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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F |
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管理番号 | 1307684 |
審判番号 | 不服2014-18743 |
総通号数 | 193 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-01-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-09-19 |
確定日 | 2015-11-10 |
事件の表示 | 特願2009-253094「自己着火式エンジンのシリンダヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月24日出願公開、特開2010-138900〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年11月4日(パリ条約による優先権主張 2008年12月9日、ドイツ連邦共和国)の出願であって、平成25年2月21日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成25年6月14日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年6月27日付けで拒絶理由が再度通知されたのに対し、平成25年10月2日に意見書及び手続補正書が提出され、平成25年10月17日付けで最後の拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年4月22日に意見書が提出されたが、平成26年5月8日付けで拒絶査定がされ、平成26年9月19日に拒絶査定に対する審判請求がされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成25年10月2日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願時に願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「 【請求項1】 シリンダヘッド(10)であって、排気弁(30)によって閉止可能な少なくとも1つの排気管(12)と、前記排気弁(30)に冷却ガスを弁当り面に直接吹き付けるための、少なくとも1つの冷却空気管(41,42)を備えた冷却空気管装置と、を有するシリンダヘッドにおいて、 前記冷却空気管装置の前記冷却空気管(41,42)は、前記シリンダヘッド(10)内で直線的にかつ連続的に拡大する横断面で構成されており、 前記冷却空気管(41,42)は、前記排気管(12)への排気口の領域において拡大し、 前記冷却空気管装置の前記冷却空気管(41,42)は、ターボ過給機の過給空気管又はエンジンの吸気管につながり、 前記シリンダヘッド(10)内にはインサート(14)が配置されており、前記インサートは、部分的に前記排気管(12)を画定し、前記冷却空気管装置の前記冷却空気管(41,42)は、前記シリンダヘッド(10)自身の中で構成され、 前記冷却空気管装置の少なくとも2つの冷却空気管(41,42)が、前記排気弁(30)の引き上げ方向において、様々な位置に配置されていることを特徴とするシリンダヘッド。」 3.引用文献 (1)引用文献の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である実願平4-50646号(実開平6-12745号)CD-ROM(以下、「引用文献」という。)には、「排気弁冷却孔付シリンダヘッド」に関し、図面とともに次の記載がある。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】 本考案は機械式過給機を有する内燃機関(エンジン)において、排気弁の冷却に関する。」(段落【0001】) (イ)「【0007】 【実施例】 本考案の実施例を図面に基いて説明する。図1に本考案の装置に関する全体構成図を示す。10はエンジン本体、11は機械式過給機(ルーツブロワ)、12は吸気管、13は排気管、14はマフラー、1はシリンダヘッド、2は吸気弁、3は排気弁、4は燃焼室、5はピストン、6は吸気ポート、7は排気ポート、8は排気弁冷却孔で、機械式過給機11により圧縮された吸気は吸気管12、吸気ポート6を通り、吸気弁2より燃焼室4内に圧送され、この中で燃焼後の排気は排気弁3より排気ポート7、排気管13を経てマフラー14を通り排出される。 【0008】 図2?3に上記の構成のもとでの第1実施例を示す。図2はその主要部の構成を示すシリンダヘッド1の部分断面図で、1はシリンダヘッド、2は吸気弁、3は排気弁、4は燃焼室、6は吸気ポート、7は排気ポートであり吸気ポート6と排気ポート7との間に排気弁冷却孔8を設ける。