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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09D |
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管理番号 | 1307262 |
審判番号 | 不服2014-9849 |
総通号数 | 192 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-12-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-05-27 |
確定日 | 2015-10-28 |
事件の表示 | 特願2011-500790「リン酸塩遊離が低減した改質顔料、ならびにそれからの分散体およびインクジェットインク組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月24日国際公開、WO2009/117071、平成23年 5月19日国内公表、特表2011-515535〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年3月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理平成20年3月17日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成22年12月14日付けで手続補正がされ、その後、平成24年11月5日付けの拒絶理由の通知に対して、平成25年5月13日付けで手続補正書が提出されたが、平成26年1月21日付けで拒絶査定がされ、さらに、これに対して同年5月27日付けで拒絶査定不服審判の請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。 2.平成26年5月27日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年5月27日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (2-1)補正事項 本件補正は、補正前の請求項1を補正後の請求項1とする下記で示す補正事項を含む。(当審注:下線部は、補正箇所である。) (補正前) 「【請求項1】 液体ビヒクル、および少なくとも1つの有機基に結合した顔料からなる少なくとも1つの改質顔料からなるインクジェットインク組成物であり、その有機基は、式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ、少なくとも1つの基、その部分エステル、またはその塩からなり、ここでQはO、S、またはNR’であり、R’はH、C1?C18のアルキル基、C1?C18のアシル基、アラルキル基、アルカリール基またはアリール基である、インクジェットインク組成物。」 (補正後) 「【請求項1】 液体ビヒクル、および少なくとも1つの有機基に結合した顔料からなる少なくとも1つの改質顔料からなるインクジェットインク組成物であり、その有機基は、式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ、少なくとも1つの基、その部分エステル、またはその塩からなり、ここでQはO、S、またはNR’であり、R’はH、C1?C18のアルキル基、C1?C18のアシル基、アラルキル基、アルカリール基またはアリール基であり、改質顔料が、70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する、インクジェットインク組成物。」 (2-2)補正の適否 補正前の請求項1を補正後の請求項1に補正する補正事項は、補正前の「少なくとも1つの『式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ』有機基に結合した顔料からなる少なくとも1つの改質顔料」が、「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」性質のものであることに限定するものである。そして、明細書の【0001】には、「本発明は、リン酸塩遊離値が低減した改質顔料、ならびにその改質顔料を含む分散体およびインクジェットインク組成物に関する。」と記載され、さらに、【0071】-【0074】では、「少なくとも1つの『式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ』有機基に結合した顔料からなる少なくとも1つの改質顔料」が用いられた15%水性分散体である例1Cまたは例1Eが「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」性質のものであることが確認されていることからして、補正前の請求項1に対して、そこで用いられる改質顔料が「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」性質のものであることに限定したとして、補正前の請求項1に係る発明と補正後の請求項1に係る発明とで、産業上の利用分野及び解決しようとする技術課題は同一である。 