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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C07D
管理番号 1307597
審判番号 無効2014-800022  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-02-04 
確定日 2015-07-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2648897号発明「ピリミジン誘導体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は,塩野義製薬株式会社を出願人(以下「被請求人」という。)とし,平成4年5月28日(国内優先権主張 平成3年7月1日)に,名称を「ピリミジン誘導体」とする発明について,特願平4-164009号として特許出願がされたものであって,平成9年5月16日に,特許第2648897号として設定登録がなされた(請求項の数12。以下,その特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件特許明細書」という。)。

本件特許について,テバ製薬株式会社(以下「請求人」という。)から,本件無効審判の請求がなされた。その手続の経緯は以下のとおりである。

平成26年 2月 4日 審判請求書・甲第1?14号証提出(請求人)
同年 3月20日 手続補正書・甲第4,5,7,8,12?14
号証の訳文提出(請求人)
同年 6月30日 審判事件答弁書・乙第1?41号証
(被請求人)
同日 訂正請求書(被請求人)
同年 8月13日 手続補正書・乙第10号証の2,乙第12号証
の2,乙第13号証の2,乙第29号証の2,
乙第1?3,6?11,13,14,17?
21,23,25?29,33?35,37?
39号証の訳文,乙第41号証の資料5の訳文
提出(被請求人)
同年 9月22日 アストラゼネカ ユーケイ リミテッド(以下
「参加人」という。)からの参加申請
同年 9月24日 審判事件弁駁書・甲第15?24号証,
参考資料1?5提出(請求人)
同年10月24日 意見書(請求人)
同年11月18日 上申書・丙第1?12号証提出(参加人)
同年11月19日 参加許否の決定(参加申請の許可)
同年12月11日 審理事項通知書
平成27年 1月28日 上申書(請求人)
同日 上申書・乙第42?55号証,
参考資料1提出(被請求人)
同日 上申書・丙第13?20号証提出(参加人)
同年 2月12日 口頭審理陳述要領書(1)・甲第25,26号
証,参考資料6,7提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(2)・甲第25,26号
証,参考資料6,7提出(請求人)
同日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同日 口頭審理陳述要領書・丙第21号証提出
(参加人)
同年 2月23日 上申書(参加人)
同年 2月25日 口頭審理
同年 3月 6日 上申書・甲第7,21号証再提出(請求人)
同年 5月28日 補正許否の決定
同年 6月 3日 審理終結通知書

第2 訂正の適否についての当審の判断
被請求人は,審判長が特許法第134条第1項に規定する訂正を請求するために指定した期間内である平成26年6月30日に訂正請求書を提出して,本件明細書及び本件特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。

1 請求項1及び請求項12からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
訂正前の請求項1において,
「(式中、R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基または置換基を有していてもよいイミノ基(該置換基はアシル基、置換されていてもよいアミノ基または置換スルホニル基である。);破線は2重結合の有無をそれぞれ表わす。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)」とあるのを,
訂正後の請求項1において,
「(式中、R^(1)は低級アルキル;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。」と訂正する。

イ 訂正事項2
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
訂正後の請求項12において,
「請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項1について
訂正事項1は,訂正前の請求項1の
「式(I)

」において,
「R^(1)」を「低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい」から「低級アルキル」に,
「R^(2)」を「水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい」から,アリールで置換基を有している「ハロゲンにより置換されたフェニル」に,
「R^(3)」を「水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい」から「低級アルキル」に,
「R^(4)」を「水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン」から「水素」または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオンである「ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」に,
「X」を「硫黄、酸素、スルホニル基または置換基を有していてもよいイミノ基(該置換基はアシル基、置換されていてもよいアミノ基または置換スルホニル基である。)」から,置換基を有していてもよいイミノ基(該置換基は置換スルホニル基)である「アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基」に,それぞれ限定するものである。
そして,訂正前の請求項1には「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く」との発明特定事項を有していたところ,訂正後の請求項1は,「R^(1)」が「アラルキル」でもなく,「X」が「硫黄または酸素」でもなくなったから,上記「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合」は,訂正後の請求項1には,そもそも含まれていない。
したがって,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものということができる。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,請求項2?11について引用せず,一群の請求項として扱われる請求項1のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

(3)新規事項について
訂正事項1,2が,登録時の願書に添付した明細書(特許明細書),特許請求の範囲(訂正前の特許請求の範囲)に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
訂正前の請求項1には,「式(I)」とともに,「式中、・・・R^(4)は水素・・・または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;破線は2重結合の有無を、それぞれ表わす。」であることが記載され,特許明細書の段落【0008】には,「薬学的に許容し得る塩を形成する陽イオンとは・・・カルシウム等が挙げられるが、ナトリウムおよびカルシウムが特に好ましい。」と記載され,さらに段落【0039】には,「元素分析値(%)C_(22)H_(27)N_(3)O_(6)SF・0.5Ca・0.5H_(2)O」が記載されている。そして,この「0.5Ca」が「ヘミカルシウム塩」を意味することは自明のことであるから,「R^(4)」が「ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」であることも特許明細書に記載されていたといえる。
また,訂正前の請求項9には,訂正前の請求項1を引用する請求項8をさらに引用して「Xがアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;R^(1)が低級アルキル;R^(2)がハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)が低級アルキル」であることが記載されている。
そうすると,訂正後の請求項1における発明特定事項は,すべて訂正前の特許請求の範囲又は特許明細書に記載されていたといえるから,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。

訂正後の請求項12は,訂正後の請求項1のみを引用するようにしたものであって,訂正前の請求項12に「請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤」と記載されているから,上述のとおり,訂正事項2も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項1,2は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項1は,上記(2)アで述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
訂正事項2も,上記(2)イで述べたとおり,訂正後の請求項12を,訂正後の請求項1のみを引用するようにするものであって,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項1,2は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項1,12についてみると,請求項1の記載を請求項12が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項1,12に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項1,12に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

2 請求項2に係る訂正(訂正事項3)
(1)訂正の内容
訂正前の請求項2において,
「Xが置換基を有していてもよいイミノ基(該置換基はアシル基、置換されていてもよいアミノ基または置換スルホニル基である。)である、請求項1記載の化合物。」とあるのを,
訂正後の請求項2において,
「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸。」と訂正する。

(2)訂正の目的
訂正前の請求項2は,請求項1を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,訂正前の請求項1を引用せずに,訂正前の請求項2を書き下すと,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xが置換基を有していてもよいイミノ基(該置換基はアシル基、置換されていてもよいアミノ基または置換スルホニル基である。);破線は2重結合の有無をそれぞれ表わす。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」となる。
そして,訂正後の請求項2である
「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸。」は,
上記「式(I)」において,「R^(1)」がメチル(低級アルキル),「R^(2)」がフルオロフェニル(アリールであり,該アリールは置換基を有していてもよい),「R^(3)」は,イソプロピル(低級アルキル),「R^(4)」は水素,Xがメチルスルホニルアミノ(置換スルホニル基を有するイミノ基),破線は2重結合が存在し,特定の光学異性体構造(3R、5S)を選択したものであって,また,「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合」には該当せず,「閉環ラクトン体」でもないから,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

(3)新規事項について
訂正事項3が,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
特許明細書には,実施例1として,「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸ナトリウム(Ia-1)」が記載されている(段落【0029】,【0034】参照)。また,訂正前の請求項1には,「R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン」であって「水素」を選択することも記載されている。
そして,「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」は,実施例1の上記(Ia-1)であるNa塩のNaイオンが水素に置き換えられて遊離酸になったものであることは明らかであるから,特許明細書に,「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」の化合物が文言上明記されていないとしても,実質的に特許明細書に記載されていたということができ,訂正事項3は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項3は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項3は,上記(2)で述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもあるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項3は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項2に係る請求項ごとの訂正を認める。

3 請求項3,4,7,8に係る訂正
(1)訂正の内容
訂正前の請求項3,4,7,8を削除する。

(2)訂正の目的
訂正前の請求項3,4,7,8を削除する訂正は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

(3)新規事項について
訂正前の請求項3,4,7,8を削除する訂正は,明らかに,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえ,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正前の請求項3,4,7,8を削除する訂正は,上記(2)で述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものでもあるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではなく,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)小括
以上のとおりであるから,訂正前の請求項3,4,7,8を削除する請求項ごとの訂正を認める。

4 請求項5及び請求項13からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項4(なお,訂正事項5は訂正事項4と同じである。)
訂正前の請求項5において,
「Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基である、請求項4記載の化合物。」とあるのを,
訂正後の請求項5において,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の有無を、それぞれ表わす。)で示される化合物。」と訂正する。

イ 訂正事項6
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
新たに訂正後の請求項13とし,
「請求項5に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

ウ 明細書に係る訂正
明細書段落番号【0004】の「【化2】」を「【化9】」に,
段落番号【0010】の「【化3】」を「【化10】」に,
段落番号【0011】の「【化4】」を「【化11】」に,
段落番号【0012】の「【化5】」を「【化12】」に,
段落番号【0013】の「【化6】」を「【化13】」に,
段落番号【0017】の「【化7】」を「【化14】」に,
段落番号【0022】の「【化8】」を「【化15】」に,
段落番号【0025】の「【化9】」を「【化16】」に,
段落番号【0029】の「【化10】」を「【化17】」に,
段落番号【0030】の「【化11】」を「【化18】」に,
段落番号【0031】の「【化12】」を「【化19】」に,
段落番号【0032】の「【化13】」を「【化20】」に,
段落番号【0033】の「【化14】」を「【化21】」に,
段落番号【0034】の「【化15】」を「【化22】」に,
段落番号【0037】の「【化16】」を「【化23】」に,
段落番号【0038】の「【化17】」を「【化24】」に,
それぞれ訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項4について
訂正前の請求項5は,請求項4を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項4は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,訂正前の請求項4を引用せずに,請求項5を書き下すと,
「式(I):
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基である;破線は2重結合の有無をそれぞれ表す。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である。
そして,訂正後の請求項5は,訂正前の請求項5の
「R^(1)」を「低級アルキル」に,
「R^(2)」をアリールで置換基を有している「ハロゲンにより置換されたフェニル」に,
「R^(3)」を「低級アルキル」に,
「R^(4)」を「水素」または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオンである「ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」に,それぞれ限定するものであって,また,「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合」には該当せず,「閉環ラクトン体」でもないから,訂正事項4は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

イ 訂正事項6について
訂正事項6は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,新たに訂正後の請求項13とし,一群の請求項として扱われる請求項5のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

ウ 明細書に係る訂正について
上記明細書に係る訂正は,訂正後の請求項5において,新たに化合物イメージを挿入したことに伴い,化合物イメージの番号を順番に整合させるものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであるといえる。

(3)新規事項について
訂正事項4,6、明細書に係る訂正が,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
訂正前の請求項5には,「Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基」であることが記載され,また,上記1(3)で検討したとおり,その他の訂正後の請求項5における発明特定事項も,すべて訂正前の特許請求の範囲又は特許明細書に記載されていたといえるから,訂正事項4は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
また,訂正後の請求項13は,訂正後の請求項5のみを引用するようにしたものであって,訂正前の請求項12に「請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤」と記載されているから,上述のとおり,訂正事項6も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
上記明細書に係る訂正は,単に,化合物のイメージの番号の順序を整合させただけのものであるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項4,6及び明細書に係る訂正は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項4は,上記(2)アで述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
訂正事項6も,上記(2)イで述べたとおり,訂正後の請求項13を,訂正後の請求項5のみを引用するようにするものであって,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
上記明細書に係る訂正は,単に,化合物のイメージの番号の順序を整合させただけのものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項4,6及び明細書に係る訂正は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項5,13についてみると,請求項5の記載を請求項13が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項5,13に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)明細書に係る訂正と請求項との関係
上記明細書に係る訂正は,請求項5,6,9,10に関係するものであって,請求項5,6,9,10はいずれも請求の対象となっているから特許法第134条の2第9項で準用する第126条第4項に適合するものである。

なお,上記明細書に係る訂正に関しては,請求項6及び14からなる一群の請求項に係る訂正,請求項9及び15からなる一群の請求項に係る訂正,請求項10及び16からなる一群の請求項に係る訂正の適否の判断においても,請求項5及び13からなる一群の請求項に係る訂正の適否の判断と同じであるので,以下の訂正の適否の判断においてはその記載を省略する。

(7)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項5,13に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

5 請求項6及び請求項14からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項7
訂正前の請求項6において,
「Xが硫黄、酸素またはスルホニル基である、請求項1記載の化合物。」
とあるのを,
訂正後の請求項6において,
「式(I):
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基;破線は2重結合の有無をそれぞれ表す。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物または閉環ラクトン体である化合物。」と訂正する。

イ 訂正事項8
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
新たに訂正後の請求項14とし,
「請求項6に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項7について
訂正前の請求項6は,請求項1を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項7は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,訂正前の請求項1を引用せずに,請求項6を書き下すと,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基;破線は2重結合の有無をそれぞれ表わす。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物または閉環ラクトン体である化合物。」となるから,訂正後の請求項6と同じであって訂正事項7によって実質的な訂正はされていない。

イ 訂正事項8について
訂正事項8は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,新たに訂正後の請求項14とし,一群の請求項として扱われる請求項6のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

(3)新規事項について
訂正事項7,8は,上記(2)ア,イで述べたとおり,「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものであるから,実質的な訂正はないが,願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについては,判断すべきものと認める。
上記(2)ア,イで検討したとおり,訂正後の請求項6,14は訂正前の請求項6,12に対して実質的な訂正がなされていないので,訂正事項7,8はいずれも,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項7,8は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
上記(2)ア,イで検討したとおり,訂正後の請求項6,14は訂正前の請求項6,12に対して実質的な訂正がなされていないので,訂正事項7,8はいずれも,実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項7,8は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項6,14についてみると,請求項6の記載を請求項14が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項6,14に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)独立特許要件について
本件特許請求の範囲の請求項6に係る発明については,特許無効審判の請求がなされていない。しかしながら,訂正事項7は上記(2)アで検討したように,「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものであって,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第7項の「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正」には当たらない。
よって,訂正後の請求項6に係る発明については,独立特許要件の適否について判断すべきものではない。
また,訂正後の請求項14に係る発明については,訂正前の請求項12に係る発明は,特許無効審判の請求がなされている。仮に,訂正前の請求項6を引用する請求項12に係る発明については,特許無効審判の請求がなされていないと解したとしても,訂正事項8も上記(2)アで検討したように,「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものであって,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第7項の「特許無効審判の請求がされていない請求項に係る第1項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とする訂正」には当たらない。
よって,訂正後の請求項14に係る発明についても,独立特許要件の適否について判断すべきものではない。

(7)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項6,14に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

6 請求項9及び請求項15からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項9(なお,訂正事項10は訂正事項9と同じである。)
訂正前の請求項9において,
「Xがアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;R^(1)が低級アルキル;R^(2)がハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)が低級アルキル;破線が二重結合の存在を表わす;R^(4)が水素または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオンである、請求項8記載の化合物。」とあるのを,
訂正後の請求項9において,
「式(I):
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の存在を、それぞれ表す。)で示される化合物。」と訂正する。

イ 訂正事項11
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
新たに訂正後の請求項15とし,
「請求項9に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項9について
訂正前の請求項9は,請求項8を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項9は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,請求項8を引用せずに,訂正前の請求項9を書き下すと,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル;;R^(2)がハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)が低級アルキル;R^(4)は水素または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の存在をそれぞれ表わす。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」となる。
そして,訂正後の請求項9は,訂正前の請求項9の
「R^(4)」を非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオンである「ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」に,
「X」を「メチルスルホニル基により置換されたイミノ基」にそれぞれ限定するものであって,また,「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合」には該当せず,「閉環ラクトン体」でもないから,訂正事項9は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

イ 訂正事項11について
訂正事項11は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,新たに訂正後の請求項15とし,一群の請求項として扱われる請求項9のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

(3)新規事項について
訂正事項9,11が,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
訂正前の請求項9には,「Xがメチルスルホニル基により置換されたイミノ基」であること,「破線が二重結合の存在を表わす」ことが記載され,また,上記1(3)で検討したとおり,その他の訂正後の請求項9における発明特定事項も,すべて訂正前の特許請求の範囲又は特許明細書に記載されていたといえるから,訂正事項9は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
また,訂正後の請求項15は,訂正後の請求項9のみを引用するようにしたものであって,訂正前の請求項12に「請求項1?11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤」と記載されているから,上述のとおり,訂正事項11も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項9,11は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項9は,上記(2)アで述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
訂正事項11も,上記(2)イで述べたとおり,訂正後の請求項15を,訂正後の請求項9のみを引用するようにするものであって,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項9,11は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項9,15についてみると,請求項9の記載を請求項15が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項9,15に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項9,15に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

7 請求項10及び請求項16からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項12(なお,訂正事項13,14は訂正事項12と同じである。)
訂正前の請求項10において,
「光学活性体である、請求項1?9のいずれかに記載の化合物」とあるのを,
訂正後の請求項10において,
「式(b)で示される化合物を、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、

式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、

式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法によって得られる
式(I):

(各式中、R^(1)は低級アルキル;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の存在;t-Buはtert-ブチル;C*は不斉炭素原子を、それぞれ表す。)で示される、光学活性体化合物。」と訂正する。

