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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1307626
審判番号 不服2013-12802  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-04 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2007-518495「タンパク質水解物を含有する化粧品組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成18年1月5日国際公開、WO2006/000350、平成20年2月14日国内公表、特表2008-504319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯
本願は、平成17年6月17日(パリ条約による優先権主張 2004年6月28日 欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年3月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月29日に意見書及び手続補正書が提出され、平成24年3月26日付けで拒絶理由が通知され、同年7月3日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年2月25日付けで拒絶査定され、同年7月4日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成26年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成27年4月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明について
本願の請求項1?18に係る発明は、平成27年4月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?18にそれぞれ記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

【請求項1】
タンパク質水解物および化粧品として許容しうる賦形剤を含んでいる化粧品組成物であって、前記タンパク質水解物が、セリンエンドプロテアーゼまたはメタロエンドプロテアーゼを、プロリン特異的エンドプロテアーゼとともに含有する酵素混合物を用いてインキュベーションすることによって得られるものであり、前記タンパク質水解物が、カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率(%)が、この水解物を発生させるために用いられるタンパク質基質中のプロリンのモル分率(%)の2倍超であるペプチドを含んでいるタンパク質水解物であって、カゼイン水解物、乳清水解物、大豆タンパク質水解物、グルテン水解物及び大麦タンパク質水解物からなる群より選択される少なくとも一種のタンパク質水解物である化粧品組成物。
【請求項2】
カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率(%)が、この水解物を発生させるために用いられるタンパク質基質中のプロリンのモル分率(%)の少なくとも3倍である、請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項3】
前記タンパク質水解物中のペプチドの平均ペプチド長さは、3?9アミノ酸である、請求項1または2に記載の化粧品組成物。
【請求項4】
前記タンパク質基質の少なくとも10%は、加水分解される、請求項1?3のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項5】
前記タンパク質水解物は、
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも8%であるペプチドを含んでいる乳清水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも25%であるペプチドを含んでいるカゼイン水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも20%であるペプチドを含んでいる大豆タンパク質水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも20%であるペプチドを含んでいるグルテン水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも20%であるペプチドを含んでいる大麦タンパク質水解物である、
請求項1?4のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項6】
前記タンパク質水解物は、
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、30?70%であるペプチドを含んでいる乳清水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも30%であり、70%未満であるペプチドを含んでいるカゼイン水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、30?70%であるペプチドを含んでいる大豆タンパク質水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも30%であり、70%未満であるペプチドを含んでいるグルテン水解物、および/または
-カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率が、少なくとも30%であり、70%未満であるペプチドを含んでいる大麦タンパク質水解物である、
請求項1?5のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項7】
前記タンパク質水解物は、トリペプチドに富み、前記トリペプチドは、前記ペプチドの一端においてプロリンに富む、請求項1に記載の化粧品組成物。
【請求項8】
前記タンパク質水解物において200?2,000ダルトンの分子量を有するペプチドの少なくとも20モル%が、トリペプチドとして存在する、請求項7に記載の化粧品組成物。
【請求項9】
出発タンパク質中に存在するプロリンの少なくとも20%が、トリペプチド中に存在する、請求項7または8に記載の化粧品組成物。
【請求項10】
前記トリペプチドの少なくとも30%は、カルボキシ末端プロリンを有する、請求項7?9のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項11】
前記タンパク質水解物中に存在する前記ペプチドの少なくとも70モル%は、2?7アミノ酸残基(ジペプチド?ヘプタペプチド)を含有する、請求項7?10のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項12】
局所組成物である、請求項1?11のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項13】
前記組成物の重量を基準にして、0.01?50重量%の濃度で前記タンパク質水解物を含有する、請求項1?12のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項14】
前記タンパク質水解物が、前記組成物の重量を基準にして、0.01?5重量%の濃度で存在する、請求項13に記載の化粧品組成物。
【請求項15】
前記タンパク質水解物が、前記組成物の重量を基準にして、0.1?1重量%の濃度で存在する、請求項14に記載の化粧品組成物。
【請求項16】
前記タンパク質水解物が、前記組成物の重量を基準にして、0.3?2重量%の濃度で存在する、請求項14に記載の化粧品組成物。
【請求項17】
皮膚洗浄組成物、ヘアケア組成物、日焼け止め組成物、アンチエイジング組成物、またはネイルケア組成物である、請求項1?16のいずれか一項に記載の化粧品組成物。
【請求項18】
化粧品効果を与えるための組成物の調製のための、請求項1?11のいずれか一項に特定されるタンパク質水解物の使用であって、前記化粧品効果が、皮膚および毛髪の美化、皺または乾燥肌または敏感肌、または健康な皮膚の生理的ホメオスタシスの負の進行によって引起こされたあらゆる症状の治療または予防、皮膚または毛髪の保湿、表皮の肥厚化、にきび防止、皮膚細胞の老化の阻止、光損傷の防止または治療、酸化性ストレス現象の防止または治療、セルライトの防止または治療、色素沈着障害および/またはさらに皮膚の色合いの防止または治療、セラミドおよび脂質合成の障害の防止および治療、過剰な皮脂生産の防止、皮膚中のマトリックスメタロプロテアーゼおよびほかのプロテアーゼの活性の低減、アトピー性湿疹、多形日光疹、乾癬、尋常性白斑を包含する炎症性の皮膚症状の治療および防止、痒いかまたはヒリヒリする皮膚の防止および治療、爪または皮膚洗浄効果の強化および/または保護、傷んだ髪の修復、毛髪の強化、毛髪表面の平滑化、または適合性の改善である、使用。

