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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1307286
審判番号 不服2013-23864  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-04 
確定日 2015-11-06 
事件の表示 特願2011- 28409「蛍光材料および白色光発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 6月14日出願公開、特開2012-111928〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成23年2月14日(パリ条約による優先権主張、平成22年11月19日、台湾(TW))の出願であって、出願後の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成24年10月24日付け 拒絶理由通知
平成24年12月13日 意見書・手続補正書
平成25年 8月26日付け 拒絶査定
平成25年12月 4日 本件審判請求・手続補正書
平成25年12月27日付け 前置報告書
平成27年 1月20日付け 当審拒絶理由通知
平成27年 3月19日 意見書・手続補正書

第2 平成27年1月20日付け拒絶理由通知について

当審は、平成27年1月20日付けで拒絶理由を通知したが、その理由は要するに以下のとおりである。
『理由1.本願の請求項1ないし8に係る発明は、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された下記1ないし5の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本願出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.特表平11-509892号公報
・・・
4.特開2010-192254号公報
・・・
理由2.この出願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

本願請求項1に係る発明は、
「【請求項1】
ユウロピウム(europium = Eu)およびマンガン(Mn)がドーピングされた窒化アルミニウム酸化物(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを組成成分に含み、そのうち、Mがアルカリ土類金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である蛍光材料。」
というものであり、ここで、上記m及びnは、ゼロに極めて近い値であってもよいことが理解できる。
また、この蛍光材料は、本願明細書の段落【0005】、【0006】に記載される「異なる要求に従って放射光線の波長を調整できる蛍光パウダーを提供する」、「比較的良好な演色性および比較的良好な品質を備える白色光発光素子を提供する」という課題を解決し、段落【0018】に記載されるように、「放射できる放射光が青色-緑色光であり、それと赤色蛍光材料と組み合わせて高い色飽和度の白色光を獲得できる。従って、白色光発光素子は、この発明の蛍光材料を使用することによって良好な演色性を備えることができる」という効果を奏するものと認められ、さらに、EuとMnの共付活に関しては、段落【0027】に記載されるように、「蛍光材料が同時にエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)をドーピングされている時、蛍光材料がエネルギー変換(energy transfer)の作用を有することができる。つまり、蛍光材料の放射する放射光が蛍光材料自体を励起することができて更に多くの放射光を放出できる。従って、この実施形態の蛍光材料は、高い発光効率を備える」という作用効果を有するものであると認められる。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明を仔細にみても、Eu^(2+)とMn^(2+)のドーピング量を具体的に記載した実施例は存在しない。すなわち、本願明細書の段落【0029】には、「図4において、色度座標400中、位置410?430は、それぞれ異なる組成成分の蛍光材料の放射光色彩である。位置410は、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。位置430は、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。位置420は、蛍光材料BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)、Mn^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。図4から分かるように、位置410は、実質的に青色光範囲中にあり、位置430は、実質的に緑色光範囲中にある。もしも蛍光材料が同時にエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)をドーピングされている時、蛍光材料のレーザー光色彩は、青色-緑色の間にある、つまり位置420にある。従って、この実施形態の蛍光材料は、異なる必要性に従って蛍光材料のドーピング成分を調整することができ、異なる放射光色彩を提供する。」と記載されているものの、当該図4に示された、青色-緑色の間の色彩を示す位置420にある蛍光材料の、Eu^(2+)及びMn^(2+)のドーピング量は何ら示されていない。
ここで、本願請求項1に係る発明に係る蛍光材料は、上記したとおり、m及びnがゼロに極めて近い値である場合を包含するものであるから、当該m及びnの値がゼロ近傍値である場合を想定してみると、技術常識からみて、mがゼロ近傍値であるとき、すなわち、Eu^(2+)含有量がゼロ近傍値であるときは、Eu^(2+)ドープによる影響は皆無であることが予想され、結果としてMn^(2+)付活に起因する緑色を呈することになるし、逆に、nがゼロ近傍値であるときは、Eu^(2+)付活に起因する青色を呈するものと推認するのが妥当である。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記m及びnの値がゼロ近傍値である場合につき、どのようにして青色-緑色の間の色彩を示すように実施するのかが十分に説明されているとはいえない。加えて、当業者といえども、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、上記m及びnの値がゼロ近傍値である場合についてまで、蛍光材料が青色-緑色の間の色彩を示して、上述した課題を解決できることを認識することはできないというべきである。
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明、これを引用する請求項2及び3に係る発明、第1蛍光材料として請求項1に係る蛍光材料を用いた請求項4に係る発明、並びに、請求項4を引用する請求項5ないし8に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、かつ、当該発明の詳細な説明は、発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が当該発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。』

第3 当審の判断

当審の上記拒絶理由通知に対して審判請求人から提出された、平成27年3月19日付け意見書及び手続補正書を勘案しても、当審は、上記「第2 平成27年1月20日付け拒絶理由通知について」で示した理由1ないし3が依然として妥当すると判断する[なお、当該意見書において、理由2、3に対する釈明はなかった。]。
以下、事案に鑑み、理由3、理由2、理由1の順に、その判断理由につき詳述する。

1 理由3:特許法第36条第6項第1号の要件(明細書のサポート要件)の充足性について

(1) 前提

特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)、以下、当該観点に立って検討する。

(2) 特許請求の範囲の記載

平成27年3月19日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲には、請求項1ないし8が記載されているところ、そのうち、請求項1ないし7の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ユウロピウム(europium = Eu)およびマンガン(Mn)がドーピングされた窒化アルミニウム酸化物(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを組成成分に含み、そのうち、Mがアルカリ土類金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である、白色光を発光するために使用される蛍光材料。
【請求項2】
前記組成成分の吸収するレーザー光波長が、250nm?400nmである請求項1記載の蛍光材料。
【請求項3】
前記組成成分の放出する放射光波長が、420nm?560nmである請求項1記載の蛍光材料。
【請求項4】
基板上に配置されるとともに、レーザー光を発射するために用いる発光ダイオードチップと;
前記発光ダイオードチップ上に配置され、ユウロピウム(europium = Eu)およびマンガン(Mn)がドーピングされた窒化アルミニウム酸化物(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを組成成分に含み、そのうち、Mがアルカリ土類金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である第1蛍光材料と;
前記発光ダイオードチップ上に配置された第2蛍光材料であって、そのうち、前記第1蛍光材料が前記発光ダイオードチップの発射する前記レーザー光を吸収した後に第1放射光を放射し、前記第2蛍光材料が前記発光ダイオードチップの発射する前記レーザー光を吸収した後に第2放射光を放射し、かつ前記第1放射光および前記第2放射光を混合して白色光を形成する第2蛍光材料と
を含む、白色光を発光するために使用される白色光発光素子。
【請求項5】
前記レーザー光の波長が、250nm?400nmである請求項4記載の白色光発光素子。
【請求項6】
前記第1放射光の波長が、420nm?560nmである請求項4記載の白色光発光素子。
【請求項7】
前記第2放射光の波長が、570nm?680nmである請求項4記載の白色光発光素子。」
(以下、これらの請求項に記載された発明を項番に従って「本願発明1」などといい、併せて単に「本願発明」という。)

(3) 発明の詳細な説明の記載

平成24年12月13日付けの手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の発明の詳細な説明及びそこで引用される図面には、以下の記載が認められる。

ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、蛍光材料および白色光照明(発光)素子(Fluorescence material and White light illumination element)に関し、特に、蛍光材料ならびにこの蛍光材料を応用した白色光発光素子に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
・・・近年、発光ダイオードの発光効率が絶えず上昇し、白色発光ダイオードが例えばスキャナーの光源・液晶スクリーンのバックライト源あるいは照明設備などの応用領域において従来の蛍光灯および白熱ランプから次第に置き換えられる傾向にある。」

ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来よく見られる白色発光ダイオード素子としては、下記する幾つかのタイプがある。
1.同時に赤色光・青色光・緑色光の発光ダイオードチップを使用して白色光を発生させる。このような白色発光ダイオード素子は、多くの単色発光ダイオードチップを同時に使用する必要があるため、生産コストが割と高く駆動回路も比較的複雑である。
2.青色発光ダイオードチップに黄色蛍光パウダーを組み合わせて、白色光を発生させる。このような白色発光ダイオード素子の製作コストは相対的に廉価である。しかし、現在よく見かける黄色蛍光パウダーは、イットリウムアルミニウムガーネット蛍光パウダーであり、それが白色発光ダイオード素子として応用される時、しばしば演色性が好くないという問題がある。
3.発光ダイオードチップに赤色蛍光パウダーおよび黄緑色蛍光パウダーを組み合わせて、白色光を発生させる。特許文献1中、硫化物蛍光パウダーを黄緑色蛍光パウダーとして利用している。このようにして、白色発光ダイオード素子が良い演色性を備える。しかし、硫化物蛍光パウダーが空気中の水蒸気と容易に反応するので、安定性に欠け、白色発光ダイオード素子の品質に不利である。
【0005】
そこで、この発明の目的は、異なる要求に従って放射光線の波長を調整できる蛍光パウダーを提供することにある。
【0006】
この発明の別な目的は、比較的良好な演色性および比較的良好な品質を備える白色光発光素子を提供することにある。」

エ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
組成成分がユウロピウム(eurpium 〔ママ〕= Eu)およびマンガン(Mn)のうち少なくとも1つがドーピングされた窒化アルミニウム酸化物を含む蛍光材料である。
【0008】
この発明の実施形態中、上記窒化アルミニウム酸化物が(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを含み、そのうち、Mが金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である。そのうち、Mがアルカリ土類金属を含む。
【0009】
この発明の実施形態中、上記組成成分の吸収するレーザー光波長が、250nm?400nmである。
・・・
【0011】
この発明が別に提供する白色光発光素子が、発光ダイオ、ードチップと、第1蛍光材料と、第2蛍光材料とを含む。発光ダイオードチップが基板上に配置されるとともに、レーザー光を発射するために用いられる。第1蛍光材料が発光ダイオードチップ上に配置され、かつ第1蛍光材料の組成成分がユウロピウム(eurpium〔ママ〕 = Eu)およびマンガン(Mn)のうち少なくとも1つのドーピングされた窒化アルミニウム酸化物を含む。第2蛍光材料が発光ダイオードチップ上に配置され、そのうち、第1蛍光材料が発光ダイオードチップの発射するレーザー光を吸収した後に第1放射光を放射し、第2蛍光材料が発光ダイオードチップの発射するレーザー光を吸収した後に第2放射光を放射するとともに、第1放射光および第2放射光を混合して白色光を形成する。
【0012】
この発明の実施形態中、上記窒化アルミニウム酸化物が(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを含み、そのうち、Mが金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である。そのうち、Mがアルカリ土類金属を含む。
【0013】
この発明の実施形態中、上記レーザー光波長が、250nm?400nmである。
【0014】
この発明の実施形態中、上記第1放射光波長が、420nm?560nmである。
【0015】
この発明の実施形態中、上記第2放射光波長が、570nm?680nmである。」

オ 「【0017】
上記に基づき、この発明の蛍光材料は、温度および湿度の影響により容易に変質しない。つまり、この発明の蛍光材料は、良好な安定性を有して白色光発光素子の品質を向上させる助けとなる。また、この発明の蛍光材料が発射する放射光の波長は、異なる必要に基づいて青色-緑色光を提供できる。従って、この発明の蛍光材料は、白色光発光素子中に応用されて白色光発光素子の演色性を向上させる助けとなる。
【発明の効果】
【0018】
つまり、この発明の蛍光材料は、ドーピングされた窒化アルミニウム酸化物からなり、良好な安定性を有する。従って、この発明の蛍光材料は、白色光発光素子に応用される時、白色光発光素子の品質を向上させる助けとなる。また、この発明の蛍光材料は、放射できる放射光が青色-緑色光であり、それと赤色蛍光材料と組み合わせて高い色飽和度の白色光を獲得できる。従って、白色光発光素子は、この発明の蛍光材料を使用することによって良好な演色性を備えることができる。」