この排気弁冷却孔8は吸排気バルブのシート側より、若しくは吸排気ポート側より穿設したもので過給機11により吸気ポート6内に圧送された吸気(通常、空気であるので以下空気ともいう)の流れの一部が吸気ポート6より排気ポートへ直接流入するための空気吹出し口となり、その出口は、冷却用の空気が直接排気弁3に当たるように排気弁3の傘部の頸部(根元)に向けて開口し、その入口は吸気ポートの流線に合わせて細い穴が、形成されている。 【0009】 図3に上記の構成による装置の作用を示す。図3(a)はエンジンの吸入行程時を示し、吸入弁2が開き矢印で示すように新気(吸気)が燃焼室4内に流入する。このときに、新気の一部が排気弁冷却孔(空気吹出し口ともいう)8を通過して排気弁3に向い吹き出し排気弁3の頸部に当たり排気弁3の冷却を行う。」(段落【0007】ないし【0009】) (2)引用文献記載の事項 上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載から、以下の事項が分かる。 (カ)上記(1)(ア)及び(イ)並びに図1ないし3の記載から、引用文献には、シリンダヘッド1であって、排気弁3によって閉止可能な排気ポート7と、排気弁3に冷却用の空気を直接排気弁3に当たるように排気弁3の傘部の頸部(根元)に向けて開口し、その入口は吸気ポートの流線に合わせて細い穴が形成されている排気弁冷却孔8が設けられたシリンダヘッド1が記載されていることが分かる。 (キ)上記(1)(イ)並びに図1及び2の記載から、引用文献に記載されたシリンダヘッド1において、排気弁冷却孔8は、シリンダヘッド1内で直線的に構成されていることが看取される。 (ク)上記(1)(イ)並びに図1及び2の記載から、引用文献に記載されたシリンダヘッド1において、排気弁冷却孔8は吸気ポート6につながり、該吸気ポート6は吸気管12を介して機械式過給機11につながるものであることが分かる。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図1ないし3の記載から、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「シリンダヘッド1であって、排気弁3によって閉止可能な排気ポート7と、排気弁3に冷却用の空気を直接排気弁3に当たるように排気弁3の傘部の頸部(根元)に向けて開口し、その入口は吸気ポートの流線に合わせて細い穴が形成されている排気弁冷却孔8が設けられたシリンダヘッド1において、 排気弁冷却孔8は、シリンダヘッド1内で直線的に構成されており、 排気弁冷却孔8は、吸気ポート6につながり、該吸気ポート6は、吸気管12を介して機械式過給機11につながっているシリンダヘッド1。」 4.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「シリンダヘッド1」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本願発明における「シリンダヘッド」に相当し、以下同様に、「排気弁3」は「排気弁」に、「排気ポート7」は「少なくとも1つの排気管」に、「冷却用の空気」は「冷却ガス」に、「直接当たる」は「直接吹き付ける」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「排気弁3の傘部の頸部(根元)」は、本願の図1において排気弁30の「弁当り面」として示された符号32の部位に相当するから、引用発明における「排気弁3の傘部の頸部(根元)」は、本願発明における「弁当り面」に相当する。 そして、引用発明における「排気弁冷却孔8」は、冷却用の空気を吹き出すために管状の形状を有し、それ自体で冷却用空気を吹き出す装置であるということもできるから、本願発明における「少なくとも1つの冷却空気管を備えた冷却空気管装置」及び「冷却空気管」に相当し、「冷却空気管装置の冷却空気管は、シリンダヘッド内で直線的に構成されて」いるという限りにおいて、引用発明において「排気弁冷却孔8は、シリンダヘッド1内で直線的に構成されて」いることは、本願発明において「前記冷却空気管装置の前記冷却空気管(41,42)は、前記シリンダヘッド(10)内で直線的にかつ連続的に拡大する横断面で構成されて」いることに相当する。 さらに、引用発明における「吸気ポート6」は、その構成及び機能からみて、本願発明における「エンジンの吸気管」に相当するから、「冷却空気管装置の冷却空気管は、エンジンの吸気管につなが」るという限りにおいて、引用発明において「排気弁冷却孔8は、吸気ポート6につながり、該吸気ポート6は、吸気管12を介して機械式過給機11につながっている」ことは、本願発明において「前記冷却空気管装置の前記冷却空気管(41,42)は、ターボ過給機の過給空気管又はエンジンの吸気管につなが」ることに相当する。 そして、引用発明において「排気弁冷却孔8は、シリンダヘッド1内で直線的に構成され」ることは、その技術的意義からみて、本願発明において「前記冷却空気管装置の前記冷却空気管は、前記シリンダヘッド自身の中で構成され」ることに相当する。 