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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G02B
管理番号 1307824
審判番号 不服2014-15489  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-06 
確定日 2015-11-19 
事件の表示 特願2012- 97996「二次元視野角拡大部材および表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月16日出願公開、特開2012-155343〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年 8月27日に出願した特願2001-256782号の一部を平成24年 4月23日に新たな特許出願としたものであって、平成25年10月 4日に手続補正がなされ、平成26年 4月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年 8月 6日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年 8月 6日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、平成25年10月 4日に提出された手続補正書により補正された(以下「本件補正前」という。)明細書及び特許請求の範囲を補正しようとするものであって、そのうち、請求項1に係る補正については次のとおりである(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1)本件補正前の請求項1
「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した2枚の光拡散シートが前記単位レンズの前記一次元方向が略90°ずらせて重ねられ、
それぞれの前記光拡散シートにおいて、前記単位レンズは前記台形の下底を入光部、上底を出光部、斜辺を全反射部として形成され、
前記それぞれの光拡散シートにおいて、前記単位レンズは高屈折率物質で形成され、隣接する前記単位レンズに挟まれた断面形状三角形の部分は前記高屈折率物質の屈折率より低い屈折率を有する低屈折率物質で形成されており、
前記低屈折率物質には光吸収粒子が添加されているとともに、前記光吸収粒子の前記低屈折率物質中への添加量は10質量%?60質量%であり、前記光吸収粒子の平均粒径は、前記断面形状台形の上底を形成する前記単位レンズ出光部の長さの1/30?2/3であることを特徴とする二次元視野角拡大部材。」

(2)本件補正後の請求項1
「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した2枚の光拡散シートが前記単位レンズの前記一次元方向が略90°ずらせて重ねられ、
それぞれの前記光拡散シートにおいて、前記単位レンズは前記台形の下底を入光部、上底を出光部、斜辺を全反射部として形成され、
前記それぞれの光拡散シートにおいて、前記単位レンズは高屈折率物質で形成され、隣接する前記単位レンズに挟まれた断面形状三角形の部分は前記高屈折率物質の屈折率より低い屈折率を有する低屈折率物質で形成されており、
前記低屈折率物質にはアクリル樹脂により被覆された光吸収粒子が添加されているとともに、前記光吸収粒子の前記低屈折率物質中への添加量は10質量%?60質量%であり、前記光吸収粒子の平均粒径は、前記断面形状台形の上底を形成する前記単位レンズ出光部の長さの1/30?2/3であることを特徴とする二次元視野角拡大部材。」

(3)請求項1に係る本件補正の内容
上記(1)及び(2)で記載した請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「光吸収粒子」を「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」に限定しようとするものである。

2 新規事項の追加について
(1)本願明細書の記載
本願の願書に最初に添付された(以下「出願当初」という。)明細書には、光吸収粒子について、次の記載がある。

ア 【課題を解決するための手段】
「【0010】
ここで、それぞれの光拡散シートにおいて、断面形状三角形の部分全体を光吸収性の材料とはせず、材料中に光吸収粒子を分散させる構成をとったので、斜辺部での全反射が効率よく行われる。・・(略)・・
【0012】
これによれば、光吸収粒子の添加効果を最大とすることができる。・・(略)・・またこれ以上の添加を行うと出光面(台形の上底部)に着色粒子が残留してしまうことがあるからである。
【0013】
請求項2の発明は・・(略)・・
【0014】
この発明によれば、それぞれの光拡散シートにおいて、光吸収効果を効率よいものとすることができる。また製造時に問題なく光吸収粒子を断面形状三角形部へと充填することができる。粒径を必要以上に大きくした場合、三角形部に粒子が埋まりきらずにはみだしてしまい、さらに隙間が発生しやすくなる傾向がある。逆に粒径が必要以上に小さすぎると、三角形部への充填は簡単になるが、製造時に着色粒子を出光面から掻き落とすことが困難となって、レンズ出光面に着色粒子が残留してしまう傾向が強くなるからである。」

イ 【発明の効果】
「【0039】
また、低屈折率物質には光吸収粒子が添加されていることとすれば、それぞれの光拡散シートにおいて、断面形状三角形の部分全体を光吸収性の材料とはせず、材料中に光吸収粒子を分散させる構成をとったので、・・(略)・・
【0040】
また、光吸収粒子の前記低屈折率物質中への添加量は、10?60質量%であることとすれば、光吸収粒子の添加効果を最大とすることができる。・・(略)・・またこれ以上の添加を行うと媒体材料と十分に混合を行うことが困難になって、製造時に三角形底辺部分に光吸収粒子が残ってしまうこととなる。」

ウ 【発明を実施するための形態】
「【0055】
・・(略)・・光吸収粒子5は市販の着色樹脂微粒子が使用可能である。・・(略)・・
【0059】
・・(略)・・光吸収粒子5は市販の着色樹脂微粒子が使用可能である。・・(略)・・」

