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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1307635
審判番号 不服2014-1888  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2015-11-11 
事件の表示 特願2008-278379「酸素含有蛍光粉体、該蛍光粉体の製造方法、該蛍光粉体を利用してなる装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月23日出願公開、特開2009- 84577〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成10年2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成9年2月24日、米国)を国際出願日とする特願平10-536974号の一部を平成20年10月29日に新たな特許出願としたものであって、平成23年10月18日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成24年4月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月24日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成25年4月30日に意見書が提出されたが、同年9月20日付けで拒絶査定され、これに対し、平成26年2月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1ないし26に係る発明は、平成24年4月25日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし26に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項4に係る発明(以下、単に「本願発明」という。)、及び、当該請求項4が引用する請求項1ないし3の記載は、次のとおりである。
「 【請求項1】
(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程と、
(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程と、
(c)前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程であって、除去される液小滴は、予め選択された最大径よりも大きな空気力学的径を有するものである、前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程と、
(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程とからなる、蛍光体粒子製造方法。
【請求項2】
前記液体が、金属硝酸塩からなる酸素含有蛍光体前駆体を含有する溶液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記粒子の結晶性を向上させるために、前記蛍光体粒子を焼鈍する工程をさらに備える請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれか一項に記載の方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ。」

第3 原査定の理由の概要

原査定の理由は、平成24年10月24日付け拒絶理由通知書に記載された理由であって、要するに、上記本願発明は、その出願前(優先日前)に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本願発明は、当該刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

Materials Research Bulletin,1994年,29(7),p.751-757
(原査定の引用文献2。以下、「引用刊行物」という。)

第4 当審の判断

当審は、平成26年2月3日付けの審判請求書を斟酌しても、上記した原査定の拒絶の理由が依然として妥当すると判断する。
その理由は以下のとおりである。

1 引用刊行物の記載事項

上記引用刊行物には、「Preparation and characterization of a manganese activated zinc silicate phosphor by fume pyrolysis of an alkoxide solution [Zn_(2)SiO_(4): Mn]」(アルコキシド溶液の噴霧燃焼によるマンガン付活ケイ酸亜鉛蛍光体の製造と特性[Zn_(2)SiO_(4):Mn])と題して、以下の事項が記載されている。
なお、各摘記事項の後ろに当審の仮訳を掲載したが、この仮訳の作成にあたっては、原査定において引用されている「引用文献1.都城工業高等専門学校 研究報告 第27号,1993年,第7-12頁」の用語を参考にした。

(1) 「ABSTRACT」の欄
「ABSTRACT
Manganese activated zinc silicate phosphors are prepared by fume pyrolysis of metal alkoxide solution in an electric furnace heated at 950 ℃. The microstructure examined by SEM shows that the particles were spherical and highly dispersed. The emission intensity of the phosphors prepared by fume pyrolysis is stronger than that of the phosphors produced by conventional methods. The particle size and the emission intensity of the phosphors were dependent on firing temperature.」
(抄録
マンガン付活ケイ酸亜鉛蛍光体は、950℃に加熱された電気炉での金属アルコキシド溶液の噴霧燃焼により製造される。SEM観察によれば粒子は球状で、高分散している。噴霧燃焼により製造された蛍光体の発光強度は、従来の手法により製造されたものよりも強い。蛍光体の粒子サイズと発光強度は焼成温度に依存していた。

(2) 「Experimental」の欄
「Experimental
Zn_(2)SiO_(4): Mn powders were prepared by fume pyrolysis of alkoxide solution. The alkoxide solution process is illustrated in a flow chart shown in Fig-1. The original solution was prepared as follows: chemically pure grade Zn(NO_(3))_(2).6H_(2)O and Mn(NO)_(3).6H_(2)O were mixed and dissolved in ethanol with 0.05 mol nitric acid. This ethanol solution was mixed with Si(OC_(2)H_(5))_(4) and then added into water.

