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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1307634
審判番号 不服2014-1366  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-01-24 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2012-503722「モバイル・デバイス支援された着信アクセス領域選択を使用するフォールバック」拒絶査定不服審判事件〔平成22年10月 7日国際公開、WO2010/115045、平成24年 9月27日国内公表、特表2012-523175〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)4月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月1日 米国、2010年3月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年2月20日付けで拒絶理由が通知され、同年7月5日付けで手続補正がなされ、同年9月13日付けで拒絶査定された。
これに対し、平成26年1月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、当審により、平成27年2月4日付けで拒絶理由が通知され、同年5月8日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2.当審の拒絶理由
平成27年2月4日付けで、当審より通知された拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の理由2は、本願優先日前に公開された3GPP TS 23.292 V8.2.0 (2008-12):“IP Multimedia Subsystem (IMS) centralized services; Stage 2 (Release 8)”, Internet (2008年12月16日公開。以下、「引用例1」という。)、及び、Vodafone, “Terminating voice call handling in networks supporting SAE ISR and/or “Release R’99 ISR””, 3GPP TSG SA WG2 Meeting #68 S2-086727, Internet (2008年10月7日公開。以下、「引用例2」という。)を引用した上で、「本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。


第3.平成27年5月8日付け意見書の概要
上記当審拒絶理由に対し、請求人は、平成27年5月8日で、次の記載事項を含む意見書(以下、「意見書」という。)を提出した。

「(2) 本願発明と引用文献1との対比
(2-1)本願発明と引用文献1との対比
本願発明は、セッションの保留に関して、次のような特徴的な事項を有しております。
「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留することと」

一方、引用文献1には、「セッションが、可能性のあるセッションの転送のためにアンカーされ得る」ことや、「SCC ASがセッションをアンカーする」こと(図7.4.1.3-1およびその説明)、あるいは、UEがエラー条件を示す応答をIMSに返すこと(7.4.1.2のステップ7-12参照)が開示されているにすぎません。
審判官殿もご認定されているように、引用文献1には、セッションを保留することについては何ら考察されておらず、ましてや、本願発明における上記特徴的な事項については何ら開示されておりません。

なお、審判官殿は、引用文献1において、アンカーしたセッションとCSコールを結合するまでの間、アンカーしたセッションを保留することは明白である(実質的に記載されている)か、あるいは、そうでなくても、代替サービス応答に応じて保留にすることは容易である旨ご判断されています。
しかしながら、引用文献1において、アンカーしたセッションとCSコールを結合するまでの間、セッションをどのような状態に置くかについては何ら考察されておらず、「アンカーしたセッションを保留すること」が引用文献1に記載されているに等しいとまではいえないと思料いたします。なお、仮に、アンカーした時点で保留することが記載されていたとしても、本願発明の上記特徴的な事項に到達できないことは言うまでもありません。
さらに、引用文献1における「代替サービス応答」が「セッションのための招待に対する拒否」を意味していたとしても、「代替サービス応答」に応じてセッションを保留することまで直ちに導き出すことはできず、ましてや、本願発明の上記特徴的な事項には到達できないものと思料いたします。

(2-2)本願発明と引用文献2との対比について
引用文献2についても、審判官殿は、「SCC?ASは、発信側UEから着信したセッションを、着信側UEからの回線交換コールを受信するまでの間、保留しなければならないことは、・・・明らかである。」とご判断されています。
しかしながら、引用文献2にも、セッションを保留することは何ら開示されていないことから、引用文献1と2を組み合わせたとしても、本願発明に到達できるとする論理づけは構築できないと思料いたします。」


第4.本願発明
本願の請求項1?37に係る発明は、平成27年5月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?37に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
通信環境におけるフォールバック手続きのための方法において、
セッションのための招待であって第2のモバイル・デバイスからであり且つメディアのためのパケット交換ベアラを有するものを、第1のモバイル・デバイスへ転送することと、
前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留することと、
前記第1のモバイル・デバイスから回線交換コールを受信することと、
前記回線交換コールを前記セッションに関連付けることと、
回線交換領域ベアラ及びインターネット・プロトコル・マルチメディア・サブシステム(IMS)ベアラの上で前記第1のモバイル・デバイスと前記第2のモバイル・デバイスとの間の通信を確立することを含む方法。


