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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1307837
審判番号 不服2014-4458  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-07 
確定日 2015-11-20 
事件の表示 特願2010-534036「薬物送達のプラットホームとしての粘稠なターポリマー」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月22日国際公開、WO2009/064442、平成23年1月27日国内公表、特表2011-503183〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、平成20年11月12日(パリ条約による優先権主張 2007年11月13日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年10月20日に手続補正書が提出され、平成25年6月7日付けで拒絶理由が通知され、同年9月10日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月6日付けで拒絶査定され、平成26年3月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年5月8日付けで前置審査の結果が報告され、同年8月29日付けで審尋されたが、回答書が提出されなかったものである。

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月7日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成26年3月7日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号の場合の補正であって、特許請求の範囲の請求項1について、本件補正前の
「ターポリマー組成物の粘度に影響を与えるための、ターポリマーの開始剤を含む剤であって、前記ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含み、前記ターポリマーが、前記開始剤の残基である末端基を含み、前記開始剤が、非結晶性の第一級または第二級アルコールである、剤。」
を、
「ターポリマー組成物の粘度に影響を与えるための、ターポリマーの開始剤を含む剤であって、前記ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含み、前記ターポリマーが、前記開始剤の残基である末端基を含み、前記開始剤が、非結晶性の第一級または第二級アルコールであり、前記ターポリマーが、25,000ダルトン未満のMwを有する、剤。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

2.補正の目的
補正事項1は、「前記ターポリマーが、25,000ダルトン未満のMwを有する、」を発明特定事項として追加することを含むものであるが、これは、本件補正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「ターポリマー」について、その重量平均分子量を「25,000ダルトン未満」のものに限定するものであって、本件補正前の請求項1に係る発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる事項である「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

3.独立特許要件
本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。

(1)本件補正後の請求項係る発明
本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。
「ターポリマー組成物の粘度に影響を与えるための、ターポリマーの開始剤を含む剤であって、前記ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含み、前記ターポリマーが、前記開始剤の残基である末端基を含み、前記開始剤が、非結晶性の第一級または第二級アルコールであり、前記ターポリマーが、25,000ダルトン未満のMwを有する、剤。」

(2)引用刊行物及びその記載事項
本願の出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることが明らかな刊行物A(原査定の引用文献1)には、次の事項が記載されている。
刊行物A:米国特許出願公開第2007/0184084号明細書
なお、刊行物Aは英語で記載されているところ、下記摘示はその訳である。

ア.「要約
患者に有益な薬剤を全身又は局所投与するための方法及び組成物が記述され、例えば、所望の場所に注入され、長期の期間にわたる有益な薬剤の制御放出を提供しうる、移植可能なエラストマー性デポ組成物を含む。該組成物は、生体適合性でエラストマー性のカプロラクトンコポリマー、低水混和性の生体適合性溶媒(これは該ポリマーとともにエラストマー性の粘性ゲルを形成し、及び該移植物による水吸収を制限する)及び有益な薬剤を含む。」(フロントページ)

イ.「発明の分野
[0002] 本発明は、所望の場所に注入され、特定の/所望の期間にわたる有益な薬剤の制御放出を提供しうる、移植可能なエラストマー性デポ組成物に関する。本発明は、該組成物を調製し、投与する方法にも関する。」

