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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1307319
審判番号 不服2014-4374  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-05 
確定日 2015-11-04 
事件の表示 特願2012- 15115「無線通信ネットワークにおけるアクセスチャネルでの出力送信電力を決定するための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 7月12日出願公開、特開2012-134995〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年12月15日(パリ条約による優先権主張2005年12月23日、米国)に出願した特願2008-547698号の一部を平成24年1月27日に新たに特許出願としたものであって、平成24年2月24日に手続補正書が提出され、平成25年3月6日付けで拒絶理由が通知され、平成25年6月11日付けで意見書・手続補正書が提出されたものの、平成25年10月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年3月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2.本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成25年6月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?28に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。なお、下線は出願人が付加した。

「【請求項1】
通信ネットワークにアクセスするための無線装置による前のアクセス試行についての履歴情報を前記無線装置において格納するように構成されているメモリと、ここにおいて、前記前のアクセス試行に関する前記履歴情報は、前記無線装置によって決定され、前記無線装置による前のアクセス試行のために前記通信ネットワークによって送信される測定に基づかない、
前記メモリに結合されており、前記前のアクセス試行についての前記履歴情報に基づいて電力値を決定し、前記通信ネットワークにアクセスするための現在のアクセス試行のために、前記電力値をアクセスチャネルでの前記無線装置による送信に使用するように構成されているプロセッサとを備え、
ここにおいて、少なくとも1つのアクセス試行は、肯定応答が受信されるまで、または予め決められた最大数のアクセスプローブが送信されるまで1度に1つ送信される複数のアクセスプローブを備える、装置。」

第3.引用発明
原査定の拒絶の理由で引用された特開平7-250377号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに下記の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、送信したメッセージに対して基地局からの応答メッセージを受信するまで、そのメッセージを繰り返し送信する方式の無線通信装置に関する。」