第5.引用文献
当審拒絶理由で引用した引用例1には、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与した。

(ア)第27頁目
「7.4.1 Terminating sessions that use PS media」
(当審訳:
7.4.1 PSメディアを使用するセッションの着信)

(イ)第28頁目?第30頁目
「7.4.1.3 Fallback using UE T-ADS

Figure 7.4.1.3-1 provides an example flow for a call destined to a UE-2 as per TS 23.216 [36] and where the incoming session is delivered over the Gm reference point using only PS media because the SCC AS is unable to accurately determine that the CS domain should be used, e.g., when ISR as per TS 23.401 [34] is active and if SRVCC procedures as per TS 23.216 [36] are used. In this example call flow the UE-2, capable to perform UE T-ADS, either decides to reject the incoming session or to use CS media in an originating fashion.

1. The request is received at S-CSCF following normal IMS session set up procedures.
2?3. The service logic with iFC causes the request to be forwarded to the SCC AS so that the session can be anchored for potential session transfer.
4. The SCC AS anchors the session. An STI is assigned for the anchored session. T-ADS is executed and the PS access is selected for termination.
5?6. The SIP INVITE is forwarded to the UE via the selected PS access. The SIP INVITE may include additional binding information to aid binding of any potential CS call attempts from the UE. If the UE is camped on a bi-directional speech capable PS access and the UE supports speech media over the PS access, the remainder of this procedure is skipped and standard procedures are followed according to TS 23.401 [34] (network triggered service request) and TS 23.228 [4] (terminating session).
7. The UE, based on local configuration including operator policies, performs detection for a voice call associated with the SIP INVITE. UE T-ADS as defined in clause 5.3.1 identifies the domain in which the call is to be established and determines the mechanism to perform the establishment.
8a If the UE T-ADS determines that the call shall be treated such us CS termination, the same steps are executed as in clause 7.4.1.2, steps 7-12.
8b?9b. If the UE T-ADS determines that the UE shall use CS origination, the UE may respond indicating that an Alternate Service with a CS originating session is to be used for completing this session without using Gm reference point for service control. The S-CSCF forwards the message to the SCC AS.
10b. The UE establishes a CS call towards IMS using locally configured or any received binding information as the dialled number.
11b. Originating call establishment

NOTE: If the UE is in GERAN access, the UE may suspend the PS bearers. This may occur in parallel or immediately after step 8b if step 8b is executed or if step 8b is not executed after step 8a, respectively. This procedure is as specified in TS 23.060 [35].」
(当審訳:
7.4.1.3 UE T-ADSを使用するフォールバック

図7.4.1.3-1は、TS 23.216 [36]に従った、UE-2宛のコールのためのフローの例を提供しており、そこでは、ACC ASは、例えば、TS 23.401 [34]に従ったISRがアクティブで、かつ、TS 23.216 [36]に従ったSRVCC手続きが使用される場合には、CSドメインが用いられるべきであると正確に決定することはできないため、着信セッションは、PSメディアのみを用いてGm参照点を介して配信される。このコールフローの例では、UE T-ADSを実行することが可能なUE-2は、着信セッションを拒否するか、発信方式でCSメディアを使用するかのいずれかを決定する。