イ 訂正事項15
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
新たに訂正後の請求項16とし,
「請求項10に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項12について
訂正前の請求項10は,請求項1?9を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項12は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,請求項9を引用する訂正前の請求項10を,請求項9を引用せずに書き下すと,
「光学活性体である、
式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、R^(1)は低級アルキル;;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)は水素または非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xがアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の存在をそれぞれ表わす。但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」となる。
そして,訂正後の請求項10は,最終的に得られる化合物としては,
「式(I):

(各式中、R^(1)は低級アルキル;;R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;R^(3)は低級アルキル;R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;破線は2重結合の存在;t-Buはtert-ブチル;C*は不斉炭素原子を、それぞれ表す。)で示される、光学活性体化合物。」であり,
訂正前の請求項10の
「R^(4)」を非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオンである「ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」にそれぞれ限定するものであって,また,「R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合」には該当しない。
そして,訂正後の請求項10の化合物は,訂正後の請求項10に記載される特定の製造方法によって得られるものに限定し,さらに「閉環ラクトン体」を削除したものであるから,訂正事項12は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

イ 訂正事項15について
訂正事項15は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,新たに訂正後の請求項16とし,一群の請求項として扱われる請求項10のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

(3)新規事項について
訂正事項12,15が,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
訂正前の請求項9には,上記1(3)で検討したとおり,「R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン」であることは訂正前の特許請求の範囲又は特許明細書に記載されていたといえる。
そして,本件特許明細書には,段落【0011】?【0013】にかけて,
「式(b)で示される化合物を、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、
(上記式(b)と同じなので化学式は省略する。)
(上記式(c)と同じなので化学式は省略する。)
式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、
(上記式(d)と同じなので化学式は省略する。)
式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法によって得られる」こと,
「式(I)
(請求項10の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
」の化合物が記載されている。
そうすると,訂正事項12は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
また,訂正後の請求項16は,訂正後の請求項10のみを引用するようにしたものであって,訂正前の請求項12に「請求項1?11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤」と記載されているから,上述のとおり,訂正事項15も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項12,15は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項12は,上記(2)アで述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
訂正事項15も,上記(2)イで述べたとおり,訂正後の請求項16を,訂正後の請求項9のみを引用するようにするものであって,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項12,15は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項10,16についてみると,請求項10の記載を請求項16が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項10,16に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項10,16に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

8 請求項11及び請求項17からなる一群の請求項に係る訂正
(1)訂正の内容
ア 訂正事項16(なお,訂正事項17は訂正事項16と同じである。)
訂正前の請求項11において,
「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸またはそのカルシウム塩である、請求項10記載の化合物。」を,
訂正後の請求項11において,
「 (+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸のカルシウム塩。」と訂正する。

イ 訂正事項18
訂正前の請求項12において,
「請求項1から11のいずれかに記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」とあるのを,
新たに訂正後の請求項17とし,
「請求項11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」と訂正する。

(2)訂正の目的
ア 訂正事項16について
訂正前の請求項11は,請求項10を引用する形式で記載されていたところ,訂正後は他の請求項を引用せずに記載されているから,訂正事項16は,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。
また,訂正後の請求項11は,訂正前の請求項11の「ヘプテン酸またはそのカルシウム塩」が「ヘプテン酸のカルシウム塩」のみに限定されたものであるから,訂正事項16は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

イ 訂正事項18について
訂正事項18は,訂正前の請求項12が,請求項1?11を引用するものであったところ,新たに訂正後の請求項17とし,一群の請求項として扱われる請求項11のみを引用するようにしたものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第4号に掲げる「他の請求項を引用する当該他の請求項の記載を引用しないものすること」を目的とするものということができる。

(3)新規事項について
訂正事項16,18が,登録時の願書に添付した明細書,特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものかについて検討する。
訂正前の請求項11には,「(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」の「カルシウム塩」が明らかに記載されていたのであるから,訂正事項16は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
また,訂正後の請求項17は,訂正後の請求項11のみを引用するようにしたものであって,訂正前の請求項12に「請求項1?11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤」と記載されているから,上述のとおり,訂正事項17も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲の範囲内においてしたものであるといえる。
よって,訂正事項16,18は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(4)実質上特許請求の範囲の拡張又は変更について
訂正事項16は,上記(2)アで述べたとおり,「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるから,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
訂正事項18も,上記(2)イで述べたとおり,訂正後の請求項15を,訂正後の請求項9のみを引用するようにするものであって,明らかに実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものではない。
よって,訂正事項16,18は,特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものである。

(5)一群の請求項について
訂正後の請求項11,17についてみると,請求項11の記載を請求項17が引用するものであるから,特許法施行規則第46条の2第2号に掲げる関係に該当する。
よって,訂正後の請求項11,17に係る一群の請求項ごとの請求は,特許法第134条の2第3項に適合するものである。

(6)小括
以上のとおりであるから,訂正後の請求項11,17に係る一群の請求項ごとの訂正を認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり,本件訂正が認められたので,本件特許の請求項1,2,5,9?17に係る発明(以下「本件発明1」,「本件発明2」,「本件発明5」,「本件発明9」?「本件発明17」といい,合わせて「本件発明」という。)は,訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,5,9?17に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

【請求項1】式(I):
【化1】

(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。

【請求項2】(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸。

【請求項5】式(I):
【化2】
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物。

【請求項9】式(I):
【化4】
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在を、それぞれ表す。)
で示される化合物。

【請求項10】式(b)で示される化合物を、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、
【化3】

【化4】

式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、

式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法によって得られる
式(I):

(各式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在;
t-Buはtert-ブチル;
C*は不斉炭素原子を、それぞれ表す。)
で示される、光学活性体化合物。

【請求項11】(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸のカルシウム塩。

【請求項12】請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

【請求項13】請求項5に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

【請求項14】請求項6に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

【請求項15】請求項9に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

【請求項16】請求項10に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

【請求項17】請求項11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。

第4 請求の趣旨並びにその主張の概要及び請求人が提出した証拠方法
1 審判請求書,審判事件弁駁書,口頭審理陳述要領書,上申書に記載した無効理由の概要
請求人が主張する請求の趣旨は,
「特許第2648897号の請求項1ないし請求項5,請求項7ないし請求項12に係る特許は無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判請求書第2頁「請求の趣旨」,第1回口頭審理陳述要領書「請求人 1」参照)。
そして,請求人は本件訂正が認められた場合に,以下のとおりに,理由を補正することを求めているものと認める(審判事件弁駁書第7頁第8?20行,審理事項通知書「第2 2(1),(1)」,第1回口頭審理調書 「請求人 2」参照)。

(1)無効理由1
本件発明1,2,5,9?17は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件の請求項1,2,5,9?17に係る発明の特許が特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件発明1,2,5,9?17は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第7,8号証に記載された発明並びに本件出願時(優先日)の技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,本件の請求項1,2,5,9?17に係る発明の特許が特許法第29条の規定に違反してされたものであるから,同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

これに対して,当審は平成27年5月28日付けで補正許否の決定をし,上記の理由の補正を認める旨の決定をした。

2 請求人の提出した証拠方法
請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判請求書で提出した証拠方法
甲第1号証 特表平3-501613号公報
甲第2号証 特開平1-261377号公報
甲第3号証 「質問課題報告」と題する本件特許権者の内部文書
(DTX-72),1996年8月26日
甲第4号証 Adrian G. Flinn氏から塩野義製薬株式会社山口氏
あての書面(DTX-175),1997年12月17日
甲第5号証 「S-4522特許に関するゼネカ社とのこれまでのQ&A」
と題する本件特許権者の内部文書(PTX-0950),
1998年1月30日
甲第6号証 本件特許の特許出願に係る平成8年8月12日付け意見書
甲第7号証 Bruce D. Rothら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.34, No.1, p.463-466, 1991
甲第8号証 F. G. Kathawala, Medicinal Research Reviews,
Vol.11, No.2, p.121-146, 1991
甲第9号証 佐々木正, 作用分子設計 合成化学者のためのドラッグ
デザイン, 表紙,第123?136頁,奥付,
株式会社南江堂,1974年5月1日
甲第10号証 駒野徹ら訳, ライフサイエンス 基礎生化学,
表紙,第254?256頁,奥付,
株式会社化学同人, 1987年4月1日
甲第11号証 今堀和友ら監修, 生化学辞典,
表紙,第489?490頁,第1010頁,
株式会社東京化学同人, 1984年4月10日
甲第12号証 Stephen M. Bergeら, Journal of Pharmaceutical
Sciences, Vol.66, No.1, p.1-19, 1977
甲第13号証 Philip L. Gould, International Journal of
Pharmaceutics, Vol.33, p.201-207, 1986
甲第14号証 John A. Oates, The New England Journal of Medicine,
Vol.319, No.1, p.24-33, 1988

(2)審判事件弁駁書で提出した証拠方法
甲第15号証 S. Y. Sitら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.11, p.2982-2999, 1990
甲第16号証 特開平3-93773号公報
甲第17号証 Yoshio Tsujitaら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.877, p.50-60, 1986
甲第18号証 N. Balasubramanianら, Journal of Medicinal
Chemistry, Vol.32, No.9, p.2038-2041, 1989
甲第19号証 Rex. A. Parkerら, Journal of Lipid Research,
Vol.31, p.1271-1282, 1990
甲第20号証 本件特許の特許出願に係る優先権証明書
(特願平3-188015号)
甲第21号証 乙第37号証全文翻訳文
甲第22号証 Paul A. Grieco作成, 意見書, 2014年9月17日
甲第23号証 Donna L. Romero作成, 意見書,
2014年9月20日
甲第24号証 甲第8号証の表紙及び目次

(3)平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
甲第25号証 Paul A. Grieco作成, 意見書, 2015年2月8日
甲第26号証 Donna L. Romero作成, 意見書,
2015年2月10日

(4)平成27年3月6日付け上申書で提出した証拠方法
甲第7号証 表紙,目次も添付して再提出
甲第21号証 Thomas M. A. Bocanら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.1123, p.133-144, 1992として再提出

第5 答弁の趣旨並びにその主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法
1 審判事件答弁書,口頭審理陳述要領書,上申書に記載した答弁の概要
被請求人が主張する答弁の趣旨は,「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(審判事件答弁書第2頁「6 答弁の趣旨」,第1回口頭審理調書「被請求人 1」参照)。
そして,被請求人は請求人が主張する上記無効理由1,2は,審判事件答弁書,上申書,口頭審理陳述要領書において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 被請求人の提出した証拠方法
被請求人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)審判事件答弁書で提出した証拠方法
乙第1号証 Thomas A. Pearsonら, Arch. Intern. Med.,
Vol.160, p.459-467, 2000
乙第2号証 Michael H. Davidsonら, The American Journal of
Cardiology, Vol.96, p.556-563, 2005
乙第3号証 Thomas C. Andrewsら, The American Journal of
Medicine, Vol.111, p.185-191, 2001
乙第4号証 特開平1-294665号公報
乙第5号証 欧州特許出願第330057号のデータ,
NRI Cyber Patent
乙第6号証 米国再発行特許発明第37314号明細書
乙第7号証 米国デラウェア連邦地方裁判所,
Case 1:08-md -01949-JJF Document555,
2010年6月29日
(本件特許の対応米国特許の侵害訴訟第一審判決)
乙第8号証 米国連邦巡回控訴裁判所, ロスバスタチンカルシウム
特許訴訟判決, 2012年12月14日
(本件特許の対応米国特許の侵害訴訟控訴審判決)
乙第9号証 欧州特許出願公開第330057号明細書
乙第10号証 D. R. Sliskovicら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.1, p.31-38, 1990
乙第11号証 G. Beckら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.33, No.1, p.52-60, 1990
乙第12号証 特開昭64-29362号公報
乙第13号証 米国特許4868185号明細書
乙第14号証 Fergus McTaggartら, The American Journal of
Cardiology, Vol.87, p.28B-32B, 2001
乙第15号証 クレストール錠○R(審決注:丸文字の中にRである。
以下同じである。)の医薬品インタビューフォーム,
2013年3月
乙第16号証 武城英明, 成人病と生活習慣病, 第33巻,
第11号, 第1398?1402頁,
2003年11月
乙第17号証 Peter H. Jonesら, The American Journal of
Cardiology, Vol.92, p.152-160, 2003
乙第18号証 販売名「Crestor」(ロスバスタチンカルシウム)
錠の全処法情報, アストラゼネカ, 2010年
乙第19号証 Stephen J. Nichollsら, The American Journal of
Cardiology, Vol.105, p.69-76, 2010
乙第20号証 Steven E. Nissenら, JAMA, Vol.295, No.13,
p.1556-1565, 2006
乙第21号証 Tadateru Takayamaら, Circulation Journal,
Vol.73, p.2110-2117, 2009
乙第22号証 齋藤洋ら編, 医薬品の開発 第9巻,
医薬品の探索[II], 表紙,第107頁,奥付,
株式会社廣川書店, 平成2年9月26日
乙第23号証 「IW SDZ 264-745 VS. IW SDZ 265-129 PHARMACOLOGY」
と題するサンド・アクチエンゲゼルシャフト社の社内文書
乙第24号証 「Aw's (DC) and IW's (IC)」と題する
サンド・アクチエンゲゼルシャフト社の社内文書
乙第25号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, ロスバスタチンカルシ
ウム特許訴訟(MDL No.08-1949)におけるKathawara博士
の証言記録, 表紙,第194?197頁,
2009年7月15日
乙第26号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, ロスバスタチンカルシ
ウム特許訴訟(MDL No.08-1949)におけるRoush博士の
証言記録, 表紙,第1795?1798頁,
2010年3月3日
乙第27号証 Saleem Ahmadら, Journal of Medicinal Chemistry,
Vol.51, No.9, 2722-2733, 2008
乙第28号証 David J Newmanら, Future Med. Chem.,
Vol, No.8, p.1415-1427, 2009
乙第29号証 ブリストルマイヤーズスクイブ社の2014年2月1日
時点での開発品(パイプライン)を掲載するインターネッ
ト記事
http://www.bms.com/research/pipeline/
Pages/default.aspx
乙第30号証 医薬品市場へのアクセス2013, 表紙,
「調査概要」の頁, 第22,128頁,奥付,
テスタマーケティング株式会社, 2013年3月27日
乙第31号証 「2012年世界のブロックバスター 抗がん剤15製品
ランクイン 疾患別で最多 ミクス調べ」と題する
ミクスonlineの記事
https://www.mixonline.jp/Article/tabid/55/artid/
44547/Default.aspx
乙第32号証 「2012年世界のブロックバスター(ミクス編集部まと
め)」と題する資料
乙第33号証 C&EN, Vol.91, No.49, 表紙,目次,p.14, 2013
乙第34号証 「Top 100 Most Prescribed, Top Selling Drugs」
と題するMedscapeの記事, 2014年5月13日
http://www.medscape.com/viewarticle/825023_print
乙第35号証 R. Krause, J. Drug Dev., Vol.3(Suppl. 1),
p.255-257, 1990
乙第36号証 ロバスタチンとHR-780の構造式とCLogPを記載した書面
乙第37号証 Thomas M. A. Bocanら, Biochimica et Biophysica Acta,
Vol.1123, p.133-144, 1992
乙第38号証 Eve E. Slaterら, Drugs Vol.36(suppl.3) p.72-82, 1988
乙第39号証 Alfred W. Alberts, The American Journal of
Cardiology, Vol.62, p.10J-15J, 1988
乙第40号証 甲第1号証実施例11dの化合物のCLogP値を算出した
ChemBioDraw Ultra 13.0の画面
乙第41号証 森岡裕典作成, 陳述書, 2014年6月24日

(2)上申書で提出した証拠方法
乙第42号証 サンド社の前臨床試験提案書, 第1頁,
1989年6月1日
乙第43号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, ロスバスタチンカルシ
ウム特許訴訟(MDL No.08-1949)におけるKathawara博士
の証言記録, 表紙,第298?301頁,
2009年7月15日
乙第44号証 米国ニュージャージー州連邦地方裁判所,
Case 1:08-md-01949-JJUF Document 86-2,
2009年3月6日(米国ニュージャージ一連邦地方裁判
所からのKatahawara博士宛の召喚状)
乙第45号証 William R. Roush作成, 意見書,
2015年1月26日
乙第46号証 欧州特許庁Arne Nielsen-HannerupからKanemoto氏への
電子メール, HTML形式の表示画面及びとテキスト
形式の表示画面のプリントアウト,
2014年11月7日
乙第47号証 佐々木正, 作用分子設計 合成化学者のためのドラッグ
デザイン, 表紙,第164頁,奥付,
株式会社南江堂, 1974年5月1日
乙第48号証 京都大学国際高等教育院特定教授 伊藤信行作成,
意見書, 平成27年1月27日
乙第49号証 塩野義製薬株式会社 上野元伸作成, 試験報告書,
2015年1月22日
乙第50号証 クレストール錠2.5mg、クレストール錠5mg、クレストー
ル錠10mgに関する資料, 表紙,目次,第305頁,
アストラゼネカ株式会社
乙第51号証 アストラゼネカ株式会社 非臨床統括部長(氏名不明)
作成, 申請資料の信頼性基準についての陳述書,
平成16年8月30日
乙第52号証 厚生省医薬安全局審査管理課長, 非臨床薬物動態試験ガ
イドラインについて (医薬審第496号),
平成10年6月26日
乙第53号証 塩野義株式会社 坂本真吾作成,
試験報告書(CYP阻害試験), 2015年1月22日
乙第54号証 塩野義株式会社 坂本真吾作成,
試験報告書(代謝安定性試験), 2015年1月22日
乙第55号証 Fank J. Gonzalez, Pharmacological Reviews,
Vol.40, No.4, p.243-288, 1989