カ 「【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
・・・
【0021】
詳細に言えば、図1は、この発明の実施形態にかかる蛍光材料製作を示すフローチャートである。図1において、先ずステップ110を行い、原料を計量する。この実施形態について言えば、上記蛍光材料を調製する時、必要とする材料がアルカリ土類金属炭酸塩・酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウム原料を含むが、これに限定されるものではない。また、この実施形態が使用する原料は、さらに、選択的に二塩化ユウロピウム(eurpoium = Eu)および酸化マンガン(Mn)のうち少なくとも1つを含む。つまり、二塩化ユウロピウム(Eu)および酸化マンガン(Mn)中、二塩化ユウロピウムだけ又は酸化マンガンだけを含むことができるし、また同時に二塩化ユウロピウムおよび酸化マンガンが使用されて、この実施形態の蛍光材料を調製することができる。上記した各種原料の計量される量は、化学式(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)N中の各元素が占める比率(例えば、mおよびnの数値)により決定される。
【0022】
次に、ステップ120を行い、上記した原料を均一に混合する。一般的に、上記した原料を均一に混合する方法は、上記した原料を1つの容器に入れるとともに、それを研磨する。研磨時間は、30分間または実際の状況に応じて増加あるいは減少させることができる。
【0023】
その後、ステップ130を行い、均一に混合した後の原料を焼結する。この実施形態中、焼結温度は、1400℃?1600℃とすることができる。しかし、別な実施形態中、焼結温度は、原料の特性を見て変化させることができる。また、焼結時間は、例えば、6時間?10時間とすることができる。もちろん、焼結必要時間もまた原料の特性を考慮して調整することができる。上記パラメーター(parameter)は、例を挙げての説明用に過ぎず、この発明を限定するためではない。
【0024】
注意すべきことは、この実施形態の蛍光材料を製作する方法中、例えば、還元雰囲気において焼結を行うことである。上記した原料が焼結を経た後に組成成分を(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nとする蛍光材料を獲得し、そのうち、Mが金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である。また、蛍光材料中の窒素および酸素が三重結合方式で一体的に結合されるため、この実施形態の蛍光材料は、良好な安定性を備えている。更に詳しく言えば、この実施形態の蛍光材料中、硫黄などの温度および湿度に対して敏感な元素を含んでいない。従って、この実施形態の蛍光材料は、比較的良好な安定性を備え、それが温度または湿度の変化により変質しにくい。
【0025】
また、図2は、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、蛍光材料の吸収するレーザー光波長と強度との関係を示すグラフである。図2において、曲線210?270が蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、異なるエウロピウム(Eu)の含有量のもと蛍光材料が吸収するレーザー光波長と強度との関係を示す。曲線210?270から分かるように、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、蛍光材料が吸収できるレーザー光波長は、250nm?400nmである。つまり、この実施形態の蛍光材料は、紫外線(例えば、波長が343nm)を受けて励起されレーザー光を発射できる。
【0026】
図3は、波長と強度との関係を示す。図3において、曲線310は、例えば、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、蛍光材料が放射する放射光波長と強度との関係を示す。ここで、例えば、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、蛍光材料の放射光波長は、420nm?490nmである。図3の曲線310および図2から分かるように、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時、蛍光材料は、波長が250nm?400nmのレーザー光を420nm?490nmの放射光に変換できる。
【0027】
また、曲線320は、例えば、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする時、蛍光材料の吸収するレーザー光波長と強度との関係を示す。例えば、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする時、蛍光材料が吸収するレーザー光波長は、例えば、350nm?460nmである。曲線310と曲線320とから分かるように、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする時、蛍光材料の放射する放射光は、組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする蛍光材料に吸収される。従って、蛍光材料が同時にエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)をドーピングされている時、蛍光材料がエネルギー変換(energy transfer)の作用を有することができる。つまり、蛍光材料の放射する放射光が蛍光材料自体を励起することができて更に多くの放射光を放出できる。従って、この実施形態の蛍光材料は、高い発光効率を備える。
【0028】
実施形態中、組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする蛍光材料は、励起された後に発射する放射光波長が例えば490nm?560nmである。全体として、上記した製作方法を経て製作された蛍光材料は、その放出する放射光波長が420nm?560nmである。
【0029】
図4は、この発明の実施形態中、蛍光材料が放出する放射光の色度座標中の分布位置を示す説明図である。図4において、色度座標400中、位置410?430は、それぞれ異なる組成成分の蛍光材料の放射光色彩である。位置410は、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。位置430は、蛍光材料の組成成分をBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。位置420は、蛍光材料BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+),Mn^(2+)とする時の蛍光材料の放射光色彩である。図4から分かるように、位置410は、実質的に青色光範囲中にあり、位置430は、実質的に緑色光範囲中にある。もしも蛍光材料が同時にエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)をドーピングされている時、蛍光材料のレーザー光色彩は、青色-緑色の間にある、つまり位置420にある。従って、この実施形態の蛍光材料は、異なる必要性に従って蛍光材料のドーピング成分を調整することができ、異なる放射光色彩を提供する。
【0030】
図5は、この発明の実施形態の白色光発光素子を示す説明図である。図5において、白色光発光素子500は、基板510と、発光ダイオードチップ520と、第1蛍光材料530と、第2蛍光材料540とを含む。発光ダイオードチップ520が基板510上に配置されるとともに、レーザー光Lを発射する。第1蛍光材料530および第2蛍光材料540がいずれも発光ダイオードチップ520上に配置され、かつ第1蛍光材料530の組成成分がエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)のうち少なくとも1つをドーピングした窒化アルミニウム酸化物である。つまり、第1蛍光材料530が上記した実施形態に記載した製造方法により調製された蛍光材料である。言い換えれば、白色光発光素子500が一種のダブル蛍光材料の発光素子である。
【0031】
この実施形態中、第1蛍光材料530の窒化アルミニウム酸化物が(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nを含み、そのうち、Mが金属であり、0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25である。また、Mが実質的にアルカリ土類金属から選択できる。レーザー光Lの波長が例えば250nm?400nmである。第1蛍光材料530が発光ダイオードチップ520の発射するレーザー光Lを吸収した後に第1放射光E1を放射する。上記した実施形態から分かるように、第1放射光E1の波長は、420nm?560nmであることができ、それが例えば青色光・青色-緑色光または緑色光である。同時に、第2蛍光材料540が発光ダイオードチップ520の発射するレーザー光Lを吸収した後に第2放射光E2を放射する。第2放射光E2の波長は、例えば、570nm?680nmであることができ、それが例えば赤色光である。従って、第1放射光E1と第2放射光E2とは、混合して白色光Wとなることができる。
【0032】
上記した図4から分かるように、第1蛍光材料530の第1放射光E1は、緑色に近い青色光または緑色光であることがわかる。第1放射光E1と第2放射光E2(赤色光)とが混合した後に色飽和度が良好な白色光Wを獲得できる。従って、白色光発光素子500は、良好な演色性を備える。また、第1蛍光材料530中の窒素と酸素とが三重結合方式で一体的に結合される。しかも、第1蛍光材料530の組成成分が実質的に硫黄を含まず、温度または湿度の変化により変質しにくい。そのため、第1蛍光材料530の良好な安定性は、白色光発光素子500が良好な品質および比較的長い使用寿命を備える助けとなる。
【0033】
図6は、この発明の別な実施形態の白色光発光素子を示す説明図である。図6において、白色発光素600が、基板610と、発光ダイオードチップ620と、パッケージコロイド630と、第1蛍光材料640と、第2蛍光材料650とを含む。発光ダイオードチップ620が基板610上に配置される。パッケージコロイド630が基板610上に配置されて、発光ダイオードチップ620を被覆し、かつ第1蛍光材料640と第2蛍光材料650とがいずれもパッケージコロイド630中に分散されている。この実施形態中、第1蛍光材料640と第2蛍光材料650とは、例えば、それぞれ前記した実施形態中の第1蛍光材料530と第2蛍光材料540とである。
【0034】
言い換えれば、第1蛍光材料640の組成成分がエウロピウム(Eu)およびマンガン(Mn)のうち少なくとも1つをドーピングした窒化アルミニウム酸化物であり、第2蛍光材料650が例えば赤色蛍光パウダーである。前記した実施形態の記述から分かるように、第1蛍光材料640が比較的良好な安定性を備え、かつ第1蛍光材料640の放射光の波長分布範囲が比較的広いので、白色発光素子600は、理想的な品質および良好な演色性を備えている。」

キ 「【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】



(4) 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討

ア 明細書のサポート要件の充足性を判断するにあたっては、上記(1)の前提に従い、上記(2)の特許請求の範囲の記載と上記(3)の発明の詳細な説明の記載を対比しながら、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲と、特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲との対応関係を検討することになることから、はじめに本願発明の課題を確認し、次に蛍光材料の技術分野において、当業者が発明の課題を解決できると認識し得るには、一般に、発明の詳細な説明においてどの程度の記載を要するのかにつき検討の上、これらを踏まえて、発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲につき整理した後、最終的に、特許請求の範囲の記載との対比・検討を行うこととする。

