される、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項3】
前記有機発光素子から最も近くに配置される前記封止部の第1層は、無機層である、請求項2に記載の有機発光表示装置。
【請求項4】
前記無機層と前記有機層が一対でサブ封止部を成し、前記サブ封止部がn個(但し、n=2)に積層される、請求項1または2に記載の有機発光表示装置。
【請求項5】
前記n個のサブ封止部のうち、n番目サブ封止部の無機層が有する面積が、n-1番目サブ封止部の無機層が有する面積より大きい、請求項4に記載の有機発光表示装置。
【請求項6】
前記n個のサブ封止部のうち、n番目サブ封止部の有機層が有する面積が、n-1番目サブ封止部の有機層が有する面積より大きい、請求項4に記載の有機発光表示装置。
【請求項7】
前記有機発光素子と前記封止部との間に配置された光機能性膜をさらに含む、請求項1に記載の有機発光表示装置。
【請求項8】
前記光機能性膜が紫外線遮断膜である、請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項9】
前記光機能性膜の厚さが20nm?200nmである、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項10】
前記光機能性膜の厚さが50nm?150nmである、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項11】
前記光機能性膜が、トリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、ベンゾフェノン、フォトアクリル、BaF2、CsF、Na5Al3F14、KCl、及びSiO2より選択されたいずれか一つの材質を含む、請求項8に記載の有機発光表示装置。
【請求項12】
前記光機能性膜が、互いに異なる屈折率を有する第1膜と第2膜が積層された反射膜である、請求項7に記載の有機発光表示装置。
【請求項13】
前記有機層が紫外線硬化物質からなり、前記第1膜と前記第2膜の光学的厚さが前記有機層を硬化することに用いられる紫外線波長のλ/4である、請求項12に記載の有機発
光表示装置。
【請求項14】
前記第1膜がトリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、ベンゾフェノン、フォトアクリル、BaF2、CsF、Na5Al3F14、KCl、及びSiO2より選択されたいずれか一つの材質を含み、
前記第2膜がシリコン窒化物(SiN)、Cu20、Fe203、TiO2、及びZnSeより選択されたいずれか一つの材質を含む、請求項12に記載の有機発光表示装置。
【請求項15】
前記有機層の厚さが前記無機層の厚さより少なくとも5倍である、請求項1に記載の有機発光表示装置。」とするものである(下線は当審で付した。以下同様。)。

(2)本件補正は、要するに、次のアないしウの補正からなるものである。
ア 請求項1における「封止部」について、本件補正前の請求項3における「有機発光素子から最も遠くに配置される」「n層」が「無機層」であることを限定する補正
イ 請求項1における「封止部」について、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」こととする補正
ウ 請求項1の補正に伴い、本件補正前の請求項3における「有機発光素子から最も遠くに配置される封止部のn層」が「無機層」であることの発明特定事項を削除した補正

2 請求人の主張する補正の根拠
請求人は、審判請求書の請求の理由において、以下のように補正の根拠を主張している。(なお、下記請求の理由における下線は、請求項3の補正の根拠に関する記載を示すものであり、当審で付した。)
「4-2.補正の内容と根拠
本審判請求書と同日付提出の手続補正書において行った補正の内容と根拠は、以下の通りです。
(1)補正後の請求項1
補正後の請求項1は、平成24年4月27日付の手続補正書にて補正した請求項(以下、「補正前の請求項」という)1を、補正前の請求項2および請求項3の一部で限定いたしました。
さらに、本願当初明細書の図2等に基づいて、補正前の請求項3における「封止部のn層」を「封止部のn層の表面は、基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」構成に限定いたしました。
したがって、上記補正は、新規事項の追加に該当するものではなく、また、産業上の利用分野および解決しようとする課題を変更するものでもありません。」(審判請求書3頁20行?4頁5行)

3 新規事項の追加
(1)上記1(2)イの補正に係る本件補正は、「封止部」の「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」としたものである。
しかしながら、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」との事項は、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面(以下「当初明細書」という。)に記載されていない。

(2)当初明細書には、次の記載がある。
ア 「【0031】
図1は、本発明の実施形態による有機発光表示装置の斜視図であり、図2は、図1のII-II線を基準に切開した断面図である。
【0032】
図1と図2を参照すれば、本実施形態の有機発光表示装置101は、表示領域A10とパッド領域A20を備え、表示領域A10で所定の映像を表わすパネルアセンブリ12と、軟性回路基板14を通じてパネルアセンブリ12と電気的に接続する印刷回路基板16とを含む。
【0033】
パネルアセンブリ12は、その上面に表示領域A10とパッド領域A20が定義される基板18と、表示領域A10を覆いながら基板18の上に形成される封止部20とを含む。
【0034】
封止部20は、表示領域A10より大きい面積に形成され、表示領域A10だけでなく表示領域A10の外側(非表示領域)に対応する部位まで基板18の上面を覆って保護する。パッド領域A20は封止部20によって覆われないで露出する。」
イ 「【図1】