第6 参加人の主張の概要及び参加人が提出した証拠方法
1 上申書,口頭審理陳述要領書に記載した主張の概要
参加人の主張の概要は,
「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。との審決を求める。」であると認める(平成26年11月18日付け上申書第2頁「6 上申の趣旨」,第1回口頭審理調書「参加人 2」参照)。
そして,参加人は請求人が主張する上記無効理由1,2は,平成26年11月18日付け上申書(以下「参加人第1回上申書」という。),平成27年1月28日付け上申書(以下「参加人第2回上申書」という。),口頭審理陳述要領書,平成27年2月23日付け上申書(以下「参加人第3回上申書」という。)において,いずれも理由がない旨の主張をしていると認める。

2 参加人の提出した証拠方法
参加人の提出した証拠方法は,以下のとおりである。

(1)参加人第1回上申書で提出した証拠方法
丙第1号証 販売名「Crestor」(ロスバスタチンカルシウム)
錠の全処法情報, 第1?4頁, 2013年8月
丙第2号証 南山堂 医学大辞典 第18版, 表紙,第932,
1493?1494頁,奥付, 株式会社南山堂,
1998年1月16日
丙第3号証 五島雄一郎ら, 医学のあゆみ, 第153巻,
第12号, 第713?740頁,
1990年6月23日
丙第4号証 特公昭64-1476号公報
丙第5号証 特公昭64-1476号公報に関するIPDLの文献番号
検索結果
丙第6号証 北野裕司作成, 陳述書, 2014年7月10日
丙第7号証 特開平3-215452号公報
丙第8号証 特開平3-236384号公報
丙第9号証 「CORTELLIS^(TM) FOR COMPETITIVE INTELLIGENCE」
と題するパンフレット, トムソン・ロイター社
丙第10号証 データべース「CORTELLIS^(TM) 」の検索条件の入力画面
丙第11号証 データべース「CORTELLIS^(TM) 」の検索結果
丙第12号証 「THOMSON REUTERS CORTELLIS^(TM) COMPETITIVE
INTELLIGENCE QUICK GUIDE SERIES: No.6」
と題するパンフレット, トムソン・ロイター社

(2)参加人第2回上申書で提出した証拠方法
丙第13号証 厚生労働省, 医薬品産業ビジョン2013 資料編,
表紙,目次,第16,20,36頁
丙第14号証 厚生労働省ホームページ, 「医薬品産業ビジョン
2013」、「医療機器産業ビジョン2013」
について, 平成25年6月26日
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/
kenkou_iryou/iryou/shinkou/vision._2013.html
丙第15号証 判例タイムズ, 第1383号, 第357?358頁,
2013年2月
丙第16号証 塚原朋一, 知的財産法の新しい流れ 片山英二先生還暦
記念論文集, 第417?433頁,
2010年11月28日
丙第17号証 新医薬品承認審査実務に関わる審査員のための留意事項, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構,
平成20年4月17日
丙第18号証 加藤晃, JAVCERM Journal, 第1号,
表紙, 第1,2,12?15頁, 2011
丙第19号証 John Pears, 「CRESTOR: The Benefit-Risk
Profile of the Best Statin」と題する資料,
PTX1594-0001, 0002, 0006-0009, 0013-0015, 0055,
0061頁
丙第20号証 米国デラウェア連邦地方裁判所, C. A. No. 10-915-LPS
におけるJohn Pears博士の証言記録,
第1?4,81?100頁, 2012年12月12日

(3)口頭審理陳述要領書で提出した証拠方法
丙第21号証 判例タイムズ, 第360号, 表紙,第148頁,
1978年

第7 無効理由についての当審の判断
当審は,本件発明1,2,5,9?17に係る特許については,上記無効理由及び証拠によっては無効とすることはできないものと認める。
その理由は,以下のとおりである。

1 無効理由1について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第1号証には,以下の事項が記載されている。
(1a)「1.遊離酸型、またはそのエステルもしくはδ-ラクトン型、或いは適当ならば塩型における式I

式中、R^(1)及びR^(2)は独立に、
不斉炭素原子を含まぬC_(1?6)アルキル;
C_(3?6)シクロアルキル;または

であり、ここで、
mは0、1、2または3であり;
R^(3)は水素、C_(1?3)アルキル、n-ブチル、i-ブチル、t-ブチル、C_(1?3)アルコキシ、n-ブトキシ、i-ブトキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フエノキシまたはベンジルオキシであり;
R^(4)は水素、C_(1?3)アルキル、C_(1?3)アルコキシ、トリフルオロメチル、フルオロ、クロロ、フェノキシまたはベンジルオキシであり;そして
R^(5)は水素、C_(1?2)アルキル、C_(1?2)アルコキシ、フルオロまたはクロロであり;条件として、
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがトリフルオロメチルであり;
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがフエノキシであり;そして
多くて、R^(3)及びR^(4)の1つがベンジルオキシであるものとする;或いは
R^(1)は上に定義したとおりであり、そして
R^(2)はベンジルオキシ;
ペンジルチオ;
-N(R^(8))_(2)、但し、R^(8)は独立に、不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキルであるか、または双方のR^(8)は窒素原子と一緒になって、5-、6-または7-員の随時置換されていてもよい環の部分を形成し、該環は随時ヘテロ原子を含んでいてもよい(環B);または
Qであり、ここで、
QはQ’またはQ”であり、ここで、Q’は複素環式基であり、該基は随時C_(1?2)アルキルまたはC_(1?2)アルコキシで一置換または独立に二置換されていてもよく、そして
Q”はQ”a、但し、Q”aは

式中、R^(3)、R^(4)及びR^(5)は条件も含めて、上に定義したとおりである、
である、または
Q”b、但し、Q”bは

式中、R^(4)及びR^(5)は上に定義したとおりである、
である、であり;
Xはエチレンまたはビニレンであり;そして
Yは式

式中、R^(6)は水素またはC_(1?3)アルキルであり;そしてR^(7)は水素、エステル基(R^(7)’)またはカチオン(M)である、
の基Y’;式

式中、R^(6)は上に定義したとおりである、
の基Y”;または式

式中、R^(6)及びR^(7)は上に定義したとおりである、
の基Y”’であり:条件として、
Yが基Y”’である場合、
Xはビニレンであり、そして/またはR^(6)はC_(1?3)アルキルであるものとする、
の化合物。」(特許請求の範囲第1項)
(1b)「殊に本化合物は次の試薬において活性を示す:
試験A.3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素阻害の試験管内顆粒体評価分析:ヨーロッパ特許第114,027号に記載されている:
試験Aによって次の結果が得られた:
実施例11dの生成物:IC_(50)=0.039μM;
実施例1b)の生成物:IC_(50)=0.026μM;
コンパクチン(Compactin):IC_(50)=1.01μM;
メビノリン(Mevinolin):IC_(50)=0.352μM。
IC_(50)は、HMG-CoA還元酵素活性の50%阻害をもたらすために計算された評価分析系における試験物質の濃度である。試験を0.05μM乃至1000μM間の試験物質の濃度で行った。
試験B.生体内コレステロール生合成阻害試験:ヨーロッパ特許第114,027号に記載されている:
試験Bによって次の結果が得られた:
実施例11dの生成物:ED_(50)=0.04mg/kg;
実施例1b)の生成物:ED_(50)=0.028mg/kg;
コンパクチン:ED_(50)=3.5mg/kg;
メビノリン:ED_(50)=0.41mg/kg。
ED_(50)は、3β-ヒドロキシステロール合成の50%阻害をもたらすために計算された試験物質の投薬量である。試験を0.01mg/kg乃至10mg/kg間の試験投薬量で行った。
上記の試験データは、本化合物がコレステロール生合成における律速酵素、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)の拮抗阻害剤であり、従つて、本化合物はコレステロール生合成の阻害剤であることを示している。従つて、本化合物は動物、例えば哺乳類、特に大きな霊長類の動物における血中コレステロールレベルを降下させる際の用途を示し、過脂肪蛋白血症処置剤及び抗アテローム性動脈硬化剤としての用途を示している。」(第11頁右欄第9行?第12頁左上欄第13行)
(1c)「実施例1:(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプタン酸、(1,1-ジメチルエチル)エステル;及びナトリウム塩
(R^(1)=インプロピル;R^(2)=ジメチルアミノ;Q=4-フルオロフェニル;X=(E)-CH=CH-;Y=基Y’、但し、R^(4)=H、R^(7)=tert-ブチルまたはNaそして立体配置は3R,5Sである)
[(方法c)(脱保護)及び塩型で回収]

a)脱保護:
CH_(3)CN350ml(審決注:「l」の筆記体である。以下同じである。)に溶解した(3R,5S)-[E]-3,5-ビス[[(1,1-ジメチルエチル)-ジフェニルシリル]オキシ]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-6-ヘプテン酸、1,1-ジメチルエチルエステル(下記参照)14.2gをフッ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、三水和物47.2g、アセトニトリル350ml及び氷酢酸9g(8.6ml)の混合物に加えた。混合物をアルゴン下にて45?50℃で撹拌し、次に65℃で24時間撹拌した。反応混合物を飽和塩化ナトリウム溶液150ml、飽和炭酸ナトリウム溶液200ml及び水1.35L(審決注:「l」の筆記体である。)に注ぎ(添加後のpHをほぼ7.5?8.5にすべきである)、混合物をジエチルエーテルで3回抽出した。ジエチルエーテル抽出液を合液し、水各500mlで3回洗浄し、無水MgSO_(4)上で乾燥し、濾過し、減圧下で蒸発させ、油を得た。粗製の生成物を230-400ASTMシリカゲル上で、溶離剤としてヘキサン:酢酸エチル6:4混合物を用いて、フラッシュクロマトグラフィーにかけた。黄色油が単離されこのものをヘキサンと共に砕解し、淡黄色粉末を得た。(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸、(1,1-ジメチルエチル)エステルが得られた(融点114?116℃;[α]_(D)^(25)=+7.7°、CHCl_(3))
b)加水分解:
上記の工程a)の生成物12.35g、1N NaOH26.0ml及びエタノール150mlを合わせ、室温で3?4時間撹拌した。溶媒を回転蒸発機で蒸発させた。残渣をトルエン約150mlで処理し、トルエンを回転蒸発機で蒸発させた。これをくり返し行い、最終残渣をヘキサン-エーテルの混合物と共に砕解し、淡黄色固体を得た。このものを濾過し、乾燥し、(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプタン酸(審決注:ヘプテン酸の誤記と認める。)ナトリウムを得た(融点231?233℃;[α]_(D)^(25)=+33.3°、c=H_(2)O 1ml中20.625mg)。」(第12頁左下欄第3行?第13頁左上欄第3行)

イ 甲第2号証の記載事項
本件特許出願の優先日前に頒布された甲第2号証には,以下の事項が記載されている。
(2a)「1.一般式

式中、R^(1)はシクロアルキルを表わすか、或いは
アルキルを表わし、該基はハロゲン、シアノ、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルホニル、アルコキシカルボニルもしくはアシルで、または式-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は同一もしくは相異なるものであり、アルキル、アリール、アラルキル、アシル、アルキルスルホニルまたはアリールスルホニルを表わす、
の基で、またはカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、ヘテロアリール、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルコキシ、アラルキルチオもしくはアラルキルスルホニルで置換されていてもよく、最後に述べた置換基のヘテロアリール及びアリール基はハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキル、アルコキシ、アルキルチオまたはアルキルスルホニルからなる同一もしくは相異なる置換基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、
R^(2)はヘテロアリールを表わし、該基はハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオもしくはアルコキシカルボニルまたは式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく或いはR^(2)はアリールを表わし、該基はアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルキル、アラルコキシ、アラルキルチオ、アラルキルスルホニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、アルコキシカルボニル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、カルバモイルもしくはジアルキルカルバモイル、または式
-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換乃至五置換されていてもよく、
R^(3)は水素を表わすか、
シクロアルキルを表わすか、
アルキルを表わし、該基はハロゲン、シアノ、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、トリフルオロメチルスルホニル、アルコキシカルボニルもしくはアシルで、或いは式-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基で、またはカルバモイル、ジアルキルカルバモイル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、ヘテロアリール、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルコキシ、アラルキルチオもしくはアラルキルスルホニルで置換されていてもよく、最後に述べた置換基のヘテロアリール及びアリール基はハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、アルキル、アルコキシ、アルキルチオまたはアルキルスルホニルからなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、または
R^(3)はヘテロアリールを表わし、該基はハロゲン、アルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオもしはアルコキシで、または式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、或いは
R^(3)はアリールを表わし、該基はアルキル、アルコキシ、アルキルチオ、アルキルスルホニル、アリール、アリールオキシ、アリールチオ、アリールスルホニル、アラルキル、アラルコキシ、アラルキルチオ、アラルキルスルホニル、ハロゲン、シアノ、ニトロ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、アルコキシカルボニル、スルファモイル、ジアルキルスルファモイル、カルバモイルもしくはジアルキルカルボニルで、または式
-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基からなる同一もしくは相異なる基で一置換乃至五置換されていてもよく、或いは
R^(3)はアルコキシ、アリールオキシ、アラルコキシ、アルキルチオ、アリールチオもしくはアラルキルチオを表わすか、または式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基を表わし、
Xは式-CH_(2)-CH_(2)-または-CH=CH-の基を表わし、そして
Aは式

の基を表わし、ここに、
R^(6)は水素またはアルキルを表わし、そしてR^(7)は水素を表わすか、
メチル、アラルキルまたはアリール基を表わすか、或いはカチオンを表わす、
の置換されたピリミジン。」(特許請求の範囲第1項)
(2b)「驚くべきことに、本発明における置換されたピリミジンはHMG-CoA還元酵素(3-ヒドロキシ-3-メチル-グルタリル補酵素A還元酵素)において良好な阻害作用を示す。」(第6頁左下欄第2?5行)
(2c)「R^(7)がカチオンを表わす場合、好ましくは生理学的に許容し得る金属カチオンまたはアンモニウムカチオンを意味する。これに関して、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオン、例えばナトリウムカチオン、カリウムカチオン、マグネシウムカチオンまたはカルシウムカチオン、及びまたアルミニウムカチオンまたはアンモニウムカチオン、並びにまたアミン、例えばジ低級アルキルアミン(C_(1)?約C_(6))、トリ低級アルキルアミン(C1?約C6)、ジベンジルアミン、N、N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-ベンジル-β-フェニルエチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、N、N’-ビス-ジヒドロアビエチルエチレンジアミン、N-低級アルキルピペリジン及び塩の生成に使用し得る他のアミンによる無毒性の置換されたアンモニウムカチオンが好ましい。」(第8頁右上欄第11行?左下欄第7行)
(2d)「一般式(I)の殊に好ましい化合物は、
R^(1)がシクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルを表わすか、或いはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルを表わし、その各々はフッ素、塩素、臭素、シアノ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンゾイル、アセチル、ピリジル、ピリミジル、チエニル、フリル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジルオキシ、ベンジルチオまたはベンジルスルホニルで置換されていてもよく、
R^(2)がピリジル、ピリミジル、キノリルまたはイソキノリルを表わし、該基はフッ素、塩素、メチル、メトキシまたはトリフルオロメチルで置換されていてもよく、或いは
R^(2)がフェニルを表わし、該基はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、フェニル、フェノキシ、ベンジル、ベンジルオキシ、フッ素、塩素、臭素、シアノ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルまたはtert-ブトキシカルボニルからなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、
R^(3)が水素、シクロプロピル、シクロペンチルまたはシクロヘキシルを表わすか、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシルまたはイソヘキシルを表わし、これらの基はフッ素、塩素、臭素、シアノ、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、tert-ブチルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、tert-ブチルスルホニル、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル、ベンゾイル、アセチルもしくはエチルカルボニルで、式-NR^(4)R^(5)、但し、
R^(4)及びR^(5)は同一もしくは相異なるものであり、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、フェニル、ベンジル、アセチル、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニルまたはフェニルスルホニルを表わす、
の基で、またはピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、キノリン、イソキノリン、チエニル、フリル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジルオキシ、ベンジルチオもしくはベンジルスルホニルで置換されていてもよく、上記のへテロアリール及びアリール基はフッ素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、トリフルオロメチルまたはトリフルオロメトキシで置換されていてもよく、或いは
R^(3)がチエニル、フリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、オキサシリル、イソキサゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、キノリル、イソキノリル、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリルまたはベンズチアゾリルを表わし、これらの基はフッ素、塩素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、フェニル、フェノキシ、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキンカルボニルまたはtert-ブトキシカルボニルで置換されていてもよく、或いは
R^(3)がフェニルを表わし、該基はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、tert-ブトキシ、メチルチオ、エチルチオ、プロピルチす、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチルチオ、tert-ブチルチオ、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニル、ブチルスルホニル、イソブチルスルホニル、tert-ブチルスルホニル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジル、ベンジルオキシ、ベンジルチオ、ベンジルスルホニル、フッ素、塩素、臭素、シアン、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、イソブトキシカルボニルもしくはtert-ブトキシカルボニルまたは基-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
からなる同一もしくは相異なる基で一置換、二置換または三置換されていてもよく、或いは
R^(3)がアルコキシ、アリールオキシ、アラルコキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アラルキルチオまたは式-NR^(4)R^(5)、但し、R^(4)及びR^(5)は上記の意味を有する、
の基を表わし」(第10頁左上欄下から第9行?第11頁左下欄第12行)
(2e)「実施例 8
メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[2,6-シメチル-4-(4-フルオロフェニル)-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第22頁左下欄第12?15行)
(2f)「実施例 15
メチルエリスロ(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-メチル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第24頁右上欄第1?5行)
(2g)「実施例 23
メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(第26頁左上欄下から第5行?末行)