In Fig.2 is shown the apparatus employed for fume pyrolysis, The alkoxide solution was atomized by an supersonic vibration. The frequency of the supersonicant employed was always 1.5 MHz. The mist was introduced into an electric furnace heated at 950 ℃ with oxygen carrier at flow rate of 5 to 20 l/min. Powders were collected in water and then fired in air at 950-1150℃ for 2 hours.・・・(中略)・・・The particle size distribution was measured using sedimentation metor(Horiba CAPA-500).・・・(後略)・・・」
(実験
Zn_(2)SiO_(4):Mn粉末はアルコキシド溶液の噴霧燃焼により製造された。アルコキシド溶液の調製法を、図1のフローチャートに示す。原料溶液は、次の手順で調製された。化学的に純粋な硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を、0.05molの硝酸とともにエタノール中に混合溶解した。このエタノール溶液をテトラエトキシシランと混合し、さらに水を加えた。
図2に、噴霧燃焼装置を示す。アルコキシド溶液は、超音波振動により液滴化された。超音波振動子の振動数は常時1.5MHzとした。この液滴ミストを5-20l/minの流速の酸素キャリアガスで、950℃に加熱された電気炉中に導入した。粉末は水で捕集した後、950-1150℃で2時間焼成した。・・・(中略)・・・粉末の粒子径分布は、遠心沈降式粒度分布測定器(堀場 CAPA-500)を用い測定した。・・・(後略)・・・)

(3) 「Results and Discussion」の欄
「Results and Discussion
The powder was prepared by fume pyrolysis of alkoxide solution. This powder was further fired in air at 1100℃ for 2 hours.・・・(中略)・・・

The particle size distributions of as sprayed (a) and fired at 1100℃ (b) samples were narrow from 1 to 6μm, shown in Fig.5.Average particle size of sprayed powder was 4.0μm, while that of the powder fired at 1100℃ were 2.8μm.・・・(後略)・・・」
(結果及び考察
粉末は、アルコキシド溶液の噴霧燃焼により調製された。この粉末は、大気中で1100℃、2時間焼成された。・・・(中略)・・・
噴霧燃焼時の試料(a)と1100℃で焼成された試料(b)の粒子径分布は、図5に示すとおり、1?6μmまでの狭い範囲であった。噴霧燃焼時の粉末の平均粒子径は4.0μmであり、一方、1100℃で焼成された粉末の平均粒子径は2.8μmであった。・・・(後略)・・・)

(4) 「Conclusion」の欄
「Conclusion
In the present study, we reported preparation and characterization of zinc silicate phosphor using the fume pyrolysis method. The following conclusions were obtained from the present study.
a) The phosphors obtained by this method were spherical and narrow in particle size distribution.
b) Although the particle size of the phosphor prepared by this method was considerably small, the emission intensity was stronger than that of the conventional method.」
(結論
本研究では、噴霧燃焼法によるケイ酸亜鉛蛍光体の製造と特性を報告した。本件で以下の結論を得た。
a)この方法で得られた蛍光体は球形で粒子径分布は狭かった。
b)この方法によって製造した蛍光体の粒子径はかなり小さいが、発光強度は、従来の方法に比べて強かった。)

2 引用刊行物に記載された発明(引用発明)

(1) 蛍光体粉末の製造方法について
引用刊行物の上記「1(2)」(「Experimental」の欄)の記載から、「Zn_(2)SiO_(4):Mn」蛍光体粉末の製造方法に関し、「硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を溶解したアルコキシド溶液を、超音波振動により液滴とし、この液滴をキャリアガスにより950℃に加熱された電気炉中に導入すること」(噴霧燃焼工程)、及び、「これにより得られた粉末をさらに950-1150℃で2時間焼成すること」(焼成工程)を把握することができる。

(2) 粉末の形態について
引用刊行物の上記「1(3)」(「Results and Discussion」の欄)の記載から、上記噴霧燃焼工程直後の粉末及び1100℃での焼成工程後の粉末の平均粒子径がそれぞれ4.0μm及び2.8μmであること、並びに、これらの粉末の粒子径分布がそれぞれ図5(a)及び図5(b)のとおりであることが理解できる。
また、上記「1(1)」、「1(4)」によれば、上記焼成工程後の粉末は球形であることが分かることに加え、当該焼成工程前後にて粉末形状が大きく変化することは考えにくいことから、上記噴霧燃焼工程直後の粉末形状も同様に球形であると推認するのが妥当である。