したがって、上記補正事項を有する本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2-3)独立特許要件について そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2-3-1)引用例に記載の事項 原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された国際公開第2007/053564号(以下、「引用例」という。)には、以下の記載がある(引用例の日本語訳を記載する。訳文は、対応日本国公報である特表2009-515007号公報によるものであり、段落番号も併せて記載した。)。 (ア)請求項1-5 「【請求項1】 少なくとも1個の有機基が結合されている着色剤を含む変性着色剤であって、該有機基が1,2,3-ベンゼントリカルボン酸のカルシウム指数値より大きいカルシウム指数値を有する変性着色剤。 「【請求項2】 着色剤が顔料である、請求項1に記載の変性着色剤。 【請求項3】 有機基が、少なくとも2個のホスホン酸基、その部分エステル又はその塩を含む、請求項2に記載の変性着色剤。 【請求項4】 有機基が、少なくとも1個のジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル又はその塩を含む、請求項3に記載の変性着色剤。 【請求項5】 有機基が、少なくとも1個の式-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)である)を含む、請求項4に記載の変性着色剤。」 (イ)請求項10、11 「【請求項10】 有機基が、式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、Xは顔料に結合され、そしてアリーレン、ヘテロアリーレン、アルキレン、アルカリーレン又はアラルキレン基であり、そしてSpはスペーサー基であり、そしてnは0から9である)を含む、請求項5に記載の変性着色剤。 【請求項11】 Spが、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)である、請求項10に記載の変性着色剤。」 (ウ)請求項88-90 「【請求項88】 インクジェットインキ組成物であって、 a)液体ビヒクル、及び b)少なくとも1個の有機基が結合されている着色剤を含む変性着色剤であって、該有機基が1,2,3-ベンゼントリカルボン酸のカルシウム指数値より大きいカルシウム指数値を有する変性着色剤 を含むインクジェットインキ組成物。 【請求項89】 着色剤が顔料である、請求項88に記載のインクジェットインキ組成物。 【請求項90】 有機基が、少なくとも2個のホスホン酸基又はその塩を含む、請求項89に記載のインクジェットインキ組成物。」 (エ)[0017]-[0019] 「【0017】 この具体的態様について、有機基は少なくとも1個のジェミナルビスホスホン酸基、その部分エステル又はその塩を含み得、すなわち有機基は同じ炭素原子に直接的に結合されている少なくとも2個のホスホン酸基、その部分エステル又はその塩を含み得る。かかる基はまた、1,1-ジホスホン酸基、その部分エステル又はその塩と称され得る。かくして、たとえば、有機基は、式-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基、その部分エステル又はその塩を含み得る。Qはジェミナル位に結合され、そしてH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なり得そしてH、C1?C18の飽和若しくは不飽和の分枝状若しくは非分枝状アルキル基、C1?C18の飽和若しくは不飽和の分枝状若しくは非分枝状アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)であり得る。たとえば、Qは、H、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なり得そしてH、C1?C6アルキル基又はアリール基である)であり得る。好ましくは、Qは、H、OH又はNH_(2)である。更に、有機基は、式-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基、その部分エステル又はその塩(ここで、Qは上記に記載されたとおりであり、そしてnは0から9(たとえば1から9のような)である)を含み得る。好ましくはnは0から3(たとえば1から3のような)であり、そして一層好ましくはnは0又は1のどちらかである。また、有機基は、式-X-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基、その部分エステル又はその塩(ここで、Q及びnは上記に記載されたとおりであり、そしてXはアリーレン、ヘテロアリーレン、アルキレン、ビニリデン、アルカリーレン、アラルキレン、環式又は複素環式基である)を含み得る。好ましくは、Xは、フェニレン、ナフタレン又はビフェニレン基のようなアリーレン基(1個又はそれ以上のアルキル基又はアリール基のような任意の基で更に置換され得る)である。Xがアルキレン基である場合、その例は、置換又は非置換アルキレン基(分枝状又は非分枝状であり得そして1個又はそれ以上の基(芳香族基のような)で置換され得る)を包含するが、しかしそれらに限定されない。