【図2】


(3)上記(2)の記載から、次のア及びイのことが把握できる。
ア 図2が図1のII-II線を基準に切開した断面図(【0031】)であり、該図2の記載から、封止部20の最上層の無機層201(n層の表面)が基板18の外周の4辺のうち第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接すること
イ 【0034】及び図1の記載から、パッド領域A20は封止部20によって覆われないで露出しており、基板18の外周の4辺のうち前記第1の辺に直交する第3の辺には、封止部20の最上層の無機層201(n層の表面)が接していないこと

(4)上記(3)からみて、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」ことは当初明細書の記載から把握できる事項であるが、当初明細書の記載において、n層の表面が接する基板の辺が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺」、すなわち、基板の外周の4辺のうちの全ての辺を含むことは記載も示唆もされていないだけでなく自明であるともいえない。
してみると、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」との事項を追加する補正は、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでない。
したがって、上記1(2)イとする補正を含む本件補正は、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものでないので、当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたものではない。

(5)本件補正は、以上のとおり、当初明細書に記載した事項の範囲内でなされたものではないので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4 本件補正の目的
(1)本件補正後の請求項1に係る上記1の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「封止部」を「有機発光素子から最も遠くに配置される」「n層」が「無機層」であると限定し、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」ことに限定するものである。

(2)本件補正後の請求項1に係る本件補正は、上記3のとおり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものであるが、上記(1)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定する補正も含まれている。
そこで、請求項1に係る本件補正が仮に特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)についても、一応以下検討する。

5 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布された刊行物である韓国公開特許第10-2007-0107268号公報(以下、「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「


(日本語訳)
「特許請求の範囲
請求項1
基板;
前記基板上に二つの電極間に形成された発光部を含むピクセル部; 及び
前記ピクセル部を覆うように形成されて、一つ以上の透明吸湿膜と一つ以上の無機膜を含む保護膜を含む電界発光素子。

請求項2
第1項において、
前記保護膜は前記透明吸湿膜と前記無機膜が交番積層されて形成されたことを特徴とする電界発光素子。

請求項3
第1項または第2項において、
前記保護膜は最下層が前記透明吸湿膜であることを特徴とする電界発光素子。

請求項4
第1項または第2項において、
前記透明吸湿膜はパリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーであることを特徴とする電界発光素子。

請求項5
第1項または第2項において、
前記無機膜はAl_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含むことを特徴とする電界発光素子。

請求項6
第1項において、
前記発光部は有機物発光層を含むことを特徴とする電界発光素子。

請求項7
第1項において、
前記ピクセル部は前記基板と対向する方向に発光するように前記二つの電極の反射特性が調整されたことを特徴とする電界発光素子。

請求項8
基板上に二つの電極間に発光部を含むピクセル部を形成するピクセル部形成段階;
前記ピクセル部上に一つ以上の透明吸湿膜と一つ以上の無機膜を積層する保護膜形成段階を含む電界発光素子の製造方法。

請求項9
第8項において、
前記保護膜形成段階は最下層を前記透明吸湿膜で形成してその上に一つ以上の無機膜と一つ以上の透明吸湿膜を交番して積層することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項10
第8項または第9項において、
前記保護膜形成段階はパリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーで前記透明吸湿膜を形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項11
第8項または第9項において、
前記保護膜形成段階はAl_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含むように前記無機膜を形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項12
第8項または第9項において、
前記保護膜形成段階は前記透明吸湿膜を真空蒸着法、スピンコーティング法、スプレー法の中でいずれか一つの方法で形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項13
第8項または第9項において、
前記保護膜形成段階は前記無機膜をスパッタリング、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法の中でいずれか一つの方法で形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項14
第8項において、
前記ピクセル部形成段階は有機物発光層を含むように前記発光部を形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。

請求項15
第8項において、
前記ピクセル部形成段階は基板と対向する方向に発光するように前記二つの電極の反射特性を調節して前記ピクセル部を形成することを特徴とする電界発光素子の製造方法。」

