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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B05C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B05C
管理番号 1307366
審判番号 不服2014-22728  
総通号数 192 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-07 
確定日 2015-11-05 
事件の表示 特願2011-520773「両面塗工基材用搬送装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日国際公開、WO2011/001648〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2010年6月25日(優先権主張2009年6月30日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成25年5月30日に手続補正書が提出され、平成25年6月7日に上申書が提出され、平成26年3月5日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成26年5月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年8月5日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年11月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたものである。


第2 平成26年11月7日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年11月7日付けの手続補正を却下する。
[理由]
〔1〕本件補正の内容
平成26年11月7日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成26年5月8日に提出された手続補正書により補正された)下記の(A)に示す請求項1ないし6を、下記の(B)に示す請求項1ないし6と補正するものである。
(A)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし6
「 【請求項1】
基材の表裏両面に塗工液を塗工するための表面塗工用ダイヘッド及び裏面塗工用ダイヘッドと、
前記基材に付着した塗工液を乾燥することで、前記基材の前記表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉と、
前記裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側又は上流側に、前記基材の幅方向両端部にそれぞれに独立して設けられた第1回転体ユニット及び第2回転体ユニットとを備え、
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、
前記基材の前記幅方向両端部を前記表裏両面から把持する一対の回転体と、
前記一対の回転体を一体に旋回させるように前記一対の回転体を支持しており、前記一対の回転体の回転軸が基材搬送方向に垂直な線に対して基材幅方向外側から見て基材搬送方向下流側に傾くように、前記一対の回転体の向きを前記第1回転体ユニットと前記第2回転体ユニットでそれぞれ個別に変更できる回転体旋回部とを有する
両面塗工基材用搬送装置。
【請求項2】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記一対の回転体を個別に前記基材の搬送方向に移動させる移動装置をさらに有する、請求項1に記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項3】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記基材の前記表裏面から前記一対の回転体によって前記基材を把持している把持力を個別に変更する把持力可変装置をさらに有する、請求項1又は2に記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項4】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットでは、前記基材の前記表裏面から前記基材を把持している前記一対の回転体の一方を駆動輪として他方を従動輪としており、
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記駆動輪の回転速度を基材搬送速度に応じて個別に変更する回転速度可変装置をさらに有する、請求項1?3のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項5】
前記回転体旋回部は、基材搬送方向に対する前記一対の回転体の傾斜角度を0?20度の範囲に調整することができる、請求項1?4のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項6】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットを基材搬送方向に複数配置し、
全ての回転体ユニットの回転速度、傾斜角度又は把持力を個別に設定できる、請求項1?5のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。」

(B)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6
「 【請求項1】
基材の表裏両面に塗工液を塗工するための表面塗工用ダイヘッド及び裏面塗工用ダイヘッドと、
前記基材に付着した塗工液を乾燥することで、前記基材の前記表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉と、
前記裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側又は上流側に、前記基材の幅方向両端部にそれぞれに独立して設けられた第1回転体ユニット及び第2回転体ユニットとを備え、
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、
前記基材の前記幅方向両端部を前記表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状でかつ外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている一対の回転体と、
前記一対の回転体を一体に旋回させるように前記一対の回転体を支持しており、前記一対の回転体の回転軸が基材搬送方向に垂直な線に対して基材幅方向外側から見て基材搬送方向下流側に傾くように、前記一対の回転体の向きを前記第1回転体ユニットと前記第2回転体ユニットでそれぞれ個別に変更できる回転体旋回部とを有する
両面塗工基材用搬送装置。
【請求項2】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記一対の回転体を個別に前記基材の搬送方向に移動させる移動装置をさらに有する、請求項1に記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項3】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記基材の前記表裏面から前記一対の回転体によって前記基材を把持している把持力を個別に変更する把持力可変装置をさらに有する、請求項1又は2に記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項4】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットでは、前記基材の前記表裏面から前記基材を把持している前記一対の回転体の一方を駆動輪として他方を従動輪としており、
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットは、各々、前記駆動輪の回転速度を基材搬送速度に応じて個別に変更する回転速度可変装置をさらに有する、請求項1?3のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項5】
前記回転体旋回部は、基材搬送方向に対する前記一対の回転体の傾斜角度を0?20度の範囲に調整することができる、請求項1?4のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。
【請求項6】
前記第1回転体ユニット及び前記第2回転体ユニットを基材搬送方向に複数配置し、
全ての回転体ユニットの回転速度、傾斜角度又は把持力を個別に設定できる、請求項1?5のいずれかに記載の両面塗工基材用搬送装置。」
(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

