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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1307822
審判番号 不服2014-9339  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-20 
確定日 2015-11-19 
事件の表示 特願2008-513643「芳香族ポリイミドコーティングを有する医療器具」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月30日国際公開、WO2006/127763、平成20年11月27日国内公表、特表2008-541864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年5月24日(パリ条約による優先権主張 2005年5月25日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項2に係る発明は、平成26年5月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その記載は以下のとおりである。

「医療器具の製造方法であって、以下の構造の芳香族ポリイミドの被覆の多数の層を器具の少なくともいくらかの部分で形成する段階を含む方法。
【化4】

(式中、Rは4価の芳香族基であり、前記R基の環はベンゼノイド不飽和により特徴付けられ、4つのカルボニル基は該環中の別々の炭素原子に直接結合し、各カルボニル基のペアは、前記R基の環中の隣接した炭素原子に結合する;式中R'は以下から成る群より選択される2価のベンゼノイド基である。
【化5】

(式中R''は1-3炭素原子を有するアルキレン鎖及び以下の基、
【化6】

(式中R'''及びR''''は、アルキル及びアリールから成る群より選択される。)から成る群より選択される。))」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審の判断
1 引用例及びその記載事項
原査定で引用文献2として引用され、本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物である米国特許出願公開2005/0004643号明細書(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用例は英文のため当審による翻訳文で示す。

[a]「請求の範囲
1.医療用リード線の製造方法であって、該方法は細長いリード導体に加水分解安定性ポリイミド層を形成する段階を含む。
2.形成段階がディップコーティング工程を含む、請求項1の方法。
3.形成段階がスプレーコーティング工程を含む、請求項1の方法。
・・・
6.さらに、リード導体に加水分解安定性ポリイミドの多数の付加的な層を形成する段階を含む、請求項1の方法。」(第4頁右欄6?22行)

[b]「本発明は、一般に、電気的刺激の形態で治療を送達するための移植可能な医療器具リードに関し、特に、本発明は、移植可能な医療器具リードにおける導体コイル絶縁体に関する。」(段落[0002])

[c]「本発明の一態様に従って、絶縁層212は、多数の被覆で導電ワイヤー210上で適用され、層212は、加水分解安定ポリイミドの多数の層からなり、所望の壁厚Wをもたらす。・・・従って、導電ワイヤー210上に絶縁層212を形成する多重コーティング段階は、被覆した導電ワイヤー210を導電コイル200にするために必要とされる延性を提供し、該導電コイルは移植可能なリードの長期間の柔軟性の要求に耐えることができる。・・・」(段落[0018])

[d]「加水分解安定性ポリイミドは、インプラント環境のような水性環境に浸漬された際に、時間の経過に伴う機械的性能の著しい低下を示さない。加水分解安定であると考えられるポリイミドは、下記一般的な繰り返し構造を有してもよい。:

ARは、異なる二無水物で表されるAR1又はAR2のいずれかであり、AR1又はAR2のいずれかは異性体を含む以下の一般式で表され、ここで:

XはCH_(2)、CH_(3)-C-CH_(3)、O(酸素)、C=O(カルボニル)、S(スルフィド)、SO_(2)(スルホニル)、CF_(3)-C-CF_(3)(ヘキサフルオロプロパン誘導体)、又は無元素(例えば、3,4,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA))で表され、また、AR3はジアミンであり、以下の式で表される:

以下に示すように、異性体を含み、ここで:

Y及びZはCH_(2)、CH_(3)-C-CH_(3)、O、C=O、S、SO_(2)、又はCF_(3)-C-CF_(3)で表される。二無水物(例えば、AR1、AR2)と同様に、ポリイミドは、一つ以上のジアミン(AR3)又は上記構造の組み合わせで構成されてもよい。・・・」(段落[0021]?[0025])

2 引用発明
引用例には、摘示[a]、[c]から、以下の発明が記載されているといえる。
「医療用リード線の製造方法であって、該方法は細長いリード導体に多数の加水分解安定性ポリイミド層を形成する段階を含む。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「医療用リード線」は、移植可能なものであり(摘示[b])、本願明細書の【0005】で医療器具の具体例として長期に移植されるリードが記載されていることから、本願発明の「医療器具」といえる。
また、引用発明の「細長いリード導体」は、「多数の加水分解安定性ポリイミド層を形成する」対象であるから、本願発明でいう、「芳香族ポリイミドの被覆の多数の層を」「少なくともいくらかの部分で形成する」対象である「器具」といえる。
(2)そうすると、両者は以下の一致点、相違点を有する。

