• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1307305
審判番号 不服2013-20799  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-25 
確定日 2015-11-04 
事件の表示 特願2007-556163「ポリマー粒子送達組成物および使用法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月24日国際公開,WO2006/088647,平成20年8月7日国内公表,特表2008-530206〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は,2006年1月31日(パリ条約に基づく優先権主張 2005年2月17日,2005年5月25日,2005年6月3日,2005年9月22日,2005年11月14日,2006年1月13日,何れも米国)を国際出願日とする出願であって,その請求項1?28に係る発明は,特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであって,そのうち請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも一つの生物活性薬剤の治療的有効量が生分解性ポリマー中に分散されているポリマー粒子送達組成物であって,ポリマーが,下記構造式(III)で記載される化学式を有するPEAポリマーである,組成物。
【化1】

[式中,nが5から150の範囲であり,mが0.1から0.9の範囲であり,pが0.9から0.1の範囲であり;R^(1)がα,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-(C_(1)-C_(8))アルカン,3,3’-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸もしくは4,4’-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸,(C_(2)-C_(20))アルキレン,(C_(2)-C_(20))アルケニレンから独立に選択され;R^(2)がそれぞれ独立に水素,(C_(1)-C_(12))アルキルもしくは(C_(6)-C_(10))アリールまたは保護基であり;個々のmモノマーにおけるR^(3)が水素,(C_(1)-C_(6))アルキル,(C_(2)-C_(6))アルケニル,(C_(2)-C_(6))アルキニル,(C_(6)-C_(10))アリール(C_(1)-C_(6))アルキルからなる群より独立に選択され;かつR^(4)が(C_(2)-C_(20))アルキレン,(C_(2)-C_(20))アルケニレン,(C_(2)-C_(8))アルキルオキシ,(C_(2)-C_(20))アルキレン,下記構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片,およびその組み合わせからなる群より独立に選択される。]
【化2】

」(以下,「本願発明」という。)

第2 刊行物及び刊行物に記載された発明
1.刊行物に記載の事項
原審で引用され,本件出願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物Aには,以下の事項が記載されている。
なお,摘示記載中の下線は合議体で付与した。
刊行物A:特表2004-507600号公報
(A-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】
式(VII):
【化1】

のポリマーであって,
式中,
mは,約0.1?約0.9であり;
pは,約0.9?約0.1であり;
nは,約50?約150であり;
各々のR^(1)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキルであり;
各々のR^(2)は,独立して,水素,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;
各々のR^(3)は,独立して,水素,(C_(1)?C_(6))アルキル,(C_(2)?C_(6))アルケニル,(C_(2)?C_(6))アルキニル,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;そして
各々のR^(4)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキルである,ポリマー。
・・・
【請求項104】
請求項1?27のいずれか1項に記載の式(VII)のポリマーおよび1つ以上の薬物を含む,処方物。」
(A-2)【0007】
「【0007】
(発明の要旨)