1. IMSセッションのセットアップ手続きに従って、要求がS-CSCFで受信される。
2?3. セッションが、可能性のあるセッションの転送のためにアンカーされ得るように、iFCのサービスロジックが要求をSCC ASに転送する。
4. SCC ASがセッションをアンカーする。STIが、アンカーされたセッションのために割り当てられる。T-ADSが実行され、PSアクセスが着信のために選択される。
5?6. SIP INVITEが選択されたPSアクセスを経由してUEに転送される。SIP INVITEは、UEからの可能性のある任意のCSコールの試みを結合するのを補助するための追加の結合情報を含み得る。UEが双方向の音声が可能なPSアクセスにキャンプオンされ、UEがPSアクセス上の音声メディアをサポートしている場合には、この手続きの残りはスキップされ、TS 23.401 [34](ネットワークでトリガーされるサービス要求)とTS 23.228 [4](セッションの着信)に従って、標準の手続きが続く。
7. オペレータのポリシーを含むローカルの設定に基づいて、UEは、SIP INVITEに関連づけられた音声コールの検出を行う。5.3.1節に定義されるUE T-ADSは、コールが確立されるべきドメインを特定し、確立を行うメカニズムを決定する。
8a UE T-ADSがコールはCS着信のように処理されるべきであると決定する場合、7.4.1.2節のステップ7-12と同じステップが実行される。
8b?9b. UE T-ADSがUEはCS発信を使用すべきであると決定する場合、UEは、CS発信のセッションを有する「代替サービス」が、サービス制御のためのGm参照点を使用しないで、このセッションを完成させるのに用いられることを示す応答を返す。S-CSCFは、SCC ASにそのメッセージを転送する。
10b. UEは、ローカルに設定された、または、任意の受信された、ダイヤル番号としての結合情報を用いて、IMSに向けたCSコールを確立する。
11b. 発信コールの確立

注: UEがGERANアクセスに存在する場合、UEは、PSベアラを延期し得る。これは、ステップ8bが行われる場合には、ステップ8bと並行して、または、ステップ8bの直後に、あるいは、ステップ8aの後、ステップ8bが行われない場合のそれぞれで、起こり得る。)

(ウ)図7.4.1.3-1(第29頁目)
図7.4.1.3-1は、UE T-ADSを用いたフォールバックのフローの例を示したものであり、その記載を技術常識に照らすと、
・1.でUE 1からS-CSCFにSIP INVITEが送信され、3.でS-CFCSからSCC ASにSIP INVITEが転送されること、
・11b.でMSCサーバとSCC ASの間に発信コールが確立されたあと、UE 2とMGWの間にCSドメインのベアラが形成され、MGWとUE 1の間にIMSベアラが形成されること、
が読み取れる。

上記の記載を技術常識に照らせば、次のことがいえる。

摘記(イ)の最初の段落に記載の「UE-2」及び1.?11b.に記載の「UE」、並びに摘記(ウ)の図7.4.1.3-1に記載の「UE 2」は、セッションの着信側となるUEであるから、着信側UEということができる。
また、摘記(ウ)の図7.4.1.3-1に記載の「UE 1」は、セッションの発信側となるUEであるから、発信側UEということができる。
さらに、摘記(イ)の「UE T-ADSを実行することが可能なUE-2は、着信セッションを拒否するか、発信方式でCSメディアを使用するかのいずれかを決定する。」なる記載を参酌すると、UE T-ADSは、着信側UEにおいて、着信セッションを拒否するか、発信方式でCSメディアを使用するかのいずれかを決定できるものであると、いいえる。

よって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「 着側UEにおいて、着信セッションを拒否するか、発信方式でCSメディアを使用するかのいずれかを決定できるUE T-ADSを、使用するフォールバックの方法であって、
ISRがアクティブで、かつ、SRVCC手続きが使用される場合には、CSドメインが用いられるべきであると正確に決定することはできないため、
発信側UEからS-CSCFにSIP INVITEが送信され、S-CFCSからSCC ASにSIP INVETEが転送され、
SCC ASがセッションをアンカーし、T-ADSが実行され、PSアクセスが着信のために選択され、
SIP INVITEが選択されたPSアクセスを経由して着信側UEに転送され、SIP INVITEは、着信側UEからの可能性のある任意のCSコールの試みを結合するのを補助するための追加の結合情報を含み
オペレータのポリシーを含むローカルの設定に基づいて、着信側UEは、SIP INVITEに関連づけられた音声コールの検出を行い、UE T-ADSは、コールが確立されるべきドメインを特定し、確立を行うメカニズムを決定し、
UE T-ADSは着信側UEがCS発信を使用すべきであると決定する場合、着信側UEは、CS発信のセッションを有する「代替サービス」が、サービス制御のためのGm参照点を使用しないで、このセッションを完成させるのに用いられることを示す応答を返し、S-CSCFは、SCC ASにそのメッセージを転送し、
着信側UEは、任意に受信された結合情報をダイヤル番号として用いて、IMSに向けたCSコールを確立し、
MSCサーバとSCC ASの間に発信コールが確立され、
着信側UEとMGWとの間にCSドメインのベアラが形成され、発信側UEとMGWとの間にIMSベアラが形成される
方法。」