3.当審の判断
(1)請求項18に係る発明
請求項18に係る発明では、「請求項1?11のいずれか一項に特定されるタンパク質水解物」を、「皮膚および毛髪の美化、皺または乾燥肌または敏感肌、または健康な皮膚の生理的ホメオスタシスの負の進行によって引起こされたあらゆる症状の治療または予防、皮膚または毛髪の保湿、表皮の肥厚化、にきび防止、皮膚細胞の老化の阻止、光損傷の防止または治療、酸化性ストレス現象の防止または治療、セルライトの防止または治療、色素沈着障害および/またはさらに皮膚の色合いの防止または治療、セラミドおよび脂質合成の障害の防止および治療、過剰な皮脂生産の防止、皮膚中のマトリックスメタロプロテアーゼおよびほかのプロテアーゼの活性の低減、アトピー性湿疹、多形日光疹、乾癬、尋常性白斑を包含する炎症性の皮膚症状の治療および防止、痒いかまたはヒリヒリする皮膚の防止および治療、爪または皮膚洗浄効果の強化および/または保護、傷んだ髪の修復、毛髪の強化、毛髪表面の平滑化、または適合性の改善である」「化粧品効果を与える組成物」の調製のために使用する旨特定している。
このことは、「請求項1?11のいずれか一項に特定されるタンパク質水解物」について、「皮膚および毛髪の美化、皺または乾燥肌または敏感肌、または健康な皮膚の生理的ホメオスタシスの負の進行によって引起こされたあらゆる症状の治療または予防、皮膚または毛髪の保湿、表皮の肥厚化、にきび防止、皮膚細胞の老化の阻止、光損傷の防止または治療、酸化性ストレス現象の防止または治療、セルライトの防止または治療、色素沈着障害および/またはさらに皮膚の色合いの防止または治療、セラミドおよび脂質合成の障害の防止および治療、過剰な皮脂生産の防止、皮膚中のマトリックスメタロプロテアーゼおよびほかのプロテアーゼの活性の低減、アトピー性湿疹、多形日光疹、乾癬、尋常性白斑を包含する炎症性の皮膚症状の治療および防止、痒いかまたはヒリヒリする皮膚の防止および治療、爪または皮膚洗浄効果の強化および/または保護、傷んだ髪の修復、毛髪の強化、毛髪表面の平滑化、または適合性の改善である」化粧品効果を奏する化粧品としての用途を特定しているものと解される。