(2)「


(日本語訳)
「明細書
発明の詳細な説明
本発明が属する技術及び背景技術
<8>本発明は封止構造が改善した電界発光素子及びその製造方法に関する。

<9>電界発光素子は二つの電極間に形成された発光部を含む自発光素子である。

<10>このような、電界発光素子は低い電圧で駆動が可能で、薄型、広視野角、早い応答速度などの長所を具備して従来液晶表示装置で問題に指摘された短所を解決することができる次世代ディスプレイで注目されている。

<11>電界発光素子は発光方式に従って基板に対向する方向に発光する上部発光型電界発光素子(Top-Emission LED)と基板方向に発光する下部発光型電界発光素子(Bottom-Emission LED)に区分された。

<12>従来電界発光素子は基板上に例えば、ITO(Indum Tin Oxide)でアノード電極が形成され、その上に発光部例えば、一つ以上の電荷注入/輸送層と発光層が形成された。 また、発光部上にはカソード電極が形成されてピクセル部が形成された。

<13>このような、電界発光素子には駆動時ITOから発生する酸素による発光層の劣化、発光層界面の間の反応による劣化など内的劣化要因が作用した。

<14>また、外部の水分、酸素、紫外線及び素子などを含んだ製造工程上の外的劣化要因が作用した。 特に、外部の水分と酸素は素子の寿命に致命的な悪影響を及ぼした。

<15>よって、素子のパッケージングが非常に重要であった。

<16>素子の封止構造では基板上に形成されたピクセル部を覆う封止基板が使われることができた。 この時、封止基板ではガラスまたはキャップが使われることができた。

<17>また、封止構造には吸湿剤(getter)が追加で適用されることができた。

<18>他の側面で、基板上のピクセル部は保護膜に封止されることができた。

<19>保護膜に封止される場合は大部分無機膜が適用された。

<20>よって、保護膜に封止される場合は空隙(void)及び外部応力に対してクラックが発生しやすい性質などを含んだ無機膜の不完全性のため封止基板を適用した場合より封止効率が落ちたし、それによって素子の寿命が大きく低下された。

<21>このような欠陥を補うために従来保護膜構造は多数の有機膜と無機膜が交番積層された。

<22>このように、従来保護膜構造は十分な保護膜特性を得るために保護膜の厚さを減らす側面で限界があったし、素子の柔軟性(flexibility)が低下される問題があった。

<23>また、工程側面で多数の有機膜と無機膜を交番積層しなければならないので無機膜と有機膜のそれぞれの材料特性によって工程をしばしば変更しなければならない煩わしさがあった。 よって、従来電界発光素子の製造方法において、生産性の低下と工程費用の上昇という深刻な問題が発生した。

発明が解決しようとする課題
<24>このような問題点を解決するために本発明は素子の保護膜構造を改善して厚さと柔軟性側面での限界を乗り越えることができ、寿命及び信頼性が向上した電界発光素子を提供するのにその目的がある。

<25>また、本発明は素子の保護膜構造を改善して生産性を向上させて、工程費用を節減させることができる電界発光素子の製造方法を提供するのにその目的がある。

発明の構成
<26>以上のような目的を果たすために本発明は基板、基板上に二つの電極間に形成された発光部を含むピクセル部、及びピクセル部を覆うように形成されて、一つ以上の透明吸湿膜と一つ以上の無機膜を含む保護膜を含む電界発光素子を提供する。

<27>保護膜は透明吸湿膜と無機膜が交番積層されて形成されたことを特徴とする。

<28>上で説明した保護膜は最下層が透明吸湿膜であることを特徴とする。

<29>透明吸湿膜はパリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーであることができる。

<30>無機膜はAl_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含むことができる。

<31>上で説明したピクセル部の発光部は有機物発光層を含むことができる。

<32>また、ピクセル部は基板と対向する方向に発光するように二つの電極の反射特性が調整されたことを特徴とする。

<33>他の側面で、本発明は基板上に二つの電極間に発光部を含むピクセル部を形成するピクセル部形成段階、ピクセル部上に一つ以上の透明吸湿膜と一つ以上の無機膜を交番して積層する保護膜形成段階を含む電界発光素子の製造方法を提供する。

<34>保護膜形成段階は最下層を透明吸湿膜で形成してその上に一つ以上の無機膜と一つ以上の透明吸湿膜を交番して積層することを特徴とする。

<35>保護膜形成段階はパリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーで透明吸湿膜を形成することができる。

<36>また、保護膜形成段階はAl_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含むように無機膜を形成することができる。