ウ.「A.生分解性、生体適合性、エラストマー性ポリマー
[0096] 本発明の方法と組成物において有用なポリマーは生分解性(すなわち、それらは、患者体内の水性液体中で、徐々に分解する(例.酵素的)か、又は、加水分解するか、溶解するか、物理的に浸食するか、さもなければ崩壊する。)である。主な生分解プロセスは典型的には加水分解又は酵素的分解であるが、通常、該ポリマーは加水分解又は物理的浸食の結果として生体内で分解する。さらに、本発明で有用なポリマーは、ゲルに調製される場合、エラストマー性であり、望ましい程度の弾力性を示し、その上、ゲルの完全性を保持し、有益な薬剤の望ましい放出プロファイルを提供する。
[0097] そのようなポリマーには、それに限定するものではないが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリカプロラクトン、……並びにコポリマー、ターポリマー及びそれらの混合物が含まれる。……
[0098] 本発明の移植可能なエラストマー性デポ組成物からの有益な薬剤の放出速度及び/又は放出期間は、ポリマーの特性(例.ポリマーの種類、ポリマーの分子量(ポリマーのモード分布を含む)及びポリマーを形成しているモノマーのコモノマー比率);ポリマーの末端基;溶媒の種類;及びポリマー/溶媒比を変えることによって、変化させることができ、投与後1週間かそれ以上、1年間までの期間にわたり、好ましくは投与後1か月以上の期間にわたり有益な薬剤の制御された持続放出を提供することがわかっている。該放出速度プロファイル及び期間は、ポリマー(モノマー比(例.L/G/CL又はG/CL比)を含む)、ポリマーの分子量(LMW、MMW、HMW)、ポリマーの末端基(酸、エステル)、水不混和性溶媒、ポリマー/溶媒比、乳化剤、孔形成剤、有益な薬剤の溶解調整剤、浸透圧調整剤などの適切な選択によって制御されうる。
[0099] もう一つの側面において、本発明は、移植可能なエラストマー性デポ組成物からの有益な薬剤の放出を調整する方法を提供する。有益な薬剤の放出の期間と速度(例えば、バーストインデックス及び放出速度プロファイル)は、生分解性ポリマー、ポリマーの分子量、ポリマーを形成する種々のモノマーのコモノマー比(例.グリコール酸ベースのポリマー又はカプロラクトンベースのポリマーのL/G/CL又はG/CL比)及びポリマー/溶媒比の適切な選択により制御される。前述のとおり、主にポリ乳酸構成要素を有する注入可能なデポ処方は生体吸収性ではない。下記例で説明するように、本発明のエラストマー性デポ組成物、好ましくはグリコール酸又はカプロラクトンが主要な構成要素である組成物は、有益な薬剤の放出プロファイルに妥協することのない望ましいエラストマー性を有している。
[0100] 1つの側面において、有益な薬剤の放出期間及び速度(例.放出速度プロファイル及びバーストインデックス)は、生分解性ポリマーの適切な選択により制御される。
……
[0111] 好ましくは、該ポリマーは、乳酸、グリコール酸、カプロラクトン、p-ジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(TMC)、コポリマー、ターポリマー、並びにそれらの組み合わせ及び混合物であって、ここで、グリコール酸が主要ポリマーである。現に好ましいポリマーの種類は、ポリグリコリド、すなわちグリコール酸ベースのポリマー(グリコール酸単独又は乳酸、グリコール酸、カプロラクトン(CL)、トリメチレンカーボネート(TMC)及び/又はp-ジオキサノン(PDO)をベースとするコポリマー若しくはターポリマーであって、ここで、グリコール酸は主要構成要素である。)であり、実質的に有利な結果をもたらさない少量の他のコモノマーを含んでもよい。ある好ましい態様において、該ポリマーは、例えば、L/G/CLのターポリマー(ここでグリコリドが主要構成要素である)、G/CLなどのグリコール酸ベースのポリマーである。……
[0112] 別のタイプの好ましいポリマーは、カプロラクトンコポリマーを含めたカプロラクトンポリマーである。カプロラクトンコポリマーはカプロラクトンと1以上の他のモノマー、好ましくはグリコール酸、乳酸又はその両方との重合生成物である。……
[0113] カプロラクトンポリマーは、好ましくは、ポリ(カプロラクトン-コ-乳酸)(PCL-co-LA)ポリマー、ポリ(カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-ラクチド)PCL-GA-LAポリマーなどのような、カプロラクトンと乳酸を含むコポリマーである。……。乳酸とグリコール酸を含むある態様において、カプロラクトン、グリコール酸及び乳酸ベースのポリマーは約0?90%のカプロラクトン、約0?90%の乳酸及び約0?60%のグリコール酸を含む。好ましくは、約10?60%のカプロラクトン、約25?75%のグリコール酸及び約1?20%の乳酸、さらに好ましくは約30?50%のカプロラクトン、約50?60%のグリコール酸及び約2?10%の乳酸のCL/GA/LA比を持つポリ(カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-ラクチド)ポリマーである。グリコリドとカプロラクトンを有するコポリマー中で、カプロラクトンかグリコリドのいずれかが支配的となり得る。CL/GA/LA構成要素を有するコポリマーにおいて、好ましくは、乳酸構成要素は10%以下、好ましくは10%未満、好ましくは約5%である。他のモノマーもカプロラクトン-乳酸コポリマー中に含みうる。
……
[0115] 前記米国特許第5,242,910号に記載されているように、該ポリマーは米国特許第4,443,340号の教示に従って調製されうる。……」

