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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1307353
審判番号 不服2013-10709  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-07 
確定日 2015-11-05 
事件の表示 特願2007-556393「薬剤の経口による生物学的利用能を向上させる方法及びより毒性の少ないオロチン酸塩組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年8月31日国際公開、WO2006/091575、平成20年8月14日国内公表、特表2008-531501〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年2月21日(パリ条約による優先権主張 2005年2月22日、米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、原審における拒絶査定に対して、平成25年6月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において、平成26年3月6日付けで前置報告書を用いた審尋がなされ、平成26年9月2日付けで回答書が提出され、平成26年11月14日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成27年5月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
オロチン酸と反応することができるイオン化中心を有する水不溶性医薬化合物をオロチン酸塩に変換する段階と、該オロチン酸塩を非ヒト哺乳類へ経口投与して該医薬化合物の吸収及び生物学的利用能を増加させる段階とにより、該医薬化合物の吸収及び生物学的利用能を増加させる方法であって、
該医薬化合物が、シクロホスファミド、エピルビシン、フェニルピペリジン、タモキシフェン及びビンブラスチンからなる群から選択される、方法。」

第3 当審の拒絶理由
当審において平成26年11月14日付けで通知した拒絶の理由は、次の理由を含むものである。

「3 本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記(3)の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(下記(3)省略)」