<37>保護膜形成段階は透明吸湿膜を真空蒸着法、スピンコーティング法、スプレー法の中でいずれか一つの方法で形成することができる。

<38>保護膜形成段階は無機膜をスパッタリング、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法の中でいずれか一つの方法で形成することができる。

<39>ピクセル部形成段階は有機物発光層を含むように発光部を形成することができる。

<40>ピクセル部形成段階は基板と対向する方向に発光するように前記二つの電極の反射特性を調節してピクセル部を形成することを特徴とする。

<41>以下、添付した図面を参照して本発明の一実施例を詳細に説明する。

<42>図1は本発明の一実施例による電界発光素子の構造を図示した断面図である。

<43>図1を参照すると、基板(100)上に二つの電極間に形成された発光部を含むピクセル部(120)が形成される。

<44>この時、発光部は一つ以上の電荷注入/輸送層及び発光層を含むことができる。

<45>また、ピクセル部(120)は各ピクセルに電界的に対応される一つ以上の駆動部例えば、薄膜トランジスタ(TFT)を含むことができる。

<46>ピクセル部(120)上には例えば、パリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーで第1透明吸湿膜(140)が形成される。

<47>この時、第1透明吸湿膜(140)は1?5μmの厚さに形成されうる。

<48>第1透明吸湿膜(140)上には例えば、Al_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含む第1無機膜(160)が形成される。

<49>第1無機膜(160)は一つ以上の層に形成されうる。

<50>一方、第1無機膜(160)上にはポリマー材質の第2透明吸湿膜(170)が形成される。

<51>この時、第2透明吸湿膜(170)は第1透明吸湿膜(140)と同じ物質に形成されうる。

<52>また、第2透明吸湿膜(160)を覆うように第2無機膜(180)が形成される。

<53>第2無機膜(180)は一つ以上の層に形成されることができるし、第1無機膜(140)と同じ物質に形成されうる。

<54>以上第1透明吸湿膜(140)は第1無機膜(160)との接触によるピクセル部(120)の劣化及び損傷を防止するための保護膜としての役目と、水分または酸素との接触によるピクセル部(120)の劣化及び損傷を防止するゲッターとしての役目をするようになる。

<55>また、第2透明吸湿膜(170)は工程の中でまたは工程以後に素子に作用する応力によって第1または第2無機膜(160、180)に発生することがあるクラック(crack)の生成及び発電を抑制して、第1無機膜(160)と第2無機膜(180)の間の緩衝としての役目をする。 また、外部から素子内部への水分または酸素の浸透を防止するゲッターとしての役目を担当する。

<56>以上のような保護膜構造(200)を有する本発明の一実施例による電界発光素子は従来保護膜構造で所望の保護膜特性を得るために積層しなければならなかった有機膜及び無機膜の厚さ及び層数を相対的に減らすことができるので、従来素子の厚さ及び柔軟性側面にあって限界を乗り越えることができる。

<57>また、工程過程上または工程以後に素子内部に浸透することができる水分及び酸素を効率的に抑制、防止することができるので、素子の寿命及び信頼性がさらに向上することができる。

<58>図2及び図3は本発明の一実施例による電界発光素子の製造工程上、段階別構造を図にした状態図である。

<59>図2を参照すると、ピクセル部形成段階で基板(100)上に二つの電極間に発光部を形成してピクセル部(120)を形成する。

<60>この時、発光部は一つ以上の発光層で形成することができ、発光層と接するように1つ以上の電荷注入/輸送層を追加で形成することもできる。

<61>詳細するように例えば、基板(100)上にITOでアノード電極を形成して、正孔注入/輸送層を形成する。 その上に有機発光層を形成して、電子注入/輸送層及びカソード電極を形成する。

<62>また、発光方向を考慮し、2つの電極の反射特性を調整することができる。

<63>図3を参照すると、保護膜形成段階でピクセル部(120)を覆う第1透明吸湿膜(140)を形成する。

<64>第1透明吸湿膜(140)は例えば、パリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーで形成することができる。

<65>また、第1透明吸湿膜(140)は1?5μmの厚さで形成することができる。

<66>第1透明吸湿膜(140)上には例えば、Al_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含むように第1無機膜(160)を形成する。

<67>続いて、第1無機膜(160)上には第2透明吸湿膜(170)を形成する。

<68>第2透明吸湿膜(170)はポリマー基材に例えば、ケイ素酸化物、ケイ素窒化物の中でいずれか一つまたは一つ以上を含むように形成することができる。

<69>第2透明吸湿膜(170)上には第2無機膜(180)を形成する。

<70>第2無機膜(180)は第1無機膜(160)と同じ材質で形成することができる。

<71>以上の第1及び第2無機膜(140、180)はスパッタリング、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法の中でいずれか一つの方法で形成することができる。