ウ 甲第3号証の記載事項
「質問課題報告」と題する本件特許権者の内部文書である甲第3号証には,以下の事項が記載されている。
(3a)「[緒言]
HMG-CoA還元酵素阻害剤S-4522はコレステロール低下薬として開発が進められ現在第二相試験が進行中である。その一方、本阻害剤についてはヨーロッパ特許出願の準備が進められており、その特許審査では先行特許化合物であるSDZ-65129(サンド)とHMG-CoA還元酵素酵素阻害活性を比較したデータの提出が必要となっている。これについてはすでにわれわれはS-4522がSDZ-65129の約9倍の強い阻害活性を示すことを報告しているが^(1))、サンドの公開特許公報に記載されているSDZ-65129の阻害活性は対照薬のメビノリン(またはロバスタチン、MSD)の約13.5倍であり^(2))、S-4522が同じメビノニン(審決注:メビノリンの誤記である。)の約2倍^(3))に比し、この特許記載デー夕で比較する限りではSDZ-65129の方が逆に強いということになる。この矛盾する結果は、対照薬剤として用いられたメビノリンの阻害活性(IC_(50)値)がサンドとわれわれとで著しく異なることにあると思われる。すなわち、サンドのメビノリンのIC_(50)値が352nMであるのに対し、われわれのデータは23nMと両者で10倍以上の開きがみられる。実験方法に本質的な違いはないところから、使用したメビノリンの化学的な状態がサンドとわれわれとで異なっている可能性が高い。通常、メビノリンは構造の一部にラクトン環を有するものを指すが、そのままでは無効で、生体内でラクトンが開裂してカルボン酸となり効果を発揮するといわれている。われわれは後者のカルボン酸ナトリウム塩でHMG-CoA還元酵素阻害活性をみているが、サンドの場合は前者でみている可能性が強い。
今回これらの点を明らかにするためS-4522、メビノリンのカルボン酸ナトリウム塩(メビノリンNa)とラクトン体およびSDZ-65129の4化合物について阻害活性を平行試験により比較した。

」(第1頁第1?21行と化学式)
(3b)「[結果および考察]
S-4522、SDZ-65129、メビノリンNaおよびラクトン体のラット肝ミクロソームにおけるHMG-CoA還元酵素阻害活性を下表に示す。

対照薬として用いた2種のメビノリンのうち、メビノリンNaのIC_(50)値は28±9nMで、これは従来の結果(IC_(50)=23nM)^(3))にほぼ近い値であった。これに対しラクトン体は1830±360nM とメビノリンNaのl/60?1/70の活性で、ラクトン化によって阻害活性の著しい低下が見られた。この成績からサンド社のメビノリン(IC_(50)=352nM)がカルボン酸、ラクトン体のいずれかを推測すると、阻害活性でメビノリンNaの約1/13、ラクトン体の約5倍であるところから、活性のより近いラクトン体である可能性が強いと思われた。この時S-4522は14±3nMでメビノリンNaの2倍、またSDZ-65129は31±11nMとほぼ同等であった。先にS-4522がSDZ-65129の約9倍の活性を有することを報告したが、今回の両者の差は約2倍であった。この違いについてはS-4522、SD-65129のIC_(50)値が前回(各7.2nM、65nM)1)の値のそれぞれ上下2倍程度の変動であることでもあり、実験の精度等を考慮すればこの差はばらつきの範囲内と解釈される。
以上の結果はサンド社がSDZ-65129の比較時に用いたメビノリンがラクトン体(不活性型)である可能性を強く示唆するもので、S-4522のHMG-CoA還元酵素阻害活性がSDZ-65129よりも強いことに間違いのないことを示した。メビノリンのラクトン体はブロドラッグとしての意味しかないので、in vitroでの酵素阻害活性の評価には活性型のカルボン酸での結果が重要と思われる。」(第2頁第11行?第3頁第5行)

エ 甲第5号証の記載事項
「S-4522特許に関するゼネカ社とのこれまでのQ&A」と題する本件特許権者の内部文書である甲第5号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(5a)「○2(審決注:丸文字に2である。)2回目回答(サンドとの比較データのバラツキについて.Dec.24,1997)
(1)我々(審決注:塩野義製薬社)の研究者(加藤五郎氏)との相談の結果、我々は、S-4522とサンド-65129(欧州特許公開第367895号明細書(訳注:甲第1号証の対応欧州出願)の実施例1)とを比較している提供可能なデータが、以下に示す4回の測定だけであることを確認しました。

各測定は加藤氏によって監督されましたが、測定4は測定1?3とは別の日に実施されました。したがって、ご覧のように、これらの間には数値の不一致があります。これに関連して、我々は、あなた方(審決注:ゼネカ社)を混乱させてしまい大変申し訳ありません。
測定値が何故変動したのかは加藤氏には不明ですが、彼は、それは許容可能な限界の範囲内であり、アッセイ技術、実験中に行われたピペット操作及び測定、並びに、様々な他の作業に起因する変動といったことによって、少なくとも部分的に説明できると考えています。更に、使用されたサンプル及び試薬(アイソトープ等)、使用された物質のロットにおける違い、酵素源活性の安定性の問題、実験者又は実験室の違いも寄与する要素として考慮可能です。」(第5頁第1?17行)

(2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲第1号証の実施例1(摘記1c参照)には,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」を得る製造方法が具体的に記載されているから,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」は,化学構造式で表すと


式中、M=Na」であって,甲1発明は,
本件発明1の「式(I)」において,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明1と甲1発明とは,
両者とも,
「式(I)

(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(1-i)Xが,本件発明1では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(1-ii)R^(4)が,本件発明1では,水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
甲1発明は,甲第1号証の特許請求の範囲に記載される,
「式I

」において,
「R^(1)」として「不斉炭素を含まぬC_(1?6)アルキル」である「イソピロピル」を選択し,
「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)、但し、R^(8)は独立に、不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキルである」である「メチル」を選択し,
「Q」として「Q”」の「Q”a」の「R^(3)」,「R^(4)」,「R^(5)」のうち,2つが「水素」,1つが「フルオロ」を選択し,
「X」として「ビニレン」を選択し,
「Y」として「

」の「R^(6)」の「水素」,「R^(7)」の「カチオン」である「ナトリウムイオン」を選択したものといえる(摘記1a参照)。
また,甲1発明の化合物は,実施例1b)で得られたものであるから,「HMG-CoA還元酵素活性」を阻害する薬理活性を有することがデータで裏付けられているものである(摘記1b参照)。一方,甲第1号証の特許請求の範囲に記載される式Iで示される化合物は,甲1発明と同様の薬理活性を有することがすべての範囲で裏付けられているわけではないが,そのような薬理活性が一応期待される化合物として記載されているものとといえる。
そこで,本件発明1と甲第1号証の特許請求の範囲に記載された式Iとの関係をみると,本件発明1は,上記式Iの「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)」を選択し,さらに「R^(8)」が甲1発明のように「不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキル」である「メチル」ではなく,一方の「R^(8)」として-SO_(2)CH_(3)を選択したものといえるが,このような置換基を選択した化合物は,上記式Iの範囲に含まれてはいない。
そうすると,甲第1号証の式Iに含まれない化合物については,「HMG-CoA還元酵素活性」を阻害する薬理活性を期待することすらできるとははいえないから,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない選択肢である「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換える動機付けがない。
次に,甲第2号証には,「一般式

」において,
「R^(1)」として「アルキル」を,
「R^(2)」として「アリール」を,
「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「アルキル」,「アルキルスルホニル」を,
「X」として「-CH=CH-」を,
「A」として


」で「R^(6)」として「水素」,「R^(7)」として「カチオン」を,それぞれ選択肢として含むことが記載され(摘記2a参照),さらに「一般式(I)の殊に好ましい化合物」として,
「R^(1)」として「イソプロピル」を,
「R^(2)」として「フェニル」で「フッ素」で一置換されたものを,
「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「メチル」,「メチルスルホニル」を,それぞれ選択肢として含むことも記載され(摘記2d参照),「R^(7)」として「カルシウムカチオン」を,選択肢として含むことも記載されている(摘記2c参照)。
甲第2号証の一般式(I)の化合物も,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供するものであって(摘記2b参照),甲第1号証の式Iと,ピリミジン環を基本骨格とし,そのピリミジン環の2,4,6位に置換基を有する化合物である点で共通するものであって,選択する置換基によっては両者に含まれる化合物が一部重複しているが,甲第1号証の式Iと甲第2号証の一般式(I)の化合物は,上記ピリミジン環の置換基の選択範囲がすべて一致しているわけではなく,それぞれ,別個の化学構造式を有する化合物として特定され,その化学構造式の化合物であることを前提にHMG-CoA還元酵素阻害剤となり得ることが記載されているものであって,化合物の構造が異なればHMG-CoA還元酵素阻害剤となるかは不明であるから,甲1発明を包含する甲1号証の式Iの化合物が,甲第2号証の一般式(I)の化合物と類似するとしても,甲1発明の特定の置換基を,甲第1号証に開示のない置換基に,甲第2号証の記載に基いて置換する動機付けが,そもそもあるとはいえない。
加えて,甲第2号証の一般式(I)の化合物における「R^(1)」,「R^(2)」,「R^(3)」は,それぞれきわめて多数の選択肢がある(摘記2a,2d参照)ところ,少なくとも「X」と「A」が同じ構造として具体的に実施例として記載されているのは,実施例8の「メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[2,6-ジメチル-4-(4-フルオロフェニル)-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がメチル),実施例15の「メチルエリスロ(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-メチル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がフェニル),実施例23の「メチルエリスロ-(E)-3,5-ジヒドロキシ-7-[4-(4-フルオロフェニル)6-イソプロピル-2-フェニル-ピリミド-5-イル]-ヘプト-6-エノエート」(R^(3)がフェニル)のみであって(摘記2e,2f,2g参照),「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択したものは一つも記載されていない。さらに,「-NR^(4)R^(5)」が置換した化合物についての製造方法も記載がなく,「-NR^(4)R^(5)」において,「R^(4)」,「R^(5)」として「メチル」と「メチルスルホニル」という特定の組み合わせを選択することの記載もない。
そうすると,甲第2号証に記載される一般式(I)において,きわめて多数の選択肢の中から可能性として考え得る置換基というだけの「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」で,「R^(4)」,「R^(5)」として「アルキル」と「アルキルスルホニル」を意図的に選択する動機付けがない。
したがって,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできないから,相違点(1-ii)について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

ウ 本件発明1の効果
上記イで述べたとおり,本件発明1は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないが,念のため,効果についても検討する。
本件発明1の効果は,強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤となる化合物を提供することにあるものと認める(本件特許明細書段落【0042】参照)。なお,本件特許明細書で具体的に薬理効果が裏付けられているのは,本件発明1の遊離酸やヘミカルシウム塩ではなく,Ia-1で示されるナトリウム塩であるが,ナトリウム塩が遊離酸やヘミカルシウム塩になったとしても,生体内では同じ化学構造となって薬理活性を生じると解されるから,塩の違いにより化合物の溶解性などの点で異なる可能性があるとしても,薬理活性としては,強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すと推認することができ,実際,甲第3号証によれば,ヘミカルシウム塩「S-4522」もNa塩と同様に強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示している(摘記3a,3b参照)から,上記推認が正しいことを裏付けているといえる。
一方,甲第1号証には,甲1発明の化合物がHMG-CoA還元酵素阻害活性を示すことが記載されている(摘記1b参照)ものの,甲1発明において,ピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えた場合に,HMG-CoA還元酵素阻害活性がどのようになるか記載がない。また,甲第2号証には,上述のとおり,式Iの「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択し,「R^(4)」,「R^(5)」の選択肢としてメチル,メチルスルホニルが併記されているが,メチル基とメチルスルホニル基が薬理活性として同等の置換基であることを示唆する記載もなく,「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択した化合物の実施例すら記載されておらず,このような化合物の薬理活性がどうなるかは甲第2号証の記載から予測できるとはいえない。
そして,薬理活性は,化合物の構造と密接に関連するものであって,薬理活性を有する化合物の置換基を一部変化させた場合に,これまで得られていた薬理活性が得られなくなることもあり得るから,甲第1,2号証に,甲1発明のピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えた化合物の薬理効果について何ら記載がない以上,本件発明1の効果は当業者が予測し得たものということはできない。
甲第3号証は,被請求人が実施した試験結果をまとめた内部文書であるが,甲1発明である「SDZ-65129」と本件発明1に含まれる「S-4522」とのHMG-CoA還元酵素阻害活性について,メビノリンを比較対象としたデータ相互間に矛盾があったことから,メビノリンNa及びメビノリン(ラクトン体)とともに,SDZ-65129とS-4522について,HMG-CoA還元酵素阻害活性を同じ条件で比較した試験結果を示したものである(摘記3a,3b参照)。
そして,甲第3号証に示されたHMG-CoA還元酵素阻害活性は,S-4522がSDZ-65129に対して2倍の活性を有することが記載され,「S-4522、SD-65129のIC_(50)値が前回(各7.2nM、65nM)の値のそれぞれ上下2倍程度の変動であることでもあり、実験の精度等を考慮すればこの差はばらつきの範囲内と解釈される。」との記載があるものの(摘記3b参照),甲第3号証で同1条件で試験したS-4522とSDZ-65129のIC_(50)値の差がばらつきの範囲であるとはいえず,S-4522がSDZ-65129よりも強い活性を有することは間違いがないことも明記されている(摘記3b参照)。
また,甲第5号証は,被請求人と参加人(ゼネカ社)とのQ&Aをまとめたものであるが,HMG-CoA還元酵素に対するS-4522とSDZ-65129のIC_(50)値が記載されている(摘記5a参照)。このIC_(50)値の測定1?3については,その平均値が甲第3号証のIC_(50)値と一致し,実施時期も一致していることからみて,甲第3号証で示されたS-4522とSDZ-65129のHMG-CoA還元酵素阻害のIC_(50)値の元データに当たるものと解される。このデータをみると,各測定ごとに値が異なり,値にばらつきがあるものの,この「値のばらつき」とは,「実験中に行われたピペット操作及び測定、並びに、様々な他の作業に起因する変動」(摘記5a参照)といった実験操作上に生じる実験ごとの違いなどによるものと解するのが自然であって,甲第3号証でいう「ばらつき」もそのように理解できるものである。一方,甲第5号証に示されたすべての測定において,S-4522のほうがSDZ-65129よりも小さい値となっており,個々の測定においては,S-4522のとSDZ-65129のIC_(50)値を同様の実験操作で試験しているものと解されるから,S-4522がSDZ-65129よりも強いHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することは甲第5号証によっても裏付けられているといえる。
また,甲第4号証は,IC_(50)値のデータの違いについて参加人から被請求人に問い合わせたことを示すものであり,甲第6号証に示されたIC_(50)値のデータがNa塩であるのに対して,これに対応する甲第5号証の測定4で示されたS-4522はCa塩である点でデータに疑義があるとしても,甲第3号証及び甲第5号証の測定1?3の結果から,S-4522がSDZ-65129よりも強いHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを否定する根拠にはならない。
仮に,両者の薬理活性において差がないとしても,本件発明1に顕著な効果があるか否かは,甲1発明及び本件優先日時点での技術常識から本件発明1の効果を予測し得たか否かで判断されるべきものであって,上述のように,甲1発明において,置換基を本件発明1となるように置換した場合に同じく強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性が得られることが予測できない以上,「SDZ-65129」と「S-4522」とのHMG-CoA還元酵素阻害活性の差にかかわらず,本件発明1の効果が顕著であることを否定することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから,本件発明1は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3-2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」であるから,
本件発明2と甲1発明とは,
「7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-置換アミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」である点で一致し,以下の点で相違している。
(2-i)ピリミジンの2位のN-メチル-N-置換アミノ基のN-置換基が,本件発明2ではメチルスルホニル基であるのに対し,甲1発明ではメチル基である点
(2-ii)本件発明2では遊離酸であるのに対し,甲1発明ではナトリウム塩である点
(2-iii)旋光性が,本件発明2では右旋性(+)であるのに対し,甲1発明では明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(2-i)は,上記相違点(1-i)に沿って記載し直すと,Xが,本件発明2では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点となり,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(2-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたはいえない。

(3-3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明5の「式(I)」においても,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明5と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(5-i)Xが,本件発明5では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(5-ii)R^(4)が,本件発明5では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
相違点(5-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(5-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明5は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえない。

(3-4)本件発明9について
ア 対比
本件発明9の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明9の「式(I)」においても,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明9と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(9-i)Xが,本件発明9では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(9-ii)R^(4)が,本件発明9では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点

