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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C10M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C10M
管理番号 1307285
審判番号 不服2013-10166  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-03 
確定日 2015-11-06 
事件の表示 特願2006-538266「コンビナトリアル・ライブラリのための潤滑油組成物の高速大量処理製造」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 5月19日国際公開、WO2005/044962、平成19年 4月19日国内公表、特表2007-510044〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2004年(平成16年)10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年(平成15年)10月31日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成23年2月10日付けの拒絶理由通知に応答して平成23年8月18日付けの手続補正書と意見書が提出され、さらに平成24年3月2日付けの最後の拒絶理由通知に応答して平成24年9月6日付けの意見書が提出されたが、平成24年3月2日付けの最後の拒絶理由通知に記載した理由I?IIIにより、平成25年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年6月3日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に誤記の訂正を目的とした手続補正がなされたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋に応答して平成26年2月18日付けの回答書が提出されたものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、理由II及びIIIは以下のとおりである。
「II.この出願は、明細書の記載が下記1)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
III.この出願は、明細書の記載が下記1)の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


理由II、IIIについて
請求項1?37、発明の詳細な説明
1)本願明細書には、成分分子のモデリングから、実際のエンジン性能との相関に至る一連の工程を実際に実行した具体例が開示されていないから、例えば潤滑油組成物等の具体的な製品の開発において、本願発明の方法がどの程度上市までの期間を短縮する効果をもたらすのか、当業者が理解することができるように記載されていない。また、本願発明を実際に実行しようとすれば、所期の目的を達することができる有用なモデリング手法の選択や、ライブラリの構築、試験により収集するデータ項目の選択、配合の修正方針の決定等に際して、当業者は相当の試行錯誤を強いられるものと認められる。 よって、本願の請求項1?11は、発明の詳細な説明に記載されたものとすることができず、また、本願の発明の詳細な説明は当業者が請求項1?11に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
一般に、化学物質の分野においては、構成成分のわずかな違いがその性質に予想外の変化をもたらすことが知られているから、要求性能を満たす潤滑油組成物を効率的に見出すために、最適な候補化合物を予めライブラリとして構築しておくことは困難なことであり、ライブラリに含まれる具体的な潤滑剤組成物の組合せによって候補選抜や改良の効率性は様々に異なると考えられるから、概念的な説明しかされていない本願明細書の記載に基づいて、開発効率を顕著に向上させるような候補化合物の選抜やライブラリの構築を当業者が遂行することは困難と認められる。」

3.本願明細書の記載
平成25年6月3日付けの手続補正により補正された本願明細書には次の事項が記載されている。

(1)特許請求の範囲の記載
「【請求項1】
下記の工程を含む複数の互いに異なる潤滑油配合物の製造方法:
a)少なくとも一種の潤滑粘度の基油および少なくとも一種の潤滑油添加剤について分子モデリングを行なって、試験対象とする潤滑油組成物候補を配合するための、少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を用意する工程、
そして
b)プログラム制御下に、主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を互いに異なる比率にて複数の試験容器を用いて組み合せることにより、複数の試験対象の潤滑油組成物候補を得る工程。」

(2)発明の詳細な説明の記載
(ア)発明が解決しようとする課題
「【0006】
しかしながら、上述したように、潤滑剤産業における今日の研究では再配合を迅速なやり方で行うことは不可能である。このように当該分野では、潤滑油組成物の実際の有用な特性と相関する情報を得るために、潤滑油組成物の製造およびそのような組成物の審査のためのより効率的で経済的で組織だった方法を必要としている。
【0007】
従って、複数の試料候補潤滑油組成物を各試料を少量で用いて迅速に製造することが望まれている。このようにして、膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる。」(段落【0006】【0007】)

(イ)課題を解決するための手段
「【0008】
本発明では、膨大な数の多様性のある潤滑油組成物を製造する方法およびそのためのシステムを提供する。従って、本発明の一態様では、下記の工程からなる複数の異なる潤滑油配合物の製造方法を提供する:(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油および(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤を組み合わせるために供給して、潤滑油組成物を配合する工程、(b)複数の試験容器を供給する工程、(c)プログラム制御下で主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤を異なる組成百分率で組み合わせて、複数の異なる潤滑油組成物試料を供給する工程、そして(d)異なる潤滑油組成物試料の各々を複数の試験容器に入れる工程。」(段落【0008】)

(ウ)発明の効果
「【0010】
このようにして、膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる。」(段落【0010】)