エ 【実施例】
「【0091】
・・(略)・・レンズ間部分7の透明低屈折率樹脂としてウレタンアクリレート、光吸収粒子として、大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)を使用した。
【0092】
「ラブコロール」の平均粒径は8μmで、添加量を50質量%とした。」

オ 上記の記載事項アないしエには、「光吸収粒子」に関する事項として、光吸収粒子の添加量を多くした場合に、製造時においてレンズ出光面(三角形底辺部分)に残留してしまう傾向が強くなるものが、上記ア(課題を解決するための手段)では、「着色粒子」とされており、上記イ(発明の効果)では、「光吸収粒子」とされている。そして、上記ウ、エの記載も参照すれば、本願の出願当初明細書には、「光吸収粒子」として、「着色粒子或いは市販の着色樹脂微粒子が使用可能であり、例えば、前記市販の光吸収粒子としては、大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)が使用可能である」ことが記載されていると認められるものの、「被覆」という技術用語は一切記載されておらず、「被覆」に類する技術的な説明はなされていない。

したがって、本願の出願当初明細書には、「光吸収粒子」として、特定の材料あるいは構造のものを用いることによって、有意の効果を示すことは記載されておらず、単に一般的な「着色粒子」あるいは、市販の着色樹脂微粒子を用いることができる旨が説明されているにすぎないものである。

(2)補正の根拠に関する請求人の主張について
ア 請求人は、本件補正の根拠について、請求書の【請求の理由】の「4.補正について」において、
「特許請求の範囲を手続補正書のようにしました。ここでは、補正前の「光吸収粒子」を「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」に変更しました。これは、明細書第0091段落に「光吸収粒子として、大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)を使用した。」と記載されおり、当該「ラブコロール」(登録商標)がアクリル樹脂により被覆された粒子であることは、例えば特開平10-60314の明細書第0027段落、及び、
”http://www.daicolor.co.jp/products_i/catalog2009/1pig/1pig-7-7.pdf”の記載等から明らかです。
従いまして、当該補正に係る事項は、出願当初明細書に記載されていると言えるとともに、光吸収粒子の構成を限定して減縮するものです。」
と主張している。
要するに、請求人の主張は、出願当初明細書に記載された「大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)」が、「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」であるから、本件補正に係る事項は出願当初明細書に記載されているというものである。

イ そこで、上記アの請求人の主張について検討する。
ここで、請求人の挙げている特開平10-60314号公報を以下「資料1」といい、インターネット<http://www.daicolor.co.jp/products_i/catalog2009/1pig/1pig-7-7.pdf>の印刷物を以下「資料2」という。

(ア)資料1の【0027】には、次の記載がある。
「【0027】さらに、ラブコロール220(M)ブラックを着色剤3(当審注:「3」の実際の表記は、「○の中に3」。「着色剤3」との記載について、以下同じ。)とし、着色剤3を含む前記表2の配合によって、黒色のポスターカラーを生成した。本実験資料に使用した着色剤3は、顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたものであり、粒子の形状は真球状をしている。また同様に着色剤3を含む前記表3の配合によって、黒色のエマルジョン絵の具を生成した。」
即ち、上記資料1の【0027】には、「着色剤3」である「ラブコロール220(M)ブラック)」は、「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」との説明がなされている。

(イ)資料2は次のとおりである。


(a)資料2の表題は「アクリルコポリマー着色ビーズ ラブコロール[RUBCOULEUR]」である。
(b)表題下の説明に「ラブコロールは大日精化が独自の樹脂合成技術で開発した真球状アクリル系ポリマー微粒子です。重合過程の微粒子化で製造されるラブコロールにはクリヤータイプと顔料で着色された着色タイプがあります。真球状の形状的特徴と顔料的特性を有し」との記載がある。
(c)上部右の「特徴」に次の記載がある。
「1.形状および粒度分布
・・(略)・・
2.物理化学的特性
ポリマーは架橋構造になっている・・(略)・・また耐性に優れ た顔料で着色された製品・・(略)・・」
(d)下部の「ラブコロール代表銘柄」と題される表には、顔料を含まないもの、或いは、カーボンブラック、酸化チタン等種々の顔料を含むもの、また、平均粒子径は、2?3(μ)?34?42(μ)と種々のものが製品として例示されており、その中で、品名が「220(M)ブラック)」とされている製品については、使用顔料がカーボンブラックであり、C.I. Name として「PBk-7」及び平均粒子径(μ)が「7?9」であることが記載されている。
(e)上記(a)ないし(d)の記載から
「大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)」は、真球状アクリル系ポリマー微粒子であって、クリヤータイプと顔料で着色された着色タイプのものがあり、着色タイプは、「顔料で着色された製品」であること、すなわち、顔料で着色されたアクリル樹脂微粒子であることが理解できる。