それらの例は、メチレン、エチレン、プロピレン又はブチレン基のようなC_(1)?C_(12)基を包含するが、しかしそれらに限定されない。好ましくは、Xは顔料に直接的に結合され、しかしてこれは顔料とXの間に結合有機基からの追加的原子又は基がないことを意味する。 【0018】 Xは、1個又はそれ以上の官能基で更に置換され得る。官能基の例は、R′、OR′、COR′、COOR′、OCOR′、カルボン酸塩、ハロゲン、CN、NR′_(2)、SO_(3)H、スルホネート、サルフェート、NR′(COR′)、CONR′_(2)、イミド、NO_(2)、ホスフェート、ホスホネート、N=NR′、SOR′、NR′SO_(2)R′及びSO_(2)NR′_(2)(ここで、R′は同じ又は異なり得そして独立に水素、分枝状又は非分枝状C_(1)?C_(20)の置換された又は置換されていない飽和又は不飽和炭化水素、たとえばアルキル、アルケニル、アルキニル、置換若しくは非置換アリール、置換若しくは非置換ヘテロアリール、置換若しくは非置換アルカリール又は置換若しくは非置換アラルキルである)を包含するが、しかしそれらに限定されない。 【0019】 加えて、有機基は、式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基、その部分エステル又はその塩(ここで、X、Q及びnは上記に記載されたとおりである)を含み得る。Spは、スペーサー基(本明細書において用いられる場合、二つの基の間の連結体である)である。Spは、結合又は化学基であり得る。化学基の例は、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-CO-、-OSO_(2)-、-SO_(3)-、-SO_(2)-、-SO_(2)C_(2)H_(4)O-、-SO_(2)C_(2)H_(4)S-、-SO_(2)C_(2)H_(4)NR″-、-O-、-S-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、NR″CO_(2)-、-O_(2)CNR″-、-NR″CONR″、-N(COR″)CO-、-CON(COR″)-、-NR″COCH(CH_(2)CO_(2)R″)-及びそれからの環式イミド、-NR″COCH_(2)CH(CO_(2)R″)-及びそれからの環式イミド、-CH(CH_(2)CO_(2)R″)CONR″-及びそれからの環式イミド、-CH(CO_(2)R″)CH_(2)CONR″-及びそれからの環式イミド(これらのもののフタルイミド及びマレイミドを含めて)、スルホンアミド基(-SO_(2)NR″-及び-NR″SO_(2)-基を含めて)、アリーレン基、アルキレン基、等を包含するが、しかしそれらに限定されない。R″は、同じ又は異なり得そして水素又は有機基(置換された又は置換されていないアリール又はアルキル基のような)を表す。上記の構造により示されたように、少なくとも2個のホスホン酸基又はその塩を含む基は、スペーサー基Spを通じてXに結合される。好ましくは、Spは、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-又は-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)である。」 (オ)[0076] 「【0076】 例6 次の方法の一つを用いて、[2-(4-アミノフェニル)エタン-1,1-ジイル]ビスホスホン酸一ナトリウム塩を製造した。」 (カ)[0080] 「【0080】 実施例7?13 次の例は、少なくとも2個のホスホン酸基又はその塩が結合されている顔料を含むところの本発明の具体的態様による変性顔料の製造を記載する。各例について、Microtrac(登録商標)粒子サイズ分析器を用いて、分散液中の変性顔料の平均体積粒子サイズ(mV)を測定した。」 (キ)[0087] 「【0087】 実施例12 例6において製造された物質を例1において製造された物質の代わりに用いたこと以外は実施例7aに記載された手順に従った。分散液中の変性顔料の平均体積粒子サイズ(mV)を決定した。結果は、下記の表1に示されている。」 (ク) [0092]-[0093] 「【0092】 実施例14?19 次の例は、本発明の具体的態様によるインクジェットインキ組成物の製造及び印刷物性能を記載する。実施例7a、8、9、10、12及び13の変性顔料分散液を遠心分離しそして吸引濾過して、潜在的な少量の大きい粒子を除去した。イオン選択性電極(サーモ・オリオン・シュア(Thermo Orion Sure)-流通型ロス(Ross)ナトリウムプローブ,20ppmから6000ppmのナトリウムイオンを含有する溶液について検定された)を用いてNa^(+)濃度を測定し、そして固体分基準で算出した。結果は、下記の表1に示されている。 【表1】 ナトリウム及びリンの量もまた、元素分析により決定した。表1に示された結合レベルを算出するためにリンレベルを用いた。一般的に、上記の諸例に記載されたような1mmolの処理レベル(すなわち、処理剤の量/gカーボンブラック)について、結合レベル(すなわち、結合有機基の量)はおおよそ10?15重量%である、ということが分かった。pH8.5?9において、Na^(+)対Pの比率は、おおよそ1:1であると分かった。 