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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1307854
審判番号 不服2014-16243  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-08-15 
確定日 2015-11-18 
事件の表示 特願2008-528991「絡み合った蛍光ポリマーおよび両親媒性分子を含んだ水溶性蛍光粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日国際公開、WO2007/027159、平成21年 2月12日国内公表、特表2009-506188〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、特許法第184条の3第1項の規定により、2006年8月30日(パリ条約による優先権主張:2005年8月30日、米国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成20年 2月28日 国内書面(願書)提出
平成20年 4月25日 翻訳文(明細書等)提出
平成20年 9月 8日 出願審査請求
平成23年12月 6日付け 拒絶理由通知
平成24年 6月13日 意見書・手続補正書
平成25年 2月21日付け 拒絶理由通知
平成25年 8月21日 意見書
平成26年 4月11日付け 拒絶査定
平成26年 8月15日 本件審判請求

第2 原審の拒絶査定の概要
原審において、平成25年2月21日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由

(理由1)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項1-39
・引用文献等1
・備考
引用文献1(特に請求項1-7、【0013】-【0032】、実施例)には疎水性樹脂に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光微粒子が、乳化分散剤水溶液中に分散してなる被覆型蛍光微粒子とその水分散液が記載され、該分散液は、疎水性樹脂中に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光性樹脂組成物またはその有機溶剤溶液を乳化分散剤水溶液中に分散させて蛍光微粒子を形成する工程を含み、有機溶剤を使用した場合は、さらに乳化分散状態を保ちながら有機溶剤を除去する工程を経て製造されること、該被覆型蛍光微粒子はインクジェット等の水性インキや水性塗料等に使用できること、該蛍光染料や蛍光顔料は特に限定されず、種々のものを使用できること、該疎水性樹脂、有機溶剤、乳化分散剤としてそれぞれ種々のものを使用できること、得られる被覆型蛍光微粒子の体積平均粒径は0.1乃至20μmが好ましいこと、被覆型蛍光微粒子を製造した例も記載されている。
引用文献1には蛍光微粒子の被覆層が被覆型蛍光微粒子の粒子半径の5-95%の厚さを有していることは明示的に記載されていないが、実施例において用いられている蛍光微粒子、乳化分散剤の量及び被覆型蛍光微粒子の粒径からみて、引用文献1記載の蛍光微粒子の被覆層の被覆型蛍光微粒子の粒子半径に対する割合は、本願発明と同程度であると認められる。
もし仮にこの点で相違していたとしても、蛍光微粒子の分散安定性を考慮して、乳化分散剤の使用量を調節し、被覆層の被覆型蛍光微粒子の粒子半径に対する割合を本願発明と同程度とすることは、当業者が容易に想到しうることである。
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2004-189900号公報
・・(後略)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成25年 2月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由1,2によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考
<理由1,2について>
平成25年 2月21日付け拒絶理由通知書に記載した引用文献1(特開2004-189900号公報:特に請求項1-7、【0013】-【0032】、実施例)には疎水性樹脂に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光微粒子が、乳化分散剤水溶液中に分散してなる被覆型蛍光微粒子とその水分散液が記載され、該分散液は、疎水性樹脂中に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光性樹脂組成物またはその有機溶剤溶液を乳化分散剤水溶液中に分散させて蛍光微粒子を形成する工程を含み、有機溶剤を使用した場合は、さらに乳化分散状態を保ちながら有機溶剤を除去する工程を経て製造されること、該被覆型蛍光微粒子はインクジェット等の水性インキや水性塗料等に使用できること、該蛍光染料や蛍光顔料は特に限定されず、種々のものを使用できること、該疎水性樹脂、有機溶剤、乳化分散剤としてそれぞれ種々のものを使用できること、得られる被覆型蛍光微粒子の体積平均粒径は0.1乃至20μmが好ましいこと、被覆型蛍光微粒子を製造した例も記載されている。
引用文献1には蛍光微粒子の被覆層が被覆型蛍光微粒子の粒子半径の5-95%の厚さを有していることは明示的に記載されていないが、実施例において用いられている蛍光微粒子、乳化分散剤の量及び被覆型蛍光微粒子の粒径からみて、引用文献1記載の蛍光微粒子の被覆層の被覆型蛍光微粒子の粒子半径に対する割合は、本願発明と同程度であると認められる。
もし仮にこの点で相違していたとしても、蛍光微粒子の分散安定性を考慮して、乳化分散剤の使用量を調節し、被覆層の被覆型蛍光微粒子の粒子半径に対する割合を本願発明と同程度とすることは、当業者が容易に想到しうることである。
・・(中略)・・
したがって、請求項1-39に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、又は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・・(後略)」

第3 当審の判断
当審は、平成24年6月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて、原査定の拒絶理由と同一の理由が成立するか否かにつき、以下検討する。