イ 相違点の検討
相違点(9-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(9-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明9は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-5)本件発明10について
ア 対比
本件発明10の「式(I)」の化学構造式は,本件発明1の「式(I)」の化学構造式と不斉炭素原子(C*)の表示があるほかは同じであるから,上記(3-1)アで検討したとおり,甲1発明は,
本件発明10の「式(I)」においては,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物であって,C*の不斉炭素原子の光学活性体に対応する。
そうすると,本件発明10と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(各式中,
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在;
C*は不斉炭素原子を,それぞれ表す。)
で示される、光学活性体化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(10-i)Xが,本件発明10では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(10-ii)R^(4)が,本件発明10では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(10-iii)光学活性体化合物が,本件発明10では,
「式(b)で示される化合物を,(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と,
(上記式(b)と同じなので化学式は省略する。)
(上記式(c)と同じなので化学式は省略する。)
式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と,
(上記式(d)と同じなので化学式は省略する。)
式(d)で示される化合物を還元する工程と,を含む方法」によって得られるものであるのに対し,甲1発明では,そのような方法によって得られるものであるか明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(10-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(10-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明10は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-6)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1発明とを対比する。
甲1発明は,「(3R,5S)-[E]-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-(1-メチルエチル)-2-(ジメチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-3,5-ジヒドロキシ-6-ヘプテン酸ナトリウム塩」であるから,
本件発明11と甲1発明は,
「7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-置換アミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸の塩」である点で一致し,以下の点で相違している。
(11-i)ピリミジンの2位のN-メチル-N-置換アミノ基のN-置換基が,本件発明11ではメチルスルホニル基であるのに対し,甲1発明ではメチル基である点
(11-ii)塩が,本件発明11ではカルシウム塩であるのに対し,甲1発明ではナトリウム塩である点
(11-iii)旋光性が,本件発明11では右旋性(+)であるのに対し,甲1発明では明らかでない点

イ 相違点の検討
相違点(11-i)は,上記相違点(1-i)に沿って記載し直すと,Xが,本件発明11では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点となり,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(11-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明11は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-7)本件発明12に対して
ア 対比
本件発明12は,「請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-1)アで検討したとおり,
本件発明12と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(12-i)Xが,本件発明12では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(12-ii)R^(4)が,本件発明12では,水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(12-iii)本件発明12は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(12-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(12-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明12は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-8)本件発明13について
ア 対比
本件発明13は,「請求項5に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-3)アで検討したとおり,
本件発明13と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の有無を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(13-i)Xが,本件発明13では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(13-ii)R^(4)が,本件発明13では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(13-iii)本件発明13は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(13-i)は,相違点(5-i)と実質的に同じであるから,上記(3-3)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(13-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明13は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-9)本件発明14について
ア 対比
本件発明14は,「請求項6に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」である。そこで,請求項6に記載に沿って書き下すと,
本件発明14は,
「式(I):
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;
Xは硫黄、酸素、スルホニル基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。
但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)がおよびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」である。
本件発明14の「式(I)」において,
「R^(1)」が「メチル」,「R^(2)」が「4-フルオロフェニル」,「R^(3)」が「1-メチルエチル」(イソプロピル),「R^(4)」が「Na」,「X」がメチル基により置換されたイミノ基,「破線」が二重結合の存在を表す化合物に対応する。
そうすると,本件発明14と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。
但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)がおよびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)
で示される化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(14-i)Xが,本件発明14では,「硫黄、酸素、スルホニル基」であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(14-ii)本件発明14は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(14-i)について検討すると,甲第1,2号証のいずれにも,甲1発明において,「メチル基により置換されたイミノ基」の部分を「硫黄、酸素、スルホニル基」に置き換えることについて記載も示唆もない。
よって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明14は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-10)本件発明15について
ア 対比
本件発明15は,「請求項9に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-4)アで検討したとおり,
本件発明15と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在を,それぞれ表す。)
で示される化合物」である点一致し,以下の点で相違している。
(15-i)Xが,本件発明15では,メチルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(15-ii)R^(4)が,本件発明15では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(15-iii)本件発明15は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(15-i)は,相違点(9-i)と実質的に同じであるから,上記(3-4)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(15-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明15は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-11)本件発明16に対して
ア 対比
本件発明16は,「請求項10に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-5)アで検討したとおり,
本件発明16と甲1発明とは,
「式(I)
(請求項1の式(I)と同じなので化学式は省略する。)
(各式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
破線は2重結合の存在;
C*は不斉炭素原子を,それぞれ表す。)
で示される,光学活性体化合物」である点で一致し,以下の点で相違している。
(16-i)Xが,本件発明16では,アルキルスルホニル基により置換されたイミノ基であるのに対し,甲1発明では,メチル基により置換されたイミノ基である点
(16-ii)R^(4)が,本件発明16では,ヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオンであるのに対し,甲1発明では,ナトリウム塩を形成するナトリウムイオンである点
(16-iii)光学活性体化合物が,本件発明16では,
「式(b)で示される化合物を,(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、
(式(b),式(c)の化学式は上記の化学式と同じなので省略する。)
式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、
(式(d)の化学式は上記の化学式と同じなので省略する。)
式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法」によって得られるものであるのに対し,甲1発明では,そのような方法によって得られるものであるか明らかでない点
(16-iv)本件発明16は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(16-i)は,相違点(10-i)と実質的に同じであるから,上記(3-5)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(16-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明16は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-12)本件発明17について
本件発明17は,「請求項11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。」であるから,上記(3-6)アで検討したとおり,
本件発明17と甲1発明とは,
「7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-置換アミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸」である点で一致し,以下の点で相違している。
(17-i)ピリミジンの2位のN-メチル-N-置換アミノ基のN-置換基が,本件発明17ではメチルスルホニル基であるのに対し,甲1発明ではメチル基である点
(17-ii)塩が,本件発明17ではカルシウム塩であるのに対し,甲1発明ではナトリウム塩である点
(17-iii)旋光性が,本件発明17では右旋性(+)であるのに対し,甲1発明では明らかでない点
(17-iv)本件発明17は,該化合物を有効成分として含有するHMG-CoA還元酵素阻害剤であるのに対し,甲1発明は,該化合物を有効成分として含有する剤ではない点

イ 相違点の検討
相違点(17-i)は,相違点(11-i)と実質的に同じであるから,上記(3-6)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(17-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明17は甲1発明及び甲第2号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要(審判請求書第40頁第20行?第41頁第4行,弁駁書第17頁第2行?第27頁第5行,口頭審理陳述要領書第6頁第8行?第8頁第5行,第14頁第11行?第17頁第6行,第18頁第3行?第19頁第16行)
請求人は,以下の主張をしている。
甲第1号証と甲第2号証とは,HMG-CoA還元酵素阻害剤を提供するという課題が共通しており,甲第1号証及び甲第2号証に開示される化合物は共通するピリミジン骨格を有しており,当業者であれば,甲1発明から出発して甲第2号証をみれば,甲1発明のピリミジン環の2位に着目する。
甲第2号証に「殊に好ましい」例として,ピリミジン環の2位(構造式Iの「R^(2)」)に-NR^(4)R^(5)が結合している場合が,具体的に記載されており,そこではR^(4)とR^(5)の例として,メチル基と置換スルホニル基が同列に挙げられているから,HMG-CoA還元酵素阻害活性を有するピリミジン系化合物のピリミジン環の2位に-NR^(4)R^(5)が結合される場合,R^(4)及びR^(5)のメチル基を置換スルホニル基に置換可能であることが示唆されている。
そして,甲第2号証には,一般式(I)の「R^(3)」が「-NR^(4)R^(5)」の場合の「R^(4)とR^(5)」の選択肢として,15個の置換基しか記載されておらず,十分少ないから,その選択肢にあるメチル基からメチルスルホニル基に代えてみることは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎず,この点は専門家の鑑定意見(甲第22号証,甲第23号証)からも明らかである。
また,甲第2号証の記載内容を,実施例等として記載されている化合物に限って考慮すべきではなく,甲第2号証には,一般式(I)の親水性基又は親水性基含有基が許容され,ピリミジン環に親水性の置換基である-NR^(4)R^(5)について記載されているのであるから,「殊に好ましい」とされている-NR^(4)R^(5)に着目するはずであり,実施例の記載にかかわらず-NR^(4)R^(5)の記載から置換基を選択することを妨げるものではない。

イ 請求人の主張の検討
まず,上記(3)(3-1)イで述べたように,そもそも別の化合物である甲第2号証の記載をして,甲第1号証の開示を超えて,甲1発明に記載のない置換基に置換する動機付けがあるとはいえない。
次に,甲第2号証の構造式Iの「殊に好ましい」とされる化合物において,-NR^(4)R^(5)は「R^(3)」のきわめて多数の選択肢の一つとして記載され,さらにR^(4)とR^(5)の選択肢も「R^(4)及びR^(5)は・・・メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチル、フェニル、ベンジル、アセチル、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、イソプロピルスルホニルまたはフェニルスルホニルを表わす、
の基で、またはピリジル、ピリミジル、ピラジニル、ピリダジニル、キノリン、イソキノリン、チエニル、フリル、フェニル、フェノキシ、フェニルチオ、フェニルスルホニル、ベンジルオキシ、ベンジルチオもしくはベンジルスルホニルで置換されていてもよく」と記載されるように(摘記2d参照),15個の選択肢として示された置換基に加えて,当該置換基に様々な置換基がさらに置換することも許容しているから,わずか15個の選択肢ということもできない。また,R^(4)とR^(5)の組み合わせも考慮すれば,甲第2号証の一般式(I)の「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」を選択し,さらに「R^(4)とR^(5)」としてそれぞれ「メチル」と「メチルスルホニル」を選択することは,そのような特定の組み合わせを示唆する記載がない限り,当業者といえども相当の困難が伴うものと認められる。
また,甲第2号証の記載内容を実施例に記載されている化合物に限って考慮すべき必要はないものの,甲第2号証の一般式(I)は,上述のとおり,きわめて多数の選択可能な置換基から選択されるきわめて多数の化合物を包含している以上,これらの可能性として選択し得る置換基を組み合わせた化合物がすべて甲第2号証に記載された化合物とはいえず,甲第2号証の記載された化合物といえるには,明細書等の記載からその化合物が具体的に特定でき,実施例に具体的な記載がない場合には,明細書の記載や技術常識にしたがって当該化合物を当業者が具体的に得ることができるものである必要があると解される。
そして,甲第2号証には,上記(3)(3-1)イで述べたように,甲第2号証の一般式(I)においてR^(3)として-NR^(4)R^(5)が置換した化合物は一つとして実施例として記載されておらず,どのように,-NR^(4)R^(5)が置換した化合物を得るのかについても具体的な記載がなく,さらに,「R^(4)とR^(5)」として,それぞれ「メチル」と「メチルスルホニル」を選択した化合物についても具体的に特定して記載されていないから,このような化合物については,甲第2号証に記載されたものとして当業者が認識できるとはいえない。
そうすると,甲第2号証には,一般式(I)の「R^(3)」として「-NR^(4)R^(5)」が,「R^(4)とR^(5)」として「アルキル」と「アルキルスルホニル」が記載されてはいるものの,きわめて多数の選択肢の中から可能性として考え得るというだけであって,甲第2号証の記載からこのような選択肢を具体的な化合物として認識し得ないものであるから,甲第2号証の記載に基いて,甲1発明のジメチルアミノ基の一方のメチル基のみをアルキルスルホニル基に置き換える動機付けがあるとはいえない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1,2,5,9?17は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 無効理由2について
(1)甲号証の記載事項
ア 甲第1号証の記載事項
上記1(1)アに記載したとおりである。

イ 甲第7号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第7号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(7a)「HMG-CoA還元酵素阻害薬についての組織選択性と親油性との関係」(第463頁左欄第37?39行)
(7b)「現在、HMG-CoA還元酵素(HMGR)の阻害が、高コレステロール患者における血漿中総コレステロール及びLDLコレステロール低減の有効な手段であることが確認されている^(1)。しかし、これらの薬剤の長期安全性は、まだ立証されていない。・・・最近、文献において、種々のHMGR阻害薬の特性及び組織(肝)選択性が存在することの両方に関して、また肝臓に対するHMGR阻害薬の作用を明確にすることにより副作用発現率を低減できるか否かについて、多くの議論がなされてきた。・・・薬剤の相対的親油性によって組織選択性が主に影響され、相対的により親水性の化合物がより高い肝臓選択性を示すことが提唱されてきた^(10)。この分野における筆者らの研究計画中に自ら調製したHMGR阻害薬の構造及び親油性がかなり異なることから、筆者らはこの仮説を直接検討することにした。そのため、広範囲の親油性計算値(CLOGP)を有する効力の高い阻害薬を選択し、ラットの肝臓、脾臓及び精巣に由来する組織片中において、ステロール合成の阻害能を比較した。これらの研究の結果について、ここに報告する。

(審決注:「2.ブラバスタチ」は,「2.ブラバスタチン」の誤記であり,「3.フルバスタチ」は,「3.フルバスタチン」の誤記である。)
」(第463頁左欄第40行?右欄第25行)
(7c)「表I

a ジヒドロキシ酸の算出logP(Med Chem Ver3.54)
・・・」(第464頁TableI)
(7d)「生物学的結果
ロバスタチン、プラバスタチン及び他のHMG-CoA還元酵素阻害薬の開環ジヒドロキシ酸が血漿中を循環する主要な活性部分であるという証拠が多いことから^(13)、全化合物をこの形態で検討した。固有の効力の測定法として、まず各化合物についてin vitroでミクロソームHMGRの阻害能を検討した^(14)。その後、肝効果と末梢効果を比較評価するために、肝臓、牌臓及び精巣に由来する組織片中で、化合物がステール内に[^(14)C]酢酸を組入れる効果を測定した^(15)。これらの研究結果を検討したところ、化合物間に有意の差が存在すること、及び親油性が重要な因子であることを示唆している(表I、化合物は親油性が低いほうから順に並べてある)。このように、CLOGP<2の化合物(化合物11、2、4、9及び8)はすべて、組織/肝比>1で示される中等度の組織選択性を有する。一般的に、CLOGP>2の化合物は、肝臓と比較して末梢組織において効力が高い。ここで例外となる2種は、肝組織と末梢組織で同等の効力を示す化合物5、及び精巣においてステロール合成を強力に阻害する(しかし肺臓ではこれは当てはまらない)化合物3である。」(第464頁左欄第17行?右欄末行)
(7e)「上記のとおり、肝臓とその他の組織との選択性が等しい『閾値点』は、CLOGP=(審決注:「=」の上に「?」がある記号である。)2である。これ以下では化合物が肝臓に選択的となり、これを越えると周辺組織に選択的となる。」(第465頁左欄第8?12行)

ウ 甲第8号証の記載事項
甲第24号証からみて本件優先日前に頒布されたといえる甲第8号証には,日本語に訳して以下の事項が記載されている。
(8a)「HMG-CoA還元酵素阻害剤:高リポタンパク、血症の治療における刺激的な進歩」(第121頁標題)
(8b)「近年、LDLコレステロールを低減する効果的で安全な治療剤を見出すという目標を達成するために、コレステロールの内因性合成の重要な工程を制御するβ-ヒドロキシーβ-メチル-グルタリルCoA還元酵素(HMG-CoA還元酵素,EC1.1.1.34)の強力な阻害剤について多くの関心が集中してきた。動物と人間の両者について、HMG-CoA還元酵素阻害剤についての幾つかの研究が報告されてきた。それらは、コンパクチン(メバスタチン)、CS-514 (プラバスタチン・・・)、メビノリン(ロバスタチン・・・)、及び、シンビノリン(シンバスタチン・・・)を用いた報告であり、これら阻害剤は、構造的に互いにとても密接に関連している。」(第122頁第14?22行)
(8c)「●サンド研究所では、この論文中で議論されている、フルバスタチンのインデニル、ナフチル、イミダゾリル及びピラゾリル類似体の他に、複素環疎水性部位を変更して他の様々なHMG-CoA還元酵素阻害剤を合成してきた。これらの誘導体は図12?図14^(22-24)に示されている。他の会社からの類似の誘導体についての重複する報告も図12及び図13^(22,23 )に示されている。
●上記のHMG-CoA還元酵素阻害剤に加えて、ヘキスト社、バイエル社、ワーナーランバート社、メイ&ベーカー社、ローラー社、ブリストルマイヤーズスクイブ社、及び、ファイザー社の科学者らは、この興味深い領域における彼らの努力と成果を発表してきた(図15?図17)^(25-27)。」(第141頁第1?10行)
(8d)「

」(第141頁)
(8e)「

」(第142頁)
(8f)「

図15」(第142頁)

エ 甲第9号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第9号証には,以下の事項が記載されている。
(9a)「7・2分配係数
生化学系での構造-作用関係の研究のパラメータとして最も広く,かつ最もしばしば用いられてきたものが分配係数であることは5章で述べた例からも明らかである.しかし不幸にしてこれまでの分配係数測定に用いられた溶媒系の選択に一様性がなく,その測定法も粗雑でその測定法に対する信頼度も小さかったため,このパラメータの価値確認が遅れ,生物感応とlogP(ここでPが分配係数)との線型関係が得難かったが,最近この分配係数に加成性の成り立つことが見出され^(35?39)),測定精度の向上と相侯って,おもにHansch^(2))により活発に応用されている.」(第125頁第26?32行)
(9b)「藤田ら^(36))は分配係数Pを式(7.15)のごとく定義している.
P=C_(オクタノール)/C_(水)(1-α) (7.15)
ここにαは水相におけるイオン化度を示す.
このようにして定義されたオクタノール/水分配係数をSmithにより酸・塩基に対し得られた分配係数と比較すると,その傾斜項αは一定であることが示された.」(第127頁第1?5行)
(9c)「7・3 分配係数の加成性
分配係数の最も有用な特徴はその加成性^(9,35?39))にある.
式(7.18)によりPから定義づけられたπにつき15種のベンゼン誘導体につき,メタ・パラ置換体のπCH_(3)を求めると0.50±0.04となり,式(7.27)で求めた値と合っている^(36))。ここで用いた
πCH_(3)=logP_(トルエン)-logP_(ベンゼン)=2.69±0.01-2.13±0.01
=0.56±0.02 (7.27)
logP_(トルエン),logP_(ベンゼン)は表7.1の値^(3))を用いたものである.同様にしてπCH_(2)を次の2式(7.28)と(7.29)より求めると,その値は誤差範囲内で一致し,近接基の電子効果の影響をあまりうけていないことが分かる」(第129頁第22?29行)
(9d)「表5