第6.当審の判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を比較すると、次のことがいえる。

引用発明において、UEは無線通信環境にあることは明らかであるから、引用発明のUE T-ADSを用いたフォールバックは、無線通信環境におけるフォールバックであることはいいえる。
したがって、引用発明と本願発明とは、「通信環境におけるフォールバック手続のための方法」である点で一致する。

引用発明のSCC ASは、発信側UEから送信されたSIP INVITEを、S-CSCFから受信し、選択されたPSアクセスを経由して着信側UEに転送している。
ここで、UEは、User Equipmentの略であって、ユーザ装置といえる。
これに対して、本願発明の「セッションのための招待であって、第2のモバイル・デバイスからであり且つメディアのためのパケット交換ベアラを有するものを、第1のモバイル・デバイスへ転送する」なる記載からみて、本願発明では、招待(INVITE)の発信側となるモバイルデバイスを「第2のモバイル・デバイス」、招待(INVITE)の着信側となるモバイルデバイスを「第1のモバイル・デバイス」と表しているといえる。
このため、引用発明の着信側UE及び発信側UEはそれぞれ、本願発明の「第1のモバイル・デバイス」、「第2のモバイル・デバイス」に相当する。
また、上記SIP INVITEは、発信側UEが着信側UEに対して、セッションを確立することを求める、換言すれば、セッションに招待(INVITE)するメッセージであるから、セッションのための招待といえる。
また、上記SIP INVITEは、PSアクセスを経由して、具体的には、Gm参照点を介してパケット交換(PS)メディアを用いて着信側UEに転送されているから、上記SIP INVITEが、メディアのためのパケット交換ベアラを利用して転送されていることは明らかである。つまり、上記SIP INVITEは、メディアのためのパケット交換ベアラを有しているといえる。
したがって、引用発明と本願発明とは、「セッションのための招待であって、第2のモバイル・デバイスからであり且つメディアのためのパケット交換ベアラを有するものを、第1のモバイル・デバイスへ転送する」という点で一致する。

引用発明では、着信側UEからSCC ASに、CS発信のセッションを有する「代替サービス」が、サービス制御のためのGm参照点を使用しないで、このセッションを完成させるのに用いられることを示す応答(以下、「代替サービス応答」という。)が返されている。
ここで、セッションを確立するためにGm参照点を使用せず、CS発信のセッションを有する「代替サービス」を使用することは、パケット交換システムを使用したセッションの確立は行わないということであるから、着信側UEからの上記代替サービス応答は、パケット交換システムを使用したセッションに招待してきたSCC ASに対して、その招待を拒否することを示しているともいえる。
したがって、引用発明と本願発明とは、「第1のモバイルデバイスによるセッションのための招待に対する拒否」がなされるという点で一致する。

引用発明では、着信側UEからIMSに向けたCSコールが確立され、MSCサーバとSCC ASの間に発信コールが確立されているから、着信側UEから発信された回線交換(CS)コールが、SCC ASにより受信されていることは明らかである。
したがって、引用発明と本願発明とは、「第1のモバイル・デバイスから回線交換コールを受信する」という点で一致する。