〔2〕本件補正の目的要件について
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である「一対の回転体」の形状について、「円板状でかつ外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている」という限定を付加したものである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

〔3〕本願補正発明の独立特許要件について
1.本願補正発明
本願補正発明は、平成26年11月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、上記〔1〕(B)に示したとおりのものである。

2.引用刊行物
(1)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2008-284528号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a)「【0001】
本発明は、ペーストを箔の表裏に同時塗工するための技術に関し、より詳しくは、同時塗工する場合の塗工品質を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来電池用電極の製造等において、電極箔の表裏両面にペーストの塗工をする方法としては、まず電極箔の表面か裏面のいずれか一方の面に対してペーストを塗工し、次に一回目の乾燥工程として乾燥炉によってペーストを乾燥させた後に、再度他方の面にペーストを塗工し、さらに二回目の乾燥工程として乾燥炉によってペーストを乾燥させて箔の表裏両面にペーストを塗工する技術が一般的に良く知られている。しかしながら、この方法では、二回の乾燥工程を経る必要があるため、塗工設備のラインが長くなってしまうという問題点があった。
また、箔の表裏両面にペーストの塗工をする場合には、ペーストの塗工直後には表裏いずれの面にもローラを接触させることができないため、安定した箔の搬送を行うことが困難となる問題点があった。
【0003】
塗工設備のライン長を短縮するべく乾燥工程を一回で済ませるためには、箔の表裏両面に対してペーストを同時に塗工することが有効であり、ペーストの表裏同時塗工に関する種々の技術が検討・開発されており公知となっている。
例えば、一対のダイによりペーストを塗工する塗工部の上流部において、対向して配置する一対の弾性シール材を設けて、箔を弾性シール材により形成する隙間を通して塗工部に供給する構成とし、箔のばたつきを防止しつつ、塗工部の気密性を確保してペーストの劣化(酸化)等を防止して、塗工品質の向上を可能とする技術が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平9-94509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、弾性シール材によって箔の位置決めをする構成としており、シール材が弾性変形する範囲では箔が変位することが可能であった。つまり、箔が塗工部に対して、いずれか一方のダイ(表側用または裏側用)に偏って導入される可能性があるため、塗工部に搬入される箔の位置決め精度を確保することが困難であり、これにより、塗工品質を確保することも困難であった。
【0005】
また、塗工品質を確保するためには、塗工精度の確保のみならず、塗工後において、塗工面を傷めないように搬送を行う必要がある。つまり、ペースト塗工後の箔搬送において、特に、乾燥工程に至るまでの搬送経路上で、塗工面を傷めないように搬送することが必要となるが、箔の両面にペーストを塗工した直後には、通常の搬送ローラを表裏いずれの面にも接触させることができず、両面塗工直後の箔を安定して搬送することが困難であった。
【0006】
例えば、従来箔の左右両端に未塗工部を残すようにしてペーストを塗工し、当該左右の未塗工部をクランプやローラによって挟持しつつ、塗工面を傷めないようにして箔の搬送を行う技術が一般的に広く用いられているが、従来のクランプやローラを用いた方法では、箔に対して均等に張力を付与することが困難であり、搬送中の箔にしわや弛みが生じることを完全には防止できず、これにより、挟持部が塗工面に接触することはないが、搬送中に塗工面を傷めてしまう可能性があった。
本発明は、係る現状を鑑みて成されたものであり、箔に対してペーストの両面同時塗工を行う場合において、塗工部に導入される箔の位置決め精度を向上させて塗工精度を向上させると同時に、両面同時塗工後の箔を安定して搬送することにより、両面同時塗工による塗工品質の確保を可能とする技術を提供することを課題としている。」(段落【0001】ないし【0006】)