I.本願特許請求の範囲に記載された事項
本願の特許請求の範囲には、その請求項1ないし39に項分け記載されて、水溶性蛍光粒子、その蛍光粒子を含む蛍光プローブ又は溶液、その蛍光粒子を調製する方法及びプローブとしての蛍光粒子の使用方法に関する種々の事項が記載されている。
そのうち、請求項1には、以下の事項が記載されている。
「蛍光分子と、前記蛍光分子に付着された疎水性セグメントを含む蛍光ポリマーと、
親水性セグメントおよび疎水性セグメントを含む両親媒性分子と
を含む水溶性蛍光粒子であって、前記両親媒性分子の親水性セグメントは互いに絡み合い、前記蛍光ポリマーおよび前記両親媒性分子の前記疎水性セグメントは互いに絡み合い、
絡み合ったセグメントは、前記蛍光分子を包むシェルを形成し、前記絡み合ったセグメントで形成されたシェルは、水溶性蛍光粒子の粒子半径の5?95%の厚さを有し、前記親水性セグメントの少なくともいくらかは露出して前記粒子を水に可溶化させる水溶性蛍光粒子。」
(以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

II.引用文献に記載された事項
上記原査定で引用された引用文献1(特開2004-189900号公報、以下「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め形成された疎水性樹脂に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光微粒子が、乳化分散剤水溶液中に分散してなることを特徴とする被覆型蛍光微粒子水分散液。
・・(中略)・・
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の被覆型蛍光微粒子水分散液から分離されてなる被覆型蛍光微粒子。
【請求項6】
予め形成された疎水性樹脂中に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散した蛍光性樹脂組成物またはその有機溶剤溶液を、乳化分散剤水溶液中に分散させて蛍光微粒子を形成する工程を含み、有機溶剤を使用した場合は、さらに、乳化分散状態を保ちながら前記有機溶剤を除去する工程を少なくとも含むことを特徴とする被覆型蛍光微粒子水分散液の製造方法。
・・(後略)」

(b)
「【0002】
【従来の技術】
従来、溶剤または樹脂に対して不溶な「蛍光顔料」としては、熱可塑性または熱硬化性樹脂の微粒子を溶剤または樹脂に可溶な蛍光染料で染め付けた(染着した)ものが広く用いられている。
一方、顔料に相当する結晶粒子そのものが蛍光を発するものの例は少ないが、顔料のごとく結晶性の微粒子でありながら、強い蛍光を発する一連のアゾ系化合物も知られている(特許文献1)。これらのアゾ系化合物は、高い耐光性を発揮する優れたものであるが、色相が赤色、橙色、黄色等の暖色に限られること、水性着色剤とするためには界面活性剤等の添加剤を用いて分散させる必要があること、水性分散液の流動性や貯蔵安定性を増すためには結晶粒子の形態を整える必要があること等の課題がある。
【0003】
蛍光染料によって樹脂微粒子を着色したもので、熱可塑性樹脂を主体とするものとしては、例えば次のようなものが知られている。
・・(中略)・・
【0005】
蛍光染料によって樹脂微粒子を着色したもので、熱硬化性樹脂を主体とするものとしては、例えば、アミノ樹脂の初期反応物(予備縮合物)に蛍光性化合物を添加し、これをポリビニルアルコール等の保護コロイド剤を含む水溶液に攪拌下に投入して、アミノ樹脂の懸濁液を得、次いでこれに鉱酸や有機酸等の硬化触媒を加えて重縮合硬化を行い、得られた硬化樹脂を濾別し、加熱乾燥してから解砕したもの(特許文献7)等がある。
【0006】
以上のような蛍光染料によって樹脂微粒子を染め付けたタイプの蛍光顔料には、鮮やかな発色と優れた親水性を発揮するものがある反面、高い耐光性を付与するには染料の種類と樹脂の組み合わせに制約があり、蛍光染料の選択範囲が限定されるという問題、使用可能な蛍光染料として樹脂粒子形成用モノマー乃至オリゴマーに溶解するものを用いなければならないという問題、また、蛍光顔料として紙の表面に固定された後、軟質塩化ビニル樹脂シート等と接触させた場合に蛍光色素が該シートに移行(マイグレート)する恐れがあるという問題がある。」

(c)
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、耐光性に優れ、軟質塩化ビニル樹脂シート等への耐移行性を有し、分散安定性および貯蔵安定性に優れた被覆型蛍光微粒子、その水分散液およびその製造方法を提供することである。」

(d)
「【0011】
【発明の実施の形態】
次に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の被覆型蛍光微粒子水分散液は、予め形成された疎水性樹脂に、蛍光染料を溶解もしくは蛍光顔料を分散させた蛍光性樹脂組成物またはその有機溶剤の溶液(以下、総称して蛍光性組成物と称する。)を、乳化分散剤の水溶液に乳化分散させ、その後に有機溶剤を使用した場合には有機溶剤を除去することで得られる、蛍光微粒子の水分散液である。
【0012】
本発明の水分散液中の蛍光微粒子は、従来の蛍光染料とモノマーとの混合物を懸濁重合して得られるものとは樹脂粒子中の蛍光染料等の存在形態は同じであるが、この懸濁重合による方法では使用するモノマーの種類が限られる。しかし、本発明では疎水性樹脂にはこのような制限はなく、有機溶剤に可溶な疎水性樹脂がいずれも使用できる利点がある。なお、本発明において被覆型とは、疎水性樹脂粒子中に蛍光染料または顔料が溶解または分散している蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆されていることを意味する。」