(2)本願発明が解決しようとする課題
請求項1?18に係る発明の解決しようとする課題は、発明の詳細な説明に、
ア.「本発明によって解決されるべき課題は、通常、化粧品組成物へタンパク質水解物を添加することによって得ることができるが、消費者によるアレルギー反応を引起こすリスクが低いか、またはまったくリスクがない、優れた化粧品特性を有する化粧品組成物を提供することである。これらの組成物は、美容効果と皮膚の有害な反応のリスクとの間に有利なバランスを有すべきである。……
この課題は、末端プロリンを有するペプチドの高含量を有し、現在まで食品用途または同様な用途にのみ用いられてきたあるいくつかのタンパク質水解物を、化粧品組成物中に有利に組み込むことができるという意外な発明に基づいて解決される。これらのタンパク質水解物を含有する化粧品組成物は、タンパク質水解物を含有する化粧品組成物の有利な特性を有するが、これらは患者に皮膚刺激を引起こさない。」(段落0013?0014)
と記載されていることからみて、「化粧品組成物へタンパク質水解物を添加することによって得ることができるが、消費者によるアレルギー反応を引起こすリスクが低いか、またはまったくリスクがない、優れた化粧品特性を有する化粧品組成物」を提供することにあるものと解される。

しかしながら、「優れた化粧品特性を有する化粧品組成物」の「優れた化粧品特性」については、「美容効果」、「タンパク質水解物を含有する化粧品組成物の有利な特性」と示されているだけで、化粧品組成物の具体的な用途(化粧品効果)は上記記載から明らかではない。

一方、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物の用途に関し、発明の詳細な説明には、
イ.「本発明は、ペプチドの1つの末端上でプロリンに富む、特にカルボキシ末端プロリンに富む、特定のタンパク質水解物を含有する化粧品組成物に関する。これらの化粧品組成物は、皺の治療、皮膚の保湿のために特に有用であるが、同様に表皮の皮厚化、皮膚の脂質バリヤーの保護および修復のため、およびヘアケア組成物のためにも有用である。」(段落0001)
ウ.「意外にも、末端プロリンを有するペプチドの高含量を有する上記のタンパク質水解物は、様々な化粧品用途において優れた活性を有するが、一方で、現行技術の方法によって生成されたほかのタンパク質水解物によって引起こされる皮膚の刺激を引起こさない。上記のようなタンパク質水解物を含有する化粧品組成物は、特に皺の治療および予防、皮膚および毛髪の保湿、ならびに表皮の皮厚化のためであるが、同様に、外部または環境危険によって、または皮膚の自然の老化によって引起こされることがある皮膚の老化の作用を改善するための活性を示す。これらのタンパク質水解物はまた、傷んだ髪を防止および修復するため、これを再構成するためおよび/または強化するために用いることができる。これは、長髪またはトリートメントされた毛髪にとって特に重要である。……。これらのタンパク質水解物はさらに、ネイルケアのための組成物、および特に爪、特に指の爪の強化のための組成物においても用いることができる。
これらのタンパク質水解物はまた、清浄化または洗浄組成物または皮膚洗浄剤、特に皮膚に優しいように設計されているもの、特に、有害な反応を引起こすことなく、皮膚の水和をともなった洗浄効果を与えるためのベビーケア用配合物にも用いることができる。」(段落0033?0034)
エ.「これらの化粧品組成物は特に、皺または乾燥肌または敏感肌、または健康な皮膚の生理的ホメオスタシスの負の進行によって引起こされたあらゆる症状の治療または予防、毛髪成長の促進、毛髪喪失からの保護、表皮の肥厚化、にきび防止、皮膚細胞の老化の阻止、光損傷の防止または治療、酸化性ストレス現象の防止または治療、セルライトの防止または治療、色素沈着障害および/またはさらに皮膚の色合いの防止または治療、セラミドおよび脂質合成の障害の防止および治療、過剰な皮脂生産の防止、皮膚中のマトリックスメタロプロテアーゼまたはほかのプロテアーゼの活性の低減、アトピー性湿疹、多形日光疹(polymorphic light eruption)、乾癬、尋常性白斑(vertiligo)を包含する炎症性の皮膚症状の治療および防止、痒いかまたはヒリヒリする皮膚の防止および治療のため、ならびにヘアケア製品において、または爪、特に手の指に適用するか、またはこれらを治療するための組成物において用いることができる組成物である。
これらのタンパク質水解物はまた、日焼け止め組成物、および皮膚および毛髪洗浄組成物、例えば石鹸、入浴ジェル、シャワージェル、液体石鹸、シャンプー、バスソルト、フォーム入浴剤、皮膚洗浄剤などにも用いることもできる。これらのタンパク質水解物はまた、リンス・オフならびにリーブ・オン用途におけるヘアコンディショナー、ヘアトリートメントセラム(sera)、およびスタイリングジェルにも用いることができる。
本発明の特に好ましい組成物は、局所組成物である。
……。皮膚および毛髪洗浄組成物もまた、特に本発明の化粧品組成物中に包含される。」(段落0036?0039)
と記載されているように、種々の用途に関し形式的な記載はあり、これらの中には請求項18で特定されるような化粧品効果(用途)も含まれている。

