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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1307906
審判番号 不服2013-25280  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-24 
確定日 2015-11-16 
事件の表示 特願2010- 43354「ウシ免疫不全ウイルス由来ベクター」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月 5日出願公開、特開2010-166919〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成12年12月13日(パリ条約による優先権主張 1999年12月14日 米国、2000年11月17日 米国、及び、2000年12月12日 米国)を国際出願日とする出願の一部を、平成22年 2月26日に新たな出願としたものであって、平成25年 8月 2日付けで拒絶査定がされたところ、同年12月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1?12に係る発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「BIV U5要素に連結した第一BIV R領域、パッケージング配列、プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、及び、第二BIV R領域に連結したBIV U3要素を含むRNAベクターを含むビリオン。」

第3 特許法第29条第2項について

1.引用例の記載

(1)原査定の拒絶理由において文献2として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物であるJournal of Virology, 1999 Jun., Vol.73, No.6, p.4991-5000(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。

ア.「ネコ免疫不全ウイルス(FIV)に基づく遺伝子導入ベクターの開発は、ヒトへの遺伝子の導入のための、霊長類起源に基づくベクターの魅力的な代替物である。FIVに基づくベクター粒子による分裂及び非分裂細胞の効率的な遺伝子導入のための必要条件を研究するために、ウイルスの遺伝子発現は最小化され、それから不必要なシス作動性配列は除去された、一連のパッケージング及びベクター構築物が調製された。」(要約第1行?第5行)

イ.「FIVベクターの産生。一過性のトランスフェクションにより偽型FIV粒子を産生するために、HIV-1ベクターに対し開発されたもの(28、42、47)と類似した3プラスミド発現システムがデザインされた。そのシステムはFIVパッケージング構築物、FIVベクター構築物、及び、VSV-Gの表面糖蛋白質をコードするプラスミドから構成される。VSV-Gをコードするエンベローププラスミドは、ウイルス粒子に広範な指向性と共にMLVの両指向性エンベロープにより提供される安定性よりも高い安定性を与え、超遠心分離法による粒子の濃縮を可能とする(6、71)。FIV粒子は293T細胞へ3つの構築物要素をコトランスフェクションすることにより産生され、上清に含まれるベクター粒子のタイターが決定された。ベクターのタイターは3×10^(6)感染性粒子/mlが293T細胞上清で形質導入されたHT1080細胞で得られた(表1)。」(第4993頁右欄第6行?第20行)

ウ.「


図1 FIVプロウイルスと一過性のトランスフェクションにより偽型FIV粒子を産生するために用いられたFIVに基づくパッケージング及びベクター構築物。(A)FIV-34TF10分子クローンに基づくFIVプロウイルス。(B)FIV-34TF10から得られた、FIVに基づくパッケージング構築物。FIVの翻訳領域はCMVプロモーター(CNV)及びシミアンウイルス40のポリアデニル化シグナル(pA)の間に配置された。pCFIVと比較すると、pCFIVXはFIVの5’非翻訳領域の約100塩基対を付加的に有する。・・・・(C)内部CMVプロモーターからβ-Gal遺伝子を発現するFIVに基づくベクター構築物。この構築物でFIVのRREはβ-Gal遺伝子の下流に配置される。pTFIV_(L)Cβは完全なFIV5’LTRを有するが、pVET構築物はFIVのU3領域の代わりにCMVプロモーターを有する。・・・・」(図1脚注第1行?第7行)

エ.「表1 ベクター及びパッケージング構築物のベクタータイターに与える影響



」(表1)

上記記載事項イ?エによれば、FIVパッケージング構築物pCFIVX、5’LTR、gag、CMVプロモーターに連結したβ-gal、RRE、及び3’LTRを含むFIVベクター構築物pTFIV_(L)Cβ、及びVSV-Gのエンベロープをコードするプラスミドの3つの構築物要素を293T細胞にコトランスフェクションすることにより偽型FIV粒子が産生されることが理解され、ここで、本願優先日前の技術常識を参酌すれば、FIVベクター構築物pTFIV_(L)Cβは293T細胞内でRNAベクターに複製され、VSV-Gのエンベロープに包接されることにより、RNAベクターを含む偽型FIV粒子が放出されると理解できる。
そして、上記記載事項ウによれば、β-Gal遺伝子は内部CMVプロモーターから発現されるから、β-Gal遺伝子がCMVプロモーターに機能的に連結していることは明らかである。
そうすると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「5’LTR、gag、CMVプロモーターに機能的に連結したβ-Gal遺伝子、RRE、及び3’LTRを含むRNAベクターを含む偽型FIV粒子。」