【0093】 下記の表2に示された処方を用いて、インクジェットインキ組成物を製造した。 【表2】 各例について用いられた顔料は、下記の表3に示されている。各インクジェットインキ組成物について、重量百分率マイナス表面上の処理剤の量を用いて、顔料レベルを補正した。これらのインキの表面張力は、おおよそ35ダイン/cmであると分かった。」 (2-3-2)引用例記載の発明 (A)上記(ア)、(ウ)、(カ)、(ク)より、引用例には、「a)液体ビヒクル、及びb)少なくとも1個の有機基が結合されている顔料を含む変性顔料であって、該有機基が、少なくとも1個の式-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)を含む変性顔料を含むインクジェットインキ組成物」が記載されているということができる。 (B)上記(ア)、(イ)、(エ)より、引用例には、変性顔料に結合される有機基について、「式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、Xは顔料に結合され、そしてnは0から9である)であって、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)であり、Spが、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)である」ことが記載されているということができる。 (C)上記(オ)、(キ)には、[2-(4-アミノフェニル)エタン-1,1-ジイル]ビスホスホン酸一ナトリウム塩を用いて変性された変性顔料が記載されているが、[2-(4-アミノフェニル)エタン-1,1-ジイル]ビスホスホン酸は、 という構造を有する化合物であるから、引用例には、変性顔料に結合される有機基として、「式-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基の一ナトリウム塩」が具体的に記載されているということができる。 上記(ア)ないし(ク)の記載事項および上記(A)、(B)の検討事項より、引用例には、 「a)液体ビヒクル、及びb)少なくとも1個の有機基が結合されている顔料を含む変性顔料であって、該有機基が、少なくとも1個の式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、Xは顔料に結合され、そしてnは0から9である)であって、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)であり、Spが、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)を含む変性顔料を含むインクジェットインキ組成物。」(以下、「引用例記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 (2-3-3)対比 本願補正発明と引用例記載の発明とを対比する。 ○引用例記載の発明の「変性顔料」は、本願補正発明の「改質顔料」に相当する。 ○引用例記載の発明の「式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、Xは顔料に結合され、そしてnは0から9である)であって、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)であり、Spが、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)」と、本願補正発明の「式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ、少なくとも1つの基、その部分エステル、またはその塩からなり、ここでQはO、S、またはNR’であり、R’はH、C1?C18のアルキル基、C1?C18のアシル基、アラルキル基、アルカリール基またはアリール基」とは、「ジェミナルビスホスホン酸基」である点で共通している。 上記より、本願補正発明と引用例記載の発明とは、 「液体ビヒクル、および少なくとも1つの有機基に結合した顔料からなる少なくとも1つの改質顔料からなるインクジェットインク組成物であり、その有機基は、ジェミナルビスホスホン酸基又はその塩である、インクジェットインク組成物。」という点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点1> ジェミナルビスホスホン酸基につき、本願補正発明では、「式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ、少なくとも1つの基からなり、ここでQはO、S、またはNR’であり、R’はH、C1?C18のアルキル基、C1?C18のアシル基、アラルキル基、アルカリール基またはアリール基」であるのに対し、引用例記載の発明では、「少なくとも1個の式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩(ここで、Xは顔料に結合され、そしてnは0から9である)であって、QはH、R、OR、SR又はNR_(2)(ここで、Rは同じ又は異なっていてもよく、そしてH、C1?C18アルキル基、C1?C18アシル基、アラルキル基、アルカリール基又はアリール基である)であり、Spが、-CO_(2)-、-O_(2)C-、-O-、-NR″-、-NR″CO-、-CONR″-、-SO_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)NR″-、-SO_(2)CH_(2)CH_(2)O-又は-SO_(2)CH_(2)CH_(2)S-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)」である点。 <相違点2> 本願補正発明では、「改質顔料が、70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」のに対し、引用例記載の発明では、改質顔料のリン酸塩遊離値につき特定がされていない点。 (2-3-4)判断 (2-3-4-1)本願補正発明において「リン酸塩遊離値を低減」することの意味合い 上記相違点について検討するにあたり、本願補正発明の作用効果につき検討する。 本願補正発明は、本願明細書【0001】に記載されているように「リン酸塩遊離値が低減した改質顔料…を含む…インクジェットインク組成物」に関するものであるところ、本願明細書【0074】には、リン酸塩遊離値を低減することの作用効果として、「溶液中の、リン酸塩イオンを含むイオンの濃度は、印刷性能に負の影響を持つと考えられる。たとえば、比較的高いリン酸塩イオン濃度を有するインクジェットインク組成物は、ある種のカートリッジ/印刷システムにおいて、印刷の問題を生じさせるであろう導電率増加をもたらすと予想される。さらに、もしリン酸塩イオンが結合有機基から生じるならば、ホスホン酸基またはその塩の損失は顔料分散体の安定性に影響し、印刷信頼性を損なうことになる。」ことが記載されている。 しかしながら、比較的高いリン酸塩イオン濃度を有するインクジェットインク組成物が印刷性能にどのような負の影響を持つのかについて、具体的な説明がされておらず、また印刷性能の悪化を示すデータも開示されていない(そもそ導電性インクを用いたインクジェット印刷は周知であり、インクに導電性があってもインクジェット印刷は可能である。)。 また、顔料分散体の安定性は、分散媒と顔料との親和性によって決まるところ、「液体ビヒクル」の種類や顔料の改質の程度(有機基の導入の程度)が任意である現状においてホスホン酸基またはその塩の損失が直ちに顔料分散体の安定性に負の影響を及ぼすということはできない。 とするならば、本願補正発明において、リン酸塩遊離値を特定値以下とすることに技術的意味はなく、本願補正発明では単に「リン酸塩遊離値を特定値以下に特定した」という以上の技術的意義を見出すことができない。 (2-3-4-2)相違点について <相違点1>について 上記(ア)、(イ)によると、引用例記載の発明で用いられる有機基である「式-X-Sp-(CH_(2))_(n)-CQ(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩」として、-Sp-として、-CO_(2)-、-CONR″-(ここで、R″はH又はC1?C6アルキル基である)が選択でき、nとして0、QとしてHが選択できることが示されているから、引用例記載の発明では、有機基が「式-CO-Y-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を有する基又はその塩」(ここで、YはOまたはNR″であり、R″はH又はC1?C6アルキル基である)を持つものが包含されており、本願補正発明と引用例記載の発明では、選択しうる「有機基は、式-CO-Q-CH(PO_(3)H_(2))_(2)を持つ、少なくとも1つの基又はその塩からなり、ここで、QはOまたはNR’であり、R’はHまたはC1?C6アルキル基であ」る点で重複一致する。しかも、本願補正発明は上記のとおり、顕著な作用効果を持つものでなく、相違点1により、効果上の差異が生じていない。すなわち、いわゆる選択発明が成立するものとはいえない。 したがって、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。 <相違点2>について 次に、相違点2について検討すると、上記したところにより、引用例記載の発明が事実としてそのような物性の具否について検討すれば足りるところ、改質に用いた有機基が離脱すべきでないことは自明であり、単にその許容される数値の上限を定めたにすぎない相違点2も実質的な相違点であるとはいえない。 (2-3-5)審判請求人の主張について なお、審判請求人は、平成26年7月10日付け手続補正書(方式)(審判請求理由補充書)において、上記引用発明との対比につき、 「引用文献1および2は、上記のようにカルシウムと結合し得る有機基またはポリマー基を有する顔料に関する。これらの引用文献は、多数の結合有機基ならびに多数の異なるパラメータを列挙する、種々の式を開示する。しかしながら、いずれの引用文献も、本発明の請求項に記載されるような、低減したリン酸塩遊離を達成する化合物に当業者を導くものではない。 ・・(中略)・・ 低減したリン酸塩遊離の証拠は、実施例に見いだされる。例1?4は、請求項に記載の有機基にあたる-CH(PO_(3)H_(2))_(2)基(引用文献1、[0057])を結合した顔料を記載する。対照的に、比較例1?4の顔料は、-C(OH)(PO_(3)H_(2))_(2)基で修飾され、比較例5の顔料は、-C(NH_(2))(PO_(3)H_(2))_(2)基で修飾されている。 ・・(中略)・・ 一定の結合された有機基が低減されたリン酸遊離値を達成し得ることを具体的に認識しないで、当業者は請求項1に記載の有機基に到達し得ないと思料する。」 と主張する(「3.本願発明が特許されるべき理由」、「(4)特許されるべき理由」、「イ 本発明と引用文献記載との対比」の欄)。 しかるに、上記(2-3-2)の(C)で示したとおり、引用例記載の発明においても、有機基にあたる-CH(PO_(3)H_(2))_(2)基を結合した顔料が具体的に開示されているところ、本願明細書全体を参酌すると、改質顔料が「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」か否かは、「-CO-Q-」と「-CH(PO_(3)H_(2))_(2)」が直接結合するという特定の構造・組合せではなく、単に「-CH(PO_(3)H_(2))_(2)」という構造を有しているか否かに係っていると理解されるから、引用例記載の発明で用いられている上記有機基を有する顔料も、結果として、70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する。 そして、引用例記載の発明において、「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」という作用効果を得ようとする認識があるか否かに関わらず、「-CH(PO_(3)H_(2))_(2)」を有する有機基が結合した顔料を用いることで、「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」という作用効果は達成されているというべきであることから、上記認識の有無でもって引用例記載の発明の「70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」という作用効果の達成が否定されることにはならない。 したがって、上記審判請求人の主張は当を欠くものであるので、これを採用することはできない。 (2-4)まとめ 以上のとおり、本願補正発明は、上記引用例に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 よって、前記補正事項を有する本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (3-1)本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし19に係る発明は、平成22年12月14日付け、及び、平成25年5月13日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記(2-1)の(補正前)における請求項1に記載されたとおりのものである。 (3-2)原査定の概要 原査定の拒絶の理由は、平成22年12月14日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)について、国際公開第2007/053564号(引用例)記載された発明に該当する旨を理由の一つとするものである。 (3-3)引用例に記載の事項及び引用例記載の発明 原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2007/053564号(引用例)に記載の事項は、上記(2-3-1)で示したとおりであり、また、引用例記載の発明は、上記(2-3-2)において示したとおりである。 (3-4)当審の判断 上記(2-3)において、その特許独立要件を検討した本願補正発明は、前記(2-1)に記載したとおり、本願発明において、「改質顔料が、70℃で1週間後に、1%以下のリン酸塩遊離値を有する」ことを特定したものであるから、発明を特定するために必要な事項を限定するものである。 そして、このような発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本願補正発明が、引用例記載の発明であることは、上記(2-3)に記載したとおりであるから、本願発明についても、上記(2-3)に記載したものと同様の理由により、引用例記載の発明であるといえる。 4.結論 したがって、本願は、請求項2ないし19に係る発明について検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-05-28 |
結審通知日 | 2015-06-02 |
審決日 | 2015-06-15 |
出願番号 | 特願2011-500790(P2011-500790) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C09D)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 桜田 政美 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
岩田 行剛 橋本 栄和 |
発明の名称 | リン酸塩遊離が低減した改質顔料、ならびにそれからの分散体およびインクジェットインク組成物 |
代理人 | 蛯谷 厚志 |
代理人 | 石田 敬 |
代理人 | 田崎 豪治 |
代理人 | 古賀 哲次 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 小林 良博 |