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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B21C
管理番号 1307722
審判番号 不服2015-1679  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-28 
確定日 2015-11-12 
事件の表示 特願2010-224482「内面溝付管の製造装置及び製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年4月19日出願公開、特開2012-76126〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年10月4日に出願したものであって,平成26年6月23日付けで拒絶理由が通知されたが,その応答期間内に何らの応答もなく,同年10月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成27年1月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。

第2 本件補正について
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正後の発明
本件補正は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1?9を,
「【請求項1】
素管を引抜く引抜き手段と、
管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置した縮径ダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径手段と、
外周に内面フィン形成溝を備え、管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン形成プラグを備えたフィン形成手段とで構成し、
前記縮径手段と前記フィン形成手段とを引き抜き方向の上流側から下流側へこの順に配置した内面溝付管の製造装置であって、
前記引抜き手段を、前記縮径手段の前記下流側に配置し、
前記引抜き手段に、
前記素管の外面に当接させるパッドと、前記素管との摩擦による引抜きを可能とする押圧力で前記パッドを前記素管側へ押圧する押圧力付与機とを備え、
前記パッドを、前記押圧力付与機からの押圧を受けたとき、適正化した押圧状態で前記素管に当接する押圧状態適正化パッドで構成し、
前記押圧状態適正化パッドを、
前記素管よりも軟質であるとともに、押圧により弾性変形する、耐油性を有する樹脂材料で形成し、
前記押圧状態適正化パッドの前記素管への押圧部分に、素管への嵌め込みを許容するパッド溝を形成し、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K_(1)は、パッド溝の曲率半径Rと、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いて、K_(1)=R/(D_(b)/2)と表すことができ、K_(1)の値は1.0以上1.05以下であり、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K_(2)は、パッド溝の曲率半径R、パッド深さH、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いてK_(2)={2πR-4(R-H)}/(πD_(b))と表すことができ、K_(2)の値は0.98以上1.0未満とし、
前記パッド溝の凹状の内面を、前記素管を押圧する押圧面として形成するとともに、前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えた
内面溝付管の製造装置。
【請求項2】
前記突起を、
前記押圧面から円筒状に突出するとともに、前記管軸方向及び前記管軸方向に直交する方向に格子状に配置した
請求項1に記載の内面溝付管の製造装置。
【請求項3】
素管を上流側から下流側へ引き抜く引抜き工程の間、
管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置した縮径ダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径工程と、
外周に内面フィン形成溝を備えたフィン形成プラグにより管内面を押潰して、管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを管内面に形成するフィン形成工程とを連続して行う内面溝付管の製造方法であって、
前記引抜き工程では、
押圧力付与機、及び、押圧状態適正化パッドを備えた引抜き手段を用い、
前記押圧力付与機により前記押圧状態適正化パッドを、前記素管の側に押圧しながら前記素管の外面に適正化された押圧状態で前記素管に当接させて、前記素管との摩擦により該素管を引抜き、
前記押圧状態適正化パッドを、
前記素管よりも軟質であるとともに、押圧により弾性変形する、耐油性を有する樹脂材料で形成し、
前記押圧状態適正化パッドの前記素管への押圧部分に、素管への嵌め込みを許容するパッ溝を形成し、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K_(1)は、パッド溝の曲率半径Rと、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いて、K_(1)=R/(D_(b)/2)と表すことができ、K_(1)の値は1.0以上1.05以下であり、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K_(2)は、パッド溝の曲率半径R、パッド深さH、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いてK_(2)={2πR-4(R-H)}/(πD_(b))と表すことができ、K_(2)の値は0.98以上1.0未満とし、
前記パッド溝の凹状の内面を、前記素管を押圧する押圧面として形成するとともに、前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えた
内面溝付管の製造方法。」
と補正することを含むものである。(下線は補正箇所を示す)