そうすると、請求項18に係る発明が解決しようとする課題は、「化粧品組成物へタンパク質水解物を添加することによって得ることができるが、消費者によるアレルギー反応を引起こすリスクが低いか、またはまったくリスクがない、請求項18で特定される化粧品効果を与えるための化粧品組成物」を提供することにあるものと解される。

(3)サポート要件について
発明の詳細な説明には、請求項18で特定される化粧品効果については、上記摘示イ?エに記載されているとおり、形式的には記載されているものの、それ以上の具体的な化粧品効果については何ら記載されていない。
また、実施例として、「カゼイン水解物」(実施例1?3:保湿スキンローション、実施例10?12:コンディショニングシャンプー、実施例13?15:集中的ヘアコンディショナー)、「大豆タンパク質水解物」(実施例4?6:化粧水)、「大麦タンパク質水解物」(実施例7?9:敏感肌の保護のためのフェイシャルクリーム)及び「グルテン水解物」(実施例16?18:毛髪セラム)を含有する各種化粧品組成物の処方が記載されているものの、当該タンパク質水解物が化粧品組成物として具体的にどのような化粧品効果(例えば、実施例の処方に表示されている皮膚の保湿、敏感肌の保護、毛髪のコンディショニングなど)を有しているのかは何ら確認されていない。

ところで、請求人は、平成27年4月16日付け意見書にて、
「本願発明は、消費者によるアレルギー反応を引起こすリスクが低いか、またはまったくリスクがない、優れた化粧品特性、特に皮膚保湿効果を有する化粧品組成物を提供することを課題としています([0013])。そして、本願発明は、これまで食品用途しかなかった上記特定のタンパク質水解物を化粧品組成物に配合させることで、意外にも、皮膚や毛髪の保湿効果など様々な化粧品特性を有する一方で、これまでの方法によって生成されたほかのタンパク質水解物によって引起こされる皮膚の刺激を引起こさないという格別な効果を奏します([0033])。
さらに、本願発明の化粧品組成物による保湿効果については、平成23年6月29日付け意見書に添付したBeauActive^(TM) MTP)を用いたin vivoの実験データによっても証明されています。このBeauActive^(TM) MTPは、国際公開第02/45523号パンフレットに開示されているような方法で得られたものであり、本願請求項1におけるタンパク質水解物に相当します。該タンパク質水解物は、化粧効果として、プラセボに比べて特に保湿効果が高いことが証明されています。」
と主張しており、このような主張を踏まえれば、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物は、一般的な化粧料に求められる保湿についての効果、すなわち保湿化粧料としての用途は事後的に確認でき、これは請求項1?16に係る化粧品組成物の裏付けであるといえる。