本発明は,α-アミノ酸に基づくポリマーを提供する。従来のポリ(α-アミノ酸)と対照的に,本発明のポリマー(例えば,エラストマー機能性コポリエステルアミドおよびコポリエステルウレタン)は,有利な物理特性,化学特性,および生分解性を有する。本発明のポリマーは,例えば,変動する条件下で,適切な生分解(減量%)性を有する(表IIIを参照のこと)。ポリマーの加水分解は,加水分解酵素(例えば,トリプシン,α-キモトリプシン,リパーゼなど)によって触媒され得る。このように,上記ポリマーは,種々の薬物の共有結合的固定(結合)のためのキャリアおよび他の生理活性物質として使用され得る。加えて,酵素を触媒とする本発明のポリマーの生分解の速度は,ポリマー組成(例えば,l/p比)および/または官能基(例えば,ジカルボン酸,ジオール,またはα-アミノ酸)の性質を変えることによって,変化し得る。」
(A-3)【0013】?【0014】
「【0013】
本発明はまた,式(VII):
【0014】
【化28】

のポリマーを提供する。
式中,
mは,約0.1?約0.9であり;
pは,約0.9?約0.1であり;
nは,約50?約150であり;
各々のR^(1)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンであり;
各々のR^(2)は,独立して,水素,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;
各々のR^(3)は,独立して,水素,(C_(1)?C_(6))アルキル,(C_(2)?C_(6))アルケニル,(C_(2)?C_(6))アルキニル,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;そして
各々のR^(4)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンである。」
(A-4)【0045】
「【0045】
本発明のコポリエステルアミドおよびコポリエステルウレタンの生分解によって,必須α-アミノ酸を標的部位に(例えば,損傷した組織の創傷の修復を容易にするために)送達し得る。それに加えて,本発明のポリマーは,抑えのきかない細胞増殖を抑制する目的で遊離のイミノキシルラジカルを結合するために,また血液適合性(hemocompatibility)を高める目的でヘパリンまたはヒルジンを結合するために使用され得る。これらの改変されたポリマーは,再狭窄を抑制する目的でステントをコーティングするために使用され得る。さらに加えて,本発明のポリマーは,例えば,グルコン酸鉄などの制御された放出のために,ポリ酸として,浸透性の避妊薬剤としての婦人科における適用のために使用され得る。さらに,本発明のポリマーは,不飽和化合物(例えば,アリルアミンまたはアリルアルコール)の結合のためのポリ酸として使用されて,光硬化性でかつ架橋可能な生分解性ポリマーを得る。本発明のポリマーは,二重結合を含む他のポリマーと架橋して,ハイブリッド材料を作製し得る。」
(A-5)【0118】
「【0118】
本明細書中で使用される場合,「式(VII)の化合物の残基」とは,1つ以上の空いた原子価を有する式(VII)の化合物の基をいう。式(VII)の化合物の任意の合成可能な原子または官能基(例えば,ポリマー骨格またはペンダント基上)は,空いた原子価を提供するために除去され得,生物活性は,この基が薬物の残基に結合される場合,実質的に保持される。さらに,任意の合成可能な官能基(例えば,カルボキシル)は,空いた原子価を提供するために式(VII)の化合物上に(例えば,ポリマー骨格またはペンダント基上に)作製され得,生物活性は,この基が薬物の残基に結合される場合,実質的に保持される。所望される結合に基づいて,当業者は,当該分野で公知である手順を使用して式(VII)の化合物から誘導され得る官能基化された開始物質を適切に選択し得る。」
(A-6)【0175】?【0176】
「【0175】
ポリマー/薬物結合は,適切かつ有効な量の薬物を提供するように,分解し得る。任意の適切かつ有効な量の薬物が,放出され,そして代表的には,選択された特定のポリマー,薬物およびポリマー/薬物結合に依存する。代表的には,薬物の約100%までが,ポリマー/薬物から放出され得る。詳細には,薬物の約90%まで,75%まで,50%まで,または25%までが,ポリマー/薬物から放出され得る。代表的に,ポリマー/薬物から放出される薬物の量に影響を与える因子としては,例えば,ポリマーの性質および量,薬物の性質および量,ポリマー/薬物結合の性質,ならびに処方物中に存在するさらなる物質の性質および量が挙げられる。
【0176】
このポリマー/薬物結合は,ある期間にわたって分解して,適切かつ有効な量の薬物を提供し得る。任意の適切かつ有効な期間が,選択され得る。代表的には,適切かつ有効な量の薬物は,約24時間,約7日,約30日,約90日,または約120日で放出され得る。代表的に,この薬物がポリマー/薬物から放出される時間の長さに影響を与える因子としては,例えば,ポリマーの性質および量,薬物の性質および量,ポリマー/薬物結合の性質,ならびに処方物中に存在するさらなる物質の性質および量が挙げられる。」