(e)
「【0013】
以下に本発明の被覆型蛍光微粒子水分散液の製造材料および製造方法について説明する。
〔1〕製造材料
本発明に用いられる蛍光染料は、特に限定されないが、以下に列挙するような色素を好適に使用することができる。
・・(中略)・・
【0016】
本発明に用いられる蛍光顔料は、特に限定されないが、例えば、特許文献1(特開2000-26745号公報)に記載の黄色、橙色、赤色のアゾ顔料等を挙げることができる。これらのアゾ顔料は、平均粒径0.05乃至1μmに微分散して用いることが好ましい。
【0017】
本発明に用いられる疎水性樹脂としては、後述の有機溶剤に可溶であるもの、あるいは、50乃至100℃において溶融し、溶融状態で水中に乳化分散可能であるものを好適に使用することができる。具体的には、例えば、・・(中略)・・を好適に使用することができる。
【0019】
また、本発明に用いられる有機溶剤としては、沸点または水との共沸温度が100℃未満であって、水と微溶するものも用いることができるが、水と相溶性がないものが好ましい。具体的には、エステル類(例えば、酢酸メチルや酢酸ブチル等)、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン等)、炭化水素類(例えばベンゼン等)、および炭化水素の塩素置換体(例えば、塩化メチレンやクロロホルム等)から使用する疎水性樹脂に応じて好適に選択して用いることができる。」

(f)
「【0020】
〔2〕製造方法
(1)蛍光性組成物の調製
蛍光性組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、蛍光染料または蛍光顔料と有機溶剤を攪拌機付き容器に入れ、攪拌しながら溶解または分散させ、そこに、疎水性樹脂を投入し、溶解または分散して蛍光性組成物を得ることができる。ここで、疎水性樹脂が50乃至100℃において溶融し、充分な流動性を有する場合は、必ずしも有機溶剤を用いる必要はない。有機溶剤の使用量は、疎水性樹脂100重量部に対し、5乃至200重量部が好ましく、さらに好ましくは20乃至100重量部である。5重量部未満では、蛍光性組成物の粘度が高く、水相中に乳化分散させる時に微粒子化できなくなり、200重量部を超える場合には、体積基準の粒径の粒度分布がブロードになる。
【0021】
蛍光染料の使用量は、疎水性樹脂に対し、0.1乃至10重量%が好ましい。0.1重量%未満では蛍光微粒子の蛍光強度が低く、また、10重量%を超える場合には、溶剤除去後の疎水性樹脂への蛍光染料の溶解性が低下して大きな結晶として析出するおそれや、いわゆる濃度消光の現象によって蛍光強度が低くなるおそれがある。
【0022】
また、蛍光顔料の使用量は、疎水性樹脂に対し、0.1乃至50重量%が好ましく、0.1重量%未満では、蛍光微粒子の蛍光強度が低く、また、50重量%を超える場合には、蛍光微粒子の凝集が強くなり、蛍光性組成物を水中に乳化分散させることが困難になる。
【0023】
(2)蛍光性組成物の乳化分散剤水溶液中への乳化分散
上記の蛍光性組成物を乳化分散剤水溶液中へ乳化分散させるために、乳化分散剤を適度な濃度にした乳化分散剤水溶液を用意する。
本発明で用いられる乳化分散剤としては、水溶性高分子化合物、特に無水マレイン酸共重合体が好ましい。無水マレイン酸の共重合成分は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ブテン、ジイソブチレン等の直鎖状または側鎖を有するオレフィン炭化水素であり、主にα-オレフィンが用いられる。その他スチレン、メチルビニルエーテルとのコポリマー等が用いられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、公知の方法によりアルカリ等による中和物およびアルコール類によるエステル化物として使用することもできる。
【0024】
使用する乳化分散剤の濃度としては、0.5乃至20重量%が好ましく、さらに好ましくは2乃至10重量%である。0.5重量%未満では、乳化粒子の分散安定性が充分でなく、また、20重量%を超えると、乳化分散剤水溶液の粘度が高くなり、目的の粒径が得られ難くなる。
【0025】
蛍光性組成物を乳化分散剤水溶液中へ乳化分散させる方法は、蛍光性組成物を均一に分散できる限り特に制限されず、ホモミキサー、ホモジナイザー等の公知の攪拌装置を用いて、乳化分散剤水溶液中に蛍光性組成物を分散させて水中油型の乳化分散液を調製する。なお、有機溶剤を使用する場合、乳化温度は有機溶剤の沸点より低く設定することが好ましく、有機溶剤が揮発性の高いものであれば、蛍光性組成物ならびにそれらの乳化分散液を調製するまで、適正な温度に調整して操作しなければならない。
【0026】
蛍光性組成物を乳化分散させる際のこれらと乳化分散剤水溶液の使用割合は、蛍光性組成物100重量部に対して、乳化分散剤水溶液は100乃至400重量部の割合が好ましい。100重量部未満では、これらが乳化分散し難くなり、また400重量部を超える場合には、固形分量が低くなるため、生産性が悪くなる。
【0027】
(3)乳化分散液からの有機溶剤の除去
上記で得られた乳化分散液から溶剤を除去する方法は、重合体溶液から転相法により重合体ラテックスを製造する際等の溶剤除去方法が使用でき、特に限定されない。例えば、攪拌機の付いた密閉式軸シール機構の容器に上記で得た乳化分散液を入れ、系内全体が流動する程度に攪拌する。使用する有機溶剤により異なるが、選択された有機溶剤に適した温度と真空状態をコントロールしながら溶剤を除去することで、疎水性樹脂に蛍光染料が溶解、または蛍光顔料が分散した蛍光微粒子が乳化分散剤水溶液に分散した、被覆型蛍光微粒子水分散液が得られる。なお、上述のように疎水性樹脂が充分な流動性を有し、有機溶剤を使用しない場合は、本工程を行う必要はない。
【0028】
このようにして得られる本発明の被覆型蛍光微粒子水分散液中の被覆型蛍光微粒子(蛍光微粒子の表面が乳化分散剤で被覆された親水性の微粒子)は、実質的に球形であり、体積平均粒径は0.1乃至20μmの範囲が好ましい。また、体積基準の粒径の粒度分布において、大粒子径側から積算した50体積%径に対する25体積%径の比が1.25以下および50体積%径に対する75体積%径の比が0.75以上、かつ体積基準の粒径の標準偏差が体積平均粒径値の1乃至30%の範囲内にあることが好ましい。
このようにして得られた被覆型蛍光微粒子水分散液では、乳化分散剤として用いた水溶性高分子化合物が蛍光微粒子の表面において親水性のスキン層膜となり得る。
・・(中略)・・
【0032】
以上の方法で得られた被覆型蛍光微粒子水分散液から、被覆型蛍光微粒子(蛍光微粒子の表面が乳化分散剤で被覆された親水性の微粒子)を分離することも可能である。分離する方法は、特に限定されないが、例えば、フラッシュドライヤー等の通常の粉体物の製造に使用される乾燥手段が使用可能である。分離された被覆型蛍光微粒子は、親水性であるため再び水に分散して水分散液とすることができる。」