「【0011】
【実施例】以下この発明を図面に基づいて説明する。図1は本発明の構成を示す図で、携帯電話などの無線通信装置の端末1は、基地局に向けてメッセージを送信する送信器2と、送信器2から送信したメッセージに対する基地局(図示せず)からの応答メッセージを受信する受信器3と、その応答メッセージを解析し、且つ先に送信したメッセージに対する応答であるか否かを判断する応答メッセージ解析部5と、送信されるメッセージが格納される送信メッセージバッファ6と、送信メッセージバッファ6に格納されたメッセージの送信動作を制御する送信回数制御部4と、前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値を記憶する送信電力範囲記憶部7とを備えている。
【0012】このような構成を有する無線通信装置において、送信回数制御部4には、端末1に固有な、或いは基地局から与えられた送信電力範囲が予め保存されている。この送信回数制御部4は、端末1の送信動作時、送信メッセージバッファ6からのメッセージを受け取り、そのメッセージ本文及びその送信のための送信電力を送信器2に引き渡す。その際、前記あらかじめ保存されている送信電力範囲の最低値を送信電力に用いる、送信回数制御部4は、応答メッセージ解析部5からの指示があるまで同メッセージ、および引き渡す毎にその送信電力範囲内で増加された送信電力を、繰り返し送信器2に引き渡す。送信器2は前記メッセージおよびその送信電力が送信回数制御部4より引き渡された際、そのメッセージを送信電力として与えられた電力により送信する。
【0013】一方、基地局(図示せず)では、送信器2から送られたメッセージを応答メッセージとして送り返すが、これを端末1の受信器3で受信し、それが応答メッセージ解析部5により送信メッセージに対する応答メッセージであると判断した場合、応答メッセージ解析部5は送信メッセージの送信終了を送信回数制御部4に指示する、送信回数制御部4は応答メッセージ解析部5からの指示を受け、その送信メッセージの送信器2への引き渡しを終了して、その回の送信を終了する。さらに前記送信回数制御部4は、前記送信メッセージの最終送信電力値を送信電力範囲記憶部7に転送する。送信電力範囲記憶部7は、あらかじめ保存されている送信電力範囲の電力幅の、例えば2分の1のような幅を持ち、与えられた最終送信電力値を中心とする電力範囲のうち、あらかじめ保存されている送信電力範囲の外の領域を削除した、送信電力範囲を新たに設定し、それを次回の送信メッセージの送信電力範囲として記憶する。送信回数制御部4は次のメッセージ送信時、あらかじめ保存されている送信電力範囲の代わりに新たに設定された送信電力範囲を用いて、上記の送信手順を実行する。なお、あらかじめ保存されている送信電力範囲は、前記送信電力範囲の再設定によって消去されることなく送信電力範囲記憶部7に常駐し、例えば基地局からの応答メッセージが受信できなかった場合、それを次回メッセージ送信時に再度用いることができる。
【0014】次に図1と、図2のメッセージ送信電力を示す図を参照しながら、上記各要素の作動を説明する。図2は図4と同様に横軸は時間を示し縦軸は送信電力を示す。図4において、符号22は、送信回数制御部4に保存された端末1の送信電力範囲を示し、前記「あらかじめ保存されている送信電力範囲」に相当する。第1メッセージ8を送信する場合においては、その送信電力は、前記送信電力範囲22の中で、まず初期送信電力11で送信し基地局からの応答を待つ。基地局からの応答は受信器3で受信するが、応答が得られなければ、次には符号12で示すように段階的に送信電力を増加せしめる。そして符号13で示す電力値になったときに、応答メッセージ解析部5が、さきに送信した送信メッセージに対する基地局からの応答であると判断し、送信が終了することになる。その送信終了の際の送信電力13は、先に述べたように、送信回数制御部4によって送信電力範囲記憶部7に転送され、送信電力範囲記憶部7は、あらかじめ保存されている送信電力範囲の電力幅の、例えば2分の1のような幅を決めて、最終送信電力値13を中心とする電力範囲のうち、あらかじめ保存されている送信電力範囲の外の領域を削除した、送信電力範囲(図2中符号20)を新たに設定し、それを次回の送信メッセージの送信電力範囲として記憶する。
【0015】第2メッセージ9を送信する場合、送信回数制御部4は、あらかじめ保存されている送信電力範囲の代わりに新たに設定された送信電力範囲20を用い、まずこの送信電力範囲20の最小値の当たる初期送信電力14で送信し、次に符号15で示すように段階的に送信電力を増加せしめ、符号16で示す電力値になったときに、応答メッセージ解析部5が基地局からの応答であると判断して送信が終了する。この場合も、先の第1メッセージ8の送信のときと同様に、送信終了の際の送信電力16は送信回数制御部4によって送信電力範囲記憶部7に転送され、送信電力範囲記憶部7は、最終送信電力値16を中心とする電力範囲のうち、あらかじめ保存されている送信電力範囲の外の領域を削除した、送信電力範囲(図2中符号21)を新たに設定し、それを次回の送信メッセージの送信電力範囲として記憶する。
【0016】第3メッセージ10を送信する場合、送信回数制御部4は、先の第2メッセージ9の送信終了時に再設定された送信電力範囲21を用い、まずこの送信電力範囲21の最小値の当たる初期送信電力17で送信し、次に符号18で示すように段階的に送信電力を増加せしめる。ところが、この第3メッセージ10の送信に当たっては基地局からの応答メッセージがなく、送信終了時の送信電力がそのメッセージの送信電力範囲21の上限値まで達していることを示す。」

【図1】には、端末1内において、送信回数制御部4は送信電力範囲記憶部7と双方向の矢印で結合されていることが記載されている。

ここで、上記記載について検討する。
【0011】段落には、無線通信装置の端末1は、基地局に向けて送るメッセージの送信動作を制御する送信回数制御部4と、前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値を記憶する送信電力範囲記憶部7とを備えることが記載されている。
【0013】段落には、基地局は送られたメッセージを応答メッセージとして送り返し、端末1の応答メッセージ解析部5が、該応答メッセージが、送信メッセージに対する応答メッセージであると判断した場合、応答メッセージ解析部5は送信メッセージの送信終了を送信回数制限部4に指示することが記載されている。
【0014】段落には、第1メッセージ8の送信終了の際の送信電力13は、送信回数制御部4によって送信電力範囲記憶部7に転送され、送信電力範囲記憶部7は、あらかじめ保存されている送信電力範囲の電力幅の、例えば2分の1のような幅を決めて、最終送信電力値13を中心とする電力範囲のうち、あらかじめ保存されている送信電力範囲の外の領域を削除した、送信電力範囲を新たに設定し、それを次回の送信メッセージの送信電力範囲として記憶することが記載されている。
【0015】段落には、第2メッセージ9を送信する場合、送信回数制御部4は、新たに設定された送信電力範囲20を用い、まずこの送信電力範囲20の最小値の当たる初期送信電力14で送信し、次に符号15で示すように段階的に送信電力を増加せしめ、符号16で示す電力値になったときに、応答メッセージ解析部5が基地局からの応答であると判断して送信が終了することが記載されている。
【0016】段落には、第3メッセージ10を送信する場合、送信回数制御部4は、再設定された送信電力範囲21を用い、まずこの送信電力範囲21の最小値の当たる初期送信電力17で送信し、次に符号18で示すように段階的に送信電力を増加せしめ、基地局からの応答メッセージがないため、メッセージの送信電力範囲21の上限値までの送信電力で送信して送信終了することが記載されている。
【図1】には、送信回数制御部4は送信電力範囲記憶部7と結合されていることが記載されている。