」(第134?135頁)
(9e)「「ドラッグデザイン」では上記のようにlogPまたはπが加成性を示すということは非常に便利かつ重要で,ある化合物とたんぱくとの結合を評価しうるのみならず,ある条件下でその化合物の反応点に到達する能力も評価することができ,紙と鉛筆さえあれば,いま合成しようとする作用分子の相対的脂溶性を予測することが可能になる.たとえばジフェニルヒドラミン(7.2)について2個のベンゼン環につき4.26,メチル基に対してはメチル基の0.50から分岐による0.20を差引いた0.30,-OCH_(2)-,-N(CH_(3))_(2)の値は表7.4のπx′(溶液で側鎖が環上に折れ曲っていると考えて)でOCH_(3)の値-0.98(もしπx値を用いると3.64となり実測値の10%誤差内に入る)をそれぞれ用いているが計算値と実測値はよく合っている.
同様の計算をジエチルスチルベストロール(7.3)に用いるとlogPは実測値5.07,計算値5.22^(*)とよく一致する。
以上の計算法にはいろいろアプローチがあるが,どんなアプローチをしてもその値に大差はないという.
表7.5はTute^(3))による表を参考までに示すが芳香族置換体のπx値である.」(第135頁下から第4行?第136頁第7行)

エ 甲第10号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第10号証には,以下の事項が記載されている。

(10a)「14.7 コレステロール生合成
通常,われわれは1日あたりおよそ1.5-2.0gのコレステロールを合成しており,その大部分は肝臓で合成される(1.0-1.5g/日).前に述べたように(第13章「脂質と生体膜」),コレステロールは生体膜を構成するのに用いられ,胆汁酸やステロイドホルモンを合成するために必要である.
コレステロールの合成はかなり複雑で,25の個別の酵素的段階が関与している.この複雑さのために,この経路をかなり簡略にして記した(図14-11参照).」(第254頁第1?8行)

オ 甲第11号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第11号証には,以下の事項が記載されている。

(11a)「コレステロール[cholesrterol] コレステリンともいう.C_(27)H_(46)O,分子量386.66.最も代表的なステロール.シクロペンタノフェナントレン環のC-3にOH基,C-17に側鎖をもつ.針状晶(エタノールから再結晶),融点149℃,比旋光度[α]_(D)-39°(クロロホルム中).水,アルカリ,酸に不溶,有機溶媒には一般に易溶であるが,石油エーテル,冷アセトン,冷アルコールに難溶.ジギトニンと難溶性の分子化合物をつくる.動物界に広く分布し,特に脳神経組織,副腎,その他の臓器に多量含まれる.細胞の常成分として細胞膜,オルガネラ膜,ミエリン鞘などの構成成分をなずとともに,胆汁,性腺ホルモン,副腎皮質ホルモン,ビタミンDなどの前駆体となる重要な脂質である.総量は体重の約0.2%,通常,コレスタノールや7-デヒドロコレステロールなどを伴って存在している.遊離型のほか一部は脂肪酸のエステルとなっている(→(審決注:別の字体である。以下同じである。)コレステロールエステル),コレステロール代謝の主要臓器は肝である.コレステロール生合成の90%は肝と小腸壁で行われる.アセチル-CoAに始まり,3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル-CoA(HMG-CoA),メバロン酸^(*),スクアレン^(*)を経て行われる合成は,HMG-CoAレダクターゼ^(*)によって調節される.つまり,肝細胞では,β-リポタンパク質のレセブターを介して細胞内に入ったコレステロールの量に応じてHMG-CoAレダクターゼの合成制御が行われる結果,コレステロール合成が調節される.」(第489頁右欄第43行?第490頁左欄第11行)
(11b)「ヒドロキシメチルグルタリル-CoAレダクターゼ
[hydoroxymethylglutaryl-CoA reductase] EC1.1.1.88.HMG-CoAレダクターゼと略称される.ヒドロキシメチルグルタリル-CoAをNADPH存在下で還元してメバロン酸^(*)を生成する反応を触媒する酵素,この還元反応は基質のカルボキシル基の一つがアルデヒド基を経由して水酸基にまで還元される2段階反応である.本酵素は,コレステロールや各種ステロイド,テルペン生合成の重要な調節点である(→ステロイドの生合成,テルペンの生合成).したがって種々の環境条件、食餌条件などによって活性が変動する.」(第1010頁左欄下から第9行?右欄第2行)

カ 甲第14号証の記載事項
本件優先日前に頒布された甲第14号証には,以下の事項が記載されている。

(14a)「図2

ドリコールは種々の数([n]19から24)のイソプレニル基を含有する。ユビキノン-nの場合、脊椎動物における基の数(n)は、9から10である。HMG-CoA還元酵素阻害剤は、コレステロール合成の律速要因であるHMG-CoAを競合的に阻害する。」(第25頁右欄)

(2)甲第1号証に記載された発明(甲1発明)
甲1発明は,上記1(2)に記載されたとおりである。

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-1)アに記載したとおり,相違点(1-i),(1-ii)で相違する。

イ 相違点の検討
上記1(3)(3-1)イで述べたとおり,本件発明1は,甲第1号証の式Iにおいて,甲1発明の「R^(2)」として「-N(R^(8))_(2)」の「R^(8)」が「不斉炭素原子を含まぬC_(1?4)アルキル」である「メチル」を選択することに代えて,「R^(2)」として-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))を選択したものといえるが,このような選択肢は,甲第1号証の式Iの範囲に含まれてはいない。
そうすると,甲第1号証の式Iに含まれない化合物については,「HMG-CoA還元酵素活性」を阻害する薬理活性を有するとはいえないから,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換える動機付けがそもそもあるとはいえない。
次に,甲第7号証は,「HMG-CoA還元酵素阻害薬についての組織選択性と親油性との関係」に関する研究論文であって(摘記7a参照),「薬剤の相対的親油性によって組織選択性が主に影響され、相対的により親水性の化合物がより高い肝臓選択性を示す」との仮説を検討したものである(摘記7b参照)。そして,甲第7号証には,「ロバスタチン、プラバスタチン」などの「HMG-CoA還元酵素阻害薬」となる化合物について,「in vitroでミクロソームHMGRの阻害能を検討し」,「肝効果と末梢効果を比較評価するために、肝臓、牌臓及び精巣に由来する組織片中で、化合物がステール内に[^(14)C]酢酸を組入れる効果を測定した」ところ,「親油性が重要な因子で」あって,「CLOGP<2の化合物」は「組織/肝比>1で示される中等度の組織選択性を有する」ことが記載され(摘記7c,7d参照),「肝臓とその他の組織との選択性が等しい『閾値点』は、CLOGP=2で」,「これ以下では化合物が肝臓に選択的となり、これを越えると周辺組織に選択的となる」ことが記載されている(摘記7e参照)。
また,甲第10号証,甲第11号証には,コレステロールが大部分は肝臓で合成されることが記載されており(摘記10a,11a参照),さらに,甲第10号証,甲第14号証には,HMG-CoA還元酵素阻害剤によって,コレステロールの生合成を阻害することが記載され(摘記10b,14a参照),これらの事項は本件優先日時点における当業者の技術常識であったということができる。
そして,コレステロールは肝臓で大部分が合成され,HMG-CoA還元酵素阻害剤がこのコレステロールの生合成を阻害するものであるから,甲第7号証は,肝臓の選択性が高いHMG-CoA還元酵素阻害剤を得ようとする場合に,その親油性が重要な因子であって,CLOGPが2以下の化合物が肝臓に選択的となることを示唆しているものといえる。
一方,甲第9号証には,logP(Pは分配係数)に関して,加成性が成り立ち,化合物の特定の置換基に対応するπx値(当該置換基の有無によるlogP値の差から算出したもの)を合計することで,当該化合物のlogP値を理論的に計算できることが記載され(摘記9a,9b,9c,9e参照),RとXを置換基とする芳香族置換体の場合に,Xが「3-SO_(2)CH_(3)」,Rが「-OCH_(2)CO_(2)H」では,πx値が「-1.26」になり,Xが「3-SO_(2)CH_(3)」,Rが「-CH_(2)CO_(2)H」では,πx値が「-1.25」になることが記載されている(摘記9d参照)。
しかしながら,甲第9号証には,対象とする化合物のlogP値を理論的に計算できることと,特定の置換基に対応したπx値が示され,合成しようとする化合物の相対的脂溶性などを予測することが可能になることが記載されているにとどまり,必ずしも特定の置換基を選択して,logP値を特定の値にした化合物を得るという技術思想まで記載されているということはできない。仮に,ドラッグデザインにおいて,化合物の置換基を選択することでlogP値を特定の値に設定することが甲第9号証の記載から当業者にとって技術常識であるといえるとしても,甲第9号証には,RとXを置換基とする芳香族置換体において,Xが「3-SO_(2)CH_(3)」のπx値が示されているだけで,これは,ピリミジン環にアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基(-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))を含む)が置換されている本件発明1とは異なる置換基であるから,甲1発明において,2位の「ジメチルアミノ基」を,「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換える動機付けがあるとはいえない。
また,甲1発明の「ジメチルアミノ基」の一方の「メチル基」を「SO_(2)CH_(3)」に置き換えた化合物が,結果としてClogPが2以下の化合物となるとしても,「ジメチルアミノ基」の一方の「メチル基」のみを「SO_(2)CH_(3)」に置き換える点まで,甲第9号証に記載はなく,このような意図的な置換をすることまで,甲第9号証の記載から導き出すことができるとはいえない。
加えて,HMG-CoA還元酵素阻害剤の肝選択性が高いことは,肝臓以外の組織における副作用を低減させる可能性がある(摘記7b参照)ので,肝選択性と関連するCLOGPがHMG-CoA還元酵素阻害剤の有用性を示す一つの指標となり得ることは甲第7号証の記載から当業者が理解できるとしても,HMG-CoA還元酵素阻害剤の有用性は,これのみが指標となるわけではなく,HMG-CoA還元酵素阻害活性が高いことが前提となるものであって,CLOGPが2以下として肝選択性の化合物としても,そのような化合物が必ずしもHMG-CoA還元酵素阻害剤としての活性が優れているとはいえず,実際,肝臓でのIC_(50)をみると,化合物の基本骨格が一致し,化学構造がきわめて類似している化合物間においても,CLOGが2より大きい化合物1(ロバスタチン)のほうが,CLOGが2以下の化合物2(プラバスタチン)よりも5倍程度よい値となっている(摘記7b,7c参照)。
してみると,CLOGが2以下となるように,HMG-CoA還元酵素阻害剤となる化合物の一部の置換基を代えたとしても,HMG-CoA還元酵素阻害活性そのものが低下することもあり得るから,この点からも,甲1発明において,「R^(2)」の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることが容易であるということはできない。
さらに,甲第8号証には,「HMG-CoA還元酵素阻害剤:高リポタンパク、血症の治療における刺激的な進歩」と題する研究論文であって(摘記8a参照),LDLコレステロールを低減する効果的で安全な治療剤を見出すという目標を達成するために,コレステロールの内因性合成の重要な工程を制御するHMG-CoA還元酵素の強力な阻害剤について多くの関心が集中していること,HMG-CoA還元酵素阻害剤についてメバスタチン,プラバスタチン,ロバスタチンなどが報告され,これら阻害剤は,構造的に互いにとても密接に関連していること(摘記8b参照)が記載され,HMG-CoA還元酵素阻害剤となる化合物として,本件発明1や甲1発明のように,イソプロピル基と4-フルオロフェニル基を備えている窒素原子含有複素環を有する化合物も記載されている(摘記8c?8f参照)が,これらの化合物の中には,「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」を置換基として有するものは一つとして記載されておらず,甲1発明において,「R^(2)」の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることを示唆する記載は見あたらない。
また,それ以外の証拠にも,甲1発明において,「R^(2)」の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることを示唆する記載は見あたらない。

そうすると,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできないから,相違点(1-ii)について検討するまでもなく,本件発明1は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明1の効果
上記イで述べたとおり,本件発明1は甲1発明及び甲第7,8号証並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないが,念のため,効果についても検討する。
上記1(3)(3-1)ウで述べたように,本件発明1の効果は,強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤となる化合物を提供することにあるものと認められるところ,甲1発明において,「ジメチルアミノ基」を,式Iの範囲に含まれない「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えた場合に,どのような薬理活性を示すのかについて,甲第1,7,8号証並びに甲第9?14号証のいずれにも記載がない。また,それ以外の証拠をみてもこの効果について示唆するところがない。
そして,薬理活性は,化合物の構造と密接に関連するものであって,薬理活性を有する化合物の置換基の構造を変化させても同程度以上の薬理活性が得られるとは限らないのであるから,本件発明1の化合物が肝臓選択性の点で,甲1発明よりも良好な性質を示す可能性が示唆されていたとしても,HMG-CoA還元酵素阻害活性については,上記イで述べたとおり,どのようになるかは予測がつかないのであるから,当業者が本件発明1の効果を予測し得たということはできない。
なお,甲第3?6号証の記載を参酌しても,本件優先日前に本件発明1の効果を当業者が予測し得たものとえないことは,上記1(3)(3-1)ウで述べたとおりである。

(3-2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-2)アに記載したとおり,相違点(2-i),(2-ii),(2-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
上記1(3)(3-2)イで述べたとおり,相違点(2-i)は,上記相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(2-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明2は甲1発明及び及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-3)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-3)アで述べたとおり,上記相違点(5-i),(5-ii)で相違する。

イ 相違点の検討
上記1(3)(3-3)イで述べたとおり,相違点(5-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(5-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明5は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(3-4)本件発明9について
ア 対比
本件発明9と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-4)アで述べたとおり,上記相違点(9-i),(9-ii)で相違する。

イ 相違点の検討
上記1(3)(3-4)イで述べたとおり,相違点(9-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(9-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明9は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-5)本件発明10について
ア 対比
本件発明10と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-5)アで述べたとおり,上記相違点(10-i),(10-ii),(10-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(10-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(10-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明10は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-6)本件発明11について
ア 対比
本件発明11と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-6)アで述べたとおり,上記相違点(11-i),(11-ii),(11-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
上記1(3)(3-6)イで述べたとおり,相違点(11-i)は,相違点(1-i)において,「アルキルスルホニル基」が「メチルスルホニル基」に限定されたものに相当する。
そうすると,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(1-i)の構成を採用することが当業者にとって容易であったということはできない以上,相違点(11-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできないから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明11は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-7)本件発明12に対して
ア 対比
本件発明12と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-7)アで述べたとおり,上記相違点(12-i),(12-ii),(12-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(12-i)は,相違点(1-i)と実質的に同じであるから,上記(3-1)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(12-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明12は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-8)本件発明13について
ア 対比
本件発明13と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-8)アで述べたとおり,上記相違点(13-i),(13-ii),(13-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(13-i)は,相違点(5-i)と実質的に同じであるから,上記(3-3)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(13-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明13は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-9)本件発明14について
ア 対比
本件発明14と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-9)アで述べたとおり,上記相違点(14-i),(14-ii)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(14-i)について検討すると,甲第1,7?14号証のいずれにも,甲1発明において,「メチル基により置換されたイミノ基」の部分を「硫黄、酸素、スルホニル基」に置き換えることについて記載も示唆もない。
よって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明14は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-10)本件発明15について
ア 対比
本件発明15と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-10)アで述べたとおり,上記相違点(15-i),(15-ii),(15-iii)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(15-i)は,相違点(9-i)と実質的に同じであるから,上記(3-4)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(15-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明15は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-11)本件発明16に対して
ア 対比
本件発明16と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-11)アで述べたとおり,上記相違点(16-i),(16-ii),(16-iii),(16-iv)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(16-i)は,相違点(10-i)と実質的に同じであるから,上記(3-5)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(16-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明16は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3-12)本件発明17について
ア 対比
本件発明17と甲1発明とを対比すると,上記1(3)(3-12)アで述べたとおり,上記相違点(17-i),(17-ii),(17-iii),(17-iv)で相違する。