イ 本願発明の課題について
(ア) 上記(3)ウには、本願発明が解決しようとする課題について、次のように記載されている。
「従来よく見られる白色発光ダイオード素子としては、下記する幾つかのタイプがある。
1.同時に赤色光・青色光・緑色光の発光ダイオードチップを使用して白色光を発生させる。このような白色発光ダイオード素子は、多くの単色発光ダイオードチップを同時に使用する必要があるため、生産コストが割と高く駆動回路も比較的複雑である。
2.青色発光ダイオードチップに黄色蛍光パウダーを組み合わせて、白色光を発生させる。このような白色発光ダイオード素子の製作コストは相対的に廉価である。しかし、現在よく見かける黄色蛍光パウダーは、イットリウムアルミニウムガーネット蛍光パウダーであり、それが白色発光ダイオード素子として応用される時、しばしば演色性が好くないという問題がある。
3.発光ダイオードチップに赤色蛍光パウダーおよび黄緑色蛍光パウダーを組み合わせて、白色光を発生させる。特許文献1中、硫化物蛍光パウダーを黄緑色蛍光パウダーとして利用している。このようにして、白色発光ダイオード素子が良い演色性を備える。しかし、硫化物蛍光パウダーが空気中の水蒸気と容易に反応するので、安定性に欠け、白色発光ダイオード素子の品質に不利である。
そこで、この発明の目的は、異なる要求に従って放射光線の波長を調整できる蛍光パウダーを提供することにある。
この発明の別な目的は、比較的良好な演色性および比較的良好な品質を備える白色光発光素子を提供することにある。」
(イ) この記載の中で、従来の方式として挙げられている「1.」はR(赤色)・G(緑色)・B(青色)の3色の発光ダイオードを用いた混光方式を指し、「2.」、「3.」は、短波長の発光ダイオードと蛍光材料を組み合わせた励起方式を指すと解されるところ、本願発明の課題(目的)は、これらの方式の問題点、すなわち、前者の混光方式における生産コストや駆動回路の複雑さに関連する問題点、及び、後者の励起方式における黄色蛍光パウダー(イットリウムアルミニウムガーネット蛍光パウダー)あるいは黄緑色蛍光パウダー(硫化物蛍光パウダー)の使用に起因する白色光発光素子としての演色性や品質に関連する問題点を回避することにあることが理解できる。
(ウ) そして、本願発明が想定している最終形態は、本願発明4ないし7に係る白色光発光素子の形態であり、具体的には、上記(3)カに記載された【発明を実施するための形態】及びそこで引用される上記(3)キの図面(特に段落【0030】ないし【0034】、【図5】、【図6】参照)に示されるものであって、発光ダイオードチップ(250nm?400nmの紫外線波長(短波長)を放射するもの:本願発明2、5)と、第1蛍光材料(420nm?560nmの青色-緑色波長域の放射光を放射する:本願発明3、6)及び第2蛍光材料(570nm?680nmの黄緑色-赤色波長域の放射光を放射する:本願発明7)の二つの蛍光材料を組み合わせた励起方式により、白色光の発光を具現しようとするものである。そして、この二つの蛍光材料の各発光色は、補色の関係にあるものと解される[ただし、上記した従来の励起方式「2.」にて採用されている、青色と黄色という補色の混色光は想定外というべきである。]。
(エ) これらの点をまとめると、本願発明が解決しようとする課題は、端的にいえば、「異なる要求に従って放射光線の波長を調整できる蛍光パウダーを提供すること」、及び「比較的良好な演色性および比較的良好な品質を備える白色光発光素子を提供すること」であるということになるが、その前提事項として、本願発明は、混光方式における生産コストや駆動回路の複雑さに関連する問題点、及び励起方式における黄色蛍光パウダー(イットリウムアルミニウムガーネット蛍光パウダー)あるいは黄緑色蛍光パウダー(硫化物蛍光パウダー)の使用に起因する白色光発光素子の演色性や品質に関連する問題点を回避し、短波長の発光ダイオードと、第1蛍光材料及び第2蛍光材料の二つの蛍光材料を組み合わせた励起方式(青・黄の組合せを除く、補色の組合せ)により、白色光を発光しようとするものであることが分かる。

ウ 蛍光材料の技術分野における発明の詳細な説明の記載について
(ア) 蛍光材料の技術分野において、当業者が発明の課題を解決できると認識し得るには、一般に、発明の詳細な説明においてどの程度の記載を要するのかについて考察しておくと、蛍光材料はそもそも発光のために使用されるものであるから、その研究開発は当然のことながら、蛍光材料に所望される発光特性(発光色度・発光強度など)、さらには、複数の蛍光材料を組み合わせて白色光等の混色光を得るような場合には、所望される混色光の発光特性(混色光の発光色度・発光強度・演色性など)を、いかにして達成するかに主眼が置かれ、このような発光特性の改善こそが、基本的には、研究開発の課題、すなわち、発明の解決課題にあたると解される[もちろん、発明ごとに主課題とされる発光特性が異なることはいうまでもないが、本願発明の場合も例に漏れず、上記(4)イのとおり、蛍光材料の発光色度(放射光線の波長調整)や白色光発光素子の演色性といった発光特性の改善を解決課題としていることが理解できる。]。
(イ) このような蛍光材料(さらには蛍光材料が組み合わされた発光素子)の発光特性改善に係る課題が解決できることを、発明の詳細な説明の記載に接した当業者が認識できるというためには、もとより当該発明の詳細な説明において、当該発光特性が改善された(改善される)という事実の開示を要するというべきである。そして、この事実とは、実際に製作された蛍光材料の発光特性(発光色度・発光強度など)を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)、あるいは、当該具体例(発光特性実験例)に代わり、当該発光特性が改善される仕組み(作用機序)を理解するに足りる十分な根拠、であると解するのが相当である。
(ウ) なぜなら、蛍光材料のように、母体結晶と付活剤の種々の組合せや量比の選択が想定される化合物(組成物)にあっては、実際にどのような母体結晶を採用し、これにどのような付活剤をどの程度ドーピングするかにより、その発光特性は大きく異なったものとなることは、当該技術分野における技術常識というべき事項であるため、上記事実の開示なくして、得られる蛍光材料(さらには蛍光材料が組み合わされた発光素子)の発光特性を予測することは極めて困難であるからである。また、仮に、蛍光材料(発光素子)の母体結晶と付活剤の種類や量比のみが羅列されていたとしても、当該蛍光材料(発光素子)が現実にどのような発光特性を有するのかは、当該種類や量比のみから推測することは困難であって、上記作用機序が明らかである場合を除き[ただし、一般に、母体結晶と付活剤とが相互にどのように関係して特定の発光特性を発現するかといった作用機序は、得られた蛍光材料(発光素子)の発光特性に係る実験結果によりはじめて検証されるものである。]、発光特性に係る実験結果なくして把握することはできないからである[特に、複数の蛍光材料を組み合わせた発光素子の場合はなおのこと、その発光特性の予測は困難であることから、どのような蛍光材料を組み合わせることにより、どのような発光特性を発現するかを把握するに足りる実験結果につき、より強い開示要求が課されると解される。]。
(エ) そして、発明の詳細な説明において、上記発光特性実験例等を開示することなく、単に、出願人が所望ないし期待する蛍光材料(発光素子)の発光特性を記載すること(単に、文言上で、所望の発光特性改善が達成できたと謳うこと)は、とりもなおさず、蛍光材料の発光特性改善という発明の解決課題自体を明示的に記したにすぎないのであって、発明の課題を解決することができることを、裏付けをもって詳述したことにはならないのであるから、このような場合につき明細書のサポート要件が充足されていると判断してしまうと、実質的に発明の詳細な説明において公開されていない発明についてまで、独占的、排他的な権利が発生することになり、特許制度の趣旨に反することとなるからである。