以上の記載から、引用例1には以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。

「無線通信装置の端末1は、基地局に向けて送るメッセージの送信動作を制御する送信回数制御部4と、前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値を記憶する送信電力範囲記憶部7とを備え、
基地局は送られたメッセージを応答メッセージとして送り返し、端末1の応答メッセージ解析部5が、該応答メッセージが、送信メッセージに対する応答メッセージであると判断した場合、応答メッセージ解析部5は送信メッセージの送信終了を送信回数制限部4に指示し、
第1メッセージ8の送信終了の際の送信電力13は、送信回数制御部4によって送信電力範囲記憶部7に転送され、送信電力範囲記憶部7は、あらかじめ保存されている送信電力範囲の電力幅の、例えば2分の1のような幅を決めて、最終送信電力値13を中心とする電力範囲のうち、あらかじめ保存されている送信電力範囲の外の領域を削除した、送信電力範囲を新たに設定し、それを次回の送信メッセージの送信電力範囲として記憶し、
第2メッセージ9を送信する場合、送信回数制御部4は、新たに設定された送信電力範囲20を用い、まずこの送信電力範囲20の最小値の当たる初期送信電力14で送信し、次に符号15で示すように段階的に送信電力を増加せしめ、符号16で示す電力値になったときに、応答メッセージ解析部5が基地局からの応答であると判断して送信が終了し、
第3メッセージ10を送信する場合、送信回数制御部4は、再設定された送信電力範囲21を用い、まずこの送信電力範囲21の最小値の当たる初期送信電力17で送信し、次に符号18で示すように段階的に送信電力を増加せしめ、基地局からの応答メッセージがないため、メッセージの送信電力範囲21の上限値までの送信電力で送信して送信終了し、
送信回数制御部4は送信電力範囲記憶部7と結合されている無線通信装置の端末1。」

第4.対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。

引用例1発明は、無線通信装置の端末1は基地局とメッセージをやりとりするものであり、基地局とは通信ネットワークを構成する一要素であるから、引用例1発明の無線通信装置の端末1は、本願発明の「通信ネットワークにアクセスするための無線装置」に対応する。
引用例1発明の「前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値」は、前回のメッセージ送信の時に使用した値であるから、本願発明の「履歴情報」に対応し、また、「メッセージ送信」とはネットワークへのアクセスを行う行為であるから、引用例1発明の「前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値」は、本願発明の「前のアクセスについての履歴情報」に対応するといいえる。
引用例1発明の「送信電力範囲記憶部7」は、前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値を記憶するものであるから、本願発明の「履歴情報を無線装置において格納するように構成されているメモリ」に対応する。
引用例1発明は、「送信回数制御部4は、新たに設定された送信電力範囲20を用い、まずこの送信電力範囲20の最小値の当たる初期送信電力14で送信し、次に符号15で示すように段階的に送信電力を増加」するものであり、送信電力範囲20は、「前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値」に基づいて決められるものであるから、引用例1発明の「送信電力範囲20の最小値の初期送信電力14」や、「段階的に」増加される「送信電力」は、本願発明の「前のアクセスについての履歴情報に基づいて」決定される「電力値」に対応する。また、引用例1発明の「送信電力範囲20の最小値の初期送信電力14」や、「段階的に」増加される「送信電力」は、新たな(現在の)無線装置によるメッセージの送信に使用されるものであるから、本願発明の「現在のアクセス」のために「無線装置による送信に使用」される「電力値」に対応する。
引用例1発明の「送信回数制御部4」は、無線通信装置の端末において、各種制御や演算を行う手段は、実際にはなんらかのプロセッサにより実現されていることが技術常識であることを考慮すれば、本願発明の「プロセッサ」に対応するといえる。
引用例1発明の「送信電力範囲記憶部7と結合されている」「送信回数制御部4」は本願発明の「メモリに結合されている」「プロセッサ」に対応する。