(ウ)ここで、「被覆」との文言は、株式会社岩波書店 広辞苑第六版によれば「おおいかぶせること。」とされており、「被覆」を用いた他の名詞としては、「被覆線」は、「絶縁体で覆った電線。」(絶縁線の説明。被覆線は「〔電〕(→)絶縁線に同じ。」とされている。)とされており、「マグローヒル 科学技術用語大辞典 改訂第3版」によれば、「被覆」は、「解剖→外皮」、「土木→オーバーレイ(オーバーレイの項目:破損した道路の表面に、アスファルトやコンクリートを敷いて修繕すること)」等の説明があり、他の名詞として「被覆剤」は、「1.表面上に連続して薄い膜を形成する材料の総称」、「被覆物」は、「減圧法、電気的方法、化学的方法、スクリーニング法、蒸発法などの手段により基体の上に付着させた物質の総称」等が説明されているところ、上記の各説明によれば、一般的な、「被覆」の文言の用い方としては、単一の物の表面・周囲或いは、複数の物が一体化された物の表面・周囲を、覆い被せる事を意味しているものである。

(エ)確かに、上記(ア)のように資料1には、ラブコロール220(M)ブラックは、「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」との説明がなされているものの、実際に販売されている商品の説明である資料2においては、上記(イ)のようにラブコロールの全てが、或いは少なくともラブコロール220(M)ブラックが、「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」であるとの説明は一切されていない。
したがって、資料1における「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」との説明は、上記(ウ)のように一般的な「被覆」と言う意味で用いているのではなく、市販品としての「顔料で着色されたアクリル樹脂微粒子」を意味しているとみるか、或いは、「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」が、市販されている「大日精化(株)製」の「ラブコロール220(M)ブラック」とは異なるものと理解せざるを得ない。

(オ)また、上記(1)オのように、本願の出願当初明細書には、「光吸収粒子」として、「着色粒子或いは市販の着色樹脂微粒子が使用可能であり、例えば、市販の光吸収粒子としては、大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)が使用可能である」ことが記載されているものの、「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」との説明は一切されておらず、これは、資料2における「ラブコロール」の説明と矛盾がない。

(カ)上記(ア)ないし(オ)のように、請求項1に係る本件補正の限定事項である、「光吸収粒子」が「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」であるとした本件補正は、「被覆」との構成が、具体的にどのような「被覆」であるのかについて限定されておらず、上記(ウ)のような一般的な意味を含む「被覆」としたものであり、そのような広義の「被覆」については、本願の出願当初明細書には記載されていない。

(3)まとめ
上記(1)及び(2)のとおりであるから、本願の出願当初明細書に記載されていない技術事項を特定する本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、本件補正は、請求書の資料1、2を用いた主張によれば、上記(2)イ(エ)のように、「資料1における「顔料の表面にアクリル樹脂の被覆がなされたもの」との説明は、上記(2)イ(ウ)のように一般的な「被覆」と言う意味で用いているのではなく、「顔料で着色されたアクリル樹脂微粒子」を意味しているとみる」ことができるから、仮に、本件補正における「被覆」も同様のことを意味しているとみることができないものでもない。
そこで、本件補正における「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」を市販品としての一般的な「顔料で着色されたアクリル樹脂微粒子」を意味しているものとして以下検討する。

3 本件補正の目的
請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「光吸収粒子」を限定するものであって、本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4 独立特許要件を満たすか否かの検討
請求項1に係る本件補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(2)に記載のとおりのものである。

(2)刊行物の記載事項
ア 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2000-352608号公報(以下「刊行物1」という。)には、「光拡散シート」(発明の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】厚さ方向に透過する光を拡散させる光拡散層を備えた光拡散シートにおいて、
前記光拡散層の観察面に、断面略V字状の複数の溝を1次元方向及び2次元方向のいずれかに並列に形成したことを特徴とする光拡散シート。
・・(略)・・
【請求項4】請求項1、2又は3において、
前記溝には、気体、液体及び固体のいずれかであって前記光拡散層より低い屈折率となる物質が充填されていることを特徴とする光拡散シート。
・・(略)・・
【請求項7】請求項4、5又は6において、
前記物質は黒色の液体又は固体であることを特徴とする光拡散シート。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、コンピュータやテレビジョン等に用いるCRTディスプレイ装置、液晶表示装置やプラズマ表示装置、CRTや液晶ライトバルブを用いた背面投射型表示装置等に用いて好適な光拡散シート、この光拡散シートを用いた透過型スクリーン、透過型表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、液晶表示装置やCRTディスプレイ装置、各種プロジェクションディスプレイ装置等においては、観察者の視認性を高めるためスクリーンに光拡散シートを用いたものが知られている。
【0003】この光拡散シートは、例えば、透光性フィルムの表面を凹凸処理したもの、樹脂フィルムの内部に光拡散性微粒子を含有させたもの、円柱状のレンズが1つの平面上に並列配置されたレンチキュラーレンズシート等がある。又、これらのシートを2、3枚組合わせて用いることも行なわれている。
【0004】これらは、フィルム、大気、微粒子等の各屈折率の差を利用してこれらの境界において映像光を多方向に屈折させ、前記映像光を広範囲に拡散して観察者側に出射することで視認性の向上を図っている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、一方においては、多量の光拡散性微粒子や多くの凹凸が形成されたシート表面によって映像光が乱反射して多くの迷光を生じさせることになり、ディスプレイの表面輝度の低下、コントラストの低下等を招いていた。
【0006】又、前記表面の凹凸処理により拡散性を有するものは、その拡散性及び透明性に角度依存性があり、ディスプレイを見る角度によって視認性が変化するという問題があった。例えば、ディスプレイにおいて、正面からでは視認性のよい映像が得られるが、視角が大きくなると画像が白くなる現象がある。
【0007】一方、前記光拡散シートの光拡散性は、外光の散乱反射を増加させることにもつながり、コントラストが著しく低下して映像がボケ易いという問題点があった。
【0008】特に、前記光拡散シートを、コレステリック液晶を利用した液晶表示装置に用いた場合、この光拡散シートにより生じる外光の散乱光が、液晶素子にあらゆる角度から入射するため、観察者の視角の変化によって色調変化が生じるという問題点があった。
【0009】本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、従来とは異なる方法で映像光を拡散し、又、コントラストの低下を押さえた光拡散シート、この光拡散シートを用いた透過型スクリーン、透過型表示装置を提供することを目的とする。」