エ 発明の詳細な説明の記載に基づき出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲について
(ア) 当業者が上記(4)イ(エ)に示した本願発明の課題が解決できると認識できる範囲を検討するにあたっては、上記(4)ウ(イ)のとおり、実際に製作された蛍光材料の発光特性(発光色度・発光強度など)を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)、あるいは、当該具体例(発光特性実験例)に代わり当該発光特性が改善される仕組み(作用機序)を理解するに足りる十分な根拠、の存在が重要となることから、これらの存在に留意しながら、上記(3)認定の発明の詳細な説明の記載を精査する。
(イ) 具体例(発光特性実験例)について
a 上記(3)ア、イには、技術分野と背景技術について説明され、上記(3)エには、上記(3)ウ記載の課題を解決するための手段として本願発明の構成を採用する旨説明され、上記(3)オには、当該構成の採用により本願発明が奏する作用効果について説明されている。
b しかしながら、これらの記載の中に、本願発明につき実際に製作された蛍光材料(発光素子)の発光特性を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)を確認することはできない。
c また、上記(3)カ、キには、整理すると、発明を実施するための形態につき、次の(i)ないし(v)の事項が説明されているといえる。
(i)本願発明に係る蛍光材料の製作方法(段落【0021】ないし【0024】、【図1】)。
(ii)BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)及びBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)それぞれの、吸収波長(励起波長)及び強度、並びに、放射光波長及び強度(段落【0025】ないし【0028】、【図2】、【図3】参照)。
(ii-1)BaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)の吸収波長(励起波長)は、【図3】の曲線320によると、350nm?460nmであること。
(ii-2)BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)の放射光波長とBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)の吸収波長との関係からみて、蛍光材料が同時にEu及びMnをドーピングされている時、蛍光材料がエネルギー変換(energy transfer)の作用を有し、蛍光材料の放射する放射光が蛍光材料自体を励起することができて、高い発光効率を備えること。
(iii)上記した製作方法を経て製作された蛍光材料全体の放射光波長(段落【0028】)。
(iv)蛍光材料が放出する放射光の色度座標中の分布位置(段落【0029】、【図4】)。
(iv-1)【図4】における位置410(緑色)、430(青色)、及び420はそれぞれ、BaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)、BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)、及びBaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+),Mn^(2+)の蛍光材料の放射光色彩であること[なお、段落【0029】では、位置410は青色光範囲、位置430は緑色光範囲と説明されているが、この説明は【図4】の色度座標における表示と齟齬するものであるから、明かな誤記と解され、正しくは上記のとおりである。]。
(iv-2)蛍光材料が同時にEu及びMnをドーピングされている時、蛍光材料の放射光色彩は、青色-緑色の間(位置420)にあり、この実施形態の蛍光材料は、異なる必要性に従って蛍光材料のドーピング成分を調整することができ、異なる放射光色彩を提供すること。
(v)白色光発光素子の具体的形態(段落【0030】ないし【0034】、【図5】、【図6】)
(v-1)白色光発光素子の一形態(【図5】)では、発光ダイオードチップ520の発射するレーザー光Lの波長が例えば250nm?400nmであり、本願発明1に係る第1蛍光材料530がレーザー光Lを吸収した後に第1放射光E1を放射し、第1放射光E1の波長は、420nm?560nmであることができ、それが例えば青色光・青色-緑色光または緑色光であり、同時に、第2蛍光材料540が発光ダイオードチップ520の発射するレーザー光Lを吸収した後に第2放射光E2を放射し、第2放射光E2の波長は、例えば、570nm?680nmであることができ、それが例えば赤色光であり、第1放射光E1と第2放射光E2とは、混合して白色光Wとなること。
(v-2)【図4】から分かるように、第1蛍光材料530の第1放射光E1は、緑色に近い青色光または緑色光であり、第1放射光E1と第2放射光E2(赤色光)とが混合した後に色飽和度が良好な白色光Wを獲得でき、白色光発光素子500は、良好な演色性を備え、第1蛍光材料530中の窒素と酸素とが三重結合方式で一体的に結合され、しかも、第1蛍光材料530の組成成分が実質的に硫黄を含まず、温度または湿度の変化により変質しにくいため、第1蛍光材料530の良好な安定性は、白色光発光素子500が良好な品質および比較的長い使用寿命を備える助けとなること。
(v-3)白色光発光素子の別の形態(【図6】)では、白色発光素子600が、基板610と、発光ダイオードチップ620と、パッケージコロイド630と、本願発明1に係る第1蛍光材料640と、第2蛍光材料650とを含み、第2蛍光材料650が例えば赤色蛍光パウダーであり、第1蛍光材料640が比較的良好な安定性を備え、かつ第1蛍光材料640の放射光の波長分布範囲が比較的広いので、白色発光素子600は、理想的な品質および良好な演色性を備えていること。
d しかしながら、これらの説明を仔細にみても、第1蛍光材料である窒化アルミニウム酸化物(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))Al_(l1)0_(16)Nにおいて、Eu及びMnを、具体的にどの程度ドーピングしたのかは何ら開示されておらず、実際に製作された蛍光材料の詳細(構成元素の化学量論比など)は明らかでないし、当該Eu及びMn両者のドーピング量に応じてどのような発光特性(発光色度・発光強度など)を示すのかを把握するに足りる具体例(発光特性実験例)も存在しない。
また、第2蛍光材料を併用した発光素子(白色光発光素子)についても同様に、当該発光素子に供された第2蛍光材料の詳細(構成元素の化学量論比など)や発光素子の発光特性(白色光の発光色度・発光強度・演色性など)を把握することができる具体例(発光特性実験例)は存在しない。
e さらに、本願発明1ないし7は、付活剤であるEuとMnのドーピング量に関し、「0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25」と規定しているのであるから、mがゼロ近傍値であるとき、すなわち、Euドーピング量がゼロ近傍値である態様(ほとんどMnドーピング)と、nがゼロ近傍値であるとき、すなわち、Mnドーピング量がゼロ近傍値である態様(ほとんどEuドーピング)を許容することになるため、これらの態様に関連する発明の詳細な説明の記載をみておく。
前者の態様(ほとんどMnドーピング)の蛍光材料は、Mnのみにより付活された蛍光材料と酷似する構造となるところ、発明の詳細な説明には上記(4)エ(イ)c(ii-1)のとおり、当該蛍光材料の吸収波長(励起波長)は350nm?460nmであると説明されているから[さらに【図3】の曲線320によれば、400nm以下の波長ではほとんど励起されないことが分かる。]、本願発明2、5のような励起波長(250nm?400nm)では十分に励起されないことは明らかであるし、一方、後者の態様(ほとんどEuドーピング)の蛍光材料は、Euのみにより付活された蛍光材料と酷似する構造となるところ、発明の詳細な説明には上記(4)エ(イ)c(iv-1)のとおり、当該蛍光材料の発光色度は、青色を呈する旨説明されていることから、この蛍光材料を第2蛍光材料として組み合わせて白色光を発光しようとする場合、第2蛍光材料としては、当該青色と補色の関係にある黄色の蛍光材料を選択せざるを得ず、上記(4)イ(エ)にて説示した、従来の黄色蛍光パウダーに起因する問題点の回避という前提事項と齟齬することになってしまう。
また、発明の詳細な説明には、上記(4)エ(イ)c(v)のとおり、白色光発光素子の具体的形態について説明されているところ、第2蛍光材料としては放射光波長570nm?680nm域のものを用いるとしながら、例示されているのは赤色蛍光材料(赤色蛍光パウダー)のみであるから、第1蛍光材料の上記m又はnがゼロ近傍値である場合に白色光を発光するための第2蛍光材料[上記のとおり、例えば、nがゼロ近傍値である場合には、黄色蛍光材料を選択する必要がある。]が具体的に示されているわけでもない。
これらの事情を鑑みると、m又はnがゼロ近傍値である場合には特に、実際に製作された蛍光材料(発光素子)の発光特性(発光色度・発光強度など)を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)による裏付けが必要とされるというべきところ、このような具体例(発光特性実験例)の存在を確認することはできない。
f 結局のところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記(4)イ(エ)に示した本願発明の課題を解決できると当業者が認識するために必要な、実際に製作された蛍光材料(発光素子)の詳細(構成元素の化学量論比など)とその発光特性(発光色度・発光強度など)を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)を欠くというほかない。
(ウ) 作用機序について
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記(4)エ(イ)c(ii-2)のとおり、BaAl_(11)O_(16)N:Eu^(2+)の放射光波長とBaAl_(11)O_(16)N:Mn^(2+)の吸収波長(励起波長)との関係からみて、蛍光材料が同時にEu及びMnをドーピングされている時、蛍光材料がエネルギー変換(energy transfer)の作用を有し、蛍光材料の放射する放射光が蛍光材料自体を励起することができて、高い発光効率を備える旨説明されており、両付活剤による作用機序について示唆されているといえる。
しかしながら、この作用機序に関する説明を斟酌したとしても、蛍光材料(発光素子)の発光特性(発光色度・発光強度など)、さらには、EuとMnのドーピング量と当該発光特性との関係を推認することは到底できないし、上記したm又はnがゼロ近傍値である場合には、当該作用機序が働く前提を欠くことは明らかである[上記エネルギー変換は、両付活剤が共存することが前提であり、例えば、mがゼロ近傍値であるとき、すなわち、Euドーピング量がゼロ近傍値であり、ほとんどMnドーピングであるときには、Mnをエネルギー変換により励起すべきEuが皆無となってしまう。上記(4)エ(イ)e参照]。また、他に、上記した具体例(発光特性実験例)に代わり、当該発光特性が改善される仕組み(作用機序)を理解するに足りる十分な根拠(技術常識等)も見当たらない。
(エ) そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明は、EuとMnにより共付活された本願発明に係る蛍光材料の母体結晶及び付活剤の種類・量比の単なる提示、この蛍光材料と組み合わせて白色光を発光するための第2蛍光材料の概略(赤色蛍光材料という程度のもの)の提示、及び、EuとMnに関連するエネルギー変換に係る作用機序の示唆、にとどまるものというべきであって、実際に製作された蛍光材料(発光素子)の発光特性(発光色度・発光強度など)を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)、あるいは、当該具体例(発光特性実験例)に代わり当該発光特性が改善される仕組み(作用機序)を理解するに足りる十分な根拠、の存在を認めることはできないのであるから、上記(4)ウにて説示した、蛍光材料の技術分野において要求される発明の詳細な説明の記載の程度に照らすと、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、上記(4)イ(エ)にて説示した本願発明の課題、すなわち、蛍光材料の発光色度や白色光発光素子の演色性といった発光特性の改善に関連する課題が解決できることを何ら認識し得ないというほかないか、少なくとも上記m又はnがゼロ近傍値である場合には、当該課題が解決できることを認識することはできないということができる。