したがって、本願発明と引用例1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「通信ネットワークにアクセスするための無線装置による前のアクセスについての履歴情報を前記無線装置において格納するように構成されているメモリと、
前記メモリに結合されており、現在のアクセスのために、前記前のアクセスについての前記履歴情報に基づいて決定された電力値を前記無線装置による送信に使用するように構成されているプロセッサとを備える、装置。」

<相違点1>
本願発明は、「肯定応答が受信されるまで、または予め決められた最大数のアクセスプローブが送信されるまで1度に1つ送信される複数のアクセスプローブを備える」、ネットワークにアクセスするためのアクセス試行を、アクセスチャネルで行うのに対して、引用例1発明は、送信電力範囲の最小値に当たる電力値から、段階的に送信電力を増加させながら、送信メッセージに対応する応答メッセージを受信するまで、または、送信電力範囲の上限値の送信電力になるまで、メッセージを送信することが記載されているのにとどまり、
メッセージを用いてアクセス試行を行うこと、及び、アクセス試行の終了条件として、肯定応答が受信されるまで、または予め決められた最大数のアクセスプローブが送信されるまで、とすることは、引用例1発明には記載されていない点。

<相違点2>
本願発明は、「前のアクセス試行に関する前記履歴情報は、前記無線装置によって決定され、前記無線装置による前のアクセス試行のために前記通信ネットワークによって送信される測定に基づかない」ものであるのに対して、引用例1発明は、そのようなことは明記していない点。

<相違点3>
本願発明は、プロセッサが「前のアクセス試行についての前記履歴情報に基づいて電力値を決定し」ているのに対して、引用例1発明は送信する電力値である初期送信電力等の情報である「送信電力範囲20」を、メモリに対応する「送信電力範囲記憶部7」が決定している点。