(3) 引用発明(「引用噴霧燃焼粉末」と「引用焼成粉末」)
そうすると、引用刊行物には、次の二つの発明が開示されているといえる。
ア 引用噴霧燃焼粉末
「硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を溶解したアルコキシド溶液を、超音波振動により液滴とし、この液滴をキャリアガスにより950℃に加熱された電気炉中に導入することにより形成した、噴霧燃焼直後のZn_(2)SiO_(4):Mn蛍光体粉末であって、当該粉末の形状は球形であり、粒子径分布は下記図5(a)のとおりであり、かつ平均粒子径は4.0μmであるもの。」(以下、この粉末に係る発明を「引用噴霧燃焼粉末」という。)
イ 引用焼成粉末
「硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を溶解したアルコキシド溶液を、超音波振動により液滴とし、この液滴をキャリアガスにより950℃に加熱された電気炉中に導入することにより形成した、噴霧燃焼直後のZn_(2)SiO_(4):Mn蛍光体粉末をさらに1100℃で焼成して得たZn_(2)SiO_(4):Mn蛍光体粉末であって、当該粉末の形状は球形であり、粒子径分布は下記図5(b)のとおりであり、かつ平均粒子径は2.8μmであるもの。」(以下、この粉末に係る発明を「引用焼成粉末」といい、上記「引用噴霧燃焼粉末」と併せて単に「引用発明」ということがある。)


3 対比

(1) 本願発明の発明特定事項について
上記「第2」のとおり、本願発明は、
「請求項1?3のいずれか一項に記載の方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ。」
というものであるから、本願発明は、その前段部分において、請求項1?3記載の製造方法により特定され、後段部分において、蛍光体粒子の形態(形状、重量平均粒子径、粒子径分布)により特定されていることが理解できる。

(2) 本願発明(「本願発明(焼鈍なし)」と「本願発明(焼鈍あり)」)について
本願発明は上記のとおり、その前段部分に、請求項1?3記載の製造方法に係る発明特定事項を有するところ、そこで引用される「請求項1?3」のうち、「請求項1」及び「請求項3」の記載は、上記「第2」のとおりであるから、本願発明に係る粉体バッチは、当該請求項1記載の製造方法を発明特定事項とする場合と、請求項3記載の製造方法を発明特定事項とする場合とに分けて示すと次のとおりとなる。
ア 請求項1記載の製造方法を発明特定事項とする場合の本願発明(以下、製造方法を区別するときは「本願発明(焼鈍なし)」という。)
「(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程と、
(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程と、
(c)前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程であって、除去される液小滴は、予め選択された最大径よりも大きな空気力学的径を有するものである、前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程と、
(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程とからなる、蛍光体粒子製造方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ。」
イ 請求項3記載の製造方法を発明特定事項とする場合の本願発明(以下、製造方法を区別するときは「本願発明(焼鈍あり)」という。)
「(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程と、
(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程と、
(c)前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程であって、除去される液小滴は、予め選択された最大径よりも大きな空気力学的径を有するものである、前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程と、
(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程とからなり、前記粒子の結晶性を向上させるために、前記蛍光体粒子を焼鈍する工程をさらに備える、蛍光体粒子製造方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ。」

(3) 本願発明と引用発明との対応関係
ア 引用発明における「硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を溶解したアルコキシド溶液」は、本願発明における「酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体」に相当するものであるから、引用発明における「硝酸亜鉛の六水和物と硝酸マンガンの六水和物を溶解したアルコキシド溶液を、超音波振動により液滴と」する工程は、本願発明における「(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程」に相当するものである。
イ 引用発明における「この液滴をキャリアガスにより950℃に加熱された電気炉中に導入する」工程は、本願発明における「(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程」及び「(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程」に相当するものである。
ウ 「引用焼成粉末」における「当該粉末をさらに1100℃で焼成」する工程は、「本願発明(焼鈍あり)」における「前記粒子の結晶性を向上させるために、前記蛍光体粒子を焼鈍する工程」に相当するものである。
エ 引用発明における「Zn_(2)SiO_(4):Mn蛍光体粉末」は、酸素を含有するものであるから、本願発明における「酸素含有蛍光体粒子」に相当するものである。
オ 引用発明における「Zn_(2)SiO_(4)」及び「Mn」はそれぞれ、本願発明における「ホスト材料」及び「少なくとも第1の賦活イオン」に相当するものである。
カ 引用発明における「粉末」は、特定の粒子径分布を有する一群のものであるから、本願発明における「粉体バッチ」に相当するものである。

(4) 「本願発明(焼鈍なし)」と「引用噴霧燃焼粉末」との一致点・相違点
ア 一致点
上記の対応関係を踏まえて、「本願発明(焼鈍なし)」と「引用噴霧燃焼粉末」とを対比すると、両者は次の点で一致するといえる。
「(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程と、
(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程と、
(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程とからなる、蛍光体粒子製造方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ」。
イ 相違点
そして、両者は次の点で相違すると認められる。
(i)相違点A1
本願発明(焼鈍なし)の前段部分の製造方法に関する発明特定事項は、工程(c)を有しているのに対して、引用噴霧燃焼粉末は、当該工程に関する技術的事項を有していない点。
(ii)相違点A2
本願発明(焼鈍なし)の蛍光体粒子は、「0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し」ているのに対して、引用噴霧燃焼粉末は、粒子径分布は上記図5(a)のとおりであり、かつ平均粒子径は4.0μmである点。