第4 当審の判断
1 本願明細書の発明の詳細な説明の記載
(a)「【0001】
本発明は、一般的に消化管により吸収されにくい医薬品の経口による生物学的利用能を向上させる方法に関する。また、本発明は、上記医薬品の経口投与により患者の治療を向上させる方法に関する。特に、本発明は吸収されにくい医薬品に関し、該医薬品をオロチン酸塩に変換し、該医薬品の経口による生物学的利用能を高めるものである。・・・」
(b)「【0008】
・・・カルボキシアミドトリアゾール(CAI)は臨床開発では新規腫瘍剤で、経口による生物学的利用能が限られている(・・・)。・・・
・・・
【0010】
・・・特に、CAIのオロチン酸塩はCAIと比べて、前立腺癌用ダニングラットモデルにおいて抗腫瘍効果に改善が得られた。オロチン酸CAIによる抗腫瘍活性の促進作用のメカニズムについては述べられてないが、肝臓における環状ヌクレオチド活性の変化が関与しているのではないかと示唆されている。」
(c)「【0012】
本発明はCAIを含む医薬品オロチン酸塩の、経口による生物学的利用能に関する新たな効果について記述する。我々は、今回、驚くべきことに、医薬品オロチン酸塩、例えばオロチン酸CAIの経口投与により、荷電CAIの生物学的利用能が、CAIの化学等量の直接投与と比べて増大することを発見した。オロチン酸CAIはよりよい吸収プロファイルを持ち、これは恐らく嘔吐等の副作用がCAIと比べて少なくなっていることと関連すると思われる。これらの作用は他の使用されている医薬品のオロチン酸塩にも当てはまると予想される。」
(d)「【0021】
本発明は、イオン中心を有する不水溶性薬剤オロチン酸塩の合成を目的とし、薬剤の経口による生物学的利用能及び効率を向上させ、薬剤に関連する毒性及び副作用を軽減させる。該化合物又は薬剤には、アセトアニリド、・・・シクロホスファミド、・・・エピルビシン、・・・フェニルピペリジン、・・・タモキシフェン、・・・ビンブラスチン又はビンカアルカロイドの類が挙げられるが、これらに限定されるものではない。」
(e)「【0025】
本明細書において『薬剤の生物学的利用能』とは、時間が経過することにより、全身で利用可能となる薬剤量を意味する。本発明は医薬品の薬剤生物学的利用能を、医薬品をオロチン酸塩に変換することにより向上させる。これは薬剤の親水性及び親油性特性を変質させることで達成される。・・・いずれの場合も、薬剤生物学的利用能を向上させた組成物は医薬品のオロチン酸塩である。原因は直ちに明らかではないが、不水溶性薬剤をオロチン酸塩に変換することにより、経口投与される医薬品の生物学的利用能を向上させる方法が発見され、哺乳類に対し治療に必要な十分量の医薬品の経口投与が可能となった。全身における薬剤濃度は、オロチン酸を時間軸で積分することで求められるが、その濃度は、オロチン酸塩に変換されない薬剤よりも高い。」
(f)「【0040】
(生物学的利用能が低い要因)
薬剤が速やかに溶解し小腸膜を容易に通過する場合、薬剤は完全に吸収される傾向にあるが、経口投与される薬剤は常に完全に吸収されない。・・・多くの薬剤は、初回通過代謝が高いため低経口による生物学的利用能を有する。
【0041】
低生物学的利用能の場合、薬剤の経口剤形が共通しており、該薬剤は水にあまり溶解せず、ゆっくり吸収される。吸収がゆっくりである場合あるいは不完全である場合、吸収が速くかつ完全である場合に比べ、より多くの要因が薬剤の生物学的利用能に影響を与える。・・・
【0042】
消化管での吸収時間が不十分なことが、低生物学的利用能の共通の要因である。・・・薬剤が速やかに吸収されない、又は上皮膜を通過できない場合(高イオン化した場合又は極性の場合)は、吸収部位での吸収時間が不十分になることがある。そのような場合、生物学的利用能は変わりやすく、低くなる傾向にある。年齢、性別、活動性、遺伝的表現型、ストレス、疾病又は胃腸管手術歴が薬剤の生物学的利用能に影響を及ぼす。
【0043】
吸収と競合する反応は生物学的利用能を低下させる可能性がある。この反応には、複合体形成、胃酸又は消化酵素による加水分解、胃壁内での抱合、他の薬剤吸収、並びに管腔微生物叢が含まれる。」
(g)「【0047】
(薬剤をオロチン酸塩に変換し、薬剤の効果を促進させ副作用を減少させる方法)
本発明は、薬剤をオロチン酸塩に変換させることで、消化管から十分に吸収されない薬剤の経口による生物学的利用能を向上させる方法について述べている。本発明は、CAIを直接与える場合と比べて、オロチン酸CAIの腫瘍増殖抑制効果が向上している点についても述べている。・・・」
(h)「【実施例】
【0052】
(例1 オロチン酸CAIの化学合成)
図3はオロチン酸CAIの式を示す。オロチン酸塩は米国特許5,861,406号記載の方法により調製され、反応液である水/メタノール(1:4体積)はN,N‐ジメチルアセトアミドに置換して行った。CAI2グラム及びオロチン酸0.87グラムがN,N‐ジメチルアセトアミドに添加され、15分間沸騰させ、得られた溶液を濾過した。冷却、乾燥により白色沈殿物が形成された。CAIの分子量は425であり、オロチン酸CAIの分子量は581である。
【0053】
(例2 オロチン酸CAIの経口による吸収及び生物学的利用能評価の薬物動態測定法)
雄性Sprague‐Dawley系ラットを一晩絶食させ、体重に対し100mg/kgCAI及び137mg/kgオロチン酸CAIを経口栄養で投与した。血液サンプルは、EDTAが含まれる試験管に、30分、1時間、2時間、4時間、16時間及び48時間の各間隔で採集した。血漿を単離し、CAIの解析を行なった。PKデータ解析はソフト(・・・)を用い解析した。
【0054】
データは図4に示す。該研究の目的は、CAI及びオロチン酸CAIの薬物動態の比較である。CAIは、以前に報告された半減期約19時間及びT_(max)約16時間を示したPKプロファイルと類似したPKプロファイルを示した。
【0055】
CAI塩は約18時間の血漿半減期を有する。T_(max)は両化合物共に同様であったが(16時間)、C_(max)はオロチン酸CAIがCAIの2倍近くあった。CAIよりもオロチン酸CAIを投与した場合において、高い血漿濃度が早く示された。曲線下面積(AUC)はオロチン酸CAIでより大きい。これらのデータによりオロチン酸CAIは消化管をCAIより早く通過することが示唆される。
【0056】
(例3 オロチン酸塩への変換による薬剤の治療効果の増大)
実験の目的は、LOX IMVIヒト黒色種異種移植片に対するCAI及びオロチン酸CAIの抗腫瘍効果の評価である。該移植片は雌性胸腺欠損NCr‐nuマウスに皮下移植されたものである。
【0057】
図5はその結果を示す。得られた結果によると、LOX IMVIヒト黒色腫異種移植片は、シクロホスファミドへの感受性が高いことを示した。シクロホスファミドは対照薬であり、CAIとオロチン酸CAIの比較に用いられた。得られた結果から、オロチン酸CAIの経口投与として、1日1回14日間、205mg/kg/回投与すると、CAI治療群と比べ、移植したLOX IMVIヒト黒色種異種移植片の増殖を顕著に(p‐0.0487)抑制することがわかった。
【0058】
(例4 オロチン酸塩の変換による薬剤副作用の軽減)
CAI及びオロチン酸CAIについて、フェレットを用い、シスプラチンにより誘起される嘔吐と比較し評価した。フェレットは非常に嘔吐を引き起こす薬剤に対し、感受性が高い。シスプラチン/ドキソルビシン及びシクロホスファミド等の細胞毒性薬による催吐作用はフェレットにおいて評価可能である。CAI、オロチン酸CAI及びシスプラチンのフェレットにおける催吐作用の研究は、参考文献記載の方法(・・・)によるものである。得られた結果では、CAIもオロチン酸CAIどちらも、イヌにおいてCAI投与時に見られた急性毒性作用は示さなかった。フェレットは、CAI250mg/kg又はPO343mg/kg投与に対して耐性を示し、5時間の観測の間で明らかな作用として、軽度の悪心のみ提示された。オロチン酸CAIは、CAIに比べ催吐作用及び嘔吐を生じさせる可能性が少ないようである。」
(i)「【0059】
(例5 一般例)
多くの薬剤は非常に低い水溶性を有する。これは主に高親油性によるものであるが、イオン中心に欠くからでもある。これらの薬剤は、不規則的に及び不完全に吸収される。これは経口投与後消化器官によって吸収されないためで、例えば、ケトコナゾール、フェニトイン及びトリアムテレンが挙げられる。低吸収性は、患者間の薬剤吸収の差異及び体内の薬剤吸収の差異によるものである。従って、主な問題は薬剤設計にある。一方、そのような薬剤でも、イオン中心を有していれば、塩形成により溶解度の向上は可能である。
【0060】
例えば、図6は現在使用されている主要化合物のうち幾つかを示し、これら化合物はオロチン酸塩に変換され、経口による生物学的利用能を向上させるのに適している。これら化合物はドキソルビシン及びメトトレキサートを含むが、限定されるものではない。」
(j)「【図面の簡単な説明】
【0063】
・・・
【図3】カルボキシアミドトリアゾール又は1,2,3‐トリアゾールとオロチン酸の式を示す。オロチン酸は有機酸であり、CAIにおけるアミノ基の荷電部位に結合している。
・・・
【図6】荷電中心を有し、オロチン酸塩形成及び該化合物の経口による生物学的利用能の向上に適した主な化合物を示す。」
(図6には、テトラヒドロ葉酸、メトトリキサート、アミノプテリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン及びダルビシンが記載されている。)