オ 特許請求の範囲の記載と上記(4)エの範囲との対比
上記のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、本願発明の課題が解決できることを何ら認識し得ないか、少なくとも上記m又はnがゼロ近傍値である場合には当該課題が解決できることを認識することはできないのであるから、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比したとき、特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲は、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えることは明らかである。

(5) 小括

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の上記課題が解決できると当業者が認識できる程度に具体例等が記載されていないため、出願時の技術常識に照らしても、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される明細書のサポート要件を充足するものではない。

2 理由2:特許法第36条第4項第1号の要件(実施可能要件)の充足性について

(1) 特許法第36条第4項第1号に係る規定

特許法第36条第4項第1号に係る規定(いわゆる「実施可能要件」)は、特許を受けることによって独占権を得るためには、第三者に対し、発明が解決しようとする課題、解決手段、その他の発明の技術上の意義を理解するために必要な情報を開示し、発明を実施するための明確でかつ十分な情報を提供することが必要であるとの観点から、これに必要と認められる事項を「発明の詳細な説明」に記載すべき旨を課した規定である。

(2) 蛍光材料の技術分野において発明の詳細な説明の記載に求められる技術情報について

蛍光材料(さらには蛍光材料が組み合わされた発光素子)の技術分野において、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を充足するためには、この記載に基づいて、特許請求の範囲に記載された蛍光材料(発光素子)全体にわたって、実際に生産・使用(物の発明の「実施」の一形態)できることを当業者が認識できることが必要であり、発明の詳細な説明には、その認識に必要となる明確でかつ十分な技術情報が要求されるというべきである。
そして、当該蛍光材料の生産・使用可能性を認識するための技術情報とは、生産可能性の認識に必要となる、原料を含めた蛍光材料の製作過程とその詳細(構成元素の化学量論比など)、及び、使用可能性の認識に必要となる、当該蛍光材料(発光素子)の発光特性(発光色度・発光強度・演色性・品質など)の具体的データ(あるいはこれに代わり当該データを類推し得るとする根拠)、であると解するのが相当である。
特に、上記具体的データが要求される理由は、上記1(4)ウにおいて既に説示したとおり、蛍光材料の発光特性を予測することは極めて困難であって、実際に蛍光材料として使用することができる程度の発光強度等の特性を具備するものか否かは、当該具体的データに依拠するよりほかないからであり、当該蛍光材料に所望される作用効果が実際に発現しているか否か(実際の使用に適したものであるか否か)は当該具体的データにより検証するほかないからである。

(3) 発明の詳細な説明に記載された技術情報

ア 本願明細書の発明の詳細な説明の記載は上記1(3)認定のとおりであるところ、そこに記載された技術情報として、本願発明の作用効果は、上記1(3)オの記載などから把握される次の事項であることが理解できる。
「つまり、この発明の蛍光材料は、ドーピングされた窒化アルミニウム酸化物からなり、良好な安定性を有する。従って、この発明の蛍光材料は、白色光発光素子に応用される時、白色光発光素子の品質を向上させる助けとなる。また、この発明の蛍光材料は、放射できる放射光が青色-緑色光であり、それと赤色蛍光材料と組み合わせて高い色飽和度の白色光を獲得できる。従って、白色光発光素子は、この発明の蛍光材料を使用することによって良好な演色性を備えることができる。」

イ また、発明の詳細な説明に記載された具体例は、上記1(4)エ(イ)において精査し整理したとおりであるところ、そのc(i)として整理した事項から、本願発明に係る蛍光材料の製作方法に関する技術情報の存在を確認することができる。

ウ しかしながら、当該具体例から、上記作用効果の発現を検証し得る(実際の使用に適していることを裏付ける)、発光特性に関する具体的データを確認することはできない。すなわち、本願明細書の発明の詳細な説明には、EuとMnにより共付活された本願発明に係る蛍光材料(さらにはこれを用いた白色発光素子)の詳細(構成元素の具体的化学量論比など)やその発光特性(発光色度・発光強度・演色性など)を把握するに足りる具体的データは存在しないし、これを類推するに足りる根拠も見当たらない。