引用発明では、SCC ASは、発信側UEからのSIP INVITEを受信すると、セッションをアンカーし、着信側UEからの可能性のある任意のCSコールの試みを結合するのを補助するための追加の結合情報を該SIP INVITEに含め、着信側UEに転送し、着信側UEは、該結合情報を用いてCSコールを発信している。
そして、引用発明のセッションを着信するための方法は、発信側UEと着信側UEとの間のセッションを確立するために用いられるものであるから、SCC ASが、発信側UEと着信側UE間のセッションを確立するために、着信側UEから発信されたCSコールを、上記結合情報を用いて、発信側UEからの上記アンカーしたセッションと結合していることは明らかである。
したがって、引用発明と本願発明とは、「回線交換コールをセッションに関連づける」という点で一致する。

引用発明では、着信側UEとMGWとの間にCSドメインのベアラが形成され、発信側UEとMGWとの間にIMSベアラが形成されており、該CSドメインのベアラ及びIMSベアラ上に、発信側UEと着信側UEとの間の通信が確立されていることは明らかである。
したがって、引用発明と本願発明とは、「回線交換領域ベアラ及びインターネットプロトコルマルチメディアサブシステム(IMS)ベアラの上で第1のモバイル・デバイスと第2のモバイル・デバイスとの間の通信を確立する」という点で一致する。

よって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「 通信環境におけるフォールバック手続きのための方法において、
セッションのための招待であって第2のモバイル・デバイスからであり且つメディアのためのパケット交換ベアラを有するものを、第1のモバイル・デバイスへ転送することと、
前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否がなされることと、
前記第1のモバイル・デバイスから回線交換コールを受信することと、
前記回線交換コールを前記セッションに関連付けることと、
回線交換領域ベアラ及びインターネットプロトコルマルチメディアサブシステム(IMS)ベアラの上で前記第1のモバイル・デバイスと前記第2のモバイル・デバイスとの間の通信を確立することを含む方法。」である点。

[相違点]
本願発明は、「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留する」のに対し、引用発明は、セッションを保留することが明記差されていない(以下、「相違点1」という。)と共に、保留が第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいていない(以下、「相違点2」という。)点。

(2)相違点の検討
(2-1)相違点1について
引用発明は、SCC ASが、発信側UEからSIP INVITEを受信すると、セッションをアンカーし、その後、着信側UEから発信されたCSコールを、該アンカーしたセッションに結合しており、アンカーしたセッションがCSコールに結合されるということは、該セッションがアンカーされた後も切断や終了されることなしに留め置かれているといえる。
ここで、「保留」なる用語は、「おさえてとどめおくこと。特に、その場ですぐに決めたり実行したりしないでおくこと。[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」との意味であると解するのが一般的である。
このため、引用発明において、アンカーしたセッションは、セッションが切断や終了又はベアラが形成されるまで保留されているといえる。

また、引用発明では、引用例の摘記(イ)の「5?6.」に記載されているように、着信側UEが双方向の音声が可能なPSアクセスにキャンプオンされ、着信側UEがPSアクセス上の音声メディアをサポートしている場合には、TS 23.401、TS 23.228に従った標準の手続きが行われる。つまり、着信側UEから、SIP INVITEに対する「180 Ringing」、「200 OK」の応答がSCC ASに返され、SCC ASは、発信側UEと着信側UE間のセッションを確立するので、その時点で、アンカーしたセッションの保留を終了することになる。
さらに、引用発明における応答は、「UE T-ADSは着信側UEがCS発信を使用すべきであると決定する場合、着信側UEは、CS発信のセッションを有する「代替サービス」が、サービス制御のためのGm参照点を使用しないで、このセッションを完成させるのに用いられることを示す」ものであるから、PSアクセスのための招待(INVITE)は拒否されることを示すものであるといえる。
そうすると、引用発明において、SCC ASが、応答を受信した以降も、アンカーしたセッションを、その後に届くCSコールと結合するまで保留することは、着信側UEから、代替サービス応答を受信した場合であるから、該代替サービス応答、すなわち、「第1のモバイルデバイスによるセッションのための招待に対する拒否」に応じて、上記SCC ASは、CSコールと結合するまで、アンカーしたセッションを保留しているといえる。