一致点:
「医療器具の製造方法であって、ポリイミドの被覆の多数の層を器具の少なくともいくらかの部分で形成する段階を含む方法。」

相違点:
被覆の多数の層のポリイミドが、本願発明は、以下の構造の芳香族ポリイミドであるのに対し、
【化4】

(式中、Rは4価の芳香族基であり、前記R基の環はベンゼノイド不飽和により特徴付けられ、4つのカルボニル基は該環中の別々の炭素原子に直接結合し、各カルボニル基のペアは、前記R基の環中の隣接した炭素原子に結合する;式中R'は以下から成る群より選択される2価のベンゼノイド基である。
【化5】

(式中R''は1-3炭素原子を有するアルキレン鎖及び以下の基、
【化6】

(式中R'''及びR''''は、アルキル及びアリールから成る群より選択される。)から成る
群より選択される。))
引用発明は、加水分解安定性ポリイミドである点。

以下、便宜的に、本願発明で特定される構造を有する芳香族ポリイミドのうち、

の構造を有するものを「Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミド」という。

4 判断
(1)本願発明には、種々の構造を有する芳香族ポリイミドの態様が含まれるが、少なくとも、Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミドの態様について容易に発明をすることができたものであることがいえれば、本願発明は容易に発明をすることができたものであることがいえることになる。
そこで、Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミドの態様について、上記相違点を以下検討する。
(2)引用発明で使用されるポリイミドは、「細長いリード導体」に形成する「多数の加水分解安定性ポリイミド層」を構成するものであるところ、当該層は絶縁層(摘示[b]、[c])なのだから、引用発明は、ポリイミドが有する絶縁性という性質に着目しているといえる。
また、引用発明は、移植可能な医療用リード線(摘示[a]、[b])なのであるから、ポリイミドが有する生体適合性という性質にも着目しているといえる。
ところで、引用例にはポリイミドの具体例として種々の構造を有する(芳香族)ポリイミドが挙げられているが(摘示[d])、Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミドは挙げられていない。
しかしながら、絶縁性という性質を有するポリイミドとして、Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミドは周知であり(例えば、下記参考文献1?4参照。)、また、生体適合性という性質を有するポリイミドとしても、Kaptonの構造を有する芳香族ポリイミドは周知である(例えば、下記参考文献1?3参照。)。
そうすると、引用発明において、ポリイミドが有する絶縁性や生体適合性という性質に着目し、ポリイミドとして、上記周知のポリイミドを採用することに格別な困難性は認められない。
そして、本願明細書の記載を見ても、引用発明と比較して、格別予想外の効果が得られるものとは認められない。

参考文献:
1.金属, 2002, Vol.72, No.12, pp.33-36(原査定の引用文献1)
2.特開平2-159247号公報(同引用文献4)
3.Biomaterials, 1993, Vol.14, No.8, pp.627-635(同引用文献5)
4.米国特許第3179634号明細書(当審で新たに引用、特に、表1、第15欄33行?第16欄45行、請求項9参照)

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
なお、本審決においては、本願発明について検討したが、本願発明は平成26年5月20日付け手続補正の前後で請求項15に係る発明を請求項2に係る発明とした以外は変更されておらず、しかも本願発明は、上記したように特許を受けることができないものである。そうすると、平成26年5月20日付け手続補正が所定の要件を適合せずに却下されるべきものであるか否かにかかわらず、「本願は拒絶すべきものである」との判断に至ることは明らかである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-23 
結審通知日 2015-06-24 
審決日 2015-07-07 
出願番号 特願2008-513643(P2008-513643)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 星野 紹英
特許庁審判官 小川 慶子
小久保 勝伊
発明の名称 芳香族ポリイミドコーティングを有する医療器具  
代理人 箱田 篤  
代理人 浅井 賢治  
代理人 辻居 幸一  
代理人 市川 さつき  
代理人 山崎 一夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 星野 貴光  

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