b)「【0029】
次に、発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の第一実施例に係る塗工装置の塗工部周辺の構成を示す模式図、図2は同じく斜視図、図3は同じく平面図、図4は本発明の一実施例に係るテンションローラの構成を示す模式図、図5は本発明の第二実施例に係る塗工装置の塗工部周辺の構成を示す模式図、図6は同じく斜視図、図7は同じく塗工厚さの調整状況を示す側面模式図、図8は本発明の一実施例に係るリンク機構の構成を示す模式図、図9は同じくテンションローラを示す模式図、図10は従来の塗工装置に係る両面同時塗工方法を示す模式図、図11は同じく塗工部周辺の構成を示す模式図、図12は従来の両面同時塗工時の搬送方法を示す模式図である。
【0030】
まず始めに、従来の塗工装置の構成について説明をする。
図10(a)に示す如く、従来の塗工装置50においては、箔の両面(表裏)にペーストを塗工する方法として、まず表面塗工用ダイ51により表面にペーストを塗工し、その後第一乾燥炉52によりペーストを乾燥させる。次に裏面塗工用ダイ53により裏面にペーストを塗工し、その後第二乾燥炉54によりペーストを乾燥させる。尚、各乾燥炉52・54内の搬送は、箔に対して鉛直方向略上向きと鉛直方向略下向きに交互に熱風を吹付けることにより、箔を側面視略正弦波形状に蛇行させながら浮上搬送を行って、箔および塗工面に接触すること無く搬送が行われる構成としている。
この方法によれば、表面および裏面の塗工部55・56には、バックアップローラ57・58を設けることができるため、箔に対して精度良くペーストを塗工することが可能であるが、二度の乾燥工程を経る必要があり、塗工ライン長が長くなってしまうという問題点がある。
【0031】
図10(b)に示す如く、また従来の塗工装置60においては、箔の両面(表裏)にペーストを塗工する方法として、まず表面塗工用ダイ61により表面にペーストを塗工し、次に裏面塗工用ダイ62により裏面にペーストを塗工した後に、乾燥炉63によりペーストを乾燥させる方法も採用されている。
この方法によれば、乾燥炉63の上流側で表裏両面に対してペーストの塗工が完了するため乾燥工程を一回で済ませることができる。しかし、表面と裏面の塗工タイミングをずらすと、表面の塗工部66にはバックアップローラ64を設けることができるが、裏面の塗工部67にはバックアップローラ65を設けることができない。このため、図10(c)に示す如く、裏面の塗工部67においては、箔が塗工されるペーストにより押圧されて浮き上がるため、箔の挙動が安定せず、その結果、表面と裏面で塗工面の精度にばらつきが生じてしまい、塗工精度が低下し塗工品質を確保することが困難になるという問題点がある。
【0032】
また、図11(a)に示す如く、従来から表面塗工用ダイ70と裏面塗工用ダイ71を対向させて配置し、箔の両面(表裏)に対して同時にペーストを塗工する構成も採用されているが、各塗工用ダイ70・71に送られる箔の位置を規制する搬送ローラ72と塗工部73の距離が離れており、搬送ローラ72と塗工部73の間では箔の変位を規制することができず、搬送中の箔に振動等が発生すれば、箔と各塗工用ダイ70・71との距離(隙間)を一定に維持することができなかった。
このため、図11(b)に示す如く、各塗工用ダイ70・71による塗工厚さにばらつきが生じてしまい、塗工精度を確保することが困難になるという問題点があった。尚、塗工面の要求品質の条件によっては、このような塗工精度のばらつきが問題とはならない場合もあり、係る場合には、図11(a)に示すような両面同時塗工方法を採用することは従来も可能であった。
【0033】
また、両面同時塗工を行う場合には、両面同時塗工直後の箔は表裏いずれの面に対してもローラを接触させることができないため、搬送方法を考慮する必要がある。そこで従来は、箔の左右両側縁部にペーストを塗工しない範囲(未塗工部)を設けて、この未塗工部を挟持して搬送を行う方法が採用されている。
例えば、図12(a)に示す如く、複数の搬送用クランプ74・74・・・を備える構成とし、搬送用クランプ74により、箔の未塗工部を挟持しつつ搬送を行う構成が知られている。ところが、係る搬送方法においては、搬送用クランプ74・74・・・により挟持する位置にズレが生じると、箔および塗工面に図12(a)に示すような弛みが生じたり、塗布済みのペーストの塗工面に図12(b)に示すようなしわが生じることがあった。つまり、従来の搬送方法では、ペーストの塗工直後においては、適切な張力を付与した状態を維持しながら箔の搬送を行うことができないため、塗工面を傷めてしまう可能性があり、その結果、塗工品質を確保することが困難になるという問題点があった。
【0034】
このような状況から、従来一定の塗工品質を確保することが要求され、箔の両面にペーストの塗工を施す場合には、両面同時塗工を採用せずに、前述した図10(a)に示す方法等により、表面または裏面に対して片側ずつ塗工を行うことが一般的であった。
つまり、一定の塗工品質を確保することが要求される場合において、両面同時塗工による方法を適用可能とするためには、塗工部における塗工精度を確保すると同時に、両面塗工後において、箔の安定した搬送を実現することが必要であった。
本発明は、一定の塗工品質を確保しながら両面同時塗工を行うために従来有していた問題点を解決するものであり、塗工部における塗工精度の確保と両面同時塗工後の箔の安定した搬送を同時に実現し、両面同時塗工の利用可能範囲を拡大するものである。」(段落【0029】ないし【0034】)