2 特許法第36条第6項第1号についての判断
本願発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるという規定に適合するか否かは、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるか否か、あるいはその記載や示唆がなくても当業者が出願時の技術常識に照らしてその発明の課題を解決できると認識できるといえるか否かで判断される。
そこで、これらの点を考慮して以下に検討する。

(1)本願発明の解決しようとする課題
本願発明の解決しようとする課題は、消化管により吸収されにくい医薬化合物をオロチン酸塩に変換することによって、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることと認められる(上記(a))。
ここで、本願明細書にも記載されているとおり、経口投与による吸収及び生物学的利用能が低い要因には、初回通過代謝の影響、薬剤の水溶性、イオン化などの形態、及びそれらによるゆっくりとした又は不完全な吸収、あるいは胃酸や消化酵素による加水分解、さらには年齢、性別の違いなど様々な要因が知られている(上記(f))。
そして、本願発明は、「オロチン酸と反応することができるイオン化中心を有する水不溶性医薬化合物」との特定はあるものの、「該医薬化合物が、シクロホスファミド、エピルビシン、フェニルピペリジン、タモキシフェン及びビンブラスチンからなる群から選択される」と特定されていることから、これら5つの医薬化合物をオロチン酸塩とすることで、上記様々な要因によらず、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることを目的としているものといえる。
しかしながら、本願発明の5つの医薬化合物は、フェニルピペリジンを除いて、いずれも抗癌剤として公知の医薬化合物であるが(フェニルピペリジンはこの化合物自体で医薬化合物として公知ではなく、この骨格を有するものとして鎮痛剤などが知られている)、それらの構造は大きく異なるものである。医薬化合物を様々な目的で塩とすることは、本出願の優先日前から当業者に周知の事項であるが、本願発明の5つの医薬化合物が、オロチン酸と反応することができるイオン化中心を有する水不溶性医薬化合物であるとして、オロチン酸塩とすることで、医薬化合物の経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加できることが当業者に自明な事項であったとはいえない。
そこで、本願明細書に、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されているか検討する。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載に関する検討
ア 実施例の記載
(ア)例1にオロチン酸CAI(カルボキシアミドトリアゾール)の製造方法、例2にCAI及びオロチン酸CAIの経口投与による吸収及び生物学的利用能の評価、例3にCAI及びオロチン酸CAIの経口投与による抗腫瘍効果の評価、例4にCAI及びオロチン酸CAIの経口投与による副作用の評価が記載され、例2?4によれば、いずれもCAIをオロチン酸塩としたことにより、優れた結果が得られたことが示されている(上記(h))。
上記のとおり、例2には、CAIをオロチン酸CAIとすることで、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることは示されているが、CAIは、本願発明の5つの医薬化合物のいずれとも異なる化合物であって、その構造もいずれの化合物とも類似しないものである。
そうすると、例1?例4を参酌しても、本願発明の5つの医薬化合物に関する実施例が記載されているとすることはできない。