(A-7)【0195】?【0199】
「【0195】
(薬物と混合されたポリマー)
直接的かまたはリンカーを介してかのいずれかで1つ以上の薬物に結合していることに加えて,本発明のポリマーは,処方物を提供するために,1つ以上の薬物を物理的に混合され得る。
【0196】
本明細書中で使用する場合,「混合された」とは,薬物と物理的に接触して本発明の薬物またはポリマーと物理的に混合された本発明のポリマーをいう。
【0197】
本明細書中で使用する場合,「処方物」とは,1つ以上の薬物と混合された本発明のポリマーをいう。この処方物は,ポリマーの表面上に存在するか,ポリマーに部分的に包埋されているか,またはポリマーに完全に包埋された,1つ以上の薬物を有する本発明のポリマーを含む。さらに,この処方物は,本発明のポリマーおよび均一な組成物(すなわち,均一な処方物)を形成する薬物を含む。
【0198】
任意の適切な量のポリマーおよび薬物は,処方物を提供するために使用され得る。ポリマーは,この処方物の約0.1重量%?約99.9重量%の量で存在する。代表的には,このポリマーは,処方物の約25重量%より多い量で,処方物の約50重量%より多い量で,処方物の約75重量%より多い量で,または処方物の約90重量%より多い量で存在する。同様に,薬物は,処方物の約0.1重量%?約99.9重量%の量で存在し得る。代表的には,この薬物は,処方物の約5重量%より多い量で,処方物の約10重量%より多い量で,処方物の約15重量%より多い量で,または処方物の約20重量%より多い量で存在する。
【0199】
ポリマー/薬物,ポリマー/リンカー/薬物,処方物,またはそれらの組み合わせは,ポリマーフィルムとして,医用デバイス(例えば,ステント)の表面上に塗布され得る。この医用デバイスの表面は,このポリマーフィルムでコーティングされ得る。このポリマーフィルムは,医用デバイス上で任意の適切な厚みを有し得る。例えば,医用デバイス上のポリマーフィルムの厚みは,約1?約50ミクロン厚,または約5?約20ミクロン厚であり得る。このポリマーフィルムは,薬物溶出ポリマーコーティングとして,有効に働き得る。この薬物溶出ポリマーコーティングは,医用デバイス上でポリマーフィルムを,任意の適切なコーティング処理(例えば,浸漬コーティング,蒸着,またはスプレーコーティング)することによって作製され得る。さらに,薬物溶出ポリマーコーティング系は,ステント,血管送達カテーテル,送達バルーン,分離ステントカバーシート構造体,または局所薬物送達系のステント薬物送達スリーブ型の表面に塗布され得る。」
(A-8)【0202】?【0204】
「【0202】
任意の適切なサイズのポリマーおよび薬物は,処方物を提供するために使用され得る。例えば,ポリマーは,約1×10^(-4)メートル未満,約1×10^(-5)メートル未満,約1×10^(-6)メートル未満,約1×10^(-7)メートル未満,約1×10^(-8)メートル未満,または約1×10^(-9)メートル未満のサイズを有し得る。
【0203】
処方物は,分解して,適切かつ有効な量の薬物を提供し得る。任意の適切かつ有効な量の薬物は,放出され,そして代表的には,選択された特定の処方物に依存する。代表的には,薬物の約100%が,処方物から放出される。具体的には,薬物の約90%まで,75%まで,50%まで,または25%までが,処方物から放出され得る。代表的に,処方物から放出される薬物の量に影響する因子としては,例えば,ポリマーの性質および量,薬物の性質および量,ならびに処方物中に存在するさらなる物質の性質および量が挙げられる。
【0204】
処方物は,ある期間にわたって分解して,適切かつ有効な量の薬物を提供し得る。任意の適切かつ有効な期間が,選択され得る。代表的には,適切かつ有効な量の薬物は,約24時間,約7日,約30日,約90日,または約120日で放出され得る。代表的に,薬物が処方物から放出される時間の長さに影響する因子としては,例えば,ポリマーの性質および量,薬物の性質および量,ならびに処方物中に存在するさらなる物質の性質および量が挙げられる。」
(A-9)【0211】
「【0211】
(Co-PEAの調製)
(実施例1)
(コポリ-{[N,N’-アジポイル-ビス-(L-ロイシン)-1,6-へキシレンジエステル]}_(0.75)-{[N,N’-アジポリ-L-リジンベンジルエステル]_(0.25)}(1)(式(VII)の化合物)の調製,ここで,m=0.75,p=0.25,n=75,R^(1)=(CH_(2))_(4),R^(2)=Bz,R^(3)=イソ-プロピル,およびR^(4)=(CH_(2))_(6))