エ.「[0172] ……
例1
ポリ(ε-カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-L,ラクチド)(PCL-GA-L,LA)40:55:5の合成
低分子量PCL-GA-L,LAの合成
[0173] グローブボックス中、168μL(55μmol)の0.33Mオクタン酸スズのトルエン溶液(……)、5.31グラム(50mmol)のジエチレングリコール(……)、156.7グラム(1.35mol)のグリコリド(……)、117.0グラム(1.025mol)のε-カプロラクトン(……)及び18.0グラム(0.125mol)のL-ラクチド(……)が火炎乾燥された500mL丸底フラスコ(ステンレススチール攪拌機及び窒素ガスブランケットを備えられている)に移された。……。^(1)H NMRによるポリマー組成:42.9%PCL、52.3%PGA、4.4%PLA、<0.2%グリコリド、<0.2%ε-カプロラクトン及び<0.2%L-ラクチド。ゲル浸透クロマトグラム(GPC)は、THF中のポリ(メタクリル酸メチル)標準を用いて、M_(w)=13600、M_(n)=9000、PDI=1.5の分子量を測定した。
中間分子量PC-GA-L,LAの合成
[0174] グローブボックス中、335μL(111μmol)の0.33Mオクタン酸スズのトルエン溶液(……)、5.31グラム(50mmol)のジエチレングリコール(……)、313.4グラム(2.70mol)のグリコリド(……)、234.0グラム(2.05mol)のε-カプロラクトン(……)及び36.1グラム(0.25mol)のL-ラクチド(……)が火炎乾燥された1000mL丸底フラスコ(ステンレススチール攪拌機及び窒素ガスブランケットを備えられている)に移された。……。^(1)H NMRによるポリマー組成:40.2%PCL、53.9%PGA、5.7%PLA、0.2%グリコリド、<0.2%ε-カプロラクトン及び<0.2%L-ラクチド。ゲル浸透クロマトグラム(GPC)は、THF中のポリ(メタクリル酸メチル)標準を用いて、M_(w)=23400、M_(n)=16400、PDI=1.4の分子量を測定した。
……
例2a
ポリ(ε-カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-D,L,ラクチド)(PCL-GA-DL,LA)40:55:5の合成
[0176] グローブボックス中、168μL(55μmol)の0.33Mオクタン酸スズのトルエン溶液(……)、2.65グラム(25mmol)のジエチレングリコール(……)、156.7グラム(1.35mol)のグリコリド(……)、117.0グラム(1.025mol)のε-カプロラクトン(……)及び18.0グラム(0.125mol)のD,L-ラクチド(……)が火炎乾燥された500mL丸底フラスコ(ステンレススチール攪拌機及び窒素ガスブランケットを備えられている)に移された。……。^(1)H NMRによるポリマー組成:41.8%PCL、53.1%PGA、4.7%dl-PLA、#0.2%グリコリド、<0.2%ε-カプロラクトン及び#0.2%DL-ラクチド。ゲル浸透クロマトグラム(GPC)は、THF中のポリ(メタクリル酸メチル)標準を用いて、M_(w)=24000、M_(n)=14500、PDI=1.6の分子量を測定した。
例2b
ポリ(ε-カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-L,ラクチド)(PCL-GA-L,LA)50:40:10の合成
[0177] グローブボックス中、154 82L(51μmol)(審決注:82LはμLの誤記と解される。)の0.33Mオクタン酸スズのトルエン溶液(……)、2.18グラム(21mmol)のジエチレングリコール(……)、106.8グラム(0.92mol)のグリコリド(……)、131.3グラム(1.15mol)のε-カプロラクトン(……)及び33.2グラム(0.23mol)のL-ラクチド(……)が火炎乾燥された500mL丸底フラスコ(ステンレススチール攪拌機及び窒素ガスブランケットを備えられている)に移された。……。^(1)H NMRによるポリマー組成:50.3%PCL、39.8%PGA、9.8%l-PLA、<0.2%グリコリド、<0.2%ε-カプロラクトン及び<0.2%L-ラクチド。ゲル浸透クロマトグラム(GPC)は、THF中のポリ(メタクリル酸メチル)標準を用いて、M_(w)=25000、M_(n)=17000、PDI=1.5の分子量を測定した。」