(5) 「本願発明(焼鈍あり)」と「引用焼成粉末」との一致点・相違点
ア 一致点
同様に、「本願発明(焼鈍あり)」と「引用焼成粉末」とを対比すると、両者は次の点で一致する。
「(a)酸素含有蛍光体前駆体を溶解して含有する液体から、液小滴からなるエアロゾルを製造する工程と、
(b)前記液小滴をキャリアガスにより移送する工程と、
(d)前記液小滴から液体を除去して酸素含有蛍光体粒子を形成するために、前記液小滴を400℃乃至1700℃の温度にある加熱領域に通過させることによって加熱する工程とからなり、前記粒子の結晶性を向上させるために、前記蛍光体粒子を焼鈍する工程をさらに備える、蛍光体粒子製造方法によって製造された酸素含有蛍光体粒子において、前記蛍光体粒子が球形であるとともに、前記蛍光体粒子はホスト材料、及び少なくとも第1の賦活イオンからなる粉末バッチ」。
イ 相違点
そして、両者は次の点で相違する。
(i)相違点B1
本願発明(焼鈍あり)の前段部分の製造方法に関する発明特定事項は、工程(c)を有しているのに対して、引用焼成粉末は、当該工程に関する技術的事項を有していない点。
(ii)相違点B2
本願発明(焼鈍あり)の蛍光体粒子は、「0.3ミクロン?5ミクロンの重量平均粒子径と、前記粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布とを有し」ているのに対して、引用焼成粉末は、粒子径分布は上記図5(b)のとおりであり、かつ平均粒子径は2.8μmである点。

(6) 相違点A1、B1についての検討
ア 本願発明における製造方法に関する発明特定事項の技術上の意義について
当該相違点A1、B1は、粉体バッチ(粉末)という「物」の発明を特定するための技術的事項のうち、製造方法に関する部分の相違であるところ、このような製造方法に関する部分は、当該「物」に至る過程を特定するものであって、当該「物」の形状・構造といった外面的特徴、及び当該「物」の性能・特性といった内面的特徴を、直接的に特定するものではないから、はじめに、この製造方法に関する部分の相違に起因して、「物」の発明に差異が生じるか否か(当該製造方法の相違が、最終的に得られた物の態様に影響を及ぼすか否か)を考えてみる。
そこでまず、本願発明において、当該相違点A1、B1に係る工程(c)、すなわち、「(c)前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程であって、除去される液小滴は、予め選択された最大径よりも大きな空気力学的径を有するものである、前記エアロゾルから一部の液小滴を除去する工程」が、どのような技術上の意義を有しているのかを、本件明細書の記載により確認すると、その段落【0062】、【0063】には、次のように記載されている。
「【0062】
図30には、上記のような液小滴分級装置を含んでなる本発明プロセスの一態様に係るプロセスフロー図が示されている。図30に示される如く、エアロゾル生成装置106から生ずるエアロゾル108は、液小滴分級装置280へ送られ、該分級装置において過大液小滴がエアロゾル108から除去されて分級エアロゾル282が生成する。除去されるべき過大液小滴中の液体284は液小滴分級装置280から排出される。排出された液体284は、新たな液体供給原料102の調製に好適に再利用することができる。
【0063】
規定径以上の液小滴の除去には、任意の好適な液小滴分級装置を使用しうる。例えば、サイクロンを使用して過大液小滴を除去することができる。しかしながら、多くの応用例において好適な液小滴分級装置はインパクターである。本発明における使用に好適なインパクターの一態様を、以下、図31乃至35を参照しつつ説明する。」
また、本願発明が解決しようとする課題につき、本件明細書の段落【0010】には、次のように記載されている。
「【0010】
本発明は、小さい粒子径、狭い粒子径分布、球形モルフォロジー及び良好な結晶性を有してなる改良された酸素含有蛍光粉体バッチを提供するものである。」
そうすると、本願発明における工程(c)は、規定径以上の液小滴を除去するための工程であって、これにより、本願発明の課題である「狭い粒子径分布」を実現するとともに、除去した液小滴を、新たな液体供給原料の調製に好適に再利用することができるという効果を奏するものと解される。
さらに、本件明細書の段落【0151】ないし【0158】には実施例が記載されているところ、その段落【0152】には「インパクターによる液小滴の分級は行なわなかった。」と記載されており、当該実施例は上記工程(c)を具備していないことが分かるから、この工程(c)は、上記「狭い粒子径分布」なる課題を実現するにあたって、必要に応じて行われる工程であると解され、仮にこの工程がなくとも、本願発明に係る粉体バッチを製造し得るということができる。
これらの点を併せ考えると、本願発明における工程(c)は、必須工程というよりはむしろ、規定径以上の液小滴が存在するような場合、すなわち、製造される粉体バッチに期待される「狭い粒子径分布」から外れる所定粒子径以上の粒子が生じてしまうような場合に対応して適宜行われる工程というべきものであると解するのが妥当である。
イ 上記アを踏まえた検討
上記アのとおり、本願発明における上記工程(c)は、「狭い粒子径分布」を実現するために行われるとともに適宜行なわれる工程であり、この「狭い粒子径分布」は、本願発明がその後段部分において特定している、粒子の「形状、重量平均粒子径、粒子径分布」に発現し反映されるものであると解されるから、本願発明と引用発明とにおける工程(c)の異同は、「形状、重量平均粒子径、粒子径分布」(後記相違点A2、B2に係る技術的事項)の異同について検討すれば事足りるということができる。
結局、当該工程(c)に関連する相違点A1、B1の検討は、後記相違点A2、B2の検討に含まれるものであるというべきである。

