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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1308079
審判番号 不服2013-8902  
総通号数 193 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-15 
確定日 2015-11-25 
事件の表示 特願2008-547476「増強された薬理学的性質を有する活性物質を送達するための方法および組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日国際公開、WO2007/073486、平成21年 7月16日国内公表、特表2009-525946〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 出願の経緯
本願は,2006年12月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2005年12月20日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって,出願後の経緯は次のとおりである。

平成21年12月18日 手続補正書の提出
平成24年 6月22日付け 拒絶理由通知
同年 9月26日 意見書及び手続補正書の提出
平成25年 1月10日付け 拒絶査定
同年 5月15日 拒絶査定不服審判の請求及び手続補正書の 提出
同年 7月 8日付け 前置審査の結果の報告
平成26年 2月24日付け 前置報告を利用した審尋
同年 5月23日 回答書の提出
同年10月27日付け 当審による拒絶理由通知
平成27年 4月28日 意見書及び手続補正書の提出

2 本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は,平成27年4月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「エラスチン様ペプチド(ELP)に結合した治療薬の有効量を含む薬剤であって、
前記治療薬が、未結合の治療薬に比べてより長い循環半減期を示し、
前記治療薬が血管作用性小腸ペプチド(VIP)であり、
前記ELPが(VPGXG)mのアミノ酸配列を含み、前記Xは独立して選択されるアミノ酸であり、かつ、mが100またはそれ以上であり、
前記VIP-ELP複合体は、適切な宿主において、融合タンパク質として組換えによって発現される、
全身投与用の水性製剤である薬剤。」