(エ)発明を実施するための最良の形態
「【0036】
所望により、後述するように少なくとも一種の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤を分配して本発明に係る組成物とする前に、組成物(すなわち配合物)に使用することが提案された化合物の分子モデリングを行って、どの化合物が可能性のある中心的な候補組成物をもたらすかを判断することが有利であると言える。例えば、化合物の遷移状態、結合の長さ、結合角、双極子モーメント、疎水性等のような因子を含む計算を実施することができる。よって、提案された化合物を審査して、例えば、どの化合物が中間体の過酸化物を捕捉する能力が乏しいために酸化防止過程で不充分にしか機能しないかを判断することができる。これは、例えばアクセルリス(Accelrys)社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のクアンタム・メカニックス(Quantum Mechanics)のような公知のソフトウェアを使用して実施することができる。(段落【0036】)
「【0037】
上記の実験プログラム(群)の入力に基づいて最初の化合物の試験ライブラリを設計するのに、試験ライブラリの設計用ソフトウェアを使用することができる。このソフトウェアを使用して、所望の実験空間を包含し統計実験設計法を利用する試験ライブラリを効率良く設計することができる。次に、別のソフトウェアを使用して実験のデータを解析し、そしてそのデータを化合物の構造および/または化合物処理条件および/または反応条件と相関させることができる。そのような相関関係はしばしば、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のQSARソフトウェア(定量的構造活性相関)と呼ばれている。次に、そのソフトウェアによりそのようなQSARプログラムを使用して、以後の化合物の試験ライブラリを更なる審査に向けて設計することができる」(段落【0037】)
「【0038】
そのようなQSARプログラムの使用によって審査の効率を高めることができる。より多くのデータが集まるにつれて、これらQSARプログラムは化合物ライブラリを発展させる効率がもっと良くなり、所望の化合物を見つける確率も高まる。例えば、後述するように、解析した化合物を種々の潤滑油組成物に配合することができ、その後、例えば回帰及び解析技術により、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のC2-QSARなど公知のソフトウェアを使用して更に解析することができる。このように、分子モデリングから得られたデータの確認を成し遂げることができ、次いでこのデータもデータ収集装置に蓄積することができる。このようにして、当該分野の熟練者が考えた新規な化合物をQSARソフトウェアで調べて、化合物の実際の合成に先立ってその活性度を予測することができる。さらに、そのようなソフトウェアツールを利用して、合成を考えている可能な化合物の一覧表に当該分野の熟練者が成功する確率が高い順に優先順位を付けることが可能である。」(段落【0038】)