そうすると,本件補正は,実質的に,補正前の請求項1,2,3および4を引用する請求項8に係る発明の特定事項である「パッド溝」について,「前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えた」との限定を追加し、補正後の請求項1に係る発明とするものを含むから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物およびその記載事項
(1)本件出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-281311号公報(以下「刊行物1」という)には,「内面溝付管の製造装置及び製造方法」について,図1?3とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「【請求項1】
素管1aの引抜き方向に沿って、加工ヘッド3とを順に設置し、内部にフローティングプラグ4と当該フローティングプラグ4へ回転自在に連結された溝付プラグ5とを挿入した素管1aを、前記フローティングダイス2と加工ヘッド3に通して、巻取り駆動装置を用いずに前記素管1aを移動させて、前記フローティングダイス2とフローティングプラグ4とにより縮径し、前記溝付プラグ5の位置で前記加工ヘッド3の内へ素管1dの外周に接触するように配置され、当該加工ヘッド3の回転に伴い自転及び公転する複数のボール6により素管1dを溝付プラグ5に押圧して当該素管1dの内面に多数の微細な溝10を形成する装置であって、フローティングプラグ4と溝付プラグ5の間に、前記フローティングプラグ4の先に素管1aの引抜き方向に沿ってワイパー9、引抜き装置8、中間整形ダイス11を設けたことを特徴とする内面溝付管の製造装置。」

(1-イ)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機や空調機等の熱交換器用の伝熱管に使用される内面溝付管の製造方法とその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、内面に螺旋状の多数の溝を有する継ぎ目のない小径な内面溝付管を加工するには、例えば転造加工が採用されている。すなわち、金属製の素管内に、フローティングプラグと当該フローティングプラグへロッドを介して回転自在に連結された溝付プラグとを挿入し、前記素管を、前記フローティングプラグよりも前記溝付プラグが下流に位置する状態で管軸方向に沿って連続的に引抜き、前記フローティングプラグとフローティングダイスとにより前記素管を縮径しながら、前記溝付プラグの位置で、前記素管の周囲を高速で公転しつつ遊転して当該素管を前記溝付プラグへ押圧する複数の加工ボールにより、前記素管の内周面に管軸に対して所定のねじれ角を有する多数の溝を平行に加工するものである。」

(1-ウ)
「【0004】
管の引き抜き時において、補助引き抜き装置を配置することで塑性変形抵抗および摩擦抵抗を低減した例がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開平11-711号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、金属管の引抜き時にベルトの移動により、接触部のうち金属管と接触する数が周期的に変化するため、補助引抜き装置が発生する引抜力は周期的に変化する。前記引抜力が周期的に変化し、その変化量が大きくなると、内面溝付管の内面フィン寸法が長手方向でばらついてしまい、拡管時にアルミフィンとの密着不足が発生し熱交換性能が低下してしまう。
【0007】
また前記特許文献1の発明の変形例において、補助引抜き装置の入り側に金属管表面の油膜を除去する洗浄装置が設けられている。前記洗浄装置には洗浄液が入っており、この洗浄液により金属管表面に付着している、引抜きダイスで使用する潤滑油を除去している。これにより、ベルトと金属管の摩擦力が大きくなり、金属管の引抜き力を低減することができる、とある。しかし、金属管が表面に付着した洗浄液が乾燥する前に補助引抜き装置と接触すると、前記洗浄液によりベルトと金属管の摩擦力が低下して滑りが生じてしまい、補助引抜き装置の役割を果たさない(滑りが発生したところでは引抜き力変化し、内面溝付管の内面フィン寸法が変化する)という問題が発生する。また、金属管の表面に付着した異物は洗浄液では除去できないため、補助引抜き及び次工程の溝付加工において金属管表面に傷が付いてしまう。これはアルミ放熱フィンを固定する際の拡管工程において割れの原因になる。
【0008】
また、補助引抜き装置により金属管に圧力が負荷され、断面が扁平形状になるので、次工程の溝付加工において、溝付が不均一になるという問題が生じる。
【0009】
本発明は前記問題を解決することを目的とするものであり、金属管表面の潤滑油と異物の除去を容易にし、かつ、金属管断面の扁平化を防止することができる内面溝付管の製造装置及びその製造方法を提供するものである。」