してみると、引用発明は、実質的に、「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記セッションを保留」しているといえ、上記相違点1は、引用例に実質的に記載された事項である。

また、上記相違点1が、引用例に実質的に記載されている事項であるとまでいえないとしても、引用発明のSCC ASが、アンカーしたセッションとCSコールとを結合するために、上記代替サービス応答(セッションのための招待に対する拒否)に応じて、アンカーしたセッションを上記結合まで保留する構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2-2)相違点2について
引用発明は、ISRがアクティブで、かつ、SRVCC手続きが使用される場合には、CSドメインが用いられるべきであると、ACC ASが正確に決定することができないことを前提とするものであるとともに、UE T-ADSは着信側UEがCS発信を使用すべきであると決定する場合、着信側UEは応答を返すものである。
ここで、ISRは、TS23.401において定義されているように、アイドルモード状態でのRAT間セル再選択においてシグナリングを制限する機能であるから、ISRがアクティブの場合に、UEが、PSドメインを用いることが可能な状態とCSドメインを用いることが可能な状態との間で状態遷移があったとしても、状態遷移があったことがシグナリングされず、CSドメインが用いられるべきであると正確に決定することはできない要因となることは、当業者にとって、明らかな事項である。
着信側UEが返す応答は、ISRがアクティブであるために、CSドメインとPSドメインのいずれが用いられるべきか決定できなかったところ、CS発信を使用すべきであると着信側UEが決定したことを示していることから、該応答は、アイドル・モード・シグナリング・リダクション(ISR)がアクティブの状態であること、及び、CS発信を使用すべきであると着信側UEが決定したことを示しているといいえる。
そして、アイドル・モード・シグナリング・リダクション(ISR)がアクティブか否かの状態は、インジケーションを用いることで表すことができることは、当業者にとって明らかな事項である。
してみると、引用発明において、着信側UEが返す応答にアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションを含め、SCC ASによる保留を、第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づくようにすることは、当業者であれば容易に推考し得る事項である。

また、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から、当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明に基づいて、容易に発明することができたものである。

(3)平成27年5月8日付け意見書の検討
平成27年5月8日付け意見書において、請求人は、
(ア)引用例には、セッションを保留することについては何ら考察されておらず、ましてや、本願発明における「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留することと」については何ら開示されていない、
(イ)引用例において、アンカーしたセッションとCSコールを結合するまでの間、セッションをどのような状態に置くかについては何ら考察されておらず、「アンカーしたセッションを保留すること」が引用例に記載されているに等しいとまではいえない、
(ウ)仮に、アンカーした時点で保留することが記載されていたとしても、「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留することと」に到達できない、
(エ)引用例は「代替サービス応答」に応じてセッションを保留することまで直ちに導き出すことはできず、「前記第1のモバイル・デバイスによる前記招待に対する拒否に応じて、前記第1のモバイル・デバイスから受信されたアイドル・モード・シグナリング・リダクションのインジケーションに基づいて、前記セッションを保留することと」には到達できない、
旨を主張している。

しかしながら、上記(ア)?(エ)の主張については、上記「(2)相違点の検討」で検討した事項であるから、上記「(2)相違点の検討」で記載した理由により、上記(ア)?(エ)の点は、いずれも、当業者であれば容易に到達し得る事項であるといえる。

よって、上記(ア)?(エ)の主張は採用することはできない。


第7.まとめ
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-12 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2012-503722(P2012-503722)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田畑 利幸  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 佐藤 聡史
吉田 隆之
発明の名称 モバイル・デバイス支援された着信アクセス領域選択を使用するフォールバック  
代理人 岡田 貴志  
代理人 井関 守三  
代理人 佐藤 立志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 野河 信久  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 河野 直樹  
代理人 井上 正  
代理人 砂川 克  
代理人 峰 隆司  

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