4.当審の判断
本願の特許請求の範囲請求項1には、前記3.(1)のとおり、
「【請求項1】
下記の工程を含む複数の互いに異なる潤滑油配合物の製造方法:
a)少なくとも一種の潤滑粘度の基油および少なくとも一種の潤滑油添加剤について分子モデリングを行なって、試験対象とする潤滑油組成物候補を配合するための、少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を用意する工程、
そして
b)プログラム制御下に、主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を互いに異なる比率にて複数の試験容器を用いて組み合せることにより、複数の試験対象の潤滑油組成物候補を得る工程。」に係る発明(以下、「本願発明」という)が記載されている。
一方、発明の詳細な説明には、前記3.(2)(ア)のとおり、発明が解決しようとする課題として、「潤滑剤産業における今日の研究では再配合を迅速なやり方で行うことは不可能である。このように当該分野では、潤滑油組成物の実際の有用な特性と相関する情報を得るために、潤滑油組成物の製造およびそのような組成物の審査のためのより効率的で経済的で組織だった方法を必要としている」、「従って、複数の試料候補潤滑油組成物を各試料を少量で用いて迅速に製造することが望まれている。このようにして、膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる」と記載され、前記3.(2)(イ)のとおり、課題を解決するための手段として、「下記の工程からなる複数の異なる潤滑油配合物の製造方法を提供する:(a)(i)主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油および(ii)少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤を組み合わせるために供給して、潤滑油組成物を配合する工程、(b)複数の試験容器を供給する工程、(c)プログラム制御下で主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油と少なくとも一種の潤滑油添加剤を異なる組成百分率で組み合わせて、複数の異なる潤滑油組成物試料を供給する工程、そして(d)異なる潤滑油組成物試料の各々を複数の試験容器に入れる工程」が記載され、そして、前記3.(2)(ウ)のとおり、発明の効果として、「膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる」と記載されている。
明細書のこれらの記載からすると、本願発明は、「a)少なくとも一種の潤滑粘度の基油および少なくとも一種の潤滑油添加剤について分子モデリングを行なって、試験対象とする潤滑油組成物候補を配合するための、少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を用意する工程」、及び、「b)プログラム制御下に、主要量の少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補および少量の少なくとも一種の潤滑油添加剤候補を互いに異なる比率にて複数の試験容器を用いて組み合せることにより、複数の試験対象の潤滑油組成物候補を得る工程」を備えた、複数の互いに異なる潤滑油配合物の製造方法であって、このような製造方法によって、潤滑剤産業における分野で、潤滑油組成物の実際の有用な特性と相関する情報を得るために潤滑油組成物の製造およびそのような組成物の審査のためのより効率的で経済的で組織だった方法を確立し、複数の試料候補潤滑油組成物を各試料を少量で用いて迅速に製造するという課題を解決して、「膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる」という格別の効果が得られたものと認められる。
しかしながら、上記a)工程、及びb)工程を実際に実行して、複数の互いに異なる潤滑油配合物を製造した具体例は明細書には開示されておらず、前記3.(2)(エ)の、発明を実施するための最良の形態についての記載をみても、実際にどのようにして上記の課題を解決して、「膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる」という効果が得られたのか、当業者が理解できるようには記載されていない。
すなわち、上記a)工程においては、分子モデリングを行って、試験対象とする潤滑油組成物候補を配合するための少なくとも一種の潤滑粘度の基油候補と少なくとも一種の潤滑油添加剤候補との組合せを決定しているものと認められるが、この点について段落【0036】には、「組成物(すなわち配合物)に使用することが提案された化合物の分子モデリングを行って、どの化合物が可能性のある中心的な候補組成物をもたらすかを判断することが有利であると言える。例えば、化合物の遷移状態、結合の長さ、結合角、双極子モーメント、疎水性等のような因子を含む計算を実施することができる。よって、提案された化合物を審査して、例えば、どの化合物が中間体の過酸化物を捕捉する能力が乏しいために酸化防止過程で不充分にしか機能しないかを判断することができる。これは、例えばアクセルリス(Accelrys)社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のクアンタム・メカニックス(Quantum Mechanics)のような公知のソフトウェアを使用して実施することができる。」という記載がある。
この記載からは、組成物(すなわち配合物)に使用することが提案された化合物の分子モデリングを行って、例えば、化合物の遷移状態、結合の長さ、結合角、双極子モーメント、疎水性等のような因子を含む計算を実施することまでは理解できるものの、提案された化合物を審査して、例えばどの化合物が中間体の過酸化物の捕捉能力を欠くことにより、酸化防止過程で不充分にしか機能しないかを判断するかについては、「例えばアクセルリス(Accelrys)社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のクアンタム・メカニックス(Quantum Mechanics)のような公知のソフトウェア」を使用して実施することが示されているだけで、具体的な審査方法や判断基準が示されているわけではなく、結局のところ、提案された化合物の分子モデリングを行って、どの化合物が可能性のある中心的な候補組成物をもたらすかを判断する手法は明らかでない。
さらに、明細書段落【0037】には、「次に、別のソフトウェアを使用して実験のデータを解析し、そしてそのデータを化合物の構造および/または化合物処理条件および/または反応条件と相関させることができる。そのような相関関係はしばしば、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のQSARソフトウェア(定量的構造活性相関)と呼ばれている。次に、そのソフトウェアによりそのようなQSARプログラムを使用して、それ以後の化合物の試験ライブラリを更なる審査に向けて設計することができる。」と記載されているが、実験のデータを解析したとしても、必ず分子モデリングに有効な相関性をもったデータ解析結果が得られるとは限らず、何れのデータも有意差があるといえる程度の相関性が認められない場合や、不十分な相関性しか見いだせない場合もあることから、実際にデータ解析をして何らかの相関性を見いだせたことが記載されているならばともかく、そのような実例或いはそれに代わる実例に繋がると評価できる具体例が示されていない上記の明細書の記載は、当業者にとって、分子モデリングに有効な何らかの相関性あるデータが特定できるのかについて、何らの教示を与えるものでもない。
また、【0038】には、「そのようなQSARプログラムの使用によって審査の効率を高めることができる。より多くのデータが集まるにつれて、これらQSARプログラムは化合物ライブラリを発展させる効率がもっと良くなり、所望の化合物を見つける確率も高まる。例えば、後述するように、解析した化合物を種々の潤滑油組成物に配合することができ、その後、例えば回帰及び解析技術により、アクセルリス社(カリフォルニア州サンディエゴ)製のC^(2)-QSARなど公知のソフトウェアを使用して更に解析することができる。このように、分子モデリングから得られたデータの確認を成し遂げることができ、次いでこのデータもデータ収集装置に蓄積することができる。このようにして、当該分野の熟練者が考えた新規な化合物をQSARソフトウェアで調べて、化合物の実際の合成に先立ってその活性度を予測することができる。さらに、そのようなソフトウェアツールを利用して、合成を考えている可能な化合物の一覧表に当該分野の熟練者が成功する確率が高い順に優先順位を付けることが可能である。」と記載されているものの、これらの記載は実際に行ったことに基づくものではなく概念的な説明にとどまるものであるから、本願発明を実際に実行しようとすれば、有用なモデリング手法の選択や、ライブラリの構築、試験により収集するデータ項目の選択、配合の修正方針の決定等に際して、当業者は相当の試行錯誤を強いられるものと認められ、したがって「膨大な数の多様性のある組成物の高速大量処理による製造およびその後の審査を達成して、中心的な潤滑油組成物を確定することができる」という本願発明の効果には結びつかないものである。
よって、本願の請求項1?37は、発明の詳細な説明に記載されたものとすることはできず、明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明の特に(a)工程に関して、当業者が容易に実施できるように明確かつ十分に記載されているものとすることができない。