(1-エ)
「【発明の効果】
【0011】
本発明は、引抜き装置と金属管の接触部の形状を特定すること及び引抜き装置における引抜力の変化量を少なくすることで、巻き取り装置を用いなくとも、内面溝付管の内面フィン寸法のばらつきを抑制し、引抜き装置と金属管の接触部における滑りおよび金属管断面形状の扁平化を抑制できる。またワイピング装置を設置することで、引抜き装置と金属管の接触部における滑りおよび異物傷を防止できる。さらに、引抜き装置の後に中間整形ダイスを設置することで、金属管断面形状を、真円に近い状態に回復させることができる。よって産業上顕著な効果を奏する。」

(1-オ)
「【0016】
本発明の製造装置では、フローティングダイス2の後の溝付加工部前部に引抜き力と引抜き速度を調整できる引抜き装置8を設けて溝付加工部前部の素管1cにかかる負荷を調整できるようにし、引抜き装置8の前部にはワイパー9を、後部には中間整形ダイス11を設けている。

【0017】
引抜き装置8は一対のベルト80により素管1bを引き抜く。前記ベルト80は上下、あるいは左右に配置される。ベルト80はプーリ81,82により支持され、素管1bと接触しプーリ81,82の回転により移動されるようになっている。前記ベルト80はループ状に形成されている。
ベルト80の外周面にはパッド83が取り付けられており、パッド83を素管1cに両側から押し付けて挟み付け、ベルト80を回転させることにより素管1cを引抜いている。」

(1-カ)
「【0022】
パッド83の押し付け力制御は以下のように行う。すなわち図1において、フローティングダイス2に取り付けられたロードセル21により、フローティングダイス2に負荷される荷重Fを検出し、素管1aを引き抜きながら前記荷重Fの経時的変化を電気信号に変換して図示しない制御部へ入力し、前記制御部は前記荷重Fの経時的変化を抑制するように引抜き装置8に信号を送信し、前記引抜き装置8は前記信号によりプーリ81、82に押し付け力を伝達する。
【0023】
なお、前記引抜き装置8でのプーリ81の回転トルクあるいはパッド83の押し付け力を制御することは、それぞれ単独で行っても良いし、両方を同時に行っても良い。
【0024】
前記パッド83は、フローティングダイス2による縮径加工後の素管1bの外径に合わせて、素管1bと接触させる円弧状のパッド溝84を有する。前記パッド溝84は曲率半径Rの曲面を有する。

【0025】
前記素管1bの外径Dbに対し、前記曲率半径Rの比K1=R/DbをK1=0.5?0.5025とする。これはパッド部での滑りの発生を防止し前記荷重Fを安定させることで内面溝付管1の内面フィン寸法の変化を抑制することと、素管1bの変形防止のためである。0.5未満であると、素管1bがパッド溝84に入り込まないか、仮に強く押し込んでパッド溝84に入ったとしても素管1bの表面に傷が発生し、次いで引抜き装置8を通過した素管1cをパッドから引き離すのに負荷がかかるため、荷重Fが安定せず、内面溝付管1の内面フィン寸法の変化が増大するという問題が発生する。0.5025を超えるとパッド部での扁平が大きくなるという問題が生じる。好ましくは0.5005?0.5015である。
【0026】
前記パッド83により素管1bを締め付ける際の締め付け比K2をK2={2πR-4(R-H)}÷(πDb)とする。すなわち、締め付け比K2は素管1bの外周と、パッド83の円弧部の2倍の長さとの比である。ここでHはパッド深さである。前記締め付け比K2は0.98?1.0とする。締め付け比K2を小さくするほど大きな引抜き力を得られるが、0.98未満であると素管1cの変形は大きくなり(パッドで挟み付けた箇所には凹みが残り)、溝付プラグ5によって均一に溝付けができないという問題が生じる。1.0を超えると必要な引抜き力が得られない。また締め付け比K2を1.0に設定したパッドを使用すると工具の加工公差によって安定して引抜けないことがある。好ましくは0.990?0.999である。
【0027】
前記パッド83は金属、樹脂等金属素管1aより硬質なものからなる。好ましくは工具鋼製である。」