乾燥トリエチルアミン(30.8mL,0.22モル)を,乾燥N,N-ジメチルアセトアミド(52.5mL)(DMAとNEt_(3)との総体積は,83.3mLである)中のビス-(L-ロイシン)-1,6-へキシレンジエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(III,R^(4)=(CH_(2))_(6))(50.168g,0.075モル);L-リジンベンジルエステルのジ-p-トルエンスルホン酸塩(IV)(14.518g,0.025モル)((III)+(IV)の総量=0.1モル);およびジ-p-ニトロフェニルアジパート(V,R^(1)=(CH_(2))_(4))(38.833g,0.1モル)の混合物((III)+(IV)の濃度または(V)の濃度は1.2mol/Lである)に,室温で添加した。その後,反応混合物の温度を約80℃まで上昇させ,そして約16時間攪拌した。この粘性の反応溶液を室温まで冷却し,エタノール(150mL)で希釈し,そして水を注いだ。分離したポリマーを,水で完全に洗浄し,減圧下,約30℃で乾燥した。p-ニトロフェノールおよびp-トルエンスルホン酸が検出されなくなるまで最終的に精製した後(以下を参照のこと),収率90%を得た(η_(red)=1.30dL/g,Mw=32,100,Mn=27,000,Mw/Mn=1.19(GPC(THF中)))。」
(A-10)【0258】?【0260】
「【0258】
・・・
(実施例27)
実施例1?12において調製されたポリマーの物理特性を表IIIに示す。
【0259】
【表4】

1 B.W.L.(%)は,リン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で120時間後の生分解(減量%)である。
2 B.W.L.(%)は,α-キモトリプシン(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で120時間後の生分解(減量%)である。
3 B.W.L.(%)は,リパーゼ(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で120時間後の生分解(減量%)である。
4 B.W.L.(%)は,リン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で240時間後の生分解(減量%)である。
5 B.W.L.(%)は,α-キモトリプシン(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で240時間後の生分解(減量%)である。
6 B.W.L.(%)は,リパーゼ(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で240時間後の生分解(減量%)である。
7 B.W.L.(%)は,リン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で180時間後の生分解(減量%)である。
8 B.W.L.(%)は,α-キモトリプシン(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で180時間後の生分解(減量%)である。
9 B.W.L.(%)は,リパーゼ(4mg/10mL緩衝液)を含むリン酸緩衝液(pH7.4)中,37℃で180時間後の生分解(減量%)である。
【0260】
得られたベンジル化されたポリマーは,30,000?60,000の範囲の高いMwおよび狭い多分散性-Mw/Mn=1.2?1.7(THF中に溶解したポリマーからのGPCによって決定した)を有し,優れたフィルム形成性を有した。これらは,かなり低いガラス転移温度(Tg=9?20℃)を示した。このポリマーは,クロロホルム(上記ポリマーの全て),エタノール(コポリ(エステルアミド)),酢酸エチル(コポリ(エステルウレタン)),THFとこれらの溶媒の組み合わせのような普通の有機溶媒に溶解性である。co-PEAおよびco-PEURの両方は,インビトロでの生分解がかなり高い傾向を示す。co-PEAは,特異的な(酵素触媒による)加水分解を受ける傾向があり,一方,co-PEURは,特異的な加水分解および非特異的な(化学的な)加水分解の両方を受ける傾向を示す。」
2.刊行物Aに記載された発明
刊行物Aの【請求項104】には,
「請求項1・・・に記載の式(VII)のポリマーおよび1つ以上の薬物を含む,処方物。」(摘示(A-1))と記載されており,この記載に,【請求項1】の式(VII)の記載(摘示(A-1))を組み込むと,次の発明が記載されているといえる。
「 式(VII):

のポリマーであって,
式中,
mは,約0.1?約0.9であり;
pは,約0.9?約0.1であり;
nは,約50?約150であり;
各々のR^(1)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンであり;
各々のR^(2)は,独立して,水素,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;
各々のR^(3)は,独立して,水素,(C_(1)?C_(6))アルキル,(C_(2)?C_(6))アルケニル,(C_(2)?C_(6))アルキニル,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;そして