オ.「1.投与後に前もって決定された期間にわたり、制御された方法での患者への有益な薬剤の持続送達のための移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、次のものからなる:
カプロラクトンコポリマー及び25℃で7重量%以下の水に混和性を有する溶媒(該コポリマーを柔軟にするのに効果的な量であり、それによってゲルを形成する)である、生分解性、生体親和性、エラストマー性ポリマーを含むエラストマー性粘性ゲル処方;及び
ゲル中に溶解又は分散された有益な薬剤であって、前記有益な薬剤は2週間以上の期間にわたり送達される。
2.クレーム1の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該コポリマーは、乳酸、グリコール酸、p-ジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(TMC)、コポリマー、ターポリマー、並びにそれらの組み合わせ及び混合物からなる群から選択されるモノマー構成要素を有するカプロラクトンのコポリマーであり、また、カプロラクトンは該コポリマー中少なくとも10%であり、該コポリマーは約3,000から約120,000までの範囲の分子量を持つ。
3.クレーム1の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該コポリマーは、乳酸構成要素若しくはグリコール酸構成要素又はその両方を含むカプロラクトンのコポリマーである。
4.クレーム2の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該コポリマーは、乳酸及びグリコール酸を有するカプロラクトンのコポリマーであり、グリコール酸が該コポリマー中の主要構成要素である。
5.クレーム2の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該コポリマーは、乳酸及びグリコール酸を有するカプロラクトンのターポリマー、乳酸及びグリコール酸を有するカプロラクトンのコポリマー、並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
……
18.クレーム1の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により決定された、約3000から約10,000までの範囲の重量平均分子量を持つ。
19.クレーム1の該移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、ここで、該ポリマーは、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により決定された、約10,000から約30,000までの範囲の重量平均分子量を持つ。」(26頁クレーム)

(3)刊行物に記載された発明
刊行物Aには、摘示ア?オの記載からみて、特に摘示エ及びオの記載を踏まえると、以下の発明(以下、「刊行物発明」という。)が記載されている。
「投与後に前もって決定された期間にわたり、制御された方法での患者への有益な薬剤の持続送達のための移植可能なエラストマー性デポ組成物であって、次のものからなる:
カプロラクトン、グリコール酸及び乳酸からなるターポリマー並びに25℃で7重量%以下の水に混和性を有する溶媒(該ターポリマーを柔軟にするのに効果的な量であり、それによってゲルを形成する)である、生分解性、生体適合性、エラストマー性ポリマーを含むエラストマー性粘性ゲル処方;及び
ゲル中に溶解又は分散された有益な薬剤であって、前記有益な薬剤は2週間以上の期間にわたり送達され、
ここで、該ターポリマーは約3,000から約120,000までの範囲の分子量を持つ。」

(4)対比
補正発明と刊行物発明とを対比する。
刊行物発明の「移植可能なエラストマー性デポ組成物」は、「カプロラクトン、グリコール酸及び乳酸からなるターポリマー」を含むものであるから、補正発明の「ターポリマー組成物」に相当し、そして、刊行物発明の「移植可能なエラストマー性デポ組成物」は、「有益な薬剤」を含んでおり、「投与後に前もって決定された期間にわたり、制御された方法での患者への有益な薬剤の持続送達のための」ものであるから、補正発明の「剤」にも相当する。
また、刊行物発明の「カプロラクトン、グリコール酸及び乳酸からなるターポリマー」は、補正発明の「「ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマー」に相当する。
そうすると、補正発明と刊行物発明とは、
「ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含む剤」
の点で一致し、次の点で相違するものと言える。

相違点1:
補正発明が、「ターポリマーが、非結晶性の第一級または第二級アルコールである開始剤の残基である末端基を含」むことを特定しているのに対し、刊行物発明はその点について特定していない点。

相違点2:
補正発明が「ターポリマーの開始剤」が「ターポリマー組成物の粘度に影響を与える」ことを特定しているのに対し、刊行物発明はその点について特定していない点。

相違点3:
補正発明が「ターポリマーが、25,000ダルトン未満のMwを有する」と特定しているのに対し、刊行物発明では、「ターポリマーは約3,000から約120,000までの範囲の分子量を持つ」と特定している点。