しかしながら、請求項18で特定される化粧品効果には、(皮膚の)保湿とは直接関係のない広範なものが多数列挙されており、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物を使用した場合に、請求項18で特定される化粧品効果(皮膚の保湿を除く)のそれぞれについて、実際に、治療、予防あるいは防止効果を示したといえる具体的な事項は、発明の詳細な説明中には記載されておらず、また、当該タンパク質水解物がそのような化粧品効果を与えることは当業者に自明であるとも認められないことから、当該タンパク質水解物を採用した場合に、組成物にこれらの化粧品効果を与えることができることを客観的に認識・確認することはできない。
したがって、請求項18は、上記課題を解決することができるものとして発明の詳細な説明の記載から把握できる技術的事項の範囲を超えて記載されている。
そうすると、請求項18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。

(4)付記
さらに付言すると、本願明細書の発明の詳細な説明には、
オ.「本発明の化粧品組成物における使用のためのタンパク質水解物は、先行技術において周知である。
……、
およびこのようなタンパク質水解物の生成方法は、参照により本明細書に援用される国際公開第02/45523号パンフレットおよび国際公開第02/45524号パンフレットから公知である。このタンパク質水解物は好ましくは、カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率(%)が、この水解物を発生させるために用いられるタンパク質基質中のプロリンのモル分率(%)の2倍超であるペプチドを含んでいるタンパク質水解物であり、このようなタンパク質水解物はまた、これらの文献からも公知である。特に、これらの文献において詳細に記載されているタンパク質水解物の調製に関するこれらの文献が参照される。
トリペプチドに富み、これによってこれらのトリペプチドがこのペプチドの一端においてプロリンに富むタンパク質水解物は、国際公開第03/102195号パンフレットから公知であり、この文献もまた、参照により本明細書に援用される。トリペプチドに富み、これによってこれらのトリペプチドがこのペプチドの一端においてプロリンに富むタンパク質水解物の生成方法に関して、およびさらに好ましいタンパク質水解物に関して、特に国際公開第03/102195号パンフレットが参照される。本発明の好ましいタンパク質水解物はまた、国際公開第03/102195号パンフレットに開示された好ましいタンパク質水解物でもある。
本発明の化粧品組成物に用いることができるタンパク質水解物はまた、国際公開第02/068623号パンフレットに開示された新規タンパク質分解酵素を用いて調製することもでき、この文献も、本発明の化粧品組成物に用いることができるタンパク質水解物の好ましい生成方法に関して、参照により本明細書に援用される。
したがって本発明は、国際公開第03/102195号パンフレット、国際公開第02/45523号パンフレット、および/または国際公開第02/45524号パンフレットから公知である、末端プロリンの高含量を有するタンパク質水解物を含有する化粧品組成物を提供する。
トリペプチドに富み、これによってこれらのトリペプチドがこのペプチドの一端においてプロリンに富み、このペプチドが、国際公開第03/102195号パンフレットに開示されているようなカルボキシ末端プロリンを有するタンパク質水解物が特に好ましい。……。ほかの好ましいタンパク質水解物は、国際公開第03/102195号パンフレットから公知である。」(段落0019?0023)
と記載され(なお、国際公開第02/45523号、国際公開第02/45524号及び国際公開第03/102195号に係る日本国への特許出願の公表公報が、それぞれ原査定の引用文献5?7である。)、さらに、
「国際公開第02/45523号パンフレットの実施例1のタンパク質水解物は、請求項1に規定のタンパク質水解物、すなわち、カルボキシ末端プロリンを有するペプチドのモル分率(%)が、この水解物を発生させるために用いられるタンパク質基質中のプロリンのモル分率(%)の2倍超であるペプチドを含んでいるタンパク質水解物であることが明らかであります。」(原審で提出された平成24年7月3日付け意見書)
「本願発明におけるタンパク質水解物は、所定の酵素混合物を用いて得られるものであり、国際公開第02/45523号パンフレットに開示されているようなカルボキシ末端プロリンを有するペプチド断片に富むタンパク質水解物です([0028]、[0029])。」(当審で提出された平成27年4月16日付け意見書)
と主張していることから、請求人は、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物自体は原査定の引用文献5?7から公知であることは認めるものの、