各々のR^(4)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンである,
ポリマー及び1つ以上の薬物を含む,処方物。」(以下,「引用発明」という。)
なお,刊行物Aの【請求項1】の式(VII)のR^(1)及びR^(4)の定義における「(C_(2)?C_(20))アルキル」との記載は,同式(VII)中のR^(1)及びR^(4)の位置に加えて,例えば,該刊行物Aの【0014】(摘示(A-3))などの記載を参酌して「(C_(2)?C_(20))アルキレン」の誤記と解釈した。

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)本願発明に係るポリマーと引用発明に係るポリマーについて
ア 本願発明の式(III)

は,引用発明の式(VII)

と,記載上,式としては全く差異はない。
イ そして,式中の各記号の定義においても,以下に示すように,何れも共通する部分が含まれるものである。(下線部参照;下線部及び「/」は合議体が追記した。R^(2)に関しては,引用発明の「(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキル」に対応する典型例である「ベンジル基」は,カルボキシル基の「保護基」として周知のものであって,例えば,本願明細書の【0183】や【0185】において,式(III)におけるR^(2)が結合する部分(リジン構造に相当する部分)のカルボキシル基に対応する保護基として使用されているものである。なお,本願明細書の【0185】など,多数の箇所で引用されている「米国特許第6,503,538号」は,刊行物Aの対応米国特許文献である。)
<本願発明の式中の記号の定義>
「nが5から150の範囲であり,
/mが0.1から0.9の範囲であり,
/pが0.9から0.1の範囲であり;
/R^(1)がα,ω-ビス(4-カルボキシフェノキシ)-(C_(1)-C_(8))アルカン,3,3’-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸もしくは4,4’-(アルカンジオイルジオキシ)二ケイ皮酸,(C_(2)-C_(20))アルキレン,(C_(2)-C_(20))アルケニレンから独立に選択され;
/R^(2)がそれぞれ独立に水素,(C_(1)-C_(12))アルキルもしくは(C_(6)-C_(10))アリールまたは保護基であり;
個々のmモノマーにおける
/R^(3)が水素,(C_(1)-C_(6))アルキル,(C_(2)-C_(6))アルケニル,(C_(2)-C_(6))アルキニル,(C_(6)-C_(10))アリール(C_(1)-C_(6))アルキルからなる群より独立に選択され;かつ
/R^(4)が(C_(2)-C_(20))アルキレン,(C_(2)-C_(20))アルケニレン,(C_(2)-C_(8))アルキルオキシ,(C_(2)-C_(20))アルキレン,下記構造式(II)の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの二環式断片,およびその組み合わせからなる群より独立に選択される。」
<引用発明の式中の記号の定義>
「mは,約0.1?約0.9であり;
/pは,約0.9?約0.1であり;
/nは,約50?約150であり;
/各々のR^(1)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンであり;
/各々のR^(2)は,独立して,水素,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;
/各々のR^(3)は,独立して,水素,(C_(1)?C_(6))アルキル,(C_(2)?C_(6))アルケニル,(C_(2)?C_(6))アルキニル,または(C_(6)?C_(10))アリール(C_(1)?C_(6))アルキルであり;そして
各々のR^(4)は,独立して,(C_(2)?C_(20))アルキレンである,ポリマー。」(摘示(A-1))
ウ さらに加えて,刊行物Aの【0211】の実施例1(摘示(A-9))において製造されている『Co-PEA』は,「ベンジル基」がカルボキシル基の「保護基」に相当することを前提として,本願発明の式(III)のポリマーに対応するものである。
エ したがって,本願発明に係る式(III)ポリマーは引用発明に係る式(VII)のポリマーに相当する。
(2)ポリマーが「生分解性」であるか否かについて
引用発明で使用されるポリマーについては生分解性である旨明記はされていないものの,刊行物Aの,例えば【0007】には,
「本発明は,α-アミノ酸に基づくポリマーを提供する。従来のポリ(α-アミノ酸)と対照的に,本発明のポリマー・・・は,有利な物理特性,化学特性,および生分解性を有する。本発明のポリマーは,例えば,変動する条件下で,適切な生分解(減量%)性を有する(表IIIを参照のこと)。」(摘示(A-2))