原査定の拒絶理由において文献3として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物であるJ Virus Research,1994,Vol.32,pp.155-181(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。

オ.「

図2 BICの進化的関係 以前に報告された(Gonda et al.,1986; 1987; 1988; Garvey et al.,1990)pol遺伝子のRTドメインの高度に保存された90アミノ酸に基づく、レトロウイルスの関係のFitch-Margoliash系統樹・・・・」(図2脚注第1行?第3行)

カ.「

図7 BIV及びHIV-1のゲノム機構」(図7)

キ.「

図8 BIVの転写マップ(・・・・)」(図8)

ク.「

図11 BIV LTRの構造」(図11)

原査定の拒絶理由において文献1として引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第99/15641号(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。

ケ.「パッケージング可能な核酸は、FIV粒子によりパッケージングされることができるRNAをコード化している。かかる核酸は、FIVパッケージング部位を、選択した核酸と組換え結合することにより構築することができる。パッケージング部位(psi部位)は5’LTRに隣接して局在しており、主としてMSD部位と、gag遺伝子のリーダー配列のgag開始コドン(AUG)との間である。したがって、最小のパッケージング部位はMSDと、関連するレンチウイルスからのgag開始コドンとの間の核酸の大部分を含む。好ましくは完全なパッケージング部位は、最大のパッケージング効率のために5’LTRからの配列とgag遺伝子の5’領域とを含む。」(第23頁第25行?第24頁第1行)

2.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「5’LTR」及び「3’LTR」がそれぞれ、「U5要素に連結した第一R領域」及び「第二R領域に連結したU3要素」を含んでいることは技術常識である。また、引用発明の「CMVプロモーター」、「β-Gal遺伝子」、及び「偽型FIV粒子」はそれぞれ、本願発明における「プロモーター」、「導入遺伝子」及び「ビリオン」に相当する。

そうすると、両者の一致点、相違点は以下のとおりとなる。

一致点:「免疫不全ウイルス U5要素に連結した第一免疫不全ウイルス R領域、プロモーターに機能的に連結した導入遺伝子、及び、第二免疫不全ウイルス R領域に連結した免疫不全ウイルス U3要素を含むRNAベクターを含むビリオン。」

相違点1:本願発明のRNAベクターは「パッケージング配列」を含むのに対し、引用発明のRNAベクターはこのような特定がない点。
相違点2:本願発明のU5要素、第一R領域、U3要素、及び第二R領域は、「BIV」に基づくのに対し、引用発明では「FIV」に基づく点。

3.相違点についての検討

(1)相違点1について

上記記載事項ケによれば、FIVのパッケージング配列は、5’LTRからの配列とgag遺伝子の5’領域とを含む領域にあると認められる。そして、上記記載事項ウによれば、引用発明のRNAベクターは5’LTRからgagの翻訳領域、すなわちgagの5’領域を含んでいるから、パッケージング配列を有するといえる。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
BIV及びFIVは共に、哺乳類の免疫不全ウイルスに属し、プラス一本鎖RNAウイルスであるという分類上の共通性を有する。また、上記記載事項ウ及びカによれば、両者は5’LTR、gag、pol、env、及び3’LTRを有する点でゲノム構造も共通する。さらに、上記記載事項オのとおり、両者は進化的に関連することも知られていた。
してみれば、遺伝子導入のための新たなビリオンの開発を目的として、引用発明のFIVに基づくビリオンに代えて、引用例3に記載されるBIVに基づくビリオンを作製することは当業者が容易に着想し得ることであり、その際、上記記載事項キのBIVの転写マップや上記記載事項クのLTRの構造を参考にして、BIVに基づくU5要素、第一R領域、U3要素、及び第二R領域を用いることは当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明が、引用例1?3の記載及び周知技術から当業者が予測できない格別の効果を奏するとは認められない。