第5.判断
<相違点1について>
メッセージの電力値を段階的に増加させて送信する装置において、該メッセージを用いて、ネットワークにアクセスするためのアクセス試行をアクセスチャネルで行うことは、周知の技術思想である。
(例えば、特表2003-524986号公報(【0006】段落「フィールドユニットからのメッセージがベースステーション(基地局)に於いて検出することの出来る出力レベルで送信される迄フィールドのRFパワーを漸増する方法」、【0007】段落「アクセスチャネル上でアクセス要求メッセージを送信した後、フィールドユニットは、ベースステーションからアクセス要求メッセージが正しく受信されたことを示す確認メッセージのためのページングチャネルをモニタリングする。」、【0008】段落「このプロセスは、ベースステーションがメッセージを正しく受信できる充分な出力レベルでフィールドユニットがメッセージを送信する迄その後反復される。」、【0047】段落「ページングチャネル41上を送信されるメッセージの一つのタイプは、ACK(確認)メッセージ240である。」「ACKメッセージ240は、フィールドユニット14により送信された前のアクセス要求メッセージが正しく受信されたことを示す。」)、
国際公開第2004/039011号([00431]段落、[00437]段落(対応する特表2006-504335号公報【0747】段落「ユーザ端末がシステムへのアクセスを所望するときには、それは関連するシステムパラメータを取得するために最初にBCHを処理する。次にユーザ端末はRACH上でRACH PDUを送信する。このRACH PDUはユーザ端末からのアクセス要求を処理するためにアクセスポイントによって必要とされる情報を含むRACHメッセージを含む。」、【0753】段落「ユーザ端末は、RACH PDUを送信した後に、これのRACH PDUがアクセスポイントにより受信、処理されたかどうかを判断するためにBCH及びFCCHを監視する。ユーザ端末は、BCHメッセージの中のRACH Acknowledgment Bitが設定されているかどうかを判断するためにBCHを監視する。このユーザ端末及び/または他のなんらかのユーザ端末のための肯定応答がFCCHで送信されていることを示すこのビットが設定される場合、ユーザ端末は肯定応答を含むIEタイプ3情報要素を獲得するためにFCCHをさらに処理する。」))を参照。)
したがって、引用例1発明に上記周知の技術思想を適用して、電力値を段階的に増加させて送信するメッセージを用いて、ネットワークにアクセスするためのアクセス試行をアクセスチャネルで行うことを、当業者が容易に想到できる。その際、送信される各メッセージはアクセスを求めるためのものであるから、本願発明のアクセスプローブに対応するといいえる。
また、アクセス試行を終了する際の条件としては、例示した国際公開第2004/039011号([00439]段落、[00443]段落(対応する特表2006-504335号公報【0755】段落「ユーザ端末は、それがRACH PDUを送信した後の指定数のTDDフレーム内にFCCHで肯定応答を受信しない場合に、RACHでアクセス手順を再開する。この場合、ユーザ端末は、アクセスポイントがRACH PDUを正しく受信しなかったと仮定できる。カウンタは、アクセス試行の数をカウントするためにユーザ端末により維持される。このカウンタは第1のアクセス試行のためにゼロに初期化されてよく、それぞれの以後のアクセス試行について1ずつ増分される。ユーザ端末は、カウンタ値が試行の最大数に達するとアクセス手順を終了する。」、【0759】段落「前述されたアクセス手順は、(1)ユーザ端末がアクセスポイントから肯定応答を受信する、あるいは(2)許可されたアクセス試行の最大数に達するかのどちらかまで続行する。」))や、原査定の拒絶査定の備考欄で例示された特開2004-297186号公報(【0058】段落「ACK信号が受信された場合(S218:YES)、受信の結果を上位層に通知して、ステップS220において、データ信号の送信の指示をデータ信号生成部124に出力する。」、【0060】段落「プリアンブル信号がN回送信されている場合(S224:YES)、NACK信号を受信したと判断して(ステップS213)、判断の結果を上位層に通知して、プリアンブル信号の繰り返し送信を停止させる。一方、プリアンブル信号がまだN回送信されていない場合(S224:YES)、ステップS226において、現在のプリアンブル信号の送信電力値P_preに所定の増加送信電力値P_rampを加算する。」)に代表されるように、肯定応答が受信されるまで、または予め決められた最大数送信されるまで、とすることは周知の技術思想であるから、引用例1発明において、電力値を段階的に増加させて送信するメッセージを用いて、アクセス試行を行う際には、「送信メッセージに対応する応答メッセージを受信するまで、または、送信電力範囲の上限値の送信電力になるまで」の代わりに、「肯定応答が受信されるまで、または予め決められた最大数のアクセスプローブが送信されるまで」とすることは、当業者が容易に想到できるといえる。

<相違点2について>
「第4.対比」で検討したように、引用例1発明の「前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値」が、本願発明の「履歴情報」に対応するものである。
「前回のメッセージ送信時における送信終了の際の送信電力の電力値」は、端末1の送信回数制御部4が、送信電力範囲に基づいて初期送信電力から段階的に増加した送信電力のうち、送信終了した時の電力値であるから、端末1によって決定されたものであり、通信ネットワークによって送信される測定には基づかないものである。
したがって、「前のアクセス試行に関する前記履歴情報は、前記無線装置によって決定され、前記無線装置による前のアクセス試行のために前記通信ネットワークによって送信される測定に基づかない」という事項は、引用例1発明には明記されていないものの、記載されているに等しい事項にすぎない。

<相違点3について>
一般に、装置において、メモリで各種情報を記憶し、プロセッサで各種制御、演算を行うことは周知の技術思想であるから、
引用例1発明において、メモリに対応する送信電力範囲記憶部7で行っている、送信終了の際の送信電力から送信電力範囲を決定することを、プロセッサに対応する送信回数制御部4で行う構成にすることは、当業者が容易に想到できる。

以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成は、容易に想到できるといえ、本願発明の効果も、引用例1発明から当業者が容易に予測し得るものであり、格別顕著なものがあるとは認められない。
したがって、本願発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。


よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-05-27 
結審通知日 2015-06-02 
審決日 2015-06-19 
出願番号 特願2012-15115(P2012-15115)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松野 吉宏  
特許庁審判長 佐藤 聡史
特許庁審判官 近藤 聡
▲広▼島 明芳
発明の名称 無線通信ネットワークにおけるアクセスチャネルでの出力送信電力を決定するための方法および装置  
代理人 福原 淑弘  
代理人 峰 隆司  
代理人 河野 直樹  
代理人 砂川 克  
代理人 井上 正  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 堀内 美保子  
代理人 佐藤 立志  
代理人 野河 信久  
代理人 井関 守三  

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