c)「【0035】
次に、本発明の第一実施例に係る塗工装置の塗工部の構成について説明をする。尚、以下においては、説明の便宜上、図2中に示す矢印Aの方向を右側として説明を行うものとする。
図1に示す如く、本発明の第一実施例に係る塗工装置1の塗工部2は、互いに対向配置される表面塗工用ダイ3と裏面塗工用ダイ4とからなる一対の塗工用ダイを備えており、この一対の塗工用ダイにより、該一対の塗工用ダイの隙間を通過する箔の表裏に対して、ペーストを同時に塗工するように構成されている。
前記塗工部2においては、箔を塗工部2へ搬送するための搬送ローラ25の下流側であって、かつ表面塗工用ダイ3および裏面塗工用ダイ4の上流側に、表面側ガイドローラ5および裏面側ガイドローラ6を設けている。各ガイドローラ5・6は互いに平行に、かつ、ローラ面が互いに接するようにして箔の搬送方向に対して直角となる向きに横設している。そして、箔を各ガイドローラ5・6の接触部を通過させて塗工部2に導入する構成としている。これにより、従来に比して塗工部2に対して、より近い位置で箔の位置を規制することができ、搬送中の箔に発生する振動を抑制し、箔と各塗工用ダイ3・4との距離(隙間)を一定に維持することが可能となる。
【0036】
また、本発明の第一実施例に係る塗工装置1の塗工部2においては、表面塗工用ダイ3および裏面塗工用ダイ4の下流側の左右未塗工縁部に、複数のローラから成るテンションローラ7を設けている。
図1乃至図3に示す如く、テンションローラ7は、上下一対となる表面側テンションローラ8および裏面側テンションローラ9により構成している。
表面側テンションローラ8は、左右一対となる表面左側ローラ群8Lおよび表面右側ローラ群8Rにより構成しており、本実施例では、各ローラ群8L・8Rをそれぞれ4個のローラで構成し、合計8個のローラ(即ち、図2中に示す各ローラ8aL・8bL・8cL・8dL・8aR・8bR・8cR・8dR)により表面側テンションローラ8を構成している。
【0037】
また同様に、裏面側テンションローラ9は、左右一対となる裏面左側ローラ群9Lおよび裏面右側ローラ群9Rにより構成しており、本実施例では、各ローラ群9L・9Rをそれぞれ4個のローラで構成し、合計8個のローラ(即ち、図2中に示す各ローラ9aL・9bL・9cL・9dL・9aR・9bR・9cR・9dR)により裏面側テンションローラ9を構成している。
【0038】
そして、側面視において、箔を挟んで各テンションローラ8・9が互いに線対称となるように配置し、上下(表裏)の対応する各ローラが互いに接触するように位置に配設する構成としている。
つまり、図1(a)に示す各右側ローラ群8R・9Rを例に挙げて説明をすると、表面右側ローラ群8Rを構成する各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRと裏面右側ローラ群9Rを構成する各ローラ9aR・9bR・9cR・9dRが対応し、より具体的には、ローラ8aRとローラ9aR、ローラ8bRとローラ9bR、ローラ8cRとローラ9cR、ローラ8dRとローラ9dRがそれぞれ対応する構成としている。そして、各左側ローラ群8L・9Lについても同様の対応関係を有する構成としている。
【0039】
このように、箔に対する張力付与手段を、箔の搬送方向に対して左右に形成される未塗工縁部を挟持するテンションローラ7で構成することにより、各ローラが塗工されたペーストと接触することがないため、乾燥工程よりも上流側のペースト塗工直後において、箔の伸縮等の影響が少ない位置で箔に付与する張力の調整を行うことができ、箔に弛みを生じさせること無く良好な塗工状態を維持しながら箔の搬送を行うことができるのである。
【0040】
また、テンションローラ7を構成する各ローラ(即ち、ローラ8aL・8bL・8cL・8dL・8aR・8bR・8cR・8dRおよびローラ9aL・9bL・9cL・9dL・9aR・9bR・9cR・9dR)は、箔に対して垂直な向きに配設した回動軸(即ち、回動軸8eL・8fL・8gL・8hL・8eR・8fR・8gR・8hRおよび回動軸9eL・9fL・9gL・9hL・9eR・9fR・9gR・9hR)に対して固設しており、これにより各ローラが各回動軸を軸心として回動可能な構成としている。また前記各回動軸は、平面視において、箔の搬送方向と平行に、かつ、箔の搬送方向に沿って略等間隔に配設する構成としている。
【0041】
さらに、図3または図4に示す如く、各テンションローラ8・9は、テンションローラ7を構成する前記各ローラを各回動軸回りに回転させて、平面視において、箔の搬送方向に対して各ローラの回転軸が成す角度(即ち、図4(b)中に示す角度θ1乃至θ4)を、搬送方向下流側に向かうにつれて漸次拡大するように構成している。但し、最も下流側の回転軸が成す角度(ここでは、θ4)が、90度以下となるように構成しており、本実施例ではθ4=90度としている。