(g)
「【0033】
【実施例】
以下、実施例、比較例及び応用例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。
【0034】
実施例1
(1)蛍光性組成物の調製
疎水性溶剤として酢酸エチル100重量部および蛍光色素としてダイヤレジンエロー3G(三菱化学社製:C.I.ソルベントイエロー98相当品)0.5重量部をセパラブルフラスコに入れ、室温で溶解する。次に攪拌しながら疎水性樹脂としてポリスチレン(重量平均分子量約30万)99.5重量部を投入し、溶解させて蛍光性組成物を得た。
(2)乳化分散剤水溶液の調製
乳化分散剤としてイソブチレン-無水マレイン酸共重合体の約22重量%水溶液(日昇工業社製「MICRON8020」)45.5重量部および水154.5重量部を混合し、乳化分散剤水溶液を得た。
【0035】
(3)蛍光性組成物の乳化分散
容量500mlのセパラブルフラスコに上記の乳化分散剤水溶液の全量を投入し、これを水浴中に入れ、水浴の温度を5乃至10℃に保持する。高速回転型攪拌機(特殊機化工業社製「TKオートホモミキサーROBO MICS」)をセパラブルフラスコに設置し、飛散防止用の平板を下ろして液面近くに設置する。液温が5乃至10℃に保持されてから、回転数4,000rpmで攪拌しながらフラスコに蛍光性組成物を投入し、しばらく攪拌を継続し、目視により混濁状態が認められた時点でほぼ予備混合を終了した。速やかに回転数を10,000rpmに上昇し、15分間高速攪拌を行った。その間、乳化液の温度が10℃を超えないように水浴の温度を調整した。
【0036】
(4)溶剤除去
密閉式軸シール機構付きのセパラブルフラスコに汎用攪拌機を取り付け、上記の乳化液を投入し、回転数400rpmで攪拌する。水浴を40℃に加熱し、フラスコの内容物が飛散しないよう、徐々に減圧して酢酸エチルを蒸発させ、セパラブルフラスコ上部に取り付けた溶剤トラップを通じて酢酸エチルを除去した。以上の操作により、本発明の被覆型蛍光微粒子水分散液を得た。酢酸エチルを除去する際、水分の一部も揮発したため、常圧下、105℃にて2時間乾燥後、得られた被覆型蛍光微粒子水分散液の固形分は、40重量%であった。
【0037】
この水分散液の極少量をシリコン基板上で乾燥した後、走査型電子顕微鏡で観察したところ、すべての粒子が実質的に真球状であることが判った。
試験のため、得られた被覆型蛍光微粒子水分散液を少量採取し、電解液(ISOTON-II)に入れて拡散させ、コールターカウンター(ベックマン・コールター社製「マルチサイザーII」)により、孔径50μmのアパチャーチューブを使用して粒度分布を測定した。その結果、体積平均粒径は5.0μm、体積基準の粒径の粒度分布において、大粒子径側から積算した50体積%径に対する25体積%径の比が1.21および50体積%径に対する75体積%径の比が0.78、かつ体積基準の粒径の標準偏差が体積平均粒径値の26%であった。
得られた被覆型蛍光微粒子水分散液を固形分20重量%に希釈し、No.8バーコーターで上質紙に塗工および乾燥させた。得られた試験紙に、63℃にてフェードメーターで人工太陽光を照射して耐光(候)性試験を行った結果、蛍光強度が半減するまでの時間は13時間であった。」