<72>以上の透明吸湿膜は真空蒸着法、スピンコーティング法、スプレー法の中でいずれか一つの方法で形成することができる。

<73>以上本発明の一実施例ではピクセル部(120)上に第1透明吸湿膜(140)、第1無機膜(160)、第2透明吸湿膜(170)、及び第2無機膜(180)を積層した構造で保護膜(200)を図示説明したが、本発明の保護膜(200)の積層構造はここに限らない。 すなわち、前で言及した透明吸湿膜と無機膜の中でいずれか一つ以上がないかも知れなくて、追加にさらに積層されることもできる。 また、積層順序にも変わることができる。

<74>以上本発明の一実施例では保護膜(200)との接触によるピクセル部(120)の劣化及び損傷を防止するための保護層例えば、有機バッファ層がピクセル部(120)と保護膜(200)の間に追加に形成されうる。

<75>以上本発明では単方向発光型の場合で図示参照して説明したが、本発明はこれに限らないし両面発光型の場合にも適用可能である。

<76>また、以上本発明は発光部に有機物だけではなく無機物も利用可能な電界発光素子(LED)の範疇で理解しなければならない。

<77>また、本発明はアクティブマトリックス型電界発光素子とパッシブマトリックス型電界発光素子すべてに適用可能である。

<78>以上一実施例に関して本発明を述べたが、本発明の範囲は前述の詳細説明よりは特許請求範囲によって示されて、特許請求範囲の意味及び範囲そして、その等価概念から導出されるすべての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれることと解析すべきである。

発明の効果
<79>上記のように、本発明による電界発光素子は従来保護膜構造すなわち、有機膜/無機膜が多層交番積層された構造の保護膜に対して有機膜を透明吸湿膜で取り替えることで、保護膜の厚さ及び層数を相対的に減少させることができる。

<80>よって、従来保護膜に比べて相対的に弾力的(flexible)で、軽薄化された素子の具現が可能である。

<81>また、本発明の保護膜構造は水分及び酸素の素子内部への浸透を効率的に抑制、遮断してピクセル部の劣化及び損傷を防止することができるので、素子の寿命及び信頼度を向上させることができる。

<82>他の側面で、本発明による電界発光素子の製造方法は保護膜形成段階から無機物系列で保護膜と透明吸湿膜をすべて形成するので、ピクセル部上に無機膜と有機膜を交番積層した従来工程に相対的に工程数を大きく減らすことができる。 よって、工程費用を節減することができる。

図面の簡単な説明
<1>図1は本発明の一実施例による電界発光素子の構造を図示した断面図。

<2>図2及び図3は本発明の一実施例による電界発光素子の製造工程上段階別構造を図示した状態図。

<3>* 図面の主要符号に対する説明*

<4>100:基板 120:ピクセル部

<5>140:第1透明吸湿膜 160:第1無機膜

<6>170:第2透明吸湿膜 180:第2無機膜

<7>200:保護膜

図面 ・・・略・・・」

(3)本発明の一実施例による電界発光素子の構造を図示した断面図である図1から、図1の電界発光素子の製造工程が記載されている上記(1)の<63>ないし<73>の記載を参照すれば、ピクセル部120から順に、第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜140(審決注:図中の符号「160」と「180」との間の「140」は上記(1)の<67>ないし<69>の記載から明らかに「170」の誤記である。以下、「第2透明吸湿膜170」とする。)及び第2無機膜180が積層され、第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180の各端部が基板100に結合し、保護膜200を構成する第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180は、ピクセル部120が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、からなり、保護膜の最上層である第2無機膜180の表面は、基板100の外周の辺から離間しており、前記辺に接するものではないことが見て取れる。