(イ)例5は、一般例と題して、医薬化合物としてケトコナゾール、フェニトイン及びトリアムテレンを挙げているが、具体的なデータを伴う例ではない(上記(i)【0059】)。
また、図6には、本願発明の医薬化合物の一つであるエピルビシンを含む、テトラヒドロ葉酸、メトトリキサート、アミノプテリン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン及びダルビシンの化学構造式が記載されているに過ぎない(上記(i)【0060】、(j))。
すなわち、例5及び図6に記載された化合物については、実際にオロチン酸塩とすることで、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させるという課題を解決し得ることは記載されていない。
したがって、これらを参酌しても、本願発明の5つの医薬化合物に関する実施例が記載されているとすることはできない。

(ウ)よって、実施例の記載からは、本願発明の5つの医薬化合物について、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させるという課題を、当業者が解決できると認識できるところはない

イ 実施例以外の記載
(ア)そこで、次に実施例以外の記載について検討する。
本願明細書には、消化管により吸収されにくい医薬化合物をオロチン酸塩とすることについて、CAIが経口投与による生物学的利用能が限られているところ、オロチン酸塩とすることにより増大することが説明されているに過ぎない(上記(b)、(c)、(g))。
本願明細書には、CAI以外の医薬化合物であってもオロチン酸塩とすることで、課題を解決し得るように記載したところはあるが、むしろ、「これらの作用は他の使用されている医薬品のオロチン酸塩にも当てはまると予想される。」(上記(c))と記載されているだけであり、具体的なデータも、技術的裏付けを伴う説明もなく、単に、オロチン酸塩とすれば、経口投与による吸収及び生物学的利用能が増加されると繰り返すものである。

(イ)ここで、本願明細書には、イオン中心を有する水不溶性薬剤に対するものであること(上記(d))、高イオン化した場合には、吸収部位での吸収時間が不十分になることがあることが説明され(上記(f)【0042】)、「多くの薬剤は非常に低い水溶性を有する。これは主に高親油性によるものであるが、イオン中心に欠くからでもある。・・・一方、そのような薬剤でも、イオン中心を有していれば、塩形成により溶解度の向上は可能である。」(上記(i)【0059】)との説明はある。
本願明細書には、水不溶性薬剤のイオン中心が何であるか定義されていないが、上記本願明細書の記載を考慮すると、本願発明の5つの医薬化合物は、いずれもアミノ基か含窒素複素環基を有するため、これらが本願明細書でいうところのイオン中心であって、オロチン酸と塩を形成することにより、溶解度の向上が可能となることが説明されていると解せなくもない。
しかしながら、本願明細書には、「原因は直ちに明らかではないが、不水溶性薬剤をオロチン酸塩に変換することにより、経口投与される医薬品の生物学的利用能を向上させる方法が発見され、哺乳類に対し治療に必要な十分量の医薬品の経口投与が可能となった。」(上記(e))と記載されているように、溶解度を向上させることで経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させるとは説明されていない。
もとより、医薬化合物の経口投与による吸収及び生物学的利用能が低い要因は、薬物の溶解度のみではない。これは、本願明細書にも記載されているとおりである(上記(f))。
そして、本願発明の5つの医薬化合物は、具体的なデータや説明がされているCAIとは異なる化合物であって、その構造も類似しないのであるから、オロチン酸塩を形成するかどうかも、形成した場合に溶解度が必ず向上するかどうかも予測することはできず、イオン中心を有する水不溶性薬剤であるというだけで、オロチン酸塩としたことにより、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることを理解することはできない。