III.検討

1.引用例に記載された発明
上記引用例には、「予め形成された疎水性樹脂に蛍光染料が溶解もしくは蛍光顔料が分散された蛍光微粒子が、乳化分散剤水溶液中に分散してなることを特徴とする被覆型蛍光微粒子水分散液」「から分離されてなる被覆型蛍光微粒子」が記載されており(摘示(a)参照)、当該「被覆型蛍光微粒子」は、「疎水性樹脂粒子中に蛍光染料または顔料が溶解または分散している蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆されている」ものであり(摘示(d)【0012】参照)、一旦水分散液から「分離された被覆型蛍光微粒子」であっても、「親水性であるため再び水に分散して水分散液とすることができる」こと(摘示(f)【0032】参照)もそれぞれ記載されている。
してみると、上記引用例には、
「疎水性樹脂粒子中に蛍光染料が溶解している蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆された水分散性の被覆型蛍光微粒子」
に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

2.対比・検討

(1)対比
本願発明と上記引用発明とを対比すると、引用発明における「疎水性樹脂粒子中に蛍光染料が溶解している蛍光微粒子」は、疎水性樹脂(ポリマー)分子からなる粒子中に蛍光染料が実質的に単分子となるように溶解(分散)しているものであるから、蛍光染料の分子が疎水性樹脂の分子により取り囲まれている、すなわち蛍光染料の分子と疎水性樹脂の分子とが付着しているものと認められるとともに、蛍光染料の分子が疎水性樹脂の分子と親和性を有していて溶解可能となっているのであるから、蛍光染料の分子が疎水性のものであり、疎水性樹脂分子の疎水性部位、すなわち疎水性セグメントと蛍光染料の分子とが付着しているものと認められ、本願発明における「蛍光分子と、前記蛍光分子に付着された疎水性セグメントを含む蛍光ポリマー」に相当するものといえる。
また、引用発明における「乳化分散剤」は、技術常識からみて、親水性と疎水性という相反する親和性を有する2種の媒体につき、一方の媒体(分散媒)に他方の媒体(分散質)を乳化分散させるために使用するものであって、乳化分散剤の分子中に親水性媒体に親和性を有する部分、すなわち親水性セグメントと、疎水性媒体に親和性を有する部分、すなわち疎水性セグメントとをそれぞれ有していることにより、親水性媒体及び疎水性媒体のいずれとも親和性を有する、すなわち両親媒性であるものであるから、本願発明における「親水性セグメントおよび疎水性セグメントを含む両親媒性分子」に相当する。
さらに、引用発明における「蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆された・・被覆型蛍光微粒子」は、乳化分散剤分子からなる殻状の層(被覆層)により蛍光微粒子の表面が被覆されているものと認められるから、本願発明における「蛍光分子を包むシェルを形成し」た「蛍光粒子」に相当する。
そして、引用発明における「蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆された水分散性の被覆型蛍光微粒子」は、上記技術常識からみて、乳化分散剤分子からなる被覆層において、乳化分散剤分子における疎水性媒体に親和性を有する部分が疎水性樹脂からなる蛍光微粒子に接する内側に配向し、親水性媒体に親和性を有する部分が分散媒である水に接する外側に配向し乳化分散剤分子からなる被覆層の外側表面に露出していることにより、個々の被覆型蛍光微粒子全体を水に分散できるようにしているものと認められる(必要ならば下記(2)ア.(ア)(A)参照。)。なお、本願発明における「水に可溶」及び「水溶性」については、蛍光粒子を構成する各化学物質をそれぞれ水中に分散させるものではなく、個々の蛍光粒子を水中に分散させることを意味すると理解するほかはない。よって、上記引用発明における「蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆された水分散性の被覆型蛍光微粒子」は、本願発明における「親水性セグメントの少なくともいくらかは露出して前記粒子を水に可溶化させる水溶性蛍光粒子」に相当するものと認められる。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「蛍光分子と、前記蛍光分子に付着された疎水性セグメントを含む蛍光ポリマーと、
親水性セグメントおよび疎水性セグメントを含む両親媒性分子と
を含む水溶性蛍光粒子であって、蛍光分子を包むシェルを形成し、前記親水性セグメントの少なくともいくらかは露出して前記粒子を水に可溶化させる水溶性蛍光粒子」
の点で一致し、下記の点で一応相違する。