イ 相違点の検討
相違点(17-i)は,相違点(11-i)と実質的に同じであるから,上記(3-6)イで述べたとおり,甲1発明において,相違点(17-i)の構成を採用することも当業者にとって容易であったということはできず,その余の相違点について検討するまでもなく,本件発明17は甲1発明及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要(審判請求書第65頁第15行?第75頁第3行,弁駁書第65頁第17行?第68頁第18行,口頭審理陳述要領書第74頁第5?15行)
請求人は,以下のように主張している。
甲1発明のCLOGPは2.838であり,優先日当時の当業者にとっては,高い肝臓選択性を有するHMG-CoA還元酵素阻害剤を指向するのが当然であって,高い肝臓選択性を持たせるために,甲1発明の基本骨格を維持しつつ,その構造を若干変化させて,CLOGPを2以下に低くする動機付けがある。
そして,甲1発明と構造が類似するHMG-CoA還元酵素阻害活性を有する窒素原子含有複素環を有する化合物の多くは,イソプロピル基と4-フルオロフェニル基を備えているので,甲1発明の基本骨格を維持して置換基の構造を変化させるに際しては,それ以外のピリミジン環の2位の置換基の構造を変化させることは当然者であれば容易に想到し,メチルスルホニル基がlogP値を比較的に大きく低下させることは技術常識であったので,甲1発明におけるイミノ基の窒素原子上の置換基をメチル基からメチルスルホニル基に代えることに格別の困難性は認められない。この点は専門家の鑑定意見(甲第22号証,甲第23号証)からも明らかである。

イ 請求人の主張の検討
まず,上記(3)(3-1)イで述べたように,そもそも甲1発明において,甲第1号証の選択可能な置換基としての開示を超えて,甲1発明の置換基を別の置換基に置換する動機付けがない。
さらに,上記(3)(3-1)イで述べたように,甲第9号証には,logP値を特定の範囲にするために置換基を意図的に選択して特定の化合物を得ることまで必ずしも記載されているといえない上,甲第9号証に記載された芳香族環の置換基「3-SO_(2)CH_(3)」は,本件発明1のピリミジン環の置換基「N(CH_(3))SO_(2)CH_(3)」とは異なるものであるから,仮に,甲1発明のCLOGPが2.838となるものであって,メチルスルホニル基がlogP値を比較的に大きく低下させることが技術常識であったとしても,甲1発明のピリミジン環の2位の「ジメチルアミノ基」を「N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることを,当業者が容易に想到し得たともいえない。
また,上記(3)(3-1)イで述べたように,HMG-CoA還元酵素阻害剤の有用性はそのCLOGPのみで判断されるものではなく,CLOGPが2以下となるように,HMG-CoA還元酵素阻害剤となる化合物の一部の置換基を代えても,HMG-CoA還元酵素阻害活性そのものが低下することもあり得るから,甲1発明において,「R^(2)」の「ジメチルアミノ基」を「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることが当業者が容易になし得たということもできない。
なお,甲第22,23号証における専門家の意見も,単に,甲1発明の「ジメチルアミノ基」を「メチル」を「-N(CH_(3))(SO_(2)CH_(3))」に置き換えることが容易と述べるのみであって,その具体的な根拠について,上で検討したこと以上のものは見あたらない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから,本件発明1,2,5,9?17は,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第8 むすび
以上のとおり,本件発明1,2,5,9?17は,甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第2号証に記載された発明に基いて本件出願日(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたとはいえないし,本件出願(優先日)前に頒布された甲第1号証に記載された発明(主引用発明)及び甲第7,8号証に記載された発明並びに技術常識に基いて本件出願(優先日)前に当業者が容易に発明をすることができたともいえない。
よって,請求人が主張した理由及び証拠によっては,本件発明1,2,5,9?17の特許を,無効とすることはできない。
審判費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ピリミジン誘導体
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)還元酵素阻害剤に関する。さらに詳しくは、コレステロ-ル生合成の律速酵素であるHMG-CoA還元酵素を特異的に阻害し、コレステロ-ルの合成を抑制することにより、高コレステロ-ル血症、高リポタンパク血症、更にはアテロ-ム性動脈硬化症の治療に有効である。
【0002】
【従来の技術】高コレステロ-ル血症はしばしば現れる心臓血管疾患であるアテロ-ム性動脈硬化症の重大な危険因子である。従って、コレステロ-ル合成の中心的酵素である3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルCoAからメバロン酸の合成を触媒するHMG-CoA還元酵素の活性への影響を調べることがアテロ-ム性動脈硬化症を治療するための新規な薬剤を開発するために必要である。このような薬剤としては、カビの代謝産物またはそれを部分的に修飾して得られたメビノリン(米国特許第4,231,938)、プラバスタチン(特開昭59-48418)およびシンバスタチン(米国特許第4,444,784)が、第1世代のHMG-CoA還元酵素阻害剤として知られている。これに対して、最近では、フルバスタチン(F.G.Kathawala et al,8th Int’ l Symp.on Atherosclerosis,Abstract Papers,p.445,Rome(1988))およびBMY22089(英国特許第2,202,846)等の合成HMG-CoA還元酵素阻害剤が開発され第2世代として期待されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】以上によりコレステロ-ルの生成を抑制することがアテロ-ム性動脈硬化の予防および治療に重要であり、このことを考慮して有用な医薬品の開発が望まれている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前述の事情を考慮し鋭意研究した結果、下記一般式で示される化合物が優れたHMG-CoA還元酵素阻害活性を有することを見出して本発明を完成した。即ち、本発明は式(I):
【化9】

(式中、R^(1)は低級アルキル、アリ-ルまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換されていてもよい;R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリ-ルであり該アルキルおよびアリ-ルはそれぞれ置換されていてもよい;R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;Xは硫黄、酸素、スルホニル基または置換されていてもよいイミノ基;破線は二重結合の有無をそれぞれ表わす)で示される化合物またはその閉環ラクトン体で示されるHMG-CoA還元酵素阻害剤に関する。
【0005】本明細書中、低級アルキルとは、一般に直鎖状、分枝状または環状の炭素原子数1?6のアルキルを意味し、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシルおよびイソヘキシルなどが挙げられ、これらの低級アルキルは、ハロゲン、アミノおよびシアノよりなる群から選ばれた1?3個の同一または相異なる置換基で置換されていてもよい。ただし、ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を意味する。
【0006】アリ-ルとは、一般に炭素原子数6?12の芳香基を意味し、例えばフェニル、トリル、キシリル、ビフェニルおよびナフチル等が挙げられ、該アリ-ルは、低級アルキル、ハロゲン、アミノおよびシアノ等からなる群から選ばれた1?3個までの同一もしくは相異なる置換基で置換されていてもよい。該アリ-ルとしては、ハロゲンで1?3個置換されているフェニルが特に好ましい。
【0007】アラルキルとは、炭素原子数6?12の芳香族系アリ-ルで置換されている炭素原子数1?6の低級アルキルを意味し、当該アリ-ルは前記アリ-ルの定義に従う。アラルキルの具体例としては、ベンジル、フェネチル、およびフェニルプロピル等が挙げられ、該アラルキルは低級アルキル、ハロゲン、アミノおよびシアノ等からなる群から選ばれた1?3個までの同一もしくは相異なる置換基で置換されていてもよい。
【0008】薬学的に許容し得る塩を形成する陽イオンとは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属陽イオンまたはアンモニウムイオンを意味する。具体的にはアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびセシウム等が挙げられ、アルカリ土類金属として、ベリリウム、マグネシウムおよびカルシウム等が挙げられるが、ナトリウムおよびカルシウムが特に好ましい。
【0009】アシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリルおよびイソバレリル等が挙げられる。置換されていてもよいイミノ基という用語において、置換基とは、アシル基、置換されていてもよいアミノ基および置換スルホニル基が挙げられる。置換基としての置換アミノ基とは、スルホニル基またはアルキルスルホニル基等で置換されているアミノ基を意味し、具体的にはスルホニルアミノ基およびメタンスルホニルアミノ基等が挙げられる。また、置換基としての置換スルホニル基とは、アルキル基、アミノ基またはアルキルアミノ基で置換されているスルホニル基を意味し、具体的にはメタンスルホニル、スルファモイル、メチルスルファモイルおよびN-ジメチルスルファモイル等が挙げられる。
【0010】本発明化合物の製造法を以下に示す。
(1)化合物aのカルボン酸エステル基をTHF、エ-テルまたはトルエンなどの不活性溶媒中、LiAlH_(4)またはDIBAL-Hなどの還元剤で還元してアルコ-ルとする。本反応は、-70?50℃、好ましくは室温付近で10分間?10時間、好ましくは30分間?3時間実施される。次いで、塩化メチレンなどの溶媒中、TPAP/4-メチルモルホリン-N-オキサイド、ピリジニウムクロロクロメ-トなどで酸化することにより、アルデヒド体bを生成させる。本反応は0?60℃、好ましくは室温付近で10分間?10時間、好ましくは30分間?3時間実施される。
【化10】

(式中、R^(1)?R^(3)はそれぞれ前記と同意義を有し、Alkylは低級アルキルをそれぞれ意味する。)
【0011】(2)次いで、得られた化合物bを(3R)あるいは(3S) 3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と有機溶媒中、例えば、アセトニトリル、ジエチルエ-テル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等反応させることにより化合物cが得られる。本反応は、1?30時間、好ましくは10?15時間加熱下で行なわれるのが好ましい。
【化11】

(式中、C^(*)は不斉炭素原子、破線は二重結合の有無を意味し、R^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)
【0012】(3)次いで、化合物cをハロゲン化水素の存在下、有機溶媒中で反応させて、tert-ブチルジメチルシリル基を脱離することにより化合物dを得る。ハロゲン化水素としては、種々のハロゲンが用いられるが、フッ化水素が最も好ましい。また、有機溶媒としては、前工程と同様のものが用いられるが、アセトニトリルが特に好ましい。本反応は、0?60℃、好ましくは室温付近で、0.5?10時間、好ましくは1?2時間反応させる。
【化12】

(式中、C^(*)、破線およびR^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)
【0013】(4)化合物dを無水条件下、アルコ-ル-有機溶媒の混液中で、ジエチルメトキシボランおよびNaBH_(4)と反応させたのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィ-にて精製して化合物(I)を得る(R^(4):低級アルキル)。本反応は、-100?20℃、好ましくは-85?-70℃の冷却下で、10分?5時間好ましくは30分間?2時間反応させる。アルコ-ルとしては、メタノ-ル、エタノ-ル、プロパノ-ルおよびブタノ-ル等が用いられ、有機溶媒としては、前工程と同様のものが用いられる。更に、所望により得られた化合物を適当なアルコ-ル中、金属水酸化物の水溶液を用いてケン化反応に付すか(R^(4):陽イオン)、またはケン化後、更に酸により中性とし、有機溶媒で抽出する(R^(4):水素)こともできる。ケン化反応は、通常工程により、好ましくは塩基性化合物の存在下、水、アルコ-ル、ジオキサン、アセトンまたはその混合物などの通常の溶媒中で実施することができる。反応温度は0?50℃、好ましくは室温付近で実施するのが好ましい。金属水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび類似のものなどが挙げられる。酸としては、塩酸および硫酸などの無機酸が挙げられる。
【化13】

(式中、C^(*)、破線およびR^(1)?R^(4)はそれぞれ前記と同意義を有する。)更に、得られた化合物(I)を要すれば加熱還流することにより化合物(I)の閉環ラクトン体が得られる。
【0014】本発明化合物は、経口的または非経口的に投与することができる。経口投与による場合、本発明化合物は通常の製剤、例えば、錠剤、散剤、カプセル剤もしくは顆粒剤等の固形剤あるいは水性もしくは油性懸濁剤、シロップ剤またはエリキシル剤などの液剤のいずれの剤型としても用いることができる。非経口投与による場合、本発明化合物は、水性または油性懸濁注射剤として用いることができる。その調製に際しては、慣用の賦形剤、結合剤、滑沢剤、水性溶剤、油性溶剤、乳化剤、懸濁化剤等いずれも用いることができ、また他の添加剤、たとえば、保存剤、安定剤等を含むものであってもよい。
【0015】本発明化合物の投与量は、投与方法、患者の年齢、体重、状態および疾患の種類によっても異なるが、通常、経口的には、1日あたり0.5?200mg、好ましくは、1?100mg、また非経口的には、1日あたり0.1?100mg、好ましくは0.5?50mgであり、これを1?5回に分割して投与すればよい。以下に実施例および試験例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、これらによって本発明の範囲は限定されるものではない。
【0016】実施例で用いられる略字は、以下に示す意味を表わす。
Me:メチル
Et:エチル
i-Pr:イソプロピル
t-Bu:tert-ブチル
Ph:フェニル
DMF:ジメチルホルムアミド
THF:テトラヒドロフラン
DDQ:2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-1,4-ベンゾキノン
TPAP:テトラプロピルアンモニウムパ-ルテネイト
HMPA:ヘキサメチルホスホトリアミド
DIBAL-H:ジイソブチルアルミニウムハイドライド
【0017】[実施例]
参考例1
エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルチオピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-1)およびエチル 4-(4-フル オロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルスルホニルピリミジン-5-カ ルボキシレ-ト(III-2)の合成
【化14】

p-フルオロベンズアルデヒド81.81gを特開昭61-40272号明細書記載の方法により反応させて化合物1151.0g(収率:86.7%)を得る。次いで144.68gをHMPA65ml中、S-メチルイソチオウレア・硫酸塩28.24gと共に100℃で22時間撹拌する。次いでエ-テルで抽出し、飽和重曹水、水の順で洗浄し乾燥、溶媒を留去する。シリカゲルカラムクロマトグラフィ-により精製し、化合物226.61g(収率:46.8%)を得る。
【0018】得られた化合物2にDDQ21.64g(0.095mmol)をベンゼン400ml中加えて30分間撹拌しカラムクロマトグラフィ-にて精製して化合物(III-1)24.31g(収率:91.9%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10(t,J=7,3H);1.31(d,J=7,6H);2.61(s,3H);3.18(hept,J=7,1H);4.18(q,J=7,2H);7.12(m,2H);7.65(m,2H)
【0019】次いで得られた化合物(III-1)13.28g(0.04mmol)をクロロホルム溶液中で、m-クロロ過安息香酸17.98gを加えて室温で撹拌する。次いで、Na_(2)SO_(3)水、飽和重曹水で処理し乾燥、溶媒を留去し、n-ヘキサンで洗浄すると化合物(III-2)13.93g(95.7%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.16(t,J=7,3H);1.37(d,J=7,6H);3.26(hept,J=7,1H);3.42(s,3H)4.28(q,2H);7.18(m,2H);7.76(m,2H)
また、該(III-2)は化合物2に過マンガン酸カリウムを反応させて酸化することにより化合物(III-1)を経由することなく得ることができる(参考例3)。
【0020】参考例2
(III-1)の別途合成方法
化合物2200mg(0.594mmol)をジクロルメタン5mlに溶解し、無水炭酸カリウム0.5g(6.10当量)、ヨウ素166mg(1.1当量)を加えて室温で2.5時間撹拌する。反応後、飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を加えて、エ-テルで抽出、水洗、乾燥する。溶媒を減圧で濃縮して樹脂状の化合物(III-1)166mg(収率:83.6%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10(t,3H,J=7);1.31(d,6H,J=7);2.61(s,3H);3.17(heptet,1H,J=7);4.18(q,2H,J=7);7.07-7.17(m,2H);7.61-7.69(m,2H)
【0021】参考例3
(III-2)の別途合成方法
化合物21.0g(2.97mmol)を10mlのアセトンに溶解し、過マンガン酸カリウム1.5g(9.48mmol)を加えて、室温で15分間撹拌したのち、酢酸1.0mlを加えて更に室温で30分間撹拌した。反応液に水を加えてエ-テルで抽出、飽和炭酸水素ナトリウム溶液および飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥後溶媒を留去すると化合物(III-2)1.07g(2.94mmol)(収率:99.1%)を結晶として得る。
【0022】参考例4
エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル -N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III- 3)およびエチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N -メチル-N-ジメチルスルファモイルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレ -ト(III-4)の合成
【化15】

化合物(III-2)52.7g(144mmol)の無水エタノ-ル500ml溶液に氷冷下で5N-メチルアミンエタノ-ル溶液71.9mlを加えて徐々に室温とし1時間撹拌後、溶媒を減圧下で留去し水を加える。次いで、エ-テルで抽出、乾燥し、エ-テルを減圧下で留去すると化合物346.9g(収率:100%)を得る。
融点:85?86℃
元素分析値(%)C_(17)H_(20)N_(3)FO_(2)として
計算値:C,64.34;H,6.35;N,13.24;F,5.99
実験値:C,64.42;H,6.46;N,13.30;F,6.14
【0023】化合物3370mg(1.213mmol)のDMF5ml溶液に氷冷下、60%NaH60mgを加えて、30分間撹拌後メタンスルホニルクロライド208mgを加えて室温とし、更に2時間撹拌する。次いで、氷水を加えてエ-テルで抽出し、水洗、乾燥する。エ-テルを減圧下、留去し残渣をエ-テル-n-ペンタンにて洗浄し化合物(III-3)322mg(収率:57.6%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10(t,J=7,3H);1.32(d,J=7,6H);3.24(hept,J=7,1H);3.52(s,3H);3.60(s,3H);4.19(q,J=7,2H);7.14(m,2H);7.68(m,2H)
【0024】また、化合物34.13g(13.0mmol)のDMF40ml溶液に氷冷下60%NaH0.57gを加えて徐々に室温として、1時間撹拌する。再び氷冷し、ジメチルスルファモイルクロライド2.43g(16.9mmol)を滴下し、2時間30分間撹拌する。反応溶液に氷水を加えてエ-テルで抽出し、水洗、乾燥後、エ-テルを減圧下で留去し残渣をエ-テル-ヘキサンにて洗浄して化合物(III-4)4.10g(収率:74.2%)を得る(融点:114?116℃)。
元素分析値(%)C_(19)H_(25)N_(4)SFO_(4)として
計算値:C,53.76;H,5.94;N,13.20;S,7.55;F,4.48
実測値:C,53.74;H,5.96;N,13.19;S,7.58;F,4.78
【0025】参考例5
エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メトキシピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-5)およびエチル 4-(4-フルオ ロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルヒドラジノ)ピリミジン-5-カルボキシレ-ト(III-6)の合成
【化16】