3 当審の判断
(1)引用発明
ア 上記記載事項(1-ア)の
「【請求項1】素管1aの引抜き方向に沿って、加工ヘッド3とを順に設置し、内部にフローティングプラグ4と当該フローティングプラグ4へ回転自在に連結された溝付プラグ5とを挿入した素管1aを、前記フローティングダイス2と加工ヘッド3に通して、巻取り駆動装置を用いずに前記素管1aを移動させて、前記フローティングダイス2とフローティングプラグ4とにより縮径し、前記溝付プラグ5の位置で前記加工ヘッド3の内へ素管1dの外周に接触するように配置され、当該加工ヘッド3の回転に伴い自転及び公転する複数のボール6により素管1dを溝付プラグ5に押圧して当該素管1dの内面に多数の微細な溝10を形成する装置であって、フローティングプラグ4と溝付プラグ5の間に、前記フローティングプラグ4の先に素管1aの引抜き方向に沿ってワイパー9、引抜き装置8、中間整形ダイス11を設けたことを特徴とする内面溝付管の製造装置。」,
同(1-イ)の
「【0002】従来、内面に螺旋状の多数の溝を有する継ぎ目のない小径な内面溝付管を加工するには、例えば転造加工が採用されている。」,同(1-エ)の「【0011】本発明は、引抜き装置と金属管の接触部の形状を特定すること及び引抜き装置における引抜力の変化量を少なくすることで、巻き取り装置を用いなくとも、内面溝付管の内面フィン寸法のばらつきを抑制し、引抜き装置と金属管の接触部における滑りおよび金属管断面形状の扁平化を抑制できる。」,
および図1からみて,
刊行物1には
「素管を引抜く引抜き装置と,管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置したフローティングダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径手段と,外周に内面フィン形成溝を備え,管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを形成する溝付プラグを備えたフィン形成手段とで構成し,前記縮径手段と前記フィン形成手段とを引き抜き方向の上流側から下流側へこの順に配置した内面溝付管の製造装置」
が記載されているといえる。

イ 「押し付け力制御」が「押圧力付与機とを備える」ことを意味することは技術常識であり,
上記記載事項(1-ア)の
「フローティングプラグ4と溝付プラグ5の間に、・・・・・素管1aの引抜き方向に沿ってワイパー9、引抜き装置8、中間整形ダイス11を設けた」
および同(1-オ)の
「【0017】引抜き装置8は一対のベルト80により素管1bを引き抜く。・・・・・ベルト80の外周面にはパッド83が取り付けられており、パッド83を素管1cに両側から押し付けて挟み付け、ベルト80を回転させることにより素管1cを引抜いている。」,
同(1-カ)の
「【0022】パッド83の押し付け力制御は以下のように行う。・・・・・前記引抜き装置8は前記信号によりプーリ81、82に押し付け力を伝達する。」からみて,刊行物1には
「引抜き装置を,縮径手段の下流側に配置し,前記引抜き装置に,素管の外面に当接させるパッドと,前記素管との摩擦による引抜きを可能とする押圧力で前記パッドを前記素管側へ押圧する押圧力付与機とを備える」こと
が記載されているといえる。