「本願発明は、消費者によるアレルギー反応を引起こすリスクが低いか、またはまったくリスクがない、優れた化粧品特性、特に皮膚保湿効果を有する化粧品組成物を提供することを課題としています([0013])。そして、本願発明は、これまで食品用途しかなかった上記特定のタンパク質水解物を化粧品組成物に配合させることで、意外にも、皮膚や毛髪の保湿効果など様々な化粧品特性を有する一方で、これまでの方法によって生成されたほかのタンパク質水解物によって引起こされる皮膚の刺激を引起こさないという格別な効果を奏します([0033])。」(当審で提出された平成27年4月16日付け意見書ほか)
と述べるとともに、さらに、
「一方、引用文献4?8には、食品添加などのためのタンパク質水解物が記載されていますが、いずれの文献にもこれらのタンパク質水解物が化粧品組成物に配合されることについて記載されていません。……
さらに、仮に当業者が引用文献4?8に記載のタンパク質水解物を化粧品組成物に配合してみようと考えたとしても、それがアレルギー反応を引き起こすかどうかについても予測し得ず、化粧品効果が得られるかどうかも予測し得なかったといえます。」(原審で提出された平成23年6月29日付け意見書:なお、引用文献4?6はそれぞれ原査定の引用文献5?7と同じ文献である。)
「引用文献5?7には、本願発明におけるタンパク質水解物を得るために使用される酵素が記載されています。しかしながら、引用文献5?7には、得られたタンパク質水解物の食品用途について記載されているものの、化粧品用途について何ら記載や示唆されていません。」(原審で提出された平成24年7月3日付け意見書)
「刊行物5には、本願発明におけるタンパク質水解物が記載されているものの、該タンパク質水解物の食品用途のみしか記載されておらず、化粧品用途、特に保湿効果や低アレルギー性について何ら記載や示唆されていません。 ……
さらに、仮に当業者が刊行物1?4において、刊行物5に記載のタンパク質水解物を試みようとしたとしても、本願発明におけるタンパク質水解物による格別な化粧効果を容易に予測し得なかったことと思料いたします。」(当審で提出された平成27年4月16日付け意見書)
と述べていることからみて、請求人は、本願は、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物が、従前の文献からは知られていない化粧品効果を奏することを新たに見いだした発明であると主張しているものと解される。(なお、低アレルギー性についてはここでは措く。)
そうすると、当該タンパク質水解物について新規な化粧品用途を見いだしたものであるから、本願明細書の発明の詳細な説明に、その新規な請求項18で特定される化粧品効果についての具体的な記載がなければ、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に従い、請求項1?11で特定されるタンパク質水解物を、当業者が、この新規な化粧品効果を有する用途に用いることができることを認識することはできない。
なお、請求人は、当審におけるこのサポート要件違反を指摘した拒絶理由通知に対し、
「本願発明による効果は、実施例によって充分説明されていると思料いたします。」(当審で提出された平成27年4月16日付け意見書)
と述べているが、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例としてタンパク質水解物を含むいくつかの化粧品処方が記載されているにすぎず、その化粧品効果について何か説明したものではないことは明らかである。

(5)まとめ
したがって、請求項18に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないので、他の理由について判断するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-11 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2007-518495(P2007-518495)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川合 理恵  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小川 慶子
小久保 勝伊
発明の名称 タンパク質水解物を含有する化粧品組成物  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 清水 義憲  
代理人 野田 雅一  
代理人 山田 行一  

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