(ウ)「【0041】前記光拡散シート10は、図2に示されるように、前記溝18が形成される方向に対して直角方向に指向性がある光拡散特性を有する。従って、前記溝18が鉛直方向となるように、この光拡散シート10をディスプレイに設置すると、入射光(映像光)が主として水平方向に拡散されるため、観察者にとって大変見やすいディスプレイとなる。」

(エ)「【0046】次に、図4に示される実施の形態の第2例に係る光拡散シート10Aについて説明する。
【0047】この光拡散シート10Aは、実施形態の第1例で示した光拡散シート10の入射面12Aに、前記溝18方向と垂直となる断面不等辺三角形状の複数の柱状プリズム40を並列形成したものである。なお、その他の構成は、実施の形態の第1例の光拡散シート10とほぼ同一であるため、この光拡散シート10と同一部分には同一符号を付することで説明は省略する。
【0048】前記光拡散シート10Aは、図4の光路Aで示されるように、光拡散シート10Aに対して斜めから入射する映像光が前記柱状プリズム40内部で全反射し、光拡散層14に対して垂直に入射させることが可能となるため、特に、斜め上方又は下方からスクリーンに映像光が投射される背面投写型ディスプレイ装置等に用いる場合に好適である。
【0049】又、この光拡散シート10Aは、入射面に円弧状の凹凸を有するレンチキュラーレンズシートと異なり、入射面側に前記柱状プリズム40を直接形成することができるため、1枚の光拡散シート10によりスクリーンを構成することが可能となる。」

(オ)「【0051】前記光拡散シート10、10Aにおいては、前記溝18に空気が充填されている場合を示したが、本発明はこれに限定されるものでない。この溝18には前記光拡散層14よりも低い屈折率となる物質(気体、液体、固体いずれも可能)を充填することが好ましく、更に望ましくは、前記物質を黒色に着色し、光吸収層及びBSの役目を兼ねさせるようにしても良い。
【0052】又、光拡散シート10、10Aの製造時の便利のため、前記物質を微細な粒子状固体とし、前記溝18内部に敷き詰めるようにしてもよい。このようにすれば、界面が空気となるので、前記物質の屈折率を自由に設定することが可能となり、又、この物質を黒色に着色するのに好ましい状況となる。
【0053】更に、本発明に係る光拡散シートは、前記溝18内に物質を充填する場合に限定されず、前記壁18Aに液体又は固体の前記物質を塗布することで、前記壁18Aにおいて入射光を全反射させるようにしてもよい。
【0054】しかし、前記物質は、製造の容易性等を考慮すると、空気以外としては樹脂を用いるのが好ましく、又特に使用時の流出等を防止するためには、紫外線や電子線等によって硬化可能な硬化性樹脂を用いることが望ましい。」

(カ)「【0055】次に、図5に示される実施の形態の第3例に係る透過型スクリーン42について説明する。
【0056】この透過型スクリーン42は、光拡散性微粒子44を含有させた第2光拡散層46を前記透明基材シート12に代えて積層した光拡散シート10Bと、この光拡散シート10Bの入射面14A側に配置されるフレネルレンズシート48と、を備えて構成される。
【0057】前記透過型スクリーン42によれば、まず、フレネルレンズシート48により映像光をスクリーンに対して垂直方向に集光し、前記第2光拡散層46に垂直入射させる。この第2光拡散層46は、等方的な±15度の角度範囲の拡散特性に設定されており、この第2光拡散層46を通過した映像光は、既に図2(B)に示したように、光拡散層14を通過して約±30度?約±40度の拡散角度でもって出射することになる。
【0058】従って、この透過型スクリーン42を前記溝18が鉛直方向となるように背面投射型ディスプレイに設置すれば、水平方向拡散角度範囲が約±30度?約±40度、鉛直方向の拡散角度範囲が約±15度となる最適な出射光を得ることが可能となる。」