ウ 上記記載事項(1-カ)の
「【0024】前記パッド83は、フローティングダイス2による縮径加工後の素管1bの外径に合わせて、素管1bと接触させる円弧状のパッド溝84を有する。前記パッド溝84は曲率半径Rの曲面を有する。【0025】前記素管1bの外径Dbに対し、前記曲率半径Rの比K1=R/DbをK1=0.5?0.5025とする。・・・・・【0026】前記パッド83により素管1bを締め付ける際の締め付け比K2をK2={2πR-4(R-H)}÷(πDb)とする。すなわち、締め付け比K2は素管1bの外周と、パッド83の円弧部の2倍の長さとの比である。ここでHはパッド深さである。前記締め付け比K2は0.98?1.0とする。・・・・・」
および図2からみて,
刊行物1には
「パッドの素管への押圧部分に,前記素管への嵌め込みを許容するパッド溝を形成し,前記パッド溝と,縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K1は,前記パッド溝の曲率半径Rと,前記縮径手段により縮径された前記素管の直径Dbを用いて,K1=R/(Db/2)と表すことができ,K1の値は1.0以上1.05以下であり,前記パッド溝と,前記縮径手段により縮径された前記素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K2は,前記パッド溝の曲率半径R,パッド深さH,前記縮径手段により縮径された前記素管の直径Dbを用いてK2={2πR-4(R-H)}/(πDb)と表すことができ,K2の値は0.98以上1.0未満とし,前記パッド溝の凹状の内面を,前記素管を押圧する押圧面として形成する」こと
が記載されているといえる。

エ そして,上記ア?ウを総合すると,刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。

「素管を引抜く引抜き装置と,管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置したフローティングダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径手段と,外周に内面フィン形成溝を備え,管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを形成する溝付プラグを備えたフィン形成手段とで構成し,前記縮径手段と前記フィン形成手段とを引き抜き方向の上流側から下流側へこの順に配置した内面溝付管の製造装置であって,
前記引抜き装置を,前記縮径手段の前記下流側に配置し,
前記引抜き装置に,前記素管の外面に当接させるパッドと,前記素管との摩擦による引抜きを可能とする押圧力で前記パッドを前記素管側へ押圧する押圧力付与機とを備え,
前記パッドの前記素管への押圧部分に,前記素管への嵌め込みを許容するパッド溝を形成し,前記パッド溝と,縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K1は,前記パッド溝の曲率半径Rと,前記縮径手段により縮径された前記素管の直径Dbを用いて,K1=R/(Db/2)と表すことができ,K1の値は1.0以上1.05以下であり,前記パッド溝と,前記縮径手段により縮径された前記素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K2は,前記パッド溝の曲率半径R,パッド深さH,前記縮径手段により縮径された前記素管の直径Dbを用いてK2={2πR-4(R-H)}/(πDb)と表すことができ,K2の値は0.98以上1.0未満とし,前記パッド溝の凹状の内面を,前記素管を押圧する押圧面として形成する
内面溝付管の製造装置。」(以下「引用発明」という)

(2)対比
補正発明と引用発明とを比較すると,引用発明の「引抜き装置」,「フローティングダイス」および「溝付プラグ」は,その機能・構造からみて,それぞれ補正発明の「引抜き手段」,「縮径ダイス」および「フィン形成プラグ」に相当するといえる。

そうすると,両者は,
(一致点)
「素管を引抜く引抜き手段と,
管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置した縮径ダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径手段と,
外周に内面フィン形成溝を備え,管内面を押潰して,該管内面に管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン形成プラグを備えたフィン形成手段とで構成し,
前記縮径手段と前記フィン形成手段とを引き抜き方向の上流側から下流側へこの順に配置した内面溝付管の製造装置であって,
前記引抜き手段を,前記縮径手段の前記下流側に配置し,
前記引抜き手段に,
前記素管の外面に当接させるパッドと,前記素管との摩擦による引抜きを可能とする押圧力で前記パッドを前記素管側へ押圧する押圧力付与機とを備え,
前記パッドの前記素管への押圧部分に,素管への嵌め込みを許容するパッド溝を形成し,
パッド溝と,前記縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K_(1)は,パッド溝の曲率半径Rと,前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いて,K_(1)=R/(D_(b)/2)と表すことができ,K_(1)の値は1.0以上1.05以下であり,
パッド溝と,前記縮径手段により縮径された素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K_(2)は,パッド溝の曲率半径R,パッド深さH,前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いてK_(2)={2πR-4(R-H)}/(πD_(b))と表すことができ,K_(2)の値は0.98以上1.0未満とし,
前記パッド溝の凹状の内面を,前記素管を押圧する押圧面として形成する
内面溝付管の製造装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
「パッド」について,補正発明では「前記押圧力付与機からの押圧を受けたとき、適正化した押圧状態で前記素管に当接する押圧状態適正化パッドで構成し、前記押圧状態適正化パッドを、前記素管よりも軟質であるとともに、押圧により弾性変形する、耐油性を有する樹脂材料で形成」するのに対して,引用発明ではそのような構成であるかどうか不明である点。