(7) 相違点A2、B2についての検討
上記(6)のとおり、本願発明と引用発明とにおける工程(c)の異同の判断は、本願発明がその後段部分において特定している蛍光体粒子の「形状、重量平均粒子径、粒子径分布」に関して認定した当該相違点A2、B2の検討結果に依拠することとなる点に留意しながら以下検討する。
ア 平均粒子径について
まず、引用発明に係る粉末の形態についてみると、一般に粒子径分布は、個数基準や体積(重量)基準により測定されているところ、引用発明における粒子径分布(図5)は、上記「1(2)」のとおり、遠心沈降式粒度分布測定器(堀場 CAPA-500)を用いて測定され、かつ当該測定器による粒子径分布は体積(重量)基準であることが知られている(「計測自動制御学会論文集」,Vol. 24 (1988),No. 12, P.1238-1245(特に1239頁右欄3-8行)を参照した。)ので、引用発明における粒子径分布及び平均粒子径は、本願発明の場合と同じく、重量基準のものと解される。
そうすると、引用発明における平均粒子径と本願発明における重量平均粒子径とは測定基準が同じであるから、それらの数値をそのまま比較すると、「引用噴霧燃焼粉末」における平均粒子径4.0μm及び「引用焼成粉末」における平均粒子径2.8μmという数値はともに、本願発明における重量平均粒子径の数値範囲(0.3ミクロン?5ミクロン)を満足するものであることが理解できるから、両者の平均粒子径に差異は認められない。
イ 粒子径分布について
また、本願発明が特定する「粒子の少なくとも90重量%が前記平均粒子径の2倍を超えない大きさにある粒子径分布」とは、粒子径分布において累積重量%が90重量%となるときの粒子径(一般に「d90」と呼称されている数値)が重量平均粒子径の2倍を超えないこと、と言い換えることができるから、これを式で表すと下式となる。
d90 ≦ 2×(重量平均粒子径)
そして、引用発明が当該条件を満足するか否かは、引用発明が下式を満足するか否かに等しい。
(i)「引用噴霧燃焼粉末」の粒子径分布について
d90 ≦ 2×(重量平均粒子径)
すなわち、d90 ≦ 2×(平均粒子径4.0μm)=8.0μm
(以下、「(i)式」という。)
(ii)「引用焼成粉末」の粒子径分布について
d90 ≦ 2×(重量平均粒子径)
すなわち、d90 ≦ 2×(平均粒子径2.8μm)=5.6μm
(以下、「(ii)式」という。)
そこで、これらの式を満足するか否かを検討すべく、引用発明の粒子径分布(図5)をみると、そこには、「Particle size(μm)」(粒子径(μm))及び「Frequency」(頻度(単位不明であるが一般には%が用いられている。))をそれぞれ横軸及び縦軸とし、当該粒子径を0.5μm単位で刻んだヒストグラムが示されている。
そして、引用刊行物の上記「1(3)」にはこのヒストグラムに関し、「噴霧燃焼時の試料(a)と1100℃で焼成された試料(b)の粒子径分布は、図5に示すとおり、1?6μmまでの狭い範囲であった。」と説明されていることから、単純に、当該ヒストグラムの最大目盛である6μmという粒子径がd100(累積重量100%:最大径)であるとすると、図5(a)の縦軸(頻度)及び横軸(粒子径μm)の数値から推察したd90の粒子径の値が上記(i)式を満足することは十分に認知し得ることであり、同じく図5(b)の縦軸及び横軸の数値から推察したd90の粒子径の値(概略5.0μm)についても上記(ii)式を満足することは十分に認知し得ることであり(当該図5(a)(b)の縦軸及び横軸が正確であることを前提とする。)、仮に図5(a)(b)の横軸の最大値(粒子径6μm)を超える粒子が存在するとしても、横軸の4、5、6μmにおける縦軸の数値の変化の傾きと平均粒子径(図5(a)では4.0μm、図5(b)では2.8μm)から、6μmを超える粒子の頻度(縦軸)を予測したとき、この頻度は小さいものであると予測されることからして、この場合も上記(i)(ii)式を満足する蓋然性が高いというべきである。