よって、本願発明と引用発明とは、 「 シリンダヘッドであって、排気弁によって閉止可能な少なくとも1つの排気管と、前記排気弁に冷却ガスを弁当り面に直接吹き付けるための、少なくとも1つの冷却空気管を備えた冷却空気管装置と、を有するシリンダヘッドにおいて、 前記冷却空気管装置の前記冷却空気管は、前記シリンダヘッド内で直線的に構成されており、 前記冷却空気管装置の前記冷却空気管は、ターボ過給機の過給空気管又はエンジンの吸気管につながり、 前記冷却空気管装置の前記冷却空気管は、前記シリンダヘッド自身の中で構成されるシリンダヘッド。」 である点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (a)本願発明においては、冷却空気管装置の冷却空気管が連続的に拡大する横断面で構成され、冷却空気管は、排気管の排気口の領域において拡大するものであるのに対し、引用発明においては、排気弁冷却孔8が同様の構成を有するか不明である点(以下、「相違点1」という。)。 (b)本願発明においては、「シリンダヘッド内にはインサートが配置されており、前記インサートは、部分的に排気管を画定」するの対し、引用発明においては、同様の構成を有するか不明である点(以下、「相違点2」という。)。 (c)本願発明においては、冷却空気管装置の少なくとも2つの冷却空気管が、排気弁(30)の引き上げ方向において、様々な位置に配置されているのに対し、引用発明においては、排気弁冷却孔8は1つしか設けられていない点(以下、「相違点3」という。)。 5.判断 まず、相違点1について検討する。 冷却すべき対象に合わせて、冷却用の空気の吹き出し口を拡大するという程度のことは、設計上普通に行われることである。そして、引用発明においても、排気弁冷却孔の出口部にはジェット効果が生じると考えられるところ、冷却空気の吹き出し口を拡大した場合にジェット効果の作用に格別の差異を生じるとは考えられない。 してみると、引用発明において、排気弁の冷却効果を高めるという一般的課題解決のために、排気弁冷却孔8が連続的に拡大する横断面で構成し、排気口の領域において拡大し、上記相違点1における本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 次に、相違点2について検討する。 内燃機関のシリンダヘッドにおいて、熱負荷の高い部分にインサートを配置して部分的に排気管を画定することは、周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、米国特許第2967518号明細書の第1欄下から第8ないし5行及び第1図、英国特許出願公開第1017247号明細書の第2ページ右欄第85行及び第3図、独国特許出願公開第3425301号明細書の第7ページ下から第11ないし7行及び図面等参照。)である。 そして、引用発明において、熱強度向上という一般的課題解決のために、上記周知技術を用いることで、上記相違点2における本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、相違点3について検討する。 冷却すべき対象に合わせて、冷却用の空気の吹き出し口を分散させて設けることは、設計上当然に検討される事項である(例えば、特許第126421号明細書の第1ページ下欄第6ないし12行及び第1ないし3図、独国特許出願公開第3425301号明細書の第7ページ下から第7ないし3行及び図面等参照。) そして、引用発明において、排気弁の冷却効果を高めるという一般的課題解決のために、引用発明において、少なくとも2つの排気弁冷却孔8を排気弁の配置された方向に沿って分散させて設けることにより、上記相違点3における本願発明の発明特定事項のように特定することは、当業者が容易に想到し得たことである。 そして、本願発明を、全体的にみても、引用発明及び周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。 6.まとめ 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 7.むすび 上記6.のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-06-08 |
結審通知日 | 2015-06-15 |
審決日 | 2015-06-26 |
出願番号 | 特願2009-253094(P2009-253094) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F02F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 二之湯 正俊 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
佐々木 訓 中村 達之 |
発明の名称 | 自己着火式エンジンのシリンダヘッド |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 渡邊 隆 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 実広 信哉 |