【0042】
さらに詳述すると、例えば図4(b)に示す如く、表面右側ローラ群8Rを構成する各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRの各回転軸8iR・8jR・8kR・8mRは、箔の搬送方向に対して、それぞれθ1・θ2・θ3・θ4の角度を成して配設されている。各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRは、同じ回転数で回転する構成としており、各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRと箔が接触する点においては、各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRから箔に対して、各ローラの回転接線方向に対する同じ大きさの張力(即ち、図4中に示す張力T1乃至T4)を付与する構成としている。
【0043】
また、図4(c)には、前記各ローラにより付与する各張力T1乃至T4を、箔の搬送方向に対する分力X1乃至X4と、箔の搬送方向に対して直角方向の分力Y1乃至Y4に分けて示している。すると、箔の搬送方向に対する各分力の大きさは、X1<X2<X3<X4の関係を有していることが確認できる。また、箔の搬送方向に対して直角方向の各分力の大きさは、Y1>Y2>Y3>Y4(但し、X4=T4、Y4=0である)の関係を有していることが確認できる。尚、ここでは表面右側ローラ群8Rについてのみ各分力の確認を行っているが、他の各ローラ群においても、箔の搬送方向に対する分力および箔の搬送方向に対して直角方向の分力は同様の関係を有している。
【0044】
つまり、各ローラ8aR・8bR・8cR・8dRを、箔の搬送方向下流側に向かうにつれて、前記角度θ1乃至θ4を漸次拡大する構成とすることにより、箔の搬送方向に対しては、下流側ほど大きな張力を下流方向に向けて付与し、また箔の搬送方向に対する直角方向には、上流側ほど大きな張力を左右方向に向けて付与する構成としている。
このように、搬送方向下流側と左右方向に対する張力を搬送方向に従って漸次変化させながら付与する構成とすることにより、塗工面にローラを接触することができない箇所であっても、箔に適切な張力を付与することができ、これにより、搬送中の箔に弛みが生じることがなく、塗工面の品質を確保した状態で箔を安定して搬送することができるように構成している。
尚、本実施例においては、4個のローラを用いて各ローラ群8L・8R・9L・9Rを構成する例を示しているが、各ローラ群を構成するローラの個数をこれに限定するものではなく、3個以下のローラでローラ群を構成したり、5個以上のローラでローラ群を構成することによりも可能であり、使用する箔の仕様(幅や厚み等)に応じて適宜定めることができる。
また、本実施例においては、同じ回転数で駆動される複数のローラを用いて各テンションローラ8・9を構成する例を示しているが、例えば、下流側のローラほど回転数を大きくする構成とすることも可能であり、本発明に係るテンションローラを構成するローラの駆動回転数を限定するものではない。
【0045】
即ち、一対の表面塗工用ダイ3および裏面塗工用ダイ4の箔搬入側に備える箔規制手段たる表面側ガイドローラ5および裏面側ガイドローラ6により、表面塗工用ダイ3と箔との距離と、裏面塗工用ダイ4と箔との距離が均等となるように箔を保持して、かつ、一対の塗工用ダイ3・4の箔搬出側に備える張力付与手段たるテンションローラ7により、ペースト塗工後の箔に弛みが生じないように張力を付与する構成としている。
このように、塗工部2の直前にガイドローラ5・6を備えることにより、表裏の塗工厚さを均等に揃えることが可能となり、塗工精度の向上に寄与し、さらに、塗工部2の直後にテンションローラ7を備えることにより、塗工直後に箔に作用する張力の調整を行うことができるため、良好な塗工状態を維持しながら箔の搬送を行うことができるのである。これにより、箔に対してペーストの両面同時塗工を行う場合の塗工品質を向上させることができるのである。
【0046】
また、テンションローラ7は、複数のローラ部材(即ち、ローラ8aL・8bL・8cL・8dL・8aR・8bR・8cR・8dRおよびローラ9aL・9bL・9cL・9dL・9aR・9bR・9cR・9dR)からなり、各ローラ部材を箔の搬送方向に対して平行となる方向に略等間隔に配置しつつ、箔の搬送方向と各ローラ部材の回転軸が成す角度が90度以下となる範囲で、箔の搬送方向下流側に向けて漸次拡大するように各ローラ部材を配置する構成としている。
これにより、ペーストに接触すること無く、箔に対して搬送方向下流側に作用する張力と、搬送方向に対する左右方向に作用する張力を効果的に付与することができるのである。」(段落【0035】ないし【0046】)