(相違点2)
「パッド溝の凹状の内面」について,補正発明では「前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えた」であるのに対して,引用発明ではそのような構成であるかどうか不明である点。

(3)相違点1について
本件補正により補正された本願明細書の段落【0117】および【0118】に「例えば、図示しないが、補助引抜装置21には、フローティングダイスに負荷される荷重や引抜負荷など、加工負荷を検出するロードセルを備えるとともに、ロードセルで検出した荷重信号に基づいて補助引抜装置21に対して制御指令を出力する制御部を備えてもよい。この場合、例えば、押圧力付与機23の押圧力、プーリーの回転トルクや回転速度などを、制御部で制御対象とする制御パラメータとすることができるが、これら制御パラメータに特に限定しない。」と記載されていることからみて,補正発明が,その「押圧力付与機の押圧力を制御する制御部」を備えた発明を含むものであることは,明らかである。
また,同本願明細書の段落【0021】?【0023】に「上述したように、前記パッドを前記押圧状態適正化パッドで構成することにより、前記押圧力付与機からの押圧を受けた前記押圧状態適正化パッドを、適正化された押圧状態で前記素管に当接させることができる。よって、押圧状態適正化パッドは、前記押圧力付与機から受けた押圧により、過度に押圧しすぎた状態で素管に当接することや、素管を押圧する押圧力が大きくなりすぎたり、小さくなりすぎたりすることがない。従って、素管の引抜き時に前記押圧状態適正化パッドが素管表面に当接しながら滑ることで、素管表面に、前記押圧状態適正化パッドの滑りによる傷が付くことがなく、また、押圧状態適正化パッドが素管を過度に押圧しすぎることにより、素管の表面に傷が付くことがない。」(下線は当審にて付与)と記載されていることからみて,補正発明の「押圧状態適正化パッド」とは,「素管の引抜き時に滑りによる傷が付くことがなく,また,素管を過度に押圧しすぎることことがないパッド」であることを意味するといえる。
一方,上記記載事項(1-エ)の「【0011】本発明は、・・・・・引抜き装置と金属管の接触部における滑りおよび金属管断面形状の扁平化を抑制できる。」(下線は当審にて付与)からみて,引用発明の「パッド」も補正発明と同じ作用効果を奏するといえるから、補正発明の「押圧状態適正化パッド」といえるものである。
次に、当該パッドに付された「弾性変形」及び「耐油性」と特定された性質について検討する。
同本願明細書の段落【0018】に従来技術として記載された特開平11-711号公報の段落【0029】に「図3に示すように、ベルト10は、ループ状に形成され、外周面にはウレタンゴムを張り付けて金属管と接触させる接触部10oが、・・・・・形成されており、タイミングベルトになっている。」と記載され,また,本件出願前に頒布された刊行物である実願昭57-67950号(実開昭58-170341号)のマイクロフィルムに「本考案の目的は、ベルト幅を大きくすることなく、また被引取物をつぶすことなく充分な引取力で被引取物を引取ることができる引取機用ベルトを提供することにある。・・・・・ベルト本体12,12’の外面に間隔をあけて取り付けられゴム又はプラスチックの如き可撓性弾性材料から成る複数の駒14,14’とを備えている。」(明細書2頁7?17行)と記載され,同刊行物である実公昭50-38513号公報に「その弾性の状態は体積の変化が大きい海綿状のゴム、例えばポリウレタンゴム等が好適である。」(1頁右欄19?21行)と記載され,同刊行物である実公昭40-14836号公報に「即ち本考案はベース層にスポンジ層を貼りつけてその表面にゴム又はプラスチックのような水密性弾性物質のコーテングを設けて一体とした・・・・・上記コーテングに用いられるものとして例えばポリクロロプレンコーテングゴム等の耐候、耐老化、耐薬品、耐熱、諸機械的性能等にすぐれるものが用いられる。」(1頁左欄24行?同頁右欄6行)と記載(下線は当審にて付与)されているように,「引抜装置のパッドを,押圧により弾性変形する,耐薬品性を有する樹脂材料で形成する」ことは,本件出願前周知の事項であるといえる。そして,該周知の事項の「耐薬品性」に「耐油性」が含まれていることは,上記に言及されているポリウレタン、ポリクロロプレンゴムが一般的に耐油性に富むとされる技術常識を鑑みれば、当該分野で引き抜き手段の表面素材に通常選ばれるとする軟質材料の候補であるポリウレタン、クロロプレンゴムに通常備わる事項であるとも言える。
そうすると,引用発明において,その「パッド」として,上記周知の「押圧により弾性変形する,耐薬品性を有する樹脂材料で形成するパッド」を採用することは,当業者ならば常識に照らして適宜選択し得る事項であるというべきである。
してみると,引用発明において,相違点1における補正発明の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。