3 当審による拒絶理由の概要
平成26年10月27日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。

「1.本件出願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

4 判断
本願発明はエラスチン様ペプチド(ELP)に治療薬である血管作用性小腸ペプチド(VIP)が結合した薬剤に関するものであり,該治療薬が未結合の治療薬に比べてより長い循環半減期を示すものである。
これらの点について,本願の発明の詳細な説明には,
「本発明は、バイオエラスティックポリマーまたはエラスチン様ペプチドに結合された活性物質を被験体に投与することを含み、バイオエラスティックポリマーまたはELPに結合(または会合)せずに被験体に投与したときの同じ活性物質と比較して活性物質のインビボ効果が増強される、活性物質のインビボ効果を増強する方法を提供する。インビボ効果は、以下の方法、溶解度、バイオアベイラビリティー、有効治療用量、製剤適合性、タンパク質分解に対する抵抗性、投与されるペプチド活性治療薬の半減期、投与後の体内での持続性、および投与後の体内からのクリアランス速度の1以上において増強され得る。」(段落0007)
「本明細書で使用する「活性物質」は、治療薬および診断薬または造影剤を含む、何らかの適切な活性物質であり得る。
・・・
本明細書で使用する「治療薬」は、以下を含むが、これらに限定されない、何らかの適切な治療薬であり得る。放射性核種、化学療法剤、細胞傷害性組成物、上皮小体ホルモン関連タンパク質(副甲状腺ホルモン関連タンパク質)、成長ホルモン(GH)、特にヒトおよびウシ成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン;α-、β-またはγ-インターフェロン等を含むインターフェロン、インターロイキンI、インターロイキンII;α-およびβ-エリスロポエチン(EPO)を含むエリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、抗血管新生タンパク質(例えばアンギオスタチン、エンドスタチン)、PACAPポリペプチド(下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド)、血管作用性小腸ペプチド(VIP)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、バソプレッシン、アルギニンバソプレッシン(AVP)、アンギオテンシン、カルシトニン、心房性ナトリウム利尿因子、ソマトスタチン、アドレノコルチコトロピン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン、オキシトシン、インスリン、ソマトトロピン、B型肝炎ウイルスのHBS抗原、プラスミノーゲン組織活性化因子、第VIIIおよび第IX凝固因子を含む凝固因子、グリコシルセラミダーゼ、サルグラモスチム、レノグラスチン、フィルグラスチン、インターロイキン2、ドルナーゼα、モルグラモスチム、PEG-L-アスパラギナーゼ、PEG-アデノシンデアミナーゼ、ヒルジン、エプタコグα(ヒト血液凝固第VIIa因子)、神経成長因子、トランスフォーミング増殖因子、上皮増殖因子、塩基性線維芽細胞増殖因子、VEGF;低分子量ヘパリンを含むヘパリン、カルシトニン;心房性ナトリウム利尿因子;抗原;モノクローナル抗体;ソマトスタチン;アドレノコルチコトロピン、性腺刺激ホルモン放出ホルモン;オキシトシン;バソプレッシン;クロモリンナトリウム;バンコマイシン;デフェロキサミン(DFO);副甲状腺ホルモン、抗菌薬、抗真菌薬、免疫原または抗原、モノクローナル抗体などの抗体、またはそれらの組合せ。例えば米国特許第6,967,028号;同第6,930,090号;および同第6,972,300号参照。・・・」(段落0015?0024)
「・・・組成物は、安定なまたは不安定な結合方式を通してELPに共有結合され得る。組成物は、ELPと疎水的に会合し得る。組成物は、キレート化法を通してELPに連結され得る。組成物は、二次結合を通した分子認識によりELPと会合し得る。組成物はまた、酵素の作用を通してELPに連結され得る。組換えによって生産され得るペプチドタンパク質などの分子の場合は、ELPと組成物は、合成またはクローン化遺伝子から適切な宿主(大腸菌、ピキア・パストリス(pichia pastoris)、哺乳動物細胞またはバキュロウイルス)において単一実体として生産され得る。「ELP組成物/造影剤複合体」は、複合体の間の結合が単一実体を治療薬または造影剤として送達するために安定であるように合成され得るか、またはELPから組成物を遊離させるためにpHまたは光の作用、あるいは酵素の作用下で不安定であるように設計され得る。・・・」(段落0047)
との記載がある。
また,「(実施例)」として,組換えによって合成したELP-タンパク質複合体のリスト,標的タンパク質の分子量及び大腸菌の1リットル振とうフラスコ培養からのそれらの収率(表1),大腸菌において組換えによって合成したペプチドELP-複合体の収率等(表2)が記載され,ELP2-160JM2複合体に複合したドキソルビシンについて,複合形態が組成物のより長い血漿半減期を有すること(段落0053,図4の説明)が記載されている。
しかしながら,発明の詳細な説明には,ELPにVIPが結合した物質の具体的な製造方法,該物質の循環半減期等の性質を確認できる具体的な記載はない。
互いにペプチドであるELPとVIPとを単に結合するだけであるならば,本願発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づいて実施することができるといえるかもしれないが,本願発明のELPは(VPGXG)m(Xが独立して選択されるアミノ酸であり,mが100又はそれ以上)で表されるものあって,任意のアミノ酸Xが存在し,その分子量もmの値,Xの種類に応じて様々であること,ELPとVIPとの結合に他の物質(リンカー)を用いることが排除されないことから,本願発明のELPにVIPが結合した物質は多様な物質を包含するといえるところ,物質の構造,ELPとVIPとの結合位置,結合の様式によって製造された結合体の性質,特に生体内での特性(どのように分解,代謝され,どのような薬効を示すか)が異なることは明らかである。そして,ELPとVIPとを結合したというだけで,未結合の治療薬(VIP)に比べてより長い循環半減期を有することが自明であるという根拠もない。そもそもELPとVIPが結合した物質の具体例が何ら記載されていない発明の詳細な説明の記載からは,本願発明において特定される,ELPに結合した治療薬の有効量を含む薬剤であって,該治療薬が未結合の治療薬に比べてより長い循環半減期を示し,該治療薬がVIPであるものとするために,どのような製造方法を採用すればよいのかは不明である。
また,上述のとおり,発明の詳細な説明にELP2-160JM2複合体に複合したドキソルビシン(以下,「ELP-Dox」という。)が記載され,その血漿半減期がより長いことが記載されているが,ELP-Doxは,ユニークC末端システイン残基を含むELPを合成し、逆転移サイクリング(ITC)によって精製して、4つの異なるpH感受性,マレイミド活性化,ヒドラゾンリンカーを通してドキソルビシン分子に複合されるものであり(段落0050),治療薬であるドキソルビシン自体,4環が縮合した構造(アントラサイクリン系)を有する比較的低分子の化合物であって,複合体が適切な宿主において組換えによって発現され,治療薬がペプチドである本願発明の複合体とは,製造方法が異なり,治療薬の化学構造も大きく異なるから,本願発明の複合体がELP-Doxと同様に製造でき,同様の性質を有するものであるということもできない。
そうしてみると,ELPに結合した治療薬の有効量を含む薬剤であって,該治療薬が未結合の治療薬に比べてより長い循環半減期を示し,該治療薬がVIPであるとされる本願発明について,具体的にどのような製造方法により製造できるか不明であるから,発明の詳細な説明の記載は,本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできず,特許法第36条第4項第1号の規定に適合しない。また,ELPに結合した治療薬の有効量を含む薬剤であって,該治療薬が未結合の治療薬に比べてより長い循環半減期を示し,該治療薬がVIPであるとされる本願発明は,発明の詳細な説明に具体的に記載されておらず,具体的に記載されたものから,拡張ないし一般化できるものということもできないから,発明の詳細な説明に記載したものということもできず,特許請求の範囲の記載は,特許法第36条第6項第1号の規定に適合しない。