相違点1:本願発明では、「前記両親媒性分子の親水性セグメントは互いに絡み合い、前記蛍光ポリマーおよび前記両親媒性分子の前記疎水性セグメントは互いに絡み合い、絡み合ったセグメントは、前記蛍光分子を包むシェルを形成し」ているのに対して、引用発明では、「蛍光微粒子の表面が、乳化分散剤で被覆された・・被覆型蛍光微粒子」であって、蛍光微粒子を構成する疎水性樹脂の疎水性部分と乳化分散剤(分子)の疎水性媒体に親和性を有する部分との絡み合い及び乳化分散剤(分子)の親水性媒体に親和性を有する部分同士の絡み合いにつき特定されていない点
相違点2:本願発明では、「前記絡み合ったセグメントで形成されたシェルは、水溶性蛍光粒子の粒子半径の5?95%の厚さを有し」ているのに対して、引用発明では、「(乳化分散剤からなる)被覆」の厚さにつき規定されていない点

(2)各相違点に係る検討

ア.相違点1について

(ア)前提
相違点1につき検討するにあたり、前提となる技術事項につき検討する。

(A)分散ミセルの構造
乳化分散剤、界面活性剤などの両親媒性物質を使用し、分散媒に対してそれに非親和性の分散質を分散した場合、分散質のコアの外側表面に対して、両親媒性物質の分子が分散質に親和性を有する部分を内側にし、分散媒に親和性を有する部分を外側に表出して付着し層を形成した両親媒性物質からなるシェルを有するコア-シェル型の分散ミセルを構成して安定に分散していることは、当業者の技術常識である。
してみると、分散質・両親媒性物質の分散前の状態(例えば自己組織化の有無など)を問わず、分散媒に対して分散が完了し安定な分散体が構成されたならば、上記のような分散ミセルが形成されたと理解すべきものである。

(B)分子運動
有機化合物などの分子は、液体(又は気体)中において分子全体が運動している(例えば「ブラウン運動」など)とともに、分子内においても、結合原子間の伸縮振動、分子鎖の屈曲運動など種々の運動を定常的にしていることが当業者の技術常識である。
してみると、2個の分子が液体中で近接した場合、両分子間に親和性があるならばいわゆる分子間力などにより近接した状態、すなわち付着状態、絡み合い状態などが保たれるであろうし、両分子間に親和性がないならば、一旦近接したとしても解離するものと理解すべきものである。

(イ)検討
上記相違点1につき上記前提事項に基づいて検討する。
引用発明の「被覆型蛍光微粒子」は、その製造方法(上記摘示(a)【請求項5】、【請求項6】参照)からみて、疎水性樹脂中に蛍光染料が溶解した蛍光性樹脂組成物の有機溶剤溶液を、乳化分散剤水溶液中に分散させて蛍光微粒子(水分散液)を形成する工程の後、形成された蛍光微粒子水分散液の乳化分散状態を保ちながら有機溶剤を除去する工程を行い、さらに当該水分散液から被覆型蛍光微粒子を分離したものである。
しかるに、上記「蛍光微粒子(水分散液)を形成する工程」で形成された蛍光微粒子水分散液は、上記前提事項(A)からみて、疎水性樹脂及び蛍光染料からなる蛍光性樹脂組成物の有機溶剤溶液という液体がコアとなり、乳化分散剤の疎水性部分が内側に存在し親水性部分が外側に存在する乳化分散剤のシェルとなっている分散ミセルが水中に分散したものであり、コアに存在する疎水性樹脂及び蛍光染料からなる蛍光性樹脂組成物の有機溶剤溶液という液体を構成する疎水性の各成分分子とシェルにおける乳化分散剤の疎水性部分とが近接しているものと理解するのが自然である。
してみると、上記前提事項(B)からみて、コアに存在する疎水性樹脂及び蛍光染料からなる蛍光性樹脂組成物の有機溶剤溶液という液体を構成する疎水性の各成分分子は、分子全体又は分子内の種々の運動を行っているのであり、当該各成分分子は、疎水性である点で乳化分散剤の疎水性部分と親和性を有するものであって、さらに、分散工程の後、有機溶剤(分子)が疎水性溶液コアから除去されて、実質的に蛍光染料と疎水性樹脂とのみがコアに残留するのであるから、コアに存在する疎水性樹脂と乳化分散剤の疎水性部分とが分子間力などにより近接した状態、すなわち付着状態又は絡み合い状態となる蓋然性が極めて高いものと理解するほかはない。
また、引用発明の「被覆型蛍光微粒子」は、有機溶剤を除去する工程の後の水分散液から被覆型蛍光微粒子を分離したものであり、当該微粒子の周辺から水を実質的に完全に除去(乾燥)したものであるから、微粒子の周辺は、代表的な疎水性環境である空気となり、微粒子の外側表面に存在する乳化分散剤の親水性部分は、上記前提事項(B)からみて、近傍に存在する乳化分散剤の親水性部分なる親和性を有する部分同士が、分子間力などにより近接した状態、すなわち付着状態又は絡み合い状態となる蓋然性が極めて高いものと理解するほかはない。
したがって、引用発明における「被覆型蛍光微粒子」は、疎水性樹脂と乳化分散剤の疎水性部分との間及び乳化分散剤の親水性部分同士が絡み合っている状態となっているものと認められるから、上記相違点1は実質的な相違点であるということはできない。