(4)上記(1)ないし(3)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「二つの電極間に形成された発光部を含む自発光素子である電界発光素子において、
従来、電界発光素子は低い電圧で駆動が可能で、薄型、広視野角、早い応答速度などの長所を具備して従来液晶表示装置で問題に指摘された短所を解決することができる次世代ディスプレイで注目されており、
外部の水分と酸素は素子の寿命に致命的な悪影響を及ぼしたため、基板上のピクセル部は多数の有機膜と無機膜が交番積層された保護膜に封止されていたが、十分な保護膜特性を得るために保護膜の厚さを減らす側面で限界があり、素子の柔軟性(flexibility)が低下される問題があったので、このような問題点を解決するために素子の保護膜構造を改善して厚さと柔軟性側面での限界を乗り越えることができ、寿命及び信頼性が向上した電界発光素子を提供することを目的として、
基板;前記基板上に二つの電極間に形成された有機物発光層を含む発光部を含むピクセル部;及び前記ピクセル部を覆うように形成されて、一つ以上の透明吸湿膜と一つ以上の無機膜を含む保護膜を含むことにより、保護膜の厚さ及び層数を相対的に減少させ、従来保護膜に比べて相対的に弾力的(flexible)で、軽薄化された素子の具現を可能とし、素子の寿命及び信頼度を向上させた電界発光素子であり、
前記保護膜は前記透明吸湿膜と前記無機膜が交番積層されて形成され、前記透明吸湿膜はパリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーである、電界発光素子であって、
ピクセル部(120)上には例えば、パリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーで1?5μmの厚さに第1透明吸湿膜(140)が形成され、
第1透明吸湿膜(140)上には例えば、Al_(2)O_(3)、AlON、AlN、SiO_(2)、SiO_(3)N_(4)、SiON、MgOからなる群で選択された一つ以上を含む第1無機膜(160)が形成され、
第1無機膜(160)上にはポリマー材質の第2透明吸湿膜(170)が形成され、この時、第2透明吸湿膜(170)は第1透明吸湿膜(140)と同じ物質により形成され、第2透明吸湿膜(160)を覆うように第2無機膜(180)が形成され、要するに、ピクセル部120から順に、第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180が積層され、
第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180の各端部が基板100に結合し、保護膜200を構成する第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180は、ピクセル部120が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、からなり、保護膜の最上層である第2無機膜180の表面は、基板100の外周の辺から離間し、
アクティブマトリックス型電界発光素子とパッシブマトリックス型電界発光素子として適用可能である、
電界発光素子。」(以下、「引用発明」という。)

6 引用発明との対比・判断
(1)対比
ア 引用発明の「二つの電極間に形成された有機物発光層を含む発光部を含むピクセル部」、「基板」、「保護膜」及び「『第1無機膜』又は『第2無機膜』」は、それぞれ、本願補正発明の「有機発光素子」、「基板」、「封止部」及び「無機層」に相当する。

イ 引用発明の「透明吸湿膜」は、パリレン、テフロン、ポリアクリレートの中でいずれか一つまたは一つ以上を含むポリマーであるから、本願補正発明の「有機層」に相当する。

ウ 引用発明の「電界発光素子」は、「次世代ディスプレイとして注目されている」従来の電界発光素子の課題を解決しようとするものであり、「アクティブマトリックス型電界発光素子とパッシブマトリックス型電界発光素子として適用可能」であるから、ディスプレイとして用いられることは明らかである。
したがって、引用発明の「電界発光素子」は、本願補正発明の「有機発光表示装置」に相当する。

エ 引用発明の「有機発光表示装置(電界発光素子)」は、「基板(基板)」;前記「基板」上に「有機発光素子(二つの電極間に形成された有機物発光層を含む発光部を含むピクセル部)」;及び前記「有機発光素子」を覆うように形成されて、一つ以上の「有機層(透明吸湿膜)」と一つ以上の「無機層(無機膜)」を含む「封止部(保護膜)」を含むから、本願補正発明の「有機発光表示装置」と、「有機発光素子が形成された基板と、前記有機発光素子を覆い、前記基板と結合された封止部と、を含」んでいる点で一致する。

オ 引用発明の「封止部(保護膜)」は、前記透明吸湿膜と前記無機膜が交番積層されて形成され、第1透明吸湿膜140、第1無機膜160、第2透明吸湿膜170及び第2無機膜180の各端部が基板100に結合しているから、本願補正発明の「封止部」と、「無機層と有機層が積層され、前記無機層と前記有機層の各端部が前記基板に結合し」ている点で一致する。

カ 引用発明の「有機発光表示装置(電界発光素子)」は、「封止部(保護膜200)」を構成する「有機層(第1透明吸湿膜140)」、「無機層(第1無機膜160)」、「有機層(第2透明吸湿膜170)」及び「無機層(第2無機膜180)」は、「有機発光素子(ピクセル部120)」が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、を含むから、本願補正発明の「有機発光表示装置」と、「封止部を構成する無機層および有機層は、有機発光素子が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、を含」む点で一致する。