5.請求人の主張について
請求人は、審判請求の理由において、「例えば、本願明細書の段落[0036]から[0038]には、本願請求項1に係る発明の工程a)における分子モデリングの方法が明確かつ具体的に記載されています。従って当業者は、本願明細書の記載及び当該技術分野における技術常識に基づいて、過度の試行錯誤なしに本願発明を実施することできます。
また、本願発明の方法がどの程度上市までの期間を短縮する効果をもたらすのかについては、例えば本願請求項1に係る発明の方法においては、工程a)における分子モデリングによる基油候補及び潤滑油添加剤候補の選定の効率性及び正確性、並びに工程b)において得られた潤滑油組成物候補に対する試験の効率性及び正確性に依存するものと思料いたします。そして工程a)の効率性(高速性)及び正確性については、例えば本願明細書の段落[0036]から[0038]記載を参照した当業者によって明確かつ合理的に理解されるものと思料いたします。すなわち段落[0036]から[0038]に記載の設計用ソフトウェアが、高速かつ正確なモデリングが可能であることは当業者において当該段落の記載及び技術常識から明確に理解されるものです。また、工程b)の効率性(高速性)及び正確性についても、本願明細書段落[0039]から[0056]の記載を参照した当業者が、技術常識をも勘案することで明確に理解するものであると思料いたします。」、及び、「ご指摘のように、化学物質の分野においては、構成成分のわずかな違いがその性質に予想外の変化をもたらすことが知られており、また要求性能を満たす潤滑油組成物を効率的に見出すために、最適な候補化合物を予めライブラリとして構築しておくことにはある程度の困難性が存在します。しかしながら、最適な候補化合物を予めライブラリとして構築しておくことが困難だとしても、本発明の方法、とりわけ請求項1に係る方法の工程a)の手法を適用することで、より多くのより好適な候補化合物を選定することが可能であり、そのようなライブラリは従来の方法でランダムに又は経験的に構築されたライブラリと比較してより優れた(より効率的に要求性能を満たす潤滑油組成物を見出すことができる)ライブラリであるといえます。このように、分子モデリングの分野における候補選抜の効率には一定の予測可能性が存在しますので、本願明細書の記載を参照した当業者は、請求項1に係る方法の工程a)の手法を適用することで、(最適なライブラリではないとしても)より優れたライブラリを構築しうることを確信するでありましょう。スクリーニングの分野における改良の効率についても同様に一定の予測可能性があることから、工程b)についても同様のことが言えます。したがって、本願明細書の記載は、過度の試行錯誤なしに、開発効率を顕著に向上させるような候補化合物の選抜やライブラリの構築を当業者が遂行することを可能にするものであり、この点においても、本願明細書の記載は特許法第36条第4項第1号の規定に合致するものであると思料いたします。」と主張している。
しかしながら、上述したように、分子モデリングを行ってどの化合物が可能性のある中心的な候補組成物をもたらすかを判断する具体的な手法は依然として明らかにされておらず、また、出願人の主張するような開発効率を顕著に向上させることができるライブラリがどのようなものであるのか、依然として具体的には開示されていないので、実際にそのようなライブラリを構築でき、どの程度の開発の効率化が達成されるのか、確認することはできない。したがって、出願人の上記の主張は具体的な証拠に基づくものではなく、単に理想・概念を述べただけにすぎないものであるから、出願人の上記主張を採用することはできない。

6.むすび
以上のとおり、本件出願は、明細書の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件及び特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-15 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2006-538266(P2006-538266)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C10M)
P 1 8・ 537- Z (C10M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 山田 靖
菅野 芳男
発明の名称 コンビナトリアル・ライブラリのための潤滑油組成物の高速大量処理製造  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
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