エ さらに、上記1(4)エ(イ)eにて説示したとおり、本願発明1は、付活剤であるEuとMnのドーピング量に関し、「0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25」と規定しているのであるから、Euドーピング量がゼロ近傍値である態様(ほとんどMnドーピング)と、Mnドーピング量がゼロ近傍値である態様(ほとんどEuドーピング)を許容するところ、前者の態様においては、発光強度の問題が、後者の態様においては、白色光を発光する際の問題がそれぞれ予想されるとともに、本願発明1に係る蛍光材料を白色光発光素子として使用する際には、第2蛍光材料として想定されている赤色蛍光材料と、補色の関係にある青色と緑色の中間色を発光する必要があることを踏まえると、このような状況下においても上記作用効果を奏して所望の使用が可能であること(本願発明の使用可能性)を、発明の詳細な説明の記載から認識することは到底できないというべきである。

オ 結局のところ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明に係る蛍光材料(発光素子)の生産・使用可能性を認識するために必要となる情報のうち、特に使用可能性の認識に必要となる、当該蛍光材料(発光素子)の発光特性(発光色度・発光強度・演色性・品質など)の具体的データ(あるいはこれに代わり当該データを類推し得るとする根拠)を欠くものというほかなく、なかでも上記m又はnがゼロ近傍値である場合の本願発明の使用可能性に関する技術情報に乏しいといわざるを得ない。

(4) 小括

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明に係る蛍光材料(白色光発光素子)の使用可能性を当業者が認識するために必要となる明確でかつ十分な技術情報を欠くものであり(特に上記m又はnがゼロ近傍値である場合)、当該記載に基づいて当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件を充足するものではない。

3 理由1:特許法第29条第2項の規定違反(進歩性の有無)について

(1) 留意事項

上記1のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は明細書のサポート要件を充足するものではないが、仮に、本願の特許請求の範囲の記載がサポート要件を充足するものとした場合には、進歩性の有無を判断する際の当業者の創作能力のレベルにつき、以下のように解すべきである。
すなわち、本願の発明の詳細な説明には、上記1のとおり、本願発明1の発光特性等を把握するに足りる具体例(発光特性実験例)は存在しないが、仮に、このように具体例(発光特性実験例)が存在しない状況下にあっても明細書のサポート要件を充足するものであるとするならば、この場合の出願時の技術常識のレベル[当業者の創作能力のレベルということもできる。]は、発明の詳細な説明の記載を十分に補完し得るレベル、つまり、単に蛍光材料の母体結晶及び付活剤の種類の提示等があれば、例え具体例(発光特性実験例)が示されていなくとも、当該蛍光材料の発光特性(作用効果)を予測し得るレベルにあると解さざるを得ない。
したがって、本願発明1が、特許法第29条第2項の規定に違反するものか否か(いわゆる「進歩性の有無」)の判断にあたっては、このような当業者の創作能力のレベルにも留意すべきである。

(2) 本願発明1

本願発明1(平成27年3月19日付けの手続補正書による補正後の請求項1に係る発明)は、上記1(2)のとおりのものである。

(3) 引用文献とその記載事項

ア 引用文献
引用文献1:特表平11-509892号公報
引用文献4:特開2010-192254号公報

イ 引用文献1に記載された事項
引用文献1には以下の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
1.2価のユーロピウムにより活性化され、相1β-アルミナの結晶構造に対応する六方晶構造を有するルミネセントアルミネートにおいて、アルミネートは窒素を含み、次の一般式
Ba_(1-y)Eu_(y)Al_(11+p(1-x))O_(17.5+1.5p(1-x)-1.5x)N_(x)
(式中、0.01≦y≦0.40,
1.8≦p≦3.6,
0<x≦1を示す)
で表され、BaはSr及び/又はCaにより、そしてAlはGa及び/又はScにより部分的に置換されることができるが、かかる置換においては、Sr及び/又はCaそしてGa及び/又はSc量は、相1β-アルミナ構造が少くとも実質的に無傷で存在するような量に制限されることを特徴とするルミネセントアルミネート。」
(イ) 「一方、バリウムアルミネートは、β-アルミナ(NaAl_(11)O_(17))結晶構造を有し、同様に六方晶である。β-アルミナ中のNaをBaで置換することは可能であり、この場合電荷補償は、例えばAlをMgで同時に置換することにより得られる。これにより、BaMgAl_(10)O_(17)が得られ、これはEuで活性化された場合に、有効な青色発光物質となる。・・・全てのNaをBaにより置換した場合には、BaAl_(11)O_(16)Nが得られる。」(3頁12行?23行参照)
(ウ) 「本発明の目的は、新規な優れた青色発光物質を提供することにある。特に、良好な発光効率、良好なルーメンを保持すること、そして優れた演色を有する、3帯域型の低圧水銀放電ランプを製造することができるような物質を提供することにある。」(4頁8?10行参照)
(エ) 「x及びyの値により、アルミネートの平均放出波長の価が影響を及ぼされ得ることを見い出した。x及びyを適切に選定することにより、3帯域型の低圧水銀放電ランプ中でこのようなアルミネートの使用によりランプに優れた演色が得られるような値をアルミネートの平均放出波長に付与することができるようになる。」(4頁下から8?4行参照)
(オ) 第5頁の表Iには、Ba_(0.99)Eu_(0.01)Al_(11)O_(16)Nの最大放出及び平均放出波長がそれぞれ453nm及び474nm、Ba_(0.85)Eu_(0.15)Al_(11.88)O_(17.92)N_(0.6)の最大放出及び平均放出波長がそれぞれ456nm及び493nm、並びに、Ba_(0.9)Eu_(0.1)MgAl_(10)O_(17)(BAM)の最大放出及び平均放出波長がそれぞれ451nm及び460nmであることが記載されている。

ウ 引用文献4に記載された事項
引用文献4には以下の記載がある。
(ア) 「【0004】
緑色蛍光体としては、LaPO_(4):Ce、Tb(LAPと略記する。)、(Ba,Eu)(Mg,Mn)Al_(10)O_(17)(BAMEMと略記する。)が使用されている。
【0005】
BAMEMは1970年代前半にフィリップスが開発し、高効率・高演色の三波長蛍光ランプに実用化されたものであり・・・、180?300nm波長光により励起され、緑色(510?525nm)と青色(445?455nm)に2つのメイン発光ピークを有する。液晶ディスプレイにおいて優れた色再現性を得るためには、バックライトの冷陰極蛍光ランプに、色純度が高い、赤色、青色、緑色の単色を発光する蛍光体を使用することが重要であり、この点において緑色蛍光体としてBAMEMは非常に有利である。」
(イ) 「【0024】
本発明の冷陰極蛍光ランプに用いるアルミン酸塩系蛍光体は、2価Euと2価Mnで賦活され、励起光として180?300nmの紫外線が照射されると、2価Euによる445?455nmの青色領域の発光ピークと、2価Mnによる510?525nmの緑色領域の発光ピークとを有する蛍光を発光する。アルミン酸塩系蛍光体中において、2価Mnは、2価Euからエネルギーを授与可能な領域の2価Euの近傍に存在し、励起光からのエネルギーに加え、2価Euからのエネルギーを受けて510?525nmの蛍光を発光する。2価Euによる445?455nmの発光は2価Mnへ授与したエネルギーの相当量が減少する。
【0025】
上記アルミン酸塩系蛍光体中の2価Mnの含有量は、ランプの点灯時間に伴う蛍光の色度の変化量が抑制されるように調整される。2価Mnが2価Eu間でエネルギー授受が可能な範囲で2価Eu近傍に存在し、更に、余剰に存在すると、製造工程における熱処理や、ランプの点灯に伴い、2価Mnの原子価が変化し、アルミン酸塩系蛍光体の結晶に劣化を与えてしまうことから、2価Mnの含有量は発光に寄与しない余剰のMnを除いた量とする。
【0026】
上記アルミン酸塩系蛍光体中の2価Mnの含有量は、アルミン酸塩系蛍光体の青色領域の発光ピーク強度PBに対する緑色領域の発光ピーク強度PGの比PG/PBが、1以上、7以下を有するように調整されることが好ましい。PG/PBがこの範囲であれば、2価Euから2価Mnへのエネルギー伝達が良好に行われ、2価Mnによる510?525nmの発光が増加し、高輝度の発光を可能とする冷陰極蛍光ランプが得られる。更に、発光に寄与しない余剰のMnを削減することができ、アルミン酸塩系蛍光体の劣化が抑制され、冷陰極蛍光ランプの点灯時間に伴いアルミン酸塩系蛍光体から発光される蛍光の色度が変化するのを抑制し、安定した色度の蛍光が得られる。PG/PBは、1.5≦PG/PB≦5.0であることが好ましい。」