キ 引用発明の「有機発光表示装置(電界発光素子)」は、「有機発光素子(ピクセル部120)」から順に、「有機層(第1透明吸湿膜140)」、「無機層(第1無機膜160)」、「有機層(第2透明吸湿膜170)」及び「無機層(第2無機膜180)」が積層され、「封止部(保護膜)」の最上層は「無機層(第2無機膜180)」であるから、本願補正発明の「有機発光表示装置」と、「有機発光素子から最も遠くに配置される封止部のn層は、無機層である」点で一致する。

ク 上記アないしキからみて、本願補正発明と引用発明とは、
「有機発光素子が形成された基板と、
前記有機発光素子を覆い、前記基板と結合された封止部と、
を含み、
前記封止部は、無機層と有機層が積層され、前記無機層と前記有機層の各端部が前記基板に結合し、
前記封止部を構成する前記無機層および前記有機層は、前記有機発光素子が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域と、を含み、
前記有機発光素子から最も遠くに配置される前記封止部のn層は、無機層である、
有機発光表示装置。」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
「封止部」が、
本願補正発明では、有機層の厚さは無機層の厚さより厚いのに対し、
引用発明では、第1透明吸湿膜(有機層)が1?5μmの厚さに形成されているものの、無機層の厚さが特定されていないため、第1透明吸湿膜(有機層)の厚さが無機層の厚さより厚いかどうか明らかでない点。

相違点2:
「封止部」が、
本願補正発明では、前記第1の領域と前記第2の領域を連結する曲面を有する第3の領域をさらに含むのに対し、
引用発明では、前記第3の領域を含むのかどうかが明らかでない点。

相違点3:
「封止部のn層の表面」が、
本願補正発明では、基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接するのに対し、
引用発明では、保護膜(封止部)の最上層である第2無機膜(n層)の表面は、基板の外周の辺から離間しており、前記辺に接していない点。

(2)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
(ア)有機ELに用いられる、有機層と無機層とを積層したガスバリアにおいて、有機層の厚さを無機層の厚さより厚くすることは本願の優先日前に周知である(以下、「周知技術1」という。例.原査定の拒絶の理由に引用された米国特許出願公開第2008/0203907号明細書([0015]の「The display device may be one of ・・・, and an organic light-emitting diode ("OLED").」との記載、[0046]の「Referring to FIG. 5 , typically, each of the organic material layers 210 has a thickness h of about 0.01 to about 10 μm, and each of the inorganic material layers 220 has a thickness of approximately 1 / 10 of the thickness h of the organic material layer 210 .」との記載、FIG.5参照。)、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-118564号公報(【請求項14】の「・・・ガスバリア層が設けられたことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」との記載、【0057】の「・・・第1無機層(酸化アルミニウム)を形成した。・・・到達膜厚は50nmであった。」との記載、【0058】の「第1無機層上に第1有機層を形成した。第1有機層の膜厚は450nmであった。」との記載、【0059】の「第1有機層上に第2無機層(酸化アルミニウム)を形成した。到達膜厚は50nmであった。」との記載、【0060】の「第1有機層と同様の方法で第2無機層上に第2の有機層を形成した。・・・第2無機層と同様の方法および同様の条件で第2有機層上に第3無機層(酸化アルミニウム)を形成し、ガスバリア層を形成した。第3無機層の到達膜厚は50nmであった。」との記載参照。)、原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-297737号公報(【請求項1】の「透明な可撓性支持体基板上に少なくとも1層の無機化合物からなるガスバリア層が形成されたガスバリアフィルム」との記載、【請求項9】の「前記ガスバリア層と有機化合物からなる層を交互にそれぞれ複数層有する」、【請求項12】の「請求項1?10のいずれか1項に記載のガスバリアフィルムで封止された有機デバイス。」との記載、【0082】の「無機ガスバリア層の膜厚は約50nmであった。」との記載、【0083】の「・・・無機ガスバリア層または後記紫外線遮断層上に蒸気をクライオ凝結させた後、高圧水銀灯ランプによりUV硬化させ(積算照射量約2000mJ/cm^(2))、有機層を形成した。膜厚は約500nmであった。」との記載参照。))。
(イ)引用発明は、無機層の厚さが特定されていないため、第1透明吸湿膜(有機層)の厚さが無機層の厚さより厚いかどうか明らかでないが、有機層と無機層とを積層したガスバリアにおいて、有機層の厚さを無機層の厚さより厚くすることが上記(ア)のように周知の技術であるから、引用発明において、有機層の厚さを無機層の厚さより厚くなすこと、すなわち、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて適宜なし得た程度のことである。