(キ)「【0060】次に、図6に示される実施の形態の第4例に係る透過型表示装置48について説明する。
【0061】この透過型表示装置48は、実施形態の第1例で示したものと同様な2枚の第1及び第2光拡散シート50、50Aと、第1偏光シート52と、液晶パネル54と、第2偏光シート52Aと、バックライト装置56と、を最観察者側から順に配置して構成されている。なお、前記液晶パネル54は、カラーフィルタ層、透明電極層、液晶層等が所定の順に積層して構成される。
【0062】前記バックライト装置56は、アレイ状プリズムシート等によって、光源光が等方性の約±15度の拡散角度範囲となるように設定されている。又、前記第1及び第2光拡散シート50、50Aは、互いに溝18の方向が垂直となるように90度ずらして配置されている。
【0063】前記透過型表示装置48によれば、各偏光シート52、52A、液晶パネル54を通過した約±15度の拡散範囲の映像光が、第1及び第2光拡散シート50、50Aにより、2次元方向に各々約±30度?約±40度の範囲で拡散されて出射する。
【0064】従って、高コントラストで、且つ、広視野角となる視認性に優れた透過型表示装置48を得ることが可能となる。
【0065】なお、このように2次元方向の拡散特性を有する出射光を得るためには、1枚の光拡散シートの拡散層に、複数の前記溝18を2次元方向に並列に形成、即ち網目状に形成することも好ましい。」

(ク)「【0073】以上、実施の形態の例を通じて本発明に係る光拡散シート、透過型スクリーン、及び、透過型表示装置を具体的に示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各具体例に示された光拡散シートの特徴を組合わせたり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で単に設計変更を加えたりしたものは本発明に包含されるものである。」

(ケ)上記(ア)ないし(ク)から、刊行物1には次の発明が記載されているものと認められる。
「厚さ方向に透過する光を拡散させる光拡散層を備えた光拡散シートにおいて、
前記光拡散層の観察面に、断面略V字状の複数の溝を1次元方向に並列に形成し、
前記溝には、前記光拡散層より低い屈折率となる物質が充填されており、
前記物質は黒色の液体又は固体である光拡散シート。」(以下「引用発明」という。)

イ 原査定の拒絶の理由で引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭62-108232号公報(以下「刊行物2」という。)には、「透過型スクリーンおよびその製造方法」(発明の名称)に関して、図面とともに、次の記載がある。
(ア)「第10図(a)は上記の方法によってレンチキュラーレンズの全反射面5に低濃度に着色した低屈折率塗料106を塗布したすぐ後の状態を示す透過型スクリーンの拡大断面図である。着色低屈折率塗料106が湿っている第10図(a)の状態から乾燥する過程で、やせと称する現象が起こり第10図(b)に示すように、谷底部l_(1)に塗料が集中し、谷の上部l_(2)ではうすい膜面しか形成できないことが多かった。そのため結果的に谷の上部l_(2)では黒さが十分とは言えず、見かけ上細いブラックストライプしか得られないという問題点があった。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は特願昭60-149223号の透過型スクリーンを前述の問題点に関してさらに改良した透過型スクリーンとその製造方法を提供することを目的としている。
また、本発明の別の目的は、特願昭60-149223号の透過型スクリーンに限らず、外光吸収層の谷上部のやせが問題となる従来の透過型スクリーンを改良した透過型スクリーンとその製造方法を提供することにある。」(3頁左下欄8行?同頁右下欄8行)