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
a)上記(1)c)並びに図1及び2の記載(特に、段落【0035】)によれば、塗工装置1は、箔の表裏両面にペーストを塗工するための表面塗工用ダイ3及び裏面塗工用ダイ4を備えることが分かる。

b)上記(1)a)及びb)並びに図10の記載(特に、段落【0002】、【0030】及び【0031】)によれば、従来の塗工装置50、60は、箔に塗工されたペーストを乾燥することで、箔の表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉を備えることが分かり、塗工装置1においても、箔に塗工されたペーストを乾燥することで、箔の表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉を備えることが分かる。

c)上記(1)c)並びに図1及び2の記載(特に、段落【0036】ないし【0039】及び【0045】並びに図2)によれば、塗工装置1は、表面塗工用ダイ3及び裏面塗工用ダイ4の搬送方向下流側に、箔の左右両側縁部にそれぞれに独立して設けられた左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段を備えることが分かる。

d)上記(1)c)並びに図1及び2の記載(特に、段落【0036】ないし【0039】及び【0045】並びに図2)によれば、左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段は、箔の左右両側縁部を表裏両面から把持する円板状である一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を有することが分かる。

e)上記(1)c)及び図2の記載(特に、段落【0040】ないし【0046】及び図2)によれば、左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段は、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を回動させるように一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を支持しており、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の回転軸が、平面視において、箔の搬送方向に対して成す角度が90°以下となるように、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の向きを変更できるテンションローラの回動可能な手段を有することが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合して、本願補正発明の表現に倣って整理すると、引用刊行物には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「箔の表裏両面にペーストを塗工するための表面塗工用ダイ3及び裏面塗工用ダイ4と、
箔に塗工されたペーストを乾燥することで、箔の表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉と、
表面塗工用ダイ3及び裏面塗工用ダイ4の搬送方向下流側に、箔の左右両側縁部にそれぞれに独立して設けられた左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段とを備え、
左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段は、各々、
箔の左右両側縁部を表裏両面から把持する円板状である一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9と、
一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を回動させるように一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を支持しており、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の回転軸が、平面視において、箔の搬送方向に対して成す角度が90°以下となるように、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の向きを変更できるテンションローラの回動可能な手段とを有する
塗工装置1。」

3.対比
本願補正発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「箔」は、前者における「基材」に相当し、以下同様に、「ペースト」は「塗工液」に、「表面塗工用ダイ3」は「表面塗工用ダイヘッド」に、「裏面塗工用ダイ4」は「裏面塗工用ダイヘッド」に、「左右両側縁部」は「幅方向両端部」に、「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9」は「一対の回転体」に、「回動させるように」は「旋回させるように」に、「テンションローラの回動可能な手段」は「回転体旋回部」に、「塗工装置1」は「両面塗工基材用搬送装置」に、それぞれ相当する。
・前者における「裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側又は上流側」は、裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側を選択肢として含むものである。
一方、後者における「表面塗工用ダイ12及び裏面塗工用ダイ13の搬送方向下流側」は、裏面塗工用ダイ13の搬送方向下流側ということができる。
そうすると、後者における「表面塗工用ダイ12及び裏面塗工用ダイ13の搬送方向下流側」は、前者における「裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側又は上流側」に相当する。
・後者における「左側の箔に対する張力付与手段」及び「右側の箔に対する張力付与手段」は、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9で箔を把持(挟持)し、箔に張力を付与するものである(引用刊行物の段落【0038】及び【0039】を参照。)。
一方、前者における「第1回転体ユニット」及び「第2回転体ユニット」は、一対の回転体で基材を把持し、基材を外側に引っ張る力の付与を行うものである(本件出願の明細書における段落【0027】、【0040】ないし【0043】、【0049】、【0056】及び【0062】を参照。)。
ここで、「左側」を「第1」と呼び、「右側」を「第2」と呼ぶことにする。
そうすると、後者における「左側の箔に対する張力付与手段」は、前者における「第1回転体ユニット」に、「第1の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段」という限りにおいて相当する。
同様に、後者における「右側の箔に対する張力付与手段」は、前者における「第2回転体ユニット」に、「第2の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段」という限りにおいて相当する。
・後者における「箔の左右両側縁部を表裏両面から把持する円板状である一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9」は、前者における「前記基材の前記幅方向両端部を前記表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状でかつ外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている一対の回転体」に、「基材の幅方向両端部を表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状である一対の回転体」という限りにおいて、相当する。
・後者における「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を回動させるように一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を支持しており」は、前者における「前記一対の回転体を一体に旋回させるように前記一対の回転体を支持しており」に、「一対の回転体を旋回させるように一対の回転体を支持しており」という限りにおいて、相当する。
・後者における「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の回転軸が、平面視において、箔の搬送方向に対して成す角度が90°以下となるように」は、前者における「前記一対の回転体の回転軸が基材搬送方向に垂直な線に対して基材幅方向外側から見て基材搬送方向下流側に傾くように」に相当する。
・後者における「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の向きを変更できる」は、前者における「前記一対の回転体の向きを前記第1回転体ユニットと前記第2回転体ユニットでそれぞれ個別に変更できる」に、「一対の回転体の向きを変更できる」という限りにおいて、相当する。