なお,請求人は平成27年4月28日付け意見書において,平成24年9月26日付け意見書で示された参考資料4は,本願明細書の記載から認識される範囲について,その効果を具体的に実証したものであり,実施可能要件及びサポート要件を補完するものとしても許容されるべきものである旨主張する。
該参考資料4には,エラスチン様ペプチド融合VIP(VIP-ELP)が組換え融合タンパク質であること,VIP-ELPは,ラットへの皮下注射で,平均半減期が約11?14時間であったことが記載されている(なお,ELPのアミノ酸配列,VIP-ELPの製造方法は完全には明らかでない)。しかし,本願の発明の詳細な説明には,増強されるインビボ効果として,溶解度、バイオアベイラビリティー、有効治療用量、製剤適合性、タンパク質分解に対する抵抗性、投与されるペプチド活性治療薬の半減期、投与後の体内での持続性、および投与後の体内からのクリアランス速度といった各種の効果が記載され(段落0007),使用される活性物質としても,VIPは極めて多数列挙されるうちの一つでしかなく(段落0015?0024),かかる記載からは,VIP-ELP複合体自体記載されているといえるものでなく,ましてや,該複合体について,治療薬(VIP)が未結合の治療薬(VIP)に比べてより長い循環半減期を有するものであることが記載されているということもできないから,参考資料4が本願明細書の記載から認識される範囲の効果を実証したものであるということはできない。また,そもそも参考資料4は,本願出願後4年以上という相当期間経過後に記載されたものである(署名の横に「05 May 11」との記載がある。)から,その内容を参酌して本願発明について,実施可能要件,サポート要件を満たしているとすることはできない。

5 むすび
以上のとおりであるから,本願は,特許法第36条第4項第1号及び第6項に規定する要件を満たすものではない。したがって,その他の理由を検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-06-26 
結審通知日 2015-06-30 
審決日 2015-07-14 
出願番号 特願2008-547476(P2008-547476)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山村 祥子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 冨永 保
小川 慶子
発明の名称 増強された薬理学的性質を有する活性物質を送達するための方法および組成物  
代理人 松島 鉄男  
代理人 森本 聡二  
代理人 中村 綾子  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 奥山 尚一  

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