(イ)「第1図は本発明の透過型スクリーンの一部を示した概略斜視図であり、1がアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂あるいはスチレン樹脂等の合成樹脂からなるスクリーン基材、2がそのスクリーン基材1の観察側の面(B)に形成されたレンチキュラーレンズである。なお図中3は外光吸収層、(A)は投影側の面、4はその面(A)に設けられたフレネルレンズである。
また第2図は、第1図の一部を拡大した断面を示しており、レンチキュラーレンズ2を構成するレンズ単位の両側には直線状の全反射面5が形成され、2つの全反射面5が谷部6を形成している。また2つの全反射面5の間には3つの曲面からなる山部7が設けられており、一旦全反射面5で全反射した光および山部7に直進した光をそれぞれ拡散して出射するようになっている。したがってこのような透過型スクリーンにおいては、中心ばかりでなく視野角度の十分に大きい観察側にも光が到達するものとなる。
本発明はこのようなレンチキュラーレンズ2の谷部6に、スクリーン基材1より低屈折率物質8を接着剤として微細な球状体9などの充填物を入れることにより、第10図(b)に示した乾燥時における谷上部l_(2)の膜厚のやせを防止するものである。このようにすれば微細な球状体9は低屈折率物質8中にあわおこし状に固定され、膜厚のやせのない外光吸収層3が形成できる。
ここで、良好なコントラスト特性を持つ透過型スクリーンを提供するために、低屈折率物質8と球状体9から成る外光吸収層3が満たすべき条件は何かということが問題になる。それは、
(1) 外光を吸収するために低屈折率物質8と球状体9の少なくとも一方が光吸収性能を持つこと
(2) 全反射面5の全反射の機能を実質的に損ねないような手段があること
の2つである。
(1)の条件に関して、具体的に言えば、
(イ) 低屈折率物質8が着色され、球状体9が着色されていない場合(第3図(a))
(ロ) 低屈折率物質8が着色されてなく球状体9が着色されている場合(第3図(b))
(ハ) 低屈折率物質8と球状体9の両方が着色されている場合(第3図(c))
の3つの場合があり、それぞれ(イ)、(ロ)、(ハ)において外光吸収性能を満たすように(たとえば外光の反射率が30%以下となるように)着色度合を調節すればよい。第3図(a)、(b)、(c)はそれぞれ(イ)、(ロ)、(ハ)に対応する外光吸収層3の模式図であり、低屈折率物質8と球状体9とも斜線で示した場合は外光吸収用に着色されている場合を示す。なお5は第2図と同じ全反射面である。
次に(2)の条件を満たすには大別して2つの方法がある。その1つの方法は、第3図(a)、(b)、(c)で示した全反射面5上に直接に外光吸収層3を設ける場合は、着色された微細な球状体を用いるときであってもその使用量あるいは粒径等を調節することや、低屈折率物質8の着色程度を調節することによって全反射機能を実質的に損ねないようにすることである。」(4頁左下欄2行?5頁左上欄20行)

(ウ)上記(ア)及び(イ)から、刊行物2には、
「レンチキュラーレンズの谷部に、スクリーン基材より低屈折率物質を接着剤として微細な球状体などの充填物を入れることにより、乾燥時における谷上部の膜厚のやせのない外光吸収層が形成でき、
低屈折率物質と球状体から成る外光吸収層が満たすべき条件は、
(1) 外光を吸収するために低屈折率物質と球状体の少なくとも一方が光吸収性能を持つこと
(2) 全反射面の全反射の機能を実質的に損ねないような手段があること
の2つであり、
(1)の条件に関して、低屈折率物質が着色されてなく球状体が着色されている場合があり、
(2)の条件を満たすには、着色された微細な球状体を用いるときであってもその使用量あるいは粒径等を調節することによって全反射機能を実質的に損ねないようにすること」(以下「刊行物2の記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
ア 本願補正発明と引用発明との対比
(ア)引用発明においては、「光拡散層の観察面に、断面略V字状の複数の溝を1次元方向に並列に形成し」ており、「光拡散層」において、隣接する「断面略V字状の溝」に挟まれた部分は、「断面形状略台形の単位レンズ」を構成するものと認められるので、引用発明における「観察面に、断面略V字状の複数の溝を1次元方向に並列に形成し」た「光拡散層を備えた光拡散シート」は、本願補正発明における「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した光拡散シート」に相当する。

(イ)上記(ア)のとおり、引用発明は「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した光拡散シート」であるところ、刊行物1の【0053】には、断面略V字状の溝を構成する壁において入射光を全反射させることが記載されており、また、「光拡散層」における「観察面」とは反対側の面が入射面となることは明らかであるので、引用発明は、本願補正発明における「光拡散シートにおいて、単位レンズは台形の下底を入光部、上底を出光部、斜辺を全反射部として形成され」るとの事項を有している。

(ウ)本願補正発明の「高屈折率物質」について、本願の出願当初明細書には、具体的に屈折率がどの程度の値よりも大きければ本願補正発明の「高屈折率物質」に含まれるのか等、何ら定義が記載されていないが、本願補正発明において、「高屈折率物質の屈折率より低い屈折率を有する」物質が、「低屈折率物質」であることを考慮すると、本願補正発明の「高屈折率物質」は、単に「低屈折率物質より高い屈折率を有する物質」を意味するものと認められる。また、引用発明における「断面略V字状の溝」は、本願補正発明における「隣接する単位レンズに挟まれた断面形状三角形の部分」に相当するところ、引用発明において、「断面略V字状の溝には、光拡散層より低い屈折率となる物質が充填されて」おり、「充填」とは、「あいた所にものをつめてふさぐこと」を意味し、「断面略V字状の溝」が「光拡散層より低い屈折率となる物質」で満たされているものを含むことが明らかであるので、引用発明は、本願補正発明における「光拡散シートにおいて、単位レンズは高屈折率物質で形成され、隣接する前記単位レンズに挟まれた断面形状三角形の部分は前記高屈折率物質の屈折率より低い屈折率を有する低屈折率物質で形成されて」いるとの事項を有している。