と記載されており,かかる記載に加えてここで引用されている「表III」(摘示(A-11)【0259】の【表4】)の記載をも参酌すると「生分解性」を有しているといえる。
したがって,引用発明に係るポリマーも「生分解性ポリマー」といえる。
(3)本願発明の「生物活性薬剤」と引用発明の「薬物」について
通常「薬物」といえば,何らかの生物活性を有しているものであることは技術常識であるし,また,例えば,刊行物Aの【0118】には,
「式(VII)の化合物の任意の合成可能な原子または官能基(例えば,ポリマー骨格またはペンダント基上)は,空いた原子価を提供するために除去され得,生物活性は,この基が薬物の残基に結合される場合,実質的に保持される。」(摘示(A-5))
といった記載がなされていることから,引用発明における「薬物」は,本願発明の「生物活性薬剤」に相当するといえる。
(4)引用発明の「処方物」が,本願発明における「生物活性薬剤…が生分解性ポリマー中に分散されている…送達組成物」といえるか否かについて
ア 本願発明における「分散されている」に関して,本願明細書【0029】には,以下の記載がある。
「本明細書において用いられる「分散(された)」なる用語は,追加の生物活性薬剤について言及する際に用い,追加の生物活性薬剤がポリマー中に分散,混合,溶解,ホモジナイズ,および/または共有結合されている(「分散されている」),例えば,組成物の治療的ポリマーの官能基またはポリマー粒子の表面に結合しているが,PEA,PEUR,またはPEUポリマーの主鎖に組み込まれていないことを意味する。」
引用発明に係る「処方物」については,刊行物Aの【0197】に,次の記載がある。
「本明細書中で使用する場合,「処方物」とは,1つ以上の薬物と混合された本発明のポリマーをいう。この処方物は,ポリマーの表面上に存在するか,ポリマーに部分的に包埋されているか,またはポリマーに完全に包埋された,1つ以上の薬物を有する本発明のポリマーを含む。さらに,この処方物は,本発明のポリマーおよび均一な組成物(すなわち,均一な処方物)を形成する薬物を含む。」(摘示(A-7))
両記載を比較すると,両者はともに薬剤がポリマーの表面上やポリマー中に均一に存在するような状態となっている点で共通するものであるので,引用発明についても,本願発明でいう「薬剤がポリマー中に分散されている組成物」に該当するといえる。
イ また,例えば,刊行物Aの【0045】に,
「本発明のコポリエステルアミドおよびコポリエステルウレタンの生分解によって,必須α-アミノ酸を標的部位に(例えば,損傷した組織の創傷の修復を容易にするために)送達し得る。」(摘示(A-4))
という記載があり,ここでいう「コポリエステルアミド」は,引用発明に係るポリマーに対応するものであることから,引用発明の処方物も送達のために使用されるものといえる。
ウ 以上のことから,引用発明の「処方物」は,本願発明でいう「生物活性薬剤…が生分解性ポリマー中に分散されている…送達組成物」に相当するものというべきものである。
(5)本願発明の「治療有効量」について
刊行物Aの【0175】には,
「ポリマー/薬物結合は,適切かつ有効な量の薬物を提供するように,分解し得る。任意の適切かつ有効な量の薬物が,放出され,そして代表的には,選択された特定のポリマー,薬物およびポリマー/薬物結合に依存する。」(摘示(A-6))
と記載され,引用発明の薬物も,有効量が提供・放出されるような量で使用されることが明らかであるから,「治療有効量」で使用されるものといえる。
(6)まとめ
以上(1)?(5)から,引用発明と本願発明の一致点・相違点を,本願発明の表現に即して記載する(ポリマーの詳細な構造については省略する)と,以下のとおりとなる。
[一致点]
「少なくとも一つの生物活性薬剤の治療的有効量が生分解性ポリマー中に分散されているポリマー送達組成物であって,ポリマーが,構造式(III)で記載される化学式を有するPEAポリマーである,組成物。」
[相違点]
ポリマー送達組成物が,本願発明が「ポリマー粒子送達組成物」と特定されているのに対し,引用発明では剤型や形状等については特には特定されていない点。

第4 判断
上記相違点について検討する。
引用発明は,生分解性ポリマーについて,その表面上に薬物を結合させたり,薬物と均一の組成物とするものである。
ところで,このような生分解性ポリマーをマトリックス成分やキャリア成分とする薬剤組成物を利用するに際しては,例えば,刊行物Aの【0199】においてフィルムやコーティングの剤型とされることが明示的に記載されている(摘示(A-7))が,このような剤型に止まらず,粒子或いは微粒子といった剤型で利用されることも,ごく一般的に行われているものである。
※この点に関して,以下の参考文献1?3参照
●参考文献1:特開平10-204169号公報
「【0008】作用物質包埋用の生分解可能な担体ポリマーは,既に1973年に米国特許第3773919号明細書に記載されていた。ここでは,ヒドロキシカルボン酸,殊に乳酸及び/又はグリコール酸からのポリマーが提案されていた。乳酸及び/又はグリコール酸からのポリマーは,体内で加水分解されて,乳酸及び/又はグリコール酸にされ,これらは更に代謝されてCO_(2)及び水にされ,従って,殊に非経腸的遅延形の製造のために好適である。