(ウ)以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例以外の記載を検討しても、本願発明の5つの医薬化合物について、オロチン酸塩とすることで経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることについて、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度に記載したものとはいえない。

ウ 技術常識の参酌
本願の優先日前に、イオン中心を有する水難溶性薬剤という点でのみ共通していることによって、オロチン酸塩とすることにより、経口投与による吸収及び生物学的利用能を増加させることが自明であったとはいえない。
したがって、本願の優先日前の技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。

3 まとめ
以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる程度に記載されているということはできない。
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 審判請求人の主張について
補足して、審判請求人の主張についても検討する。
当審の拒絶理由に応答して提出した、平成27年5月18日付け意見書には、「本願明細書の記載(特に、オロチン酸CAIに関する実施例の記載)及び本願出願時の技術常識に基づいて、当業者は、本願発明の医薬化合物のオロチン酸塩が、オロチン酸CAIと同様、本願発明が意図する効果を奏することができることを直ちに理解することができます。したがって、本願発明は実施可能要件及びサポート要件を満たしていると思料します。」としか記載されていない。
そこで、遡って、意見書等の主張についてみると、
平成24年7月11日付け意見書には、
「本発明の医薬化合物は、実施例においてオロチン酸塩としての効果が確認されているCAIと同様に『オロチン酸と反応することができるイオン化中心』を有しています(本願明細書の段落0021及び0029並びに図6)。
したがって、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を鑑みて、当業者は、本発明の医薬化合物のオロチン酸塩が、実施例記載のオロチン酸CAIと同様の効果(医薬化合物の吸収、生物学的利用能・・・)を奏すること直ちに理解することができ、かつ、本発明の医薬化合物のオロチン酸塩を所望の目的のために使用することができます。」
と記載され、
平成26年9月2日付け回答書には、
「(3)本願明細書は、カルボキシアミドトリアゾール(CAI)のオロチン酸塩(オロチン酸CAI)の実施例を記載しています(段落0052?0058)。この実施例に示された知見が、本願発明の医薬化合物へ一般化することができるものであることを以下に説明いたします。
改善された薬物動態を示すオロチン酸CAIにおいて、CAI自体は、その薬物動態の向上には影響しません。なぜなら、オロチン酸塩となっていないCAIでは、薬物動態は改善されない(吸収、生物学的利用能、クリアランス及び有効性が低く、高い毒性がある)からです。このことは、本願明細書の図4及び図5におけるCAIとオロチン酸CAIとを対比することにより理解することができます。
換言すれば、オロチン酸CAIが奏する改善された薬物動態をもたらすのはCAI自体の化学構造ではありません。医薬化合物がオロチン酸と組み合わせることができる限り、当該医薬化合物をオロチン酸塩とすることにより、その薬物動態を改善することができます。
更に、CAIと本願発明の医薬化合物とは、オロチン酸塩への転換工程の間にオロチン酸と反応することができるイオン化中心を有し、かつ、水不溶性であることが要求されるという点で構造的及び機能的に関連しています(なお、本願発明の医薬化合物は恣意的に選択されたものではなく、上記の構造及び機能を有するものとして選択されたものです)。
以上より、当業者は、本願発明の医薬化合物のオロチン酸塩が、実施例記載のオロチン酸CAIと同様の薬物動態の向上を奏すること直ちに理解することができ、かつ、本発明の医薬化合物のオロチン酸塩を所望の目的のために使用することができるものと思料します。」
と記載されている。
(なお、平成25年7月18日付け審判請求書の請求の理由の手続補正書は、NH_(2)基を有する点で共通すると主張するものであるが、本願発明の5つの医薬化合物のうちNH_(2)基を有するのはエピルビシンのみである。)
これらの審判請求人の主張は、イオン中心を有する水難溶性薬剤で共通するから、本願発明の課題を解決し得ることを理解できるという説明にすぎず、上記「2 特許法第36条第6項第1号についての判断」に影響を与えるものではない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-12 
結審通知日 2015-06-15 
審決日 2015-06-26 
出願番号 特願2007-556393(P2007-556393)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三輪 繁光本 美奈子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
発明の名称 薬剤の経口による生物学的利用能を向上させる方法及びより毒性の少ないオロチン酸塩組成物  
代理人 星野 貴光  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 辻居 幸一  
代理人 箱田 篤  
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