イ 一致点及び相違点
上記ア(ア)ないし(ウ)から、本願補正発明と引用発明との一致点と相違点は、次のとおりとなる。
(ア)一致点
「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した光拡散シートであって、
前記光拡散シートにおいて、前記単位レンズは前記台形の下底を入光部、上底を出光部、斜辺を全反射部として形成され、
前記光拡散シートにおいて、単位レンズは高屈折率物質で形成され、隣接する前記単位レンズに挟まれた断面形状三角形の部分は前記高屈折率物質の屈折率より低い屈折率を有する低屈折率物質で形成されている光拡散シート。」

(イ)相違点
相違点1:本願補正発明は、「二次元視野角拡大部材」であり、「断面形状略台形の複数の単位レンズを一次元方向に形成した2枚の光拡散シートが前記単位レンズの前記一次元方向が略90°ずらせて重ねられ」ているのに対し、引用発明は、「光拡散シート」であり、そのような特定がなされていない点。

相違点2:本願補正発明では、低屈折率物質にはアクリル樹脂により被覆された光吸収粒子が添加されているとともに、前記光吸収粒子の前記低屈折率物質中への添加量は10質量%?60質量%であり、前記光吸収粒子の平均粒径は、断面形状台形の上底を形成する単位レンズ出光部の長さの1/30?2/3であるのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点。

(4)相違点の判断
ア 上記相違点1について判断する。
(ア)刊行物1の【0041】(上記(2)ア(ウ))における「前記光拡散シート10は、図2に示されるように、前記溝18が形成される方向に対して直角方向に指向性がある光拡散特性を有する。従って、前記溝18が鉛直方向となるように、この光拡散シート10をディスプレイに設置すると、入射光(映像光)が主として水平方向に拡散されるため、観察者にとって大変見やすいディスプレイとなる。」との記載から、引用発明は1次元方向の光拡散特性を有し、一次元視野角拡大部材として機能するものと認められる。

(イ)刊行物1の【0046】ないし【0049】(上記(2)ア(エ))には、「光拡散シートの入射面に、観察面に形成された断面略V字状の複数の溝方向と垂直となる断面不等辺三角形状の複数の柱状プリズムを並列形成する」ことが、【0055】ないし【0058】(上記(2)ア(カ))には、「観察面に断面略V字状の複数の溝を1次元方向に並列に形成した光拡散層の入射面側に、光拡散性微粒子44を含有させた第2光拡散層46を積層して光拡散シートを形成する」ことが、【0060】ないし【0065】(上記(2)ア(キ))には、「2次元方向の拡散特性を有する出射光を得るために、同様な2枚の第1及び第2光拡散シートを最観察者側から順に配置し、前記第1及び第2光拡散シートを、互いに溝の方向が垂直となるように90度ずらして配置する」こと(以下「刊行物1の記載事項」という。)が記載されており、また、刊行物1の【0073】(上記(2)ア(ク))には、「各具体例に示された光拡散シートの特徴を組合わせたり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で単に設計変更を加えたりしたものは本発明に包含されるものである」と記載されていることから、引用発明の「光拡散シート」においては、光拡散特性を変化させるために、例示された様々な構成を適宜組み合わせることが可能である。

(ウ)そして、視野角拡大部材において、視野角を拡大可能な方向は多い方が望ましいことは、当業者にとって自明であるので、引用発明において、2次元方向の拡散特性を有する出射光を得るために、刊行物1の記載事項に基づいて、同様な2枚の光拡散シートを、互いに溝の方向が垂直となるように90度ずらして配置して、二次元視野角拡大部材を構成することにより本願補正発明の相違点1にかかる構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 上記相違点2について判断する。
(ア)引用発明においては、光拡散層の観察面に形成された断面略V字状の複数の溝に、前記光拡散層より低い屈折率となる黒色の液体又は固体である物質が充填されているので、断面略V字状の溝を構成する両壁は全反射部として機能し、前記溝に充填された物質は外光吸収層として機能するものと認められる。

(イ)上記(2)イ(ウ)のとおり、刊行物2には、
「レンチキュラーレンズの谷部に、スクリーン基材より低屈折率物質を接着剤として微細な球状体などの充填物を入れることにより、乾燥時における谷上部の膜厚のやせのない外光吸収層を形成するにあたり、外光を吸収するために、低屈折率物質が着色されてなく球状体が着色されており、全反射面の全反射の機能を実質的に損ねないようにするために、着色された微細な球状体の使用量あるいは粒径等を調節する」という刊行物2の記載事項が記載されている。