(ウ)請求人の主張について
なお、請求人(出願人)は、本件審判請求書において、
「出願人は、過去2回提出した意見書において、同じ原料が形成プロセスにおいて用いられたとしても、常に絡み合い構造が得られるとは限らないことを主張しました。特に、本願明細書で述べられている絡み合いは、本願明細書に記載された特定のプロセスにより生じるものです。具体的には、本願明細書に教示されているように、記載された絡み合ったセグメントを形成するために、蛍光ポリマーおよび両親媒性分子の両方の前駆体は、まず非水性溶媒に溶解されて当初溶液を形成し、そしてこの当初溶液は、その後、水のような水性液体と混合されます。次に、非水性溶媒が取り除かれて、混合物中で分子の自己凝縮により粒子が形成されます。本願明細書の[0033]および[0034]をご覧ください。
本願明細書に記載されたこのプロセスにおいて、非水性溶媒に水が加えられる前には、親水性セグメントは当初はコア中に存在し、疎水性セグメントは当初は外側に存在します。非水性溶媒が除去されると、当初コア中に存在した親水性セグメントは外側に移動し、当初外側に存在した疎水性セグメントは内側に移動します。このような運動が、セグメントの絡み合いを起こすのです。」と本願発明につき主張し、
「対照的に、引用文献1は、審査官殿もお認めの通り、水分散液を用いており、また、有機溶媒は必ずしも使用する必要はありません([0020]第2文の記載を参照)。引用文献1において、有機溶媒が用いられる場合であっても、乳化分散液を形成するために乳化分散剤が当初水(水性溶媒)中に分散されており、最初に有機溶媒中に分散されている(蛍光複合体のみが当初の有機溶媒中に存在する)わけではありません。蛍光複合体(有機溶媒と共にまたは有機溶媒を伴わずに)は、それから乳化分散液に添加されます。引用文献1の[0011]、[0023]、[0024]等の記載をご覧ください。このように、本願明細書に記載され、上記で議論された本願明細書に記載されたプロセスにおいて生じる絡み合い運動は、引用文献1に記載されたプロセスにおいては生じません。引用文献1に記載された水性乳化分散液における乳化分散剤は、蛍光複合体と共に有機溶媒が水性溶液に添加されるときには、すでに、親水性の部分が外側にあり、疎水性の部分が内側にあるからです。
異なるポリマー鎖の絡み合いは、両親媒性分子が水性溶液中に分散された場合に必ず起きるとはいえない点にも留意が必要です。例えば、両親媒性分子が、水性溶液中でミセルを形成するよう自己組織化できることはよく知られています。例えば、・・(中略)・・をご覧ください(このウェブページのプリントアウトを参考資料1として添付します。)。
また、両親媒性分子は、ミセル中の親水性セグメントが絡み合わないときに自己組織化して水性溶液中で2層を形成できます。例えば、・・(中略)・・をご覧ください(このウェブページのプリントアウトを参考資料2として添付します。)。」と引用発明(引用文献1)につき主張し、結論として、
「したがって、引用文献1に記載された両親媒性分子が、本願の請求項1に記載されているような絡み合いを形成することは予想できません。実際、引用文献1に記載された処理プロセスによれば、当業者は、このようなプロセスにおいては本願の請求項1に記載されているような絡み合いは起きないと予想すると思われます。」
と主張している(請求書「第3 本願発明が特許されるべき理由」の「(1)進歩性について」の欄)。
しかるに、上記主張につき検討すると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に「例1」に係る【0058】?【0065】)からみて、本願発明に係る蛍光粒子の製造方法では、蛍光ポリマーと両親媒性物質とを含む溶媒溶液を超音波処理を加えつつ水に滴下して混合物を形成した後、溶媒を蒸発除去して蛍光粒子の水分散液を製造しているものと認められるが、上記蛍光ポリマーを含む溶媒溶液は疎水性のものであり、水と安定に混和するものではないのであるから、技術常識からみて、両親媒性物質の機能によりミセルが形成されないならば、超音波処理などの物理的混合を中止した時点で相分離し安定な分散液となるものではなく、上記「蛍光ポリマーと両親媒性物質とを含む溶媒溶液を超音波処理を加えつつ水に滴下した混合物」は、この時点で、蛍光ポリマーを含む溶媒溶液をコアとし両親媒性物質をシェルとする分散ミセルが水中に分散してなる水分散液になっており、続く溶媒の蒸発除去により分散ミセル中の溶媒が除去されることで最終的な水分散液が得られているものと理解するほかはない。
そして、本願発明に係る上記プロセスにより、「前記両親媒性分子の親水性セグメントは互いに絡み合い、前記蛍光ポリマーおよび前記両親媒性分子の前記疎水性セグメントは互いに絡み合い、絡み合ったセグメントは、前記蛍光分子を包むシェルを形成し」ていることが達成されているのであれば、引用発明に係る「被覆型蛍光微粒子」の製造プロセスにおいても、蛍光染料が溶解した疎水性樹脂を含む有機溶剤溶液を高速攪拌下という強力な物理的混合下で乳化分散剤水溶液に添加して、蛍光染料が溶解した疎水性樹脂を含む有機溶媒溶液をコアとし乳化分散剤をシェルとする分散ミセルが混濁している、すなわち水中に分散してなる水分散液になっているのである(上記摘示(g)参照)から、同様に乳化分散剤分子の親水性部分同士の絡み合い及び乳化分散剤分子の疎水性部分と疎水性樹脂の疎水性部分との絡み合いが達成され、もって最終的に蛍光染料が溶解した疎水性樹脂からなるコアと乳化分散剤からなるシェルを有する被覆型蛍光微粒子が構成されると理解すべきものである。
なお、請求人の上記主張における「本願明細書に記載されたこのプロセスにおいて、非水性溶媒に水が加えられる前には、(両親媒性物質の)親水性セグメントは当初はコア中に存在し、疎水性セグメントは当初は外側に存在します。」ということは、結局のところ、両親媒性物質が非水性溶媒中で自己組織化していること(必要ならば本件審判請求書に添付の参考資料1の3/3頁の図など参照)を意味するものと認められるから、乳化分散剤などの両親媒性物質の自己組織化の有無が、上記各分子の絡み合いにつき関連するものとは認められない。
してみると、請求人の上記請求書における主張は、技術的根拠を欠くものであるから、当を得ないものであり、採用することができず、当審の上記検討の結果を左右するものではない。