(3)審判請求人の主張について

審判請求人は、平成26年2月26日付け審判請求書の手続補正書において、以下(ア)及び(イ)の主張をするが、以下のとおり、審判請求人の主張は理由がない。

(ア)「(iii) 一方、文献3にはBIVウイルスゲノムの構造や性質に関して記載されてはいるものの、BIVに基づき実際のベクターシステムを作製するために必要な情報は具体的に何等記載ないし示唆されていない。むしろ、文献3にはBIVゲノムの転写が非常に複雑であり、他のレンチウイルスと同様にBIVは感染対象に関しては種特異性である(第174頁)、旨記載されている。
更に、引用文献3の第158頁に記載されたレンチウイルスの分岐図(図2)から明らかなように、FIV,Visna及びCAEVは進化的に互いに近い関係にあり、これらは比較的HIVとは近いが、BIVとは進化的にかなり距離があることが知られていた。
例えば、文献3には、BIVは、アクセサリー遺伝子とも呼ばれる、vif,vpw,vpy,tat、rev、W及びY遺伝子を含有し、最も複雑な構造であることも周知であった(例えば、引用文献3の第165頁参照)。これに対して、FIVはvpw,vpy及びtat遺伝子を有していないのである。又、HIVもvpw,vpy、W及びY遺伝子を有していないことが知られている(LENTIVIRUSES/1981:参考文献1)。」

上記3(2)で検討したとおり、FIVとBIVは分類上及びゲノム構造上の共通点を有しているから、両者が進化的に最も近い関係にないとしても、そのことが当業者がBIVに基づくビリオンを着想することの阻害要因となるとはいえない。また、本願優先日前、BIVに特有のアクセサリー遺伝子であるvpw,vpy及びtat遺伝子等が、ビリオン形成に必須であるとの技術常識は存在せず、またビリオン形成に必須でないウイルス遺伝子を削除してベクターを構築することも周知技術であるから、BIVに特有のアクセサリー遺伝子が存在することが、当業者が本願発明に想到することを妨げるとはいえない。

(イ)「(iv) ここで、引用文献3の第158頁に記載されたレンチウイルスの分岐図において、Visnaウイルス及びCAEVは、BIVと比べた場合に、FIVとは格段に近い関係にあるレンチウイルスであることがわかる。
しかしながら、Visnaウイルス由来の遺伝子導入システムに関する文献であるBerkowitz et al., Virology 279:116-129 (2001)の第1頁(参考文献2)の要約部分の最後の2行には、「しかしながら、Visnaウイルスは、逆転写及びベクターの統合における欠陥が原因で、標的細胞に上手く形質導入されなかった。Visna遺伝子導入システムを臨床の遺伝子治療に応用するには、該システムを更に改良しなければならない。」旨、記載されている。
又、Mselli-Lakhal et al., ArchVirol (1998) 143:681-695はCAEVに基づくベクターにおける形質転換効率が低いことがRNAパッケージングにおける欠陥であることに関して記載された文献であるが、該文献の1頁(参考文献3)の「Summary」の最後の2行には、「しかしながら、この高パッケージング効率のpCSHLゲノムによってlacZ遺伝子の高形質導入効率を得ることは出来なかった。」旨、記載されている。
このように、BIVと比較してFIVとの距離が格段に近く構造的にも類似している点が多いこれらウイルスにあっても、それらのゲノムをベースとして、実用に耐える効率的で有用な組換えウイルスベクターシステムを作製することは出来ていなかったのである。」

参考文献2は、本願優先日後に頒布された文献であるから、参考文献2に記載された事項が、本願優先日前に当業者が本願発明に想到することを妨げるとはいえない。また、参考文献3に記載されたCAEVに基づくビリオンに含まれるRNAベクターは、引用発明のFIVに基づくRNAベクターと構造が大きく相違し(図1)、ビリオンの調製方法も、ヤギ胎児繊維芽細胞株にベクターを導入した後に、ヘルパーウイルスを感染させて調製するという、引用例1とは全く異なる調製方法であるから(第683頁第21行?第43行)、そのようなCAEVに基づくベクターの形質転換効率が低いことが、当業者がBIVに基づくビリオンを作製することの阻害要因となるとはいえない。

4.小括

以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1?3に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 まとめ

以上検討したところによれば、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-30 
結審通知日 2015-05-26 
審決日 2015-06-11 
出願番号 特願2010-43354(P2010-43354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福澤 洋光  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 小堀 麻子
高堀 栄二
発明の名称 ウシ免疫不全ウイルス由来ベクター  
代理人 阿部 正博  

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