(ウ)レンチキュラーレンズの谷部に、光吸収粒子を含有する塗料ベースを充填して外光吸収層を形成する際に、光吸収粒子の添加量を10質量%?60質量%の範囲内の量とすることや、光吸収粒子の粒径が小さすぎるとレンズ表面に光吸収粒子が残留してしまい、粒径が大きすぎると谷部に光吸収粒子を充填できない部分が生じ、谷部から光吸収粒子がはみ出してしまうことは、特開昭62-286030号公報の3頁右上欄15行?4頁右上欄10行に記載されているように、本願出願前に知られている。
なお、本願の出願当初明細書においては、光吸収粒子の低屈折率物質中への添加量を50質量%とし、断面形状台形の上底を形成する単位レンズ出光部の長さに対する光吸収粒子の平均粒径を8/25とした実施例しか記載されておらず、本願補正発明における「10質量%?60質量%」という、光吸収粒子の低屈折率物質中への添加量の範囲や、「1/30?2/3」という、断面形状台形の上底を形成する単位レンズ出光部の長さに対する光吸収粒子の平均粒径の範囲に臨界的意義を示す具体的な根拠はない。

(エ)さらに、「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」、すなわち、「顔料で着色されたアクリル樹脂微粒子」は、本願の出願当初明細書において、光吸収粒子として市販品である大日精化(株)製「ラブコロール」(登録商標)を使用していることや、特開平10-132748号公報の【0063】(テクポリマーMBX-5/Black(積水化成品工業(株)製)は、架橋ポリメタクリル酸メチルに50w/v%の割合でカーボンブラックを含有した平均粒子径5μmの真球状のポリマービーズである。)、特開平10-268105号公報の【0016】、【0025】(特開平10-132748号公報の【0063】における上記記載を参照すると、「重量平均粒径20μmのアクリル樹脂粒子(積水化成工業社製、商品名テクポリマーMBX-20B)」は、架橋ポリメタクリル酸メチルにカーボンブラックを含有したポリマービーズであると認められる。)の記載からも分かるように、本願出願前に周知(以下「周知事項」という。)である。

(オ)してみると、引用発明において、断面略V字状の溝を構成する両壁の全反射部としての機能を損ねず、膜厚のやせののない外光吸収層を形成するために、刊行物2の記載事項に基づいて、光拡散層の観察面に形成された断面略V字状の複数の溝に、使用量や粒径等を調節した着色された球状体及び低屈折率物質を充填して外光吸収層を形成するに当たり、光吸収粒子(着色された球状体)としてアクリル樹脂により被覆された光吸収粒子を用いることや、光吸収粒子の低屈折率物質中への添加量を10質量%?60質量%、光吸収粒子の平均粒径を、断面形状台形の上底を形成する単位レンズ出光部の長さの1/30?2/3とすることにより本願補正発明の相違点2にかかる構成とすることは、技術の具体的適用に伴う上記周知事項を考慮した上での設計上の事項である。

ウ また、本願補正発明の効果は、引用発明、刊行物1及び刊行物2の記載事項及び上記周知事項からみて予測し得る程度のものである。

エ なお、本願補正発明の「高屈折率物質」について、本願の出願当初明細書の【0055】、【0059】には、高屈折率部が通常、電離放射線硬化性エポキシアクリレートなどの材料にて構成されている旨が、【0091】?【0093】には、単位レンズを構成する高屈折率部(台形部分)の材料としてエポキシアクリレートを使用し、高屈折率部の屈折率が1.57であった旨が記載されているが、仮に本願補正発明の「高屈折率物質」が、「屈折率が1.57以上のエポキシアクリレート」を意味していたとしても、屈折率が1.57以上のエポキシアクリレートを光学部材を形成するために用いることは、特表平11-500071号公報の9頁16行?10頁14行に記載されているように本願出願前に知られており、光拡散層を構成する物質の屈折率と、断面略V字状の溝に充填される物質の屈折率の差が大きい程、前記溝を構成する両壁において全反射が生じやすくなることは、当業者にとって自明であるので、引用発明において、光拡散層を構成する物質として、屈折率が1.57以上のエポキシアクリレートを用いることは、当業者が容易になし得たことである。

(5)まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、刊行物1及び刊行物2の記載事項及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の却下の決定の結論
したがって、本件補正は、改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 上記「第2」での本件補正についての補正の却下の決定の検討のとおり、平成26年 8月 6日に提出された手続補正書による本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、本件補正前の請求項1ないし12に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2の1(1)に記載のとおりのものである。

2 刊行物の記載事項
刊行物1及び刊行物2の記載事項については、上記第2の4(2)のとおりである。

3 対比・判断
上記第2の1で検討したように、本願補正発明は、本願発明の発明特定事項である「光吸収粒子」を「アクリル樹脂により被覆された光吸収粒子」に限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、上記第2の4において検討したとおり、引用発明、刊行物1及び刊行物2の記載事項及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-09-18 
結審通知日 2015-09-24 
審決日 2015-10-06 
出願番号 特願2012-97996(P2012-97996)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (G02B)
P 1 8・ 575- WZ (G02B)
P 1 8・ 121- WZ (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大隈 俊哉後藤 亮治  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 本田 博幸
鉄 豊郎
発明の名称 二次元視野角拡大部材および表示装置  
代理人 山本 典輝  

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