イ 相違点2について
(ア)有機ELにおける保護膜が、有機発光素子が形成された平面と平行な第1領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2領域と、前記第1領域と前記第2領域を連結する曲面を有する第3領域とを含むことは本願の優先日前に周知である(以下、「周知技術2」という。例.原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-164107号公報(図1?4,6,8参照。)、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-252574号公報(図1参照。)、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-158249号公報(図6参照。)、特開2006-286211号公報(図1参照。))。
(イ)引用例には、段落<58>?<72>(上記5(2))に一実施例による電界発光素子の製造工程が一応記載され、段落<71>及び<72>には、第1及び第2無機膜がスパッタリング、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法の中でいずれか一つの方法で形成することができ、透明吸湿膜が真空蒸着法、スピンコーティング法、スプレー法の中でいずれか一つの方法で形成することができることが一応記載されているが、実施例において、無機膜及び透明吸湿膜を具体的に如何なる方法で形成したかは記載されていない。
(ウ)上記(イ)のように例示されたいずれの方法によっても、引用発明の無機膜(無機層)及び透明吸湿膜(有機層)が、ピクセル部(有機発光素子)が形成された平面と平行な第1の領域と、前記平面と交差する方向に形成された第2の領域とからなる、すなわち、第1の領域と第2の領域とが直接連結したものとし、第1の領域と第2の領域を連結する曲面を一切有しないようになすことは極めて困難であるとともに、上記(ア)からみても、引用発明において、前記第1の領域と前記第2の領域を連結する曲面を有する第3の領域をさらに含むようになすこと、すなわち、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

ウ 相違点3について
(ア)基板上に設けられた素子を封止する保護膜の側部領域が、基板の外周の辺に接することは周知(以下、「周知技術3」という。例.特開2007-5189号公報(【0011】の「図3に図示したような有機膜22の端面をも無機膜23で覆う封止膜形状が提案されている。」との記載、図3参照。)、特開2006-120635号公報(【0005】の「図1Bにおいて、前記第2の有機電界発光素子は、ピクセル30、平坦化膜200及びパッシベーション膜220を含む。」との記載、図1B参照。)、上記米国特許出願公開第2008/0203907号明細書([0054]の「An outer wall surface of the moisture barrier wall 300 may align with an outer periphery of the substrate 110.」との記載、FIG.5参照。))。
(イ)引用発明は、保護膜(封止部)の最上層である第2無機膜180(n層)の表面が、基板100の外周の辺から離間し、当該辺に接するものではないが、ディスプレイ等の表示装置において、表示面以外の周囲部分をできるだけ小さいものとすることは周知の課題にすぎず、封止部と基板との平面の大きさを揃える必要性があったり、基板の表面を露出させたくない等の事情が存在した場合に、周知技術3に接した当業者であれば、引用発明において、保護膜(封止部)の最上層である第2無機膜(n層)の表面を基板の外周の辺に接するようになすことは容易に想到し得たことであり、素子からの配線等を考慮して、封止部のn層の表面が、基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接するようになすこと、すなわち、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た程度のことである。

エ 効果について
本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果、周知技術2の奏する効果及び周知技術3の奏する効果から予測することができた程度のものである。

オ まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1、周知技術2及び周知技術3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

7 小括
本件補正は、上記3のとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものだとしても、本願補正発明は、上記6のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成24年4月27日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕5」に記載したとおりである。

3 対比
本願補正発明に係る本件補正は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項である「封止部」について、「有機発光素子から最も遠くに配置される」「n層」が「無機層」であると限定し、「n層の表面」が「基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」ことと限定したものであるから、本願発明は、本願補正発明の特定事項のうち、「前記有機発光素子から最も遠くに配置される前記封止部のn層は、無機層である」限定事項、及び、「前記封止部のn層の表面は、前記基板の外周の4辺のうち少なくとも第1の辺および前記第1の辺に対向する第2の辺に接する」(上記相違点3に係る構成)限定事項を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記相違点1及び相違点2で相違する。

4 判断
(1)引用発明において、相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成となすことは、上記第2〔理由〕6(2)ア及びイと同様の理由で当業者が周知技術1及び周知技術2に基づいて適宜なし得たことである。

(2)本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1の奏する効果及び周知技術2の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(3)したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1及び周知技術2に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-01 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-15 
出願番号 特願2010-208412(P2010-208412)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H05B)
P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 越河 勉  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 本田 博幸
鉄 豊郎
発明の名称 有機発光表示装置  
代理人 アイ・ピー・ディー国際特許業務法人  

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