(5)判断
上記相違点について検討する。
ア.相違点1及び2
ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーは、ヒドロキシカルボン酸系のポリエステルに該当するものであるが、このようなポリマーを合成する際にヒドロキシル化合物を開始剤として使用し、この開始剤の残基がターポリマーの末端基となることは当業者に周知のことである。
例えば、刊行物Aの摘示エの例において、開始剤としてジエチレングリコールを使用している。これは、本願明細書段落0090で定義される「第一級アルコール(R-CH_(2)-OH)」「R……は、飽和……の、直線……のアルキル鎖であってよい。R……は、各々、酸素……を有することができる。」に該当するものであり、同段落0093で例示された「ジエチレンジオール」に相当するものである。そして、ジエチレングリコールは常温で液体であるから非結晶性であるといえる(本願明細書段落0091参照)。
また、刊行物Aにおいて、ポリマーの調製方法のために摘示ウの[0115]で引用されている「米国特許第4,443,340号」(なお、同段落で引用されている米国特許第5,242,910号の記載からみて、該文献は、米国特許第4,443,430号の誤記である。)には、開始剤として「ラウリルアルコール」すなわち1-ドデカノールが記載され、実際に使用されている。この1-ドデカノールは、本願明細書の実施例で使用されるものである。
そうすると、「ターポリマーが、非結晶性の第一級または第二級アルコールである開始剤の残基である末端基を含」むことは刊行物Aに記載されているか、記載されているに等しいものといえる。
そうすると、相違点1に関して両者は実質的に相違しない。

ところで、相違点2は、「ターポリマーの開始剤」が「ターポリマー組成物の粘度に影響を与える」というものであるが、補正発明の実施においては、結局のところ、特定の開始剤を使用して合成したターポリマーが、特定の粘度を有するものとなり、開始剤変更による粘度への影響はあるターポリマーを特定するためには役立っていないものである。
そうすると、開始剤を変えることが合成されたターポリマーの粘度に影響を与えることを見いだしたとしても、「ターポリマー組成物」又は「剤」という物の発明の特定においては、「ターポリマー組成物の粘度に影響を与えるための、ターポリマーの開始剤を含む」との発明特定事項は、格別の意味を持たないものである。

イ.相違点3
刊行物発明では、「ターポリマーは約3,000から約120,000までの範囲の分子量を持つ」と特定しているが、摘示エの例では、実際に重量平均分子量(Mw)が13,600?25,000のポリ(カプロラクトン-コ-グリコリド-コ-ラクチド)を合成しており、この分子量範囲は補正発明で特定する範囲内のものである。
そうすると、相違点3に関して両者は実質的に相違しない。

(6)まとめ
そうすると、補正発明は、刊行物発明と相違する点が実質的に存在せず、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
上記第2で結論したとおり平成26年3月7日付け手続補正書による補正は却下されたので、本願に係る発明は平成25年9月10日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?36にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「ターポリマー組成物の粘度に影響を与えるための、ターポリマーの開始剤を含む剤であって、前記ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含み、前記ターポリマーが、前記開始剤の残基である末端基を含み、前記開始剤が、非結晶性の第一級または第二級アルコールである、剤。」

第4 当審の判断
1.引用文献及びその記載事項
原査定において引用され、本願出願(優先日)前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物であることが明らかな下記引用文献1は、上記第2の3(2)における刊行物Aと同じ文献であり、したがって、該引用文献には同箇所に摘示したア?オの事項が記載されている。
引用文献1:米国特許出願公開第2007/0184084号明細書

2.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、上記第2の3(3)において認定した刊行物発明が記載されている。

3.対比・判断
本願発明と刊行物発明とを対比すると、上記第2の3(4)に示した点を踏まえると、両者は、
「ターポリマー組成物は、ラクチド、グリコリド、およびカプロラクトン残基のターポリマーを含む剤」
の点で一致し、次の点で相違するものと言える。

相違点1':
本願発明が、「ターポリマーが、非結晶性の第一級または第二級アルコールである開始剤の残基である末端基を含」むことを特定しているのに対し、刊行物発明はその点について特定していない点。

相違点2':
本願発明が「ターポリマーの開始剤」が「ターポリマー組成物の粘度に影響を与える」ことを特定しているのに対し、刊行物発明はその点について特定していない点。

この相違点1'及び2'は、それぞれ上記第2の3(4)の相違点1及び2と同じものであるところ、その相違点1'及び2'については、同3(5)アで判断したとおりである。

4.まとめ
そうすると、本願発明は、刊行物発明と相違する点が実質的に存在せず、したがって引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-26 
結審通知日 2015-06-29 
審決日 2015-07-10 
出願番号 特願2010-534036(P2010-534036)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 齊藤 光子
小川 慶子
発明の名称 薬物送達のプラットホームとしての粘稠なターポリマー  
代理人 山本 健策  
代理人 飯田 貴敏  
代理人 石川 大輔  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
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