してみると、「引用噴霧燃焼粉末」ないし「引用焼成粉末」はそれぞれ、上記(i)式ないし(ii)式を満足する蓋然性が高く、「本願発明(焼鈍なし)」ないし「本願発明(焼鈍あり)」はそれぞれ、その粒子径分布の形態において、当該「引用噴霧燃焼粉末」ないし「引用焼成粉末」と何ら相違しないということができることから、当該相違点A2、B2は実質的なものとはいえない。
仮に、上記図5(a)及び図5(b)の縦軸及び横軸の数値から推察したd90の数値が正確とはいえず、上記(i)式あるいは(ii)式を満足しないとしても、引用発明は狭い粒子径分布を実現したものであること(上記「1(4)」参照)、及び、一般に蛍光体を塗布する場合は粒度が揃っていた方が好ましく、さらに噴霧燃焼法において粉体の粒径は発振子の大きさと溶液濃度により制御できることが既に知られていること(原査定にて引用された上記引用文献1の9頁右欄下から3行目?10頁左欄5行及び11頁左欄3?5行参照)に照らすと、引用発明の粒子径分布のさらなる幅狭化を図ること、すなわち、所望の粒子径分布とすべくd90の数値と重量平均粒子径との隔りを狭めることは、当業者が当然に帰着する技術的思想というべきである。加えて、本件明細書を仔細にみても、その段落【0116】に好適な数値例が列記されるにとどまり、実施例として具体的な粒子径分布が何ら示されていないなど、上記d90の数値と重量平均粒子径との隔りにつき、「d90 ≦ 2×(重量平均粒子径)」と規定することの技術上の意義(数値の臨界的意義)を認めるに足りる根拠は見当たらないことから、当該規定に格別の創意を認めることもできない。
ウ 小括
このように、上記相違点A2、B2に係る本願発明の発明特定事項(平均粒子径、粒子径分布に係る外面的特徴)は、既に引用発明が具備するものであるか、さもなくば当業者が容易に想到し得る程度のものにすぎない。

(8) 審判請求人の主張
審判請求人は審判請求書において、上記工程(c)に係る相違(上記した相違点A1、B1に係る相違)について主張するが、当該相違は、上記「3(6)」にて既に説示したとおりであり、また上記「3(7)」で検討したとおりであるから、当該主張は上記検討結果に影響を及ぼすものではない。

(9) 相違点の検討のまとめ
以上検討のとおり、本願発明と引用発明とは上記した相違点において形式上相違するものの、当該相違点は実質的なものではないか、仮に実質的なものであったとしても、容易想到の範疇のものというほかない。

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項4に係る発明は、引用刊行物に記載された発明であるか、あるいは、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項に該当し、あるいは、同条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-10 
結審通知日 2015-06-16 
審決日 2015-06-29 
出願番号 特願2008-278379(P2008-278379)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 憲彦  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 日比野 隆治
豊永 茂弘
発明の名称 酸素含有蛍光粉体、該蛍光粉体の製造方法、該蛍光粉体を利用してなる装置  
代理人 清水 義憲  
代理人 池田 成人  
代理人 酒巻 順一郎  
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