(4)相違点2について
本願明細書には「複数の突起」については,その段落【0028】に「また、前記押圧状態適正化パッドを、前記素管よりも軟質であるとともに、押圧により弾性変形する軟質な樹脂材料で形成し、前記パッド溝の凹状の内面を、前記素管を押圧する押圧面として形成するとともに、前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えたことにより、例えば、平滑面で構成した押圧面と比較して、摩擦係数を向上させることができる。」と記載されている(下線は補正箇所を示す)ことからみて,補正発明の「複数の突起」の技術的意義は「摩擦係数を向上させる」ことであるといえる。
一方,本件出願前に頒布された刊行物である特公昭40-6738号公報に「上記の各エンドレスチェーン11,16の表面には摩擦係数の大なる特殊材料を貼合せて、これらの間に挟持される成形金属板3aとの摩擦力を増大し、その引抜き作用を良好ならしめることができ」と記載(下線は当審にて付与)されているように,「引抜装置のパッドの摩擦係数を向上させる」ことは,当業者ならば通常考慮する一般的な課題であるといえる。
また,例えば,同刊行物である実願昭60-68936号(実開昭61-185774号)のマイクロフィルムに「又、第5図に示すように第3実施例では緩衝材(204)は突起体(204a)・・・が一体成形されることにより任意の方向の滑りに対して有効な摩擦力を与えることができる。」(明細書6頁5?8行)と記載されているように,「挟持手段のパッドにおいて,摩擦係数を向上させるために,押圧面に突起を設ける」ことは,種々の技術分野において実施されている慣用の事項であるというべきである。
そうすると,引用発明において,その「パッド溝の凹状の内面」に,「摩擦係数を向上させる」という一般的な課題のために,上記慣用の事項を適用して,「押圧面に突起を設ける」ことは,当業者ならば必要に応じて適宜選択し得る単なる設計的事項であるというべきである。
してみると,引用発明において,相違点2における補正発明の構成とすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。

(5)効果について
本願明細書に記載された相違点1および2による効果は,刊行物1の記載および周知・慣用の事項から当業者が予測し得る範囲内のものに過ぎず,格別顕著なものとはいえない。