化合物(III-2)1.39g(3.8mmol)の無水メタノ-ル溶液60mlに氷冷下でナトリウムメトキシド溶液0.41g(7.6mmol)を加えて徐々に室温にし、1時間撹拌する。次いで、反応溶液を酢酸にて中和しエ-テルで抽出し、重曹、水にて順次洗浄する。乾燥し、エ-テルを減圧下で留去し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-にて精製して化合物(III-5)1.17g(収率:96.7%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.10(t,3H,J=7Hz);1.32(d,6H,J=6.6Hz);3.21(m,1H);4.08(s,3H);4.18(q,2H,J=7Hz);7.07?7.74(m,4H)
【0026】化合物(III-2)2.50g(6.77mmol)の無水エタノ-ル溶液50ml中、氷冷下メチルヒドラジン0.80g(16.93mmol)を加えて室温に戻し、2時間撹拌する。次いで、エ-テルで抽出し、飽和食塩水で洗浄し乾燥後溶媒を留去する。得られた化合物2.37g、無水THFおよび無水ピリジンの混合物中に氷冷下でメタンスルホニルクロライド1.03g(7.84mmol)を加え室温に戻して1.5時間撹拌する。更に、無水ピリジン3ml、メタンスルホニルクロライド1.53g(11.65mmol)を加えて、2時間撹拌する。次いで、反応溶液に氷水を加えて、エ-テルで抽出し、水洗する。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-にて精製すると、化合物(III-6)2.75g(収率:94.0%)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.08(t,J=7,3H);1.29(d,J=7,6H);2.96(s,3H);3.24(hept,J=7,1H);3.59(s,3H);4.16(q,J=7,2H);7.14(m,2H);7.63(m,2H)
【0027】参考例6
(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸メチル
(1)(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)グルタル酸-1-((R)-(-)-マンデル酸)エステル^(*1)65g(164mmol)をできるだけ少量のメタノ-ル60mlに溶解し、窒素雰囲気下、0℃でナトリウムメトキシドのメタノ-ル溶液(28%メタノ-ル溶液310ml、1.6mol)に45分間かけて滴下する。このとき内温は、7℃以下であった。0℃で30分間撹拌した後、濃塩酸150ml-水300ml-塩化メチレン500mlの混合物に氷冷下で撹拌しながら反応溶液をあけて、有機層を分取する。水層を塩化メチレン200mlで抽出し、それぞれの有機層を希塩酸、次いで食塩水で洗浄する。有機層を合わせて、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を除去することによりハ-フエステル体を得る。
^(1)HNMR(CDCl_(3))δ:0.08(s,3H);0.09(s,3H);0.86(s,9H);2.52?2.73(m,4H);3.08(s,3H);4.55(quint,1H,J=6Hz)
IR(CHCl_(3)):2880,1734,1712,1438,1305,1096,836cm^(-1)
[α]_(D)=-5.0±0.4°(C=1.04,23.5℃,CHCl_(3))
Rf 0.32(CHCl_(3)/MeOH=9/1)
^(*1):特開平2-250852号公報第10頁記載の方法に従って合成することができる。
【0028】(2)得られた化合物ハ-フエステル体をエ-テル10mlに溶解し、窒素雰囲気下-78℃でトリエチルアミン、次いでクロロ炭酸エチルを滴下する。得られた白色懸濁液を0℃で1時間撹拌した後、-78℃に冷却する。窒素雰囲気下で沈殿を濾過し、エ-テル15mlで洗浄する。一方、臭化メチルトリフェニルホスホニウム1.29g(3.6mmol)をTHF5mlに懸濁させて窒素雰囲気下-78℃でブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液、2.25ml、3.6mmol)を滴下する。0℃で1時間撹拌した後、-78℃に冷却し上記で調製した活性化エステルのエ-テル溶液に滴下し、THF5mlで洗浄し、0℃で1時間撹拌する。5%炭酸水素ナトリウム水溶液10mlを加え更に5分間撹拌する。酢酸エチルを加えて有機層を分取し、水層を酢酸エチルで抽出する。有機層を食塩水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、濃縮する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(エ-テル-酢酸エチル)にて精製して目的化合物を得られる。これはエ-テル-ヘキサンから結晶化させることができる。
^(1)HNMR(CDCl_(3))δ:0.04(s,3H);0.06(s,3H);0.83(s,9H);2.4?2.9(m,4H);3.64(s,3H);3.74(d,1H);4.5?4.7(m,1H);7.4?7.8(m,15H)
IR(CHCl_(3)):2880,1730,1528,1437,1250,1106,835cm^(-1)
[α]_(D)=-6.2°(C=1.27,22.0℃,CHCl_(3))
融点:77.5?78.5℃
Rf=0.48(CHCl_(3)/MeOH=9/1)
元素分析値(%)C_(31)H_(39)O_(4)PSとして
計算値:C,69.63;H,7.35;P,5.79
実験値:C,69.35;H,7.35;P,6.09
【0029】実施例1
(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸ナトリウム(Ia-1)
(1)参考例2で得られた化合物(III-3)322mg、無水トルエン7ml溶液に-74℃にて1.5Mトルエン溶液DIBAL-H1.4mlを滴下し1時間撹拌し、酢酸を加えて、エ-テルで抽出する。有機層を炭酸水素ナトリウム、水で洗浄、乾燥しエ-テルを減圧で留去する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン/エ-テル=20/1)にて精製して、[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]メタノ-ル4277mg(収率:96.1%)を得る。
【化17】

【0030】(2)次いで該化合物4277mg、4-メチルモルホリン-N-オキシド190mg、TPAP6mg、粉末モレキュラ-シ-ブ4A1.0gおよび塩化メチレン10mlの懸濁液を2時間撹拌し、不溶物を濾別し、塩化メチレンを約1/3量まで減圧濃縮し残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン)にて精製し、4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-カルバルデヒド5196mg(収率:71.2%)の結晶を得る。
【化18】

【0031】(3)化合物5190mg、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸メチル(参考例6参照)450mgおよびアセトニトリル5mlの溶液を14時間加熱還流する。アセトニトリルを減圧下で留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマト(塩化メチレン)にて精製し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ)-5-オキソ-(E)-6-ヘプテネ-ト6233mg(収率:71.3%)を飴状物として得る。
【化19】

【0032】(4)化合物616gのアセトニトリル100ml溶液に氷冷下、48%フッ化水素のアセトニトリル溶液(1:19)400mlを滴下し、徐々に室温として1.5時間撹拌する。次いでNaHCO_(3)溶液にて中和し、エ-テルで抽出し、塩化ナトリウム水溶液で洗浄、乾燥する。エ-テルを減圧下で留去し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R)-3-ヒドロキシ-5-オキソ-(E)-6-ヘプテネ-ト713g(収率:100%)を飴状物として得られる。
【化20】

【0033】(5)化合物713gを無水THF溶液350mlおよび無水メタノ-ル90mlに溶解し、-78℃で1M-ジエチルメトキシボラン-THF溶液29.7mlを加えて同温度で30分間撹拌する。更にNaBH_(4)1.3gを加えて3時間撹拌する。酢酸16mlを加えた後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にてpH8とし、エ-テルで抽出、水洗、乾燥する。エ-テルを減圧留去し、得られた残渣にメタノ-ルを加えて減圧濃縮(3回)する。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィ-(塩化メチレン/エ-テル=3/1)にて精製し、メチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテネ-ト(Ib-1)11.4g(収率:85.2%)を飴状物として得られる。
【化21】

NMR(CDCl_(3))δ:1.27(d,J=7,6H);1.53(m,2H);2.47(d,J=6,2H);3.36(hept,J=2(H);3.52(s,3H);3.57(s,3H);3.73(s,3H);4.20(m,1H);4.43(m,1H);5.45(dd,J=5,16,1H);6.64(dd,J=2,16,1H);7.09(m,2H);7.64(m,2H)
【0034】(6)化合物(Ib-1)11.4gおよびエタノ-ル160ml溶液に氷冷下で0.1N水酸化ナトリウム223mlを加えて徐々に室温とし、1時間撹拌する。溶媒を減圧留去して、残渣にエ-テルを加えて撹拌することにより目的化合物(Ia-1)11.0g(収率:95.0%)を結晶性粉末として得られる。
【化22】

[α]_(D)=+18.9±0.6°(C=1.012,25.0℃,H_(2)O)NMR(CDCl_(3))δ:1.24(d,J=7,6H);1.48(m,1H);1.65(m,1H);2.27(dd,J=2,6,2H);3.41(hept,J=7,1H);3.48(s,3H);3.59(s,3H);3.73(m,1H);4.32(m,1H);5.49(dd,J=7,16,1H);6.62(d,J=16,1H);7.19(m,2H);7.56(m,2H)
【0035】実施例2
(+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-アセ チル-N-メチルアミノ)ピリミジン-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキ シ-(E)-6-ヘプテン酸ナトリウム(Ia-2)
(1)参考例2で得られた化合物3エチル 4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルアミノピリミジン-5-カルボキシレ-ト838mgを実施例1(1)(2)と同様に反応させて4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-メチルアミノピリミジン-5-カルバルデヒド157mgを得る。
【0036】(2)次いで、得られたアルデヒド体157mgを無水DMF4ml中、氷冷下で60%NaH25mgと30分間反応させた後、アセチルクロライド0.05mlを加えてそのまま1時間撹拌する。次いで氷を加えて、エ-テルで抽出し、水洗、乾燥する。溶媒を留去して4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-アセチル-N-メチルアミノ)ピリミジン-5-カルバルデヒド167mg(収率:93.4%)を得る。得られたアルデヒド体を実施例1(3)?(5)と同様に反応させることによりメチル 7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-アセチル-N-メチルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R,5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテネ-ト(Ib-2)を得る。
NMR(CDCl_(3))δ:1.27(d,J=7,6H);1.54(m,2H);2.48(d,J=6,2H);2.52(s,3H);3.39(hept,J=7,1H);3.60(s,3H);3.58(brs,1H);3.74(s,3H);4.21(m,1H);4.48(m,1H);5.50(d,d,J=5,16,1H);6.66(d,d,J=2,16);7.11(m,2H);7.61(m,2H)
【0037】(3)得られた(Ib-2)を実施例1(6)と同様に処理することにより目的化合物(Ia-2)を得る。
【化23】

NMR(CDCl_(3))δ:1.27(d,J=7,6H);1.57(m,2H);2.17(s,3H);2.27(d,J=6,2H);3.72(s,3H);3.50(hept,J=7,1H);3.70(m,1H);4.35(q,J=6,1H);5.59(d,d,J=5,16,1H);6.54(d,J=16,1H);7.24(m,2H);7.59(m,2H)
【0038】実施例3-7
参考例1-5で得られたピリミジンカルボン酸エステル(III)をそれぞれ出発原料として実施例1あるいは2と同様に反応させて化合物(Ib)および(Ia)を得る。得られた化合物および該物理恒数を表1?3に示す。
【化24】

【表1】

【表2】

【表3】

【0039】実施例8
化合物(Ia-1)のCa塩の合成方法
化合物(Ia-1)(Na塩)1.50g(3.00mmol)を15mlの水に溶解し、窒素気流下室温で攪拌する。そこへ1mol/L塩化カルシウム水溶液3.00ml(3.00mmol)を3分間かけて滴下する。その後、同温度で2時間攪拌し、析出物を濾取し、水洗、乾燥して粉末状のCa塩1.32gを得る。この化合物は155℃から溶融が始まるが、明確な融点を示さない。

【0040】生物活性評価
[試験例]
HMG-CoA還元酵素阻害作用
(1)ラット肝ミクロゾ-ムの製法
2週間2%コレスチラミンを含む通常食および飲水を自由摂取させたSprague-Dawleyラットを用いて、黒田らの報告((Biochim.Biophys.Acta)、486巻、70頁(1977年)参照)にしたがって精製した。105000×gで遠心分離して得られるミクロゾ-ム分画は15mMニコチンアミドと2mM塩化マグネシウムを含む溶液(100mMリン酸カリウム緩衝溶液中、pH7.4)で1度洗浄したのち、用いた肝重量と同量のニコチンアミドと塩化マグネシウムを含有する緩衝液を加え均一化し、-80℃に冷却し、保存した。
【0041】(2)HMG-CoA還元酵素阻害活性測定法
-80℃で保存したラット肝ミクロゾ-ム100μlを0℃で溶解させ、冷リン酸カリウム緩衝液(100mM、pH7.4)0.7mlで薄め、50mMEDTA溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)0.8mlと100mMジチオスレイト-ル溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)0.4mlを加え、0℃に保った。このミクロゾ-ム溶液1.675mlに25mMNADPH溶液(前記リン酸カリウム緩衝液溶液)670μlを混じ、この溶液を0.5mM[3^(-14)C]HMG-CoA溶液(3mCi/mmol)670μlに加えた。このミクロゾ-ムとHMG-CoAの混液45μlに被検化合物のナトリウム塩のリン酸カリウム緩衝液溶液5μlを混じ、37℃で30分間インキュベ-トした。冷後、10μlの2N塩酸を加えて、再び37℃で15分間インキュベ-トした。この混合物30μlを0.5mm厚シリカゲル薄層クロマト板(メルク社製 Merck AG、商品名 Art 5744)にアプライし、トルエン-アセトン(1:1)で展開したのち、Rf値が0.45?0.60の部分をかきとり、10mlのシンチレ-ションカクテルを入れたバイアル中に加えてシンチレ-ションカウンタ-で比放射能を測定した。本法により測定したメビノリン(ナトリウム塩)の阻害活性を100とした時の本発明化合物の相対活性を表4に示した。
【0042】
【表4】

以上のように、特に本発明化合物はメビノリンよりも強力なHMG-CoA還元酵素阻害活性を示す有効な薬剤であると考えられる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I):
【化1】

(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)は水素またはヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。
【請求項2】 (+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸。
【請求項3】(削除)
【請求項4】(削除)
【請求項5】 式(I):
【化2】

(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。)
で示される化合物。
【請求項6】 式(I):
【化3】

(式中、
R^(1)は低級アルキル、アリールまたはアラルキルでありこれらの基はそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(2)およびR^(3)はそれぞれ独立して水素、低級アルキルまたはアリールであり該アルキルおよびアリールはそれぞれ置換基を有していてもよい;
R^(4)は水素、低級アルキルまたは非毒性の薬学的に許容しうる塩を形成する陽イオン;
Xは硫黄、酸素、スルホニル基;
破線は2重結合の有無を、それぞれ表す。
但し、R^(1)がアラルキル、R^(2)およびR^(3)がそれぞれ独立して低級アルキルまたはアリールかつXが硫黄または酸素である場合を除く。)
で示される化合物またはその閉環ラクトン体である化合物。
【請求項7】(削除)
【請求項8】(削除)
【請求項9】 式(I):
【化4】

(式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはメチルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在を、それぞれ表す。)
で示される化合物。
【請求項10】 式(b)で示される化合物を、(3R)-3-(tert-ブチルジメチルシリルオキシ-5-オキソ-6-トリフェニルホスホラニリデンヘキサン酸誘導体と反応させて式(c)で示される化合物を生成させる工程と、
【化5】

【化6】

式(c)で示される化合物のtert-ブチルジメチルシリル基を離脱することにより式(d)で示される化合物を生成させる工程と、
【化7】

式(d)で示される化合物を還元する工程と、を含む方法によって得られる
式(I):
【化8】

(各式中、
R^(1)は低級アルキル;
R^(2)はハロゲンにより置換されたフェニル;
R^(3)は低級アルキル;
R^(4)はヘミカルシウム塩を形成するカルシウムイオン;
Xはアルキルスルホニル基により置換されたイミノ基;
破線は2重結合の存在;
t-Buはtert-ブチル;
C*は不斉炭素原子を、それぞれ表す。)
で示される、光学活性体化合物。
【請求項11】 (+)-7-[4-(4-フルオロフェニル)-6-イソプロピル-2-(N-メチル-N-メチルスルホニルアミノピリミジン)-5-イル]-(3R、5S)-ジヒドロキシ-(E)-6-ヘプテン酸のカルシウム塩。
【請求項12】 請求項1に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
【請求項13】 請求項5に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
【請求項14】 請求項6に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
【請求項15】 請求項9に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
【請求項16】 請求項10に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
【請求項17】 請求項11に記載の化合物を有効成分として含有する、HMG-CoA還元酵素阻害剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-06-03 
結審通知日 2015-06-05 
審決日 2015-06-19 
出願番号 特願平4-164009
審決分類 P 1 123・ 121- YAA (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 内藤 伸一  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 中田 とし子
齊藤 真由美
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2648897号(P2648897)
発明の名称 ピリミジン誘導体  
代理人 梅田 慎介  
代理人 梅田 慎介  
代理人 金本 恵子  
代理人 松任谷 優子  
代理人 大野 聖二  
代理人 松任谷 優子  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 金本 恵子  
復代理人 壽 勇  
代理人 大野 聖二  
代理人 実広 信哉  
代理人 寺地 拓己  
代理人 末吉 剛  

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