したがって、両者は、
「基材の表裏両面に塗工液を塗工するための表面塗工用ダイヘッド及び裏面塗工用ダイヘッドと、
基材に付着した塗工液を乾燥することで、基材の表裏両面に塗工膜を形成する乾燥炉と、
裏面塗工用ダイヘッドの搬送方向下流側又は上流側に、基材の幅方向両端部にそれぞれに独立して設けられた第1の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段及び第2の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段とを備え、
第1の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段及び第2の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段は、各々、
基材の幅方向両端部を表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状である一対の回転体と、
一対の回転体を旋回させるように一対の回転体を支持しており、一対の回転体の回転軸が基材搬送方向に垂直な線に対して基材幅方向外側から見て基材搬送方向下流側に傾くように、一対の回転体の向きを変更できる回転体旋回部とを有する
両面塗工基材用搬送装置。」の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
第1の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段及び第2の一対の回転体で基材を把持し、基材に張力を付与する手段に関し、本願補正発明においては、「第1回転体ユニット及び第2回転体ユニット」であって、その「回転体旋回部」が「一対の回転体を一体に旋回させるように一対の回転体を支持しており」、「一対の回転体の向きを第1回転体ユニットと第2回転体ユニットでそれぞれ個別に変更できる」ものであるのに対して、引用発明においては、「左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段」であって、その「テンションローラの回動可能な手段」が「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を回動させるように一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を支持しており」、「一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9の向きを変更できる」ものであり、一対の回転体を一体に旋回させるように一対の回転体を支持するようにした回転体旋回部を有する第1回転体ユニット及び第2回転体ユニットであって、一対の回転体の向きを第1回転体ユニットと第2回転体ユニットでそれぞれ個別に変更できるものといえるか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
基材の幅方向両端部を表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状である一対の回転体に関し、本願補正発明においては、「基材の幅方向両端部を表裏両面から把持する一対の部材であり、円板状でかつ外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている一対の回転体」であるのに対して、引用発明においては、「箔の左右両側縁部を表裏両面から把持する一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9」であり、外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている一対の回転体といえるか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。
[相違点1について]
搬送される帯状のシート材の幅方向端部を両面から一対の回転体で把持し、張力を付与する手段(以下、「一対の回転体による張力付与手段」という。)を、一対の回転体を一体に旋回させるように一対の回転体を支持するようにした回転体旋回部を有する回転体ユニットで構成することは、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要であれば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-279148号公報(特に、段落【0006】及び図1ないし3)のほか、特開昭53-149411号公報(特に、1ページ右下欄13行ないし2ページ左上欄19行、2ページ左下欄14ないし20行及び第2ないし7図)及び実公昭50-3904号公報(特に、1ページ左欄34行ないし2ページ左欄14行及び第1ないし8図)を参照。)であり、これにより一対の回転体による張力付与手段の構成の簡素化及びメンテナンスの容易化が図れることは明らかである。
また、搬送される帯状のシート材に付与する張力を調整するにあたり、搬送される帯状のシート材の幅方向両端部に第1の一対の回転体による張力付与手段と第2の一対の回転体による張力付与手段を設けた搬送装置において、一対の回転体の向きを第1の一対の回転体による張力付与手段と第2の一対の回転体による張力付与手段でそれぞれ個別に変更できるように構成することは、本件出願の優先日前に技術常識(必要であれば、特開昭53-149411号公報(特に、1ページ右下欄13行ないし2ページ左上欄19行、2ページ左下欄8ないし20行及び第2ないし7図)、実公昭50-3904号公報(特に、1ページ左欄34行ないし2ページ左欄14行及び第1ないし8図)、特開2002-60102号公報(特に、段落【0068】)及び特開2001-316006号公報(特に、段落【0059】)を参照。)である。
ところで、搬送装置において、構成の簡素化及びメンテナンスの容易化は本件出願の優先日前にごく普通に知られた課題であり、引用発明においても、内在する課題といえる。