(6)したがって,補正発明は,引用発明および周知・慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(7)付言
審判請求書の「2.引用文献の説明と、補正後の本願発明との対比 (b)本願発明と理由について」において,請求人は,「上述したように、K1、K2を満たすパッド溝及び、内面から突出する突起を変形させて素管表面に密着させ、素管表面に部分的な押圧力が作用して、素管表面が傷ついたり、変形したりすることをより確実に防止し、耐油性によってその効果を持続できる本願発明を、管表面に密着させるメカニズムの異なる引用文献1、2の記載、ウレタンで被覆するとともに、凹凸を設けるというだけで詳細な構成について何ら記載のない引用文献3などの引用文献等の記載に基づいて、如何に当業者といえども容易に想到することはできるものではなく、十分な進歩性を有するものと確信します。」 と主張している。
しかしながら,前述したように,「引抜装置のパッドを,押圧により弾性変形する,耐薬品性を有する樹脂材料で形成する」および「挟持手段のパッドにおいて,摩擦係数を向上させるために,押圧面に突起を設ける」ことは,本願出願前周知・慣用の事項であり,「パッドの材質が硬質である」ことを必須としていない引用発明において,該事項を適用することに何ら阻害要因は存在しないし,上記「素管表面が傷ついたり、変形したりすることをより確実に防止」するという効果も,該適用の際に当業者ならば予測し得る範囲のものであって,格別顕著な効果であるとは到底いえない。
したがって,上記請求人の主張は,採用できない。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

よって,上記[補正の却下の決定の結論]のとおり,決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されたとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。(以下、「本願発明」という)

(本願発明)
「素管を引抜く引抜き手段と、
管内部に配置したフローティングプラグ及び管外側に配置した縮径ダイスとで素管を挟み込んで縮径させる縮径手段と、
外周に内面フィン形成溝を備え、管内面を押潰して、該管内面に管軸方向に対して所定角度の螺旋状のフィンを形成するフィン形成プラグを備えたフィン形成手段とで構成し、
前記縮径手段と前記フィン形成手段とを引き抜き方向の上流側から下流側へこの順に配置した内面溝付管の製造装置であって、
前記引抜き手段を、前記縮径手段の前記下流側に配置し、
前記引抜き手段に、
前記素管の外面に当接させるパッドと、前記素管との摩擦による引抜きを可能とする押圧力で前記パッドを前記素管側へ押圧する押圧力付与機とを備え、
前記パッドを、前記押圧力付与機からの押圧を受けたとき、適正化した押圧状態で前記素管に当接する押圧状態適正化パッドで構成した
内面溝付管の製造装置。」

2 引用刊行物およびその記載事項
本願出願前に頒布された刊行物1およびその記載事項は,上記「第2 2 引用刊行物およびその記載事項」に記載したとおりである。

3 当審の判断
本願発明は,補正発明の特定事項である「押圧状態適性化パッド」について,
「前記素管よりも軟質であるとともに、押圧により弾性変形する、耐油性を有する樹脂材料で形成し、
前記押圧状態適正化パッドの前記素管への押圧部分に、素管への嵌め込みを許容するパッド溝を形成し、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との半径比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第1締め付け比K_(1)は、パッド溝の曲率半径Rと、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いて、K_(1)=R/(D_(b)/2)と表すことができ、K_(1)の値は1.0以上1.05以下であり、
パッド溝と、前記縮径手段により縮径された素管との外周長さ比の関係に着目した前記素管の締め付け具合を示す第2締め付け比K_(2)は、パッド溝の曲率半径R、パッド深さH、前記縮径手段により縮径された素管の直径D_(b)を用いてK_(2)={2πR-4(R-H)}/(πD_(b))と表すことができ、K_(2)の値は0.98以上1.0未満とし、
前記パッド溝の凹状の内面を、前記素管を押圧する押圧面として形成するとともに、前記押圧面から突出し、前記素管に当接することで圧縮方向に弾性変形する複数の突起を備えた」
との限定を除いたものである。
そして,本願発明の構成を全て備えた補正発明が,上記「第2 3 当審
の判断」にて検討したとおり,引用発明および周知・慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明および周知・慣用の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-04 
結審通知日 2015-09-08 
審決日 2015-09-29 
出願番号 特願2010-224482(P2010-224482)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B21C)
P 1 8・ 121- Z (B21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福島 和幸  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 西村 泰英
渡邊 真
発明の名称 内面溝付管の製造装置及び製造方法  
代理人 永田 元昭  

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