(エ)小括
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であるとはいえない。

イ.相違点2について
上記相違点2につき検討する。
引用発明の「被覆型蛍光微粒子」は、例えば、実施例1のものを具体例とし各材料成分が全て真球状の蛍光微粒子の構成に使用されており、各成分の比重が有意に差がないものとの仮定に基づくと、コア(蛍光染料と疎水性樹脂)とシェル(乳化分散剤)との重量比がおよそ10:1である(摘示(g)【0034】参照)から、コア部とシェル部との体積比もおよそ10:1となる。
そして、球の体積と粒子半径の3乗とが比例することは数学的な技術常識であるから、シェル部の厚さは約5%程度と算出することができる。
してみると、引用発明の「被覆型蛍光微粒子」であっても、本願発明におけるシェル部厚さ範囲に含まれるシェル部厚さを有するものが包含されているものと認められ、上記相違点2についても実質的な相違点であるものとはいえない。
なお、仮にそうでないとしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、本願発明において、シェル部の厚さを粒子半径の5?95%の範囲とした点に係る技術的意義及び臨界的意義を認識し得る記載又は示唆がなく(実施例に係る記載において、シェル部厚さにつき測定値も示されていない。)、また、当該シェル部の厚さに係る粒子半径の5?95%なる範囲は、粒子の外層部のほぼ全てがシェル部である場合又は粒子外層の極めて薄い外縁部がシェル部である場合などの極めて特異な場合を除くほとんど全ての実質的な厚さの場合を含む範囲であり、そのような範囲を規定した点に格別な技術的創意が存するものとも認められず、上記シェル部の厚さの範囲を規定することは、当業者が所望に応じて単に規定し得るものとも認められる。
したがって、上記相違点2については、実質的な相違点ではないか、仮にそうでないとしても、当業者が所望に応じて適宜なし得る事項であると認められる。

ウ.検討のまとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明と実質的に同一であるから、引用例に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないか、仮にそうでないとしても、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではない。
したがって、本願は、請求項1に記載された事項で特定される発明が、特許法第29条の規定により、特許を受けることができるものではないから、その他の請求項に記載された発明について検討するまでもなく、特許法第49条第2号の規定に該当する。

第4 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第49条第2号の規定に該当するから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-22 
結審通知日 2015-06-23 
審決日 2015-07-07 
出願番号 特願2008-528991(P2008-528991)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 由美  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 日比野 隆治
橋本 栄和
発明の名称 絡み合った蛍光ポリマーおよび両親媒性分子を含んだ水溶性蛍光粒子  
代理人 峰 隆司  
代理人 砂川 克  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 岡田 貴志  
代理人 福原 淑弘  
代理人 堀内 美保子  
代理人 河野 直樹  
代理人 井関 守三  
代理人 野河 信久  
代理人 佐藤 立志  

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