また、上記2.(1)c)において摘記した、引用刊行物における「このように、箔に対する張力付与手段を、箔の搬送方向に対して左右に形成される未塗工縁部を挟持するテンションローラ7で構成することにより、各ローラが塗工されたペーストと接触することがないため、乾燥工程よりも上流側のペースト塗工直後において、箔の伸縮等の影響が少ない位置で箔に付与する張力の調整を行うことができ、箔に弛みを生じさせること無く良好な塗工状態を維持しながら箔の搬送を行うことができるのである。」(段落【0039】)という記載及び「また、テンションローラ7を構成する各ローラ(即ち、ローラ8aL・8bL・8cL・8dL・8aR・8bR・8cR・8dRおよびローラ9aL・9bL・9cL・9dL・9aR・9bR・9cR・9dR)は、箔に対して垂直な向きに配設した回動軸(即ち、回動軸8eL・8fL・8gL・8hL・8eR・8fR・8gR・8hRおよび回動軸9eL・9fL・9gL・9hL・9eR・9fR・9gR・9hR)に対して固設しており、これにより各ローラが各回動軸を軸心として回動可能な構成としている。また前記各回動軸は、平面視において、箔の搬送方向と平行に、かつ、箔の搬送方向に沿って略等間隔に配設する構成としている。」(段落【0040】)という記載によれば、引用発明において、回動可能な構成とされたテンションローラの向きは、箔に弛みを生じさせることがないように、箔に付与する張力の調整を行うように設定されるところ、箔に弛みを生じさせることがないように、箔に付与する張力の調整をより確実に行うことは、当然に考慮されることである。
そうすると、引用発明において、周知技術1を適用すると共に技術常識を考慮することにより、左側の箔に対する張力付与手段及び右側の箔に対する張力付与手段を、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9(一対の回転体)を一体に回動(旋回)させるように一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9を支持するようにしたテンションローラの回動可能な手段(回転体旋回部)を有する左側の回転体ユニット(第1回転体ユニット)及び右側の回転体ユニット(第2回転体ユニット)とし、一対の表側テンションローラ8及び裏側テンションローラ9(一対の回転体)の向きを左側の回転体ユニット(第1回転体ユニット)と右側の回転体ユニット(第2回転体ユニット)でそれぞれ個別に変更できるように構成すること、すなわち、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
搬送される帯状のシート材の幅方向端部に一対の回転体による張力付与手段を設けた搬送装置において、回転体の外周面を先端に向かって幅方向に狭くすることは、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、特開2002-60102号公報(特に、段落【0067】)及び特開2001-316006号公報(特に、段落【0055】)を参照。)であり、これにより搬送される帯状のシート材への局部的な応力集中がかからないから、搬送される帯状のシート材の損傷が防止されるものと認められる。
そうすると、引用発明において、箔の損傷の防止は当然に考慮されることであるから、引用発明に周知技術2を適用し、上記相違点2に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

〔4〕むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成26年5月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、前記第2[理由]〔1〕(A)に示したとおりのものである。

2.引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物及びその記載事項、並びに、引用発明は、前記第2[理由]〔3〕2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記第2[理由][3]で検討した本願補正発明の発明特定事項のうち、「一対の回転体」について、「円板状でかつ外周面が先端に向かって幅方向に狭くなっている」という発明特定事項を省いたものに相当する。
そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本願補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、引用発明、周知技術1、周知技術2及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は実質的に、上記第2[理由][3]3.対比で示した相違点1の点でのみ相違する。
そうすると、上記第2[理由][3]4.判断における検討内容によれば、本願発明は、引用発明、周知技術1及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件出願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-01 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-24 
出願番号 特願2011-520773(P2011-520773)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B05C)
P 1 8・ 575- Z (B05C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土井 伸次  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
佐々木 訓
発明の名称 両面塗工基材用搬送装置  
代理人 渡辺 尚  
代理人 小野 由己男  

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