【0009】マイクロ粒子の形の作用物質包埋物は,この方法で,溶剤蒸発,相分離 又はスプレー乾燥により得ることができる。製造されたマイクロ粒子は,規則的に成形され,狭い粒径分布を有すべきである。こうして,単一な放出表面を達成することができ,その小さい直径を有する注射針からの適用可能性が確立できる。」
●参考文献2:特開平8-3055号公報
「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の問題点を解決するため鋭意研究をおこなったところ,生体内に投与後の消失が約1?3週間程度の生体内分解性ポリマーで予め微粒子状の生体内分解性マトリックスを製造し,該生体内分解性マトリックスに水溶性ポリペプチドを水中で浸透させて得られる製剤を生体内に投与することにより,水溶性ポリペプチドの血液中濃度を約1?2週間持続させることが可能になることを見いだし,これに基づいてさらに研究した結果本発明を完成した。」
●参考文献3:特表平9-505308号公報の第7頁「1.発明の分野」
「1.発明の分野
本発明は,微粒子の製造に関する。本発明はとりわけ,スタティックミキサーの使用により,活性剤を封入して調節的放出性微粒子を形成する方法に関する。本発明は,活性剤を封入して調節的放出性微粒子を形成する方法において有用な溶媒系にも関する。「微粒子」または「小球」とは,該粒子のマトリックスとして機能する生分解性ポリマー中に分散または溶解した活性剤を含有する固体粒子を意味する。」
そうすると,引用発明に触れた当業者ならば,引用発明に係る処方物を粒子状の剤型で使用することを当然に想起するものといえる。
さらに付言するならば,刊行物Aの【0202】における
「任意の適切なサイズのポリマーおよび薬物は,処方物を提供するために使用され得る。例えば,ポリマーは,約1×10^(-4)メートル未満,約1×10^(-5)メートル未満,約1×10^(-6)メートル未満,約1×10^(-7)メートル未満,約1×10^(-8)メートル未満,または約1×10^(-9)メートル未満のサイズを有し得る。」(摘示(A-8))
との記載は,「サイズ」といった表現や単位から見て,ポリマーの粒径に言及したものと解さざるを得ないものであり(該刊行物Aには,他に引用発明に係るポリマーを粒子の形態で使用することについて記載がないとしても),この記載は引用発明に係るポリマーを粒子の形態で使用することを前提としたものと解するより他はないといわざるを得ないので,この点からも引用発明に係るポリマーを粒子の形態として使用し,牽いては処方物の剤型を粒子とすることが示唆されているともいえる。
これに対して,本願発明において,特に送達組成物の剤型を粒子とすることによって,当業者が予期し得ない格別の効果が奏されたものとすることができない。
すなわち,例えば,「生体内で持続放出する」といった効果については,刊行物Aにおいても,【0176】に
「このポリマー/薬物結合は,ある期間にわたって分解して,適切かつ有効な量の薬物を提供し得る。任意の適切かつ有効な期間が,選択され得る。」(摘示(A-6))
と記載され,また,【0204】においても,
「処方物は,ある期間にわたって分解して,適切かつ有効な量の薬物を提供し得る。任意の適切かつ有効な期間が,選択され得る。」(摘示(A-8))
と記載されているのみならず,このような持続放出は,生分解性ポリマーをマトリックス成分やキャリア成分として使用する際の一般的な効果として知られていること(例えば,上記参考文献1?3参照)からも,当業者にとって格別予想外の効果であるとすることができない。
したがって,引用発明の処方物を粒子の剤型とすることは当業者が容易に想到することとせざるを得ない。

5.むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物Aに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-05 
結審通知日 2015-06-09 
審決日 2015-06-23 
出願番号 特願2007-556163(P2007-556163)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 樹理  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 冨永 保
松浦 新司
発明の名称 ポリマー粒子送達組成物および使用法  
代理人 野田 雅一  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 成人  
代理人 池田 正人  
代理人 清水 義憲  
代理人 山口 和弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