(4) 引用発明

上記引用文献1には、「Ba_(1-y)Eu_(y)Al_(11+p(1-x))O_(17.5+1.5p(1-x)-1.5x)N_(x)」で表される、2価のユーロピウムにより活性化されたルミネセントアルミネートが記載され(上記(3)イ(ア)参照)、その具体例として、「Ba_(0.99)Eu_(0.01)Al_(11)O_(16)N」が示されている(上記(3)イ(オ)参照)。
そうすると、引用文献1には、「2価のユーロピウムにより活性化されたルミネセントアルミネートであるBa_(0.99)Eu_(0.01)Al_(11)O_(16)N」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

(5) 本願発明1と引用発明との対比

本願発明1と、上記引用発明とを比較すると、両者は下記の点で相違し、その余の点では一致しているものと認められる。

ア 相違点1
本願発明1においては、Euに加えて「マンガン(Mn)がドーピングされ」、当該Eu及びMn、並びにM(アルカリ土類金属)の量比(M_(1-m-n)Eu_(m)Mn_(n))につき、「0<m≦0.2,かつ0<n≦0.25」と規定されているのに対して、引用発明においては、Mnのドーピング、及び、BaとEuとMnの量比については明示されていない点。

イ 相違点2
本願発明1は「白色光を発光するために使用される」蛍光材料であるのに対して、引用発明はこの点の明示がない点。

(6) 相違点の検討

ア 相違点1について
引用発明の母体結晶たるBaAl_(11)O_(16)Nは、BaMgAl_(10)O_(17)と同じく、バリウムアルミネートに属するところ(上記(3)イ(イ))、引用文献4には、当該BaMgAl_(10)O_(17)に対して、EuとMnを共付活すること、及び、EuとMnを共付活した場合のそれらの相互作用(エネルギー変換)を利用して青色から緑色の範囲の色度調整を行い得ることまで記載されている(上記(3)ウ(ア)、(イ)参照)。
また、引用発明に係るアルミネートは、3帯域型の低圧水銀放電ランプ中での使用が想定されるとともに、当該ランプに優れた演色が得られるような平均放出波長が付与されたものであって(上記(3)イ(ウ)、(エ)参照)、具体的には当該平均放出波長を青色から緑色側へ移行させて[上記(3)イ(オ)の表Iによれば、BAMの平均放出波長は460nmであるのに対して引用発明のものは474nmに移行されており、さらに、Ba_(0.85)Eu_(0.15)Al_(11.88)O_(17.92)N_(0.6)では493nmに移行されている。]、上記演色性を高めたものと解することができる。一方、引用文献4には、EuとMnの共付活により緑色と青色の2つのメイン発光ピークを形成することが、優れた色再現性(演色性)に寄与することも示唆されている(上記(3)ウ(ア)参照)。
そうすると、引用発明は、確かに、BaAl_(11)O_(16)Nという母体結晶をEuのみにより付活したルミネセントアルミネートであるが、これと同系のアルミネートを母体結晶とするBaMgAl_(10)O_(17)においては、EuとMnの共付活により、青色から緑色間の色度制御と演色性向上が可能であることが既に公知である上、上記3(1)のとおり、当業者であれば、母体結晶と付活剤の種類程度の技術情報さえ与えられれば、その発光特性を容易に予測することができるという当業者の創作能力のレベルに照らすと、引用発明において、上記青色から緑色間の色度制御(平均放出波長の調整)と演色性向上を期待して、EuとMnを共付活すること(その量比も含めて)は、当業者であれば容易に想到し得ることというべきである。

イ 相違点2について
引用発明1は、上記のとおり3帯域型の低圧水銀放電ランプ中での使用を想定し、ランプに優れた演色が得られるような値をアルミネートの平均放出波長に付与することを期待するものであるから、3帯域(赤・青・緑)による演色性の高い白色光を得ることをも想定するものであるといえ、当該相違点2は実質的なものではない。

(7) 審判請求人の主張について

審判請求人は、平成27年3月19日付けの意見書において、次のように主張する。
「以上要するに、引用文献1は明らかに目的とするホワイトバランスを有する白色光を発光するためのMnを開示していません。また引用文献2-5は異なる化学成分ベースと、青色光又は緑色光を発光するための異なる作用を開示しています。したがって引用文献2-5は、引用文献1の発明を本願発明に変更するための動機を教示又は提供するものではありません。」
しかしながら、引用発明と引用文献4記載のものとは母体結晶の類似性に加え、両者はともに蛍光ランプの技術分野に属しており技術分野が共通すること、引用発明は3帯域(赤・青・緑)による演色性の高い白色光を期待して平均放出波長を青色から緑色域に移行させており、色度制御及び演色性向上という点において引用文献4記載の教示と課題が共通すること、上記2の実施可能要件についての検討において説示したとおり本願発明1に係る蛍光材料は上記m及びnに関する数値範囲全域にわたって白色光発光に関する所望の作用効果を奏するわけではないこと、さらには、上記3(1)において説示した当業者の創作能力のレベル、を併せ考えると、引用発明と引用文献4記載のものとを組み合わせる動機付けは十分に存在すると解され、引用発明において演色性の高い白色光を発光するためにMnによる付活を採用することとその作用効果は、当業者であれば容易に想到し予測し得る程度のものであるというべきである。
したがって、上記審判請求人の主張を採用することはできない。

(8) 小括

以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、進歩性を有するものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび

以上をまとめると、本願は、特許法第36条第6項及び第4項に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号に該当するとともに、本願は、請求項1に係る発明が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明につき検討するまでもなく、特許法第49条第2号に該当するものであって、いずれにしても拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-15 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2011-28409(P2011-28409)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
P 1 8・ 121- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 恵理  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 日比野 隆治
國島 明弘
発明の名称 蛍光材料および白色光発光素子  
代理人 城村 邦彦  
代理人 熊野 剛  
代理人 田中 秀佳  

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